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(平8.6.27裁決、裁決事例集No.51 638頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 平成4年2月11日に死亡したF(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る共同相続人は、妻G、長男H及び次男J(以下、各別に「G」、「H」及び「J」という。)であるところ、Hは、平成4年2月25日に死亡したので、同人の共同相続人である妻K、長女L及び長男M(以下、各別に「K」、「L」及び「M」という。)は、相続税法第27条《相続税の申告書》第2項の規定に基づき、本件相続に係る相続税について、G及びJとともに、申告書に次表のとおり記載して法定申告期限までに申告した。

(単位 円)
共同相続人等氏名課税価格納付すべき税額
G296,453,000
H(K、L、M)61,386,00018,213,700
J227,062,00068,601,200
合計584,901,00086,814,900

 その後、Gは、平成5年10月20日に死亡したので、同人の共同相続人である次男J、養女N(以下「N」という。)及び長男亡Hの代襲相続人LとMは、Gの国税の納付義務を承継した。
 原処分庁は、上記の申告に対し、平成6年7月29日付で、次表のとおりとする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

 審査請求人Jほか4名(ほか4名とは、N、K、L及びMをいい、以下「請求人ら」という。)は、これらの処分を不服として平成6年9月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成6年12月22日付で棄却の異議決定をした。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年1月20日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Jを総代として選任し、その旨を平成7年2月7日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 本件相続に係る相続財産のうち、有限会社W(以下「W社」という。)への出資(以下「本件出資」という。)の評価については、財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達、平成6年6月27日付課評2−8ほかによる改正前のもの。以下「評価通達」という。)185《純資産価額》及び186―2《評価差額に対する法人税額等に相当する金額》(以下、これらを併せて「本件通達」という。)の定めにより、一口当りの純資産価額の計算上「評価差額に対する法人税額等に相当する金額」(以下「法人税等相当額」という。)を控除すべきであり、この法人税等相当額を控除できないとした本件更正処分は、次のとおり違法である。
(イ)原処分庁は、W社の設立に際し、有限会社X(以下「X社」という。)の出資を著しく低い価額で現物出資した被相続人の一連の行為には経済的合理性は認められないとしているが、この経済的合理性の有無により、本件出資の評価方法を通常と異なる方法(法人税等相当額を控除しない方法)とすることは、次の理由から租税平等主義に違反する。
A この経済的合理性の有無による判断は、法人税及び所得税というフローの経済的利益を課税対象とする租税についての課税上の判断基準であり、相続税というストックとしての財産を課税対象とする租税とは次元を異にする判断基準であり、相続税においては、この経済的合理性の有無にかかわらず、その課税対象を客観的交換価額として評価すべきであること。
B 会社を解散した場合、その会社の資産の含み益に相当する清算所得に対する法人税等相当額の課税が生じることは明らかであること。
C 本件出資に係る一連の行為についての経済的合理性の有無により、相続税の課税対象である本件出資の客観的交換価額を区別する合理的理由がないこと。
(ロ)次の理由により、本件出資の評価において、法人税等相当額を控除できないとすることは、租税法律主義に違反する。
A 本件出資に係る一連の行為について経済的合理性が無いことを根拠として、本件出資の評価方法を通常と異なる取扱いとすることは、新たに課税要件を定めることであるから、その通常と異なる取扱いとする旨の新たな立法が必要であること。
B 純資産価額計算上の評価差額を恣意的に作り出し、相続税の負担の軽減を目的としたものについては、純資産価額の計算上、法人税等相当額の控除を認めないとする取扱いは、全く法律的な根拠がないこと。
C 本件通達の法人税等相当額を控除するとする定めは、昭和47年に評価通達が改正されて以来、今日までの長期間にわたり継続的一般的に適用されており、それに対する国民一般の法的確信を得ているものであるから、行政先例法、あるいは、それに準ずるものに該当すること。
D 原処分庁が評価通達6《この通達の定めにより難い場合の評価》を適用するのであれば、その適用については、国税庁長官の指示による旨を明確にしなければならないが、原処分ではその旨がその処分理由に明示されていないばかりか、原処分庁からはその旨の説明がされてないから、このことは憲法第31条に規定する適正手続の保障に反するものであること。
(ハ)通達は、上級行政庁が法令の解釈や行政の運用方針などについて、下級行政庁に対して行う命令ないしは指令であるが、これは、下級行政庁を拘束するにとどまらず、課税庁が納税者に対し、通達と異なる計算を基とした課税処分を受けることはないであろうとの予測可能性を与えているものであるから、本件通達と異なる評価方法により本件出資の評価を行った原処分は、信義則にも違反するものである。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件更正処分は、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件出資については、次のような事実が認められる。
A 平成2年7月10日、被相続人は、Y銀行a支店から1,500,000,000円を借り入れた(以下、この借入金を「本件借入金」という。)こと。
B 平成2年7月11日、被相続人及びJ(以下、この両名を「被相続人ら」という。)は、X社の設立に際し、1,500,000,000円を出資し、X社の出資(1口当たり10,000円)150,000口を取得したこと。
C 平成2年8月8日、被相続人らは、W社の設立に際し、X社の出資150,000口を現物出資し、本件出資(1口当たり10,000円)10,000口を取得したこと。
 なお、W社は当該現物出資を100,000,000円で受け入れていること。
D 本件相続の開始の日現在(平成4年2月11日)、本件出資1口当たりの時価を純資産価額方式で算定すると105,060円となること。
 ただし、本件通達に定める法人税等相当額を控除して算定すると56,310円となること。
(ロ)上記(イ)の各事実を総合勘案すると、次のとおり判断される。
A 上記(イ)のAないしCに記載した一連の行為の結果、被相続人らにとっては、借入金によって取得したX社の出資は、直接所有から本件出資による間接所有に変わっただけであると認められ、この間に実質的な財産としての変動は認められない。
B それにもかかわらず、上記(イ)のDのとおり、本件出資の評価に当たり、本件通達に定める法人税等相当額を控除するとその価額が大幅に減少するのは、本来独立した経済主体として営業活動を行うべき会社に、企業活動の基本資産としてなり難い取引相場のない会社であるX社の出資を著しく低い価額で現物出資したことに起因するものであるから、このような一連の行為には経済的合理性は認められない。
C すなわち、本件の場合は、本件通達に定める純資産価額方式が、法人税等相当額を控除することとしていることを利用して、現物出資の方法により、純資産価額計算上の評価差額を恣意的に作り出し、相続税の負担の軽減を目的とするものであることは明らかであるので、このような場合にまで法人税等相当額を控除することは著しく不適当であると認められる。
 したがって、本件出資の評価に当たっては、現物出資の方法によって作り出された純資産価額計算上の評価差額に対する法人税等相当額を控除しないで計算した金額により評価することとなる。
(ハ)請求人らは、本件更正処分は租税平等主義に反する旨主張するが、仮に本件のような場合にまで、評価差額に対する法人税等相当額の控除ができるものとすると、一連の行為において純資産価額計算上の評価差額を恣意的に作り出した者とそうでない者との間において著しく租税負担の公平を害することとなり、かえって租税平等主義に反することとなる。
(ニ)請求人らは、本件出資の評価に当たり法人税等相当額を控除しないことは、租税法律主義に反するものである旨主張するが、相続財産の評価に当たっては、相続税法第22条《評価の原則》の規定に基づき評価しなければならず、同法でいう時価とは、相続開始時における客観的な交換価格をいうものと解するのが相当である。
 しかし、客観的な交換価格というものが必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、相続財産評価の一般的基準が評価通達によって定められ、そこに定められた画一的な評価方式によって、相続財産を評価することとされている。
 これは、あらかじめ定められた評価方式により画一的に評価する方が納税者間の公平、納税者の便宜、徴税費用の節減という見地から見て合理的であるという理由に基づくものと解されている。
 したがって、上記のような趣旨からすれば、評価通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されると解すべきであり、このことは、評価通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
(ホ)請求人らは、純資産価額の計算上、法人税等相当額を控除するとの本件通達の定めの適用を認めることが信義則にかなうものである旨主張するが、信義則の法理が適用されるためには、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといい得るような特別の事情が存する場合に、初めてその適用の是非を考えるべきものであると解されているところ、請求人らの場合、そのような特別の事情は存しない。
(ヘ)請求人らは、本件出資の評価に当たり、本件通達に定められた画一的な評価方式によらない場合には、評価通達6の適用手続を説明すべきである旨主張するが、〔1〕評価通達6に定める国税庁長官の指示は、課税庁内部における処理の手順を定めたものに過ぎず、また、〔2〕評価通達に定められた評価方式を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかな場合には、別の評価方式によることが許されると解すべきであるところ、本件のような経済的合理性のない行為による相続税の負担の軽減を目的とする場合にまで法人税等相当額を控除することは著しく不適当であると認められる。
(ト)原処分庁の調査によれば、本件相続に係る相続財産の種類別価額及び共同相続人の取得した財産の価額は別表1のとおりであり、納付すべき税額はそれぞれ別表2の〔6〕欄のとおり、Gが103,890,900円、Hが24,773,600円及びJが79,868,000円となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件出資の評価に当たり、本件通達に定める法人税等相当額を控除できるか否かであるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)被相続人の平成元年分ないし平成3年分の所得税の確定申告書によれば、同人の総所得金額は、次表のとおりであること。

(ロ)Jは、平成2年4月19日から同年6月20日まで5回にわたりY銀行a支店を訪れ、被相続人の相続対策について相談をし、1,500,000,000円の借入れの申込みを行っていること。
 Y銀行a支店の応接記録によれば、Jが投資顧問会社を利用した相続税対策として、被相続人名義で1,500,000,000円の借入れの申込みを行っており、その際同銀行は、顧問税理士等と相談し、この方法による節税は国税当局から否認される可能性が高いので、堅実な方法による対策の方が近道である旨Jにアドバイスしたが、Jは、ダメもとでやるつもりのようである旨が記載されていること。
(ハ)Y銀行a支店の貸出協議書によれば、同銀行は、被相続人に対し平成2年7月10日に1,500,000,000円を貸し付けており、その貸付利率は、年7.50パーセントであること。
(ニ)被相続人は、本件借入金を平成2年7月11日にX社に出資し、同日、被相続人らの名義でX社に対する出資(1口当たり10,000円)150,000口を取得したこと。
 なお、被相続人らの出資の内訳は、被相続人149,985口、J15口であること。
 また、X社は、その出資金全額を資本金として処理していること。
(ホ)X社に係る商業登記簿謄本には、「設立:平成2年7月11日登記、出資1口の金額:10,000円、資本の総額:1,500,000,000円、目的:〔1〕有価証券の売買及び〔2〕その他前号に附帯関連する一切の業務」と記載されていること。
(ヘ)X社の法人税の確定申告書によれば、同法人の所得金額は、平成2年7月11日から同年10月31日までの事業年度は294,613,498円の欠損金額及び平成2年11月1日から平成3年10月31日までの事業年度は欠損金の当期控除額235,106円を控除して所得金額は零円(翌期に繰り越す欠損金294,378,392円)である旨記載されていること。
(ト)被相続人らは、平成2年8月8日にX社の出資150,000口をW社に現物出資し、本件出資(1口当たり10,000円)10,000口を取得したこと。
 なお、被相続人らの出資の内訳は、被相続人9,999口、J1口であること。
 また、W社は、当該現物出資を100,000,000円で受け入れ、資本金として処理していること。
(チ)W社に係る商業登記簿謄本には、「設立:平成2年8月8日登記、出資1口の金額:10,000円、資本の総額:100,000,000円、目的:(1)不動産の賃貸及び管理、(2)不動産の取引に関する研究及び不動産取引のコンサルタント業務、(3)財産管理の運用の企画及び受託、(4)建築及び各種施設に関する企画、設計、監理並びに建築の企画、設計に関するコンサルタント業務、(5)地域開発及び都市開発に関する企画、設計、監理並びに前記に係るコンサルタント業務及び(6)その他前各号に附帯関連する一切の業務」と記載されていること。
(リ)W社の法人税の確定申告書によれば、同法人の所得金額は、平成2年8月8日から同年10月31日までの事業年度は、1,532,589円の欠損金額及び平成2年11月1日から平成3年10月31日までの事業年度は469,372円の欠損金額である旨記載されていること。
(ヌ)本件相続の開始の日現在のX社の相続税評価額(評価通達の定めにより算定された価額をいう。以下同じ。)による純資産価額は、別表3のとおり1,056,226,000円(出資1口当たり7,041円)であること。
(ル)本件相続の開始の日現在のW社の帳簿価額による純資産価額は94,672,000円であり、このうち出資金100,000,000円を上記(ヌ)に基づいて評価した場合の相続税評価額による純資産価額は、法人税等相当額を控除しない場合、別表4の(9)欄のとおり1,050,822,000円(出資1口当たり105,082円)であり、法人税等相当額を控除した場合は、別表5の(9)欄のとおり、563,186,000円(出資1口当たり56,318円)であること。
ロ ところで、相続税法第22条は、相続により取得した財産の価額は、特別の定めのあるものを除き、その財産の取得の時における時価による旨規定しており、その時価とは、課税時期においてそれぞれの財産の現況に応じ不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち客観的な交換価値を示す価額であると解されている。
 しかしながら、客観的な交換価値を示す価額というものが、必ずしも一義的に確定されるものではないことから、課税実務上は、財産評価の一般的基準として評価通達が定められており、同通達に定められた評価方法によって相続により取得した財産を評価することとされている。
 これは、財産の客観的な交換価値を示す価額を個別に評価する方法をとると、その評価方式、基礎資料の選択の仕方等により異なった評価額が生じることは避け難く、また、課税庁の事務負担が重くなり、課税事務の迅速な処理が困難となるおそれがあることから、あらかじめ定められた評価方法によりこれを画一的に評価する方が、納税者間の公平、納税者の便宜という見地からみて合理的であるという理由に基づくものと解される。
ハ 本件出資の評価に当たり、評価通達を適用して評価することについては、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所においても相当と認められる。
 そうすると、租税平等主義という観点からは、評価通達に定められた評価方法が合理的なものである限り、これが形式的にすべての納税者に適用されることが望ましいとしても、他方、同通達に定められた評価方法によるべきであるとする趣旨が上記ロのようなものであることからすれば、同通達の評価方法を画一的に適用するという形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかであるなどの特別な事情がある場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきであり、このことは、評価通達6において「この通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は、国税庁長官の指示を受けて評価する。」と定められていることからも明らかなものというべきである。
ニ 上記イの事実を上記ロ及びハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)被相続人は、上記イの(ハ)のとおり、相続開始の日の約1年半前である平成2年7月10日にY銀行より本件借入金を借り入れ、上記イの(ニ)のとおり、同年7月11日に、149,985口、1,499,850,000円をX社に出資し、上記イの(ト)のとおり、同年8月8日に、W社の設立に際しX社に対する出資を時価より著しく低額な額面金額(出資9,999口、99,990,000円)で現物出資することにより本件出資の持分を取得していること。
(ロ)上記イの(ハ)のとおり、本件借入金の利率は、年7.50パーセントと定められていたことから、本件借入金に伴う金利負担は年額112,500,000円となり、その金利負担だけでも、上記イの(イ)の被相続人の年間所得金額の約20倍程度と多額で、その支払いは困難と認められること。
(ハ)上記イの(チ)のとおりのW社の事業目的からすれば、本件出資の所有により多額の収益が生じるとは考えられないこと。
(ニ)本件相続に係る相続税の課税価格の算定に当たり、本件出資の価額については本件通達に基づき法人税等相当額を控除して評価した563,186,000円(1口当たり56,318円)を相続財産に計上し、その取得資金である本件借入金についてはそのままの金額を債務として計上すると、当該債務のうち本件出資の評価額から控除しきれない債務936,814,000円が他の相続財産の価額から控除されることとなり、その結果として、本件借入金や本件出資をしなかった場合に比べて相続税の課税価格が、936,814,000円圧縮され、被相続人の所有財産の価値にほとんど変動がないと認められるにもかかわらず、W社に対する出資に係る一連の行為により多額の相続税の負担が軽減される結果になること。
(ホ)以上の諸事情を総合して判断すると、本件出資の取得は、これを資産として運用し収益を得る目的で保有するために行われたものではなく、本件出資の1口当たりの純資産価額を算定するに当たり法人税等相当額を控除することとしている本件通達に定められた方法を利用し、本件借入金と本件出資の差額に相当する課税価格を圧縮することによって、相続税の負担の軽減を図るという目的で行われたものであることが容易に推認でき、実質的な租税負担の公平という観点からして、W社に対する出資に係る一連の行為は許されないものというべきであり、このような場合の本件出資の評価は、本件通達によらないことが相当と認められる特別な事情がある場合に該当すると解すべきである。
ホ ところで、純資産価額を算定するに当たっては、一般的には会社が保有する総資産価額(時価)から債務額を控除して算定することとしているが、本件通達の取扱い上、法人税等相当額を控除することとしているのは、個人が財産を直接所有する場合と出資という形態を通じて間接的に所有している場合との差を考慮した相続税の課税上のしんしゃくであると認められる。
 しかし、上記ハのとおり、本件出資は、相続税の負担の軽減を図る目的で行われたと認められるから、このような恣意的に租税負担の軽減を図るような租税負担の公平を欠く行為に該当するものまでも、本件通達による法人税等相当額の控除を行うことは適当でないというべきであり、また、租税制度全体を通じて税負担の累進性を補完するとともに、富の再配分機能を通じて経済的平等を実現するという相続税法の立法趣旨からすれば、本件出資の評価に当たり、法人税等相当額の控除を行うことは、著しく不相当なものというべきである。
ヘ 請求人らは、経済的合理性の有無により評価方法を異にすることには、合理的理由がないことなどから租税平等主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、上記ハのとおり、租税平等主義という観点からは、評価通達に定められた評価方法を形式的にすべての納税者に適用されることが望ましいとしても、他方、形式的な平等を貫くことによって、かえって実質的な租税負担の公平を著しく害することが明らかである場合には、他の合理的な評価方法によることができるものと解すべきである。
 また、本件出資の評価に当たり、評価差額の法人税等相当額を控除しないことは、本件通達の予定されていない利用による税逃れの防止という合理的目的を有するもので、客観的合理性のある理由が存在するというべきであり、租税平等主義に違反するものではないと認められる。
 したがって、この点に関する請求人らの主張を採用することはできない。
ト 請求人らは、法人税等相当額を控除しないとする取扱いをすることは、(1)新たな立法が必要であること、(2)法的根拠がないこと、(3)行政先例法に反すること及び(4)憲法第31条の適正手続の保証に反することを理由として、租税法律主義に違反する旨主張する。
 しかしながら、評価通達は、一般的で通常のノーマルな状態を前提として、時価算定の目安となるべき基準を示すものに過ぎないのであって、その基準に基づく評価差額に対する法人税等相当額の控除を利用して、税負担の軽減を図ることを目的とするようなアブノーマルな状態を故意に作り出している場合についてまで、この基準によって課税価格の計算をすることを容認することは、このような工作を行った特定の者の税負担だけが軽減されるという不合理な結果を招き、課税の不公平を助長することになって相当でないというべきであり、この基本的な評価方法を逆手にとって一定の行為を行い、この基本的な評価方法を盾にして、その評価方法の正当性を主張することは許されない。また、評価通達は、税務執行の便宜上、単に評価の目安となるべきものを示したにすぎないものであって、それ自体が納税者を拘束するものではないから、本件のような性格のものについてまで行政先例法性が認められるとは考えられない。
 さらに、通達の適用に関する国税庁長官の指示は、関係下級行政庁ないしその職員のみを拘束するにすぎないものであり、また、国税庁長官の指示を納税者に対して明確にしなかったとしても、これをもって法律上の手続の瑕疵ということはできないから、憲法第31条違反云々の問題としてとらえることは相当でない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張を採用することはできない。
チ 請求人らは、通達は課税庁から納税者に対し、通達と異なる計算を基とした課税処分を受けることはないであろうとの、予測可能性を与えているものであるから、同規定を適用しない原処分は、信義則にも違反する旨主張する。
 しかしながら、通達とは、上級行政機関がその内部的権限に基づき、下級行政機関に対して発する命令にすぎず、通達それ自体が国民の権利義務を直接規制する法規であるということはできない。
 また、納税者等の法的確信ないし信頼等の保護という点からみても、本件の場合のように、実質的な租税負担の公平に反するような行為が法的に保護されるに値するとはいえない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
リ 以上の結果、原処分庁が本件出資に係る評価差額に対する法人税等相当額を控除しないで本件出資を評価したことは相当と認められ、本件相続に係る共同相続人の取得した財産の価額を別表1のとおり、また、納付すべき税額を別表2のとおりとして行った本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分は上記(1)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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