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(平7.11.17裁決、裁決事例集No.50 265頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、P市R町33番地に所在し昭和63年8月10日に解散した有限会社F(以下「滞納会社」という。)の元取締役であった者であるが、原処分庁は、請求人に対し、平成6年4月15日付で、別表1に記載する滞納会社の滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)について、36,100,000円を限度とする第二次納税義務の納付通知書による告知処分(以下「本件告知処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成6年5月16日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 原処分庁は、別表2に記載の支出金(以下「本件金員」という。)を、滞納会社から請求人が贈与により無償譲渡されていると認定して、請求人に対し、国税徴収法第39条《無償又は著しい低額の譲受人等の第二次納税義務》の規定を適用して、本件金員の合計額を限度とする本件告知処分をしたが、次のとおり、本件金員の性格は職務執行の対価である役員報酬であるから、原処分庁の認定には事実誤認があり、また、滞納会社が重加算税の取消しを求めた審査請求(以下「賦課決定処分の審査請求」という。)において、国税不服審判所長は本件金員を役員賞与と裁決しているから、本件告知処分には国税通則法第102条《裁決の拘束力》第1項に抵触する違法がある。
 したがって、請求人には第二次納税義務を負う理由はない。
イ 本件金員の性格について
(イ)請求人は、滞納会社の役員として、自己の自動車を運転して各地を走り回り、野立看板を設置するための適地を発見するとその所有者又は使用権者と交渉して野立看板設置の了承を取り、看板を設置したい顧客との間の折衝を進めて成約を得ると看板を製作して取り付け、取り付けた看板の維持、管理を行うという業務を、朝から夜中まで精魂尽くして働いたので、その職務執行の対価として、滞納会社の売上除外金から本件金員を役員報酬として受領したものである。
 また、滞納会社には取締役であった請求人、代表取締役であったG及び取締役であったH(以下、これらを併せて「本件役員3名」という。)がおり、本件役員3名の合意の下に、本件役員3名に売上除外金から本件金員を役員報酬として支給していたが、(1)本件役員3名に支給した正規の帳簿からの役員報酬の額と売上除外金から支給した役員報酬の額の合計額は、社員総会で決議された役員報酬限度額の範囲内であること、(2)本件金員を役員報酬として支給するとの本件役員3名の合意は取締役会の決議となること、(3)本件金員は定期、定額で支給していることからも役員報酬である。
(ロ)これに対し、原処分庁は、本件役員3名がもっぱら租税負担を回避するために売上除外金を作り、これを秘密裏に本件役員3名に配分したものが本件金員であるから、本件金員には対価性はなく、滞納会社から請求人に対する贈与であって、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡に該当すると認定しているが、本件金員の性格は、上記(イ)のとおり、職務執行の対価である役員報酬であり、たとえ租税負担回避の意図による経理であったとしても、それによって本件金員の性格が変わるはずはない。
ロ 裁決の拘束力について
 賦課決定処分の審査請求において、国税不服審判所長は本件金員を役員賞与と裁決しているから、本件金員を贈与と認定して行った本件告知処分は、国税通則法第102条第1項の「裁決は、関係行政庁を拘束する」との規定に抵触する違法な処分である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
 請求人は、次のとおり滞納会社から本件金員を無償譲渡されているから、国税徴収法第39条の規定により、本件金員の金額36,100,000円の限度において本件滞納国税の第二次納税義務を負うこととなる。
イ 本件金員の性格について
 本件役員3名がもっぱら租税負担を回避するために売上除外金を作り、これをいわゆる裏帳簿によって管理して、秘密裏に本件役員3名で分配したものが本件金員であって、請求人には、別途、正規の帳簿から職務執行の対価である役員報酬が支給されていることから、本件金員には対価性はなく、滞納会社から請求人へ贈与されたものであり、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡には贈与も該当するので、本件告知処分は適法である。
ロ 裁決の拘束力について
 国税通則法第102条第1項に規定する裁決の拘束力の意味するところは、関係行政庁は裁決の内容を実現すべく義務づけられており、処分の取消し又は変更の裁決があった場合には、同一事情の下で、同一内容の処分を繰り返すこと、すなわち、本件でいえば、本件金員を役員賞与でないとして課税処分をすることは許されないということであり、国税徴収法上の処分を何ら拘束するものではないことから、本件告知処分は適法である。

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3 判断

(1)本件金員の性格について

 本件金員の授受が、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡に当たるか否かについて争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、当事者間に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
(イ)滞納会社の定款には、役員報酬に関する定めはないこと。
(ロ)滞納会社の昭和56年10月31日付社員総会議事録には、役員報酬の総額は50,000,000円以内とすることで可決確定したと記載されており、その後、この役員報酬額は変更されていないこと。
ロ 原処分関係資料を基に当審判所が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)社員総会で承認の決議を受けた滞納会社の損益計算書には、本件役員3名に支給した報酬の額として次表の金額が計上されており、この金額のうち「うち請求人分」欄のとおり3分の1が請求人に支給されていること。

(ロ)滞納会社は、本件金員の支出を正規の帳簿に計上しておらず、損益計算書にも計上していないこと。
ハ 以上の事実に基づき、本件金員の性格を判断すると、次のとおりである。
 有限会社の取締役の報酬に関する法令によれば、会社と取締役との関係は有限会社法第32条が準用する商法第254条第3項の規定により委任者と受任者との関係となり、委任契約は民法第648条第1項の規定により原則的には無償とされるが、有限会社法第32条が準用する商法第269条には、報酬の額は定款又は社員総会の決議により定める旨規定されていることから、定款又は社員総会の決議で報酬の額を定めることにより、その定められた額の範囲内で取締役は報酬を受けられることとなり、この報酬が、取締役の職務執行の対価としての給付と解されているところである。
 有限会社法第32条が準用する商法第269条の規定に基づいて取締役に支給した報酬は、商法第33条第1項の規定により会計帳簿に記載した上、有限会社法第43条第1項の規定により損益計算書を作成し、有限会社法第46条が準用する商法第283条第1項の規定により社員総会で承認の決議を受けることとされていることから、社員総会で承認の決議を受けた損益計算書に計上されている取締役の報酬が、取締役の職務執行の対価としての役員報酬となる。
 これを本件についてみると、上記イのとおり、滞納会社では定款ではなく社員総会決議によって役員報酬の総額は50,000,000円以内と定めていることから、その範囲内で社員総会で承認の決議を受けた損益計算書に計上されている取締役の報酬が役員報酬となるところ、本件金員については、上記ロの(ロ)のとおり、社員総会において承認の決議を受けた損益計算書に計上されていないことから役員報酬には該当せず、上記ロの(イ)のとおり、社員総会において承認の決議を受けた損益計算書に計上されている役員3名に支給した報酬のうち請求人への支給分が、請求人の職務執行の対価としての役員報酬となる。
 したがって、本件金員を職務執行の対価としての役員報酬とする請求人のその他の理由について判断するまでもなく、請求人の主張は採用できない。
 そうすると、本件役員3名で滞納会社の売上除外金による利益金を社員総会で承認の決議を受けた損益計算書に計上せずに分配していた金額は職務執行の対価としての役員報酬に該当せず、本件金員の授受は滞納会社からの贈与であり、国税徴収法第39条に規定する無償譲渡に該当する。

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(2)裁決の拘束力について

 請求人は、国税通則法第102条第1項の規定により、本件金員は役員賞与とした国税不服審判所長の裁決に原処分庁は拘束されるので、本件金員を贈与と認定して行った本件告知処分は、同条に抵触する違法な処分である旨主張するので、調査・審理したところ、次のとおりである。
 当審判所が賦課決定処分の審査請求に対する平成○年○月○日裁決(○裁(法)平○第○○号)を調査したところ、この審査請求は滞納会社が重加算税の賦課決定処分の取消しを求めたものであり、裁決の中で国税不服審判所長は、本件金員を役員賞与と認定している。
 一般に、国税通則法第102条第1項の規定の趣旨については、原処分の取消しをする裁決があれば、その裁決自体の効力により、違法又は不当であった原処分は当然に取り消されるが、その後、再び裁決で取り消された処分と同様の処分をすることができるならば、権利救済の目的を達することができないので、このようなことのないよう、裁決は関係行政庁を拘束すると規定されたものと解されているところである。
 ところで、会社役員に対するいわゆる認定賞与の中にも、役務提供の対価とみることのできる場合と贈与の性質をもつ場合とがあることから、会社と会社役員との間における金員の授受について、同一税務署長が、課税面では賞与と認定しながら、徴収面においては国税徴収法第39条の無償譲渡に当たると認定したとしても、何ら矛盾するものではない。
 これを本件についてみると、重加算税の賦課決定処分は課税面の処分であり、徴収面の本件告知処分とは全く別の処分であって、国税通則法第102条第1項の規定には抵触しないから、賦課決定処分の審査請求の裁決では本件金員を役員賞与と認定し、本件告知処分では本件金員を贈与と認定しても何ら違法でなく、請求人の主張には理由がない。

(3)第二次納税義務の限度額について

 請求人は、第二次納税義務を負う理由がない旨主張するので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 原処分関係資料を基に当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)滞納会社は、昭和52年3月24日に設立され昭和63年8月10日に解散しており、その役員構成等は次表のとおりである。

(単位 円、%)
 役職氏名出資金額出資割合
代表取締役G250,00016.7
取締役J500,00033.3
取締役H500,00033.3
監査役K250,00016.7
合計 1,500,000100.0

(ロ)滞納会社には、別表1に記載のとおりの本件滞納国税があること。
(ハ)滞納会社は、本件告知処分が行われた日現在において、本件滞納国税につき滞納処分を執行すべき財産はなく、徴収すべき額に不足すると認められること。
(ニ)本件滞納国税のうち、最も古い昭和56年3月1日から昭和57年2月28日までの事業年度に係る滞納国税の法定納期限は昭和57年4月30日であるところ、本件金員の無償譲渡は、当該法定納期限の一年前の日以後にされていること。
ロ 以上の事実から判断すると、滞納会社は、本件金員を請求人に無償譲渡したことに基因して、本件滞納国税について滞納処分を執行してもその徴収すべき税額に不足すると認められるところ、請求人は滞納会社の特殊関係者であることから、国税徴収法第39条の規定により、その受けた利益の額36,100,000円の限度において、本件滞納国税の第二次納税義務を負うこととなる。
 したがって、請求人の負うべき第二次納税義務の限度額が上記金額と同額でなされた原処分は適法である。

(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所において調査・審理したところによっても、これを不相当とする理由は認められない。

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