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(平8.4.24裁決、裁決事例集No.51 489頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年6月4日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人の1人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について、申告書(以下「本件申告書」という。)に次表の「申告」欄のとおりの記載をして、法定申告期限までに提出した。
 その後、請求人は、平成5年11月8日に次表の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をしたところ、原処分庁は、これに対し、平成6年6月2日付で更正をすべき理由のない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。

(単位 円)
区分項目金額
申告課税価格258,449,000
納付すべき税額81,541,900
更正の請求課税価格57,916,000
納付すべき税額23,365,300

 請求人は、本件通知処分を不服として、平成6年8月1日に異議申立て(以下「本件異議申立て」という。)をしたところ、異議審理庁は、平成6年10月21日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の本件通知処分に不服があるとして、平成6年11月21日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 被相続人の相続財産について、請求人、被相続人の妻であるG(以下「G」という。)、被相続人の次女であり、かつ、請求人の妻であるH(以下「H」という。)及び被相続人の長女であるJ(以下「J」といい、これらを併せて「相続人ら」という。)の間で遺産分割協議(以下「本件分割協議」という。)がなされ、相続人らは、合意した結果を証するため、平成3年11月7日付の遺産分割協議書(以下「本件分割協議書」という。)を作成して、これに基づいて本件申告書を提出した。ところが、Gは、本件分割協議において同人の相続分を法定相続分のとおりとするはずが、法定相続分の割合に比して非常に少ないものとなっており、法律行為の要素に重要な錯誤があることから、本件分割協議の合意は無効であるとし、請求人ほか2名を相手方として、再度の遺産分割協議(以下「本件再分割協議」という。)を求めて、平成5年10月4日にK簡易裁判所に対し、起訴前の和解申立書(以下「本件和解申立書」という。)を提出した。
 請求人は、これに応じて、本件相続の相続人らの間で、平成5年10月21日にK簡易裁判所の裁判官及び裁判所書記官立会いの下に和解(以下「本件和解」という。)が成立し、同日付で和解調書(以下「本件和解調書」という。)を作成した。
 その結果、遺産分割の内容に異動が生じたので、国税通則法第23条《更正の請求》第2項第1号の規定により、その和解の日から2か月以内である平成5年11月8日に更正の請求を行っており、本件更正の請求に違法な点はなく、請求内容にも理由がある。
 よって、本件更正の請求は、国税通則法第23条第2項第1項の規定に該当するから、これを認めなかった本件通知処分は違法である。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 分割協議の効力について
 遺産の分割協議については、通常はやり直しということは考えられず、最初に行われた分割協議が有効になされたものである限り、その分割によって取得した財産は、それぞれが完全な所有権を取得したことになる。
 分割協議が一たび有効に成立してしまうと、分割協議に無効となる重大な瑕疵がない限り、税務上、そのやり直しを認めることはできない。
 この重大な瑕疵とは、例えば、分割協議に参加した者が相続権のない者であったとか、所在不明であった相続人が突然現れ、分割議議した人数に誤りがあった場合などをいう。
ロ そこで、本件分割協議にその効力を無効とするような重大な瑕疵があったか否かについては、次のとおりである。
(イ)請求人が平成6年8月1日に原処分庁に対し本件異議申立てに際して提出した嘆願書(以下「本件A嘆願書」という。)の主な内容は、次のとおりであること。
A 自分の職場であるP市農業協同組合(以下「P市農協」という。)に本件申告書の作成を依頼した。
B P市農協で、相続分を請求人とHに多くした方が、Gの死亡後の相続の時に有利になるとの説明を受けた。
C 本件申告書を提出した後に、Gから同人の相続分が少ないという話が出てきた。
(ロ)原処分庁の請求人に対する調査において、Gは次のとおり申述したこと。
A 本件分割協議は、若い人(G以外の相続人らをいう。以下同じ。)が主体となり行われた。私は二度目の妻であるため、特に申出はしていない。本件分割協議書に印鑑を押しただけである。
B 私は、若い人にすべて任せているため、権利証等はすべて若い人が保管している。
(ハ)請求人は、本件分割協議によって相続したP市S町1丁目17番4に所在する土地542平方メートル(以下「本件土地」という。)を、平成4年中に81,975,000円で売却しており、売却代金のうちから自己の債務の返済等に充てたこと。
(ニ)本件和解によれば、本件土地は、Gが相続することになっていること。
(ホ)本件土地の売却代金は、上記(ニ)によりGに帰属することから、売却代金を自己の債務の返済等に充てた請求人は、Gに対して売却代金相当額の返還をすべきところ、その事実は見当たらないこと。
 上記(ハ)ないし(ホ)のことから、Gが自分の相続分が少ないために和解を申し出たとする請求人の主張には信ぴょう性がなく、本件分割協議に重大な瑕疵はなく、相続人全員の合意により適正になされたものと認められる。
 仮に、Gに錯誤があったとしても、相続人らは相続財産の調査をすることができることからすれば、特に調査もせず他の相続人の提示した価額を信じて分割協議に応じた場合には、後日自己の相続分に不満が生じたとしても自己に重大な過失があり、その分割協議全体を錯誤に基づくものとして無効である旨を主張することは、許されないものといわねばならない。
 また、本件和解も、当事者間に争いはなく、単に遺産分割のやり直しであって、更正の請求のために策をろうしたものにすぎないと認められる。
 したがって、本件和解は、国税通則法第23条第2項第1号に規定する「申告に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」には該当しないこととなる。
ハ 相続税の課税価格及び納付すべき税額について
 以上のことから、本件相続に係る相続税の課税価格は、次表のとおり取得財産の価額の合計額452,119,257円から債務控除額2,334,957円を控除した金額449,782,000円となり、請求人の課税価格及び納付すべき税額を計算すると次表のとおり、請求人の当初申告の金額と同額になることから請求人の行った本件更正の請求には理由がなく、本件通知処分は適法である。

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3 判断

 本件分割協議が有効であるか否か及び本件和解が国税通則法第23条第2項第1号に規定する「判決と同一の効力を有する和解」に該当するか否かに争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
(1)原処分関係資料及び請求人の提出資料を基に当審判所が調査したところ、次の事実が認められる。
イ 平成3年6月4日に死亡した被相続人の相続財産について、相続人らは、本件分割協議を行い、その合意した結果を証するため平成3年11月7日付で本件分割協議書を作成しており、本件分割協議書には、相続人らが被相続人の相続財産の分割を協議した事項が記載され、相続人らの署名・押印があり、また、当該押印に係る印鑑の印鑑登録証明書が添付されている。
ロ 被相続人の相続財産のうち、土地については、平成3年11月12日付及び同月19日付で平成3年6月4日相続を原因として本件分割協議書のとおり所有権移転登記がされている。
ハ 請求人らが原処分庁へ提出した本件申告書には、本件分割協議のとおり請求人らがそれぞれに相続財産を分割するとする本件分割協議書の写しが添付されている。
ニ 請求人は、平成4年6月29日付で原処分庁に対し、請求人が平成4年2月20日に他人のために債務保証をしたことにより35,000,000円の借金ができたことから、相続税の減額を要請する旨の嘆願書(以下「本件B嘆願書」という。)を提出している。
ホ Gは原処分庁の請求人に対する調査において、次のとおり申述したことが認められる。
(イ)遺産分割の話は若い人が主体となって行い、自分は二度目の妻であることから特に申出はせずに、遺産分割協議書に印鑑を押しただけであること。
(ロ)結婚して25年経過しており、どこに田畑があるかは承知していたが、遺産分割の結果に、相続財産が多いとも少ないとも思わなかったし自分が多く相続しても財産の活用が図れないことから不満はなかったこと。
(ハ)一周忌の前に、若い人が誰かから、自分にもっと相続させれば、税金が安くなると聞いてきて、再分割すると知らされたこと。
(ニ)遺産分割のやり直しについては若い人が知っているが、自分はよく知らなかったし、裁判所に出向いて印鑑を押しただけで、自分としては遺産分割に異議は申し立てていなかったこと。
ヘ Gが平成5年10月4日にK簡易裁判所に提出した本件和解申立書の主な内容は、次のとおりである。
(イ)本件分割協議に際し、請求人から、およそ法定相続分に従った割合で分割しようという方針が出され、Gもそれに同意し、具体的な分割に際し、自宅の土地建物及び預貯金等を優先的に取得し、不足分は田畑で補ってほしい旨の希望を述べたこと。
(ロ)請求人から自分の要望に沿った遺産分割案を提示され、自分の取得分が若干少ないと感じたものの、宅地の評価は高く、田畑の評価は低い旨の説明を受けて納得したこと、多少の差は親子であり文句を言うのも気まずく、また、請求人を信用していたことから、請求人が作成してきた遺産分割協議書に署名・押印をし、その後の手続一切を請求人に任せたこと。
(ハ)自分の取得分は法定相続分の割合に相当すると信じて本件分割協議に合意したものであるところ、実際の取得分は法定相続分224,592,150円の1割強の28,253,746円しかなく法定相続分を大幅に下回るもので、法律行為の要素に重要な錯誤があるから、本件分割協議の合意は民法第95条により無効であること。
ト 本件和解は、本件和解申立書に基づき、相続人らの間で平成5年10月21日にK簡易裁判所の裁判官及び裁判所書記官が立会いの下に成立したもので、これに基づき本件和解調書が作成されており、その主な内容は、次のとおりである。
(イ)本件分割協議が、無効であることを確認したこと。
(ロ)相続人らは、被相続人の相続財産について本件再分割協議を行い、別表のとおり、遺産分割の内容を変更したこと。
(ハ)上記(ロ)により遺産分割の内容に異動が生じた土地については、平成3年11月12日付でされた所有権移転登記を、錯誤を原因として抹消登記手続をすること。
チ 請求人は、原処分庁に対し平成6年8月1日に本件A嘆願書を提出しているが、その主な内容は次のとおりである。
(イ)請求人の職場であるP市農協に本件申告書の作成を依頼したこと。
(ロ)P市農協から、相続分を請求人とHに多くした方が、Gの死亡後の相続の時に有利になるとの説明を受けたこと。
(ハ)本件申告書を提出した後に、Gから自分の相続分が少ないという話が出てきたこと。
(ニ)更正の請求について原処分庁の担当者と5回程面談したこと及び裁判を行って、和解成立後すぐに更正の手続をしたのであるから本件更正の請求は認められるべきであること。
リ 本件土地については、次の事実が認められる。
(イ)本件分割協議書においては、請求人が相続することとしたこと。
(ロ)請求人が平成4年中に81,975,000円で売却し、平成4年分の所得税の確定申告書において分離課税の長期譲渡所得として申告していること。
(ハ)本件和解調書においては、Gが相続することとしたこと。
(2)請求人は、当裁判所に対して、次のとおり答述している。
イ 相続税の申告については、自分の勤務先であるP市農協の資産相談課に相談し、その際、相続財産の分け方は、自分たちの方から個々の相続財産の分け方を示したのではなく、P市農協の担当者と相談して、世襲する形で分ける方法、すなわち自分とHの相続分を多くする方法で本件分割協議書を作成することとしたこと。
ロ 遺産の再分割を起訴前の和解という形にしたのは、P税務署長に対して相続税の減額について嘆願等をしたが認めてもらえなかったので、起訴前の和解を申し立てて本件和解調書を作成したものであること。
ハ 本件和解による不動産の登記手続については、まだ行っていないが、この審査請求に対する裁決が出てから考えたいと思っていること。
ニ 本件土地については、保証債務の履行のために資金が必要となったので、他の相続人らに同意してもらった上で売却したこと。
ホ 本件和解により本件土地がGの相続する物件となったことについて、自分もおかしいとは思ったが、遺産分割をやり直すとなれば、相続時点にさかのぼってやり直すという説明を弁護士から受け、納得したこと。
 さらに、この問題について、自分とGとの間では相続税の問題が解決してから処理したいと思っていること。
(3)Gは、当審判所に対して、次のとおり答述している。
イ 当初の遺産分割については、若い人が主体となり行われ、自分は二度目の妻であるため特に申出はしておらず、ただ、本件分割協議書に印鑑を押しただけであること。
ロ 当初の遺産分割の方法については、法定相続分で分ける方法とか世襲で分ける方法があるという話は請求人から聞いた覚えはあるが、当時その意味は分からなかったこと。
ハ 当初の遺産分割の結果については、相続財産が多いとも少ないとも思わず、不満はなかったこと。
ニ 遺産が再分割される経緯については、平成4年6月の夫の一周忌の席で自分の兄弟から相続分が少ないとの指摘があり、以来、なぜ2分の1をもらえないのか疑問に思い、周りの人から意見を聞いて、自分にも欲が出てきたというか、もらえる財産なら欲しいと思うようになったこと。
 また、再分割の手続については、弁護士に2度ほど会って、全体の相続財産の2分の1が自分のものになるようにしてほしいと依頼したこと。
ホ 本件和解により本件土地が、自分が相続する物件になっていたことについて、個々の相続財産が誰のものになっているのか当時分からなかったので、売ってしまった土地が自分のものになっていたとは思っていなかったこと。
 また、本件土地の売却代金を請求人個人の保証債務の弁済に充てたことについては、今後、請求人とよく話し合いたいと思っていること。
(4)以上の事実及び答述等を基に検討すると、次のとおりである。
イ 請求人は、本件分割協議に当たり、Gの相続分が法定相続分の割合になるように分割するはずであったが、結果として法定相続分の割合に比して非常に少ないものとなっており、同人の本件分割協議の意思表示には法律行為の要素に重要な錯誤があったことから、本件分割協議の合意は無効である旨主張する。
 ところで、相続人らが本件相続に係る本件申告書を作成するに際して、上記(1)のチの(イ)及び(ロ)並びに(2)のイのとおり、請求人の職場であるP市農協の資産相談課に相談して、遺産分割は請求人とHの相続分を多くする方法で本件分割協議が合意され、これらの協議を基とした本件分割協議書には、上記(1)のイのとおり、相続人らの署名・押印がされており、かつ、当該押印に係る印鑑の印鑑登録証明書が添付されている。
 また、上記(1)のロ及びハのとおり、相続財産のうち土地については、本件分割協議書のとおり所有権移転登記が行われるとともに、相続人らが共同で原処分庁へ提出した本件申告書には、本件分割協議により相続人らが相続すべき財産が記載され、それぞれに署名・押印の上、上記の本件分割協議書を添付書類としていることが認められることからすると、本件申告書を提出するに当たり、本件分割協議は平穏に行われたことが認められる。
 さらに、上記(1)のホの(イ)及び(ロ)並びに上記(3)のイないしハのとおり、Gは本件分割協議をするに際し、婚姻期間も25年を超え相続財産の所在等の状況についても承知していたが、二度目の妻であることから特に分割についての申出はせず、遺産分割は若い人が主体となって行い、その分割の結果、相続財産が多いとも少ないとも不満がなかった旨答述等していることからすると、Gは本件分割協議に当たり、自分が相続する財産の多寡に不満がなかったことを自認するところであるから、本件分割協議は相続人らの自由意思に基づく任意の合意により適正に行われたことが認められる。
 そうすると、Gは、上記(1)のヘで述べたところの、同人が相続する相続財産は法定相続分の割合に相当するものと信じて、本件分割協議に応じたものである旨の本件和解申立書の内容は、上記の認定に照らして信用することができない。
 したがって、本件分割協議の合意は無効である旨の請求人の主張は採用できない。
ロ 本件和解に至る経緯については、次の事実が認められる。
(イ)Gは、上記(1)のホの(ハ)及び(ニ)のとおり、若い人から再分割により自分が多く相続すれば税金が安くなると聞いたが、遺産分割のやり直しについては、よく承知をせずに裁判所に出向き印鑑を押しただけである旨申述し、当審判所に対しては、上記(3)のニのとおり、本件申告書提出後である平成4年6月の夫の一周忌の席で、自分の兄弟から相続分が少ないとの指摘を受け、なぜ2分の1をもらえないのか疑問に思って周りの人から意見を聞いて欲が出て、もらえる財産なら欲しいと思うようになり、弁護士に相続財産全体の2分の1が自分のものになるよう依頼した旨答述していること。
(ロ)請求人は、上記(1)のニ及びチの(ニ)並びに(2)のロのとおり、請求人の答述等によれば本件申告書提出後、他人のために債務保証をし、それにより35,000,000円の債務が生じたことから、これらの事情を背景に△△税務署長に対して本件申告書に係る相続税額の減額について嘆願したが認められなかったため、起訴前の和解という法手続を採った上で本件更正の請求をしたこと。
 そうすると、上記(イ)及び(ロ)のことから、Gは本件申告書の提出後に、若い人から自分が多く相続することで相続税が安くなると聞いたこと、また、周囲の者からは相続分が少ないと聞き、もらえる財産なら欲しいと思うようになったこと、そして、請求人は他人のために債務保証したことから多額な債務を負うこととなり、本件申告書に係る相続税の減額を嘆願書により申し出するなど、本件申告書の提出時には、相続人らの間には何ら権利関係の争いはなく、その後における後発的事由から、本件和解に進展したことが認められる。
ハ 本件和解については、上記(1)のトのとおり、本件和解調書が作成されているが、次のとおり、本件和解調書の内容と符合しない事実が認められる。
(イ)遺産分割の内容に異動が生じた土地については、上記(1)のトの(ハ)のとおり、本件和解において平成3年11月12日付でされた所有権移転登記について、錯誤を原因として抹消登記手続をすることとされているが、請求人は、上記(2)のハのとおり、本件和解による不動産の登記手続は、この審査請求に対する裁決が出てから考えたいと思っているとして、審査請求時においていまだ行っていないこと。
(ロ)請求人は、上記(1)のリ及び(2)のニのとおり、本件分割協議により相続した本件土地を、平成4年中に81,975,000円で売却して自己の債務の返済等に充てているにもかかわらず、本件和解によれば本件土地をGの相続財産としたこと。
 また、請求人は、上記(2)のホのとおり、本件和解によりGが本件土地を相続することになったが、この問題については、Gとの間では相続税の問題が解決してから処理したいと思っていると答述していること。
ニ 請求人は、本件和解により遺産分割の内容に異動が生じたので、国税通則法第23条第2項第1号の規定により本件更正の請求をしたところ、これを認めなかった本件通知処分は違法である旨主張する。
 ところで、国税通則法第23条第2項第1号は、「その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決(判決と同一の効力を有する和解その他の行為を含む。)により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき」と規定している。
 当該規定は、申告時には予知しえなかった事態その他やむを得ない事由がその後において生じたことにより、さかのぼって税額の減額等をなすべきこととなった場合に、これを税務署側の一方的な更正の処分にゆだねることなく、納税者側からもその更正を請求し得ることとして、納税者の権利救済の道を拡充したものであり、ここにいう「判決と同一の効力を有する和解」には起訴前の和解も原則として含まれると解すべきである。
 しかしながら、当該条項にいう「和解」とは、その立法趣旨に照らして、当事者間に権利関係についての争いがあり、申告当時その権利関係の帰属が明確となっていなかった場合に、その後当事者の互譲の結果権利関係が明確となり、申告当時と異なった権利関係が生じたような場合にされた和解を指すと解すべきであり、起訴前の和解の場合においても同様であると解するのが相当である。
 また、客観的事実と明らかに異なる内容の事実を確認する和解は、当該条項にいう和解に含まれないと解されている。
 したがって、本件和解は、上記イ及びロのとおり、本件申告書提出当時において当事者間に権利関係についての争いがなく、本件申告書提出後の当事者の事情によってなされたものと認められ、また、上記ハのとおり、本件和解調書の内容と符合しない事実が認められることから、上記条項にいう「和解」には含まれないものと解すべきである。
ホ 以上のとおり、本件分割協議の合意は無効であるとの請求人の主張は採用できないところであり、本件分割協議により遺産分割は有効に成立していることから、請求人に係る相続税の課税価格及び税額は本件申告書により適法に確定したことが認められ、また、本件和解は、国税通則法第23条第2項第1号に規定する「判決と同一の効力を有する和解」には該当しないこととなる。
 したがって、本件和解により遺産分割の内容に異動が生じたので更正の請求を認めるべきであるとする請求人の主張は採用できない。
(5)相続税の課税価格及び納付すべき税額について
 本件相続に係る相続税の課税価格は、次表のとおり、取得財産の価額の合計額452,119,257円から債務控除額2,334,957円を控除した金額449,782,000円となり、請求人の課税価格及び納付すべき税額は、次表のとおり、請求人の当初申告の金額と同額になることから請求人の行った本件更正の請求には理由がなく、本件通知処分は適法である。

(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査・審理によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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