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(平8.3.28裁決、裁決事例集No.51 149頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成5年分の所得税について、確定申告書に一時所得の金額等を次表のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目金額
給与所得の金額(1)2,865,000
一時所得の金額(2)49,040,064
総所得金額27,385,032
((1)+(2)×1/2)

 その後、請求人は、平成6年11月9日に、一時所得として申告した死亡保険金(以下「本件保険金」という。)は相続財産であり、申告に誤りがあったとして更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これに対し、平成7年3月2日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として平成7年3月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月5日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年7月3日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、請求人の長男F(以下「F」という。)が平成5年2月16日に死亡したことにより、G生命保険相互会社(以下「G生命」という。)から、同社との生命保険契約(以下「本件保険契約」という。)に基づき49,973,084円の本件保険金を受け取り、平成5年分の一時所得として申告した。
 しかしながら、後記ロのとおり、本件保険契約に係る契約者(以下「本件契約者」という。)及び保険料(以下「本件保険料」という。)の負担者は、いずれもFであるので、請求人が受領した本件保険金は一時所得ではなく、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号に規定するみなす相続財産(以下「みなす相続財産」という。)に該当する。
ロ 本件保険契約について
(イ)本件契約者
 本件契約者が請求人となっているのは、請求人、F及び請求人の妻とG生命の保険外交員(以下「本件外交員」という。)との間の事前の話合いでは、本件契約者及び本件保険料の支払者をFとするということであったにもかかわらず、請求人が以前G生命と契約していたFを被保険者とする生命保険契約(以下「本件旧保険契約」という。)を下取りして本件保険契約に転換したため、本件外交員の手違いにより、本件契約者をFとする手続をしなかったことによるものであり、このことについては、本件外交員も認めている。
 したがって、実質上の本件契約者は、Fである。
(ロ)本件保険料の負担者
A 第1回目の本件保険料は、本件保険契約の申込みの際にFが現金で支払っており、このことは本件外交員も確認している。
 また、第2回目以降の本件保険料は、H銀行J支店の請求人名義の普通預金口座(口座番号○○○、以下「本件口座」という。)から自動引落しされているが、本件口座には、FがK株式会社(以下「K社」という。)から受領した工賃が、平成3年5月10日88,580円、同年5月24日227,321円及び同年7月2日190,000円入金されており、当該工賃(以下「本件工賃」という。)が本件保険料の支払原資となっている。
B 請求人は、本件口座から本件保険料が自動引落しされる都度、Fあてに領収証(以下「本件領収証」という。)を発行している。
C したがって、本件保険料の負担者は、Fである。

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(2)原処分庁の主張

 請求人の主張には次のとおり理由がないから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件保険契約について
(イ)本件契約者
 本件保険契約は、平成4年8月1日、被保険者をF、本件契約者及び保険金等受取人を請求人として契約が締結されているが、保険契約期間中において、本件契約者を請求人からFに変更することができたにもかかわらず変更手続は行われておらず、かつ、本件保険料は、本件口座からの自動引落しとなっている。
 したがって、本件契約者は、Fではなく請求人である。
(ロ)本件保険料の負担者
A 請求人は、本件保険料の支払原資は、平成3年5月及び7月に本件口座に入金されたFの本件工賃である旨主張するが、本件保険契約は平成4年8月1日に締結されていることから、本件工賃と本件保険料の支払との関連性は認められない。
B 請求人は、本件口座から本件保険料が自動引落しされた都度、Fに本件領収証を発行している旨主張するが、平成4年10月分の本件保険料が本件口座から引き落されたのは平成4年11月27日であるにもかかわらず、平成4年10月13日付の本件領収証が作成されている。
C したがって、本件保険料の負担者は、Fではなく請求人である。
(ハ)ところで、生命保険料の負担者が被保険者の死亡等により受け取った一時金は、所得税法第34条《一時所得》第1項に規定する一時所得に該当することから、本件保険金は、請求人が主張するみなす相続財産には該当しない。
ロ 総所得金額について
(イ)一時所得の金額
 請求人の平成5年分の一時所得の金額は、請求人が受け取った本件保険金49,973,084円から既払保険料433,020円を控除した残額から一時所得の特別控除額500,000円を控除した49,040,064円となる。
(ロ)給与所得の金額
 請求人の平成5年分の給与所得の金額は、請求人が確定申告書に記載した金額2,865,000円である。
(ハ)総所得金額
 以上の結果、請求人の平成5年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、請求人が同年分の確定申告書に記載した金額と同額となる。

(単位 円)
項目金額
給与所得の金額12,865,000
一時所得の金額249,040,064
総所得金額27,385,032
12×1/2)

ハ したがって、原処分は適法に行われており、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件保険金が一時所得に該当するか、みなす相続財産に該当するかであるので、以下審理する。

(1)本件保険契約について

イ 当審判所が原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)本件保険契約は、平成4年8月1日に締結されていること。
(ロ)本件保険契約に係る生命保険証券によれば、本件契約者及び保険金等受取人は請求人、被保険者はFと記載されており、本件保険契約の締結後、本件保険金が支払われるまでの間、本件契約者等の変更手続は行われていないこと。
(ハ)G生命が発行した本件保険金に係る「平成5年分生命保険金・共済金受取人別支払調書」(以下「本件支払調書」という。)によれば、その「保険金等受取人」及び「保険契約者等(又は保険料等払込人)」の「氏名」欄には、いずれも請求人の氏名が記載されていること。
(ニ)G生命が平成6年11月8日付で原処分庁に提出した「保険料支払証明書」と題する書面(以下「本件証明書」という。)には、本件保険料の支払者はFである旨記載されていること。
(ホ)本件外交員が平成7年2月19日付で原処分庁に提出した「Fさんの保険契約について」と題する書面(以下「本件申立書」という。)には、要旨次のとおりの記載があること。
A 本件保険料は、Fが自分の給料の中から支払っていくということであったが、本件保険契約は本件旧保険契約を下取りにして転換したものであったため、本件外交員がついうっかりして本件契約者をFに変更しなかったもので、請求人に迷惑をかけ深く反省している。
B 第1回目の本件保険料は、本件保険契約の申込みの際、Fから現金で受領した。
(ヘ)K社が平成7年3月1日付で原処分庁に提出した「△△様(請求人)への支払について」と題する書面(以下「平成7年3月書面」という。)には、請求人に対し、ビニールハウスの建方作業等の代金として、平成3年5月8日88,992円及び同月27日228,042円の支払をした旨記載されていること。
(ト)K社が平成7年6月19日付で請求人に交付した「アルバイトF様への支払について」と題する書面には、要旨次のとおりの記載があること。
A 作業した者はFである。
B 請求額は平成3年4月分88,992円及び同年5月分228,042円である。
C Fには、本人名義の預金口座がないため、本件口座に振込支払をした。
(チ)前記(ト)の書面に添付されている請求書には、次表のとおりの内容の記載があること。

(単位 円)
請求年月日請求金額支払日発行名義人
平成3年4月30日88,992平成3年5月10日請求人
平成3年5月20日228,042平成3年5月24日請求人
平成3年6月25日229,896F
平成3年7月30日235,458F
平成3年8月28日185,400F

(リ)本件口座には、前記(チ)の請求額のうち、次表の金額が入金されていること。

(単位 円)
入金年月日請求金額
平成3年5月10日88,580
平成3年5月24日227,321
平成3年7月2日190,000

(ヌ)本件口座からは、前記(リ)の金額が入金された後、平成3年5月24日500,000円及び平成3年7月5日190,000円が出金されていること。
(ル)本件口座の平成3年9月17日現在の預金残高は102円であること。
(ヲ)本件領収証は、平成4年7月13日付から同年12月29日付まで6枚作成されていること。
ロ G生命の社員は、当審判所に対し、本件支払証明書の発行経緯について、次のとおり答述していること。
(イ)平成6年3月15日に請求人が来社し、同人から本件支払調書に記載されている本件契約者をFに訂正して再発行するよう依頼されたが、保険契約書上本件契約者は請求人で、本件保険料を自動引落しした本件口座も請求人名義となっており、かつ、本件保険金も請求人に支払われていることから、再発行はできない旨説明して断った。
 その後、請求人が何度も来社して再発行を依頼するので、その理由を聞いたところ、請求人が一時所得として申告した本件保険金を原処分庁にみなす相続財産として認めてもらうために必要であり、また、請求人は、原処分庁から、みなす相続財産として認定するためには、支払調書の再発行又は実際の本件契約者はFであることを証明する書類が必要である旨いわれているとのことであった。
(ロ)原処分庁に対し、上記(イ)の事実を問い合わせたところ、原処分庁から、同旨の回答を受けた。
(ハ)請求人から、本件保険料は、本件口座から自動引落しされているが、本件口座には本件工賃が振り込まれており、本件工賃が本件保険料の支払原資となっている旨の説明を受けたため、請求人の説明を信用して本件支払証明書を発行したものであり、本件保険料の支払者がFであることを社内資料で確認して発行したものではなく、また、社内資料からは、本件保険料の支払者がFであるとする事実を確認することはできない。
ハ 本件外交員は、当審判所に対し、本件保険契約及び本件申立書の作成経緯について、次のとおり答述していること。
(イ)請求人は、本件旧保険契約を保証の大きな保険に転換したい旨希望したので、本件保険契約のプランを作成して請求人に説明した。
(ロ)本件保険契約の際には、本件契約者を請求人、被保険者をFにすることですんなり契約が締結され、本件契約者をFにするという話はなく、自分が本件契約者をFとすべきものを手違いにより請求人としたものではない。
 また、本件保険契約の締結後に本件契約者をFに変更する旨の申出もなかった。
 なお、第1回目の本件保険料はFが現金で支払った。
(ハ)本件申立書は、請求人から依頼されたので、請求人の役に立てばと思い作成したものである。
ニ K社の関係者は、当審判所に対し、平成7年3月書面において、平成3年5月10日及び同月24日の支払工賃に係る作業者及び支払先を請求人として記載したのは、請求書の氏名が請求人となっていたことによるものであり、その後、社内で確認したところ、実際に作業に従事した者はFであることが確認されたので、前記イの(ト)の書面を請求人に交付した旨答述していること。
ホ 請求人は、当審判所に対し、(a)Fは、平成3年9月ころから平成4年11月ころまでの間△△に居住していたが、1か月半から2か月ぐらいに1回は帰省していた、(b)本件領収証は毎月作成したものではなく、日付も便宜的なものであり、Fが△△から戻った平成4年11月にそれまで作成していた本件領収証を一括して渡した旨答述していること。
ヘ 請求人の妻は、当審判所に対し、(a)本件保険契約に係る生命保険契約申込書を記載したのは同人である、(b)第1回目の本件保険料は、Fが2万円を出し、残額は請求人が支払ったが、Fが△△に帰る時には小遣いを渡した旨答述していること。
ト 前記イの事実及びロないしへの答述に基づき本件契約者及び本件保険料の負担者について審理したところ、次のとおりである。
(イ)本件契約者
 請求人は、本件契約者が請求人となっているのは、本件外交員が手違いにより本件契約者をFとする手続をしなかったことによるものであり、このことについては本件保険外交員も認めているのであるから、実際の本件契約者はFである旨主張する。
 しかしながら、1前記ハの本件外交員の答述からすると、本件契約者が請求人となったことが本件外交員の手違いによるものとは認められないこと、2前記へのとおり本件保険契約に係る生命保険契約申込書を記載したのは請求人の妻であり、それには本件契約者として請求人の氏名が記載されていること及び3本件保険契約に係る生命保険証券によれば、本件契約者は請求人と記載されており、請求人からは、G生命に対し、本件保険金が支払われるまでの間、本件契約者をFに変更することの申出及び本件契約者の変更手続に必要な書類の提出等の具体的な申請手続は行われていないことが認められる。
 そうすると、本件契約者は請求人であるとみるのが相当である。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
(ロ)本件保険料の負担者
A 請求人は、第1回目の本件保険料はFが支払っており、第2回目以降の本件保険料についても、Fの本件工賃がその支払原資となっているから、本件保険料の負担者はFである旨主張する。
 しかしながら、1前記ハの(ロ)及びへのとおり、第1回目の本件保険料の全部又は大部分をFが支払った事実は認められるものの、請求人の妻は、Fが△△に帰る時に小遣いを渡していることからすると、同人が実質的にそれを負担したとは必ずしもいえないこと、2前記イの(リ)ないし(ル)のとおり、本件口座に本件工賃が入金されている事実は認められるものの、入金直後に出金された金額の合計は当該入金額を上回っており、しかも、本件保険契約が締結される約1年前の平成3年9月17日現在(Fが△△に出発したころでもある。)の本件口座の預金残高は102円であること、また、同日以降、本件口座にはFから入金されている事実は認められず、かつ、請求人が本件保険料の支払のためにFから別途現金を受領した事実も認められないことからすると、本件工賃などのFが得た収入が、第2回目以降の本件保険料の支払原資になっていると推認することもできないことから、本件保険料を実際に負担したのがFであると認めるに足る証拠はないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
B 請求人は、本件口座から本件保険料が自動引落しされた都度、本件領収証を発行しているから、本件保険料の支払者はFである旨主張する。
 しかしながら、1請求人が主張するように本件契約者を請求人にしたことは誤りであって、本件保険料の負担者をFとすることが真意であったとするならば、まず、G生命に対し本件契約者の氏名が誤っている旨を申立て、これをFに変更してもらうのが自然であり、そうすれば、Fに対し本件領収証を発行するという不自然な行為をあえてする必要はなかったと認められること、2前記ホのとおり、請求人は、本件領収証の発行日付は便宜的なものである旨答述していること及び3前記Aで述べたとおり、Fが本件保険料を実際に負担したと認めるに足りる証拠もないことから、本件領収証が発行されていることをもって、本件保険料の負担者がFであると認めることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上のことに加え、本件保険契約に転換された本件旧保険契約に係る保険料の負担者も請求人であることから、本件保険金に係る保険料はすべて請求人が負担したものと認められるので、本件保険金は、所得税法第34条第1項に規定する一時所得に該当するものと認められ、みなす相続財産に該当するものとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(2)総所得金額について

イ 一時所得の金額
 原処分庁は、請求人の平成5年分の一時所得の金額について、本件保険金49,973,084円から既払保険料433,020円を控除した残額から一時所得の特別控除額500,000円を控除した49,040,064円と算定しているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
ロ 給与所得の金額
 原処分庁は、請求人の平成5年分の給与所得の金額について、請求人が確定申告書に記載した金額2,865,000円であるとしているところ、当審判所の調査によっても、原処分庁の認定額は相当と認められる。
ハ 総所得金額
 以上の結果、請求人の平成5年分の総所得金額は、次表のとおりとなり、原処分庁の認定額と同額となる。

(単位 円)
項目金額
給与所得の金額1 2,865,000
一時所得の金額249,040,064
総所得金額27,385,032
12×1/2)

(3)したがって、請求人がした本件更正の請求に対し、原処分庁が更正をすべき理由がないとして行った原処分は適法である。
(4)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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