ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.51 >> (平8.5.20裁決、裁決事例集No.51 220頁)

(平8.5.20裁決、裁決事例集No.51 220頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成5年分の所得税について、確定申告書(分離課税用)に次表の「確定申告」欄のとおり記載して法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
項目確定申告修正申告
総所得金額14,397,81914,745,300
内訳
 事業所得の金額△347,4810
 不動産所得の金額14,745,30014,745,300
分離長期譲渡所得の金額771,659,646771,659,646
納付すべき税額118,593,200118,732,000

(注)「事業所得の金額」欄の△印は、その金額が損失の金額であることを示す。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、上表の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を平成6年8月23日に提出した。
 これに対して、原処分庁は、平成6年8月31日付で、修正申告により納付すべき税額を基礎として、過少申告加算税の額を13,000円とする賦課決定処分をした。
 その後、原処分庁は、平成7年1月31日付で次表のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

(単位 円)
区分項目金額
更正処分総所得金額14,745,300
 内訳
 事業所得の金額0
 不動産所得の金額14,745,300
 分離長期譲渡所得の金額771,659,646
 納付すべき税額184,960,900
賦課決定処分過少申告加算税の額6,622,000

 請求人は、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として平成7年2月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年6月20日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人は、同人の所有するP市R町73番3、同所79番1及び同所81番1所在の3筆合計1,610.35平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)を平成5年5月25日に、株式会社Z(以下「Z社」という。)へ譲渡した(以下「本件譲渡」という。)。
 そして、請求人は、平成5年分の所得税の確定申告に当たり、本件譲渡に係る分離長期譲渡所得(以下「本件譲渡所得」という。)について、租税特別措置法(平成6年法律第22号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第31条の2《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第2項第9号に規定する特例(以下「本件特例」という。)を適用して申告した。
 その後、請求人は、Z社から、租税特別措置法施行規則(平成6年大蔵省令第41号による改正前のもの。以下「措置法規則」という。)第13条の3《優良住宅地の造成等のために土地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例》第1項第9号に規定する書類(以下「本件特例適用に係る証明書」という。)の交付を受け、これを原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、請求人が提出した本件特例適用に係る証明書のうち建築基準法第7条《建築物に関する検査》第3項の規定による検査済証(以下「本件検査済証」という。)は、本件土地の上に建築されたG壱番館及び同弐番館と称する建物(以下、それぞれ「壱番館」及び「弐番館」といい、併せて「本件建物」という。)の建築に関与していないH株式会社a支店(以下「H社」という。)を建築主に加えた届出に基づいて交付されたものであるから、本件検査済証は、適正な申請、届出に基づいて交付されたものでなく、真正なものということはできないので、本件譲渡所得に本件特例は適用できないとして本件更正処分をした。
 しかしながら、以下の理由により、本件譲渡所得には本件特例を適用すべきであるにもかかわらず、その適用をしない本件更正処分は違法である。
(イ)建築基準法第6条《建築物の建築等に関する申請及び確認》第1項の規定による確認申請書の建築主について、Z社からZ社及びH社の連名に変更され、その結果として本件検査済証の建築主がZ社及びH社の連名になることは、すべて建築基準法による適法な手続きに基づいているのであるから、本件検査済証は、真正なものである。
(ロ)本件検査済証の建築主が、連名であるとしても、建築主としてZ社の名義が記載されているから、本件譲渡により本件土地を譲り受けたZ社が本件建物を建築したことは証明されており、Z社は、実質において、建物建設に関する法の基準を遵守した優良な住宅を建設して、H社に譲渡したものであるから、本件特例の立法趣旨である優良住宅地の供給に寄与している。
(ハ)本件検査済証の建築主を連名にしたことは、営業上の便宜のためだけであり、それも、請求人の関知しないところで行われており、請求人に過失がないにもかかわらず、検査済証に建築主として建物の建設に関与していない者の名義が記載されているということだけで、多額の課税を行うことが、本件特例の趣旨であるとは考えられない。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁が調査したところによれば、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成5年5月25日付でZ社に本件土地を608,912,500円で譲渡する旨の売買契約を締結したこと。
B 建築基準法第6条第3項の規定により建築主事から交付された平成5年6月24日付の確認通知書(確認番号第□□号をいう。)には、次のとおり記載されていること。
(A)建築主、設置者又は築造主 Z社
(B)申請年月日 平成5年6月2日
(C)建築場所、設置場所又は築造場所 P市R町81番地1
(D)建築物の名称 J壱番館
C 建築基準法第6条第3項の規定により建築主事から交付された平成5年6月24日付の確認通知書(確認番号第△△号をいう。)には、次のとおり記載されていること。
(A)建築主、設置者又は築造主 Z社
(B)申請年月日 平成5年6月3日
(C)建築場所、設置場所又は築造場所 P市R町79番地1
(D)建築物の名称 (仮称)J弐番館
D Z社は、平成5年7月1日付でK建築設計事務所(以下「K設計」という。)と建築士業務委託契約を締結し、本件建物に関する設計業務を委託したこと。
E Z社は、平成5年7月27日付でH社に本件土地及び本件建物を1,678,740,000円で譲渡する旨の売買契約を締結したこと。
F Z社は、平成5年8月4日付でM株式会社(以下「M社」という。)と本件建物の工事請負契約を締結したこと。
G Z社は、平成5年8月24日付でK設計と建築士業務委託契約を締結し、本件建物の新築工事に関する工事監理業務を委託したこと。
H Z社が、平成6年6月3日付でP市建築基準法施行細則第15条第1項ただし書の規定に基づいてP市長及び建築主事に提出した壱番館及び弐番館に関する「名義変更届」には、次のとおり記載されていること。
(A)壱番館
確認の年月日及び番号 平成5年6月24日 第□□号
建築主住所氏名 新  Q市S町1丁目37番24号 Z社
           T市W町5番1○○ビル17階 H社a支店
        旧  X市Y町2丁目3番21号 Z社
変更理由       共同事業となるため 事業所 所在地の移転
(B)弐番館
確認の年月日及び番号 平成5年6月24日 第△△号
建築主住所氏名 新  Q市S町1丁目37番24号 Z社
           T市W町5番1○○ビル17階 H社a支店
        旧  X市Y町2丁目3番21号 Z社
変更理由       共同事業となるため 事業所 所在地の移転
I 建築基準法第7条第3項の規定により建築主事から交付を受けた平成6年8月26日付の壱番館及び弐番館に係る本件検査済証には、次のとおり記載されていること。
(A)壱番館
建築主、設置者又は、築造主   Z社 H社a支店
建築確認番号          第□□号
建築確認年月日         平成5年6月24日
建築場所、設置場所又は築造場所 P市R町81番1
建築物の名称          G壱番館
(B)弐番館
建築主、設置者又は、築造主   Z社 H社a支店
建築確認番号          第△△号
建築確認年月日         平成5年6月24日
建築場所、設置場所又は築造場所 P市R町79番1
建築物の名称          G弐番館
J Z社は、平成6年8月19日付でP市長から措置法第31条の2第2項第9号ニの規定に基づく壱番館及び弐番館の認定書を受領しており、この認定書には、次のとおり記載されていること。
(A)壱番館
認定番号   平成6年8月19日第○×号
住宅の名称  G壱番館
住宅の所在地 P市R町73番3
住宅の床面積 1,455.26平方メートル
(B)弐番館
認定番号   平成6年8月19日第○□号
住宅の名称  G弐番館
住宅の所在地 P市R町73番4
住宅の床面積 2,088.23平方メートル
(ロ)ところで、本件特例は、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の建設を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が、当該一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅の用に供されるものについて、当該譲渡に該当することが大蔵省令で定めるところにより証明された場合に、当該譲渡に係る課税長期譲渡所得の金額に対して15パーセントの税率が適用されるとする制度であり、本件特例の適用要件については、むやみに類推解釈ないし拡大解釈をすることは許されないと解されている。
(ハ)上記(イ)の事実を上記(ロ)に照らしてみると、H社は、Z社から本件土地及び本件建物を本件建物の完成後に購入するとしていることから、本件建物の建築主ではなく、また、請求人から本件土地を取得したものでもないことは明らかであり、建築主にH社を加えた届出に基づいて交付された本件検査済証は、適正な申請、届出等に基づいて交付されたものとは認められないので、本件譲渡が本件特例にいう譲渡の要件を充足することについて、大蔵省令で定めるところにより証明されたこととはならず、したがって、本件譲渡所得について本件特例を適用することはできない。
(ニ)以上のことから、請求人の平成5年分の所得税の納付すべき税額を計算すると184,960,900円となるので、これと同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 本件審査請求の争点は、本件譲渡所得について、本件特例を適用できるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 当審判所が、原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成5年5月25日付でZ社に本件土地を608,912,500円で譲渡する旨の売買契約を締結したこと。
(ロ)Z社は、平成5年6月2日及び同月3日付で建築基準法第6条第1項の規定により、P市建築主事に本件建物の建築に係る確認申請を行ったこと。
(ハ)上記(ロ)の申請に基づき、Z社が、P市建築主事から平成5年6月24日付で交付された確認通知書には、建築主、設置者又は築造主がZ社と記載されていること。
(ニ)Z社は、平成5年7月1日付でK建築設計事務所と建築士業務委託契約を締結し、本件建物に関する設計業務を委託したこと。
(ホ)Z社は、平成5年7月27日付でH社に本件土地及び本件建物を1,678,740,000円で譲渡する旨の売買契約を締結したこと。
(ヘ)上記(ホ)の売買契約書には、次のとおり記載されていること。
A H社は、本件土地及び本件建物の売買代金を次のとおりZ社に支払う。
(A)初回金(契約時)   金831,500,000円
(B)第2回金(着工月末) 金169,448,000円
(C)第3回金(上棟月末) 金169,448,000円
(D)残金(竣工引渡時)  金508,344,000円
B 本件土地及び本件建物の所有権は、上記Aの(D)の売買代金の残金の支払と同時にZ社からH社に移転する。
C Z社は、上記Aの(D)の売買代金の支払いと同時に本件土地及び本件建物をH社に引き渡す。
D Z社は、H社の要望がある時は、速やかに本件建物の建築確認上の建築主名義をZ社及びH社の名義に変更する。
(ト)Z社は、平成5年8月4日付でM社と本件建物の工事請負契約を締結したこと。
(チ)Z社は、平成5年8月24日付でK設計と建築士業務委託契約を締結し、本件建物の新築工事に関する工事監理業務を委託したこと。
(リ)Z社が、平成6年6月3日付でP市建築基準法施行細則第15条第1項ただし書の規定に基づいてP市長及び建築主事に提出した名義変更届には、本件建物の建設が共同事業となることを理由として、建築主をZ社からZ社及びH社に変更する旨の記載があること。
(ヌ)請求人が本件特例適用に係る証明書として提出した平成6年8月26日付の本件検査済証の「建築主、設置者又は築造主」欄には、Z社及びH社の記載があること。
(ル)Z社は、平成6年8月19日付でP市長から本件建物に係る措置法第31条の2第2項第9号ニの規定に基づく認定書を受理していること。
(ヲ)原処分に係る調査の際に、Z社の担当者及び同社の関与税理士は、原処分庁に対し要旨次のとおり申述していること。
A 本件検査済証の建築主は、Z社とH社との連名になっているが、本件建物の設計・施工等はZ社がすべて行った。
B H社を建築主に含めたのは、本件土地及び本件建物の販売のためであり、マンションの分譲に当たっては、H社の「G」というブランドが欲しかった。
C H社は、本件土地及び本件建物を分譲するに際して住宅金融公庫の融資付住宅とするために、建築主として検査済証の交付を受ける必要があった。
ロ ところで、本件特例は、個人が、昭和62年10月1日から平成8年3月31日までの間に、その有する土地等でその年の1月1日において、所有期間が5年を超えるものの譲渡をした場合に、その譲渡が優良住宅地等のための譲渡に該当する場合は、当該譲渡に係る課税長期譲渡所得の金額に対し100分の15の税率を適用して所得税を課す旨規定し、優良住宅地等のための土地等の譲渡とは、一団の住宅又は中高層の耐火共同住宅(以下「特例建物」という。)の建設を行う個人又は法人に対する土地等の譲渡で、当該譲渡に係る土地等が特例建物の用に供されるもので、大蔵省令で定めるところにより証明されたものをいう旨規定している。
 さらに、本件特例は、譲受人の範囲を、特例建物の建設を行う個人又は法人とする旨規定し、また、当該個人又は法人には、(a)当該建設を行う個人の死亡により当該建設に関する事業を承継した当該個人の相続人又は包括受遺者が当該建設を行う場合には、当該死亡した個人又は当該相続人若しくは包括受遺者、並びに(b)当該建設を行う法人の合併による消滅により当該建設に関する事業を引き継いだ当該合併に係る法人税法第2条《定義》第11号に規定する合併法人が当該建設を行う場合には、当該合併により消滅した法人又は当該合併法人に限り含まれる旨規定している。
 これは、特例建物の建設を行う者の範囲を限定するものでもあって、特例建物の建設を行う者は、当該譲渡により土地等を買い取った個人又は法人並びに当該個人又は法人から相続及び合併により建設に関する事業を承継した個人又は法人に限るものと解するのが相当であり、これらの個人又は法人に当たらない者が、特例建物の建設を行っていたり、当該建設の共同事業者となっている場合には、本件特例の適用はないものと解される。
ハ また、措置法規則第13条の3第1項第9号では、大蔵省令で定めるところにより証明された土地等の譲渡とは、土地等の買取りをする者から交付を受けた(a)特例建物の建設に係る規模要件及び地域要件に関する事項の記載のある都道府県知事(市町村長)に対する優良な住宅の供給に寄与するものであることの認定申請書の写し及び都道府県知事(市町村長)がその申請に基づき当該認定をしたことを証する書類の写し、(b)譲渡に係る土地等が上記の認定の区域内に所在し、かつ、特例建物の用に供する旨を証する書類及び(c)建築基準法第7条第3項に規定する検査済証の写しを確定申告書に添付することにより証明された土地等の譲渡とする旨規定している。
 さらに、特例建物の建設に当たっては、長期間を要するものもあるため、土地等の買取りがあった年中に当該証明書が交付されるとは限らないので、その場合であっても、譲渡の日以後一定期間内に優良住宅地等のための譲渡に該当することが明らかなものについては、その旨の書類を確定申告書に添付し、後日、本件特例適用に係る証明書を提出することを条件に本件特例を適用できるとしている。
 このことは、本件特例の適用要件として、本件特例適用に係る証明書の確定申告書への添付あるいは提出を義務付けるものであり、これらの本件特例適用に係る証明書により、その土地等の譲渡が、適用対象となる優良住宅地等の譲渡に該当することについて、証明されなければ、本件特例は適用されず、また、これらの証明書類は、適正な申請、届出に基づいて発行されたものでなければならないと解される。
 そして、本件特例は、譲渡所得に係る税額を軽減するものとして措置法に規定されている特別な制度であることからすれば、その適用要件については厳格に解釈すべきであり、むやみに類推解釈又は拡大解釈をすべきでないと解される。
ニ 上記イの事実を上記ロ及びハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人が本件特例適用に係る証明書として提出した本件検査済証によれば、上記イの(ヌ)のとおり、本件建物の建築主は、Z社とH社となっており、これにより明らかなことは、本件建物がZ社及びH社の共同により建設されたものであるということである。
(ロ)ところで、本件特例は、上記ロのとおり、特例建物の建設を行う者の範囲が定められているところ、H社は、請求人から本件土地の買取りをした法人ではなく、また、Z社との合併により本件建物の建設に係る事業を承継した法人でもないから、本件建物をZ社及びH社が共同で建設しているとすると、本件土地の譲渡は、本件特例の適用対象となる譲渡に該当しないこととなる。
(ハ)そうすると、本件検査済証によって、本件土地の譲渡が本件特例の適用対象となる譲渡に該当することを証明したことにならないと認められるから、本件譲渡所得に本件特例の適用はないとみるのが相当である。
ホ 請求人は、建築確認申請書の建築主が連名に変更され、その結果として、本件検査済証の建築主が連名になることは、建築基準法による適法な手続きに基づくもので、建築主が連名であるとしても、建築主としてZ社の記載があり、Z社が本件建物の建設をしたことは証明されているから、本件特例の適用要件を満たすものである旨主張する。
 しかしながら、上記イの(リ)のとおり、平成6年6月3日付でP市長及び建築主事あてに、本件建物の建築が共同事業となるため建築主をZ社からZ社及びH社に変更する旨の名義変更届をしていることからみても、本件建物はZ社及びH社の共同事業により建設されたこととなり、本件検査済証は、上記ニのとおり本件土地の譲渡が本件特例の適用対象となる譲渡に該当することを証明するものでないから、この点に関する請求人の主張は採用することができない。
ヘ 請求人は、本件検査済証の建築主を連名にしたのは、営業上の便宜のためだけにしたことであり、Z社は、実質において特例建物としての本件建物を建設しているから、実質的に判断して、本件特例を適用すべきである旨主張するので、以下審理する。
(イ)建築基準法第2条《定義》第16号及び同法第7条の規定によれば、同法第7条第3項に規定する検査済証は、建築主事が建築物の建築工事が完了した場合にその建築主(建築物に関する工事の請負契約の注文者又は請負契約によらないで自らその工事をするものをいう。)から、その旨の届出を受けて、その建築物がその建築物の敷地、構造及び建築設備に関する法律等に適合しているかどうかを検査し、上記の法律等に適合していると認めたときにはその建築主に対して交付されることとされている。
(ロ)確かに、Z社が、(a)上記イの(ハ)のとおり本件建物に係る建築主として建築確認を受けていること、(b)上記イの(ニ)、(ト)及び(チ)のとおり本件建物に関する設計、工事請負、工事監理に係る契約を締結していること、(c)上記イの(ホ)及び(ヘ)のとおり本件土地及び本件建物をH社に譲渡していることからすると、本件建物の実質的な建築主はZ社であるかのように判断され、また、上記イの(ヲ)のZ社の担当者のH社を本件建物の建築主に含めたのは本件建物等の販売の便宜のためであったとの申述からすると、H社は、本件建物の実質上の建築主ではないと推認することもできるが、仮にそうであるとすると、本件検査済証は、本件建物の建築主ではないH社を建築主に含めて届出をし、その届出等に基づいて交付を受けたものとみるのが相当であり、上記(イ)の建築基準法に規定された適正な申請、届出等に基づいて交付された検査済証ではないこととなる。
(ハ)そうすると、本件特例は、適正な申請及び届出等によらずして交付を受けた証明書類によって、本件特例の適用対象となる譲渡であることの証明を予定しているものとは解されないから、本件検査済証は、そもそも本件土地の譲渡が本件特例の適用対象となる譲渡であることを証明する書類に当たらないこととなる。
(ニ)また、法律の適用に当たっては、その趣旨や実質面から判断することも必要であるが、法律の規定に合致しない事実についてまで実質面等だけの判断で適用すべきでなく、また、措置法に規定する税負担の軽減の特例は、厳格に解釈すべきであり、みだりに類推解釈ないし拡大解釈をすべきでないと解されているところ、上記ニのとおり、本件譲渡は本件特例の適用要件を充たすものとみることはできないので、たとえZ社が、優良な住宅の供給に寄与しているとしても、本件譲渡所得に本件特例を適用することはできない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 請求人は、請求人自身に過失がないにもかかわらず、本件譲渡所得に多額の課税をすることは本件特例の趣旨とは考えられない旨主張するが、本件特例の適用要件は上記ロ及びハのとおりであり、請求人の過失の有無によりその適用が左右されるものではないというべきであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
チ 以上のとおりであるから、本件譲渡所得に本件特例の適用ができないとしてした本件更正処分は、適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る