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(平8.3.4裁決、裁決事例集No.51 65頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、有限会社Mホテル(以下「Mホテル」という。)の代表者であるが、平成2年分及び平成3年分の所得税について、それぞれ青色申告書以外の確定申告書(分離課税用)に、次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これをいずれも法定申告期限までに原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成4年10月7日付で、次表の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び加算税の賦課決定処分をした。

 請求人は、上記各処分を不服として、平成4年11月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成5年6月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成5年7月29日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 平成2年分の更正処分について
(イ)土地の譲渡先及び譲渡価額
 請求人は、別表1に掲げるP市R町241番1所在の田外6筆地積合計2,840平方メートル(以下「本件2年分土地」という。)を平成2年3月10日に、有限会社N(以下「N社」という。)に対し、146,047,000円で譲渡する売買契約を締結した。
 また、N社は、本件2年分土地を平成2年6月8日にT株式会社(以下「T社」という。)に対し、300,685,000円で譲渡する売買契約を締結した。
 これらの取引について、原処分庁は、本件2年分土地をT社に300,685,000円で譲渡したのは請求人であると認定し、更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、次のとおり、本件2年分土地をN社に譲渡したものであり、T社に譲渡した事実はなく、平成2年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額及び分離短期譲渡所得の金額は確定申告書に記載したとおりである。
A 請求人は、N社との間に、本件2年分土地の売主を請求人、買主をN社、譲渡価額を146,047,000円とする平成2年3月10日付土地売買契約書(以下「本件2年分甲契約書」という。)を作成している。
B 請求人は、本件2年分土地の譲渡代金を、N社から、次のとおり受領している。
(A)平成2年3月10日に、N社の代理人であったW(以下「W」という。)から、手付金として、現金で3,000,000円をMホテルで受領した。ただし、N社の資金繰りの都合により、本件2年分甲契約書に記載された29,000,000円ではなかった。
(B)平成2年6月10日に、Wから29,000,000円を保証小切手で受領したので、同年3月10日に受領した3,000,000円は、1,000,000円と2,000,000円に分けてそれぞれ現金でWへ返還した。
(C)残金の117,047,000円は平成2年10月15日に、Mホテルで、Wから、現金で受領した。
C N社は、本件2年分土地の譲渡代金を、T社から、次のとおり受領している。
(A)平成2年6月8日に、T社が依頼した仲介人株式会社X(以下「X社」という。)を通じて、T社から手付金として61,000,000円を現金と保証小切手で受領している。
 なお、領収証はN社が発行している。
(B)平成2年10月15日に、T社から残金として現金117,047,000円、保証小切手122,638,000円をN社ではなくWが受領している。
 なお、上記保証小切手は、J銀行a支店のN社名義の普通預金(口座番号○○○)で取立てされている。
D 原処分庁は、N社は事実上倒産しており、高額な本件2年分土地の購入資金等の調達は不可能な状態であったことから、N社が、本件2年分土地の譲受人となった事実は認められない旨主張するが、請求人は、Wから、適当な土地があったら買いたいと依頼され、Wの資金力を信用して、N社との本件2年分土地の売買契約を締結したものであり、N社が倒産していたことは全く知らなかった。
 なお、N社は、平成5年9月16日に、本件2年分土地の譲渡に係る法人税申告書を、Y税務署長へ提出し、平成5年11月16日に、一部納税もしている。
E 原処分庁は、T社の代表取締役Z(以下「Z」という。)と常務取締役A(以下「A」という。)の各申述から、請求人は、本件2年分土地を平成2年6月8日にT社に対し、300,685,000円で譲渡する旨の売買契約書(以下「本件2年分乙契約書」という。)を作成した後、上記2名に対し、同契約書の売主欄をN社に書き換えるよう要望し、本件2年分土地の売主をN社、買主をT社、譲渡価額を300,685,000円とする平成2年6月8日付土地売買契約書(以下「本件2年分丙契約書」という。)を作成したとして、請求人がT社へ直接本件2年分土地を譲渡したものと認定しているが、請求人は、T社の名前については、N社が本件2年分土地を転売した相手方としか聞いておらず、T社の関係者とは面識はない。
 また、N社とT社との本件2年分土地に係る売買契約が、Mホテルにおいて行われたのは、場所を提供しただけである。
 したがって、請求人とT社との間において、本件2年分土地に係る売買の交渉をした事実及び売買契約を締結した事実はないし、また、当然に、Z及びAに対し、本件2年分乙契約書の売主欄を書き換えるよう請求人が要望した事実もない。
F 原処分庁は、請求人がT社に対し、請求人と請求人が本件2年分土地を取得する前の別表1の「前地主」欄に掲げる所有者ら(以下「本件2年分土地前地主」という。)が依頼した仲介人株式会社Bの代表取締役U(以下「U」という。)との連名で本件2年分土地の売買に係る一切の責任を負う旨の念書(以下「本件念書」という。)を渡しているから、請求人がT社に、本件2年分土地を譲渡したものであると認定しているが、本件念書は、登記簿上の所有者が、本件2年分土地前地主の名前のままになっていたので、所有権移転に係る責任を果たすために、請求人が依頼した仲介人b株式会社の代表取締役D(以下「D」という。)とWの要請で作成したものである。
 なお、本件2年分土地前地主から請求人へ所有権の移転登記ができなかったのは、農地法第5条の規定による許可(以下「農地転用許可」という。)が未了であったためであり、この許可を受けた時には、N社とT社との間で本件2年分土地の売買契約が成立していたので、請求人への所有権移転登記は省略した。
(ロ)本件支払利息額
請求人は、本件2年分土地の購入資金の一部を、Mホテルから、次表のとおり、合計49,179,000円を借り入れ(以下「本件借入金」という。)、同表の支払先(本件2年分土地前地主)にそれぞれ支払った。

(単位 円)
順号借入年月日金額支払先
1平成元年3月10日5,000,000c
2平成元年3月10日5,000,000o
3平成元年7月14日10,000,000c
4平成元年7月14日4,000,000o
5平成元年11月15日2,100,000p
6平成元年11月21日1,520,000s
7平成2年6月30日20,000,000c
8平成2年10月11日900,000p
9平成2年10月11日659,000s
  合計49,179,000

 請求人は、平成2年4月10日に、Mホテルへ、本件借入金に係る利息として5,600,000円(以下「本件支払利息額」という。)を支払ったので、本件支払利息額を、本件2年分土地の取得費に算入した。
 原処分庁は、これに対し、本件支払利息額は本件2年分土地の取得費に該当しないとして、更正処分をしたが、(a)請求人はMホテルから本件支払利息額の領収証を受け取っていること、(b)Mホテルにおいても本件支払利息額を受け取り、雑収入として益金の額に算入していることから、本件支払利息額は、本件2年分土地の取得費として認められるべきである。
 また、Mホテルの帳簿書類には、一部ではあるが、上表の借入年月日欄に記載された日と同日に、「土地代」として貸付けの事実が記録されていることからしても、本件借入金の存在は明らかである。
ロ 平成3年分の更正処分について
 請求人は、別表2に掲げるP市S町1893番3所在の田外2筆地積合計168平方メートル(以下「本件3年分土地」という。)を平成3年8月10日に、有限会社E(以下「E社」という。)に対し、9,690,000円で譲渡する売買契約を締結した。
 また、E社は、本件3年分土地を平成3年12月18日にT社に対し、16,700,000円で譲渡する売買契約を締結した。
 これらの取引について、原処分庁は、上記イの(イ)のEのZ及びAの各申述と同様の申述を両者から得たとして、本件2年分土地と同様に、本件3年分土地を、T社に16,700,000円で譲渡したのは請求人であると認定し、更正処分をした。
 しかしながら、請求人は、次のとおり、本件3年分土地をE社に譲渡したものであって、T社に譲渡した事実はなく、平成3年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額及び分離短期譲渡所得の金額は確定申告書に記載したとおりである。
(イ)請求人は、E社との間に、本件3年分土地の売主を請求人、買主をE社、譲渡価額を9,690,000円とする平成3年8月10日付土地売買契約書(以下「本件3年分甲契約書」という。)を作成している。
(ロ)請求人は、本件3年分土地をE社に譲渡するに当たり、Uに全面的に仲介を依頼し、UがE社の代表者と本件3年分土地に係る売買の交渉をし、本件3年分土地の売買契約を締結した。
(ハ)請求人は、譲渡代金を、本件3年分甲契約書に記載されたとおり、手付金として現金で900,000円、残金として現金で8,790,000円を、それぞれE社からUを通じて受領している。
(ニ)原処分庁は、E社が本件3年分土地の譲渡に係る法人税申告書をd税務署長に提出していない旨主張するが、UがE社の代表者に申告の有無を確認したところ、E社は無申告ではないと、請求人に申し立てている。
(ホ)仮に、原処分庁が主張するような請求人とT社との間に取り交わされたとする本件3年分土地の売主を請求人、買主をT社、譲渡価額を16,700,000円とする平成3年12月18日付土地売買契約書(以下「本件3年分乙契約書」という。)が存在するとしても、同契約書に署名押印したことはない。
 したがって、当然に、請求人がT社に対し、同契約書の売主欄をE社に書き換えるよう要望した事実はないし、Uも、本件3年分甲契約書以外の契約書が存在することは絶対にあり得ないと請求人に申し立てている。
ハ 賦課決定処分について
(イ)重加算税
 上記イの(イ)及びロのとおり、更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)過少申告加算税
 上記イの(ロ)のとおり、更正処分は違法であるから、その全部の取消しに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 平成2年分の更正処分について
(イ)土地の譲渡先及び譲渡価額
 次の事実を総合すると、請求人は、本件2年分土地を、T社に対し、300,685,000円で直接譲渡したものである。
A 請求人が本件2年分土地の譲渡先である旨主張するN社は、平成元年2月6日に銀行取引が停止され、事実上倒産していることから、同社は、高額な本件2年分土地の購入資金等の調達が不可能な状態であったこと。
B Zは、異議審理を担当した職員(以下「異議審理担当職員」という。)に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件2年分土地は、X社の仲介で、T社が請求人から300,685,000円で購入した。
(B)N社の代表者とは面識がない。
(C)本件2年分乙契約書の売主名は、当初、請求人になっていたが、請求人の要望でN社に変更した。
C Aは、異議審理担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A)X社に本件2年分土地を紹介され、Zと現地を確認し、購入を決定した。
(B)本件2年分土地の売買契約は、平成2年6月8日に、譲渡価額を300,685,000円として、請求人と、Mホテルにおいて締結した。
(C)本件2年分土地の所有権の登記名義人が、請求人でなかったため、請求人とUとの連名で、本件念書を作成してもらった。
(D)本件2年分土地の手付金は、平成2年6月8日に61,000,000円を現金と保証小切手でX社を経由して請求人に支払い、残金の239,685,000円は、現金と保証小切手で、Mホテルで、請求人に支払った。
(E)本件2年分乙契約書は、平成2年6月8日に請求人を売主として作成されていたが、請求人から売主名をN社に変更してほしい旨の要望があり、これに応じた。
 なお、本件2年分乙契約書はX社に返戻している。
D 本件2年分土地の売買に係る本件念書が存在すること。
E X社の代表取締役F(以下「F」という。)は、原処分庁に対して、本件2年分土地は請求人がT社に直接譲渡したものである旨の申述書を提出していること。
F Uは、原処分の調査を担当した職員に対して、内容は忘れたものの本件念書に署名したことがある旨、申述していること。
(ロ)本件支払利息額
 請求人は、Mホテルに支払った本件支払利息額については、Mホテルから本件2年分土地の購入資金として借り入れた本件借入金に対する支払利息であるから、本件2年分土地の取得費となる旨主張するが、請求人は、原処分の調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)及び異議審理担当職員に対し、本件借入金の額、借入年月日等を明らかにせず、また、本件借入金を本件2年分土地の取得資金として使用した事実も明らかにしなかったことから、本件借入金に対する支払利息であるとする本件支払利息額を取得費と認めることはできない。
(ハ)平成2年分の分離短期譲渡所得の金額
 平成2年分の分離短期譲渡所得の金額を算定すると、次表の「(4)」欄記載のとおりとなる。

(単位 円)
収入金額(1)300,685,000
取得費(2)86,078,000
譲渡費用(3)29,100,000
分離短期譲渡所得の金額
((1)−(2)−(3))(4)185,507,000

ロ 平成3年分の更正処分について
(イ)土地の譲渡先及び譲渡価額
 次の事実を総合すると、請求人は、本件3年分土地を、T社に対し、16,700,000円で直接譲渡したものである。
A 本件3年分土地について、本件3年分乙契約書の写しが存在すること。
B Zは、異議審理担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A)本件3年分土地も、請求人から16,700,000円で購入したが、請求人の要望により、本件3年分乙契約書の売主名をE社に変更した。
(B)E社については、名前以外知らないし、関係者に会ったこともない。
C Aは、異議審理担当職員に対し、次のとおり申述していること。
(A)平成3年12月18日に、本件3年分土地を請求人から16,700,000円で購入する契約をし、本件3年分乙契約書を作成した。
(B)その後、請求人から本件3年分乙契約書の売主名をE社に変更してほしい旨の要望があったので、これに応じた。
(C)E社の関係者には、会ったことはない。
D Fも、異議審理担当職員に対し、本件3年分土地は、請求人がT社に直接譲渡したものである旨申述していること。
(ロ)平成3年分の分離短期譲渡所得の金額
 平成3年分の分離短期譲渡所得の金額を算定すると、次表の「(4)」欄記載のとおりとなる。

(単位 円)
収入金額(1)16,700,000
取得費(2)5,802,000
譲渡費用(3)1,560,000
分離短期譲渡所得の金額
((1)−(2)−(3))(4)9,338,000

ハ 賦課決定処分について
(イ)重加算税
A 上記イの(イ)のとおり、請求人は、本件2年分土地をT社に300,685,000円で譲渡したにもかかわらず、N社に146,047,000円で譲渡したとする、偽りの契約書を作成し、この偽りの契約書に基づいて、平成2年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を提出したと認められる。
B また、上記ロの(イ)のとおり、請求人は、本件3年分土地をT社に16,700,000円で譲渡したにもかかわらず、E社に9,690,000円で譲渡したとする、偽りの契約書を作成し、この偽りの契約書に基づいて、平成3年分の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を提出したと認められる。
C 請求人の上記A及びBの行為は、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する、国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、仮装したところに基づき納税申告書を提出したときに当たるから、平成2年分及び平成3年分の所得税の重加算税の各賦課決定処分は正当である。
(ロ)過少申告加算税
 上記イの(ロ)のとおり、平成2年分の譲渡所得の取得費の算出に当たっての計算誤りについては、国税通則法第68条第1項に規定する、隠ぺい又は仮装の事実は認められないが、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する、正当な理由があったとも認められないから、この部分の所得に対する税額を基礎として過少申告加算税を賦課決定した処分は正当である。

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3 判断

(1)平成2年分の更正処分について

イ 土地の譲渡先及び譲渡価額
 本件2年分土地が、請求人から、N社に146,047,000円で譲渡されたものであるか、T社に300,685,000円で譲渡されたものであるかについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件2年分土地を別表1の「前地主」欄に掲げる本件2年分土地前地主から、「前地主との契約日」欄に掲げる年月日に、「契約金額」欄に掲げる金額で取得する旨の契約を締結していること。
 なお、本件2年分土地前地主が本件2年分土地を請求人に譲渡するに際し仲介を依頼した者は、Uであること。
B 本件2年分土地については、本件2年分甲契約書が作成されており、立会人に「b株式会社代表取締役D」の署名押印があること。
 同契約書には、譲渡単価を坪当り170,000円とし、契約と同時に手付金29,000,000円を支払い、残金117,047,000円は、地目変更登記終了後一週間以内に所有権移転と同時に決済する旨記載されていること。
C また、本件2年分土地については、本件2年分丙契約書が作成されており、取引業者に「X社代表取締役F」の署名押印があること。
 同契約書には、譲渡単価を坪当り350,000円とし、契約と同時に手付金61,000,000円を支払い、残金239,685,000円は、地目変更登記後一週間以内に所有権移転と同時に決済する旨記載されていること。
D 発行人がN社、受取人がT社と表示された(1)平成2年6月8日付の本件2年分土地の手付金を受領したとする61,000,000円の領収証、(2)平成2年10月12日付で売買代金の残金を受領したとする239,685,000円の領収証がそれぞれ存在すること。
E 平成2年6月8日付の「T株式会社代表取締役Z殿」あてに、物件名を本件2年分土地とし、「上記物件の売買に関して、私(請求人)とUが一切の責任を負うことを約します。」と記載され、請求人とUがそれぞれ署名押印した本件念書が存在すること。
F 本件2年分土地については、同物件所在地の農業委員会に対し、平成2年7月13日付でT社から農地転用許可の申請がされ、同年8月22日付で同許可を受けていること。
G 本件2年分土地の登記簿謄本によれば、本件2年分土地は、平成2年9月11日付で、地目がそれぞれ雑種地に変更され、また、平成2年10月12日付で、すべて本件2年分土地前地主から直接T社へ所有権移転登記がされていること。
H T社の本件2年分土地の取得代金の支払状況は、次のとおりであること。
(A)T社は、平成2年6月7日、K銀行e支店のT社名義の普通預金から現金29,000,000円と現金32,550,000円を引き出し、同日上記29,000,000円で同支店発行の保証小切手を作成するとともに上記32,550,000円をL銀行f支店のT社名義の普通預金(口座番号△△△)に振り込み、翌日の同年6月8日、同口座から31,000,000円を現金で引き出し、同日、Mホテルにおいて、本件2年分土地の取得代金の手付金として、当該31,000,000円とX社が用意した現金1,000,000円を合わせた現金合計32,000,000円と上記保証小切手29,000,000円、合計61,000,000円を支払った。
 上記保証小切手29,000,000円は、平成2年6月8日、「有限会社Mホテル代表取締役(請求人)」名下の裏書きにより、J銀行a支店のMホテル名義の普通預金(口座番号×××)に入金された。
(B)T社は、平成2年10月11日、K銀行e支店のT社名義の普通預金から現金122,638,000円と現金117,000,000円を引き出し、同日上記122,638,000円で同支店発行の保証小切手を作成するとともに上記117,000,000円をL銀行f支店のT社名義の普通預金(口座番号△△△)に振り込み、翌日の同年10月12日、同口座から117,047,000円を現金で引き出し、同日、Mホテルにおいて、本件2年分土地の取得代金の残金として、当該現金117,047,000円と上記保証小切手122,638,000円、合計239,685,000円を支払った。
 上記保証小切手122,638,000円は、平成2年10月15日、「有限会社N代表取締役g」名下の裏書きにより、J銀行a支店のN社名義の普通預金(口座番号○○○)に入金された。
I J銀行a支店のN社名義の普通預金(口座番号○○○)について当審判所が調査した結果は、次のとおりであること。
(A)上記普通預金口座は、平成2年6月7日に、10,000円が入金されて、新規開設されており、この時の普通預金新規申込書及び普通預金印鑑届の「お勤め先、またはご職業」欄には、「漁具、卸し、電話番号(G)○×ー△△□□」との記載がある。
 また、上記普通預金口座には、平成2年10月17日に上記Hの(B)の保証小切手122,638,000円が取立てのため入金され、同月18日に50,000,000円及び同月19日に72,648,000円がそれぞれ現金で出金された後は、平成7年10月13日まで、動きがない。
 上記保証小切手の取立てに際しJ銀行a支店で作成された伝票等の電話番号欄には、請求人が当審判所に対して提出した本件審査請求書に記載された請求人の電話番号である「○○××ー○×ー△△□□」と同一の電話番号が機械印字されており、また、「既応取引実績有り」の書込みと同支店の行員の確認印がある。
(B)上記(A)の普通預金印鑑届の「お勤め先、またはご職業」欄の記載については、普通預金口座開設時に銀行の窓口において、本人に記載させるのが原則であるが、記載のない場合は、窓口担当者が聞き取りの上記入することもあるものであるところ、本件の当該欄の筆跡は、預金者の住所、氏名欄の筆跡と相違しており、窓口における聞き取りによるものと認められる。
 当該欄記載の目的は、普通預金口座に関する連絡先を特定するもので、銀行側は記載された事項を普通預金口座の関係者の連絡先と認識している。
(C)平成2年10月18日に50,000,000円が出金された際の普通預金支払請求書に「既往取引実績有り」の書き込み及び同支店の行員の確認印があるが、これは、当該出金に際し、マネーローンダリング対策として大口出金時に出金する者の身元を確認する趣旨で行っている確認を行ったこと、その結果、出金を請求した者が自店と既往の取引実績があるので出金に応ずることは差し支えないと判断されたことを意味する。
 上記普通預金口座の入出金の動き(平成2年6月口座開設時入金10,000円、同年8月利息入金24円、同年10月小切手122,638,000円が取立てにより入金)程度では、J銀行は、既往取引有りという扱いはしていない。
(D)N社は、J銀行a支店とは、上記普通預金口座以外には取引は一切なく、これに対し、請求人は、同支店と昭和63年8月22日から、Mホテルは、同支店と同年11月21日からそれぞれ取引を継続している。
J 本件2年分土地をT社が取得するに当たり、T社と同社の仲介者X社との間で、次のとおりファックス又は郵便により送付された文書が存在すること。
(A)本件2年分土地を紹介する、同物件の所在図及び地図を添付した平成2年5月22日付のファックスによる文書。
(B)農地転用許可申請に必要な本件2年分土地前地主の農地転用同意書へのT社の署名押印を売主側の仲介者であるb株式会社のDから依頼された旨及び本件2年分土地の売買契約時にb株式会社のDから渡された契約書の内容をその仲介人が依頼主に説明するために作成する重要事項説明書(以下「重要事項説明書」という。)に不備があったため再送付する旨の平成2年6月10日付の文書。
(C)農地転用許可申請に必要な書類の準備を依頼する文書。
(D)UがT社の代理人としてP市農業委員会事務局に出向いたところ、同委員会事務局から、本件2年分土地に係る審議の経過及び利用にあたり警備上の問題点等の指摘があった旨並びにUから排水工事に関する今後の日程及び概算見積額の提示があった旨を連絡する文書。
(E)Mホテルにおいて、G社長(請求人と考えられる。)、U、D及びFの4名により、本件2年分土地に係る造成及び排水工事日程の打合せをしたこと、その結果は、(1)土地改良区及び土木事務所の指導を受けて設計に掛かるため着工は10月頃になる、(2)工事完了後、重機類を展示した上で現地確認を行い地目変更になる、(3)したがって、所有権移転登記の時期が予定より遅延し、12月頃になる、(4)ついては、売主側から契約条件にはなかったが、中間金として1億2千万円ないし1億3千万円入れてほしいとの要求があった、(5)G社長から1893ー3及び1896ー3の2筆(いずれも請求人が譲渡した本件3年分土地の一部である。)も購入してほしいとの要望があったこと等を連絡する平成2年8月31日付の文書。
(F)Fが、(1)平成2年5月に、Q市T町のH株式会社のj係長より、T社の営業所用地の斡旋、仲介を依頼された、(2)捜していたところ、友人のkより、P市の土地を紹介され、Dから、請求人とUの所有であると連絡があり、売買の意思を確認したところ、坪当たり350,000円で売ると回答があった、(3)DにはT社が買うと伝えた、(4)請求人とUにZを紹介し、売買条件等を話し合い、平成2年6月8日に契約した、(5)ところが、平成2年10月12日の残金決済時に、請求人から売主名をN社へ変更してほしいと要望があり、Zは不本意ながら同意した旨をAあて報告した、平成4年3月5日付のファックスによる文書。
K T社に保存されていた名刺及び名刺に記載されていた面会日のメモによると、請求人は、平成2年5月29日、Dと共にZと面会していること。
L N社の法人税の確定申告状況等は、次のとおりであること。
(A)商業登記簿謄本によれば、N社は、昭和58年8月19日に設立されている。
(B)N社は、設立から昭和63年2月29日までの各事業年度の法人税の確定申告書を提出しているが、それ以降は、平成5年9月16日に、平成2年3月1日から平成3年2月28日までの事業年度の法人税の確定申告書を提出したのみであり、当該申告書には、本件2年分土地の譲渡のみに係る所得金額154,638,000円、課税土地譲渡利益金額150,986,000円、法人税額106,271,000円と記載されている。
 なお、上記の法人税額は、平成5年11月に500,000円納付されたのみで残りは現在も滞納となっている。
(C)N社は、L信用金庫m支店において、2回の不渡事故を起こし、平成元年2月6日に銀行取引を停止されている。
(ロ)関係人の原処分庁等に対する申述、当審判所に対する答述などの供述証拠(以下「申述等」という。)は次のとおりである。
A N社の代表者g(以下「g」という。)の調査担当職員に対する平成4年5月27日の申述。
(A)本件2年分土地の譲渡に関して、N社がT社から土地の譲渡代金を受領した事実は一切ない。
(B)本件2年分土地の譲渡に当たり、Wより20,000,000円もしくは30,000,000円の金額を受領した。
(C)上記申述の直後、原処分担当職員の再度の質問に対し、次のとおり申述を変更している。
a 本件2年分土地の譲渡に当たり、売買契約書は作成したが、譲渡代金は受領していない。
b 印鑑代として8,000,000円をWから受領した。
c 本件2年分土地に係る売買の交渉はすべて請求人がしている。
B Fの原処分庁に対する平成4年5月28日付の申述書。
(A)T社から新規事業用地を取得するため仲介の依頼を受けた。
(B)その後、Fの知人であるkから本件2年分土地を紹介され、この土地にZとAを案内したところ、Zはこの土地を気に入り、購入の意思を決めた。
(C)本件2年分土地の所有者は請求人であり、売主側の仲介者はb社のDという者であった。
(D)本件2年分土地に係るT社と請求人との売買契約は、平成2年6月8日に、Mホテルにおいて行われ、譲渡代金を総額300,685,000円として本件2年分乙契約書を作成し、手付金61,000,000円はAから預かり、請求人に手渡している。
 なお、この時の当事者と立会人は、請求人、b社のD、B社のU、k、Z、A及びFであった。
(E)T社は、請求人に対して、手付金を支払ったのに請求人が本件2年分土地にT社の仮登記もつけないので、請求人とUから本件念書をもらった。
(F)T社は、本件2年分土地の農地転用許可を受けた後の、平成2年10月12日に、Mホテルのロビーにおいて、請求人に残金239,685,000円の全額を支払った。
 なお、この時の当事者と立会人は、請求人、b社のD、k、U、登記簿上の所有者多数、Z、A及びFであった。
(G)残金を支払う前になって、請求人から、本件2年分乙契約書の売主名をN社に変更してほしい旨の要望があり、Zは渋ったものの、購入予定の土地の残りを請求人から買うという事情もあり、要望に応じることとした。
C Uの調査担当職員に対する平成4年5月27日付の申述。
 自分は、本件2年分土地の前所有者であった本件2年分土地前地主側の仲介人であり、本件2年分土地前地主が請求人に本件2年分土地を譲渡するについての交渉を本件2年分土地前地主から一切任されていた。
D Zの異議審理担当職員に対する、平成5年4月19日付の申述。
(A)本件2年分土地は、X社の仲介で、T社が請求人から300,685,000円で購入した。
(B)N社の代表者とは面識がない。
(C)本件2年分乙契約書の売主名は、当初、請求人になっていたが、請求人の要望でN社に変更した。
(D)本件2年分土地の取得については、通常ならば部下に任せるところを、全く新しい地域への出店だったので、Aと共に、土地の選定、現地確認、売買契約締結等を行ってきたものである。
E Aの異議審理担当職員に対する、平成5年4月19日付の申述。
(A)X社に本件2年分土地を紹介され、Zと現地を確認し、購入を決定した。
(B)本件2年分土地の売買契約は、平成2年6月8日に、譲渡価額を300,685,000円として、請求人と、Mホテルにおいて締結した。
(C)本件2年分土地の所有権の登記名義人が、請求人でなかったため、請求人とUとの連名で、本件念書を作成してもらった。
(D)本件2年分土地の手付金は、平成2年6月8日に61,000,000円を現金と保証小切手でX社を経由して請求人に支払い、残金の239,685,000円は、現金と保証小切手で、Mホテルで、請求人に支払った。
(E)本件2年分契約書は、平成2年6月8日に請求人を売主として作成されていたが、請求人から売主名をN社に変更してほしい旨の要望があり、これに応じた。
 なお、本件2年分乙契約書はX社に返戻している。
(F)本件2年分土地について、現地確認、売買契約、譲渡代金の決済に携わってきた。
(G)現地を確認した時に、Fから、請求人が実質的な所有者であると聞かされ、請求人の名前を知った。
(H)本件2年分乙契約書の売主名の変更に応じたのは、どうしても営業所用地が欲しかったこと、予定した購入面積の不足分を請求人からいずれ購入しなければならなかったことなどからであり、また、本件2年分乙契約書は、本件2年分丙契約書が送付されてきてから、X社に返還しており現在手元にない。
(I)N社という会社名は、請求人から売主名を変更してほしいといわれた時に初めて聞いた。
(J)残金の支払は、平成2年10月12日にT社のi営業所の取引銀行であるL銀行f支店から引き出した現金と、本社から持参したK銀行e支店発行の保証小切手で、請求人に対して支払った。
F Zの当審判所に対する平成7年3月13日付文書による回答。
(A)本件2年分土地は、X社を仲介人とし請求人と売買契約を締結したものであり、手付金61,000,000円、残金239,685,000円をいずれも請求人に手渡し、領収証も請求人から受け取った。
(B)手付金を現金32,000,000円と保証小切手29,000,000円、残金を現金117,047,000円と保証小切手122,638,000円とに分けた理由は、X社を通じて請求人から、強く要請されたためである。
(C)本件2年分土地の購入に当たり、仲介人をFに依頼しており、該当物件があった場合、地形、道路状況、価額等を当社と打ち合わせて決めていくことにしていた。
(D)本件2年分土地の売買契約に先立ち、平成2年5月23日頃に、現地の確認をした。
 なお、その時の当事者と立会人は、買主側がZ、A、F、k、売主側がDであったと思う。
G Aの当審判所に対する平成7年3月13日付文書による回答及び平成7年3月16日付答述。
(A)本件2年分土地は、平成2年6月8日に、Mホテルにおいて、請求人と本件2年分乙契約書を作成し、売買契約を締結した。
(B)手付金61,000,000円は、全額を保証小切手で支払う予定でいたが、請求人の要求で、一部を現金にして、請求人に支払い、また領収証についても、請求人の名前でもらっていた。
(C)平成2年10月12日に、残金239,685,000円を支払うためにMホテルに行った時に、ホテルの一室で、突然、請求人から、本件2年分乙契約書の売主名をN社に書き換えてほしいと申し出があり、不本意ではあったが、当社では営業所の準備も進行していたために了承した。
 なお、N社の関係者はこの場所にはおらず、名前もこの時初めて聞いた。N社という会社について、どこのどのような会社であるのか、実際にあるのかどうかさえ知らず、N社の代理人であったWについても、名前さえ聞いたことがない。
(D)残金についても、請求人の要求で、一部を現金に替えて、請求人に支払い、N社名義の領収証を受け取った。
(E)平成2年6月8日に作成した本件2年分乙契約書及び同日に受け取った領収証は、Fを通じて返却した。
(F)本件3年分土地の坪当たりの単価は、当社で時価の調査をして、請求人や請求人側の仲介人であったDと交渉して決定した。
H gの当審判所に対する平成6年11月18日付の答述。
(A)平成元年にN社は倒産し、それ以降営業活動は行っていない。
(B)本件2年分土地の譲渡の経緯は、倒産したN社を再建したいと思い、仲間であったWに相談したところ、土地取引の話があった。
 なお、請求人とは、上記の土地取引の話があるまで面識はなかった。
(C)請求人とN社との本件2年分土地の売買契約は、Mホテルで行った。
(D)本件2年分土地の売買契約を行った頃は、個人で釣具の卸を現金仕入れでやっていた程度で、まとまったお金は調達できなかった。
(E)請求人の購入代金は、日は忘れたが、Mホテルで支払っており、請求人からは、平成2年10月17日付で、残金117,047,000円の仮の領収証を受け取っているが、その他はもらっていない。
(F)N社からT社へ譲渡した本件2年分土地の譲渡価額の決定は、Wに依頼し、儲けが30,000,000円位出れば良いだろうと考えて決定した。
(G)T社との契約はMホテルにおいて行ったが、gは所用があって、契約締結前に同ホテルを出たため、T社の関係者には会っていない。
(H)T社からの譲渡代金は、直接、J銀行a支店のN社名義の口座に振込みをしてもらったが、この口座については、同銀行の銀行員をWの事務所に呼んで作成し、連絡先をWの事務所の電話番号である○×ー○×□□とした。
(I)T社へ譲渡した本件2年分土地に係る利益は、g、W、n、qの4人で均等に分けるつもりでいたが、結局私がもらったのは、10,000,000円である。
I Wの当審判所に対する平成6年11月18日付の答述。
(A)請求人とは、古い付き合いがあり、私に本件2年分土地を140,000,000円位で売りたいと、土地の仲介の依頼があった。
(B)上記Hの(B)のとおり、gから相談を受けたので、土地取引で利益を上げるのが手っ取り早いと話し、本件2年分土地の買い手を捜してくるよう依頼した。
 また、買い手を捜していた途中で、請求人から、もう買い手が見つかったから、仲介の話は無しにしようといわれたが、それは話が違うと強固に申し入れ、その結果、N社が請求人から本件2年分土地を146,047,000円で購入することが決まった。
(C)N社が本件2年分土地の売却先として決定したT社は、何件かの買主の中で最も条件が良かった。
(D)N社が請求人から本件2年分土地を購入する契約を締結した時の立会人は、請求人、g、W、r社、n、t社のuだったと思う。
(E)N社は、本件2年分土地の購入時点で資金の調達はしておらず、請求人にはT社への譲渡代金の中から支払うと約束していた。
 なお、請求人と私とは付き合いが古いので、口約束だけで特に書類には残さなかった。
(F)請求人への支払は、T社から本件2年分土地の売買代金を受け取った後、いったん銀行に預け入れ、gの差し迫った支払をした後で、銀行から引き出して支払った。
(G)請求人からの購入価額は140,000,000円位と前からいわれていただけで、請求人からT社への譲渡価額は一切指示されていない。
 なお、本件2年分土地の取引に関して、T社へは、私が直接取引の状況を説明しているので、T社がN社を全く知らないというのはおかしい。
(H)T社へ譲渡した平成2年分土地に係る利益は、g、W、n、qの4人で、税金分を残して均等に分けるつもりでいたが、nがほとんど持ち逃げしたため、結局私が実際にもらったのは10,000,000円だけであった。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、本件2年分土地はN社に譲渡したものであり、T社に譲渡したものではない旨主張して、平成7年5月8日付のFに対する質問応答書(以下「本件質問応答書」という。)を提出した。その内容は、次のとおりである。
A 調査担当職員に対し、本件2年分土地は、請求人がT社に譲渡したとは申述しておらず、N社とT社が売買契約したものである。
B Z、Aにあてた文書は、すべて電話連絡のみであったことから、ファックスによる文書は送っていないと記憶している。
C 調査担当職員の質問についてはよく覚えていない。
(ニ)Fは、平成7年10月5日、当審判所に対して次のとおり答述している。
A 本件質問応答書は、請求人から、「財産を滞納のため差押えされており、ホテルの経営もうまくいかない。何とか助けてほしい。」と依頼され、Mホテルにおいて作成した。
B 本件質問応答書の内容は、事実と異なるので、申述できない旨申し述べたところ、請求人に、「Fさんには、絶対に迷惑をかけないから、言ったとおりに書いてくれ。」と言われやむなく署名、押印した。
C 本件2年分土地をT社が購入するにつき仲介人を依頼されたので、当該土地の譲渡人である請求人及びその関係者との接触状況を報告するため、その内容をT社のZ、Aあてに郵便又はファックスで送った文書があることは事実である。
D 本件2年分乙契約書は、平成2年10月12日にMホテルでZの目の前で廃棄した。
E 上記(ハ)の申述は、すべて虚偽のものである。
(ホ)上記(イ)ないし(ニ)の事実及び証拠関係に基づいて、以下検討する。
A まず、本件についての申述等以外の主な証拠関係について検討する。
(A)はじめに、契約書の存否をみると、上記(イ)のB及びCのとおり、請求人とN社との間の平成2年3月10日付の本件2年分甲契約書及びN社とT社との間の同年6月8日付の本件2年分丙契約書が現存するのに対し、請求人とT社との間の同年6月8日付とされる本件2年分乙契約書は現存しない。しかし、上記(ロ)のB、DないしG及び(ニ)のとおり、本件2年分乙契約書は作成したが、その後書換えにより譲渡人である請求人側に返還され、その場で廃棄された旨の申述があることから、これらの申述等の信用性いかんによっては、本件2年分乙契約書の内容に沿う契約の成立が認められる余地がある。
(B)次に、上記(イ)のEのとおり、本件2年分丙契約書及び本件2年分乙契約書の各契約締結日の当日である平成2年6月8日付の本件2年分土地前地主側の仲介人であるUと請求人が連名でT社に対して、本件2年分土地の売買に関する一切の責任を負うことを約することを内容とする本件念書が作成されているところ、本件念書の文意は、T社に対する本件2年分土地の所有権移転を確約することにあると推認される。
 本件念書が平成2年6月8日にその文意が上記のとおり推認される趣旨で作成されたとすれば、その時点で本件2年分土地の所有権をT社に移転するために不可欠の義務を負う者が作成名義人になるのが自然であるところ、上記(イ)のGのとおり、本件2年分土地につき平成2年10月12日に本件2年分土地前地主からT社へ所有権移転登記がされていること、したがって、同年6月8日の時点では、本件2年分土地の所有権は、登記簿上は請求人でもなくN社でもなく、本件2年分土地前地主にあったことを考慮すると、その時点での登記簿上の名義人である本件2年分土地前地主側の仲介人U及び本件2年分土地前地主から本件2年分土地を譲り受けてこれを他に譲渡した請求人が本件念書の作成名義人となっていること自体は当然のことであり、その意味で、本件念書が作成された当時本件2年分土地の登記簿上の所有者が本件2年分土地前地主のままになっていたので、請求人が所有権移転の責任を果たすために本件念書に署名押印したものであるとする請求人の主張(上記2の(1)のイの(イ)のF)は、その限りでは真実に合致するものと認められる。
 しかし、請求人の主張のとおり、本件念書の作成に先立つ平成2年3月10日に、請求人がN社に対し、本件2年分土地を譲渡する旨の契約を締結し、次いで、本件念書作成日である同年6月8日にはそのN社がT社に対して本件2年分土地を譲渡したということが事実であるとすれば、誰よりもまず、T社への直接の譲渡人であるN社の関係者(代表者又は代理人)が本件念書に署名してしかるべきであり、その署名がない以上、その事実の存在については、重大な疑問があるといわざるを得ない。
(C)次に、本件2年分土地の譲渡代金の支払状況を見ると、上記(イ)のHのとおりであり、その限りにおいては、請求人の主張とも原処分庁の主張とも必ずしも矛盾しない。
 しかし、請求人は、平成2年3月10日に本件2年分土地をN社に譲渡する旨の契約を締結した際、買主のN社側から手付金として現金3,000,000円を受領したと主張する(上記2の(1)のイの(イ)のBの(A))ところ、当該契約を締結したとする請求人の主張の根拠とされている本件2年分甲契約書の第2条には、買主は契約と同時に手付金として29,000,000円を売主に支払う旨記載されている。もとより、手付金は、契約締結に当たって交付される金銭であるから、請求人の主張が事実であるとすれば、本件2年分甲契約書は、請求人の主張にも符合しないものと認められ、その成立が真正のものであるとすることについて、疑念を払拭できないところである。
(D)次に、平成2年10月12日にT社が残金のうち保証小切手によって支払った122,638,000円(上記(イ)のHの(B))が、取立てのため入金されたJ銀行a支店のN社名義の普通預金(口座番号○○○)について見ると、(1)上記(イ)のIの(A)のとおり、当該口座開設時の普通預金新規申込書及び普通預金印鑑届の「お勤め先またはご職業」欄に請求人の姓と一致する「G」の文字及び本件審査請求書に請求人の電話番号として記載された「○○××ー○×ー△△□□」に符合する「○×ー△△□□」という電話番号が記載されており、また、上記保証小切手の取立てに際して作成された伝票等の電話番号欄には上記「○○××ー○×ー△△□□」そのものが印字されているところ、上記(イ)のIの(B)によれば、これらの記載事項は、一般に口座に関する連絡先を特定するという趣旨のものであり、同支店側は、ここに記載された電話番号「○○××ー○×ー△△□□」の「G」なる人物を当該口座の名義人であるN社の関係者であると認識していることが認められること、(2)上記(イ)のIの(A)のとおり、上記保証小切手の金額の一部を当該口座から出金した際の普通預金支払請求書に「既往取引実績有り」との書込みと行員の確認印があるところ、上記(イ)のIの(C)によれば、これらの書込みや確認印は、マネーローンダリング対策として大口出金時に出金する者の身元を確認する趣旨で行っている確認の結果、出金を請求した者が同支店と既往の取引実績があるので出金に応ずることは差し支えないという意味の記載であることが認められること、(3)上記(イ)のIの(C)及び(D)によれば、この出金時点でのN社は、同支店と既往の取引実績があるとはいえず、請求人は、同支店と既往の取引実績があるといえることが認められることを総合すると、当該口座に関する連絡先は請求人であり、請求人が実質的に当該口座への入金や当該口座からの出金を管理して当該口座を支配していたことが推認される。
(E)次に、請求人は、T社の名前については、T社が本件2年分土地を転売した相手方としか聞いておらず、T社の関係者(その中には、同社が依頼した仲介人X社のFも含まれるものと解される。)とは面識がない旨主張する(上記2の(1)のイの(イ)のE)ところ、上記(イ)のJの(E)及び(F)のとおり、T社が本件2年分土地の売買交渉当時に、同社が依頼した仲介人X社との間でその売買交渉の経過について、ファックス等によりかわした文書の中には、請求人がT社のZ及びX社のFと直接会って本件2年分土地の売買交渉をしていたことを示す記録が残っており、また、上記(イ)のKのとおり、T社に保存されていた名刺及びそれに記載されていたメモによると、本件2年分乙契約書の締結日に先立つ平成2年5月29日に請求人がT社のZと面会して名刺交換したことが認められることから、上記請求人の主張は、明らかに事実に反すると認められる。
(F)次に、N社という法人の実態について見ると、上記(イ)のLのとおり、同社は、平成元年2月6日に銀行取引を停止されていること、本件2年分土地の譲渡が行われた時期を含む平成2年3月1日から平成3年2月28日までの事業年度の法人税の確定申告書が本件審査請求書を提出した後の平成5年9月16日に至って提出され、当該確定申告書に記載された納付すべき法人税額は106,271,000円で、これは、すべて本件2年分土地の譲渡に係るものであり、このうち同年11月に500,000円納付されたのみで、この500,000円を除くほとんどが滞納となっており、また、当該事業年度の後の事業年度については法人税の確定申告書を提出していないことが認められ、これらを総合すれば、N社は、本件2年分土地の譲渡を申告することのみの理由で、平成2年3月1日から平成3年2月28日までの事業年度の法人税の確定申告書を提出したものと推認され、N社が本件2年分土地を請求人から取得し、T社に譲渡したとは、にわかに認定しがたいといわざるを得ない。
B ところで、請求人が平成2年分土地を譲渡した相手方及び譲渡金額については、大別して2群の申述等が対立している。
 そのひとつは、Z、A及びFのほぼ一致した申述等であり、本件2年分土地は請求人からT社に対し直接300,685,000円で譲渡されたことを内容としている。ただ、そのうちFは、上記(ハ)のとおり、本件質問応答書において、Fの原処分庁に対する上記(ロ)のBの申述書の証拠力を否定するかのような申述をした経緯があるが、その後の当審判所の調査に対し、上記(ニ)のとおり、本件質問応答書における申述が請求人に依頼されてなした虚偽のものであることを認めているので、結局Z及びAの申述等と同旨の原処分庁に対する上記(ロ)のBの申述書の申述を維持しているものと認められる。
 もうひとつは、g及びN社の代理人とされるWの申述等であり、平成2年分土地は請求人からN社に対し146,047,000円で譲渡された後に、同社からT社に対し300,685,000円で譲渡されたことを内容とする請求人の主張に沿う申述等である。
 以上の2群の申述等の内容を検討すると、まず、Z、A及びFの申述等は、その内容において首尾一貫しており、具体性、迫真性もある上、上記Aにおいて検討した申述等以外の主な証拠とも矛盾せず、十分信用できるものであるのに対し、g及びWの申述等は、1N社が本件2年分土地の取引を行った動機につき、倒産したN社を再建したいと思ったためであると説明し(上記(ロ)のHの(B))ながら、本件2年分土地に係る利益は、g、W、n、qの4人で均等に分けるつもりでいたが、結局gがもらったのは10,000,000円である(上記(ロ)のHの(I))などと当初の動機とはかけ離れた利益処分であったことをうかがわせる説明をするなど不自然であり、2そのgの取得した利益の金額についても、上記の説明に至るまでに「Wから20,000,000円もしくは30,000,000円受領した。」(上記(ロ)のAの(B))、さらに、「契約書は作成したが譲渡代金は受領していない。」、「印鑑代としてWから8,000,000円受領した。」(上記(ロ)のAの(C))などと変遷を重ねており、それ自体として信用性に疑問がある上、3上記Aにおいて検討した申述等以外の主な証拠との関連を見ても、上記Aの(A)の契約書の存否を除くその他のすべての証拠に適合しないか、あるいは正面からこれらと矛盾する内容となっている。
 そうすると、Z、A及びFの申述等は、証拠として採用できるのに対し、g及びWの申述等は、証拠として採用できないといわざるを得ない。
C 上記Aにおいて検討した証拠関係を前提として、上記Bにおいて採用できるものと判断されたZ、A及びFの申述等を総合すれば、平成2年6月8日に請求人がT社に対し、本件2年分土地を300,685.000円で譲渡したと認めるのが相当であって、右認定に沿う本件2年分乙契約書は現存しないものの、真実作成されたものと認められ、右認定に反する本件2年分甲契約書及び本件2年分丙契約書並びにこれらの契約書を前提として作成された上記(イ)のDの請求人の主張に沿う2通の領収証は、偽りのものであると認められるから、証拠として採用できない。
(へ)以上審理したところによれば、原処分庁が、本件2年分土地は、請求人からT社に300,685,000円で譲渡されたものであると認定したことは相当である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 本件支払利息額
 本件支払利息額が、本件2年分土地の譲渡に係る取得費に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)請求人の平成2年分の確定申告書に、発行人がMホテル、受取人が請求人と表示され、但書きに「利息として」と記載された5,600,000円の領収証が添付されていたことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(ロ)請求人は、本件支払利息額は、Mホテルから本件2年分土地の取得資金の一部に充てるために借りた、本件借入金の利息を支払ったものであるから、本件2年分土地の取得費である旨主張して、当審判所に対し、1Mホテルの平成元年3月31日現在の貸借対照表、仮払金(前渡金)の内訳書の写し各1通、2同社の平成2年3月31日現在の貸借対照表、仮払金(前渡金)の内訳書及び雑益、雑損失等の内訳書の写し各1通、3同社の振替伝票の写し1通、4同社の当座預金勘定元帳の写し1通、5同社の普通預金勘定元帳の写し1通、6請求人が本件2年分土地前地主から本件2年分土地を取得した際に作成したとする土地売買契約書の写し4通、76の契約に基づき支払った土地代金の領収書の写し11通を提出した。
 そこで、当審判所においてこれらの資料を検討したところ、次のとおりである。
A 1及び2の書類には、Mホテルから請求人に対し、平成元年3月31日現在で31,422,691円及び平成2年3月31日現在で85,247,159円の仮払金があり、同社が平成2年3月31日に5,967,301円の仮払金の認定利息を計上した旨の記載があり、3の書類では、「平成元年11月14日」、「当座」、摘要欄に「立替G(土地)」、金額欄に「2,000,000」(仮払金)と記載されている。また、4の当座預金勘定元帳には平成2年7月3日に20,000,000円が出金(仮払金)され、摘要欄に「c様」、「土地代」と記載され、5の普通預金勘定元帳には平成2年10月11日に900,000円及び659,000円が出金(仮払金)され、摘要欄に「社長」と記載されている。
B Mホテルにおける請求人に対する仮払金の認定利息は、決算期末残高に7パーセントの利率を乗じて計算している。
(ハ)当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A Mホテルから請求人に対し、平成3年3月31日現在で106,121,525円の仮払金があり、同社は、平成3年3月31日に8,624,081円の仮払金の認定利息を計上したこと。
B 請求人は、本件2年分土地を、取得した後平成2年10月12日にT社から本件2年分土地の譲渡に係る残金を受け取るまで使用収益せず、また、本件2年分土地の所有権移転登記は、同日付で本件2年分土地前地主からT社に対し直接行われていること。
(ニ)ところで、一般に、借入金の利子の性格については、特定の目的に使用するため一定の土地を取得した場合、その取得に要した借入金の利子は、当該土地の利用目的のための費用と考えられ、その利用によって収入を得た場合においては、当該利子は、その利用によって生ずる不動産所得等の金額の計算上控除すべき所得税法第37条《必要経費》第1項に規定する必要経費に該当し、また、値上がり益を得ることを目的として土地を取得した後これを譲渡し、その値上がり益を得た場合における借入金の利子は、同法後38条《譲渡所得の金額の計算上控除する取得費》第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に該当するものと解されるが、土地を取得するために借り入れた借入金の利子が取得に要した費用となるためには、当該借入金が土地の取得代金にあてるためと特定され、土地の取得と借入金の発生とが相当な因果関係があることが必要であると解するのが相当である。
(ホ)これを本件についてみると、上記(ロ)のAの(1)及び(2)の書類及び上記(ハ)の事実によれば、請求人が平成元年3月10日から平成2年10月12日までの間に、Mホテルから金員の仮払いを受けていた事実が認められるところ、請求人の主張のイの(ロ)の表の本件借入金のうち、順号5及び7ないし9の借入金は、別表3のとおり、請求人の提出した資料(3)ないし(7)に記載されている日付、金額、支払先等と突合するかもしくは極めて類似しており、また、当該資料に仮払金と記載されていることから、上記(ロ)のA及び(ハ)のAの仮払金の一部と認められる。
 したがって、本件借入金のうち、順号5及び7ないし9の借入金は、請求人がMホテルから借り入れた事実が認められ、本件2年分土地の取得資金の一部と相当因果関係があると認められる。
 また、上記(ロ)のBによれば、Mホテルは、仮払金の認定利息を計上する上で7パーセントの利率を乗じて計算しているが、当審判所の調査によっても、当該利率は相当であると認められる。
 しかしながら、その他の資料及び当審判所の調査によっても、請求人主張の本件借入金のうち上記順号5及び7ないし9を除く借入金については、上記(ロ)のA及び(ハ)の仮払金の一部と認めるに足りる証拠はないことから、本件2年分土地の取得資金の一部に充てるためのMホテルからの借入金とは認められない。
(ヘ)上記(ハ)のBによれば、請求人は、本件2年分土地を取得してから使用しないで譲渡していることから、上記(ホ)で認定したそれぞれの借入金の借入日から本件2年分土地が請求人からT社に引き渡されたと認められる日(平成2年10月12日)までの期間に係る支払利息額は、所得税法第38条第1項に規定する「資産の取得に要した金額」に該当するものと認められる。
(ト)以上審理したところによれば、本件支払利息額のうち本件2年分土地の取得費に算入される支払利息額は、上記(ホ)で認定したそれぞれの借入金に、Mホテルが採用し、当審判所も相当と認める利率年7パーセントをそれぞれ乗じ、更に日割り計算し、四捨五入して算定した金額の合計515,038円となる。
ハ 平成2年分の分離短期譲渡所得の金額
 上記イの(ト)の認定によれば、平成2年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額は300,685,000円となり、上記ロの(ト)の認定によれば、本件支払利息額の内、本件2年分土地の取得費と認められる支払利息額は515,038円となる。
 よって、平成2年分の分離短期譲渡所得金額は、上記収入金額から、原処分庁が主張し、当審判所の調査によっても相当と認められる取得費及び譲渡に要した費用を控除し、さらに、上記支払利息額を控除して算定すると184,991,962円となる。
ニ 以上審理したところによれば、平成2年分の分離短期譲渡所得の金額は、更正処分の金額を下回ることから、更正処分はその一部を取り消すべきである。

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(2)平成3年分の更正処分について

イ 土地の譲渡先及び譲渡価額
 本件3年分土地が、請求人から、E社に9,690,000円で譲渡されたものであるか、T社に16,700,000円で譲渡されたものであるかについて争いがあるので、以下審理する。
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、本件3年分土地を別表2の「前地主」欄に掲げる所有者ら(以下「本件3年分土地前地主」という。)から、「前地主との契約日」欄に掲げる年月日に、「契約金額」欄に掲げる金額で取得する旨の契約を締結していること。
B 本件3年分土地は、本件2年分土地の隣接地であり、本件3年分土地前地主の中には本件2年分土地前地主でもある者がいること。
C 本件3年分土地については、本件3年分甲契約書が作成されており、取引業者として、「v有限会社の代表取締役w(以下「w」という。)」の署名押印があること。
 同契約書には、譲渡単価を坪当たり192,261円とし、契約と同時に手付金900,000円を支払い、残金8,790,000円は、平成3年12月20日所得権移転登記完了と同時に支払う旨記載されていること。
D また、本件3年分土地については、本件3年分乙契約書の写しが現存しており、これには取引業者に「株式会社X代表取締役F」の署名押印があること。
 同契約書には、譲渡代金は、契約と同時に支払うこととされているが、特約事項として、「S町1893ー3田90平方メートル同1896ー3田24平方メートルの2筆は坪当り35万で計算し、S町1894ー3田54平方メートルについては坪当たり30万円で計算する。」と記載されていること。
 また、重要事項説明書には、同じ内容で記載されている。
E 本件3年分土地については、売主をE社、買主をT社、譲渡価額を16,700,000円とする平成3年12月18日付土地売買契約書(以下「本件3年分丙契約書」という。)が作成されており、取引業者に「X社代表取締役F」の署名押印があること。
 同契約書には、譲渡代金は、契約と同時に支払うこととされているが、特約事項として、「S町1893ー3雑地90平方メートル同1896ー3雑地24平方メートルの2筆は坪当り35万で計算し、S町1894ー3雑地54平方メートルについては坪当たり30万円で計算する。」と記載されていること。
 また、重要事項説明書には、同じ内容で記載されている。
F 発行人がE社、受取人がT社と表示された平成3年12月18日付の本件3年分土地の売買代金として受領したとする16,700,000円の領収証が存在すること。
G 本件3年分土地については、同物件所在地の農業委員会に対し、平成3年10月15日付でT社から農地転用許可の申請がされ、同年11月18日付で同許可を受けていること。
H 本件3年分土地の登記簿謄本によれば、本件3年分土地は、平成3年11月28日付で、地目がそれぞれ雑種地に変更され、また、平成3年12月18日付で、すベて本件3年分土地前地主から直接T社へ所有権移転登記がされていること。
I T社は、本件3年分土地の取得代金として、平成3年12月17日、K銀行e支店のT社名義の当座預金(口座番号○◎×)から16,700,000円を引き出し、同日x銀行h支店のT社名義の普通預金(口座番号◎△□)に振り込み、翌日の同年12月18日、同口座から16,700,000円を引き出し、同日、Mホテルにおいて、本件3年分土地の取得代金として支払った。
J T社に保存されている仮払金の台帳及び伝票は機械化処理されているものであり、それによると、平成3年12月18日の伝票に支払先名の記録がなく、台帳は、後日、手作業で補完記入されていることから、本件3年分土地の売買契約時には、支払先名が確定していなかったことが、認められる。
K 本件3年分土地をT社が取得するに当たり、T社と同社の仲介者X社との間で、次のとおりファックス又は郵便により送付された文書が存在すること。
(A)本件2年分土地に係る連絡に併せ、請求人から本件3年分土地の一部の買取依頼があった旨の平成2年8月31日付の文書。
(B)本件3年分土地の一部を含む本件2年分土地の隣接地の買上げ又は交換の交渉及び買上げできない土地の賃借の交渉の状況並びにこれらの土地の個別の売買単価についてUから説明を受けた旨を連絡する、平成3年3月29日付の文書。
(C)本件3年分土地及びその隣接地の地価調査並びにDを通じて聞いた請求人からの売買希望価額及び売買条件等についての意向を連絡する、次の内容の平成3年8月12日付の文書。
a T社の期待に沿うべく、今回も、1894番3(隣地地番)の54平方メートルを買うに当たり、県道向い側の土地まで買わされた。
b 他の2筆についても、T社に前年契約する以前より買取って持っていたので、今回契約する時は、前回契約と同額で契約してほしい。
(D)本件3年分土地の売買契約書の作成が、売主名が決まらないという請求人の事情により遅れている旨及び売主名を空欄のままの重要事項説明書を送付するので、後日補完記載の上返送して欲しい旨を連絡する平成4年1月14日付の文書。
L E社の法人税の確定申告状況等及び同社の代表取締役であるyについては、次のとおりであること。
(A)商業登記簿謄本によれば、E社は平成2年3月15日に設立されている。
(B)E社は、設立から平成3年4月30日までの各事業年度の法人税の確定申告書を提出しているが、それ以降の事業年度の申告はしておらず、本件3年分土地の譲渡に関する申告はしていない。
(C)E社の代表取締役であるyは、原処分庁の調査当時から行方不明である。
(ロ)関係人の申述等は、次のとおりである。
A Fの原処分庁に対する平成4年5月28日付の申述書。
 本件3年分丙契約書は、本件3年分土地について、本件2年分土地と同様に、請求人から平成4年1月頃、本件3年分乙契約書の売主名を請求人からE社に書き換えて欲しいと要望されたため、売主名をE社に書き換え、T社に郵送して押印してもらい、本件3年分乙契約書と差し替えたものである。
B Zの異議審理担当職員に対する、平成5年4月19日付の申述。
(A)本件3年分土地も、請求人から16,700,000円で購入したが、請求人の要望により、平成3年分乙契約書の売主名をE社に変更した。
(B)E社については、名前以外知らないし、関係者に会ったこともない。
(C)本件3年分土地は、本件2年分土地の隣接地であり、請求人が本件3年分土地前地主の都合で本件2年分土地と一括契約で取得できなかったものを、請求人が平成3年になって取得したものである。
C Aの異議審理担当職員に対する、平成5年4月19日付の申述。
(A)平成3年12月18日に、本件3年分土地を請求人から16,700,000円で購入する契約をし、本件3年分乙契約書を作成した。
(B)その後、請求人から本件3年分乙契約書の売主名をE社に変更してほしい旨の要望があったので、これに応じた。
(C)E社の関係者には、会ったことはない。
(D)本件3年分土地は、本件2年分土地に隣接した土地で、本件2年分土地を取得した時から売買の交渉が継続していた話で、相続等の問題があるとのことで、平成2年中には取得できなかったものであるが、平成3年12月18日に請求人より購入する契約が成立した。
(E)請求人との本件3年分乙契約書は作成したが、売主名変更の申し出があり、平成4年1月にX社を通じて、新しい売主名の記載された本件3年分丙契約書が送付されてきたので、当社名を入れて押印し、返送した。
 なお、以前に、売主名が空欄のまま送付されていた本件3年分土地の売買契約に係る重要事項説明書の売主名欄は、私が上記のとおり記載し、同時に返送した。
(F)本件2年分丙契約書及び本件3年分丙契約書は作成されているが、これらはいずれも請求人の要望により売主名を変更して、従前の本件2年分乙契約書及び本件3年分乙契約書を差し替えたにすぎず、私共は、本件2年分土地及び本件3年分土地の所有者が請求人であると聞いた時点で、請求人の身許調査を実施しているから、これらの土地は請求人から購入したものに間違いない。
(G)本件3年分丙契約書の新しい売主名は、E社となっていたが、この名前は、本件3年分丙契約書で初めて知った。
D Aが、Fにあてた平成3年8月8日付の文書によれば、時価が下落している中で、本件3年分土地の取引価額が適正であるかについての検討を依頼する旨記載されていること。
E Zの当審判所に対する平成7年3月13日付文書による回答。
(A)本件3年分土地は、本件2年分土地に継続して請求人から購入したものである。
(B)本件3年分土地は、平成3年12月18日に請求人と売買契約を締結し、本件3年分土地乙契約書を作成した。
 売買代金16,700,000円の支払も、同日に全額現金で請求人に支払った。
F Aの当審判所に対する平成7年3月13日付文書による回答及び平成7年3月16日付答述。
(A)本件3年分土地は、本件2年分土地を請求人から取得する過程で、一括して売買契約をする予定でいたが、本件3年分土地前地主からT社への所有権の移転ができなかったので、請求人から後で買ってほしいといわれていた部分である。
 その後、所有権移転ができるようになったので、平成3年12月18日の請求人との売買契約に及んだ。
(B)本件3年分土地の坪当たりの単価は、本件2年分土地の坪当たりの単価の350,000円に基づいて、時価の下落を考慮して、請求人と一筆ごとに単価を決定し、一部減額してもらった。
(C)本件3年分土地の売買代金16,700,000円の支払は、請求人の希望により、Mホテルにおいて、一括して現金で、Zが、直接請求人に支払った。
(ハ)請求人は、当審判所に対し、本件3年分土地はE社に譲渡したものであり、T社に譲渡したものではない旨主張して、本件質問応答書を提出した。その内容は、次のとおりである。
A 調査担当職員に対し、本件3年分土地は、請求人がT社に譲渡したと申述した記憶はない。
B 本件3年分乙契約書については記憶にない。
C Z、Aにあてた文書は、すべて電話連絡のみであったことから、これらの文書は送っていないと記憶している。
(ニ)Fは、平成7年10月5日、当審判所に対して次のとおり答述している。
A 本件質問応答書は、請求人から、「財産を滞納のため差押えされており、ホテルの経営もうまくいかない。何とか助けてほしい。」と依頼され、Mホテルにおいて作成した。
B 本件質問応答書の内容は、事実と異なるので、申述できない旨申し述べたところ、請求人に、「Fさんには、絶対に迷惑をかけないから、言ったとおりに書いてくれ。」と言われやむなく署名、押印した。
C 本件3年分土地をT社が購入するにつき仲介人を依頼されたので、当該土地の譲渡人である請求人及びその関係者との接触状況を報告するため、その内容をT社のZ、Aあてに郵便又はファックスで送った文書があることは事実である。
D 上記(ハ)の申述は、虚偽のものである。
(ホ)以上の事実及び証拠関係に基づいて検討すると、本件3年分土地の譲渡については、請求人がT社に対し、平成3年12月18日付で本件3年分土地を16,700,000円で譲渡したとする原処分庁の主張に沿う内容の本件3年分乙契約書の写しが現存するところ、上記(イ)のA、B及びDないしL並びに(ロ)の事実、証拠関係は、いずれも、本件3年分乙契約書が真正に成立したことを示しており、ただ、そのうちFは、その原処分庁に対する上記(ロ)のAの申述書につき、上記(ハ)のとおり、本件質問応答書において、その証拠力を否定するような申述をした経緯があるが、その後の当審判所の調査に対し、上記(ニ)のとおり、本件質問応答書における申述が請求人に依頼されてなした虚偽のものであることを認めているので、結局、Z及びAの申述と同旨の原処分庁に対する上記(ロ)のAの申述書の申述を維持しているものと認められるから、本件3年分乙契約書は真正に成立したものと認められ、右認定に反する本件3年分甲契約書及び本件3年分丙契約書並びにこれらの契約書を前提として作成された上記(イ)のFの請求人の主張に沿う領収証は、偽りのものと認められるから、証拠として採用できない。
(ヘ)以上審理したところによれば、原処分庁が、本件3年分土地は、請求人からT社に16,700,000円で譲渡されたものであると認定したことは相当である。
 したがって、請求人の主張は採用できない。
ロ 平成3年分の分離短期譲渡所得の金額
 上記イの(ヘ)の認定によれば、平成3年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額は16,700,000円となるところ、平成3年分の分離短期譲渡所得の金額は、平成3年分の分離短期譲渡所得に係る収入金額から、原処分庁が主張し、当審判所の調査によっても相当と認められる取得費及び譲渡に要した費用を控除して算定すると、9,338,000円となる。
ハ 以上審理したところによれば、平成3年分の分離短期譲渡所得の金額は、更正処分の金額と同額となるから、平成3年分の更正処分は適法である。

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(3)賦課決定処分について

イ 重加算税の賦課決定処分について
(イ)平成2年分の重加算税の賦課決定処分
A 上記(1)のニのとおり、平成2年分の更正処分のその一部を取り消すことに伴い、平成2年分の重加算税の賦課決定処分に係る基礎税額の計算の基礎となる事実について審理したところ、次のとおりである。
(A)上記(1)のイの(ホ)のCで認定したとおり、請求人は、本件2年分土地をT社に300,685,000円で譲渡したにもかかわらず、後日、N社がT社に本件2年分土地を300,685,000円で譲渡したとする偽りの契約書(本件2年分丙契約書)及びN社がT社から、上記金額を受領した旨の記載のあるN社名義で発行された偽りの領収証を作成し、さらに、請求人がN社に本件2年分土地を146,047,000円で譲渡したとする偽りの契約書(本件2年分甲契約書)を作成して、この偽りの契約書に基づいて、平成2年分の所得税の確定申告書の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を提出していたと認められる。
(B)そうすると、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことに該当すると認められる。
B そこで、国税通則法第68条1項の規定に基づき、上記Aの(A)の事実に係る部分の重加算税の基礎となる税額を算定すると85,050,000円となり、この金額に基づいて平成2年分の重加算税の額を算定すると29,767,500円となる。
C したがって、平成2年分の重加算税の額は、賦課決定処分の金額と同額となるから、平成2年分の重加算税の賦課決定処分は適法である。
(ロ)平成3年分の重加算税の賦課決定処分
 上記(2)のハのとおり、平成3年分の更正処分は適法であり、かつ、上記(2)のイの(ホ)で認定したとおり、請求人は、平成3年12月18日に本件3年分土地をT社に16,700,000円で譲渡し、その際本件3年分乙契約書を作成したにもかかわらず、後日、E社がT社に本件3年分土地を16,700,000円で譲渡したとする偽りの契約書(本件3年分丙契約書)及びE社がT社から、上記金額を受領した旨の記載のあるE社名義で発行された偽りの領収証を作成し、さらに、請求人がE社に本件3年分土地を9,600,000円で譲渡したとする偽りの契約書(本件3年分甲契約書)を作成して、この偽りの契約書に基づいて、平成3年分の所得税の確定申告書の分離短期譲渡所得の金額を過少に記載した確定申告書を提出していたと認められるところであり、請求人のこれらの行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していた」ことに該当すると認められる。
 したがって、国税通則法第68条第1項の規定に基づき、これらの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた平成3年分の重加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ 過少申告加算税について
 上記(1)のニのとおり、平成2年分の更正処分のその一部が取り消されることに伴い、平成2年分の過少申告加算税の基礎となる税額を算定すると、2,790,000円となる。
 また、上記税額の計算の基礎となった事実であるところの、上記(1)のロの(ト)で認定した本件支払利息額に係る部分については、国税通則法第68条第1項に規定する、隠ぺい又は仮装の事実は認められないが、更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとも認められない。
 そこで国税通則法第65条第1項の規定に基づき、平成2年分の過少申告加算税の額を算定すると、279,000円となる。
 したがって、平成2年分の過少申告加算税の額は、賦課決定処分の金額を下回るから、平成2年分の過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(4)原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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