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(平7.11.14裁決、裁決事例集No.50 235頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年8月10日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したF(以下「被相続人」という。)の相続人であるが、この相続に係る相続税の申告書(以下「本件申告書」という。)に課税価格を1,126,326,000円及び納付すべき税額を684,628,200円と記載して法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成5年6月29日付で課税価格を1,442,209,000円及び納付すべき税額を905,746,300円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の額を22,111,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成5年8月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月13日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年1月14日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、被相続人の相続財産であるP市R町2丁目3番8所在の宅地368.25平方メートルのうち332.89平方メートル(以下「本件宅地」という。)について、土地の使用収益に関する権利の目的となっていない土地(以下「自用地」という。)として評価したが、次の各事実を総合的に考慮すれば、本件宅地については、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成3年12月18日付課評2―4ほかによる改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)26《貸家建付地の評価》に定める貸家の目的に供されている宅地(以下「貸家建付地」という。)として評価すべきであり、また、相続税の課税価格の計算上租税特別措置法(平成4年法律第14号による改正前のものをいい、以下同じ。)第69条の3《小規模宅地等についての相続税の課税価格の計算の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)の適用も受けられるものである。
(イ)被相続人は、本件宅地上に平成2年5月1日から鉄骨鉄筋コンクリート造り、地下1階、地上9階建て、延床面積1,997.17平方メートルの建物(以下「本件建物」という。)を建築中であったところ、有限会社G(以下「G社」という。)との間で平成3年6月12日に本件建物について、賃貸借予約契約(以下「本件甲予約契約」という。)を締結し、平成3年7月12日に予約金30,000,000円を同社から受領した。また、G社は、株式会社H(以下「H社」という。なお、同社は、平成4年6月1日に商号を株式会社Jに商号変更した。)との間で平成3年6月12日に本件建物について、賃貸借予約契約(以下「本件乙予約契約」といい、本件甲予約契約と併せて「本件予約契約」という。)を締結し、平成3年6月27日に予約金30,000,000円、同年7月29日に中間金10,000,000円をH社から受領した。
 その後、請求人とG社とは、平成3年10月16日付で本件建物に関する賃貸借契約(以下「本件甲契約」という。)を締結し、また、G社とH社とは、平成3年10月31日付で本件建物に関する賃貸借契約(以下「本件乙契約」といい、本件甲契約と併せて「本件賃貸借契約」という。)を締結した。
 本件賃貸借契約の内容は、そのほとんどすべてが本件予約契約に記載されており、改めて取り決めた事項はほとんどなく、また、本件予約契約に基づき支払った予約金が本件賃貸借契約における敷金の一部に充当されているので、このような本件予約契約は、予約と称し本契約の締結を予定するものとはいうものの、実体的には、本件建物の竣工引渡日を賃料支払開始日とする条件付で成立している本契約たる賃貸借契約というべきであり、したがって、本件予約契約の締結をもって、本件建物に関する賃貸借契約が締結されたと解すべきである。
(ロ)本件建物の貸主である被相続人、転借主であるH社及び本件建物の建築施工会社である株式会社K、W支社(以下「K社」という。)の三者は、平成3年7月26日に会議を行い、(1)本件建物内でH社が負担して行う造作物の工事範囲を最終確認し、(2)1階部分の造作物はH社がK社に早急に発注することを合意し、(3)これに基づき、K社は平成3年8月1日に造作物の工事に着手し、一部についてはそれ以前に着手している。
 また、本件相続開始日には、2階から8階部分の躯体工事及びサッシュ工事は既に完了しており、電気・冷暖房・換気設備工事の一部が残っていたが、これらの残工事は、H社の負担と責任においてなされているため、同社は、これら工事の監督、引渡し等のためいつでも本件建物に自由に立入ることが可能であった。
 このことは、本件相続開始日において、H社が本件建物を占有していたと考えられるのであり、少なくとも本件建物の1階部分については、H社に引き渡されていたというべきである。
(ハ)さらに、H社は、本件建物及び本件宅地に支配権を有しているのであり、その支配権を消滅させ本件宅地を自用地とするためには、被相続人又は請求人は、本件予約契約を不履行にするかあるいはその契約を合意解除するしかなく、その場合には、相続人又は請求人は、H社から契約に基づく違約金のほかにH社が本件建物を自己の使用収益に供すべき債権の履行不能による填補賠償、すなわち、借家権価格相当額の損害賠償請求を受けその支払をしなければならないから、本件宅地の経済的な価値は、自用地に比べ低額となるものである。
(ニ)ところで、平成4年12月19日裁決(平成元年分相続税で国裁例集平成4年度第2NO.44ー3に掲載)における裁決例では、「貸家建付地」とは、相続開始の時において現に貸付けの用に供されている建物の敷地を指すものと解するのが相当であるとしながらも、相続開始時には建替中であった建物についても、当該賃借人の支配権が及んでいると認められる場合にはその敷地を「貸家建付地」として評価するのが合理的であるとしている。
 そうすると、以上に述べたところから、本件相続開始日当時は、本件建物及び本件宅地には、既にH社の支配権が及んでいるので本件宅地は貸家建付地として評価すべきである。
ロ 本件特例の適用について
 本件宅地は、上記イのとおり貸付けられている建物の敷地であり、また、本件宅地上には、本件建物が建築される以前に木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建の作業所(以下「本件作業所」という。)が存しており、本件作業所は、被相続人が主宰する有限会社L(以下「L社」という。)に賃貸されていたのであるから、本件宅地は事業の用に供されていた宅地として本件特例の適用も受けられるところ、請求人が、本件申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載をしていなかったという手続の欠缺のみをもって、本件特例の適用が認められないということは、法の誤解による不利益を請求人に帰するものであって許されるものではない。
ハ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は、その全部が取り消されるべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分についてもその全部が取り消されるべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)相続税法第22条《評価の原則》によれば、相続により取得した財産の価額は、その取得の時における時価によると規定されている。
 また、評価基本通達26では、貸家建付地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その自用地としての価額に借地権割合と借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価すると定められている。
 なお、「貸家の目的に供されている」とは、相続開始時において、建物が現実に貸し付けられており、借家権の目的となっている場合の当該建物の敷地をいうものと解されるので、「貸家建付地」とは、原則として、次の具体的要件を具備する貸家の敷地をいうものと認められる。
A 賃貸人の所有する建物が現に存すること。
B 契約上の入居日等が到来していること。
C 賃料に相当する金銭の授受があること。
D 賃借人が建物の引渡しを受けていること。
(ロ)本件宅地は、次に述べるとおり、貸家建付地と評価することはできず、自用地として評価するのが相当である。
A 原処分庁及び異議審理庁の調査によれば、(1)G社が請求人から本件建物の引渡しを受けた日は、請求人がK社から本件建物の引渡しを受けた平成3年10月16日と認められること、(2)H社がG社から本件建物の引渡しを受けたのも同日と認められること、(3)G社は、請求人に対して平成3年10月16日から賃料を支払うこと及び保証金を平成3年10月16日に支払うことを本件甲契約により約定していること及び(4)H社は、G社に対して平成3年10月16日から賃料を支払うことを本件乙契約により約定していることが認められ、賃借人であるG社又はH社が賃貸人である請求人又はG社に対して平成3年10月16日より前に賃料を支払ったという事実はないので、これら賃借人の本件建物に関する賃借権等の権利は、本件賃貸借契約締結後の平成3年10月16日以降発生するものと認められる。
 これらの事実を上記(イ)に照らすと、本件予約契約は賃借権等の権利を発生させるものではなく、単に当事者間に将来本契約を締結させる義務を生じさせる契約と認められるので、本件予約契約の締結は、本件宅地の価額を算出する上でしんしゃくすべき制約には当たらない。
B 原処分庁及び異議審理庁の調査によれば、(1)K社が本件建物を完成させて請求人に引き渡した日及びH社が発注した本件建物の1階から8階までの簡易間仕切り等の造作物の工事が開始された日は、平成3年10月16日と認められること及び(2)H社とK社との直接契約による、本件建物の1階部分の冷暖房換気工事及び電気設備工事(以下これらの工事を「本件工事」という。)は、本件建物の引渡しに必要な建築確認の検査済証の交付を受けるために必要な基礎的な工事にとどまっていることから、H社が発注した本件工事が本件相続開始日前から行われていた事実をもって、H社が本件建物の1階を占有していたと認めることはできず、したがって、H社が本件建物の1階から8階までの占有を開始したのは、本件相続開始日後の平成3年10月16日と認められる。
C また、本件乙予約契約に基づく本件建物の引渡義務は、H社に本件建物に関する賃借権等の権利を発生させるものではないので、本件宅地の価額を算出する上でしんしゃくすべき制約に当たらず、さらに、本件予約契約に基づく違約金の支払義務は、契約当時者のどちらかに債務不履行の事実が発生して初めて生じるものであり、本件の場合、被相続人が本件相続開始日現在、本件建物の引渡義務を履行せず損害賠償を請求されていたという事実はないので、本件宅地の価額を算出する上でしんしゃくすべき制約には当たらない。
D 以上のとおり、本件宅地の上に存する本件建物は、本件相続開始日現在において、G社又はH社のいずれにも貸し付けられていたとは認められないから、本件宅地は自用地として評価することとなる。
 したがって、本件宅地の評価額は次表のとおり1,597,682,252円となり、申告額1,262,168,979円との差額335,513,273円が本件申告書に記載されている課税価格に加算されることとなる。

(ハ)本件特例の適用について
 請求人は、本件宅地については、相続税の課税価格の計算上、本件特例の適用を受けられる旨主張するが、本件特例は、被相続人の事業の用又は居住の用に供されていた宅地のうち面積200平方メートルまでの部分について適用されるものであり、かつ、相続税の申告書に本件特例の適用を受ける旨を記載し大蔵省令で定める書類を添付することが必要とされているところ、本件宅地は、上記(ロ)に記載したとおり、その宅地上に建築中の本件建物が本件相続開始日現在、貸し付けられていたとは認められないし、その他の事業の用に供されていたとも認められず、また、請求人は、本件申告書に本件宅地について本件特例の適用を受ける旨の記載をしていない。
 したがって、本件宅地については、相続税の課税価格の計算上、本件特例を適用することはできない。
(ニ)本件更正処分
 以上により、本件申告書に記載されている請求人の課税価格に加算される金額は、前記(ロ)の金額からQ市S町877番3所在の山林(以下「Q市の山林」という。)の評価誤りによる減算される額19,629,770円を差し引いた315,883,503円となる。
 この結果、請求人の本件相続に係る相続税の課税価格は1,442,209,000円、納付すべき税額は905,746,300円となり、これらの金額は本件更正処分の金額と同額となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分により納付すべきこととなる相続税額について、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項の規定に基づき過少申告加算税の額を計算すると22,111,000円となり、当該金額は本件賦課決定処分の額と同額となるので、本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件審査請求の争点は、本件宅地を評価基本通達に定める貸家建付地として評価できるか否か及び相続税の課税価格の計算上、本件宅地の価額に本件特例が適用できるか否かであるので、以下審理する。
イ 当審判所が、請求人の提出資料及び原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件宅地の面積は、332.89平方メートルであり、本件相続開始日現在におけるその自用地としての1平方メートル当たりの価額(相続税評価額)は、4,799,430円であること。
(ロ)被相続人は、平成2年1月9日にK社との間で請負代金を800,310,000円とする本件建物の工事請負契約を締結し、K社は、平成2年5月1日に本件建物の建築工事に着手したこと。
(ハ)G社は、平成2年4月26日に設立された請求人の主宰する同族法人であること。
(ニ)平成3年3月5日付の「御要望書」と題する文書には、H社が本件建物の1階及び2階への入居を検討しており、本件建物に係る(1)電気容量、(2)排気装置、(3)水場工事、(4)案内看板及び(5)駐車場の点について事前に打合せをしたい旨をG社に要望したことが記載されていること。
(ホ)H社は、平成3年3月7日付の「貸室申込書」により、本件建物の1階及び2階の賃借を申し込んだ(申込先の記載はない。)こと。
(ヘ)被相続人とG社とは、平成3年6月12日付で次の要旨を定めた本件甲予約契約を締結したこと。
A 被相続人が建築中の本件建物のうち、1階から8階の部分及びこれに付帯する駐車場(以下「本件賃貸借室」という。)の賃貸借の予約に関し契約を締結する。
B 被相続人は、本件賃貸借室をG社に賃貸し、G社は、これを他に転貸することを目的として賃借することを予約する。
C 本件建物の完成期日(平成3年10月16日予定)が確定したときは、速やかに賃貸借契約を締結するものとし、これにより本予約契約は完結する。
D 賃貸借期間は、その始期より10年間とする。
E 賃料は、月額11,600,000円(消費税は別)とする。
F 敷金は270,000,000円とし、G社は、賃貸借契約締結と同時に被相続人にこれを預託する。
G G社は、本予約契約締結後20日以内に、予約金として30,000,000円を被相続人に預託し、予約金は、賃貸借契約締結時に敷金の一部に充当する。
H 両当事者が本予約契約の条項を履行しないときは、期限を定め文書をもって各相手方にその履行を請求し、その期限を経過してなお契約の不履行が継続するときは、本予約契約を解除することができる。この場合、違反した者は、30,000,000円の違約金を支払う。
I 本予約契約の譲渡禁止及び協議に関する事項を定める。
J 特約として、G社は、中間金として平成3年7月末までに10,000,000円、同年8月末までに20,000,000円を被相続人に支払うものとするほか、内装模様替え及び解約予告に関する事項等を定める。
(ト)被相続人は、平成3年7月12日にG社から本件甲予約契約に基づく30,000,000円の予約金を受領したこと。
(チ)G社とH社とは、平成3年6月12日付で次の要旨を定めた本件乙予約契約を締結したこと。
A G社が建築中の本件建物のうち、1階から8階の部分(以下「本件転貸借室」という。)の賃貸借の予約に関し契約を締結する。
B G社は、本件転貸借室をH社に賃貸し、H社は、これをショールーム、事務所として賃借することを予約する。
C 設計、施工その他G社の都合により賃貸借の面積に変更が生じた場合、賃料、共益費及び敷金の総額は増減する。
D 本件建物の完成期日(平成3年10月16日予定)が確定したときは、速やかに賃貸借契約を締結するものとし、これにより本予約契約は完結する。
E 賃貸借期間は、その始期より6年間とする。
F 賃料は、月額13,800,000円(消費税及び共益費は別)とする。
G 敷金は292,434,000円とし、H社は、賃貸借契約締結と同時にG社にこれを預託する。
H H社は、本予約契約締結後20日以内に、予約金として30,000,000円をG社に預託し、予約金は、賃貸借契約締結時に敷金の一部に充当する。
I 両当事者が本予約契約の条項を履行しないときは、期限を定め文書をもって各相手方にその履行を請求し、その期限を経過してなお契約の不履行が継続するときは、本予約契約を解除することができる。この場合、違反した者は、30,000,000円の違約金を支払う。
J 本予約契約の譲渡禁止及び協議に関する事項を定める。
K 特約として、内装模様替え、解約予告、敷金償却及び賃料改定に関する事項等を定めるほか、H社は、中間金として平成3年7月末までに10,000,000円及び同年8月末までに20,000,000円をG社に支払うものとする。
(リ)G社は、本件乙予約契約に基づき、平成3年6月27日に30,000,000円の予約金、同年7月29日に10,000,000円及び同年8月29日に20,000,000円の中間金をH社から受領したこと。
(ヌ)K社の社員が作成した「会議記録」と題する文書には、平成3年7月26日にH社及びK社等の関係者がテナント打合せの会議を行い、次の事項を取り決めたことが記載されていること。
A H社が直接発注する本件転貸借室の内装仕上工事は、平成3年10月16日より行い11月末で完成予定とする。
B 平成3年8月末に使用フロアーを決定し、全体レイアウトを行う。
C 1階スケルトン渡しの内装を仕上げるとともに、H社とK社との直接契約に基づきH社の負担により行う1階部分の空調工事は、8月早々に着手する。
D 電気設備、給排水設備及び冷調換気設備についてはH社の負担とし、原設計により工事を進める。
E 天井、床に関しては2階と同様とし、壁については、H社にて仕様を出す(期日指定をする。)。
(ル)K社は、平成3年9月付(日にちの記載がない)で、H社に対して本件建物の1階内装他工事に係る見積書を作成していること。
(ヲ)K社は、平成3年付(月日の記載がない)で、H社に対して本件建物の1階内装他工事に係る請書を作成しており、これによれば、その工期は平成3年9月1日から10月15日とされていること。
(ワ)平成5年10月18日付でK社が請求人に対して作成した「(株)H社より受注の(仮称)Xビル1階内装工事について」と題する文書には、(1)追加工事の場合は、工事金額が未定でも工事工程が最優先され、打合せの合意に基づき順次工事に取りかかることが通例であること、(2)H社とK社との当該工事に係る契約書の契約日を平成3年10月15日としたのは、見積金額の減額を再三にわたり要求され、本件建物の引渡日にその合意ができたことによるものであること及び(3)当該工事の工期が平成3年9月1日から10月15日となっているのは、9月1日が大安であり都合の良い日なので、契約日とした日よりさかのぼって決定したにすぎないことなどが記載されていること。
(カ)平成4年1月21日付でK社が請求人あてに作成した「工事出来高証明書」と題する文書には、本件相続開始日現在における本件建物の出来高は、85パーセントである旨が記載されていること。
(ヨ)請求人は、平成3年10月16日に、K社から本件建物の完成引渡しを受けたこと。
(タ)請求人とG社とは、平成3年10月16日付で次の要旨を定めた本件甲契約を締結したこと。
A 本件賃貸借室につき賃貸借契約を締結する。
B 契約期間は、平成3年10月16日から平成13年10月15日までの10年間とし、更新及び解除について定める。
C 賃料は、月額11,600,000円(消費税は別)とする。
 また、賃料の改定について定める。
D 保証金は270,000,000円とし、G社は、請求人に対し、本契約成立時に210,000,000円、平成3年8月31日に60,000,000円を預託する。
 また、保証金の利息及び返還について定める。
E G社は、本物件を他の者に転貸することができる。
F G社における(1)損害賠償及び原状回復に関する事項、(2)善良なる管理義務に関する事項及び(3)解約予告に関する事項等について定める。
(レ)G社とH社とは、平成3年10月31日付で次の要旨を定めた本件乙契約を締結したこと。
A 本件転貸借室につき賃貸借契約を締結する。
B 賃貸借期間は、平成3年10月16日から平成9年10月15日までの6年間とし、更新及び解除について定める。
C 賃料は、月額13,800,000円(消費税及び共益費は別)とする。
 また、賃料及び共益費の改定、遅延損害金について定める。
D 保証金は292,434,000円とし、H社は、G社に対し、本契約成立時に232、434、000円、平成3年8月31日に60,000,000円を預託する。
 また、保証金の償却、利息及び返還について定める。
E H社は、本件転貸借室を、コンピューター、文具関係、ショールーム及び事務所の目的に限り使用することができる。
F H社における(1)内装等の新増設、変更、修理、撤去に関する事項、(2)禁止行為に関する事項、(3)届出義務に関する事項、(4)損害賠償及び現状回復に関する事項、(5)善良なる管理義務に関する事項、(6)解約予告に関する事項及び(7)連帯保証に関する事項等について定める。
G G社における(1)免責に関する事項、(2)立入権に関する事項、(3)サービスの停止に関する事項及び(4)契約解除に関する事項等について定める。
H 契約当事者における(1)管轄裁判所に関する事項、(2)公正証書の作成に関する事項及び(3)協議に関する事項等について定める。
(ソ)本件相続開始日現在、本件建物の賃貸借に係る賃料及び保証金の授受はされていないこと。
ロ 本件宅地の評価方法
(イ)本件宅地の評価方法については、本件宅地を評価基本通達26に定める貸家建付地として評価できるか否かに争いがあるところ、評価基本通達26では、貸家建付地の価額については、その宅地の自用地としての価額から、その自用地としての価額にその宅地に係る借地権割合と借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価することとされている。
 これは、建物の賃借人には借家権はあっても、その賃借した建物の敷地に対して借地権等の権利を有していないのであるが、経済的にみれば、賃借した建物の敷地である宅地に対しても、建物の賃借権に基づく利用の範囲内で、ある程度の支配権を有していると認められ、したがって、その貸家の敷地の所有者が、借家人の宅地に対する支配権を消滅させるためには、いわゆる立退料の支払いをする場合もあり、また、その支配権が付着したままの状態でその土地を譲渡するとした場合には、その支配権が付着していないとした場合における価額より低い価額でしか譲渡できない場合もあるため、その敷地の経済的価値が自用地に比べて低くなっていることを考慮して、借家人の有する権利に相当する価額を自用地としての価額から控除しているものと解される。
(ロ)ところで、相続税法第22条《評価の原則》によれば、相続により取得した財産の価額は、その取得の時における時価によると規定されているところ、「取得の時における時価」とは、それぞれの財産の現況に応じて評価される価額をいうものであるから、評価基本通達26に定める貸家建付地、すなわち、貸家の目的に供されている宅地とは、借家法(大正10年法律第50号。借地借家法により廃止される以前のもの。)ないし借地借家法(平成4年8月1日以降について)に基づき建物の賃借人が有する権利、すなわち、借家権の目的となっている建物の敷地として利用されているという現況にある宅地でなければならず、したがって、貸家建付地として評価すべき土地は、相続開始の時において現実に貸付けの用に供されている建物の敷地をいうものと解される。
 そうすると、貸家建付地とは原則として、(1)賃貸人等の所有する完成した建物が現実に存在していること、(2)賃借人がその建物の引渡しを受けて現実に入居していることあるいは契約上の賃貸借開始期日が到来していること及び(3)通常の賃料に相当する金銭の授受があることあるいはその権利義務が発生していること等の要件をすべて具備する建物の敷地をいうものと解することができる。
(ハ)そこで、本件宅地について、上記イの事実を上記(イ)及び(ロ)に照らして判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件予約契約は、実体的には、本件建物の竣工引渡日を賃料支払開始日とする条件付で成立している本契約であるから、本件予約契約の締結をもって本件建物の賃貸借契約が締結されたとすべきである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ヘ)及び(チ)の本件予約契約は、賃貸借部分、賃貸借期間、賃料及び敷金の額については、上記イの(タ)及び(レ)の本件賃貸借契約とほぼ同一の内容であるものの、本件予約契約には、賃貸借の予約に関する事項を内容とし、その予約契約についての解除事項や譲渡禁止事項が定められているにすぎず、本件賃貸借契約に記載されている現実の賃貸借に伴う契約当事者の権利義務の詳細や賃貸借の実行、継続、解約等に関する細目内容については定められていないので、本件予約契約は、単に当事者間で将来本件賃貸借契約を締結させる義務を確認する契約と認められるから、本件予約契約の締結をもって事実上の本件賃貸借契約の締結と解することはできない。
 仮に、請求人が主張するように、本件予約契約の締結をもって本件賃貸借契約の締結がなされたと判断しても、上記イの(カ)、(ヨ)及び(ソ)のとおり、本件相続開始日現在においては、本件建物は完成しておらず、また、本件建物の賃貸借に係る賃料の支払もされていないので、本件宅地は、上記(ロ)の(1)ないし(3)の全部の要件を具備していないことになり、これを貸家建付地として評価することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 請求人は、本件相続開始日前に、H社とK社との直接契約により本件工事が行われており、H社は、その工事の監督、引渡等のためいつでも本件建物に自由に立入ることが可能であったから、本件建物は、本件相続開始日以前から、H社が請求人から引渡しを受けていた旨主張する。
 しかしながら、上記イの(ル)、(ヲ)及び(ワ)によれば、K社とH社とは平成3年10月15日に本件工事に係る契約を行い、その工事期間は、同年9月1日から同年10月15日までと認められるから、本件相続開始日以前にH社が請求人から本件建物の引渡しを受けて工事に着工していたと認めることはできない。
 確かに、上記ロの(ワ)のとおり、本件工事に係る契約日や工事期間の記載が不実である旨の文書は存在し首肯できる部分もあるが、請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によってもこれが真実であることを裏付ける根拠は認められない。
 仮に、本件相続開始日以前に、H社が本件工事を発注し、K社がその工事に着手したことにより、H社が本件建物に自由に立ち入っていたとしても、請求人は、上記イの(ヨ)のとおり、平成3年10月16日に本件建物の完成引渡しを受けたものであり、本件相続開始日にはその引渡しを受けていないのであるから、H社の本件建物への立入りは、本件建物の建築を完成させるため、請求人から無償で便宜が供与されていたことによるものとしか解せず、本件建物の賃貸借に基づいての占有が開始した結果とは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
C 請求人は、本件乙予約契約の締結により、G社がH社に対して本件建物を引き渡す義務が発生し、賃貸人としての義務を履行しない場合には、違約金の支払義務や借家権相当額の損害賠償義務を負うから、本件建物はH社の事実上の支配下にあり、本件宅地の経済的価値は、自用地に比べ低額となる旨主張する。
 しかしながら、上記Aで述べたとおり、本件予約契約は、将来において本件賃貸借契約を締結する義務を確認したものにすぎず、本件予約契約により賃借人が本件建物に係る賃借権を取得したとは認められないので、本件予約契約締結により、本件建物の引渡義務は生じておらず、また、当該賃借権に基づき、H社が借家権相当額の損害賠償請求権を有しているともいえないから、本件建物が相続開始時点において、H社の事実上の支配下にあったということはできない。
 また、損害賠償金の支払義務は、契約当事者のいずれか一方の債務不履行の事実により初めて発生するものであるところ、本件予約契約では、上記イの(ヘ)のH及び(チ)のIのとおり、契約当事者のいずれか一方に、同契約の条項の不履行があって契約解除がされた場合に、不履行となった契約当事者に違約金の支払義務が生ずる旨記載されている。
 そうすると、当該違約金は、請求人又はG社のみにその支払義務が生じるものではないから、本件予約契約の履行を担保したものではあっても、本件賃貸借契約による借家権に係る補償を定めたものと解することはできず、また、本件相続開始日現在において当該違約金の支払義務が生じているという事実も認められないから、このことをもって本件宅地の経済的価値が低下しているとは認められない。
 また仮に、本件相続開始日現在において違約金の支払義務が生じていたとしても、それは、相続税の課税価格の計算上、当該支払義務を被相続人の債務として控除すべきか否かの問題であり、本件宅地の時価をいかに評価すべきかとは別個の問題であることは明らかである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
D 請求人は、裁決例を引用して、建築中の建物の敷地であっても、その建物に賃借人の支配権が及んでいる場合は、貸家建付地として評価すべきであると主張する。
 しかしながら、請求人が引用する裁決例における判断は、従前から貸家の用に供していた建物の建替えを行い、従前の賃借人が建替後の建物を継続して賃借することが約束されている場合の建築中の建物の敷地についての判断であり、そこでは、上記(ロ)の(1)ないし(3)の条件を貸家建付地として評価する場合の前提としつつも、相続開始の時において建物を建替中であっても、旧建物の賃借人に立退料の支払がなく、かつ、同人が引き続いて新建物を賃借することが前もって約されている場合は、建築中の建物に当該賃借人の従前の建物に係る占有権が及んでいるとみなしたものであるところ、本件建物については、(1)従前からの賃借人は存在していないこと、(2)上記Aで述べたとおり、本件賃貸借契約は締結されていないこと及び(3)上記Bで述べたとおり、H社が本件建物の賃貸借に基づいてこれを占有していた事実はないから、本件とは内容を異にするものである。
 したがって、請求人の引用する裁決例の判断をもって、本件宅地を貸家建付地として評価する理由にはならないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ハ 本件宅地の価額
 以上のとおり、本件宅地の評価について、請求人の主張には理由がなく、本件建物は、本件相続開始日現在において、G社又はH社のいずれに貸し付けられていたとも認められず、その他本件宅地につき考慮すべき特段の事実は認められないから、本件宅地は自用地として評価することが相当である。
 そうすると、本件宅地の評価額は原処分庁が主張するとおり1,597,682,252円となるので、原処分庁の認定額は相当である。
ニ 本件特例の適用
 請求人は、本件宅地上には本件建物が建築される以前に本件作業所が存しており、同作業所は、L社に賃貸されていたが、その取壊し後に賃貸用の本件建物を建築したとして、請求人の事業の継続性を主張するとともに平成6年11月21日、同年12月13日、同年12月21日、平成7年2月9日及び同年6月12日に当審判所に申述書及び証拠書類を提出し、本件宅地の価額の計算においては、本件特例の適用を当然受けられるにもかかわらず、原処分庁が、本件申告書に本件特例の適用を受ける旨の記載をしていなかったという手続の欠缺のみをもって、本件特例の適用を認めないことは、法の誤解による不利益を請求人に帰するものであって許されるものではない旨主張する。
 しかしながら、当審判所の調査によれば、L社は、昭和60年3月1日以降平成3年6月30日までの間、事実上の休業状態にあったことが認められ、また、請求人の提出した証拠資料等によっても、同社は、昭和60年以降事実上の休業状態にあったことが明らかであり、反面、本件作業所を賃借していたことが確認できず、これを同社の事業に用に供していたことの証明もされていないため、本件宅地が請求人の事業の継続のために使用されていたと認めることはできない。
 仮に、本件宅地が請求人の事業の継続のために使用されていたとしても、租税特別措置法等における租税減免規定の適用に当たっては、その規定が原則的な課税要件規定に対する例外規定であることから、その適用の解釈及び手続きについては厳格性が要求されるところ、本件特例は、租税特別措置法第69条の3第3項の規定により、その適用を受けようとする旨を申告書に記載し、同条第1項及び第2項の規定による計算に関する明細書その他の大蔵省令で定める書類の添付がある場合に限り適用できることとされている。
 当審判所の調査によれば、請求人は、本件申告書に、本件特例の適用を受ける旨の記載をしておらず、かつその計算に関する明細書及び書類の添付もなく、また、租税特別措置法第69条の3第4項に定めるやむを得ない事情があったと認められる事実もないので、本件宅地に本件特例を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 課税価格
 上記ハ及びニにより、本件宅地の評価額は1,597,682,252円となるので、請求人のその申告額1,262,168,979円との差額335,513,273円が相続税の課税価格に加算されるところ、請求人は、Q市の山林の評価額について、19,629,770円過大に申告しているので、この金額を差し引いた315,883,503円が相続税の課税価格に加算される金額となる。
 これに基づき相続税の課税価格を計算すると、その額は、本件更正処分の金額と同額となるので、本件更正処分は適法と認められる。

(2)本件賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のとおり相当であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により本件賦課決定処分をしたことは適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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