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(平8.6.13裁決、裁決事例集No.51 575頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 共同審査請求人G、H、J、K、L及びM(以下、これらの者を併せて「請求人ら」という。)は、平成4年10月1日に死亡したN(以下「被相続人」という。)の共同相続人のうちの6名であるが、この相続開始に係る相続税について、別表1の「申告」欄のとおりの記載をして、法定申告期限までに申告した。
 その後、請求人らは、原処分庁の調査担当職員の相続税調査(以下「本件調査」という。)を受け、請求人らのうちG及びHは、平成6年4月1日に別表1の「修正申告」欄のとおり記載した相続税の修正申告書を提出し、また、請求人らのうちJ、K、L及びMは、同日に別表1の「更正の請求」欄のとおりとすべき旨の更正の請求書を提出した。
 これに対して、原処分庁は、平成6年4月22日付でG及びH(以下「修正申告をした者」という。)に対し、別表1の「賦課決定(1)」欄のとおり賦課決定処分をし、また、J、K、L及びM(以下「更正の請求をした者」という。)に対し、平成6年5月10日付で別表1の「更正(1)」欄のとおり更正処分(以下「本件減額更正処分」という。)をした。
 さらに、原処分庁は、本件調査に基づいて、平成6年5月24日付で請求人らに対し、別表1の「更正(2)」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び「賦課決定(2)」欄のとおりの賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人らは、本件更正処分及び本件賦課決定処分を不服として、平成6年7月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年10月6日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年10月31日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Gを総代として選任し、その旨を平成6年11月7日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、次表の「本件更正処分」欄及び「本件賦課決定処分」欄のとおりの取消しを求める。

請求人本件更正処分本件賦課決定処分
G全部の取消し全部の取消し
H一部の取消し一部の取消し
J全部の取消し全部の取消し
K全部の取消し全部の取消し
L全部の取消し全部の取消し
M一部の取消し全部の取消し

イ 本件更正処分について
 原処分庁は、請求人らが相続により取得した財産のうち別表2に記載の607.00平方メートルの土地(以下「本件土地」という。)の財産の価額を、次のとおり過大に認定しているから違法である。
(イ)不整形地補正について
 原処分庁は、本件土地の価額の評価に当たり、本件土地が、国税庁長官の定める昭和39年4月25日付直資56、直審(資)17「財産評価基本通達」(平成5年6月23日付課評2ー7による改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に基づき〇〇国税局長が定めた財産評価基準(以下「評価基準」という。)に定める地区区分は中小工場地区で、評価する不整形地の画地全域を囲む正面路線に面する正方形又はく形の土地(以下「想定整形地」という。)の地積から本件土地の地積を控除した地積を想定整形地の地積で除した割合(以下「蔭地割合」という。)が、15パーセント未満でその影響が軽微であることから、評価基本通達20《不整形地・無道路地・間口が狭小な宅地等及びがけ地等の評価》の(1)(不整形地)の定めによる不整形地の減額(以下「不整形地補正」という。)を要しないと認定した。
 しかしながら、評価基本通達1《評価の原則》の(3)(財産の評価)には、「財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすべきすべての事情を考慮する。」と定められており、また、評価基本通達20の(1)によれば、不整形地の価額は、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、評価基本通達15《奥行価格補正》、同通達16《側方路線影響加算》、同通達17《二方路線影響加算》及び同通達18《三方又は四方路線影響加算》の規定により計算した価額を基とし、その近傍の宅地との均衡を考慮して、その価額の100分の30の範囲内において相当と認められる金額を控除した価額によって評価することができる旨定められていることから、不整形地補正を蔭地割合による方法により行うことは極めて限定的に採用すべきである。
 また、本件土地は、評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当し、別紙1の参考図のとおり、正方形又はく形の形状ではない不整形地であり、その不整形部分は82.50平方メートルで、この部分の面積は、本件土地の面積607.00平方メートルに対し13.59パーセントであること及び不整形地の価額は通常の取引価額と比べ半値以下と推測されることから、評価基本通達1の(3)及び同通達20の(1)により、不整形地補正の評価をすべきである。
 したがって、本件土地の評価に当たり、原処分庁が蔭地割合を唯一の根拠として不整形地補正を認めなかったことは誤りであり、本件土地の価額は、評価基本通達により不整形地補正を要するものとして、その価額の100分の7の割合を乗じた価額を控除すべきである。
(ロ)本件土地のうち本件マンションの入居者が駐車場として利用する部分の価額について
 原処分庁は、本件土地の価額の評価に当たり、本件土地は、本件土地に隣接するP市R町836番地の1及び837番地の1の賃貸マンション(以下「本件マンション」という。)の入居者が駐車場として利用するほか、本件マンションの入居者以外の者にも駐車場として利用されており、本件マンションと不可分の状態にあるとは認められないことから、本件土地のうち、本件マンションの入居者が駐車場として利用する部分(以下「入居者用の部分」という。)については、評価基本通達26《貸家建付地》によるべきではないとし、自用地として評価した。
 しかしながら、本件土地のうち入居者用の部分は、本件マンションの付帯駐車場として本件マンション建設と同時期に設置し長年継続使用しているもので、被相続人は、本件マンションの入居募集から入居契約に至るまで一貫して駐車場付きとして取引をしてきたものであり、被相続人が本件土地に駐車場を設置した主たる目的が本件マンションの入居者用であったことは明白である。
 また、本件土地の駐車場に余剰スペースが生じた理由は、本件マンションの入居者の需要台数を的確に把握できなかったことによるものである。
 したがって、原処分庁が採用したところの、駐車場の利用制限の度合いを無視した土地の評価の方法には誤りがあり、本件土地のうち入居者用の部分の価額は、別紙1の参考図のとおり、本件マンションの敷地と一体として、貸家建付地としての評価をすべきである。
(ハ)本件土地のうち本件マンションの入居者以外の者が駐車場として利用する部分の価額について
 原処分庁は、本件土地の価額の評価に当たり、本件土地が駐車場としてアスファルト舗装などの施設を施した上で賃貸されたものであり、土地そのものの賃貸と異なることから、駐車場の利用権は、土地に対する賃借権に当たらないとし、本件土地のうち、本件マンションの入居者以外の者が駐車場として利用する部分(以下「入居者用以外の部分」という。)についても、自用地として評価した。
 しかしながら、本件土地のうち入居者用以外の部分は、本件マンションの入居者の需要を超える余剰スペースがあることから、特定の相手方にその場所を指定して賃貸していたものである。
 したがって、本件土地のうち入居者用以外の部分の価額は、本件土地の自用地価額から地上権に相当する本件土地の自用地価額に2.5パーセントを乗じた価額を控除すべきである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、請求人らに対する本件更正処分は違法であるから、その全部又は一部の取消しに伴い、本件賦課決定処分もその全部又は一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
(イ)不整形地補正について
 本件土地について調査したところ、本件土地は、評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当し、蔭地割合は15パーセント未満と認められる。
 ところで、不整形地補正については、蔭地割合によって、土地全体に及ぼす影響が軽微な場合を除き、30パーセントの範囲内において相当と認められる金額を控除した価額によって評価することが合理的であると認められているところ、本件土地は評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当し、蔭地割合15パーセント未満の土地で、土地全体に及ぼす影響が軽微であると認められることから、不整形地補正を要しないと解される。
 したがって、本件土地はその価額の評価に当たっては不整形地補正を認めることは相当でない。
(ロ)本件土地のうち入居者用の部分の価額について
A 本件土地の相続開始日現在の利用状況等を調査したところ、次のとおりである。
(A)本件土地には、貸駐車場として駐車台数33台分が確保されていたこと。
(B)本件土地には、本件マンションの入居者の駐車場として、A路線より向かって左側手前の9台分が確保されていたこと。
(C)本件マンションの入居者ではない株式会社X(以下「X社」という。)の駐車場として、本件土地のA路線より向かって左右両奥側の14台分が賃貸されていたこと。
(D)本件土地には、本件マンションの入居者の予備の駐車場として、A路線より向かって右側手前の10台分が確保されており、本件マンションの入居者用として5台分が利用されていたが、その他の者に賃貸されているものが4台分あり、1台分は利用されていなかったこと。
(E)本件マンションの入居者のうち2名は、本件土地又は本件マンションの敷地内の駐車場を利用していなかったこと。
(F)本件土地は、その全体が駐車場としてアスファルト舗装などを施した上で賃貸されていたこと。
B ところで、評価基本通達26は貸家の目的に供されている宅地を貸家建付地として、その価額について自用地としての価額から所定の減額を行うことを定めているが、貸家に隣接する貸家用の駐車場については、利用者のすべてがその貸家の貸借人である場合に限り、貸家と不可分の状態にあるものとし、貸家の敷地と駐車場の敷地を一画地の宅地(利用単位となっている一区画の宅地をいう。以下同じ。)と認め、全体を貸家建付地として評価することが合理的であると認められる。
 また、評価基本通達86《貸し付けられている雑種地の評価》は、貸し付けられている雑種地については、土地の利用を目的とした賃借権として地上権に準じた価額を控除することを定めているが、駐車場の利用権は、土地に対する賃借権とはいえず、その土地自体に及ぶものではない。
C 以上のことを総合勘案すると、本件土地は、貸駐車場として本件マンションの入居者以外の者にも賃貸している状態であり、たとえ、本件土地の一部が、本件マンションの敷地内にある10台分の駐車場を利用できない入居者のために賃貸していたとしても、本件マンションと不可分の状態にあるとは認められない。
 また、本件土地は、全体を駐車場としてアスファルト舗装などを施した上で貸し付けていたものであることから、土地そのものの賃貸借契約とは本質的に異なるもので、駐車場の利用者に与えられる利用権は、その土地自体に及ぼす権利ではない。
 したがって、本件土地のうち入居者用の部分の価額は、貸家建付地として評価することはできず、自用地として評価すべきである。
(ハ)本件土地のうち入居者用以外の部分の価額について
 上記(ロ)のとおり、本件土地は、全体を駐車場としてアスファルト舗装などを施した上で貸し付けられたものであることから、土地そのものの賃貸借契約とは本質的に異なるもので、駐車場の利用者に与えられる利用権は、その土地自体に及ぼす権利ではない。
 したがって、本件土地のうち入居者用以外の部分の価額についても、自用地として評価すべきである。
(ニ)本件土地の価額について
以下、本件土地の価額を評価すると、次のとおりとなる。
A 本件土地は、地積が607.00平方メートルである。
B 本件土地の正面路線に当たるA路線に面する間口距離は、13.95メートルである。
C 本件土地に面したA路線、B路線の各路線価は、それぞれ305,000円、281,000円である。
D 本件土地の奥行価格補正率の基となる奥行距離を、本件土地の地積をA路線に面する間口距離で除して算定すると、平均的な奥行距離は43.51メートルとなる。
E 本件土地は、評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当し、奥行価格補正率、二方路線影響加算率は、上記AないしDのことから、その奥行価格補正率は1.00であり、また、二方路線影響加算率は0.03である。
以上により、本件土地の評価額を次の算式により求めると190,252,010円となる。
(算式)
(305,000円(A路線の路線価)×1.00(奥行価格補正率)+(281,000円(B路線の路線価)×1.00(奥行価格補正率)×0.03(二方路線影響加算率))=313,430円(A)
313,430円(A)×607.00(平方メートル)(本件土地の地積)=190,252,010円
(ホ)相続税の納付すべき税額について
 相続により取得した財産の課税価格の合計額は、上記(ニ)の本件土地の価額190,252,010円、本件土地以外の争いのない相続により取得した財産の価額667,140,713円並びに債務及び葬式費用の額91,351,227円に基づき算定すると766,039,000円(千円未満の端数切捨て)となり、その相続税の総額は97,677,800円(百円未満の端数切捨て)となる。
 そうすると、請求人らの課税価格(千円未満の端数切捨て)及び納付すべき税額(百円未満の端数切捨て)は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
請求人課税価格納付すべき税額
G55,118,00014,056,200
H271,650,00069,276,500
J11,680,0002,978,600
K11,680,0002,978,600
L11,680,0002,978,600
M16,475,0004,201,400

 したがって、これらの課税価格及び納付すべき税額と同額でした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、本件更正処分により増加した納付すべき税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する過少申告加算税を賦課しない正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件土地の価額について争いがあるので、調査・審理したところ、次のとおりである。
イ 次のことについては、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、その事実が認められる。
(イ)相続により取得した本件土地の地目は、雑種地であること。
(ロ)本件土地の地積は、607.00平方メートルであること。
(ハ)本件土地は、評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当すること。
(ニ)本件土地は、別紙1の参考図のとおり、A路線、B路線に面し、各路線価は、それぞれ305,000円、281,000円であること。
(ホ)本件土地の面するA路線の間口距離は13.95メートルで、その奥行距離は一辺が49.43メートル、他の一辺が37.60メートルで、その平均的な奥行距離は43.51メートルであること。
(ヘ)本件土地は、別紙1の参考図のとおり、形状は整形でないが、本件土地の想定整形地を求めると、その一辺が13.95メートル、他の一辺が49.43メートルのく形となり、その面積は689.54平方メートルとなることから、本件土地の陰地割合は、想定整形地の面積から本件土地の面積を差引き、これを想定整形地の面積で除すると11.97パーセントとなることから、その蔭地割合は15パーセント未満であること。
(ト)本件土地には、建物及び建物付属設備のない、いわゆる青空駐車場として別紙2の参考図のとおり、33台分の駐車スペースが確保されていること。
(チ)本件土地の14台分の駐車スペースが別紙2の参考図のとおり、X社へ駐車場として賃貸されていること。
(リ)本件マンションの入居者のうち2名は、いずれも本件土地及び本件マンションの敷地内の駐車場を利用していないこと。
ロ 当審判所が、請求人らの提示資料及び原処分関係資料等を調査したところ、次の事実が認められる。
(イ)被相続人は、Y株式会社a支店(以下「Y社」という。)が被相続人に交付した請求書及び領収証によれば、本件土地にフェンスの取替工事及びブロック取付工事を施行し、工事が完成した昭和63年4月21日に代金をY社へ支払ったこと。
(ロ)本件土地は、全体にアスファルト舗装が施された上に、利用者ごとに区分割りがされている一方、隣接する本件マンションの敷地とは金網のフェンスで隔てられているから、駐車場としての利用の単位は一区画の土地であること。
(ハ)本件土地には、入居者用の駐車スペースと入居者用以外の駐車スペースとの境にフェンス等による区分はされていないこと。
(ニ)本件マンションの戸数は20戸であり、相続開始日現在には満室となっていたこと。
(ホ)本件マンションの敷地内には、本件マンションの入居者の駐車場として10台分の駐車スペースが確保され、8台分が利用されていたが、2台分は未利用であったこと。
(ヘ)被相続人は、本件マンションの入居者との間において、「住居賃貸借契約書」を取り交わしているが、その契約書の内容は、次のとおりである。
A 第1条(物件表示)には、本件マンションの所在地、構造、専有面積、名称、間取り及び室番号を明記しているが、駐車位置又は駐車場No.について明記されていないこと。
B 第2条(家賃及びその他の費用)には、住居賃貸料と駐車料は別に定められており、駐車料金は1台当たり月額5,000円とされていること。
(ト)本件マンションの入居者の中には、被相続人との間において、住居賃貸借契約書及び自動車駐車場使用契約書(以下「駐車場使用契約書」という。)を取り交わし、2台分の駐車場を賃借している者がいること。
(チ)被相続人は、X社との間において、駐車場使用契約書を取り交わし、その契約書には、本件土地の14台分の駐車場を利用させることとし、その使用料は月額70,000円である旨定められていること。
 なお、契約期間は1年間であるが、契約期間満了時には双方で協議の上契約を更新できる旨定められていること。
 また、本件マンションの入居者以外の者との間にも、駐車場使用契約書を取り交わしており、一台当たりの使用料は月額5,000円である旨定められていること。
ハ Gは、当審判所に対して、相続開始日現在における本件土地及び本件マンションの敷地内の状況について、次のとおり答述している。
(イ)本件土地は、別紙1の参考図のとおり、不整形部分があり、その地積は82.50平方メートルであること。
(ロ)本件土地は、別紙2の参考図のとおり、本件マンションの入居者が駐車場として14台分の駐車スペースを利用していたこと。
(ハ)本件土地は、別紙2の参考図のとおり、本件マンションの入居者以外の者が駐車場として18台分の駐車スペースを利用していたこと。
(ニ)本件土地は、別紙2の参考図のとおり、未使用の駐車場が1台分あったこと。
(ホ)本件マンションの入居者のうち4名は、各2台分の駐車場を利用し、合計8台分について、本件土地あるいは本件マンションの敷地内の駐車場を利用していたこと。
ニ ところで、相続により取得した財産の価額は、相続税法(平成6年法律第23号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《評価の原則》の規定によれば、特定の財産を除き相続開始時の時価によるものとされている。
 この相続開始時の時価とは、相続等により取得したとみなされた財産の取得日において、それぞれの財産の現況に応じて、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額をいうものと解するのが相当である。
 しかしながら、相続によって取得した財産は、取得の時において取引の対象となっていることは極めてまれであり、財産の時価を的確に把握することが必ずしも容易ではない。
 他方、相続税の課税の公平の観点から統一的な方法によって財産の価額を算定する必要があることから、評価基本通達と評価基準において、特定の財産を除きその時価の具体的な評価方法が定められている。
 したがって、一般的には、相続により取得した財産の評価は、評価基本通達及び評価基準に定める評価方法によって行われていることが認められ、この評価方法により評価した財産の価額は、特段の事情がない限り、相続税の課税における財産の時価と認めるのが相当と解されている。
ホ 以上の事実等に基づき検討すると、次のとおりである。
(イ)不整形地補正について
 請求人らは、本件土地は、評価基準に定める中小工場地区区分に該当し、別紙1の参考図のとおり、本件土地は不整形地の形状にあり、その不整形部分82.50平方メートルは通常の取引価額と比べ半値以下と推測されることから、評価基本通達1の(3)及び同通達20の(1)により、不整形地補正の評価をすべきであり、不整形地補正の要否の判定に当たって、蔭地割合による方法で行うことは極めて限定的に採用すべきであることから、原処分庁が蔭地割合を唯一の根拠として不整形地補正を認めなかったことは誤りである旨主張するので、以下、検討する。
A 評価基本通達1の(3)によれば、財産の評価に当たっては、その財産の価額に影響を及ぼすすべての事情を考慮するものとし、この基本的理念の基に、同通達20の(1)により、不整形地の価額は、その不整形の程度、位置及び地積の大小に応じ、評価基本通達15ないし18の定めにより計算した価額を基とし、その近傍の宅地との均衡を考慮して、その価額の100分の30の範囲内において相当と認められる金額を控除した価額によって評価することができる旨を定めている。
 そうすると、不整形地の価額の評価は、画地の形状が不整形であることによって画地の全部が宅地として機能を十分に発揮できない場合に、整形地と比較した場合の利用価値の低下をその価額に取り込むものであり、画地の形状が完全な正方形又はく形でないとしても、その画地の地積がおおむね適正規模若しくはそれ以上であり、かつ、不整形の程度が比較的小さい場合など、宅地としての利用に当たり特に支障がないものについては、不整形地補正を要しないものと解するのが相当である。
 また、評価基本通達による具体的な運用によれば、不整形地評価の公平・簡便化の観点から、不整形地の評価上勘案すべき各要素を盛り込んだ不整形地補正率を設け、これを近似整形地等の価額に乗じて不整形地の価額を算定することができるとされ、想定整形地の地積から評価対象地の地積を差し引き、これを想定整形地の地積で除して求めた陰地割合を不整形地補正率表に照らして不整形地補正の評価を行うものであって、中小工場地区内における3,500平方メートル未満の地積の土地については、蔭地割合が15パーセント未満となる土地であれば不整形地補正を要しないこととなっている。
B これを本件土地についてみると、本件土地は、上記イの(イ)ないし(ヘ)及びハの(イ)のとおり、(a)評価基準に定める地区区分は中小工場地区に該当し、地目は雑種地で、その地積が607.00平方メートルであること、(b)その画地の形状は、正方形又はく形ではないが、A路線及びB路線の二路線に面し、その一辺が路線に面する部分以上に対面の一辺が広く路線に面する形状であり、ほぼ長方形に近似していること及び(c)蔭地割合は11.97パーセントであることからすると、本件土地は、その形状が完全なく形でなく、A路線に面する部分以上に開口部分がB線路に広く面する不整形地であるものの、その不整形の程度は比較的小さいものというべきであり、また、本件土地の利用に当たっても、その広さは適正規模に達していることは明らかで、その機能、便益が現在の地形をもって特に支障があるとは認められず、その評価に当たっては、不整形地補正を要しないものとするのが相当である。
 したがって、蔭地割合を唯一の根拠とした原処分庁の本件土地の評価は誤りである旨の請求人らの主張は採用することができない。
(ロ)本件土地のうち入居者用の部分の価額について
 請求人らは、本件土地のうち入居者用部分は、本件マンションの付帯駐車場として本件マンション建設と同時期に設置し長年継続利用しているもので、本件マンションの入居募集から入居契約に至るまで一貫して駐車場付きとして取引してきたものであることから、本件土地のうち入居者用部分の価額は、貸家建付地として本件マンション敷地と一体評価すべきである旨主張するので、以下、検討する。
A 評価基本通達26の定めによれば、貸家の目的に供している宅地、すなわち自己の所有する宅地に建築した家屋を貸し付けている場合のその宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その宅地に係る借地権割合とその貸家に係る借家権割合との相乗積をその宅地の自用地としての価額に乗じて計算した金額を控除した金額によって評価することとされている。
B また、評価基本通達81《評価単位》の定めによれば、雑種地の価額は、一筆単位で評価するのではなく、利用の単位となっている一団の雑種地ごとに評価することとし、このことは、雑種地の上に存する権利の価額についても、同様とすることとされている。
C さらに、評価基本通達82《雑種地の評価》の定めによれば、雑種地の価額は、原則として、その雑種地と状況が類似する付近の土地についてこの通達の定めるところにより評価した1平方メートル当たりの価額を基とし、その土地とその雑種地との位置、形状等の条件の差を考慮して評定した価額に、その雑種地の地積を乗じて計算した金額によって評価することとされている。
 そして、貸し付けられている雑種地の評価の価額は、評価基本通達86の定めによれば、その雑種地の自用地価額からその雑種地に係る地上権又は賃借権の価額を控除した金額によって評価することとされている。
 さらに、雑種地に係る賃借権の価額は、評価基本通達87《賃借権の評価》の定めによれば、原則として、その賃貸借契約の内容、利用状況等を勘案して評定した価額によって評価することとされているところ、具体的には、雑種地の賃借権を地上権に準ずるものとそれ以外のものとに区分し、次のとおり評価することができるものとされている。
(A)賃借権の登記がされているものやその設定の対価としての権利金の授受がされているものは、地上権に準ずる賃借権とし、その評価方法は、その賃借権の目的となっている土地の自用地価額に、その残存期間に応ずる相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》に規定する地上権割合又はその賃借権が借地権であるとした場合に適用する借地権割合のいずれか低い方の割合を適用して評価する。
(B)上記(A)以外のその他の賃借権の評価方法は、その賃借権の目的となっている土地の自用地価額に、その残存期間に応ずる相続税法第23条に規定する地上権割合の2分の1に相当する割合を適用して評価する。
D ところで、貸駐車場として利用している土地については、駐車場としての一画地の土地として評価すべきところ、貸家の敷地に隣接する駐車場にあっては、その駐車場の利用者がその貸家の賃借人に限られるなど、契約上も、利用状況の上でも貸家の目的に供されている宅地と駐車場とが一体である場合に限り、その駐車場も貸家の賃貸借と一体の状態にあるものとし、貸家の敷地と駐車場の敷地は利用の単位が同一である一画地の宅地として、全体を貸家建付地として評価することが合理的であると解すべきである。
 また、貸駐車場として利用している土地は、一般的に土地の所有者が、土地に設備を施して、その土地に自動車を駐車させて一定の時間自動車を保管することを引き受けるものである。
 そして、自動車を駐車させて保管する以上は、一定の範囲の土地を利用させることとなるが、これは、土地の占有、管理権を引き渡したということではなく、保管を引き受けることに伴う必然的な結果によるものであり、土地そのものを利用させることに目的があるものではないと解されている。
 したがって、貸駐車場として利用している土地の評価は、自動車の保管場所の賃貸借契約が、土地の利用そのものを目的とした賃貸借契約とは本質的に異なる権利関係であり、駐車場の利用権は、その土地自体に及ぼす権利ではないことから、自用地として評価するものと解すべきである。
E これを本件土地についてみると、上記イの(ト)ないし(リ)、ロの(イ)ないし(ホ)及び(チ)、ハの(ロ)ないし(ホ)のことから、本件土地は、一区画全体をアスファルト舗装を施して駐車場とした上、隣接する本件マンションの敷地との境をフェンスによって区分し、駐車場内は入居者用の部分と入居者用以外の部分との間に境を設置することなく、本件土地に面するA路線及びB路線に出入口を設けて、33台分の駐車場として整備されていること、その利用については、1台分は未利用、18台分は本件マンションの入居者以外の者が利用し、残り14台分は本件マンションの入居者が利用していることから、本件土地の全体が本件マンションの入居者のみに係る駐車場とは認められない。
 そして、本件マンション入居者の20世帯の駐車場の利用状況については、(a)入居者の2名は本件土地及び本件マンションの敷地内の駐車場を利用していないこと、(b)本件マンションの敷地内の駐車場は10台分利用できるところ、8台分を本件マンションの入居者が利用していること、(c)本件マンションの入居者4名はそれぞれに2台分を利用し、計8台分について本件土地及び本件マンションの敷地内の駐車場を利用していることからすると、本件マンションの入居者が駐車場の使用を希望する時に、本件マンションの敷地内の駐車場で満たされない場合に、本件土地を補充的に希望する入居者の駐車場として利用する便宜を与えていたにすぎないものと認めるのが相当である。
 さらに、上記ロの(ヘ)及び(ト)のとおり、本件マンションの入居者の契約関係においても、居住賃貸料と駐車場の使用料が明確に区分されており、本件土地の利用が本件マンションの賃貸と一体の状態にあるとは認められないことから、本件土地の入居者用の部分について貸家建付地としての評価をすることは相当でない。
 また、本件土地の駐車場としての賃貸借契約は、土地の利用そのものを目的とした賃貸借契約とは本質的に異なる権利関係であることから、駐車場の利用権と解すべきであり、本件土地自体を及ぼす権利ではないことから、本件土地について、貸し付けられている雑種地としての自用地価額から控除すべき地上権又は賃借権の価額は認められず、本件土地は自用地として評価すべきである。
 したがって、本件土地のうち入居者用の部分について、貸家建付地として本件マンションの敷地と一体評価すべきである旨の請求人らの主張は採用することができない。
(ハ)本件土地のうち入居者用以外の部分の価額について
 請求人らは、本件土地のうち入居者用以外の部分は、特定の相手方にその場所を指定して賃貸していることから、地上権に相当するので、本件土地のうち入居者用以外の部分の価額は、自用地の価額から地上権に相当する自用地の価額に2.5パーセントを乗じた価額を控除すべきである旨主張するので、以下、検討する。
 本件土地の駐車場としての賃貸借契約は、上記(ロ)のEのとおり、土地の利用そのものを目的とした賃貸借契約とは本質的に異なる権利関係であることから、駐車場の利用権と解すべきであり、本件土地自体に及ぼす権利ではないことから、本件土地のうち入居者用以外の部分は、貸し付けられている雑種地としての自用地価額から控除すべき地上権又は賃借権の価額は認められず、自用地として評価すべきである。
 そうすると、本件土地のうち入居者用以外の部分の価額は、自用地の価額から地上権に相当する自用地の価額に2.5パーセントを乗じた金額を控除すべきである旨の請求人らの主張は採用することができない。
(ニ)本件土地の価額について
 上記ホの(イ)ないし(ハ)に基づいて本件土地を評価すると、次のとおりとなる。
A 本件土地は、上記イの(ニ)のとおり、A路線及びB路線に面し、A路線、B路線の各路線価は、それぞれ305,000円、281,000円である。
B 本件土地は、上記イの(ロ)、(ハ)及び(ホ)のとおり、評価基準に定める地区区分が中小工場地区に該当し、その地積が607.00平方メートルであり、その平均的な奥行距離は43.51メートルである。
C 評価基本通達に定める奥行価格補正率及び二方路線影響加算率は、上記AないしBのことから、奥行価格補正率は1.00、二方路線影響加算率は0.03である。
以上により、本件土地の評価額は、次の算式により求められた190,252,010円となる。
(算式)
(305,000円(A路線の路線価)×1.00(奥行価格補正率))+(281,000円(B路線の路線価)×1.00(奥行価格補正率)×0.03(二方路線影響加算率))
=313,430円(A))
313,430円(A)×607.00(平方メートル)(本件土地の地積)=190,252,010円
(ホ)相続税の納付すべき税額について
 相続により取得した財産の課税価格の合計額は、上記(ニ)の本件土地の価額190,252,010円、本件土地以外の争いのない相続により取得した財産の価額667,140,713円並びに債務及び葬式費用の額91,351,227円に基づき算定すると766,039,000円(千円未満の端数切捨て)となり、その相続税の総額は、97,677,800円(百円未満の端数切捨て)となる。
 そうすると、請求人らの課税価格(千円未満の端数切捨て)及び納付すべき税額(百円未満の端数切捨て)は、次表のとおりとなる。

(単位 円)
請求人課税価格納付すべき税額
G55,118,00014,056,200
H271,650,00069,276,500
J11,680,0002,978,600
K11,680,0002,978,600
L11,680,0002,978,600
M16,475,0004,201,400

したがって、この金額と同額でされた本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

イ 修正申告をした者に対する本件賦課決定処分は、上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた過少申告加算税の本件賦課決定処分も適法である。
ロ 更正の請求をした者に対する本件賦課決定処分は、上記(1)のとおり、本件更正処分は適法である。
 しかしながら、原処分庁は、更正の請求をした者に対し、いったん、更正の請求を全部認める旨の本件減額更正処分を行った後、本件更正処分及び過少申告加算税の本件賦課決定処分を行ったものであり、本件減額更正処分をした時点において、既に本件調査を実施していたのであるから、更正の請求をした者の納付すべき税額が、更正の請求書に記載されているその金額を上回ることを把握していたものと認められ、本件減額更正処分と本件更正処分は、一体の処分とみるべきである。
 そうすると、過少申告加算税の計算の基礎となるべき税額は、本件減額更正処分前の納付すべき税額とするのが相当である。
 したがって、更正の請求をした者に対する本件賦課決定処分は、本件更正処分の納付すべき税額が、本件減額更正処分前の納付すべき税額を下回ることとなるので、その全部を取り消すのが相当である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

別表2 本件土地

(単位 平方メートル)
番号 項目所在地地目地積
1P市R町837番の2雑種地53
2P市R町838番の1雑種地223
3P市R町838番の3雑種地166
4P市R町838番の4雑種地165
合計607

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