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(平12.1.31裁決、裁決事例集No.59 47頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、木材卸売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が米国に所在するEPartnership(以下「E」という。)との間で行った木材の輸入等に関する一連の取引及びその会計処理(以下、これらを併せて「本件輸入取引」という。)について、重加算税の賦課要件となる隠ぺい又は仮装行為があったか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表のとおり(なお、平成8年1月1日から同年12月31日までの事業年度を、以下「本事業年度」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件輸入取引において、信用状(以下「L/C」という。)に基づく輸入代金の決済(以下「L/C決済」という。)のため、請求人の法人税の確定申告の基礎となった帳簿(以下「公表帳簿」という。)に記載せずにF信用金庫等の輸入本邦ローンによりユーザンス期日まで一時的に借り入れた資金(以下「簿外借入金」という。)をEに送金し、請求人が簿外借入金を返済した時にその返済額を仕入れとして公表帳簿に計上する会計処理方法を従来から継続して採用していた。
ロ 請求人は、Eに送金した資金(以下「送金済資金」という。)に対し、L/C決済日から木材の船積み日までの期間について、簿外借入金の借入利率を基に金利を付していた。
ハ 請求人は、Eの日本における代理店である株式会社Gから、Eに対する送金済資金残高及び金利合計額が記載された「請求人名金利計算書」を受領していた。
ニ 請求人の取締役であるHは、本件輸入取引に係るL/Cの開設額、残額及び受取利息額並びに木材の輸入時期、数量及び金額等を大学ノートに記録して管理していたが、この大学ノートを経理担当者に提示しなかったため、送金済資金の額、その受取利息の額及び船積みされた木材の金額は公表帳簿に計上されておらず、経理担当者は、当座預金の出金を見て簿外借入金が返済された時にその返済額を仕入れとして計上していた。
ホ 請求人は、送金済資金に係る受取利息の額について、上記ニのとおり、当初これを何ら公表帳簿に計上していなかったが、本事業年度にあっては、本事業年度の収益に計上すべき金額を上回る金額を収益に計上していた。
ヘ 請求人は、本事業年度の直前事業年度及びその前の事業年度に、F信用金庫○○支店の請求人名義の外貨普通預金口座あてにEから調整金の名目で送金を受け、その一部を同店の請求人名義の外貨定期預金口座に預け入れていたが、これらの外貨普通預金及び外貨定期預金はいずれも公表帳簿に記載されていない(以下、これらの預金を併せて「簿外預金」という。)。
ト 請求人は、上記への簿外預金に係る受取利息の額について、当初これを何ら公表帳簿に計上していなかったが、本事業年度にあっては、本事業年度の収益に計上すべき金額を上回る金額を収益に計上していた。

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2 主張

(1)請求人の主張

イ 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
 請求人の公表帳簿の形態が原処分庁が指摘する正規の会計処理方法と異なっていたことは認めるが、本件輸入取引については、次のとおり、隠ぺい又は仮装行為はなく、また、その意思もない。
(イ)本件輸入取引については、取引が反復継続しており、実質的には仕入計上時期の単なる「期ずれ」があったにすぎない。
(ロ)本件輸入取引に係る会計処理方法については、原処分庁から改めるよう指導されたことはなく、従前から継続的に採用していたものである。
ロ 原処分のその他の部分については争わない。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件輸入取引に関して次の事実が認められる。
(イ)請求人のEに対する送金済資金は、木材の輸入時期、数量及び金額とは密接に関係しておらず、送金済資金は貸付金と認められるが、請求人はこの貸付金について何ら公表帳簿に計上していないこと。
(ロ)Eは、上記(イ)の貸付金の一部を調整金という名目で請求人に返金しているが、請求人はこれを簿外預金に預け入れ、公表帳簿に計上していないこと。
ロ 上記イの事実については、請求人の公表帳簿に記載することなく行われた取引であり、請求人は、これにより真実の所得金額を隠ぺいしたことと認められる。
 このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項の規定に該当する。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件輸入取引について、重加算税の賦課要件となる隠ぺい又は仮装行為があったか否かであり、以下審理する。

(1)認定事実

 本件輸入取引に関して当審判所の調査によれば、前記基礎事実のほか、次の事実が認められる。
イ 請求人が平成6年5月9日付でEとの間で締結した木材販売契約書によれば、L/C決済をするに当たり、契約商品の船積みが未了で船荷証券が提出されていない段階であっても、米国内の計測等級事務所が発行した木材貯蔵証明書、木材明細書及びL/C開設銀行を受取人とした船積み前の商品に関する火災盗難保険証明書が提出されれば、L/C決済を行う旨の特約条項がある。
ロ 請求人から提出された帳簿書類の検討並びに取引銀行及び参考人の裏付調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ)本事業年度の公表帳簿に計上された仕入れのうち平成8年1月16日に計上された165,243.23米ドルは、平成7年7月31日の船積み(I号)に係る仕入れに対応する支払額であり、また、平成8年10月18日に計上された349,995.00米ドルのうち203,106.97米ドルは平成9年2月1日の船積み(J号)に係る仕入れに対応する支払額であり、いずれも本事業年度の損金の額に算入できないものと認められる。
 本事業年度の公表帳簿に計上された本件輸入取引に係る仕入れ(合計額3,242,646.49米ドル)のうち上記2件を除く仕入れは、すべて本事業年度の仕入れに計上すべきものと認められる。
(ロ)本事業年度の公表帳簿に計上された本件輸入取引に係る仕入れは、すべて公表帳簿に記載のある当座預金から出金した年月日及び金額に基づき計上されており、また、すべてEに対するL/C決済に充てられた金額に相違なく、かつ、意図的な計上時期の操作及び原始記録等の改ざん等の不正が行われているとは認められない。
(ハ)上記1の(3)のへの簿外預金の原資は、本件輸入取引において、L/C決済を了した金額のうち請求人向けに船積みされなかった商品に係る金額を、Eが調整金の名目で送金したものと認められ、当該簿外預金は、結果において、すべて簿外借入金の返済に充てられていると認められる。

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(2)重加算税の賦課決定処分について

 そこで、本件の重加算税の賦課決定処分のうち本件輸入取引に係る部分の当否について、上記の基礎事実及び認定事実を基に検討及び判断すると次のとおりである。
イ 原処分庁は、送金済資金が木材の輸入時期、数量及び金額と密接に関係していないとして、これを公表帳簿に計上されていない貸付金と認定している。
 しかしながら、上記の基礎事実及び認定事実によれば、送金済資金は、その送金時に直ちに仕入れに計上すべきものではないが、その送金額は、その原資である簿外借入金の返済時に請求人の公表帳簿に仕入れとして計上されるのであるから、仕入れに計上すべき金額とは明確な対応関係がみられるので、仕入代金の前渡し(以下「前渡金」という。)とみるのが相当である。
 また、この前渡金は、請求人が上記1の(3)のイの会計処理方法を採用していること及び上記(1)のイの特約条項があることにより、本件輸入取引の過程で公表帳簿に計上されずに一時的に発生するものであるといえる。
ロ ところで、請求人は、本件輸入取引において、上記(1)のロの(イ)のとおり、本事業年度の売上原価にならないものを仕入れに計上し損金の額に算入することによって、本事業年度の法人税を過少に申告したことが認められる。
 しかしながら、この仕入計上額は、上記の認定事実のとおり、本事業年度以外の事業年度の損金の額に算入されるべきものであって、架空、金額の水増し又は重複計上によって過大に計上したものではなく、かつ、意図的な計上時期の操作及び原始記録等の改ざん等の不正が行われているとは認められない。
 このことは、単に損金の額に算入すべき時期の誤りを示すものにすぎず、これをもって重加算税の賦課要件である事実を隠ぺい又は仮装したとはいえず、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。
ハ 原処分庁が指摘するとおり、請求人が簿外預金を作成した事実が認められるが、上記の認定事実のとおり、この原資は、本件輸入取引において、L/C決済を了した金額のうち請求人向けに船積みされなかった商品に係る金額を、Eから調整金の名目で送金を受けたものであり、さらにその資金の出所をたどれば請求人の簿外借入金によって調達されたものと認められる。この簿外預金は、結果において、その資金の出所たる簿外借入金の返済に充てられているのであるから、そこから発生する果実を除けば、請求人の本事業年度の収益となるべきものではない。他方、請求人は、上記の(3)のホ及びトのとおり、前渡金及び簿外預金に係る収益に計上すべき受取利息の額を上回る金額を本事業年度の公表帳簿に収益として計上していることが認められる。
ニ 以上のとおり、本事業年度の本件輸入取引において、請求人が所得金額の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて申告書を提出したとの事実は認め難い。
ホ そうすると、本件輸入取引に係る部分について重加算税を賦課することは相当ではないと認められるところ、修正申告により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が当該修正申告前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、重加算税の賦課決定処分のうち本件輸入取引に係る部分は、その過少申告加算税相当額を超える部分の金額につき取り消すのが相当である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、当事者間に争いはなく、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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