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(平8.6.14裁決、裁決事例集No.51 113頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、平成5年分の所得税について、確定申告書に、次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人は、平成6年6月6日、次表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年11月28日付で次表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 請求人は、これらの処分を不服として、平成6年12月19日に異議申立てをしたところ、異議審理庁はこれに対し、平成7年3月15日付で、いずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年3月22日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(一)請求人は、昭和62年5月29日、請求人の配偶者であったH(以下「H」という。)との離婚に関し、a家庭裁判所の調停(昭和61年(家△)第○○号夫婦関係調整事件に係る調停をいう。以下、当該調停を「本件調停」といい、本件調停に係る調停内容が記載された文書を「本件調書」という。)により、請求人とHが居住していたP市R町1丁目2番地2所在の鉄筋コンクリート造陸屋根8階建の建物の4階部分70.16平方メートル(家屋番号R町1丁目2番地2の54、建物の番号408をいい、以下「本件マンション」という。)を、離婚に伴う慰謝料として、Hに対して譲渡することとなった。
 そこで、請求人は、昭和62年6月中旬ころ、本件マンションから、請求人に帰属する資産を搬出し、本件マンションの引き渡しを完了したが、本件マンションの所有権者を請求人からHとする所有権移転の登記(以下「本件移転登記」という。)については(1)請求人とHの長女であるK(以下「K」という。)が年少であったこと、(2)周囲に離婚した事実を悟られたくなかったこと及び(3)一般的に、マンション等の所有者は女性名義よりも男性名義の方が良いのではないかと考えたことなどから、Hとも合意の上、本件移転登記は、Kが成人に達するまで遅らせることにした。
 そして、平成5年3月にKが大学を卒業したことを契機に、平成5年4月16日に本件移転登記を行ったところ、原処分庁から「譲渡内容についてのお尋ね」による照会を受け、請求人は、平成5年4月16日に本件マンションをHに譲渡し、その譲渡に係る譲渡所得の金額の計算に当たっては、租税特別措置法第35条《居住用財産の譲渡所得の特別控除》に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用する旨の記載をした当該お尋ねに係る回答書及び平成5年分の所得税の確定申告書(以下、これらを併せて「本件申告書等」という。)を提出した。
 なお、本件申告書等において、本件マンションの譲渡の日を平成5年4月16日としたのは、本件調停時に、裁判所の職員から、本件マンションをHに譲渡することによって所得税の負担が発生することはないとの説明を受けたこともあり、単に所有権移転の登記をした時点で申告をすればよいと認識したことによるもので、明らかに請求人の誤りであり、本件マンションの実質的な所有権の移転があったのは、本件調停が成立した昭和62年5月29日又は請求人が本件マンションから自己の資産をすべて搬出した昭和62年6月中旬ころである。
 したがって、本件マンションの譲渡の日を平成5年4月16日であると認定して行った本件更正処分は取り消すべきである。
(ロ)また、仮に、本件マンションの譲渡の日が原処分庁が主張するように、平成5年4月16日が正しいとするならば、Kの成長を確認するために、本件調停以後も週に2、3回は本件マンションを訪れていた事実をもって、請求人は、平成5年4月まで当該マンションに居住していたものと認め、本件特例の適用を認めるべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、昭和57年3月28日、P市R町1丁目2番2のL、M、N及びT(以下、これらを併せて「Lら」という。)から、本件マンションを30,500,000円で取得したこと。
B 請求人は、昭和57年4月28日、本件マンションの所有権者をLらから請求人とする所有権移転の登記をしたこと。
C 本件調書には、要旨次の記載があること。
(A)請求人とHは、昭和62年5月29日、調停により離婚することで同意する。
(B)請求人は、Hに対して、離婚に伴う慰謝料として、本件マンションの所有権を譲渡することとし、昭和62年6月末日限りに所有権移転に係る手続を行う。
D 請求人は、平成5年4月16日、昭和62年5月29日の代物弁済を登記原因として、本件移転登記を行っていること。
E 請求人は、平成6年3月11日、本件譲渡に係る譲渡所得の計算に当たり、本件特例の規定を適用する旨を記載した本件申告書等を提出したこと。
F Hは、平成6年6月7日、原処分庁の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)に対し、要旨次のとおり申述していること。
(A)自分は、昭和57年3月から本件マンションに居住している。
(B)自分は、(1)本件調停時に、裁判所の職員から、本件マンションの譲渡に当たっては税金が課されることはないと言われたこと及び(2)子供のためにも本件マンションの名義人は一般的には女性より男性の方が良いと考えたこと等から、特に請求人に対して本件移転登記を催促したことはない。
(C)請求人は、自分と離婚後、別の女性とQ市S町1丁目3番1に居住していたようだが、その後も娘に会うために、月に何回となく本件マンションを訪れていた。
(D)平成5年4月、請求人から、本件移転登記を了した旨の連絡を受けた。
G 請求人の戸籍の附表によると、請求人は、住所を次表のとおり異動していること。

住所を定めた年月日住所
昭和54年2月4日T市W町2丁目14番7ー507号
昭和57年4月28日P市R町1丁目2番10ー408号
昭和60年11月9日Q市S町1丁目3番1ー604号
平成元年7月1日X市Y町3丁目2番14ー302号
平成5年5月27日X市Y町2丁目36番14ー302号

(ロ)ところで、本件特例は、個人が自己の生活の拠点として居住の用に供している土地又は家屋を譲渡した場合等で、居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡された場合には税負担の軽減を図ることを規定した法律であるから、その適用に当たってはその要件を厳格に解すべきであり、拡張解釈は許されないものと解されている。
(ハ)以上のことから判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件調停において、昭和62年6月末日を限りに本件移転登記に係る手続をする旨の合意があるにもかかわらず、これを履行せず、Hもその履行を求めていない。
B 請求人は本件申告書等において、平成5年中に本件マンションを譲渡した旨の記載をしている。
C 請求人は、前記(イ)のGのとおり、本件調停のあった昭和62年5月29日以前の昭和60年11月9日から、すでに本件マンション以外の場所に住所を移転しており、その後の請求人の住所の異動状況からしても、本件マンションが請求人の生活の拠点とされていた事実は認められない。
D 以上のことからして、本件マンションの譲渡は平成5年中に行われたものと認めるのが相当であり、かつ、本件特例の適用要件である「居住の用に供されなくなった日から3年を経過する日の属する年の12月31日までの間に譲渡した場合」に該当せず、また、請求人が本件特例の適用要件を誤って解釈していたとしても、前記(ロ)で述べたとおり、本件特例の拡張解釈は許されないところから、本件特例の適用は認められない。
(ニ)分離長期譲渡所得の金額
 以上の結果に基づき、請求人の分離長期譲渡所得の金額を算定すると次表のとおりとなり、この金額は、本件更正処分と同額であるから、本件更正処分は適法である。

(単位 円)
項目金額
譲渡収入金額48,474,182
必要経費等の額
 取得価額29,273,968
 譲渡費用0
 特別控除額1,000,000
合計30,273,968
分離長期譲渡所得金額18,200,214

(注)「取得価額」については、次のとおり計算した。
(1)本件マンションの建物価額
30,500,000円(取得価額)×19,200,000円(建物価額)÷(19,200,000円(建物価額)+12,800,000円)(土地価額)=18,300,000円(建物価額)
(18,300,000円(建物価額)+606,000円)(手数料)=18,906,000円(建物価額)
(2)本件マンションの取得価額
18,906,000円(建物価額)×9/10(残存価額)×0.012(償却率)×11(経過年数)=2,246,032円(減価償却費)
(30,500,000円(取得価額)+1,020,000円)(手数料)−2,246,032円(減価償却費)=29,273,968円(取得価額)
ロ 本件賦課決定処分について
 上記のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件マンションの譲渡の時期及び本件特例の適用の可否であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)昭和57年3月28日付の本件マンションに係る不動産売買契約書によると、請求人は、同日付でLらから本件マンションを30,500,000円で購入したこと。
(ロ)本件マンションに係る不動産登記簿謄本によると、次の記載があること。
A 昭和57年4月28日、昭和57年4月27日の売買を原因として、所有権者をLらから請求人とする所有権移転登記がされている。
B 平成5年4月16日、昭和62年5月29日の代物弁済を原因として、所有権者を請求人からHとする所有権移転登記がされている。
(ハ)昭和62年5月29日付の本件調書によると、要旨次の記載があること。
A 昭和62年5月29日、請求人とHは、調停により離婚する。
B 請求人は、Hに対し、Kの養育費として、昭和62年6月から同人が成年に達する月までの間、1ケ月金100,000円ずつを支払う。
C 請求人は、Hに対し、離婚に伴う慰謝料として本件マンションの所有権を譲渡することとし、昭和62年6月末日限りに、その所有権移転の登記に係る手続を行う。
D 請求人が昭和57年4月28日にZ生命保険相互会社から借り受けた本件マンションに係るローン債務(以下「本件ローン債務」という。)21,000,000円の残債については引き続き請求人が弁済する。
E 請求人とHは、以上をもって離婚に関する一切を解決したものとし、今後名義のいかんを問わず相互に財産上の請求をしない。
(ニ)本件申告書等によれば、要旨次の記載があること。
A 請求人は、Hに対し、離婚に伴う慰謝料として、本件マンションを平成5年4月に譲渡した。
B 上記Aに係る譲渡価額は、土地建物合計で48,474,182円であり、取得価額の合計額はLらからの取得価額30,500,000円並びに手数料1,500,000円及び1,020,000円の合計額33,020,000円、譲渡に要した費用の額は零円である。
C 以上の結果、分離長期譲渡所得の金額は15,454,182円となるが、本件特例の適用により、課税されるべき分離長期譲渡所得の金額は零円である。
(ホ)請求人の戸籍の附表によると、請求人の住所は、次のように移動していること。

住所を定めた年月日住所
昭和54年2月4日T市W町2丁目14番7―507号
昭和57年4月28日P市R町1丁目2番10―408号
昭和60年11月9日Q市S町1丁目3番1―604号
平成元年7月1日X市Y町3丁目2番14―302号
平成5年5月27日X市Y町2丁目36番14―302号

(ヘ)請求人の戸籍謄本によると、昭和62年5月29日、請求人とHとの離婚の調停が成立し、両名は離婚した旨の記載があること。
ロ Hは、調査担当職員に対し、要旨次のとおりの申述をしていることが認められる。
(イ)自分は、昭和57年3月から本件マンションに居住していること。
(ロ)自分は、本件調停時に、家庭裁判所の職員から、本件マンションの譲渡により税金の負担が発生することはないと言われ、また、マンション等の名義人は一般的には女性名義よりも男性名義の方が良く、別に問題もないと考え、特に請求人に対して、本件移転登記を急ぐよう催促しなかったこと。
(ハ)請求人は、自分と離婚後、別の女性とQ市S町1丁目3番1に居住していたようだが、その後も娘に会うために、月に何回となく本件マンションを訪れていたこと。
(ニ)本件移転登記が平成5年4月に行われたことは、請求人から聞いたこと。
(ホ)請求人が本件移転登記をこの時期に履行したのは、請求人が、娘も大学を卒業したことで一つの区切りをつけるために行ったものと考えたこと。
(ヘ)Kの養育費は、大学を卒業するまで、毎月、請求人から定期的に銀行に振り込んでもらったこと。
ハ 請求人は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)自分は、本件調停後、Hに対し、Kの養育費を、昭和62年6月から、同人が大学を卒業した平成5年3月まで毎月定期的にHの管理するA銀行B支店の請求人名義の普通預金口座(以下「本件預金口座」という。)に振り込んできたこと。
(ロ)自分は、Kの養育費の他は、本件マンションの固定資産税及び維持管理費等をはじめ、H及びKの月々の生活費等の一切を負担したことはないこと。
(ハ)自分は、本件調停後、本件マンションはもう自分のものとは思っておらず、したがって、固定資産税、管理費、電話代及び水道光熱費等については、名義は自分のままになっているものの、すべてHが負担していること。
(ニ)自分は、本件調停後の昭和62年6月ころ、本件マンションに残してきた冷蔵庫及びテレビ等の共有財産を除いて、請求人の下着、着替え、本類等、請求人に帰属する資産の一切を搬出し、本件マンションのHへの引渡しを完了したこと。
(ホ)本件マンションの登記済権利証は、本件調停後、Hが所持していること。
(ヘ)本件調書には、昭和62年6月末限りに本件移転登記に係る手続を行うとなっているにもかかわらず、これを平成5年4月まで延期したのは(1)Kが年少であったこと、(2)周囲に両親が離婚した事実を悟られたくなかったこと及び(3)本件マンションには本件ローン債務に係る抵当権が設定されており、本件移転登記を行った場合、本件ローン債務の残債について一括返済を迫られるおそれがあったこと等によるもので、Hとの合意事項でもあったところ、Kが平成5年3月に大学を卒業したことを契機として本件移転登記を行ったものであること。
(ト)本件マンションには本件ローン債務に係る抵当権がまだ設定されたままであり、現在も自分が残債を弁済中であること。
(チ)本件申告書等において、本件マンションの譲渡の日を平成5年4月と記載したのは、本件調停時に、裁判所の職員から、本件マンションの譲渡により税金の負担が発生することはないと聞かされていたこともあり、譲渡の時期によっては後日課税上の問題が発生するという認識がないまま、「引き渡した日」というのは「所有権の移転登記をした日」と思い込み「H5・4」と記載してしまったものであること。
(リ)自分は、本件マンションの譲渡の時期について、正しくは本件調停のあった昭和62年5月29日又は本件マンションから自分の荷物をすべて搬出した昭和62年6月中旬と考えていること。
(ヌ)本件移転登記の具体的な手続については、Hが司法書士を探してきて行ったものであり、自分は約束した日にその司法書士の事務所に出かけ、その場で署名、押印をするとともに、印鑑登録証明書を提出しただけであること。
ニ 本件移転登記に係る手続を受託した司法書士であるDは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)本件調書に基づいて本件移転登記に係る手続を行ったのは自分であること。
(ロ)本件移転登記に関する件を依頼してきたのはHであり、最初は同人が一人で登記済権利証を含む関係書類一式を持って相談に来たこと。
(ハ)本件移転登記の手続に必要な書類は、Hが最初に相談に来た時点でほとんど同人が所持していたが、請求人が本件調停以後住所を変更しており、同人の最新の住民票及び印鑑登録証明書が必要だったこと。
(ニ)二度目はHと請求人が一緒に来て、自分の事務所で本件移転登記に関する書類等を作成したこと。
(ホ)三度目はHが一人で来て、書類の受領書に署名をした上、処理済の書類等を持ち帰ったこと。
(ヘ)当該依頼に係る手数料等については、すべてHから受領していること。
ホ 本件預金口座の元帳の写しには次の取引の記載がある。
(イ)本件預金口座には、昭和62年5月26日から昭和63年7月26日までの間は毎月10万円、昭和63年8月26日から平成元年3月27日までの間は毎月11万円、平成元年4月26日から平成2年7月26日までの間は毎月12万円、更に、平成2年8月27日から平成5年3月26日までの間は毎月13万2千円が請求人名義で振り込まれていること。
(ロ)なお、このほか、平成元年2月20日に100万円、平成2年4月12日に50万円、同年10月15日に30万円、平成3年4月25日に90万円及び平成4年4月27日に60万円が、それぞれ請求人名義で振り込まれていること。
(ハ)また、本件預金口座から、電気代、ガス代、水道料及び共益費が自動振替により引き落とされていること。
ヘ ところで、所得税法第36条《収入金額》第1項の規定によれば、所得税法上、収入金額とすべき金額は「別段の定めがあるものを除き、その年において収入すべき金額とする」とされており、同条にいう収入すべき金額とは、収入する権利の確定した金額をいい、資産の譲渡により発生する譲渡所得についての収入金額の権利の確定の時期は、当該資産の所有権その他の権利が相手先に移転する時であると解されている。
 すなわち、譲渡所得に係る収入金額の収入すべき時期は、譲渡所得の基因となる資産の引渡しがあった日の属する年分であると解するのが相当であるところ、引渡しがあったかどうかの判断は、売買契約等の目的とされた資産に対する現実の支配権が譲受人に移転したかどうかに基づいて行うべきであり、具体的には、売買の内容、所有権移転登記に係る手続に必要な書類の交付及び譲渡代金の決済状況等を総合勘案して行うのが相当である。
ト 前記イないしホの事実を上記ヘに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)前記イの(ハ)のB、ロの(ヘ)、ハの、(イ)及びホの(イ)によれば、請求人は、Kに係る養育費の支払の義務は誠実に履行していることが認められるほか、前記ホの(ロ)によれば、同人の大学の入学金及び在学中の授業料等を負担していることが認められるものの、請求人が、これ以外の、いわゆるH及びKの生活費等に該当する金員を負担した形跡は認められないことからして、少なくとも本件調停以後は、請求人とHの生計は別であったものと判断される。
(ロ)前記イの(ホ)によれば、請求人は、昭和60年11月9日に住所を本件マンションからQ市S町に移動していることからして、本件マンションには居住していなかったことが推認できるものの、この時点で本件マンションの支配権が請求人からHに移転したとは判断できず、本件マンションの支配権が請求人からHに移転したのは、前記ロの(ハ)及びハの(ニ)からして、昭和62年6月中旬に、請求人が本件マンションから自己に帰属する資産を搬出した時点であると判断するのが相当である。
 また、前記ハの(ロ)及び(ハ)並びにホによれば、請求人は、本件調停以後、Kの養育費の他は、H及びKに係るガス、水道光熱費等の生活費をはじめ、本件マンションに係る固定資産税、維持管理費等を一切負担せず、Hが負担していることが認められることからしても、昭和62年6月中旬以後の本件マンションの実質的な支配権はHにあるものと判断される。
(ハ)前記ハの(ホ)によれば、本件マンションの登記済権利証は、請求人が本件マンションから自己に帰属する資産を搬出した昭和62年6月中旬以後はHが所有していたものと認められるとともに、前記ニによれば、本件移転登記に係る手続もHが中心となって行ったことが認められ、このことからも昭和62年6月中旬以後の本件マンションの実質的な支配権はHにあるものと判断される。
(ニ)前記ロの(ロ)及びハの(ヘ)から判断すると、本件移転登記が平成5年4月16日となったのは、請求人とHの双方が合意のもとに、専らKが成人に達するまでの間の事情を考慮して登記のみを延期したものであるとする請求人の主張にはおよそ合理性が認められず、また、本件調停において定められた所有権移転登記の期限までに本件移転登記が実行されていない事実はあるものの、前記(イ)ないし(ハ)から判断すると、このことによって本件マンションの譲渡の時期が平成5年4月16日であるとするのは相当でない。
(ホ)なお、前記イの(ニ)のA及びCから判断すると、請求人は、平成5年分の所得税の申告に当たり、平成5年4月に本件マンションをHに譲渡し、その譲渡所得の金額の計算に当たっては、本件特例を適用して申告している事実が認められるものの、前記(イ)ないし(ニ)から総合的に判断すると、本件マンションの譲渡の時期は、昭和62年6月中旬と認めるのが相当であり、請求人が、当該申告は請求人自らの誤りによるものであるとしている主張にはおよそ理由があるものと認められる。
チ 以上のことからして、本件マンションの譲渡の時期は、請求人が本件マンションから自己の資産を搬出した昭和62年6月中旬と認めるのが相当であり、本件特例の適用の適否を判断するまでもなく、本件マンションの譲渡の時期は平成5年4月16日であると認定して行った本件更正処分は、その全部を取り消すべきである。

(2)本件賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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