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(平7.11.17裁決、裁決事例集No.50 215頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求に至る経緯は、次のとおりである。

(1)みなし配当に係る源泉所得税の納付の経緯

イ 審査請求人(以下「請求人」という。)は、菓子製造会社の汚水処理を共同で行うことを目的に、昭和52年1月28日に設立され、平成3年12月9日に解散した清算中の事業協同組合(13組合員。以下、13組合員を「本件組合員」という。)である。
ロ 請求人は、解散に伴う残余財産の一部分配を平成5年9月1日の清算人会で決議し、この分配によるみなし配当(所得税法第25条《配当等の額とみなす金額》第1項第3号の規定によるもの。以下同じ。)の額を473,639,760円、源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の額を94,727,952円とし、当該源泉所得税を平成5年9月分として同年10月12日に納付した。

(2)原処分及び不服申立ての経緯

イ 原処分庁は、請求人が残余財産の一部を本件組合員へ分配したのは平成4年1月及び同年8月であり、請求人が平成5年10月12日に源泉所得税を納付したのは、法定納期限(平成4年2月10日及び同年9月10日)後であるとして、平成5年10月29日付で不納付加算税の額を平成4年1月分が6,672,000円、同年8月分が2,800,000円とする各賦課決定処分をした。
ロ 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年12月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年3月10日付で棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年4月7日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 残余財産の分配の時期について
(イ)協同組合の解散による残余財産の分配については、以下のとおり、清算人会の決議に基づき分配されるべきものであり、請求人は、平成5年9月1日に開催した清算人会において、残余財産の一部分配を決議し、この決議に基づき、同月1日及び同月13日に本件組合員に対し、合計640,023,240円を分配した。
A 協同組合の清算は、中小企業等協同組合法第69条《商法等の準用》によると、商法等の規定を準用することになっており、残余財産の分配については、商法第124条で、清算人の職務権限とされている。また、清算人に関しては商法第259条から第261条の規定を準用する結果、その意思決定は、事務執行の合議体である清算人会の決議に基づいてなされるものである。
B 残余財産の分配の概念は、税法固有の概念ではなく、商法等で一般に予定するものと同じであることを前提にすべきである。
 つまり、所得税法第25条第1項第3号に「残余財産の分配として」と規定されているとおり、資格や立場を示す助詞である「として」の用語を使用しているのも、商法等の規定により適法に決議された分配を前提にしているからと解すべきである。
C 所得税基本通達36―4《配当所得の収入金額の収入すべき時期》は、配当所得の収入金額の収入すべき時期についての取扱いを種々示しており、その収入すべき時期について、機関の決議の日等の形式的、画一的な時期を示している。つまり、配当所得の収入すべき時期の決定は、配当二重課税の排除の関係から当事者が客観的に判断し得る時期でなければならないのである。
 一方で同通達は、「解散による残余財産の分配によるものについては、その分配開始の日。ただし、その分配が数回に分割して行われる場合には、それぞれの分配開始の日」とし、上記と異なる取扱いを定めているが、清算結了に伴う残余財産の分配の場合はともかく、清算中における残余財産の一部分配の場合でその意思決定機関である清算人会が有効に機能しているときは、正当な権限を有する機関の決議が排除される積極的な理由はなく、その収入すべき時期は、原則として清算人会の決議の日と解すべきである。
(ロ)原処分庁は、請求人が残余財産を分配したのは平成4年1月及び同年8月である旨主張するが、その主張は、次のとおり、事業誤認に基づくものである。
A 請求人は、S県知事の認可により設立された事業協同組合であり、中小企業等協同組合法及び関係法令の遵守が強く要請されているところ、解散に伴い請求人の事業は清算の目的の範囲内に限定され、従来どおりの事業を続行することはできなくなった。
 請求人が解散決議をした翌日の平成3年12月10日に本件組合員のうちの11組合員に対する貸付金を仮払金に振り替える会計処理をした理由は、請求人が解散後も共同金融事業を続行しているのではないかとの誤解を避けるためである。
 また、11組合員に対する平成4年1月6日付の、貸付金を仮払金に変更する旨の通知は、各組合員に勘定科目の変更による処理等の整合性を保持し、周知させるために行ったものであり、この通知によって請求人と各組合員との間の債権債務関係に特段の変化が生じるものではない。
B 請求人が平成3年12月19日に開催した清算人会で審議した内容は、11組合員に対する貸付金の取扱いを審議したものであって、残余財産の分配を決議したものではない。
C 原処分庁は、請求人と本件組合員が取り交した平成4年7月27日付ほかの念書(以下「本件念書」という。)の「残余財産分配の一環(清算配当の一部前渡し仮払い)として現有の預貯金をもって各組合員に出資比率に応じて分配(仮払い)する。」との文言をもって、残余財産の分配である旨主張するが、本件念書には、「将来組合が資金を必要とする事となった時は各組合員は出資比率に応じて必要資金を分担して直ちに組合に支払う。」との返還条件を付しており、各組合員に組合資金の流用を認めたものにすぎず、組合員の利益、所得を形成する残余財産の分配としての「みなし配当」の性格を有するものではない。
D なお、当時、請求人は、共同汚水処理施設の廃棄に伴い、1組合員から損害賠償請求の訴えを起こされ、係争中であったことから、原処分庁の主張する平成4年1月及び同年8月には残余財産の分配ができる状況ではなかった。
(ハ)以上のとおり、請求人が残余財産の一部を分配した日は、清算人会において残余財産の一部分配を決議した平成5年9月1日及び当該一部分配とした640,000,000円と出資1口当たりの分配額を44,760円として計算した640,023,240円との差額23,240円を調整金(以下「追加調整金」という。)として支払った同月13日である。
ロ みなし配当の額について
 みなし配当の額は、次のとおりであり、原処分庁は、資本等の金額を誤っているほか、みなし配当の額の計算根拠も不明である。
(イ)請求人の資本等の金額は、出資金142,990,000円(出資口数14,299口、一口当たり10,000円)及び資本準備金121,800,000円の合計264,790,000円である。
 なお、資本準備金121,800,000円は、平成3年7月に新たに組合員となったF株式会社(以下「F社」という。)に係るものであり、F社と他の各組合員との間の組合財産に対する持分の実質的な価額を調整するため、加入金等の名目で払い込まれたものである。
(ロ)みなし配当の額は、分配総額640,023,240円(出資1口当たりの分配額44,760円に総出資口数14,299口を乗じて計算した金額)からF社(出資口数673口)に対する分配金30,123,480円を減算し、更に、F社を除く12組合員の出資金の合計額136,260,000円を控除した金額473,639,760円である。
 なお、F社に対する分配金30,123,480円は、これに対応する出資金6,730,000円及び加入金等121,800,000円を超えないことから、同社に対するみなし配当は生じない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 残余財産の分配の時期について
(イ)協同組合の解散による残余財産の分配の時期は、以下のとおり、清算人会の決議に基づかなくとも、実質的に、利益配当に相当する法人利益が組合員へ帰属したと認められる行為が行われた日である。
A 所得税法上の配当等は、商法等の規定に基づき株主総会等で決議された配当を原則としているが、現実には商法等の規定によらず、実質的に配当と同等な金銭その他の資産の交付がされることも少なくなく、この商法等の規定に基づかない配当等について課税しないこととすれば、課税上の不均衡を生じることになる。
 このため、所得税法第25条の規定を設けて、形式的には法人の利益配当ではないが、実質的に利益配当に相当する法人利益の株主等への帰属が認められる行為が行われたときに、その経済的な実質に着目して、これを配当とみなして課税している。
B 所得税法第212条《源泉徴収義務》第3項は、この配当等の支払をする者は、その支払の際、その配当等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までにその所得税を国に納付しなければならない旨規定しており、同条に規定する「支払の際」の支払には、現実に金銭を交付する行為のほか、元本に繰入れ又は預金口座に振り替えるなど、その支払の債務が消滅する一切の行為が含まれるものと解されている。
(ロ)請求人が残余財産を分配した時期は、以下のとおり、平成4年1月6日、同月13日、同月21日、同年8月4日及び同月20日である。
 なお、各分配(支払)の日は、当事者が客観的に十分認識し得る日である。
A 請求人は、平成3年12月19日開催の清算人会において、11組合員に対する貸付金を組合資産の清算に係る分配払戻金とする意向を示し、平成4年1月6日に「組合資金貸付金に対する貸付利息計算書」と題する書面によって、11組合員に対する貸付金を分配払戻金の仮払金とする旨を通知している。
 このことは、平成4年1月6日に分配払戻金の支払債務が発生と同時に消滅したことになるので、同日に残余財産の一部分配(支払)があったと解すべきである。
 なお、請求人は、貸付金を仮払金としたことについて、債権債務関係に特段の変化が生じるものではない旨主張するが、請求人は、解散するまで貸付金融事業を営んでいたのであるから、解散の日と同時にこれら貸付金を回収するのが本来の業務であるところ、この回収を行わないのみならず、当該貸付金を仮払金に振り替えたのであるから、請求人のこの行為は、清算中の組合資産を出資者に分配したのと経済効果において差がない。
B 請求人は、貸付けをしていないF社及びG株式会社(以下「G社」という。)の2組合員と貸付をしている11組合員とでは清算分配に不公平を来すことから、当該2組合員に、平成4年1月13日付の「組合清算金一部仮払いにつきお願いの件」と題する書面により、貸付金融予定金額相当額を清算分配払戻金の一部仮払いとして支払う旨通知し、平成4年1月13日に33,570,000円をG社に、同月21日に23,535,000円をF社にそれぞれ清算分配払戻金の一部仮払いとして支払っている。
C 請求人と本件組合員は、本件念書において、「請求人は、残余財産分配の一環(清算配当の一部前渡し仮払い)として各組合員に出資比率に応じて分配する。」ことを確認し、請求人は、本件念書に係る分配金として平成4年8月4日に総額60,000,000円、同月20日に総額80,000,000円を本件組合員に支払っている。
 なお、請求人は、本件念書に返還条件が付されていることを理由にみなし配当ではない旨主張するが、既に支払った残余財産の一部分配額が過大であったとして組合員から返還を受けた場合には、既に納付した当該分配に係る源泉所得税のうち当該返還を受けた部分に係るものは過誤納金として還付請求することが可能であることから、請求人の主張には理由がない。
ロ みなし配当の額について
(イ)平成4年1月分のみなし配当の額は、請求人が平成5年10月12日に納付した源泉所得税の額94,727,952円から前記イの(ロ)のCに係る平成4年8月分の源泉所得税の額28,000,000円を控除して求めた平成4年1月分の源泉所得税の額66,727,952円を配当等に係る源泉所得税の税率100分の20で割り戻して計算した金額333,639,760円である。
(ロ)平成4年8月分のみなし配当の額は、請求人が平成4年8月に分配した140,000,000円である。
(ハ)請求人の資本等の金額は、平成4年1月分の分配額の合計額500,000,000円から上記(イ)のみなし配当の額333,639,760円を差し引いた金額166,360,240円である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人の残余財産の分配の時期及びみなし配当の額の適否にあるので、以下検討する。

(1)請求人の提出資料及び原処分関係資料並びに当審判所の調査によれば、次に掲げる事実が認められる。

イ 請求人は、平成3年9月30日にF社及びG社を除いた11組合員にその出資比率に応じて、総額221,447,500円を貸し付けたこと。なお、利息は年利2パーセント、返済期間は2年間据え置き後15年返済となっていること。
ロ 請求人は、平成3年10月30日に上記イと同じ11組合員に、同条件で、総額221,447,500円を貸し付けたこと。
ハ 請求人は、平成3年12月9日開催の臨時総会で解散を決議し、それまで理事等であった13組合員の各役員が清算人に選任されたこと。
ニ 請求人は、平成3年12月10日に前記イ及びロの11組合員に対する貸付金合計額442,895,000円を伝票上、仮払金勘定に振り替えたこと。
 なお、当該伝票には、分配払戻金なる文言が記されていること。
ホ 請求人は、上記ニの経理処理について、「解散が急であり、各組合員が借入金を全額返済することは資金的に無理であったので、残余財産の仮払いという形で残した」旨当審判所に答述していること。
ヘ 請求人は、平成4年1月6日付の「組合資金貸付金に対する貸付利息計算書」と題する書面を11組合員に送付しているが、その内容は、11組合員に対する上記イ及びロの貸付金について、平成3年12月9日までの間の利息を算定したものであり、その注書で、「組合資金貸付金は、12月10日付で仮払金(分配払戻金)と変更になりました(金融事業が行えなくなった為)。従って貸付金に対する貸付利息は下記の計算式により作成しました。」と記載されていること。
ト 請求人は、平成4年1月13日付の「組合清算金一部仮払いにつきお願いの件」と題する書面をF社及びG社に送付しているが、その書面には、上記イ及びロの貸付金の取扱いについては組合資産清算による分配払戻金の一部仮払扱いとした旨、そして、貸付金融事業を利用されていない2社とは清算分配に不公平を来すことから、F社については23,535,000円、G社については33,570,000円を清算金分配払戻金の一部仮払金として支払う旨記載されていること。
チ 請求人は、上記トの書面に基づいて、平成4年1月13日にG社へ33,570,000円、同月21日にF社へ23,535,000円を支払ったこと。
リ 請求人が平成4年7月17日に開催した清算人会において、組合員から、組合の余剰資金について各組合員への分配を希望する意見が出されたのに対し、現在1組合員と訴訟中であることから、多額の賠償金の支払が必要となる場合には各組合員が負担することを条件として、当面の一般経費部分を除いて分配することが承認されたこと。
ヌ 上記リに基づき、請求人と各組合員は本件念書を取り交わしているが、その内容は、(1)用地売却及び1組合員との訴訟に年月を要する見込みであるので、残余財産分配の一環(清算配当の一部前渡し仮払い)として、現有の預貯金をもって各組合員に出資比率に応じて分配(仮払い)する、(2)将来組合が資金を必要とする事となった時は各組合員は出資比率に応じて必要資金を分担して直ちに組合に支払うとの事項を確認したものであること。
ル 請求人は、平成4年8月4日に総額60,000,000円を本件組合員へ支払っていること。
 なお、この内の5,000,000円は、1組合員の未払債務と相殺したものである。
ヲ 請求人は、平成4年8月20日にG社を除く12組合員に総額74,628,800円を支払っていること。
 なお、この内の5,000,000円は、1組合員の未払債務と相殺したものである。
ワ 請求人は、平成4年9月21日、G社に対し、5,371,200円を支払っていること。
カ 請求人は、平成5年9月1日の臨時清算人会において、本件組合員に既に支払った仮払金については同日をもって残余財産の分配金としての処理をする旨の決議をしたこと。
ヨ 請求人は、出資1口当たりの分配金額を44,760円とするため、平成5年9月13日に追加調整金として11組合員に総額24,560円を支払い、1組合員から1,320円を徴収したこと。

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(2)ところで、協同組合の解散による残余財産の分配があった場合の所得税を源泉徴収すべき時期については、次のとおりである。

イ 所得税法第25条第1項第3号は、法人の解散により残余財産の分配として株主等に交付される金銭その他の資産の価額の合計額が一定の金額を超える場合、その超える部分の金額を利益の配当又は剰余金の分配とみなす旨規定している。
 これは、形式的には法人の利益配当ではないが、残余財産の分配等の方法で、実質的に利益配当に相当する法人利益の株主等への帰属が認められる行為が行われたときに、その経済的実質に着目して、これを配当とみなして株主等に課税する趣旨のものである。したがって、この場合、法人の当該行為が残余財産の分配に当たるか否かについては、商法等の定める手続を経ているか否かだけでなく、当該行為のもつ経済的効果をも勘案して実質的見地から判断されるべきものと解すべきである。
 そして、内国法人に対し、このいわゆる「みなし配当」の支払をする者は、所得税法第212条第3項により、その支払の際に所得税を徴収しなければならないこととされているところ、上記の趣旨からすれば、その「支払」についても実質的に解し、現実に金銭を交付する行為のみならず、その支払債務が消滅すると認められる一切の行為を含むものと解するのが相当である。
ロ この点、請求人は、協同組合の解散による残余財産の分配にあっては清算人会の決議が必要であるから、上記「支払」の時期もこの決議以後となる旨主張する。
 確かに、協同組合における残余財産の分配は清算人の職務であり(中小企業等協同組合法第69条、商法第124条第1項第3号)、清算事務の執行に関する方針は意思決定機関たる清算人会が決定することとされている(中小企業等協同組合法第36条の2《理事会》)から、請求人の主張も同法の要請には沿うものといえる。
 しかし、みなし配当として所得税の源泉徴収義務が発生する残余財産の分配(支払)のために常に清算人会の決議が必要であると解すると、仮に法人の利益が何かの機会に組合員に移転した場合でも、形式的に決議がなければ課税されないことになるが、これは課税の公平上極めて問題であり、所得税法の解釈としては妥当でない。上記中小企業等協同組合法の規定は、組合員や債権者保護のための手続的規制であり、決議以前に法人の利益が組合員に移転したような例外的場合における所得税法の解釈にまで影響を及ぼすものではないと解するのが相当である。
 したがって、およそ残余財産の分配(支払)というためには、形式的意味における清算人会の決議に基づく必要があるとする請求人の主張は採用できない。

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(3)そこで、前記(1)の各認定事実に基づき、請求人が残余財産を分配(支払)した時期について、以下検討する。

イ 平成3年12月の分配
(イ)請求人は、前記(1)のイ、ロ及びニのとおり、解散前に11組合員に対して貸し付けた総額442,895,000円を解散後の平成3年12月10日に帳簿上貸付金勘定から仮払金勘定に振り替える経理処理を行った。
 請求人は、この振替処理は、解散に伴い、貸付金融事業の継続が不可能になったために採られた処置であると主張するが、組合の解散があった場合においても、金融を受けている各組合員が直ちに当該借入金を返済せねばならないものではなく、組合として貸付金勘定を残すことが許されないわけではないと解されるから、請求人の主張はいささか不自然である。
 かえって、当該振替伝票の「分配払戻金」なる文言の記載(前記(1)のニ)、その後11組合員に送付された「組合資金貸付金に対する貸付利息計算書」における注書の記載と貸付利息の計算期間(同ヘ)、「組合清算金一部仮払いにつきお願いの件」と題する書面の記載内容(同ト)によれば、上記振替処理は、組合資産の一部を分配する旨の請求人の意図を表したものと認めるのが相当である。すなわち、請求人は、11組合員に対する貸付金を仮払金に振り替えることによって、11組合員の借入債務と請求人の残余財産分配債務を相殺したものとみるべきであって、このことは、その後最終的に、仮払扱いとされた金員が請求人に返還されることなく11組合員に帰属することとなったこと(前記(1)のカ)からも裏付けられる。
(ロ)一方、原処分庁は、平成4年1月6日の「組合資金貸付金に対する貸付利息計算書」による通知をもって、残余財産の分配(支払)があったものと認定している。
 しかし、前記(1)のハのとおり、請求人は、平成3年12月9日に解散を決議するとともに、各組合員の役員13名を清算人に選任しており、同月10日の上記振替処理も、当然、それら清算人の意思に基づきなされたものといえるから、11組合員においても、その時点で借入債務が分配金へ振り替えられる同処理を認識したと認めるのが相当である。平成4年1月6日の通知は、その表題とおり、利息計算の明細を明らかにした付随的行為にすぎず、これをもって残余財産の分配(支払)と認定するのは相当でない。
 なお、原処分庁は、平成3年12月19日開催の清算人会議事録中に貸付金を分配金とする意向が記載されていることを挙げているが、上記のとおり、同月10日の段階で既にその意向を現実化する会計処理をしているのであるから、この記載をもって上記認定を覆すことはできない。
 したがって、原処分庁の主張も採用できない。
(ハ)そうすると、11組合員に対する貸付金を仮払金と振替処理した平成3年12月10日に11組合員に対して残余財産の一部442,895,000円が分配され、その限度において請求人の残余財産の支払債務が消滅したとみるのが相当である。
ロ 平成4年1月の分配
 請求人は、前記(1)のトのとおり、G社及びF社に対しては、平成4年1月13日付の「組合清算金一部仮払いにつきお願いの件」と題する書面を交付した上で、同チのとおり、平成4年1月13日にG社に対し33,570,000円、同月21日にF社に対し23,535,000円を支払っているが、これは、当該書面の記載内容から判断しても、上記11組合員に対するものと同様、残余財産の一部分配と認めるのが相当であり、各支払の時点で請求人の残余財産の支払債務が一部消滅したものとみるのが相当である。
ハ 平成4年8、9月の分配
 前記(1)のリないしワによれば、請求人が、平成4年8月4日、同月20日及び同年9月21日に本件組合員に支払った金員は、同年7月17日の清算人会で承認されたところに基づき、本件念書の記載のとおり、残余財産の一部を分配したものとみるのが相当である。
 この点、請求人は、本件念書に返還条件が付されていることをもって、当該支払金員は各組合員の利益、所得を形成するものではないなどと主張するが、本件念書に返還条件が付されているとしても、これを貸付金とみる余地はなく(組合の解散による新たな貸付けは行い得ないことは請求人自身も主張しているところである。)、支払時点で当該金員が各組合員に帰属したことに変わりはないというべきであるから、請求人の主張は採用できない。
 また、原処分庁は、上記の分配につき、本件組合員全員に対し平成4年8月中に支払ったかのごとき主張をしているが、G社に対する支払は前記(1)のワのとおり同年9月21日と認められる。
 そうすると、平成4年8月4日、同月20日及び同年9月21日にそれぞれ「支払」がなされ、残余財産の分配債務が一部消滅したものとみるのが相当である。
ニ 平成5年9月の分配
 請求人は、前記(1)のヨのとおり、平成5年9月13日に1組合員から1,320円を徴収した上で、11組合員に対し24,560円を支払っているが、この支払が残余財産の分配であることについて、請求人は争わない。
ホ 以上のとおり、請求人が残余財産を本件組合員に分配した時期及び金額は、別表「審判所認定の残余財産分配額等一覧表」の「分配額」欄に記載のとおり、(1)平成3年12月10日の11組合員に対する442,895,000円、(2)平成4年1月13日及び同月21日に2組合員に支払われた57,105,000円、(3)平成4年8月4日及び同月20日に13組合員に支払われた134,628,800円、(4)平成4年9月21日に1組合員に支払われた5,371,200円及び(5)平成5年9月13日に11組合員に支払われた追加調整金23,240円の総額640,023,240円である。
ヘ なお、請求人は、共同汚水処理施設の廃棄に伴い、1組合員から損害賠償請求の訴えを起こされ、係争中であり、残余財産の分配ができる状況ではなかった旨主張するが、上記イないしホで判断したとおり、請求人は現実に残余財産の分配を行っていると認められるので、この点に関する請求人の主張は採用できない。

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(4)みなし配当の額について

イ 所得税法第25条の規定によれば、配当等の額とみなす金額は、配当等を行う法人の資本等の金額(資本の金額及び資本積立金額との合計額)のうち、その交付の基因となった株式(出資を含む。)に係る部分の金額をこえる部分の金額をいうものとされ、同法施行令第61条《配当等の額とみなす金額の計算方法》第1項で、その交付が二回以上にわたって行われた場合には、まず資本等の金額のうちからその交付がされたものとみなして計算する旨規定されている。
ロ 請求人の資本等の金額は、請求人の解散時(平成3年12月9日時点)の貸借対照表によれば、出資金142,990,000円及び資本準備金121,800,000円を合計した264,790,000円であるところ、請求人の残余財産の分配が前記(3)で判断したとおり二回以上にわたって行われているので、上記イの所得税法施行令を適用してみなし配当の額を計算すると、別表の「分配額」欄の内書に記載のとおりとなる。
 なお、別表の「交付(分配)の基因となった出資に係る部分の資本等の金額」欄は、請求人の資本等の金額を本件組合員の各出資口数に応じてあん分して算出したものである。
ハ 請求人は、F社が請求人に加入するに当たって払い込んだ加入金121,800,000円について、これをF社のみに係るものとして、みなし配当の額を計算しているが、そもそも加入金とは、従来の組合員と新たに加入しようとする組合員との間の持分を調整することを目的として徴収されるもので、組合にとって資本積立金額を構成するものであるところ、請求人は、F社に対する残余財産の分配に当たっても、他の組合員と同様、その出資口数(673口)に応じた分配をしているのであるから、当該加入金をF社のみに係るものとして、みなし配当の額を計算することは妥当ではない。
 この点、原処分庁も請求人の算出したみなし配当の額を基に請求人の資本等の金額を算定するなどしていることから、その計算も妥当性を欠くものである。

(5)不納付加算税について

イ 所得税法第212条第3項の規定により徴収すべき所得税の額は、同法第213条《徴収税額》第2項第2号の規定により、配当等の額とみなす金額の100分の20とされているから、請求人の徴収すべき所得税の額は、別表の「分配額」欄のかっこ書に記載のとおり、平成3年12月分が41,668,998円、平成4年1月分が5,372,995円、同年8月分が26,925,760円、同年9月分が1,074,240円、平成5年9月分が4,648円となる。
ロ 上記イの各月分の源泉所得税の法定納期限は、それぞれ、平成4年1月10日、同年2月10日、同年9月10日、同年10月12日及び平成5年10月12日となる(平成4年10月12日及び平成5年10月12日は、国税通則法第10条《期間の計算及び期限の特例》第2項に基づくもの。)ところ、請求人は、平成5年9月分として94,727,952円を平成5年10月12日に納付しただけであり、平成3年12月分、平成4年1月分、同年8月分及び同年9月分の源泉所得税については、法定納期限までに納付されていない。そして、前記(1)で認定した事実経過に照らし、請求人の主張は明らかに採用できないものといわざるを得ないから、請求人が法定納期限までに納付しなかったことにつき、国税通則法第67条《不納付加算税》第1項に規定する正当な理由があるとも認められず、本来、請求人が徴収されるべき不納付加算税は、平成3年12月分が4,166,000円、平成4年1月分が537,000円、同年8月分が2,692,000円、同年9月分が107,000円となる。
ハ ところで、原処分庁は、平成4年1月分として6,672,000円、同年8月分として2,800,000円の不納付加算税の各賦課決定処分を行っているので、この範囲内で原処分の適否をみると、平成4年1月分については537,000円、同年8月分については2,692,000円を超える部分はいずれも取消しをすべきこととなる。

(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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