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(平8.4.15裁決、裁決事例集No.51 12頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年分の贈与税の申告書(以下「本件申告書」という。)に課税される財産の価額の合計額を18,489,843円、配偶者控除額を18,489,843円及び納付すべき税額を零円と記載して平成5年4月9日にA税務署長に提出した(以下「本件期限後申告」という。)。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査(以下「本件調査」という。)を受け、平成4年分の贈与税について課税される財産の価額の合計額を18,489,843円、配偶者控除額を零円、基礎控除額を600,000円及び納付すべき税額を7,188,900円とする修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)を平成6年11月17日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年12月27日付で修正申告により納付すべきこととなった税額を基として重加算税の額を2,872,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、この処分を不服として平成7年2月22日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月16日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年6月13日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、無申告加算税に相当する金額を超える部分の取消しを求める。
 請求人は、同人の夫であるF(以下「F」といい、請求人と併せて「請求人夫婦」という。)から平成4年8月9日にP市R町3丁目17番12所在の宅地276.17平方メートル(以下「本件宅地」という。)及び本件宅地上の建物105.08平方メートル(家屋番号17番地12の建物。以下「本件家屋」といい、本件宅地と併せて「本件資産」という。)の持分100分の37の贈与を受け、この贈与に係る贈与税について相続税法第21条の6《贈与税の配偶者控除》に規定する特例(以下「本件贈与の特例」という。)を適用して本件期限後申告をしたが、本件調査に係る調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)から、本件資産は本件贈与の特例にいう居住の用に供する不動産(以下「居住用不動産」という。)に当たらないとの指摘を受けたので、本件贈与の特例の適用はしない旨記載した本件修正申告書を提出した。
 これに対し、原処分庁は本件賦課決定処分をしているが、次に述べるとおり、請求人が本件期限後申告において本件贈与の特例を適用したのは、税に対する知識の不足から、本件資産が居住用不動産に当たると誤認したためであり、税金を免れる目的で故意に隠ぺいし又は仮装した等の事実はないから、本件賦課決定処分は違法である。
イ 本件資産は、Fが昭和51年6月に本件宅地を購入し、同年11月に居住用として本件家屋を新築したもので、その後、昭和54年11月にFが会社の都合でB県に転勤になるまでの約3年の間、請求人夫婦が居住していたものである。
ロ 昭和54年にB県へ転勤後は、請求人夫婦は社宅に居住しており、本件資産以外に居住の用に供する資産は所有していない。
ハ 本件資産は、昭和54年にB県へ転勤後は、約10年の間賃貸していたが、平成2年12月に賃貸契約を解除した後は空き家とし、Fが○○方面へ出張した際に使用するとともに、将来は、請求人夫婦が永住するつもりでいた。
ニ 平成3年ころ、Fの勤務先で組織改革の噂もあり、これが実施されれば、同人は、○○勤務の可能性が大であったことから、そのときは、当然本件資産を請求人夫婦の居住用として使用するつもりでいた。
ホ 居住用不動産の夫婦間の贈与については、税法上の特典があることを知り、Fが平成4年3月ころ○○方面に出張した際に、A税務署に立ち寄り、贈与税についての相談をし、その際、贈与税の申告書は贈与を受けた年の翌年3月15日までに提出すること、その時期に税務署から申告書の用紙が送付されること、また、添付書類として、戸籍謄本、評価証明、住民票の写し等が必要なことを知った。
ヘ Fが平成4年5月16日に○○方面へ出張した際に本件資産の所在地に請求人夫婦の住民票上の転入届(以下「本件転入届」という。)をしたが、これは、世間一般的に住民登録の実際の居住地が異なる例は多く、請求人も住民票上の届出について軽視していたこともあって、贈与税の申告に当たり添付書類として必要であると思い、深い考えもなしにしたことである。
ト 本件資産の贈与の後の平成5年1月にC株式会社(以下「C社」という。)に本件資産の譲渡についての媒介を依頼しており、贈与を受けてから譲渡の媒介依頼までの期間が約6か月と短期間ではあるが、これは、Fの勤務先会社の状況及び本件資産の価値の状況の著しい変化に基づくものである。
 すなわち、請求人が本件資産の贈与を受けた時点では、Fは、Da株式会社(以下「Da社」という。)p支店に勤務しており、Da社はE県に本社があり、○○方面への出張が多く、また、将来E県勤務になるものと思っていたところ、平成5年1月にDa社の解散の噂が広がり、業務移管の検討がはじめられ、FはB県の本社のあるDb株式会社への勤務が予想され、かつ、本件資産の実勢価額はバブル崩壊後の急激な下落傾向にあり、本件資産に設定された根抵当権に係る借入金の返済もおぼつかないという状況に至ったことから、本件資産を譲渡することとしたのである。
チ 原処分庁は、本件資産の贈与は、本件資産を売却する計画のもとに行われたもので、平成2年6月ころG株式会社(以下「G社」という。)に本件資産の譲渡についての相談をしているとしているが、G社は、本件家屋の賃貸について依頼した業者であり、G社に売却の相談や依頼をするはずがない。もっとも、実勢価額等の情報収集のため幾度か立ち寄り世間話等をしたことがあり、そのとき話題に上がったことはあるかもしれないが、本気で売却を依頼したことはない。
リ 以上のとおり、素人の生半可な知識から、本件資産が居住用不動産に該当するものと確信し、本件贈与の特例を適用すれば無税で贈与ができるという単純な考えのもとに、本件資産の贈与が行われ、この贈与に係る本件期限後申告をしたものであって、贈与税を免れる目的で故意に隠ぺいし又は仮装した等の事実はない。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、Fから本件資産の持分100分の37の贈与を受け、この贈与に係る贈与税について本件贈与の特例を適用する旨記載した本件申告書を平成5年4月9日にA税務署長に提出したこと。
(ロ)請求人が、本件申告書に添付した平成5年4月9日付の住民票の写し(以下「本件住民票」という。)によれば、請求人は、平成4年5月16日にP市長に対して、同日にB県Q市S町6丁目10番2‐106号(以下「Q市の住所」という。)から、本件家屋の所在地であるP市R町3丁目17番地の12(以下「P市の住所」という。)に転入した旨の本件転入届をしていること。
(ハ)本件資産については、平成4年8月10日付で平成4年8月9日の贈与を原因とする所有権移転登記(以下「本件登記」という。)がされていること。
(ニ)戸籍の附票によれば、請求人夫婦の住所の異動状況並びに請求人夫婦の長男□□、同次男△△及び同長女××(以下、請求人夫婦の子の3名を併せて「請求人夫婦の子ら」という。)の住所の異動状況は次表のとおりであること。
 なお、請求人夫婦及び請求人夫婦の子らは、現在B県T市W町二丁目20番20‐605号(以下「T市の住所」という。)に居住していること。

期間住所
請求人夫婦
 元年6月5日〜4年5月15日Q市の住所
 4年5月16日〜5年7月27日P市の住所
 5年7月28日以後T市の住所
請求人夫婦の子ら
 元年6月5日〜5年5月5日Q市の住所
 5年5月6日以後T市の住所

(注)「期間」欄の年号は平成である。
(ホ)Fに対する給与支払者であるD株式会社(以下「D社」という。)が保管する平成3年分ないし平成5年分の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書・扶養加給申告書」には、次のとおり記載されていること。
A Fの住所地は、Q市の住所であること。
B Fは、請求人及び請求人夫婦の子らを扶養し、Q市の住所で同居していること。
(ヘ)D社の社員は、調査担当職員に対し、次のとおり申述していること。
A Fは、平成3年6月1日から平成5年11月16日までの間、次表のとおりD社の関連法人に出向していたが、Fの勤務地はいずれもB県X市内であった。

期間出向先勤務地
自平成3年6月1日Da株式会社B県X市d町1丁目
至平成5年4月1日p支店1番2号△△1号館
自平成5年4月1日Db株式会社B県X市e町1丁目
至平成5年11月16日s支社7番5号

B 関連法人への出向に伴うFの住所変更はなく、また、FがQ市の住所の社宅(以下「Q市の社宅」という。)からT市の住所の社宅(以下「T市の社宅」という。)に転居するまで、Fから住所変更届等の提出はなかった。
(ト)平成元年6月5日からFは、Q市の社宅及びT市の社宅を借用していること。
(チ)Fは、平成5年7月14日にH銀行(以下「H銀行」という。)t支店に次の事項が記載されている普通預金口座(口座番号××のもの。)の変更届を提出したこと。
変更前の届出事項 B県Q市S町6‐10‐2‐106F
変更後の届出事項 B県T市W町2‐20‐20‐605F
(リ)Fは、平成5年9月1日にJ証券(以下「J証券」という。)w支店に次の事項が記載されている取引口座変更届を提出したこと。
旧内容
ご氏名 F
ご住所 B県Q市S町6‐10‐2‐106
新内容
ご氏名 F
ご住所 B県T市W町2‐20‐20‐605
(ヌ)本件家屋及びQ市の社宅における電気及び水道の各使用量等について、K電力株式会社x営業所、L電力株式会社y支店Q支社及びP市水道局、B県水道局から得た照会回答文書(以下「本件公共料金照会回答書」という。)によれば、本件家屋及びQ市の社宅に係る各使用量は別表のとおりであり、本件家屋に係る電気及び水道の各使用量は極めて少ないこと。
(ル)平成6年11月8日に、調査担当職員が本件資産の近隣の居住者に居住状況を聴取したところ、本件家屋は当時空き家であり、FがE県に来た時使用していた旨申述していること。
(ヲ)平成6年10月31日に調査担当職員が、G社の取締役に本件資産の賃貸状況を聴取したところ、次のとおり申述していること。
A 平成2年6月頃、本件資産の近隣に居住していたMに、新築期間中の仮住居として本件資産を6か月間の期限付きで賃貸したが、それ以降、Fから本件資産を賃貸しない旨の申出があった。
B Mに本件資産を賃貸するまでの間に、Fから本件資産を売却する相談を受けている。
(ワ)請求人夫婦が平成5年7月8日にNとの間で作成した本件資産に係る不動産売買契約書によれば、請求人夫婦はNに総額59,000,000円で本件資産を売却していること。
(カ)請求人夫婦は、平成5年1月22日にC社との間で本件資産に関する売買の専任媒介契約を締結したこと。
(ヨ)請求人は、調査担当職員のしょうように基づき平成6年11月17日に本件修正申告書を提出していること。
(タ)平成6年3月10日に請求人夫婦は、本件資産の譲渡に係る譲渡所得の計算上、租税特別措置法(平成7年法律第55号による改正前のもの。)第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する特例(以下「本件譲渡の特例」という。)を適用して平成5年分の所得税の確定申告書の提出をしたこと。
ロ 平成4年5月16日から平成5年7月27日まで請求人夫婦は、P市の住所に住民登録しているが、上記イの(ニ)ないし(ト)及び(ヌ)のとおり、(a)Fの勤務地はB県X市であり、平成元年6月5日以降勤務先からQ市の社宅及びT市の社宅を借用していること、(b)平成5年5月2日までQ市の社宅の電気及び水道が使用されていること、(c)平成5年5月6日に請求人夫婦の子らの住民登録はT市の住所に移転していること等を総合勘案すれば、請求人は、平成元年6月5日から平成5年5月2日までQ市の社宅に居住し、それ以降はT市の社宅に居住していたと認められる。
 また、上記イの(チ)ないし(ル)のとおり、(a)本件資産の近隣の居住者が請求人は当時本件資産に居住していなかったと申述していること、(b)本件家屋に施設されている電気は、本件転入届の約4か月後に使用開始されていること、(c)本件家屋に施設されている電気及び水道の使用量が極めて少ないこと、(d)Fが、平成5年7月14日及び平成5年9月1日にH銀行t支店及びJ証券w支店に新住所としてT市の住所を、また、旧住所としてQ市の住所を記載した住所変更届を提出していることを総合勘案すれば、請求人はP市の住所に住民登録を移しているが、本件資産に居住する目的はなかったものと認められる。
ハ 上記のほか、(a)本件資産の賃貸借契約が解除された以降、本件資産の売買が検討されていたこと、(b)本件転入届の約3か月後には本件登記を行っており、また、平成5年1月22日に本件資産の売買に関する専任媒介契約が締結されていることを総合勘案すれば、請求人は、本件資産を譲渡するに当たって、本件資産を居住していたかのように仮装するために実際の住居とは異なる本件転入届をし、交付を受けた本件住民票を本件申告書に添付することにより、故意に贈与税を免れたものである。
 このことは、国税通則法第68条《重加算税》第2項に規定する重加算税の賦課決定処分の要件を満たすことが明らかであり、同条同項の規定に従って本件賦課決定処分を行ったことは適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税の賦課決定処分の可否であるので、以下審理する。
(1)次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件資産は、平成2年12月までは賃貸されていたが、その後は賃貸の用には供されていないこと。
ロ 請求人は、平成4年8月9日に、Fから本件資産の持分100分の37の贈与を受けたこと。
ハ 請求人は、本件申告書に本件贈与の特例の適用を受ける旨記載し、本件住民票を添付してA税務署長に本件期限後申告をしたこと。
ニ 平成5年4月9日付の本件住民票には、請求人夫婦が、平成4年5月16日にQ市の住所からP市の住所に転入した旨記載されていること。
ホ 本件資産は、本件贈与の特例にいう居住用不動産には当たらないものであること。
ヘ 請求人夫婦は、平成5年1月22日にC社との間で本件資産の売却に関する専任媒介契約を締結したこと。
(2)原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 請求人夫婦及び請求人夫婦の子らに関する平成6年7月21日付の戸籍の謄本及び戸籍の附表の写しによれば、請求人夫婦及び請求人夫婦の子らの住所の異動状況は、次表のとおりであること。

期間住所
請求人夫婦
 元年6月5日〜4年5月15日Q市の住所
 4年5月16日〜5年7月27日P市の住所
 5年7月28日以後T市の住所
請求人夫婦の子ら
 元年6月5日〜5年5月5日Q市の住所
 5年5月6日以後T市の住所

(注)「期間」欄の年号は平成である。
ロ 請求人夫婦がそれぞれ提出した各平成5年分の所得税の確定申告書(以下「本件各確定申告書」という。)及びそれに添付された「譲渡内容についてのお尋ね」等の書類によれば、請求人夫婦は、平成5年7月28日に本件資産をNに総額59,000,000円で譲渡し、本件資産の譲渡に係る譲渡所得については、それぞれ、本件譲渡の特例を適用する旨の申告をしていること。
ハ 本件各確定申告書には、P市長の発行に係る平成6年3月7日付の住民票(除票)(以下「本件除票住民票」という。)の写しが添付されており、本件除票住民票には、請求人夫婦が平成4年5月16日にQ市の住所からP市の住所に転入し、平成5年7月28日にP市の住所からT市の住所に転出した旨記載されていること。
ニ A税務署長の平成6年2月16日収受に係るFが提出した本件資産の譲渡に係る「譲渡内容についてのお尋ね兼計算書」には、要旨次の記載があること。
(イ)本件資産は、自分の居住用にしており、住民票上の届出による居住期間は、平成4年5月から平成5年7月までであるが、平成3年7月から住んでいた。
(ロ)収入金額は59,000,000円、必要経費は21,872,278円、差引金額は37,127,722円及び特別控除額は60,000,000円(二人分)であり、本件譲渡の特例を適用する。
(ハ)本件資産の共有者は請求人であり、その持分は100分の37である。
ホ 本件公共料金照会回答書によれば、本件家屋及びQ市の社宅における平成4年1月から平成5年9月までの電気及び水道の使用量等は別表のとおりであること。
ヘ 本件資産の近隣の居住者は、平成6年11月8日に調査担当職員に対し、本件家屋は、家の建て替えのため半年くらい住んでいた賃借人が立ち退いてからは、ずっと空き家であり、FがE県での仕事に来たとき、たまに本件家屋に来ていた旨申述していること。
ト 本件家屋の賃貸の仲介をしたG社の担当者は、平成6年10月31日に調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
(イ)昭和60年ころ、Fから本件家屋の賃貸の仲介を依頼され、株式会社X(以下「X社」という。)との間で賃貸借契約を成立させた。
(ロ)昭和63年6月ころ、Fより賃貸借契約の打ち切りの依頼を受け、X社にその旨を伝え、X社には他の物件を仲介し、X社は同年12月で本件家屋を立ち退いた。
(ハ)その後も本件家屋は賃貸されていたが、平成2年6月ころ、本件家屋の近隣に居住していたMに、同人の建物を建て替える期間中の仮住居として6か月間の期限付きで賃貸したのを最後に、本件家屋は賃貸されていない。
(ニ)Fは、昭和63年ころから、B県への買換えを検討していたようであり、Mに本件家屋を賃貸するまでの間に、Fから本件資産の売却についての相談を受けた。
チ 本件資産の売却の仲介をしたC社の担当者は、平成6年11月1日に調査担当職員に対し、要旨次のとおり申述していること。
(イ)平成5年1月に本件資産の売却に係る仲介の依頼を受け、同月中に本件家屋の鍵を預かった。
(ロ)平成4年8月の本件資産の贈与に係る登記の際に相談があり、C社で司法書士を紹介した。また、その時、贈与した後に売却し、本件譲渡の特例を両方で適用したら、脱税になると説明した。
(ハ)本件資産の売却に当たり、Fから税金についての相談を受け、パンフレットを基に、本件家屋を賃貸していた経緯や住まなくなってから3年を経過していることなどから、本件譲渡の特例の適用はできない旨を説明した。
リ Fの勤務先であるD社の社員は、平成7年4月18日に異議審理庁の異議調査担当者に対し、要旨次のとおり申述していること。
(イ)Fは、昭和43年6月にD社に入社し、昭和60年11月からD社の関連会社の数社に出向していたが、平成5年11月16日にD社に戻っている。
なお、昭和62年6月21日からの出向の状況は、次表のとおりである。

期間出向先勤務地
自昭和62年6月21日Dc株式会社B県X市d町1‐1‐8
至平成3年6月1日z支店△△4号館
自平成3年6月1日Da株式会社B県X市d町1‐1‐2
至平成5年4月1日p支店△△1号館
自平成5年4月1日Db株式会社B県X市e町1‐7‐5
至平成5年11月6日s支社

(ロ)上記(イ)の表の出向期間中、Fは、主にf社との商談を担当しており、全国のf社を対象としていたが、勤務地はB県であり、遠隔地への出張は月に2回から3回程度で、長くて2泊3日位である。
(ハ)Q市の社宅への入居年月日は分からないが、平成2年以降、Q市の社宅に居住しており、T市の社宅に移るまで、住所変更の届出はない。
ヌ Fの平成元年分ないし平成5年分の所得税の各確定申告書に添付された各収支内訳書(不動産所得用)によれば、Fは、当時、本件資産のほかに(イ)g市h町2「gマンション」床面積16.51平方メートル、(ロ)g市i町13‐10「jマンション」床面積16.50平方メートル、(ハ)k市l町867‐2‐C‐704「kコーポラス」床面積57.20平方メートル(以下「kコーポラス」という。)及び(ニ)m市n町1‐11‐3‐106「qプラザ」床面積84.70平方メートル(以下「qプラザ」といい、これらの資産を併せて「本件賃貸資産」という。)を所有していたこと。
ル 上記ヌの各収支内訳書によれば、Fは、本件賃貸資産を昭和62年7月から平成元年5月にかけて取得しており、本件賃貸資産の取得に係る借入金の残高は、次表のとおりであること。

(単位 円)
時期借入金残高
平成元年末96,751.989
平成2年末95,149,074
平成3年末94,139,230
平成4年末78,751,280
平成5年末79,133,349

ヲ Fが、A税務署長に提出した平成4年分の所得税の確定申告書に添付された収支内訳書(不動産所得用)の旅費交通費の明細書には、平成4年5月23日から同年11月22日までの間に、P市の住所からqプラザ及びkコーポラスまでの往復の旅費及びrでの宿泊費(いずれも1泊2日で合計4回)として合計178,840円を要した旨の記載があること。
ワ Fが原処分庁に提出した平成5年分の所得税の確定申告書に添付された収支内訳書(不動産所得用)の旅費交通費の明細書には、平成5年2月11日から同年7月13日までの間に、P市の住所からqプラザ及びkコーポラスまでの旅費及びrでの宿泊費(いずれも1泊2日で合計4回)として合計180,410円を要した旨の記載があること。
(3)ところで、国税通則法第68条第2項には、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき法定申告期限までに納税申告書を提出せず、又は、法定申告期限後に納税申告書を提出していたときは、無申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る無申告加算税に代え、当該基礎となるべき税額の100分の40に相当する重加算税を課す旨規定されている。
(4)また、本件贈与の特例は、夫婦間の居住用不動産又は居住用不動産の取得のための金銭の贈与で、贈与を受けた配偶者が贈与の年の翌年3月15日までに居住用不動産を居住の用に供し、かつ、その後引き続き居住の用に供する見込みであること、及び贈与を受けた配偶者が居住用不動産を居住の用に供した日以後に作成された住民票の写し等を申告書に添付すること等が適用要件とされており、当該住民票の写しの添付は、贈与を受けた配偶者が居住用不動産を居住の用に供したこと等の確認のためにあると解される。
 なお、居住用不動産を居住の用に供するとは、その者の生活の本拠としてその居住用不動産に居住することをいい、その生活の本拠となるところが住所であると解され、その者の生活の本拠であるかどうかは、客観的事実によって判断するものと解される。
(5)上記(1)及び(2)の事実を上記(3)及び(4)に照らしてみると、次のとおりである。
イ (a)上記(2)のリのとおり、Fの昭和62年6月21日以降の勤務地はB県であり、少なくとも平成2年以降はQ市の社宅を借用し、引き続きT市の社宅を借用していること、(b)上記(2)のイの住所の異動状況によれば、請求人夫婦及び請求人夫婦の子らは平成元年6月5日からQ市の住所に居住しており、請求人夫婦の子らは平成5年5月にQ市の住所からT市の住所に転出していること及び(c)別表のとおり、Q市の社宅での電気及び水道は、平成5年5月2日に閉鎖されているが、それまでは通常の使用実績が認められること等からすると、請求人は、平成元年6月ころから平成5年5月ころまではQ市の社宅を、また、それ以降はT市の社宅を生活の本拠として居住していたものと認められる。
ロ (a)上記(2)のヘ及びトの本件資産の近隣の居住者及びG社の担当者の申述からすると、本件資産は、平成3年以降は、Fがたまたま訪れる程度で、空き家の状態にあったこと及び(b)別表のとおり、本件家屋における水道は平成4年5月15日に、電気は平成4年9月10日に使用開始され、いずれも平成5年7月28日に閉鎖されているが、この間の使用量は、一か月の使用量が零の月があるなど極めて少ないものであることからすると、平成3年以降において、請求人夫婦が本件家屋を居住の用に供したものとは認められない。
ハ 上記(1)のニ、(2)のイ及びハのとおり、本件住民票等によれば、請求人夫婦は平成4年5月16日から平成5年7月27日までP市の住所に住民登録をしているが、上記イのとおり、当時の請求人夫婦の生活の本拠がQ市の社宅及びT市の社宅であったこと及び上記ロのとおり、本件家屋を居住の用に供したとは認められないことからすると、P市の住所への住民票上の届出は明らかに事実と異なるものである。
ニ また、仮に、請求人夫婦が近いうちに本件家屋に居住する意思のもとに、P市の住所に本件転入届をしたものであったとしても、上記(2)のチの(イ)のとおり、平成5年1月ころには本件資産の売却についての仲介を依頼しており、このことは請求人夫婦が少なくともそのころには、本件家屋へ居住する予定をも断念したものとみるべきであり、これにともない住民票上も速やかに当時の生活の本拠であるQ市の住所へ転出届すべきところ、その転出届が行われたのは約半年後のことであって、P市の住所に住民登録をしていたことの合理的な理由は認められない。
ホ Fは、(a)上記(2)のヲ及びワのとおり、平成4年分及び平成5年分の所得税の確定申告書に添付した書類に、平成4年5月から平成5年7月までの間に、不動産所得に係る経費としてP市の住所からB県近郊に所在する本件賃貸資産であるqプラザ及びkコーポラスまでの交通費及びrでの宿泊費を要した旨記載していること、(b)上記(2)のニのとおり、FはA税務署長に提出した「譲渡内容についてのお尋ね兼計算書」に、本件資産を平成4年5月から平成5年7月まで(住民票届け)自分の居住用にしていた旨記載していること及び(c)上記(2)のロのとおり、請求人夫婦は本件資産の譲渡に係る譲渡所得の申告に当たり、本件資産は本件譲渡の特例にいう居住用財産であるとして、本件譲渡の特例を適用して申告していることが認められるが、これらのことは、当時における請求人夫婦の生活の本拠たる住所が、実際にはB県にあったにもかかわらず、P市の住所にあるかの如く装うためにP市の住所に住民登録をしたことを推認させるものである。
ヘ Fは、上記(2)のヌ及びルのとおり、昭和62年7月から平成元年5月までの間に、B県近郊に本件賃貸資産を取得し、これを賃貸の用に供するとともに、本件賃貸資産の取得に係る多額の借入金を有していたこと及び上記(2)のトのとおり、昭和63年ころから本件資産の売却についての検討をしており、平成2年12月までで本件家屋の賃貸を止めたことからすると、Fは、遅くとも平成3年ころには本件資産の売却を予定していたことが伺える。
ト 上記イないしヘのことを総合勘案してみると、請求人夫婦の本件資産の贈与の当時におけるP市の住所への住民登録は、本件贈与の特例及び本件譲渡の特例の適用を受けるために、本件資産を請求人夫婦の居住の用に供していたかの如く装うために行われたものとみざるを得ない。
(6)請求人は、本件資産には昭和51年から3年間居住しており、居住の用に供する資産としては本件資産しかなく、Fが○○方面に出張の際には本件資産に寝泊まりし、将来Fが○○方面に転勤の際には請求人夫婦がこれに居住することを予定していたもので、また、税に対する知識の不足から、本件資産を居住用不動産と誤認したものである旨主張する。
 ところで、Fは、上記(2)のヌのとおり、少なくとも平成元年分以降は、不動産所得と給与所得に係る所得税の確定申告を毎年行っており、また、上記(2)のトの(ニ)及びチのとおり、昭和63年ころから、不動産業者に本件資産の売却等についての相談をし、請求人の主張するとおりFは平成4年3月にはA税務署において本件贈与の特例についての相談を受けているなどからすると、請求人夫婦は税に対する一般的な知識を有し、特に本件贈与の特例及び本件譲渡の特例に関する適用要件などについての相当の情報を得ていたものと認められる。
 また、本件資産の利用状況等は、上記(5)のロのとおり、たまたまFが訪れる程度でほとんど空き家の状態にあり、一方、上記(5)のイのとおり、請求人夫婦は他に明らかに生活の本拠であると認められる社宅の借用をしていることが認められる。
 これらのことからすると、一般的な常識を有し、本件贈与の特例等に係る相当の情報を得ていたと認められる請求人夫婦が、本件家屋のような利用の態様をもって、これを生活の本拠たる住所若しくは本件家屋の居住の用に供する資産であると誤認するとは考え難いというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(7)請求人は、P市の住所への住民票上の届出は、本件申告書の提出の際、添付書類として必要であると思い、深い考えもなしに行ったことで、税金を免れる目的で故意に隠ぺいし、又は仮装した事実はない旨主張する。
 しかしながら、住民票上の届出は、生活の本拠たる住所の変更が行われる場合になされるべきものであるところ、請求人夫婦は実際の生活の本拠たる住所とは明らかに異なるP市の住所への住民票上の届出を行っており、このことに合理的な理由は認められず、上記(5)のとおり、本件贈与の特例及び本件譲渡の特例を適用するに当たり、あたかも本件資産を居住の用に供していたかの如くに装うためにあったものとみるのが相当であるから、この点に関する請求人の主張は採用することはできない。
(8)以上のことから、請求人が、本件資産を本件資産の贈与の後に居住の用に供していないにもかかわらず、本件申告書に本件贈与の特例を適用する旨記載し、これに実際の住所とは異なる内容が記載された本件住民票を添付してした本件期限後申告は、国税通則法第68条第2項に規定する課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに該当するものというべきである。
 したがって、原処分庁が、国税通則法第68条第2項の規定に基づいて行った原処分は適法である。
(9)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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