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(平8.6.27裁決、裁決事例集No.51 731頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年1月1日から平成6年12月31日までの課税期間(以下「平成6年課税期間」という。)の消費税の確定申告書に次表の「確定申告」欄とおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成7年4月26日付で平成6年課税期間の消費税について、次表の「更正処分等」欄のとおり更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として平成7年5月18日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、これに対し、同年8月24日付でいずれも棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成7年9月13日に審査請求をした。

(単位 円)
区分確定申告更正処分等
項目
課税標準額32,718,00032,718,000
納付すべき税額△1,074,31253,300
過少申告加算税の額143,000

(注)「納付すべき税額」欄の△印は、還付金の額に相当する税額を示す。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人は、平成5年12月24日に消費税法第9条《小規模事業者に係る納税義務の免除》第4項に規定する同条第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書(以下、この届出書を「消費税課税事業者選択届出書」という。)を提出した上、平成6年課税期間の消費税の確定申告において、消費税法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定を適用して課税仕入れに係る消費税額を計算(以下、この計算を「本則計算」という。)し、消費税に係る還付金の額に相当する金額を1,074,312円として申告したところ、原処分庁は、これに対し、課税仕入れに係る消費税額を消費税法第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定による特例(以下、この特例を「簡易課税の特例」という。)を適用して消費税に係る納付すべき税額を53,300円とする本件更正処分を行った。
(ロ)ところで、請求人は、平成4年1月1日から平成4年12月31日までの課税期間(以下「本件基準期間」という。)における課税売上高が3,000万円以下となったため、平成6年課税期間について、消費税法第57条《小規模事業者の納税義務の免除が適用されなくなった場合等の届出》第2号の規定に基づき基準期間における課税売上高が3,000万円以下となった旨の届出書(以下、この届出書を「消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書」という。)を平成5年2月22日に提出したのであるから、これに伴い、請求人が平成元年3月9日に提出した簡易課税の特例の適用を受ける旨の届出書(以下、この届出書を「消費税簡易課税制度選択届出書」という。)による簡易課税の特例の適用についての届出の効力も、同時に失効したものと解される。
(ハ)なぜなら、簡易課税の特例は、あくまで中小事業者である課税事業者の課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額の計算の特例であるので、課税事業者でなくなれば、当然簡易課税の特例の適用をする意味がなく、また、免税事業者に該当する者に課税事業者の選択を認めているのは、課税仕入れに係る消費税額が課税売上げに係る消費税額を上回る場合に消費税の還付が受けられるようにする趣旨によるものと考えられるからである。
(ニ)したがって、請求人の平成6年課税期間における課税仕入れに係る消費税額については、本則計算によるべきところ、原処分庁は誤った法令の解釈に基づき簡易課税の特例を適用して過少に算定しているから、本件更正処分は違法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い平成6年課税期間の過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁の調査担当職員が調査したところ、次の事実が認められる。
A 請求人は、平成元年3月9日に消費税法第57条第1号に規定する消費税の基準期間における課税売上高が3,000万円を超えることとなった旨の届出書(以下、この届出書を「消費税課税事業者届出書」という。)及び消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること。
B 請求人は、平成5年2月22日に消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出していること。
C 請求人は、平成5年12月24日に消費税課税事業者選択届出書を提出していること。
D 請求人からは、消費税法第37条第2項に規定する簡易課税の特例の適用を受けることをやめようとする旨の届出書(以下、この届出書を「消費税簡易課税制度選択不適用届出書」という。)の提出はないこと。
(ロ)請求人は、前記(イ)のBのとおり消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出しているが、この届出書は、消費税法第57条第2号の規定により、基準期間の課税売上高が3,000万円以下となった場合に提出しなければならないとされているものであり、当該届出書の提出により簡易課税の特例の適用がなくなるものではないのであって、簡易課税の特例の適用を受けることをやめようとするときは、消費税法第37条第2項の規定により消費税簡易課税制度選択不適用届出書を提出しなければならないのであり、当該届出書の提出があるまでは、消費税簡易課税制度選択届出書はその効力を有することになる。
(ハ)ところで、請求人は、前記(イ)のAのとおり消費税簡易課税制度選択届出書を提出しているが、消費税簡易課税制度選択不適用届出書は提出していないのであるから、消費税法第37条第1項の規定により平成6年課税期間において簡易課税の特例の適用を受ける事業者に該当する。
 また、請求人は、前記(イ)のCのとおり消費税課税事業者選択届出書を平成5年12月24日に提出しているので、消費税法第9条第4項の規定により、平成6年課税期間において消費税の課税事業者に該当する。
 以上のことから、請求人の平成6年課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除する課税仕入れに係る消費税額は、簡易課税の特例を適用して算定しなければならないこととなる。
(ニ)課税標準等
A 課税標準額
 課税標準額は、請求人が消費税の確定申告に記載した金額32,718,000円である。
B 課税標準額に対する消費税額
 課税標準額に対する消費税額は、前記Aの課税標準額に100分の3を乗じて算出した金額981,540円である。
C 消費税額から控除する税額
 課税標準額に対する消費税額から控除する税額は、次の(A)及び(B)の合計額928,174円となる。
(A)課税仕入れに係る消費税額は、簡易課税の特例を適用して算定した金額であるところ、請求人の営む事業は消費税法施行令第57条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第5項第4号に規定する第四種事業に該当するので、課税仕入れに係る消費税額は、前記Bの課税標準額に対する消費税額に消費税法第37条第1項に規定する100分の60を乗じて算出した金額588,924円となる。
(B)消費税法第40条《小規模事業者等に係る限界控除》の規定に基づく限界控除税額は339,250円である。
D 納付すべき消費税額は、前記Bの課税標準額に対する消費税額981,540円から前記Cの控除する税額928,174円を差し引いた残額の百円未満の端数を切り捨てた金額53,300円となる。
E 以上の結果、請求人の納付すべき消費税額は、本件更正処分に係るそれと同額となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 過少申告加算税の賦課決定処分については、請求人の場合、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する「正当な理由があると認められるものがある場合」に該当しないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、請求人の平成6年課税期間の課税仕入れに係る消費税額につき簡易課税の特例を適用して計算することの適否であるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 当審判所が、原処分関係資料等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成元年3月9日に原処分庁に対し、消費税課税事業者届出書及び適用開始課税期間を昭和64年1月1日から平成元年12月31日までの課税期間とする消費税簡易課税制度選択届出書を提出していること。
(ロ)請求人は、平成3年9月24日に原処分庁に対し、同月30日に事業を廃止する旨を記載した届出書(以下「本件事業廃止届出書」という。)を提出していること。
(ハ)請求人が平成3年分の所得税の確定申告書に添付して原処分庁に提出した「平成3年分所得税青色申告決算書(一般用)」及び「平成3年分所得税青色決算書(不動産所得用)」には、次の旨の記載があること。
A 請求人の「釣船・屋形船」に係る事業は、平成3年9月末をもって廃業し、平成3年10月1日以降、請求人が代表者となっている有限会社G(以下「G社」という。)が当該事業の経営を開始した。
B 「不動産所得の収入の内訳」欄には、請求人の所有する船舶(釣船・屋形船)をG社に対し平成3年10月から月額1,800,000円で貸し付け、同年分の不動産所得に係る収入金額は5,400,000円である。
(ニ)G社から原処分庁に提出された法人設立届出書の「事業開始(見込)年月日」欄には、平成3年10月1日と記載されていること。
(ホ)請求人は、平成5年2月22日に原処分庁に対し、平成6年課税期間に係る消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出しており、当該届出書には、請求人の本件基準期間における課税売上高は20,970,000円と記載されていること。
(ヘ)請求人は、平成5年12月24日に消費税課税事業者選択届出書を原処分庁に提出していること。
 なお、その後において請求人から原処分庁に消費税簡易課税制度選択不適用届出書は提出されていないこと。
(ト)請求人は、平成6年課税期間の消費税の確定申告において、課税仕入れに係る消費税額を本則計算の方法により計算し、法定申告期限までに申告していること。
(チ)請求人は、請求人の所有する船舶をG社に平成3年10月から平成6年12月31日までの間引き続き貸し付けていること。
ロ ところで、消費税法第9条第4項によれば、消費税を納める義務が免除されることとなる事業者が、その基準期間における課税売上高が3,000万円以下である課税期間につき、同条第1項本文の規定の適用を受けない旨を記載した届出書をその納税地を所轄する税務署長(以下「税務署長」という。)に提出した場合には、当該提出をした事業者が当該提出をした日の属する課税期間の翌課税期間以降の課税期間中に国内において行う課税資産の譲渡等について、消費税を納める義務は免除されない旨規定されている。
 また、消費税法第37第1項によれば、事業者が、税務署長にその基準期間における課税売上高が4億円以下である課税期間について同項の規定の適用を受ける旨の届出書を提出した場合には、当該届出書を提出した日の属する課税期間の翌課税期間以降の課税期間については、簡易課税の特例の適用を受けることができる旨規定されている。
 さらに、消費税法第37条第2項及び第4項によれば、同条第1項の規定による届出書を提出した事業者は、同項の規定による簡易課税の特例の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書を税務署長に提出しなければならないこととされており、この規定による届出書の提出があったときは、その提出があった日の属する課税期間の末日の翌日以降は、簡易課税の特例は適用されない旨規定されている。
 一方、消費税法第57条は、課税期間の基準期間における課税売上高が3,000万円を超えることとなった旨又は3,000万円以下となった旨の届出書及び事業を廃止した旨の届出書等の提出義務者等について規定しているにすぎず、事業者が同条第2号に掲げる「課税期間の基準期間における課税売上高が3,000万円以下となった場合」に該当する旨の届出書を提出したことにより、当該事業者が先に行っていた簡易課税の特例の適用についての届出はその効力を失う旨の規定は存在しない。
 なお、消費税法第2条《定義》第1項第8号及び第9号によれば、資産の譲渡等とは、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいい、課税資産の譲渡等とは、資産の譲渡等のうち、同法第6条《非課税》第1項の規定により消費税を課さないこととされているもの以外のものをいう旨規定されているところ、消費税法上の「事業」とは、対価を得て行われる資産の譲渡等が反復、継続、独立して行われることをいうものと解するのが相当であることから、船舶を所有する者がその船舶を継続して貸し付け、その対価たる賃貸料を収受する行為は消費税法上の事業に該当することとなる。
ハ そこで、前記イの事実を前記ロの規定等に照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)前記イの(ホ)のとおり、請求人の本件基準期間における課税売上高は3,000万円以下であると認められるが、前記イの(ヘ)のとおり、請求人は平成5年12月24日に原処分庁に対し、消費税課税事業者選択届出書を提出していることから、前記ロのとおり、消費税法第9条第4項の規定により請求人が平成6年課税期間において消費税の課税事業者に該当することは明らかである。
(ロ)また、請求人は、前記イの(イ)のとおり、原処分庁に対し、平成元年3月9日に消費税簡易課税制度選択届出書を提出しているが、前記イの(ト)のとおり、その後、請求人から消費税簡易課税制度選択不適用届出書が提出されている事実は認められないから、消費税法第37条第1項及び第2項の規定により、請求人が平成6年課税期間においても簡易課税の特例の適用を受ける事業者であることは明らかである。
(ハ)したがって、原処分庁が、請求人の平成6年課税期間の課税仕入れに係る消費税額につき簡易課税の特例を適用して計算したことは、消費税法の規定するところによるものであると認められる。
(ニ)請求人は、平成5年2月22日に消費税法第57条の規定に基づき消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出したことに伴い、簡易課税の特例の適用についての届出の効力も同時に失効した旨主張する。
 しかしながら、前記ロのとおり、〔1〕消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書は、事業者が、課税期間の基準期間における課税売上高が3,000万円以下となった場合に、当該基準期間に対応する課税期間において消費税の納税義務者でなくなった旨を税務署長に対して届け出るためのものであること、〔2〕簡易課税の特例の適用を受けることをやめようとするとき又は事業を廃止したときは、その旨を記載した届出書を税務署長に提出しなければならない旨規定されていることからすると、消費税の納税義務者でなくなった旨の届出書を提出したことに伴い、先に提出されていた消費税簡易課税制度選択届出書による簡易課税の特例の適用についての届出の効力も同時に失効するものと解することはできないことは明らかというべきである。
 また、請求人は、前記2の(1)のイの(ハ)のとおり、簡易課税の特例の適用についての届出の効力が失効したと主張する理由について、課税事業者でなくなれば簡易課税の特例の適用を受ける意味がなく、免税事業者に該当する者に課税事業者の選択を認めているのは、消費税の還付が受けられるようにする趣旨によるものである旨主張する。
 しかしながら、(a)簡易課税の特例の適用を受けている課税事業者が、課税売上高の変動により、その後の課税期間において免税事業者となり、その後再び課税事業者になることが想定されるところ、消費税法第37条第2項に規定する簡易課税の特例の適用を受けることをやめようとする旨又は事業を廃止した旨の届出書を提出しない限り当初の届出の効力が失われないことについては、前記ロのとおり、消費税法第37条第4項の規定で明らかであること及び(b)消費税の法令において、免税事業者に該当する者が消費税課税事業者選択届出書を提出して課税事業者となった場合に、課税仕入れに係る消費税額について簡易課税の特例の適用を受けるか否かは事業者の選択に委ねられていることからすると、請求人の主張する理由をもって、上記の判断が左右されることにはならないといわざるを得ない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には、いずれも理由がない。
(ホ)なお、請求人は、前記イの(ロ)のとおり、平成3年9月24日に本件事業廃止届出書を原処分庁に提出しているが、前記イの(ハ)及び(ニ)のとおり、請求人が個人事業として経営していた「釣船・屋形船」に係る事業を平成3年10月1日以降、G社による法人事業とするとともに、請求人が所有する船舶を同社に月額1,800,000円で貸し付けており、この船舶の貸付けは、前記ロのとおり、消費税法第2条に規定する課税資産の譲渡等に該当し、消費税法上の事業は継続して行われているものと認められるから、請求人が提出した本件事業廃止届出書は、消費税法第37条第2項及び第57条第3号などに規定する事業を廃止した旨の届出書のいずれにも該当せず、当該届出書の提出により簡易課税の特例の適用関係に影響を及ぼすものではない。
(ヘ)以上のとおりであるから、原処分庁が請求人の平成6年課税期間の課税仕入れに係る消費税額につき簡易課税の特例を適用して計算したことは相当と認められ、かつ、原処分庁の課税標準等についての前記2のイの(ニ)の計算はいずれも適正であることが認められるから、本件更正処分は適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 過少申告加算税の賦課決定処分については、本件更正処分は前記(1)のとおり適法であり、また、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定により過少申告加算税の賦課決定をした原処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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