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(平8.1.25裁決、裁決事例集No.51 620頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年11月26日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したF(以下「被相続人」という。)の共同相続人2人のうちの1人であるが、この相続の開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書(以下「本件申告書」という。)に課税価格を695,543,000円及び納付すべき税額を395,125,900円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、原処分庁所属の職員の調査を受け、本件相続税について、課税価格を705,421,000円及び納付すべき税額を400,733,900円とする修正申告書を平成5年2月2日に提出したところ、原処分庁は、同年7月30日付で過少申告加算税の額を560,000円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、平成5年4月20日に課税価格を542,746,000円及び納付すべき税額を290,774,300円とすべき旨の更正の請求(以下「本件更正の請求」という。)をした。
 原処分庁は、これに対し、平成6年3月28日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分(以下「本件通知処分」という。)をした。
 請求人は、本件通知処分を不服として、平成6年5月27日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年9月2日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成6年9月30日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 請求人が、被相続人から相続により取得したP市R町一丁目7番4所在の宅地(以下「本件宅地」という。)の一部559.57平方メートルの上に存する借地権(以下「本件借地権」という。)を、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成3年12月18日付課評2―4ほかによる改正前のもの。以下「評価基本通達」という。)に定める方式によらずに、不動産鑑定士Gが作成した平成5年3月25日付鑑第5036号の不動産鑑定評価書(以下「本件鑑定書」という。)の鑑定評価額(以下「本件鑑定評価額」という。)に基づき、268,068,000円と評価すべきであるとして行った本件更正の請求を認めなかった原処分は、次に述べるとおり不当かつ違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件借地権は、(a)その上には老朽化した建物(以下「本件建物」という。)が存すること、(b)この建物は賃貸に供されていること、(c)その賃貸料は近隣の相場からみて著しく低廉であること及び(d)借家人を立ち退かせることは、借家法の制限等があるため法律的にも経済的にも事実上不可能であることなどの個別性を有しており、これらの個別性を反映することができない評価基本通達の画一的な貸家建付借地権の評価方法による評価は、適正な客観的価値すなわち時価を反映したものではない。
ロ 不動産鑑定評価制度は、適正な価格を形成する市場を持つことが困難な不動産について、その適正な価格を判定する公平なる評価機関としての不動産鑑定士により評価させる制度であり、この担い手としてその地位を法によって付与されたものが不動産鑑定士であるから、不動産鑑定評価額は、専門家たる不動産鑑定士の意見の表明であり、個別性の強い不動産の適正な価格を法の根拠のもとに表示し得る唯一のものである。
 ところで、不動産鑑定士が鑑定評価活動を行う上での行為規範である不動産鑑定評価基準は、賃貸されている借地権付建物の価格を求める場合について、「実際実質賃料(実際に支払われている経済的対価をいう。以下同じ。)に基づく純収益を還元して得た収益価格(収益還元方式による評価額をいう。以下同じ。)を標準とし、積算価格(再調達原価を基にして評価した価格をいう。以下同じ。)及び比準価格(売買実例を基にして評価した価格をいう。以下同じ。)を比較考量して決定する。」と定めている。
 この意味は、収益価格、積算価格及び比準価格の各試算価格の中では実際実質賃料に基づく純収益を還元して得た収益価格に一番の重きを置き、積算価格及び比準価格には二次的なウェイト付けをする必要しかなく、その上で鑑定評価額を決定するということである。
 また、バブル崩壊後における不動産の取引の実態や融資の際の担保評価をみると、収益性を重視してなされている。
 本件借地権の価額として採用した本件鑑定評価額は、上記イで述べた個別性の強い本件借地権について、適正な客観的交換価値を求めたものである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法かつ正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 評価基本通達に基づいて評価することの必要性及び合理性について
(イ)相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額について、特別に定める場合を除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、時価とは、相続開始時の財産の状況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立する価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額をいうものと解されている。
(ロ)しかし、財産の客観的な交換価値を示す価額は、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上、特別の事情がある場合を除き、相続財産を評価するための一般的基準とされている評価基本通達に基づき画一的な評価方式によって相続財産の評価を行うことと取り扱われており、これは、以下の理由に基づくものと解される。
A 客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方式を採ると、評価方式や基礎資料の選択の仕方により異なった評価額が生じることが避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあること。
B あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地からみて合理的であること。
(ハ)したがって、評価基本通達に基づき評価額が合理的に算定されている限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることによって租税負担の実質的な公平をも実現することができると解されるから、この評価額が相続開始時におけるその土地の価額を上回っていると認められるような特別の事情がある場合を除き、特定の納税者あるいは特定の財産についてのみ評価基本通達に定める方式以外の方法によって評価することは、納税者間の実質的租税負担の公平を欠くことになり許されないと解されている。
(ニ)この評価基本通達により、市街地的形態を形成する地域にある宅地の価額は、売買実例価額、精通者意見価格等を基として国税局長が路線ごとに評価した価額である路線価に基づき、その宅地の形状に応じて計算した金額によって評価することと定められている。
 また、借地権の価額は、その借地権の目的となっている宅地の自用地としての価額に、当該価額に対する借地権の売買実例価額、精通者意見価格、地代の額等を基として評定した借地権の価額の割合(以下「借利権割合」という。)がおおむね同一と認められる地域ごとに国税局長の定める割合を乗じて計算した金額によって評価することと定められている。
 さらに、貸家の敷地に供されている宅地の価額は、その宅地の自用地としての価額から、その自用地としての価額にその宅地に係る借地権割合と貸家に係る借家権割合との相乗積を乗じて計算した価額を控除した価額によって評価することと定められている。
ロ 本件借地権の価額について
(イ)原処分庁は、本件借地権の客観的な交換価値を示す価額を算出するために、別表1に記載した本件借地権の近隣における取引事例に基づき、別表2によって本件借地権の自用地としての価額を算出し、さらに、本件借地権が貸家の目的に供されていることから、評価基本通達の定めにより借家権に相当する価額を減額して本件借地権の価額を求めている。
(ロ)上記(イ)で求めた取引事例に基づく本件借地権の価額は、請求人が本件申告書において、評価基本通達に定める方式によって求めた本件借地権の価額539,193,258円(以下「本件評価額」という。)をいずれも上回っており、本件評価額は適法であるから、本件評価額が本件相続税の課税価格に算入されるべきである。
 なお、請求人が主張する本件借地権の個別性については、評価基本通達に基づかないで評価することが正当として是認され得るような特別の事情に当たるとは認められない。
ハ 本件鑑定評価額について
 相続税の課税価格に算入される本件借地権の価額が、不動産鑑定評価基準に準拠して算出されなければならない旨の法的根拠はなく、上記ロで述べたとおり、原処分庁が本件借地権の近隣における取引事例から算定した本件借地権の価額は、本件評価額を上回っている。
 また、請求人は本件借地権の価額を算出するに当たって、収益性を重視すべき旨主張するが、収益還元法は算定の基礎とされる純収益の予測及び還元利回りの数値の採用の点で不確定要素が少なくないから、収益還元法に基づく収益価格に高い比重を置いて鑑定評価額を算出することは、評価対象不動産の時価として妥当性を欠き、このことは、本件鑑定評価額と上記取引事例からの価額を比較した場合、本件鑑定評価額が著しく低額であることからも明らかである。
ニ 取引事例の内容の開示について
 異議決定書で用いられた借地権の取引事例の内容については、国家公務員法第100条《秘密を守る義務》第1項の規定により明らかにすることはできない。
ホ 本件通知処分について
 請求人が被相続人から相続により取得した財産の価額は、705,421,000円であり、これを基に請求人の納付すべき税額を計算すると、400,733,900円となる。
 これらの金額は、請求人が原処分庁に提出した本件相続税の修正申告書に記載された金額と同額となるから、本件通知処分は適法である。

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3 判断

本件審査請求の争点は、本件借地権の価額であるので、以下審理する。

(1)本件借地権の価額

イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件借地権の価額を評価基本通達に基づき、次の算式により539,193,258円として申告したこと。
2,070,000円(正面路線価)×0.95(奥行価格逓減率)×559.57平方メートル(地積)=1,100,394,405円(自用地とした場合の評価額)
1,100,394,405円(自用地とした場合の評価額)×0.7(借地権割合)×(1‐0.3)(借家権割合)=539,193,258円(本件借地権の価額)
(ロ)次に、請求人は、本件借地権の価額は本件鑑定評価額に基づく268,068,000円とすべきである旨の更正の請求をしたこと。
(ハ)本件鑑定書においては、本件借地権の本件鑑定評価額を、以下のとおり決定していること。
A 本件宅地は、都市計画法上、近隣商業地域で建ぺい率80パーセント、容積率300パーセント、(一部背後地は、第一種住居専用地域で建ぺい率60パーセント、容積率150パーセント)に指定されているところ、その1平方メートル当たりの標準価格(地域内における標準的な画地の価格をいう。以下同じ。)は、取引事例比較法を適用して、次のとおり2,577,000円と求めた。
(A)鑑定人は、抽出した3件の取引事例のうち、本件相続開始日と同月である平成3年11月に売買された、P市R町二丁目所在の宅地250.66平方メートルの1平方メートル当たりの取引価格1,571,850円を基準として、次の算式により補正を行い、本件宅地の1平方メートル当たりの比準価格2,577,000円を求めた。
1,571,850円(1平方メートル当たりの取引価格)×(100÷100)(事情補正)×(100÷100)(時点修正)×(100÷100)(標準化補正)×(100÷61)(地域格差)=約2,577,000円(比準価格)
(B)本件宅地に近接するP市R町一丁目38番10外1筆の基準地番号P市○―○○で表示される地価調査基準地(以下「本件基準地」という。)の平成3年7月1日現在の1平方メートル当たりの基準価格4,050,000円を基に、次の算式により補正を行い、本件宅地の1平方メートル当たりの基準地比較価格(以下「基準比較価格」という。)2,275,000円を求めた。
4,050,000円(平成3年7月1日現在の1平方メートル当たりの基準価格)×(91÷100)(時点修正)×(100÷100)(標準化補正)×(100÷162)(地域格差)=2,275,000円(基準比較価格)
(C)上記(A)により求めた比準価格2,577,000円と、上記(B)により求めた基準比較価格2,275,000円とを比較して、「比準価格は、現実の不動産取引市場において成立した取引価格を基礎としており、価格形成の種々の要因を反映し、市場の実勢を的確に示す極めて実証的な価格として信頼性が高く、また、採用した資料についても同一需給圏内における広域的な地域より収集選択し、また比準の各段階においても誤りがないものと認められる。よって、標準価格の決定に当たっては、上記比準価格を採用し、1平方メートル当たりの標準価格を2,577,000円と決定した。」として、本件宅地の1平方メートル当たりの標準価格を2,577,000円とした。
B 本件宅地の個別的要因による価格補正を、次のとおり合計マイナス35パーセントと算定した。
(A)画地条件……マイナス2パーセント
(B)公法上の規制……マイナス3パーセント
(C)借地権……マイナス30パーセント
C 本件借地権の試算価格は、上記Aで求めた標準価格に対して、上記Bの個別要因に基づく価格修正を行い、937,280,000円と求めた。
2,577,000円(標準価格)×(1‐0.35)(個別格差)=約1,675,000円(1平方メートル当たりの借地権価格)
1,675,000円(1平方メートル当たりの借地権価格)×559.57平方メートル(本件借地権の地積)=約937,280,000円(本件借地権の試算価格)
D 本件借地権上の賃貸建物の試算価格は、次の算式により、見込再調達原価から減価償却等の減価修正を行い、40,330,000円と求めた。
250,000円(1平方メートル当たりの見込再調達原価)×(100%‐68%)(耐用年数による減価)×(100%‐30%)(観察減価)=56,000円(1平方メートル当たりの現況単価)
56,000円(1平方メートル当たりの現況単価)×714,87平方メートル(建物面積)=約40,033,000円(賃貸建物の試算価格)
E 上記C及びDの各試算価格を合計して、自用の借地権付建物の積算価格977,313,000円を求めるとともに、当該積算価格に占める上記Cの本件借地権の試算価格と上記Dの賃貸建物の試算価格の割合を、それぞれ96パーセント及び4パーセントと算定した。
F 収益還元法を適用し、次のとおり借地権付建物の収益価格を求めた。
(A)本件建物(昭和38年7月ころに建築された鉄骨鉄筋コンクリート造り陸屋根2階建の店舗、事務所(居宅)、延面積714.87平方メートルで、老朽化、陳腐化が認められるため、賃借人がいなければ建替えが相当なもの。)についての1階部分の月額賃料756,400円と2階部分の月額賃料554,000円から年間の賃料収入15,724,800円を算出し、保証金・敷金8,940,000円の運用益を年率5パーセントとして447,000円を算出することにより、年間総収益16,171,800円を求めた。
(B)減価償却費4,467,950円、修繕費1,358,250円、維持管理費471,744円、公租公課189,197円、地代3,340,716円及び貸倒れ準備費・空室損失相当額1,108,000円を合計して、年間総費用10,935,857円を求めた。
(C)上記(A)の年間総収益16,171,800円から上記(B)の年間総費用10,935,857円を差し引いて年間純収益5,235,943円を求めた。
(D)上記(C)の年間純収益5,235,943円に事情補正100分の100、時点修正100分の100、標準化補正100分の100及び地域格差100分の100を乗じて借地権・建物一体としての純収益5,235,943円を求め、これを還元利回り5パーセントで除して、借地権・建物一体の収益価格104,719,000円を求めた。
G 上記Eで求めた積算価格977,313,000円と上記Fで求めた収益価格104,719,000円について、次の検討を加えて、次の算式により、本件鑑定評価額を268,068,000円と決定した。
(A)積算価格は、現実の市場において成立した土地の取引価格を基礎として求めた土地の比準価格と、対象建物の実際の建築価格を基礎とした建物の積算価格の合算であり、信頼性は高いものの、いわゆる借地権付きの自用の建物としての価格が求められている。
(B)収益価格は、対象不動産それ自体の収益事例を基礎として収益還元法により求められており、現実の貸家及びその敷地(借地権)の状況を反映したものである。
(C)この鑑定は、現況における貸家及びその敷地(借地権)としての評価であり、積算価格はいわゆる自用の建物及びその敷地(借地権)としての価格が求められているので、更に全体としての借家権等々を勘案した減価を必要とする。
(D)この鑑定においては、現実の状況を前提とした収益価格に重点をおいて評価額の決定を行うべきものと判断されるも、他方、借家人居付きの現況においても、投資を目的としての取引の対象と充分に成り得る物件であり、かかる場合においては、収益価格を下限として、収益価格+αの価格で市場価格が決定されるものと思料する。
 バブル崩壊後の状況においては、上記の+αの巾は極めて小さな状況となってきているものの、かかる現実を無視することも不合理と思われ、本件の貸家及びその敷地としての対象不動産の評価額の決定に当たっては、積算価格20%、収益価格80%のウェイト付けを行い、以下のとおり本件鑑定評価額を決定した。
977,313,000円(積算価格)×0.2+104,719,000円(収益価格)×0.8=約279,238,000円(借地権・建物一体の鑑定評価額)
279,238,000円(借地権・建物一体の鑑定評価額)×0.96(借地権のあん分比)=約268,068,000円(本件鑑定評価額)
(ニ)原処分庁は、本件鑑定評価額は課税時期における適正な時価とは認められないとして、本件通知処分をしたこと。
ロ ところで、納税者が更正の請求をする場合については、(a)国税通則法第23条《更正の請求》第3項は、更正の請求をしようとする者は、更正の請求書に、更正前の課税標準等又は税額等及び当該更正後の課税標準等又は税額等、その更正の請求をする理由、当該請求をするに至った事情の詳細を記載するものとしており、また、(b)同法施行令第6条《更正の請求》第2項は、その更正の請求をする理由の基礎となる事実が一定期間の取引に関するものであるときは、その取引の記録等に基づいて、その理由の基礎となる事実を証明する書類を添付するものとしているところであって、これらの規定は、更正の請求をする者が、まず、自ら記載した申告内容が真実に反するものであることを主張・立証すべきである旨を定めたものであると解されている。
 本件審査請求につき、これをみると、本件借地権の価額について、請求人は、本件申告について上記イの(イ)のとおり評価して申告し、次いで本件更正の請求をしたのに対し、原処分庁は更正をすべき理由がない旨の通知をしたのであるから、請求人は、上記イの(イ)の価額を下回ることを主張・立証することを要すると解すべきである。
ハ 請求人は、本件借地権の価額は、本件鑑定評価額によるべきであると主張するので、検討したところ、次のとおりである。
(イ)相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
(ロ)そこで、本件鑑定評価額について検討すると、次のとおりである。
A 当審判所の調査によれば、P市R町一丁目に所在する宅地が、平成3年12月に1平方メートル当たり、1,824,621円で取引されており、この取引実例を次の算式により土地価格比準表に定める地域格差及び個別格差を適用して補正を行い比準すると、本件宅地の価格は、1平方メートル当たりおおよそ2,673,000円となる。
1,824,621円(1平方メートル当たりの取引価格)×(100÷100)(事情補正)×(100÷100)(時点修正)×(111÷100)(標準化補正)×(132÷100)(地域格差)=約2,673,000円(比準価格)
 また、本件基準地の平成3年7月1日現在の基準価格は、1平方メートル当たり4,050,000円であり、平成4年7月1日現在の基準価格は、1平方メートル当たり3,250,000円であるから、本件基準地の価格を本件相続開始日現在に時点修正した価格は、次のとおり1平方メートル当たり3,716,000円となる。
4,050,000円‐(4,050,000円‐3,250,000円)×(5ケ月÷12ケ月)=約3,716,000円
 本件宅地と本件基準地は近隣地域内にあることが認められるから、本件基準地の価格を時点修正した価額の1平方メートル当たり3,716,000円を次の算式により土地価格比準表に定める個別格差を適用して補正を行い比準すると、本件宅地の価格は1平方メートル当たり2,645,000円となる。
3,716,000円(1平方メートル当たりの取引価格)×(100÷100)(事情補正)×(97÷100)(標準化補正)×(73.39÷100)(地域格差)=約2,645,000円(比準価格)
 そうすると、本件鑑定書による本件宅地の標準価格2,577,000円は、当審判所の調査による取引事例から試算した本件宅地の価格との間に、若干の開差はあるものの、相互に許容され得る誤差の範囲内にあるといえる価格であるから、本件宅地についてこの標準価格を基礎として求めた本件借地権の試算価格937,280,000円は、自用の場合の本件借地権の時価に相当する価格であると認められる。
B 次に、本件鑑定書では、上記イの(ハ)のGの(B)のとおり、本件借地権及び本件建物の価額を収益還元法により求めているが、本件のように、相続税法第22条に規定する時価を収益還元法による価額を勘案して決定する場合には、当該資産の最有効使用を図った場合における価額をもって勘案すべきと解されるところ、当該収益価格は、上記2の(1)のイ、3の(1)のイの(ハ)のA及びFの(A)のとおり、本件宅地に係る建ぺい率や容積率を最大限まで使用しておらず、かつ、建築後40年近くも経過し老朽化や陳腐化のため建替えが相当な建物における近隣相場より著しく低廉な賃料を基礎として算定されており、本件借地権の最有効使用の状況における適正な賃料を基礎として算定した価額ではないから、相続税法第22条に規定する時価、すなわち客観的な交換価値を表す価額とは認められない。
C 本件鑑定書では、上記イの(ハ)のGの(D)のとおり、積算価格に0.2、収益価格に0.8のウェイト付けをすることにより決定されているが、上記Bのとおり、客観的な交換価値を表す価額と認められない収益価格を基礎として本件借地権の価額を算定することは不適当なものと認められる。
 また、これらのウェイト付けによる計算の結果をみると、借家権等が設定されていることによる減価の額は、自用の借地権の時価として相当と認められる上記イの(ハ)のCの本件借地権の試算価格937,280,000円から本件鑑定評価額268,068,000円を差し引いた額669,212,000円であるから、この減価の割合は、71.4パーセントとなり、本件鑑定書において借地権の価格割合として使用している70パーセントをも超えるもので、借家権等の減価割合としては著しく過大であり、不相当というべきである。
D 以上のとおり、本件鑑定評価額は、本件借地権の客観的な交換価値を示しているものとは認められない。
ニ 請求人は、本件借地権の個別性を反映することができない評価基本通達の画一的な評価方法による評価は、客観的な価値、すなわち、時価を反映したものではない旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達においては、土地の形状や利用を制限する権利の態様等により、個別性に応じた各種調整を行って評価することとなっていることが認められるものである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 請求人は、不動産鑑定評価基準は、賃貸されている借地権付建物の価格を求める場合について、収益価格、積算価格及び比準価格の各試算価格中では収益価格に一番の重きを置き、積算価格及び比準価格には二次的なウェイト付けをする必要しかなく、その上で鑑定評価額を決定するとしている旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定評価書における収益価格は適正なものとは認められず、これが採用できないことは、上記ハの(ロ)のB及びCのとおりであるから、この点に関する請求人の主張を採用することはできない。
ヘ 請求人は、不動産鑑定評価額は、専門家たる不動産鑑定士の意見の表明であり、個別性の強い不動産の適正な価格を法の根拠のもとに表示しうる唯一のものである旨主張する。
 しかしながら、本件鑑定評価額は、上記ハで述べたとおり、相続税法第22条に規定する時価、すなわち、客観的な交換価値を示すものとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ト 次に当審判所において、請求人が提出した本件鑑定書により、本件借地権の価額について検討したところ、次のとおりである。
(イ)上記ハの(ロ)のAのとおり、本件借地権の試算価格である937,280,000円は、自用の場合における本件借地権の時価に相当する価額であることが認められる。
(ロ)本件借地権は、貸家の用に供されていることから、上記(イ)の価額から貸家の敷地として影響を及ぼす価額を減価する必要があるところ、請求人は、この点についての具体的な主張をしていない。
(ハ)ところで、評価基本通達の定めによれば、貸家建付借地権の価額は、借地権の価額からその価額に借家権割合(30パーセント)を乗じて計算した価額を控除した価額とされているところ、評価基本通達は、課税の公平を図るために、経験則又は売買実例や精通者の意見価格等を基にして評価すべき財産の実態に則した具体的な評価方法を定めており、貸家建付借地権である本件借地権を評価基本通達の定めに基づき評価することが、特に不合理であるとする理由は認められない。
(ニ)そうすると、本件借地権の価額は、
937,280,000円×(1‐0.3)=656,096,000円
となる。
チ 以上のとおりであり、請求人の申告に係る本件借地権の価額は、539,139,258円であるところ、請求人の主張する本件鑑定評価額は客観的な交換価値である時価を表していないと認められ、かえって当審判所において上記により算定した本件借地権の本件相続開始日の価額は656,096,000円となるのであるから、これを総合すると、請求人の主張・立証をもって本件借地権の価額が申告に係る価額を下回ると立証されたと認めることはできない。

(2)本件通知処分について

上記(1)のとおり、本件借地権の時価が本件評価額を下回るとは認められないから、本件通知処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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