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(平12.5.24裁決、裁決事例集No.59 56頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、相続税の修正申告に係る延滞税の未納は、原処分庁において、物納により生じた過誤納金を当該延滞税に充当せず還付したことによるものであるとして、当該延滞税に係る督促処分の取消しを求めている事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成7年5月17日相続開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、平成8年2月16日、申告を行うとともに、その納付すべき税額9,034,900円全額について物納の申請を行った。
 また、請求人は、平成8年11月6日、本件相続税について修正申告(以下「本件修正申告」という。)を行うとともに、その納付すべき税額389,300円全額について物納の申請を行った。
ロ これに対し、原処分庁は、上記イの各物納の申請について、平成9年6月30日付でこれを許可(以下、この許可に係る物納を「本件物納」という。)するとともに、同年9月18日付で、本件物納により生じた過誤納金4,352,200円(還付加算金30,200円を含む。以下「本件過誤納金」という。)を請求人に還付した。
ハ その後、原処分庁は、本件修正申告に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)19,800円が未納であるとして、平成11年6月25日付で督促処分(以下「本件督促処分」という。)を行った。
 請求人は、本件督促処分を不服として、平成11年8月23日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月12日付で棄却の異議決定をした。
 そこで、請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年12月14日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人

原処分庁は、国税通則法(平成11年法律第10号による改正前のもの。以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項の規定に基づき、本件過誤納金を本件延滞税に充当しなければならないにもかかわらず、これを怠り、請求人に本件過誤納金を還付してから、2年近く経過した後に、本件督促処分を行ったものであり、これは信義則に反する不当な処分であるから、原処分の全部の取消しを求める。

(2)原処分庁

 原処分は、以下のとおり適法であり、請求人の主張には理由がないから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 延滞税は、通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》第3項第7号の規定により、同法第60条《延滞税》第1項各号所定の要件を充足することによって法律上当然に納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定するものである。
 また、通則法第37条《督促》第1項の規定によれば、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、督促状によりその納付を督促しなければならないとされている。
ロ そして、本件延滞税が完納されておらず未納となっていたことから、原処分庁は、通則法第37条第1項の規定に基づいて本件督促処分をしたものであり、何ら違法、不当はない。

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3 判断

 本件の争点は、本件督促処分の適否であり、この点について検討したところ、次のとおりである。
(1)通則法第37条第1項は、納税者がその国税を納期限までに完納しない場合には、税務署長は、その納税者に対し、督促状によりその納付を督促しなければならない旨規定する。
 ところで、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、本件延滞税の額は、本件相続税の法定納期限の翌日である平成8年2月20日から、本件修正申告に係る相続税の納期限である同年11月6日までの期間の日数261日に応じ、当該修正申告により納付すべき本税の額380,000円(ただし、通則法第118条《国税の課税標準の端数計算等》第3項の規定により10,000円未満の端数を切り捨てた後の金額)に年7.3%の割合を乗じて計算した19,800円(ただし、同法第119条《国税の確定金額の端数計算等》第4項の規定により100円未満の端数を切り捨てた後の金額)であること、そして、上記納期限を経過した後の平成11年6月25日現在、この19,800円の全額が未納であったことが認められるから、当該金額について同日付でなされた本件督促処分は適法ということになる。
(2)もっとも、請求人は、通則法第57条第1項の規定によれば、原処分庁は本件過誤納金を本件延滞税に充当すべきところ、これに反して当該過誤納金の全額を請求人に還付しながら、それから2年も経過した後に本件督促処分をしたのであって、このことは信義則に反する旨主張する。
 確かに、通則法第57条第1項は、税務署長は、還付金又は国税に係る過誤納金(以下「還付金等」という。)がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨規定するところ、請求人には、上記(1)のとおり、平成9年9月18日現在、納付すべきこととなっている本件延滞税があったのであるから、原処分庁としては、本件過誤納金を本件延滞税に充当すべきであり、にもかかわらず、当該過誤納金を請求人に還付したことは上記規定に反するといわざるを得ないのであるが、過誤納金の還付と督促処分とは別個のものであるから、当該還付が違法に行われたからといって、本件督促処分が当然に違法、不当となるわけではない。
 また、信義則が租税法律関係にも適用される法原則であるとしても、本件過誤納金を本件延滞税に充当することなく、これを請求人に還付したからといって、これをもって、原処分庁が、当該延滞税の納付を督促しない旨を公的に表明し確約したものということはできないし、請求人も、本件督促処分によって、本来納付すべき本件延滞税を納付しなければならないというにすぎず、当該延滞税の納付の督促はないと信頼し、これに基づいて何らかの行為をしたために特段の不利益を受けたわけでもないのであるから、本件においては、租税法律主義の原則や納税者の平等、公平の要請をおいてまで、請求人の利益を保護すべき特段の事情はないというべきである。したがって、請求人の主張には理由がない。
(3)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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