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(平7.12.18裁決、裁決事例集No.50 202頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
審査請求人(以下「請求人」という。)は、海運業を営む同族会社であるが、平成2年8月1日から平成3年7月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の青色の法人税の確定申告書及び法人臨時特別税の申告書に、次表の「申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
原処分庁は、これに対し、平成5年11月24日付で、次表の「更正処分等」欄のとおり各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。
税目 | 項目 | 申告 | 更正処分等 |
法人税 | 所得金額 | 25,129,161 | 122,432,637 |
納付すべき税額 | 8,329,100 | 47,188,700 | |
過少申告加算税の額 | − | 5,385,000 | |
法人臨時特別税 | 課税標準法人税額 | 5,663,000 | 42,152,000 |
納付すべき税額 | 141,500 | 1,053,800 | |
過少申告加算税の額 | − | 49,500 |
請求人は、これらの処分を不服として、国税通則法(以下「通則法」という。)第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成5年12月10日に審査請求をした。
なお、請求人は、平成6年5月12日に、所在地をP市R町2丁目7番1号からP市U町3丁目1番14号へ移動した。これに伴い、原処分庁はR税務署長からP税務署長となった。
また、請求人は、平成6年6月2日に法人の組織及び商号をF有限会社からF株式会社に変更した。
2 主張
(1)請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)法人税について
請求人は、平成3年1月29日付売買契約書に基づき、所有する内航貨物船X丸(以下「X丸」という。)を有限会社Hに128,000,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)し、本件事業年度の確定申告に当たり、租税特別措置法(平成5年法律第10号による改正前のもの。)第65条の7《特定の資産の買換えの場合の課税の特例》第1項及び第65条の8《特定の資産の譲渡に伴い特別勘定を設けた場合の課税の特例》の規定(以下両規定を併せて「買換えの特例」という。)を適用して計算した船舶圧縮損16,556,220円及び特別勘定繰入損89,146,127円を損金の額に算入した。なお、船舶圧縮損及び特別勘定繰入損については別件の船舶(J丸)譲渡に係るものも含めた合計額で計算した。
原処分庁は、これに対し、X丸の譲渡価額には、買換えの特例の対象にならない内航中古船に付着している代替船の建造等の権利(以下「建造引当権」という。)の対価の額が含まれているとして、X丸の1重量トン当たりの建造引当権の価額(以下「建造引当権の単価」という。)を310,000円と認定の上、X丸の譲渡価額128,000,000円のうち建造引当権の対価の額124,000,000円を除いた4,000,000円が船体価額であるとして買換えの特例を適用し船舶圧縮損のうち8,748,737円及び特別勘定繰入損のうち88,554,739円については損金の額に算入できないとして更正処分をした。
請求人は、建造引当権の対価の額が買換えの特例の対象にならないことについては争わないが、原処分庁の認定した建造引当権の単価310,000円は、次のとおり過大であるから更正処分の一部を取り消すべきである。
A 原処分庁の認定した建造引当権の単価は、K株式会社発行の内航海運の業界誌Z(以下「業界誌Z」という。)に掲載された取引相場を根拠にしているが、その取引相場なるものはあくまでも推定であって、更正処分の理由の根拠とはならない。
建造引当権の単価については、同業者の申告による売買実例価格、業界誌掲載の基礎となった売買実例価格、または、税務署の職権によるサンプル調査で同時期、同規模の売買実例価格を基に算定すべきである。
B L海運組合総連合会の建造引当権の1重量トン当たりの買上価格は、60,000円であり、原処分庁の認定額が60,000円であれば納得できる。
また、国税不服審判所(以下「審判所」という。)が公表した裁決事例集第42号に掲載された平成3年10月29日の裁決(以下「裁決事例」という。)によると、昭和62年2月の事例で、原処分庁の認定額が、80,000円で、審判所もこれを支持した結論になっている。業界誌Zの当時の取引相場は160,000円程度となっており、裁決事例における原処分庁の認定と審判所の裁決は、業界誌Zの取引相場の約50パーセントであることから、本件においても、建造引当権の単価は、原処分庁が採用したという業界誌Zの取引相場310,000円の50パーセントの150,000円程度が妥当である。
C 原処分庁の認定したX丸の船体価額4,000,000円というのは、あまりにも低額で、不合理である。
(ロ)法人臨時特別税について
上記(イ)のとおり、法人税の更正処分は違法であるから、法人臨時特別税の更正処分もその一部を取り消すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、法人税及び法人臨時特別税の各更正処分は、いずれも違法であるから、これらに伴う過少申告加算税の各賦課決定処分もそれぞれその一部を取り消すべきである。
(2)原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)法人税について
内航海運の企業間においては、建造引当権を売買の対象とする商慣習があり、その取引相場も存在している。
X丸は、船舶原簿及びM会編集の「内航海運明細書(91年版)」において400重量トンの建造引当資格を有していることが確認されている。
したがって、X丸の譲渡価額128,000,000円には、建造引当権の対価の額124,000,000円が含まれているため、残額4,000,000円を船体価額として買換えの特例を適用したものである。
建造引当権の単価を310,000円と認定したのは次の理由により妥当である。
A 業界誌Zに掲載されている建造引当権の取引相場は、K株式会社が売買実例価格等を基に算定の上公表しており、海運業界では建造引当権の取引等において広く利用されているもので、更正処分の理由の根拠として合理性があり、原処分庁が認定した建造引当権の単価は、本件譲渡の前後3か月間の業界誌Zに掲載されている取引相場の最低価格を適用して、310,000円と認定したものである。
B 本件における譲渡船舶は貨物船であるところ、請求人が引用する裁決事例の船舶は、油送船であり、本件とは船種を異にするものであり事例が異なる。
また、請求人は、裁決事例で審判所が建造引当権の単価を80,000円と認定したかのように主張しているが、審判所は原処分庁の認定した建造引当権の価額80,000円が過大でないと判断したにすぎないので、これを基に本件における建造引当権の単価を論じることには理由がない。
C 請求人の本件事業年度の確定申告書には、X丸の取得価額5,500,000円、帳簿価額2,189,886円と記載されており、船体の譲渡価額4,000,000円の認定は、妥当である。
(ロ)法人臨時特別税について
上記(イ)のとおり法人税の更正処分は適法であるから、これに伴う法人臨時特別税の更正処分も適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、法人税及び法人臨時特別税の各更正処分はいずれも適法であり、また、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の各賦課決定処分は適法である。
3 判断
本件審査請求の争点は、X丸の譲渡価額に含まれている建造引当権の対価の額にあるので、以下審理する。
(1)更正処分について
イ 法人税について
(イ)請求人の提出資料、原処分関係資料、当事者双方の各答述及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
A X丸は、昭和41年に建造された貨物船で、その建造引当権は、400重量トンであること。
B 請求人は、平成3年1月29日付売買契約書に基づきX丸を有限会社Hに128,000,000円で譲渡し、本件事業年度の法人税の確定申告において全額を船体価額として買換えの特例を適用していること。
C 本件譲渡の契約書は、「船舶登録権利売買契約書」及び「船舶売買契約書」の2通が存在し、契約金額、文面及び日付が同一であること。また、両契約書の特約事項には平成3年9月末日まで、請求人がX丸を無償で運航できることを定めていること。
D 請求人の代表者は、当審判所に対し、売買契約書が2通あることについて、次のとおり答述していること。
(A)当初、X丸の買主から、建造引当権を1重量トン当たり320,000円、総額128,000,000円で買い取るとの申込みがあり、それを承諾して船舶登録権利売買契約書を作成したこと。
(B)その後、船体を含む売買でなければ契約しないと買主に申し出て、上記(A)の契約書と同一日付をもって同一文面、同一契約金額で、X丸の船舶売買契約書を作成したこと。
E 内航海運業界においては、建造引当権を取引の対象とする商慣習があり、その取引相場は船種別に船舶の大きさに関係なく形成されていること。
また、建造引当権とともに船体を含む売買をする場合には、建造引当権の相場価格に船体価格を加えた金額で売買されていること。
F L海運総連合会の建造引当権買上価格は、買手のない建造引当権をL海運総連合会が買い取る場合の価格で、価格抑制のため低く定められたものであること。
G 業界誌Z及びN保険株式会社発行(記事協力K株式会社)のWニュース(内航)によると、本件譲渡の契約日の前後3か月の内航貨物船の建造引当権相場の推移は、次表のとおりであること。
年月 | 1重量トン当たりの価格 | 年月 | 1重量トン当たりの価格 |
平成2年10月 | 310〜320 | 平成3年2月 | 330〜340 |
平成2年11月 | 320〜330 | 平成3年3月 | 340〜350 |
平成2年12月 | 330 | 平成3年4月 | 380〜395 |
平成3年 1月 | 330 |
(注)業界誌Zは月1回、Wニュース(内航)は月2回発行されている。
H 当審判所の調査で判明した建造引当権の取引は、次表のとおりであり、建造引当権の単価の平均額は327,774円であること。
I X丸を平成3年10月18日に解撤したQ市の解撤業者(有限会社G)は、X丸の船体のみを平成3年10月1日に600,000円で仕入れて、船骸処理し、その代金は、平成3年10月1日に請求人の代表者のT名義のS銀行Y支店普通預金口座に振込送金で支払われていること。
(ロ)以上の事実に基づき判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、原処分庁の認定した建造引当権の単価310,000円は過大で、aL海運組合総連合会の建造引当権の買上価格の1トン当たり60,000円であれば納得できる、(b)裁決事例では業界誌Zの相場の半額で裁決されており、本件も310,000円の半額150,000円程度が妥当である旨主張するが、(a)L海運組合総連合会の建造引当権の買上価額は、建造引当権を行使して新船の建造承認申請をするに当たって剰余が発生した場合にのみ適用されるものであり、当事者間の自由意思に基づく相対取引において成立する建造引当権の単価の額を算定するに当たっては、これを採用する余地はない。また、(b)裁決事例は、原処分庁の認定した油送船の建造引当権1立方メートル当たり80,000円が過大でないと審判所が判断したに過ぎないものであり、この当時(昭和61年12月から昭和62年2月)の業界誌Zに記載されていた油送船の建造引当権の1立方メートル当たりの取引額が、80,000円から85,000円であったことは裁決事例でも認定しており、業界誌の取引額の50パーセント程度で認定すべきとの請求人の主張は採用することができない。
B 内航海運業界においては、建造引当権を取引の対象とする商慣習が存在し、その取引相場に基づき売買され、前記(イ)のGないしIの事実によれば、本件譲渡の契約が締結された当時の内航貨物船に係る建造引当権の相場は、1重量トン当たり320,000円以上であったことが認められ、前記(イ)のA、D及びIのとおり、(a)X丸は、本件譲渡の契約時既に法定耐用年数を相当経過していたこと、(b)当初、買主から建造引当権のみを1重量トン当たり320,000円で買い取るとの申込みがあり、それを請求人は承諾して船舶登録権利売買契約書を作成したこと、更に(c)船体は無償運航期間の終了した直後に解撤され、X丸の解撤業者は、船体のみを請求人から仕入れ、その代金を請求人の代表者の銀行口座へ送金していることなどを併せ考えると、X丸の建造引当権の単価は320,000円と認められる。
そうすると、X丸の建造引当権の対価の額は、128,000,000円となり、X丸の船体価額は、零円となる。
したがって、建造引当権の対価の額128,000,000円は、買換えの特例を適用することはできない。
(ハ)上記(ロ)のとおり、建造引当権の対価の額128,000,000円の船舶圧縮損が計上できないことに伴い、確定申告額に比べ減価償却費の計算の基礎となる取得価額が増加し、減価償却限度額は増加することとなる。
請求人の本件事業年度の買換資産(V丸)に係る減価償却費の償却限度額を計算すると、別表1の「審判所認定額」欄のとおり、1,480,024円となる。
ところで、損金の額に算入することが認められない買換資産の圧縮損の額128,000,000円については、請求人の本件事業年度の所得金額の計算上、法人税法第31条《減価償却資産の償却費の計算及びその償却の方法》第1項に規定する減価償却費として損金経理した金額と認めるのが相当である。
そうすると、請求人の本件事業年度の買換資産に係る減価償却費として損金経理した額は、請求人が減価償却費として損金経理した別表1の(10)の「確定申告額」欄の610,582円と請求人が船舶圧縮損として損金経理した16,556,220円との合計額17,166,802円となることから、買換資産の減価償却費については、別表1の(11)の「審判所認定額」欄のとおり、8,555,407円が減価償却超過額となる。
(ニ)また、特別勘定繰入損の計算の基礎となる譲渡の対価の額が減少し、特別勘定繰入限度額は、別表2の(9)の「審判所認定額」欄のとおり零円となり、特別勘定繰入限度超過額は89,146,127円となる。
(ホ)以上の結果、請求人の所得金額は次表のとおり122,830,695円となる。
項目 | 金額 | |
確定申告による所得金額 | (1) | 25,129,161 |
加算額 | ||
特別勘定繰入限度超過額 | (2) | 89,146,127 |
減価償却超過額 | (3) | 8,555,407 |
所得金額((1)+(2)+(3)) | 122,830,695 |
そうすると、請求人の本件事業年度の所得金額は、更正処分の金額を上回ることとなり、この範囲内でされた更正処分は、適法である。
ロ 法人臨時特別税について
上記イのとおり、法人税の更正処分は適法であり、これに伴う法人臨時特別税の更正処分も、適法である。
(2)過少申告加算税の賦課決定処分について
以上のとおり、法人税及び法人臨時特別税の各更正処分はいずれも適法であり、更正により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当するとは認められないから、原処分庁が、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなした過少申告加算税の各賦課決定処分はいずれも適法である。