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(平12.4.28裁決、裁決事例集No.59 28頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、会社役員である審査請求人(以下「請求人」という。)が、会社の合併に際して交付を受けた株式に係る配当所得について、その後確定した合併無効の判決を理由に更正の請求ができるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 審査請求(平成11年11月26日請求)に至る経緯は、別表に記載のとおりである。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査結果によってもその事実が認められる。
イ E株式会社(合併後存続する法人。以下「存続会社」という。)と有限会社F(合併により消滅する法人で、合併直前の資本金6,000,000円。以下「解散会社」という。)は、平成10年7月1日を期日として合併(以下「本件合併」という。)する旨の合併契約書を同年3月30日付で作成した。
 なお、当該合併契約書には、本件合併に際して、存続会社は、記名式額面普通株式(1株の金額500円。以下「本件株式」という。)を126,000株発行し、合併期日現在の解散会社の社員(出資者)に対し、解散会社の出資(1口の金額1,000円)1口につき本件株式21株を割り当て交付する旨記載されている。
ロ 存続会社は、平成10年7月1日付で解散会社を合併した旨の変更登記をし、これと同時に解散会社は、本件合併により解散した旨を登記した。
ハ 存続会社は、上記イ及びロに従い、本件株式を割り当て交付した結果、当該交付を受けた解散会社の社員に所得税法第25条《配当等の額とみなす金額》第1項第4号に規定するところの利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす金員(以下「みなし配当」という。)57,000,000円が発生したので、同法第181条《源泉徴収義務》第1項の規定に従い、当該みなし配当の源泉徴収に係る所得税11,400,000円を平成10年8月21日に納付した。
ニ 請求人は、上記ハにより、本件株式62,979株を取得し、これに係るみなし配当28,490,500円(以下「本件みなし配当」という。)を得たので、これを平成10年分の配当所得として、総所得金額に含めて平成11年3月15日に所得税の確定申告をした。
ホ 請求人は、平成10年9月25日付で本件合併の無効請求訴訟(平成10年(○)○○○○号)をJ地方裁判所K支部に提起したところ、平成11年3月16日に当該合併を無効とする判決(以下「本件判決」という。)が言い渡された。
 なお、本件判決は、平成11年4月4日に確定し、これに伴い、平成11年4月8日付で存続会社の変更登記及び解散会社の回復登記がされた。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁の主張の根拠法令としている商法第110条は、合併無効の判決確定のときまでは、合併後における通常の商取引をはじめとした取引の安全を図るため、その会社が行った法律行為は有効であるとしているものである。
 しかしながら、みなし配当に対する課税は、被合併法人の清算に当たり、その剰余価値が実現したとして、被合併法人の株主に対して所得税が課税されるものであり、合併という行為により反射的に抽象的納税義務が生じるものであるにもかかわらず、本件合併においては、本件判決の確定により本件株式が無効となり消滅し、その経済的果実が実現されていないのであるから、取引の安全にかかわりのない法律関係である納税義務に関しては不遡及の対象とはならず、原処分庁は当該規定にいう第三者に該当しないと解すべきである。
 このように、被合併法人の旧株主と税務当局との間の権利義務(みなし配当課税)が、不遡及の対象とならない以上、そもそもの課税要件たる合併の事実がなくなったにもかかわらず課税されるのは不合理である。
 したがって、本件判決の確定が、国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第2項第1号に規定する「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した」ことに該当するとして行った更正の請求は認められるべきである。
ロ 本件においては、本件判決の確定により、解散会社は復活し、その資本金も旧に復しており、何らの経済的果実も実現していない。
 この状態で今後、当該会社が清算等により、みなし配当と同様の課税の原因となる所得が発生すれば明らかに二重課税が生じる事態となり、その株主には、過酷な税の負担が強いられることとなる。
 こうした演繹がなされるのは、原処分庁の牽強付会で経済的実質に着目しない常軌を逸した課税姿勢が招来する帰結であり、容認できるものではない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法である。
イ 商法第110条によれば、合併を無効とする判決は、合併後存続する会社又は合併により設立した会社、その社員及び第三者の間に生じた権利義務に影響を及ぼさないから、本件判決は、既に確定申告がされた本件みなし配当の所得の課税関係には影響がない。
 したがって、請求人の主張のように、本件判決によって通則法第23条第2項第1号にいうその事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとは認められない。
ロ 請求人は、本件判決の確定により、そもそもの課税要件たる事実がなくなったにもかかわらず、課税されるのは不合理であり、このような原処分庁の経済的実質に着目しない常軌を逸した姿勢は容認できないと主張するが、原処分は、法令の規定に従い行ったものであるから、何ら問題はない。

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3 判断

 合併無効の判決に基づく更正の請求の可否及びみなし配当に係る所得税の納付義務の有無について争いがあるので、以下審理する。

(1)合併無効の判決に基づく更正の請求について

イ 通則法第23条第2項第1号は、納税申告書を提出した者は、その申告、更正又は決定に係る課税標準等又は税額等の計算の基礎となった事実に関する訴えについての判決により、その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定したとき、その確定した日の翌日から起算して2月以内に更正の請求をすることができる旨規定している。
ロ 商法第110条は、「合併を無効とする判決は合併後存続する会社又は合併に因りて設立したる会社、其の社員及第三者の間に生じたる権利義務に影響を及ぼさず」としており、合併無効の判決が将来に向かって合併を無効とする効力を有するに止まり、合併のときにさかのぼって合併を無効とするものではないことを規定している。
 そして、当該判決によって、合併後存続する会社又は合併によって設立した会社は、無効判決確定のときに将来に向かって合併前の数社に分けられ、同時に合併により消滅した会社は、将来に向かって復活することになる。
 また、上記規定は、商法第415条第3項において、株式会社に準用する旨規定しているから、ここにいう社員には株式会社における株主が含まれると解されている。
ハ これを本件についてみると、本件合併は、本件判決により無効とされ、そのことが確定したのであるが、本件判決の確定日の前日である平成11年4月3日までは有効であったのと同様にその効力を保持していたものであり、当該確定日以後において、合併前の状態に回復され、解散会社も当該確定日から将来に向かって復活するにすぎないのである。
 そうすると、本件合併は、合併の日にさかのぼって無効となるのではないから、当該合併に基づき行われた株式の割り当て交付及びそれによって発生した本件みなし配当には何ら影響がないといえる。
 したがって、本件判決の確定は、通則法第23条第2項第1号にいう「その事実が当該計算の基礎としたところと異なることが確定した」ことには該当せず、更正の請求の要件を充足していないというべきである。

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(2)みなし配当に係る所得税の納付義務について

イ 所得税法第25条第1項第4号は、法人の株主等が当該法人の合併により交付される金銭その他の資産の交付を受けた場合において、その金銭の額及び金銭以外の資産の価額の合計額が当該法人の資本等の金額のうちその交付の基因となった株式(出資を含む。)に係る部分の金額を超えるときは、この法律の規定の適用については、その超える部分の金額は、利益の配当又は剰余金の分配の額とみなす旨規定している。
ロ これを本件についてみると、存続会社は、本件合併に伴って、解散会社の旧社員に本件株式(総額63,000,000円)を交付したことが認められるから、当該交付金額のうち、解散会社の資本金6,000,000円を超える金額が解散会社の旧社員に対する利益の配当とみなされる。
 また、上記(1)のロのとおり、株主の権利義務もまた商法第110条でいう不遡及の対象となる以上、本件判決が合併の日から判決確定日の前日までの間における株主の地位には影響しないのは明らかである。
 そうすると、請求人が解散会社の旧社員としての地位に基づき存続会社から交付を受けた本件株式は、本件判決確定後にその効力を失うこととなるが、本件合併の日にさかのぼって無効となるのではないと解されるから、その交付に伴って、上記イの規定により適法に生じた本件みなし配当は、本件判決確定により消滅するものではないということができる。
 したがって、請求人は、本件みなし配当について、配当所得として確定申告をする必要が生ずるとともに、それに基づいた所得税の納付義務を本件判決確定後においても有することになる。
(3)請求人は、商法第110条の規定は、取引の安全にかかわりのない法律関係である納税義務に関しては適用がないこと及び何らの経済的果実も実現していないことを理由として原処分の違法性を主張する。
 しかしながら、上記(1)及び(2)のとおり、本件合併及びそれに伴い請求人に交付された本件株式の効力は、合併した日にさかのぼって無効とはならないから、これらの理由を根拠とした請求人の主張は採用することができない。
 以上のことから、請求人が行った更正の請求に対して、原処分庁が更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたことは適法である。
(4)請求人は、合併無効の判決が確定したことにより、そもそもの課税要件たる事実がなくなったにもかかわらず、課税されるのは不合理であり、また、原処分庁の主張及び処分が牽強付会で、経済的実質に着目しない常軌を逸した課税姿勢にあり容認できない旨主張する。
 しかしながら、上記(1)ないし(3)のとおり、本件合併が本件判決の確定日の前日までは有効に成立し、それに基づく課税が適法にされている以上、これらの請求人の主張は、課税関係の是非の範囲を超えた根拠法令の合理性に及ぶものであるが、このような判断については、当審判所の権限に属さないことであるので審理の限りではない。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によってもこれを不相当とする理由は認められない。

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