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(平8.3.1裁決、裁決事例集No.51 187頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、会社役員であるが、請求人の母Fが社会福祉法人Gホームの経営する特別養護老人ホーム(以下「Gホーム」という。)に入所したことにより、老人福祉法(以下「福祉法」という。)第28条《費用の徴収》の規定に基づき、請求人がH市長に平成5年に納付した1,278,600円及び平成6年に納付した1,732,800円(以下、併せて「措置費徴収金」という。)は、所得税法第73条《医療費控除》に規定する医療費に該当するとして、平成5年分及び平成6年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、青色の確定申告書に別表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年5月2日付で各年分の所得税について、別表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成7年6月13日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 医療費控除に係る各年分の更正処分について
 措置費徴収金は、次のとおり所得税法第73条に規定する医療費に該当するから、医療費控除の対象とすべきである。
(イ)Fは、福祉法及び老人保健法(以下「保健法」という。)の双方にいう老人に該当している。
A 福祉法にいう特別養護老人ホームは、「65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なもの」の入所、養護を目的としているが、Fはこれに該当する。
B 保健法にいう老人保健施設は、「疾病、負傷等により、寝たきりの状態にある老人又はこれに準ずる状態にある老人」に対し、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療を行うとともに、その日常生活上の世話を行うことを目的とするが、Fはこの老人にも該当する。
(ロ)保健法による老人保健施設と福祉法による特別養護老人ホームは、立法時の趣旨は別として、その機能及び運営上において区別し難い状況になってきており、老人の実質的な看護の仕方についてもその差異はほとんど認められない。
 また、入所者としてどの施設に入所するかは、施設側に入所できる余裕があるか否かにより決まるのであり、どちらに入所しても実質の介護あるいは必要な医療には相違がない。にもかかわらず、老人保健施設の利用料が医療費控除の対象とされ、特別養護老人ホームに係る措置費徴収金が医療費控除の対象とされないということは、偶然入所した施設によって医療費控除の適用があるか否かが決定されることになり、課税において著しく不公平である。
(ハ)Gホームは、週一回定期的に、あるいは必要な場合には随時医師の診療が受けられ、
さらに、専門的に訓練を受けた職員(看護婦、寮母、ケースワーカー、栄養士、調理師及び看護コンサルタント等)が常時看護しているなど、医療機関と同質である。
 そして、Fは、Gホームの医師から老人性痴呆、糖尿病等と診断され、これらの疾病に対し加療及び介護を必要とし、寝たきりの状態にある老人に準ずる状態である。
 Gホームには単なる老人ホームとしての利用者から、加療、介護の必要性のある者まで入所しているため、医療費控除の適用に当たっては入所者の個々の状況を考慮すべきである。
(ニ)請求人は、H市長に措置費徴収金を支払っているが、その実質は医療費と何ら異なることはない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は、違法、不当であるから、各年分の過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 医療費控除に係る各年分の更正処分について
 次のとおり、措置費徴収金は医療費控除の対象とはならない。
(イ)特別養護老人ホームは、福祉法第11条《老人ホームへの入所等》第1項第2号に定める「65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なもの」を収容する施設であり、同法第1条《目的》には、「この法律は、老人の福祉に関する原理を明らかにするとともに、老人に対し、その心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な措置を講じ、もって老人の福祉を図ることを目的とする。」と施設設置の目的が示されている。
 また、措置を要する老人の基準として、厚生省社会局長通知は、他の被措置者に伝染するおそれのある伝染性疾患を有さない者であり、かつ、入院加療を要する病態ではない者で、歩行、排せつ、食事、入浴、着脱衣の日常生活動作の全介助が1項目以上か一部介助が2項目以上あり、かつ、その状態が継続すると認められる者、又は、痴呆等精神障害の問題行動が重度又は中度に該当し、かつ、その状態が継続すると認められる者(著しい精神障害及び問題行動のため医療処遇が適当な者を除く。)と定めており、この入所基準と上記の目的を併せて判断すると、特別養護老人ホームは、医療行為を行うための場所ではなく、家族に代わって日常生活の世話をする場所であると解される。
(ロ)また、老人保健施設は、保健法等の一部を改正する法律(昭和61年法律第106号)により創設された、病院と特別養護老人ホームとの中間施設的なもので、保健法第6条《定義》第4項に規定する「疾病、負傷等により、寝たきりの状態にある老人又はこれに準ずる状態にある老人」に対して、ふさわしい医療サービスと生活サービスを一体的に提供することを目的とし、入院加療の必要はないが、リハビリテーション、看護、医療的管理下の介護及び機能訓練等の医療を要する老人等を入所基準としており、医師の管理の下で医療を行うことを目的とする施設である。
 そして、保健法第46条の17《医療法との関係等》第1項において、「医療法上の病院又は診療所ではないが、医療法及びこれに基づく命令以外の法令の規定(健康保険法、国民健康保険法その他の法令で定める規定を除く。)において『病院』又は『診療所』とあるのは、老人保健施設を含むものとする。」と規定されている。
 したがって、所得税法施行令第207条《医療費の範囲》第3号に掲げる「病院」、「診療所」には老人保健施設が含まれ、福祉法に基づいて創設されたGホームは含まれないこととなる。
(ハ)また、Gホームにおける入所者の受ける措置は、前記(イ)のとおり、日常生活の世話であり、所得税法施行令第207条第5号に掲げる療養上の世話にも該当しない。
(ニ)福祉法第21条《市町村の支弁》に基づき市町村長が特別養護老人ホームに支弁する費用(以下「措置費」という。)は、入所者が、心身の状況、その置かれている環境等に応じて、最も適切な処遇が受けられるように措置を行うためのもので、その内訳は一般事務費及び一般生活費であり、当該市町村の長は、当該措置に係る者又はその扶養義務者から、その負担能力に応じて当該措置に要する費用の全部又は一部を徴収することができるとされている。
 したがって、措置費徴収金は、所得税法第73条及び同法施行令第207条に規定する医療費控除の対象には該当しない。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、各年分の更正処分は適法であり、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づき行った各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、措置費徴収金が所得税法第73条に規定する医療費に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)医療費控除に係る各年分の更正処分について

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
(イ)Gホームは、福祉法第5条の3《定義》に規定する老人福祉施設のうちの特別養護老人ホームであり、その設備及び運営は「養護老人ホーム及び特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(昭和41年7月1日、厚生省令第19号)に基づいて行われていること。
 また、入所対象者は、「老人ホームへの入所措置等の指針について」(昭和62年1月31日、社老第8号、厚生省社会局長通知)によって、伝染性疾患を有することにより他の被措置者等に伝染させるおそれがなく、入院加療を要する病態でない者で、1歩行、排せつ、食事、入浴、着脱衣の日常生活動作のうち、全介助が1項目以上及び一部介助が2項目以上あり、かつ、その状態が継続すると認められる者、又は、2 痴呆等精神障害の問題行動が重度又は中度に該当し、かつ、その状態が継続すると認められる者(著しい精神障害及び問題行動のため医療処遇が適当な者を除く。)であること。
 なお、特別養護老人ホームは、老人の福祉を図ることを目的として福祉法第11条第1項第2号「65歳以上の者であって、身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものを当該地方公共団体の設置する特別養護老人ホームに入所させ、又は当該地方公共団体以外の者の設置する特別養護老人ホームに入所を委託すること。」の規定を受けて同法第20条の5《特別養護老人ホーム》の「特別養護老人ホームは、第11条第1項第2号の措置に係る者を入所させ、養護することを目的とする施設」として設置されたものであること。
(ロ)Fは、請求人からの入所申請に基づきH市長が審査した結果、特別養護老人ホームへの入所措置の基準に該当すると判定され、Gホームに入所したこと。
(ハ)Gホームにおいては、1嘱託医師(1名)が週一回同ホーム内の医務室において入所者に対し健康管理の面から診療等を行っているが、これに係る診療費等は、保健法の適用を受け、別途社会保険庁等に請求することとなるため、措置費徴収金には含まれていないこと、2看護婦(2名)は、嘱託医師の手助けをし、入所者の日常の検温、血圧測定、投薬等を行っていること及び3寮母は、入所者の養護、介護、給食、配膳及び洗濯等に従事しており、入所者のそれぞれの状態に応じて食事、入浴及びオムツの取替え等の日常の生活の介護、介助を行っていること。
 なお、入所者に検査を伴う医療処遇の必要が生じた場合、入所者は、嘱託医師の指示により外部の病院で診療等を受けるのが通常であり、Gホームで上記1の医療行為を受けた場合と同様、その診療費等は、保健法等の適用を受け、各病院から別途社会保険庁等に請求されていること。
(ニ)Gホームは、H市長等から福祉法第21条に基づき支弁されている措置費で運営されており、その内訳は、生活費、人件費及び管理費からなっていること。
 また、請求人が負担した措置費徴収金は、福祉法第28条第1項「第11条の規定による措置に要する費用については、これを支弁した市町村の長は、当該措置に係る者又はその扶養義務者(民法(明治29年法律第89号)に定める扶養義務者をいう。以下同じ。)から、その負担能力に応じて、当該措置に要する費用の全部又は一部を徴収することができる。」の規定を受けて、厚生省の定める費用徴収基準に基づき、前年の収入及び前年の所得税の年税額による各階層区分により決定されたものであり、医療費に相当する金額は含まれていないこと。
ロ 以上の事実に基づいて判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、保健法による老人保健施設と福祉法による特別養護老人ホームは、立法時の趣旨は別として、その機能、運営上において区別し難い状況になってきている旨主張する。
 しかしながら、Gホームは、前記イの(イ)のとおり、福祉法に基づき、65歳以上の者で身体上又は精神上著しい障害があるために常時の介護を必要とし、かつ、居宅においてこれを受けることが困難なものを家族に代わって介護、介助するために設置された福祉施設であるところ、「老人保健施設の施設及び設備、人員並びに運営に関する基準」(昭和63年1月4日、厚生省令第1号)第13条《入退所》第1項によれば、「老人保健施設は、その身体の状態及び病状に照らし施設療養の提供が必要であると認められる入所申込者を老人保健施設に入所させるものとする。」と規定しており、さらに、施設療養とは保健法第46条の2《老人保健施設療養費の支給》第1項で、「看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療」と規定されている。加えて老人保健施設が医療法等以外の法令においては「病院」又は「診療所」に含まれる旨保健法で規定されていることから、保健法により設置された老人保健施設と福祉法により設置されたGホームをその依拠する法の趣旨を離れ同質の施設であるとみることはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)請求人は、Gホームは医療機関と同質であり、また、医療費控除の適用に当たっては入所者個々の状況を考慮すべきである旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ニ)のとおり、H市長から支弁される措置費は生活費、人件費及び管理費から構成され、Gホームはその支弁された措置費により運営されている福祉施設であるところ、同ホームの入所条件及び施設設置目的並びにFを含めた入所者が同ホームで前記イの(ハ)の措置を受けていることから、同ホームの入所者個々の受ける介護、介助等の程度に多少差があったとしても、Fが被措置者として福祉施設である同ホームで受けた措置は、日常生活の世話の範囲内であるとみるのが相当である。
 また、仮にFがGホームにおいて医師等による診療を受けていたとしても、前記イの(ハ)のとおり、その対価(費用)は保健法の適用を受け、別途社会保険庁等へ請求されるものであるから、上記内容の措置とは区別されているものというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)請求人は、FがGホームで受けた診療、加療及び介護の対価として支払った措置費徴収金の実質は、医療費と何ら異なることはないから、医療費控除の対象になる旨主張する。
A ところで、医療費控除の対象となる医療費とは、所得税法第73条第2項の規定によれば、「医師又は歯科医師による診療又は治療、治療又は療養に必要な医薬品の購入その他医療又はこれに関連する人的役務の提供の対価のうち通常必要であると認められるもの」とされており、1医師、歯科医師、あん摩マッサージ指圧師等の施術者及び助産婦(以下「医師等」という。)による診療、治療、施術又は分べんの介助(以下「診療等」という。)の費用に相当するもの、2医師等による診療等を受けるための通院費若しくは医師等の送迎費、入院若しくは入所の対価として支払う部屋代、食事代等の費用又は医療用器具等の購入、賃貸若しくは使用のための費用で、通常必要なもの及び3自己の日常最低限の用をたすために供される義手、義足、松葉づえ、補聴器、義歯等の購入のための費用が含まれると解されている。
B これを本件についてみると、請求人が医療費控除の対象とすべきである旨主張する措置費徴収金は、FがGホームで受けた個々の措置内容とは関係なく、前記イの(ニ)のとおり、H市長が費用徴収基準により負担能力に応じて請求人から徴収したものであって、前記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、医師等による診療の対価については当該措置費徴収金に含まれていないことが認められるほか、前記Aの費用に相当するものが含まれていることを認定するに足りる証拠はない。
 そうすると、措置費徴収金が医療費控除の対象になる旨の請求人の主張は採用できない。
ハ 以上の結果、措置費徴収金は、所得税法第73条に規定する医療費に該当せず、医療費控除の対象とはならない。
 したがって、各年分の更正処分はいずれも適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 前記(1)のとおり、各年分の更正処分は適法であり、また、当該更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づく各年分の過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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別表

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
平成5年分総所得金額20,801,54220,801,542
医療費控除額1,726,310447,710
納付すべき税額7,200518,800
過少申告加算税の額51,000
平成6年分総所得金額22,406,54122,406,541
医療費控除額2,000,000571,082
納付すべき税額△288,320168,900
過少申告加算税の額45,000

(注)納付すべき税額欄の△印は、還付金の額に相当する税額を示す。