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(平12.6.21裁決、裁決事例集No.59 37頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人らが、相続により取得した土地の地積が確定した後に、相続税の修正申告を行う予定であったのに、これを待たずに原処分庁が行った更正処分は違法かつ不当であるとして、当該更正処分及びこれに伴う過少申告加算税の賦課決定処分の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

イ 審査請求人E、同F及び同G(以下、この3名を併せて「請求人ら」という。)は、平成6年2月11日に死亡したH(以下「被相続人」といい、この相続開始に係る相続を「本件相続」という。)の共同相続人4名のうちの3名であるが、本件相続に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告(以下「本件申告」という。)をした。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成9年10月2日付で別表1の「第一次更正等」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした(以下、この更正処分を「本件更正処分」といい、この賦課決定処分を「本件賦課決定処分」という。ただし、Gについては、いずれも、平成9年10月21日付でなされた更正処分及び過少申告加算税の変更決定処分により同表の「第二次更正等」欄のとおり減額された後のものをいう。)。
ハ 請求人らは、これらの処分を不服として、平成9年10月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成10年1月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成10年2月27日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成10年3月3日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人ら

 原処分は、違法かつ不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人らは、本件相続により取得した別表2に記載のP市Q町の土地(以下「本件土地」という。)が、公図上の区画と実際の利用区画が著しく異なるいわゆる公図混乱地区にあり、その地積を直ちに確定することができなかったことから、当該地積を測量し、これを確定してから修正申告を行う予定で、現に本件土地について測量中であったにもかかわらず、原処分庁は、この確定を待つことなく、本件更正処分をした。
 したがって、本件更正処分の手続は違法かつ不当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
 また、仮に、本件更正処分の手続に違法及び不当がないとしても、本件更正処分による納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったのは、本件土地の測量に時間を要し、その地積を直ちに確定することができなかったという真にやむを得ない事情によるものであるから、このことについては国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があり、やはり、本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、適法かつ正当であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
 通則法第24条《更正》は、税務署長は納税申告書の提出があった場合において、その課税標準等又は税額等が調査したところと異なるときは、その調査により、当該申告書に係る課税標準等又は税額等を更正する旨規定している。
 そして、本件土地の地積については、請求人らから当該地積の測量の依頼を受けたI株式会社(以下「I社」という。)が作成し、J税務署の物納事務担当者に提出した図面(以下「本件図面」という。)に記載された地積によるのが相当であると認められたことから、通則法第24条の規定により本件更正処分をしたのであって、本件更正処分は適法かつ正当である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分は、上記イのとおり、適法かつ正当であり、また、請求人らには通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 請求人らは、本件更正処分の手続の違法及び不当を理由に、その取消しを求めているところ、当審判所の調査によれば、請求人らは、本件審査請求の後の平成11年9月30日に、本件相続税について、別表1の「第一次修正申告」欄のとおり、課税価格及び納付すべき税額のいずれについても本件更正処分を上回る額で修正申告をし、次いで、同年10月28日に、同表の「第二次修正申告」欄のとおり、これを更に上回る額で修正申告(以下「本件修正申告」という。)をしていることが認められる。
 そして、請求人らが、本件修正申告をして自ら本件相続税に係る課税価格及び納付すべき税額を確定させた以上、たとえその申告が過大であったとしても、所定の期間内に更正の請求をするのでなければ、これを是正することができないのであるから、請求人らには、もはや、本件修正申告に係る課税価格及び納付すべき税額を下回る額についてなされた本件更正処分の取消しを求める不服申立ての利益はないというべきである。
ロ 以上のとおりであるから、請求人らの本件更正処分に対する審査請求は不適法である。

(2)本件賦課決定処分について

イ 請求人らは、本件更正処分の手続は違法かつ不当であり、当該更正処分は取り消されるべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである旨主張する。
 しかしながら、請求人らが本件修正申告をした以上、そもそも、本件更正処分の取消しを求める不服申立ての利益がないことは、上記(1)のとおりであり、当該更正処分の取消しを理由とする請求人らの主張はその前提を欠くものといわざるを得ないし、更正処分と賦課決定処分は、それぞれ別個の法律効果の発生を目的とした独立の処分であるから、更正処分の手続に違法又は不当があるからといって、賦課決定処分が違法又は不当となるものでもない。
ロ もっとも、請求人らは、同人らの修正申告を待つことなく本件更正処分をしたことが違法かつ不当である旨主張しており、これは本件更正処分が当然に無効であるとの主張とも解されるので、この点について検討する。
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 請求人らは、本件土地が公図混乱地区にあり、その実際の地積は、不動産登記簿上の地積及び被相続人が本件土地の貸付けに当たり賃料の徴収のために作成していた貸付台帳(以下「本件貸付台帳」という。)上の地積とも異なっていたことから、本件貸付台帳上の地積等に基づいて本件申告をする一方で、実際の地積に基づいて修正申告するため、平成6年11月29日に、I社に本件土地の測量を依頼した。
B 請求人らから上記Aの依頼を受けたI社は、測量の結果に基づいて倍横距法(2地点間の座標の差により面積を求める方法をいう。)により本件土地の地積を算出し、本件図面を作成したが、これは、隣地境界線について関係当事者の確認を受けていない状態で作成された一応の図面であり、隣地境界線を確認した上での確定的な図面が完成したのは平成11年8月30日ころである。
C これに対し、原処分庁所属の調査担当職員(以下「調査担当職員」という。)は、平成7年10月16日に本件相続税に係る調査を始め、平成9年7月14日には、請求人らの代理人であるK税理士に対し、本件図面を基に本件土地の地積を訂正した上で修正申告をするようにしょうようしたが、同税理士は修正申告はできない旨述べ、同年9月3日に、再度、修正申告をしょうようした際にも、同税理士は、測量の途中で地積が確定していないので更正処分をしてもらうしかないと述べて、これに応じなかった。
(ロ)ところで、通則法第24条及び第70条《国税の更正、決定等の期間制限》第1項の規定によれば、税務署長が調査により納税者の申告した課税標準等に誤りを発見した場合には、法定申告期限から3年間はいつでも更正処分をすることができるものと解され、納税者が修正申告を予定していたとしても、現に修正申告をせず、調査担当職員の修正申告のしょうようにも応じない以上、更正処分をすることに何ら違法はないというべきである。
 そして、本件においては、本件相続税に係る更正の除斥期間の満了日は平成9年10月31日であるのに、上記(イ)のAからCまでのとおり、同年9月3日の時点においても、請求人らは修正申告のしょうように応じようとはしなかったのであり、除斥期間満了前の同年10月2日付で本件更正処分をしたことを不当ということはできない。
 したがって、およそ本件更正処分が無効であるということはできない。
ハ 以上によれば、本件更正処分の手続の瑕疵を理由に本件賦課決定処分の取消しを求める請求人らの主張には理由がない。
ニ また、請求人らは、本件更正処分による納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったのは、やむを得ない事情によるものであり、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある旨主張するところ、上記ロの(イ)のAからCまでのとおり、本件土地が公図混乱地区にあったため、その地積の確定には相当の時間を要し、現に原処分庁が本件更正処分をした時点において、本件土地の測量が完了していなかったことは認めることができる。
 しかしながら、過少申告加算税が、過少な申告という事実のみをもって賦課されるものであることに照らすと、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があると認められる場合とは、税法の解釈に関して申告当時に公表されていた見解がその後改変されたことに伴い修正申告をした場合など、申告当時に適法とみられていた申告が、その後の事情の変化により、納税者の故意過失に基づかないで過少申告となった場合のように、過少申告をしたことが真にやむを得ない理由によるもので、かかる納税者に過少申告加算税を課すことが不当又は酷になる場合を意味するものと解するのが相当である。
 本件において、請求人らは、別表2に記載のとおり、当初、本件土地の一部について、その登記名義が被相続人であるにもかかわらず、これを相続財産として申告しなかったばかりか、上記ロの(イ)のAのとおり、本件土地の地積は不動産登記簿上の地積とも、本件貸付台帳上のそれとも異なることを認識しながら、あえて当該貸付台帳上の地積等に基づいて本件申告をしたのであり、本件土地が公図混乱地区にあり、また、その地積を確定した上で修正申告をする予定である旨を調査担当職員に告げていたとしても、請求人らは、本件申告時において、本件土地の地積が本件申告に係る地積の範囲内であり、これを超えるものではないことを客観的に裏付ける事実を認識していたものということはできないのであるから、上記の正当な理由があるとは認められない。
 したがって、この点に関する請求人らの主張には理由がない。
ホ 以上のとおりであるから、原処分庁が通則法第65条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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