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(平8.4.22裁決、裁決事例集No.51 743頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成6年5月19日、P市R町2丁目22番14所在の宅地212.34平方メートル(以下「本件土地」という。)の所有権移転登記申請(以下「本件登記申請」という。)に当たり、登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に登録免許税の課税標準の額を90,345,000円及び登録免許税の額を4,517,200円と記載して、その税額に相当する金額の印紙を貼付の上、これをF法務局P出張所へ提出することにより、登録免許税を納付した。
 その後、請求人は、平成7年5月2日に原処分庁に対して、登録免許税の還付通知請求書に本件土地に係る課税標準の額を43,062,000円及び登録免許税の額を2,153,100円と記載し、先に納付した税額との差額2,364,100円につきP税務署長に対し還付通知をすべき旨の請求(以下「本件還付通知請求」という。)をしたところ、原処分庁は、同年9月20日付で、本件還付通知請求に対して、還付の通知をすべき理由がない旨の通知処分をした。
 請求人は、この処分を不服として、平成7年10月12日に審査請求をした。

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2 主張

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(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件土地は、平成6年4月28日にP市R町2丁目22番2所在の土地(以下「本件分筆前の土地」という。)から分筆された土地であって、本件登記申請書の提出日(以下「本件登記日」という。)において、地方税法第341条《固定資産税に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳(以下「課税台帳」という。)に登録された価格(以下「台帳価格」という。)のない土地であり、本件土地に係る登録免許税の課税標準の額は、租税特別措置法施行令(以下「措置法施行令」という。)第44条の6《不動産登記に係る不動産価額の特例》第1項の後段の規定により、本件土地に類似する土地(以下「類似地」という。)の台帳価格を基礎として認定すべきところ、原処分庁は、本件分筆前の土地を類似地と認定し、その台帳価格を基礎として面積割合により本件土地に係る登録免許税の課税標準の額を認定している。
ロ しかしながら、次に述べるとおり、本件分筆前の土地は、本件土地との類似性を欠いており、本件分筆前の土地を類似地として認定することは著しく不合理である。
(イ)本件分筆前の土地は、国道〇号線と国道〇号線から斜め横に入った道路(以下「本件土地の正面道路」という。)との両道路に面する画地であるが、本件土地は、本件土地の正面道路のみに面する画地部分であり、本件分筆前の土地とはその効用価値に著しい相違があること。
(ロ)原処分庁が認定した本件土地に係る登録免許税の課税標準の額90,345,000円と平成7年1月1日において本件土地について新たに付された台帳価格に基づいて計算した課税標準の額43,062,000円との間には、2倍以上の価格格差があること。
(ハ)平成6年分の相続税財産評価基準に係る路線価図によれば、本件分筆前の土地の正面路線価は1平方メートル当たり820,000円であるのに対し、本件土地の正面路線価は1平方メートル当たり500,000円であり、両土地の正面路線価には約1.7倍の価格格差があること。
ハ 平成7年1月1日において、本件土地について新たに付された台帳価格は107,656,380円であり、1平方メートル当たり、507,000円となっている。
 そうすると、本件土地の正面道路のみに面する近傍の土地の中に、本件土地の類似地に適する土地があり、当該土地の平成6年1月1日現在の1平方メートル当たりの台帳価格は507,000円であることが想定されることから、本件土地に係る登録免許税の課税標準の額は107,656,380円に100分の40を乗じた金額43,062,000円(1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)及び登録免許税の額は2,153,100円となる。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準としての不動産の価額は、登録免許税法第10条《不動産等の価額》第1項により、当該登記の時における当該不動産の価額による旨規定され、当該不動産の価額は、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第84条の3《不動産登記に係る不動産価額の特例》により、土地に関する登記に限り、当該登記の申請の日の属する年の前年の12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在において課税台帳に登録された当該不動産の価格を基礎として措置法施行令第44条の6で定める価額に100分の50を乗じて計算した金額とする旨規定され、租税特別措置法の一部を改正する法律(平成6年法律第22号)附則(以下「改正措置法附則」という。)第24条《登録免許税の特例に関する経過措置》第9項によれば、平成6年4月1日から平成8年3月31日までの間に受ける登記については、その台帳価格に100分の40を乗じて計算した金額とする旨規定されている。
 また、措置法施行令第44条の6によれば、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日において類似地で台帳価格のあるものを基礎として当該登記に係る登記官が認定した価額を課税標準の額とすることができる旨規定されている。
ロ 本件土地は、平成6年4月28日に、本件分筆前の土地から分筆された台帳価格のない土地であったことから、原処分庁は、措置法施行令第44条の6により、類似地として本件分筆前の土地を認定し、本件分筆前の土地の台帳価格を基礎として本件土地に係る登録免許税の課税標準の額を認定したものである。
ハ 登記事務処理の実務においては、次の理由により、台帳価格のない土地の登録免許税の課税標準の額は、「不動産登記の登録免許税課税標準価格の認定基準について」(昭和60年2月28日△不登×第〇□△号F法務局民事行政部長依命通達)(以下「認定基準」という。)により、その分筆前の土地を類似地として認定することが著しく不合理である旨の疎明などの特別な事情のない限り、その面積割合をもって算定する取扱いとなっている。
(イ)(a)その分筆の方法(形、面積の大小、地形、位置等)、(b)分筆された後の土地(以下「分筆地」という。)に至る道路の存否、状況(私道、公道の別、幅員、位置等)及び(c)分筆地と関係する近傍の土地の権利関係(所有権、地役権)の存否等が分筆地の価格に影響を及ぼすことから、類似地として分筆前の土地を認定するのが合理的であること。
(ロ)分筆前の土地以外に類似地を認定するとすれば、類似地の存否等の事情によって登録免許税の額の算定に差が生じ公平な課税が保たれないこと。
(ハ)原処分庁の事務処理能力には限界があり、土地の価格を形成する経済的諸要因を事件ごとに調査し、比較考量することは事実上不可能であること。
ニ 本件土地は平成6年4月28日に本件分筆前の土地から分筆された土地であり、本件登記日時点では台帳価格のない土地である。
 したがって、原処分庁は、本件分筆前の土地を類似地として認定することが著しく不合理であるなどの特別の事情もなかったことから、本件分筆前の土地を類似地として認定し、当該土地の台帳価格を分筆後の地積にあん分する方法をもって本件土地に係る登録免許税の課税標準の額を認定したものである。
ホ 以上のとおり、本件土地の所有権移転登記は適正に処理されたものであり、登録免許税法第31条《過誤納金の還付等》第1項第3号にいう「過大に登録免許税を納付して登記等を受けたとき」には該当せず、原処分庁は、P税務署長に対して、過誤納付としての還付について通知すべき理由はない。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件土地の登記に係る登録免許税の額の過誤納の有無であるので、審理したところ、次のとおりである。
(1)次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所が調査したところによってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成6年5月19日に本件登記申請書を原処分庁に提出し、本件登記申請に係る登録免許税4,517,200円を納付していること。
ロ 本件登記日現在において、P県税事務所が備え付けている課税台帳には、本件土地の価格は登録されていないこと。
(2)当審判所において、本件土地及び近傍の土地につき現地調査をしたところによれば、次の事実が認められる。
イ 本件土地は、国道〇号線から北側に入り込んだ6メートル道路である本件土地の正面道路のみに面し、国道〇号線から約20メートル入った画地であること。
ロ 本件土地の東南側は水路であり、行き止まりとなっていること。
ハ 本件土地の水路側には請求人の自宅があり、本件土地の正面道路側には車庫があること。
ニ 本件土地の北側のP市R町2丁目22番3に、本件土地の正面道路のみに面した本件土地とほぼ同形の土地(以下「甲土地」という。)があること。
ホ 本件分筆前の土地は、国道〇号線に約27メートル及び本件土地の正面道路に約13メートル面した画地であること。
(3)当審判所がP県税事務所(固定資産税評価係)において本件土地及び近傍の土地の台帳価格等を調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 甲土地の平成6年度及び平成7年度の台帳価格は、1平方メートル当たり507,000円であること。
ロ 本件土地の平成7年度の台帳価格は、1平方メートル当たり507,000円であること。
ハ 本件分筆前の土地の平成7年度の台帳価格は、1平方メートル当たり1,095,000円であること。
ニ 本件土地及び甲土地は住宅地区に所在し、本件分筆前の土地は商業地区に所在していること。
(4)ところで、登録免許税法第9条《課税標準及び税率》の規定によれば、登録免許税の課税標準及び税率は、同法に別段の定めがある場合を除くほか、登記等の区分に応じ、同法別表第一の課税標準欄に掲げる金額又は数量及び同表の税率欄に掲げる割合又は金額によることとされ、同法別表第一の一の(二)のニによれば、不動産の交換を原因とする所有権の移転の登記の場合、その課税標準及び税率は、それぞれ不動産の価額及び1000分の50とされている。
 また、登録免許税法第10条第1項によれば、不動産の登記の場合における登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、当該登記の時における不動産の価額によることとされ、当該不動産の価額は、同法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》の規定によれば、当分の間、当該登記の申請の日の属する年の前年の12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができることとされており、これを受けて、同法施行令附則第3項は、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在における課税台帳に登録された当該不動産に類似する不動産の価格に100分の100を乗じて計算した金額を基礎として、登記機関が認定した価額とする旨規定している。
 一方、措置法第84条の3の規定によれば、平成6年4月1日から平成9年3月31日までの間に受ける土地に関する登記に係る登録免許税法第10条第1項の課税標準たる不動産の価額は、同法附則第7条の規定にかかわらず、当該登記の申請の日の属する年の前年12月31日現在又は当該申請の日の属する年の1月1日現在における当該不動産の台帳価格を基礎として政令で定める価額に100分の50を乗じて計算した金額とすることとされており、措置法施行令第44条の6第1項後段の規定によれば、措置法第84条の3に規定する政令で定める価額は、台帳価格のない不動産については、当該不動産の登記の申請の日がその年の4月1日から12月31日までの期間内であるものは、その年の1月1日現在における課税台帳に登録された当該不動産に類似する不動産の価格を基礎として登記官が認定した価額とすることとされ、さらに、改正措置法附則第24条第9項によれば、措置法第84条の3に規定する不動産の登記が平成6年4月1日から平成8年3月31日までの間に受けるものである場合については、同条中「100分の50」とあるのは、「100分の40」として同条の規定を適用することとされている。
(5)そこで、前記(1)ないし(3)の事実を前記(4)の規定に照らして、本件登記申請に係る登録免許税の課税標準の額及び登録免許税の額について判断すると、次のとおりである。
イ 原処分庁は、本件土地は、本件登記日において台帳価格のない土地であることから、近傍の土地から類似地を認定せざるを得ないとして、本件分筆前の土地を類似地として認定しているが、〔1〕本件分筆前の土地は、本件土地の正面道路にも面しているものの、国道〇号線に面している部分が大きく、その正面道路は国道〇号線であり、本件土地の正面道路のみに面している本件土地とはその立地条件が異なること、〔2〕本件分筆前の土地は商業地区に所在しているのに対し、本件土地は住宅地区に所在していることから、その効用価値が異なること及び〔3〕本件分筆前の土地の平成7年度の1平方メートル当たりの台帳価格は、本件土地の同年度のそれの約2倍であり価格格差が著しく大きいことが認められ、これらの事実を総合して判断すると、本件分筆前の土地を類似地として認定することは相当でないといわざるを得ない。
ロ 請求人は、本件土地の正面道路のみに面する近傍の土地の中に、本件土地の類似地に適する土地があり、当該土地の平成6年1月1日現在の1平方メートル当たりの台帳価格は507,000円であることが想定される旨主張する。
 そこで、当審判所が調査したところ、前記(2)及び(3)で述べたとおりであり、これを要約・整理すれば、(a)本件土地の近傍に甲土地が所在すること、(b)甲土地は、本件土地と同様に、本件土地の正面道路のみに面していること、(c)甲土地は、本件土地と同様に、住宅地区に所在していること及び(d)甲土地の平成6年度及び平成7年度の1平方メートル当たりの台帳価格は、本件土地の平成7年度のそれと同額であることが認められ、これらの事実を総合して判断すると、甲土地を類似地と認定することが合理的かつ相当である。
ハ そうすると、前記(3)のイのとおり甲土地の平成6年1月1日現在の台帳価格は1平方メートル当たり507,000円であり、これに比準して本件土地の価額を算定するのが相当である。
 したがって、本件土地に係る登録免許税の課税標準の額は、措置法施行令第44条の6第1項の後段の規定及び改正措置法附則第24条第9項の規定に基づき算定すると、1平方メートル当たりの価額507,000円に本件土地の面積212.34平方メートルを乗じて算出した額に100分の40を乗じた43,062,000円(1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)となる。
 また、本件土地に係る登録免許税の額は、登録免許税法第9条及び同法別表第一の一の(二)のニに基づき算定すると、上記の課税標準の額に1000分の50を乗じた2,153,100円となる。
(6)原処分庁は、認定基準により、本件分筆前の土地を類似地として認定することが著しく不合理であるなどの特別な事情もなかったことから、本件分筆前の土地を類似地として認定し、当該土地の台帳価格を分筆後の地積にあん分する方法をもって本件土地に係る登録免許税の課税標準の額を適正に認定したものである旨主張する。
 しかしながら、登記事務が非常に増加している中にあって、原処分庁が、認定基準により、本件土地の所有権移転登記事務を処理したことはやむを得ない面もあるが、本件分筆前の土地を本件土地の類似地として認定することが相当でないことについては、前記(5)のイのとおりである。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用することができない。
(7)以上の結果、前記(5)のハの登録免許税の額2,153,100円と請求人が先に納付した税額4,517,200円との差額2,364,100円は過大に納付されたことになるから、請求人の納税地を所轄するP税務署長に対し還付すべき旨の通知をすることができないとした原処分は、その全部を取り消し、上記差額2,364,100円は請求人に還付するのが相当である。

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