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(平8.2.5裁決、裁決事例集No.51 272頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、地方公務員であるが、平成5年分の所得税について、青色申告書以外の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載した上、これを平成6年2月15日に原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成6年5月17日付で次表の「原処分」欄記載のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

(単位 円)
年分区分確定申告原処分
平成5年分給与所得の金額4,358,7324,358,732
 住宅取得等特別控除額75,4000
 還付金の額に相当する税額75,4000
 過少申告加算税の額7,000

 請求人は、上記各処分を不服として、平成6年5月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年7月8日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年7月28日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 更正処分について
 請求人は、請求人の妻と共有でP市R町472番地7所在の家屋(木造銅板葺2階建床面積115平方メートル、以下「本件家屋」という。)を16,130,000円(このうち、請求人の持分に相当する価額は8,065,000円)で取得し、これを昭和63年12月17日に居住の用に供した。
 請求人は、本件家屋の取得資金として、住宅金融公庫(以下「公庫」という。)から9,100,000円、F市職員共済組合から5,000,000円及びG労働金庫から2,000,000円の合計16,100,000円の借入れをした。
 しかし、公庫からの借入金については、金銭消費貸借契約日及び融資実行日が昭和64年1月3日であったため、租税特別措置法(平成元年法律第12号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第41条《住宅の取得等をした場合の所得税額の特別控除》第1項(以下「住宅取得等特別控除」という。)の適用を受けるに当たり、公庫から、居住の用に供した年の住宅取得資金に係る借入金の年末残高等証明書(以下、この証明書を「年末残高証明書」という。)を発行してもらえず、昭和63年分の住宅取得等特別控除の適用を受けることができなかった。
 そこで、請求人は、公庫からの借入金については、本件家屋を居住の用に供した翌年の平成元年分から平成4年分までの4年間について、住宅取得等特別控除の適用を受けるとともに、平成5年分についても、同様に、公庫が発行した平成5年12月31日における年末残高証明書に基づき、その借入金残高7,547,687円の1パーセントに相当する金額75,400円を同年分の請求人の所得税額から控除して還付金の額に相当する税額を75,400円として申告した。
 これに対し、原処分庁は、請求人が本件家屋を居住の用に供したのは昭和63年12月であるから、住宅取得等特別控除の適用が受けられるのは、昭和63年分以後5年間の平成4年分までであるとして、請求人の平成5年分の住宅取得等特別控除に係る還付金の額に相当する税額を零円とする更正処分をした。
 しかしながら、次の理由により、請求人の平成5年分の住宅取得等特別控除の適用は認められるべきである。
(イ)請求人のように、年末近くに入居し、借入先から金銭消費貸借契約日等を理由に、入居した年の年末残高証明書の交付を受けることができない場合、かかる借入金について住宅取得等特別控除の適用を4年間しか受けられず、5年間の適用を受けた者に比べ、不公平、不平等な事態を招くことになる。
 したがって、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供した日の属する年以後5年間」は、借入先ごとに「年末残高証明書が交付された日の属する年以後5年間」と解釈して、その適用を認めるべきである。
(ロ)また、上記(イ)のように、住宅取得等特別控除の適用に当たり、不公平、不平等な事態を招く恐れのある点を課税当局がピーアールしなかったことは怠慢である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(ロ)仮に、更正処分が適法であるとしても、措置法第41条第1項に規定する住宅取得等特別控除の解釈の相違によるものであり、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由に該当するから、過少申告加算税の賦課決定処分は取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分について
(イ)措置法第41条第1項の規定によれば、居住者が居住用家屋の取得等をし、その取得等の日から6月以内に居住の用に供した場合に、その者が当該居住用家屋の取得等に係る借入金又は債務の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後5年間の各年のうち、合計所得金額が3,000万円以下である年については、その年分の所得税の額から、その年の12月31日における借入金又は債務の金額の合計額(2,000万円を超える場合には、2,000万円とする。)の1パーセントに相当する金額(100円未満の端数切捨て)を控除することができる旨規定している。
 したがって、請求人が本件家屋を居住の用に供したのは昭和63年12月であるから、住宅取得等特別控除の適用を受けられるのは、昭和63年分以後5年間の平成4年分までである。
(ロ)なお、請求人は、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供した日の属する年以後5年間」を借入先ごとに「年末残高証明書が交付された日の属する年以後5年間」と解釈して適用しないと、不公平、不平等な事態を招くことになる旨主張するが、当該規定は、居住用家屋を取得等した場合の減免税規定であり、厳格に解釈して適用することが要求されるものであるから、請求人の主張は認められない。
(ハ)また、請求人は、住宅取得等特別控除の不公平、不平等な事態を招く恐れのある点について、課税当局がピーアールしなかったことは怠慢である旨主張するが、住宅取得等特別控除の適用要件を規定した措置法は、官報に掲載されるなどして一般に公示されており、また、申告納税制度の下においては、納税者自身の責任と判断において申告等の手続を行うこととされているから、請求人の主張は認められない。
(ニ)以上のとおり、請求人の平成5年分の所得税について、住宅取得等特別控除を適用することはできないので、還付する税額は零円となる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
(イ)上記イのとおり、更正処分は適法であり、かつ、確定申告額が過少であったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、過少申告加算税の賦課決定をしたものである。
(ロ)なお、請求人は、仮に、更正処分が適法であるとしても、措置法第41条第1項に規定する住宅取得等特別控除の解釈の相違によるものであるから、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張するが、その理由では、同項に規定する正当な理由があるとは認められない。

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3 判断

 平成5年分の住宅取得等特別控除の適否について争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人が取得したP市R町472番地7に所在する本件家屋は、1種類は居宅、21構造は木造銅板葺2階建、3床面積は1階73.51平方メートル、2階42.14平方メートル、4新築の日は昭和63年12月10日であり、請求人は本件家屋を昭和63年12月17日から居住の用に供しており、翌18日に同所に住民登録をしていること。
(ロ)請求人は、本件家屋を取得するに当たり、次表のとおりの借入れをしていること。

(単位 円)
 契約年月日借入先金額
1昭和63年 8月31日F市職員共済組合5,000,000
2昭和63年10月26日G労働金庫2,000,000
3昭和64年1月3日住宅金融公庫9,100,000

(ハ)請求人は、上記(ロ)の表の「1」及び「2」欄記載の借入金については、居住の用に供した日の属する年の昭和63年分から平成4年分までの5年間にわたり、また、「3」欄記載の公庫からの借入金については、平成元年分から平成4年分までの4年間にわたり、住宅取得等特別控除の適用を受けていること。
ロ ところで、措置法第41条第1項の規定によれば、住宅取得等特別控除は、居住者が国内において居住用家屋を新築し、又は新築若しくは既存の居住用家屋を取得して、昭和61年1月1日から平成元年12月31日までの間にその者の居住の用に供した場合(これらの家屋をその取得の日から6月以内に居住の用に供した場合に限る。)において、その者が居住用家屋の取得に要する資金に充てるための借入金又は債務の金額を有するときは、当該居住の用に供した日の属する年以後5年間の各年のうち、合計所得金額が3,000万円以下である年について、その適用が認められるものである。
ハ これを本件についてみると、上記イの(イ)のとおり、請求人が本件家屋を居住の用に供したのは、昭和63年12月17日であることが認められ、したがって、住宅取得等特別控除の適用は、昭和63年分から平成4年分までの5年間の各年について認められるものであり、平成5年分まで適用される余地はない。
ニ なお、請求人は、年末近くに入居したために公庫との金銭消費貸借契約日等を理由に、入居した年の年末残高証明書の交付を受けられず、その年の住宅取得等特別控除の適用が受けられない場合には、5年間適用を受けた者に比べて不公平、不平等であるから、措置法第41条第1項に規定する「居住の用に供した日の属する年以後5年間」は、借入先ごとに「年末残高証明書が交付された日の属する年以後5年間」と解釈すべきである旨主張する。
 しかしながら、措置法第41条第1項は、住宅取得者に対する特別の優遇措置として定められた特則・例外規定であり、その適用要件が限定的に、きめ細かく規定されているものであるから、その解釈適用については厳格にされなければならないところ、同項には特例の適用開始時点が「居住の用に供した日の属する年以後」と規定されているのであるから、これを請求人が主張する「年末残高証明書が交付された日の属する年以後」と解釈することは到底できず、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ホ また、請求人は、不公平、不平等な事態を招く恐れのある点を課税当局がピーアールしなかったことは怠慢である旨主張するが、申告納税制度の下では、税法に適合した納税義務の実現は、原則として納税者自らの責任でなされるべきであり、課税当局のピーアール等の有無または適否が、納税者の納税義務に影響を及ぼすと解することはできないのであるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ヘ 以上のとおり、請求人の平成5年分の住宅取得等特別控除の適用は認められないから、更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ 上記(1)のとおり、更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないことから、同条第1項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
ロ なお、請求人は、更正処分が適法なものであるとしても、措置法第41条第1項に規定する住宅取得等特別控除の解釈の相違によるものであるから、国税通則法第65条第4項にいう正当な理由がある旨主張する。
 しかしながら、この場合の「正当な理由」とは、例えば、税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた見解がその後改変された場合等、申告当時に適法とみられた申告が、その後の事情の変更により、納税者の故意過失に基づかずに過少申告となった場合のように、過少申告が真にやむを得ない理由によるもので、納税者に過少申告加算税を賦課することが不当又は酷となる場合をいうものと解するのが相当である。
 そうすると、法解釈の相違によるものについては、当初適正であった申告がその後の事情の変更により税額が過少になった場合ではないことは明らかであるから、請求人の主張は採用できない。

(3)その他

 原処分のその他の部分について、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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