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(平12.5.15裁決、裁決事例集No.59 75頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、弁護士である審査請求人(以下「請求人」という。)が妻に支払った税理士報酬が、請求人の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否かを主たる争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成7年分、平成8年分及び平成9年分(以下、併せて「各年分」という。)の所得税について、請求人の妻J(以下「妻J」という。)に対して支払った税理士報酬(以下「本件各税理士報酬」という。)を各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入し、青色の確定申告書に次表のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。

ロ 原処分庁は、これに対し、所得税法第56条《事業から対価を受ける親族がある場合の必要経費の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)により、本件各税理士報酬を各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入することは認められないとして、平成11年2月26日付で次表のとおりの更正処分(以下「本件各更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、これらの処分に不服があるとして、平成11年4月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は弁護士であり、P県Q市R町2丁目17番1号Sビル2階に事務所を構えている。
ロ 妻Jは税理士であり、P県T市U町9番14号に事務所を構えている。
ハ 請求人と妻Jは同居し、生計を一にしている。
ニ 請求人が各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した支払手数料の額は、平成7年分964,934円、平成8年分1,217,191円及び平成9年分1,107,269円である。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次に述べるとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件各更正処分に係る理由附記について
 原処分庁は、所得税法第155条《青色申告書に係る更正》第2項が理由附記を義務付けているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であるとしながら、各年分の更正通知書(以下「本件各更正通知書」という。)において、収入金額の計上時期に関して弁護士業の特殊性についてどのような考慮がなされたのか全く言及しておらず、また、本件各税理士報酬を必要経費に算入しないことに関しても、本件特例を適用するに当たり、立法の趣旨とその経営実態についてどのように検討がなされたのか全く明らかにしておらず、理由附記に不備がある。
ロ 本件各更正処分について
(イ)本件特例の適用の適否について
 原処分庁は、本件特例を根拠にして、請求人の各年分に係る事業所得の金額の計算上、本件各税理士報酬を必要経費に算入することを認めないが、これは次に述べるとおり本件特例の解釈を誤ったものである。
A 本件特例は、昭和25年のシャウプ勧告により、従来の家族単位課税から個人単位課税へ移行した際に導入された。これは、要領の良い納税者に対する抜け道を封じるために、〔1〕納税者と同居する配偶者及び未成年者の資産所得を合算すること並びに〔2〕納税者の経営する事業に雇用されている配偶者及び未成年者の給与所得を合算することを定めたものである。
B 個人単位課税を基本とする所得税法において、事業所得についてのみ、いわゆる事業経営者を中心とする家族単位課税が温存されたのは、〔1〕我が国では必ずしも家族従業員に給料を払う慣行がなく、〔2〕企業と家計の分離が不明確で、〔3〕適正な対価の認定が困難であり、〔4〕所得をし意的に分散し不当に税負担の軽減を図るおそれがあるとの理由による。
C 本件特例の目的は、租税回避の防止にあり、納税者と生計を一にする配偶者及び子供らが納税者の経営する事業に従属的に従事し、その事業から対価を受ける場合を規制対象としているところ、請求人と妻Jは、法律上は夫婦関係にあるが、それぞれが弁護士業と税理士業を営む独立した事業主体であり、両者の間には本件特例がいうところの従属的関係は存在せず、また、本件各税理士報酬は、請求人と税理士としての妻Jとの間の顧問契約に基づいて適正に支払われたものである。
D 原処分庁は、本件特例を杓子定規に解釈し、請求人の事業形態及び妻Jに支払った対価の内容を考慮することなく、生計を一にする者に対する支払は一律に必要経費に算入されない旨主張するが、一般的に弁護士が業務委託契約に基づき税理士に報酬を支払った場合の当該報酬は必要経費に算入されるのに、税理士が弁護士と生計を一にする配偶者である場合には必要経費に算入されないという解釈は合理性を欠くものであり、請求人と妻Jのように、それぞれが独立した事業活動を営み、それぞれが独立した経済生活単位であると認められる場合には本件特例の適用がないと考えるのが正当な解釈である。
E 租税法律主義の下では、課税要件が実定法によって明確に規定されていることが要請されるが、現在のような激動する社会にあっては、国民の経済生活は日々変化するものであることから、税法の規定が実態にそぐわなくなった場合に、それに即応するように合理的な解釈をすることは租税法律主義に反するものではなく、課税庁が納税者の有利に、課税の公平、公正を図る方向において合理的類推解釈を行うことは何ら禁じられていない。
(ロ)本件特例の違憲性等について
 仮に、本件特例の解釈として原処分庁が主張する以外の解釈が許されないならば、本件特例は、次に述べるとおり日本国憲法(以下「憲法」という。)第14条第1項及び第24条第2項の規定等に反する。
A 憲法第14条第1項は、「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。」と規定する。
 ところで、弁護士が税務申告に要した費用を必要経費に算入することについては争いがない。そうすると、それぞれが独立した経営をしながら、支払先が生計を一にする配偶者であるというだけで税務申告に要した費用を必要経費に算入しないこととするのは、憲法違反である。
B 憲法第24条第2項は、「法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。」と規定しているのであるから、本件特例により、請求人と妻Jの間には従属的関係があるとして、請求人と妻Jの各々がそれぞれ社会的に独立した事業主体として相互に行った経済行為を否定することは、憲法違反である。
C 所得税法の基本原則である実質所得者課税の原則は、担税力に応じた公平な税負担の実現を意図するものであるから、実質的に所得の帰属する者に対して納税義務を課さなければならない。本件各税理士報酬は税理士としての業務に対する報酬であり、妻Jに帰属するものであるのに、生計を一にする配偶者から支払われたものであることのみを理由に請求人に帰属するものとすることは、実質所得者課税の原則に明らかに反するものである。
(ハ)必要経費の追加認定について
 仮に、本件特例の適用により、本件各税理士報酬が請求人の必要経費に算入されないとしても、本件各更正処分は、本件特例のうち「その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入する。」という部分について何ら考慮していないずさんなものである。必要経費の追加認定が可能であるにもかかわらず、それを行っていない本件各更正処分は失当といわざるを得ない。

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(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件各更正処分に係る理由附記について
 所得税法第155条第2項が青色申告書に係る所得金額等の更正をする場合に更正通知書に更正の理由を附記すべきものとしているのは、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与える趣旨であると解されるところ、本件各更正通知書には、各年分の確定申告書に記載された所得金額に加算又は減算した内容、金額及び理由が記載されており、理由附記の不備はない。
ロ 本件各更正処分について
(イ)原処分庁の調査によれば、請求人は、妻Jに対して、税理士報酬として、平成7年分721,000円、平成8年分1,133,500円及び平成9年分1,059,000円を支払っていることが認められた。
(ロ)本件特例の適用の適否について
 所得税法第56条は、居住者と生計を一にする配偶者その他の親族がその居住者の営む不動産所得、事業所得又は山林所得を生ずべき事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額は、その居住者の当該事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額又は山林所得の金額の計算上、必要経費に算入しない旨規定している。
 ところで、請求人は、各年分の事業所得の金額の計算上、本件各税理士報酬を支払手数料として必要経費に算入しているが、妻Jが請求人と生計を一にする配偶者に該当する以上、本件特例により、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、本件各税理士報酬を必要経費に算入することはできない。
(ハ)本件特例の違憲性等について
 請求人は、本件特例の解釈として原処分庁が主張する以外の解釈が許されないならば、本件特例は経済実態にそぐわないものであり憲法違反である旨等主張するが、立法論はともかく、いずれも法規定を無視する独自の見解である。
(ニ)必要経費の追加認定について
 本件各更正処分において、本件各税理士報酬に係る必要経費を請求人の必要経費に算入しなかった理由は、請求人がその金額を明らかにしなかったためである。
(ホ)事業所得の金額について
A 総収入金額
 総収入金額は、請求人が各年分の所得税の確定申告書に記載した金額(平成7年分47,297,657円、平成8年分47,880,763円及び平成9年分58,178,769円)に、別表1から別表3までの「増減差額」欄の合計額(平成7年分1,480,440円、平成8年分1,037,840円及び平成9年分478,430円)を平成7年分及び平成8年分については加算し、平成9年分については減算した金額である。
B 必要経費の額
(A)支払手数料の額
 必要経費に算入される支払手数料の額は、請求人が各年分の所得税青色申告決算書に記載した金額(平成7年分964,934円、平成8年分1,217,191円及び平成9年分1,107,269円)から上記(イ)の本件各税理士報酬の額(平成7年分721,000円、平成8年分1,133,500円及び平成9年分1,059,000円)を減算した金額である。
(B)外注費の額
 平成8年分の外注費の額は、K弁護士に支払った金額である。
(C)その他の必要経費の額
 その他の必要経費の額は、請求人が各年分の所得税青色申告決算書に記載した金額である。
(D)必要経費の額
 したがって、必要経費の額は、平成7年分24,976,216円、平成8年分26,588,447円及び平成9年分27,491,600円となる。
C 事業所得の金額
 以上の結果、各年分の事業所得の金額は、次表のとおりとなる。

(ヘ)納付すべき税額について
A 総所得金額
 各年分の総所得金額は、上記(ホ)のCの事業所得の金額と、請求人が各年分の確定申告書に記載した給与所得の金額及び雑所得の金額の合計額である。
B 所得控除の額
 各年分の所得控除の額は、請求人が各年分の確定申告書に記載した金額である。
C 特別減税額
 平成7年分及び平成8年分の特別減税額は、請求人が平成7年分及び平成8年分の確定申告書に記載した金額である。
D 源泉徴収税額
 平成7年分の源泉徴収税額は、請求人が同年分の確定申告書に記載した金額2,360,365円に、L社からの収入金額に係る源泉徴収税額20,000円を加算した金額である。
 平成8年分の源泉徴収税額は、請求人が同年分の確定申告書に記載した金額1,667,803円から、L社からの収入金額に係る源泉徴収税額20,000円を減算し、M社からの収入金額に係る源泉徴収税額20,000円を加算した金額である。
 平成9年分の源泉徴収税額は、請求人が同年分の確定申告書に記載した金額2,149,290円から、M社からの収入金額に係る源泉徴収税額20,000円を減算し、V社からの収入金額に係る源泉徴収税額3,000円を加算した金額である。
E 納付すべき税額
 以上の結果、各年分の納付すべき税額は次表のとおりとなり、これらの金額は、いずれも本件各更正処分に係る納付すべき税額と同額であるから、本件各更正処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、〔1〕本件各更正通知書に記載された更正の理由附記が適法になされているか否か、〔2〕本件各税理士報酬は各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されるか否かにあるので、これらについて以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 請求人と妻Jとの間で、請求人の事業に係る会計業務についての記帳代行及び税務代理等を妻Jに委嘱する旨の顧問契約が平成6年4月1日に締結され、以後、この契約は2年ごとに更新され現在に至っている。
ロ 本件各更正通知書にはそれぞれ更正処分の理由(以下「本件各処分理由」という。)が別表4から別表6までのとおり記載されている。
ハ 妻Jの各年分の事業所得に係る総収入金額及び必要経費の額は次表のとおりである。

(2)本件各更正処分に係る理由附記について

イ 所得税法第155条第2項は、青色申告書に係る総所得金額等の更正をする場合には、更正通知書に更正の理由を附記すべき旨規定している。
 所得税法は、青色申告制度を採用し、青色申告に係る所得の計算については、それが法定の帳簿組織による正当な記載に基づくものである以上、その帳簿の記載を無視して更正されることがないことを納税者に保障しているところであるが、同法第155条第2項の規定は、このような青色申告制度の趣旨にかんがみ、処分庁の判断の慎重・合理性を担保してそのし意を抑制するとともに、更正の理由を相手方に知らせて不服申立ての便宜を与えるとの趣旨によるものと解されている。
 ところで、青色申告書に係る更正処分の態様としては、〔1〕帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合及び〔2〕事実に対する法的評価につき納税者と見解を異にして更正をする場合が想定されるが、〔1〕の帳簿書類の記載自体を否認して更正をする場合はともかくとして、帳簿書類の記載自体を否認することなしに更正をする場合においては、納税者による帳簿の記載を覆すものではないから、更正の根拠が処分庁のし意の抑制及び不服申立ての便宜という理由附記制度の趣旨目的を充足する程度に具体的に明示されていれば、所得税法の要求する更正理由の附記として欠けるところはないと解するのが相当である。
ロ これを本件についてみるに、本件各更正通知書に記載されている本件各処分理由によれば、本件各更正処分は、帳簿書類の記載自体を否認してなされたものではなく、収入金額の計上時期及び請求人が妻Jに支払った本件各税理士報酬に対する本件特例の適用の適否に関して請求人と原処分庁の見解が相違した結果なされたものであることが明らかである。そして、本件各更正通知書には、請求人の申告所得金額に加算、減算した金額の明細とその理由が具体的に記載されているから、前述した所得税法の要求する理由附記制度の趣旨目的は充足されているものと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 なお、請求人は、収入金額の計上時期に関しては弁護士業の特殊性について、また、本件各税理士報酬を必要経費に算入しないことに関しては本件特例の立法の趣旨とその経営実態について、それぞれ検討し、言及すべきである旨主張するが、理由附記制度の趣旨目的は上記イのとおりであり、請求人が主張する事項についての記載がなければ更正の理由が理解できず、その趣旨目的が達成されないとは認められないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。

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(3)本件各更正処分について

(イ)所得税法第56条では、居住者と生計を一にする親族がその居住者の営む事業に従事したことその他の事由により当該事業から対価の支払を受ける場合には、その対価に相当する金額をその居住者の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入しないものとし、他方、その親族のその対価に係る各種所得の金額の計算上必要経費に算入されるべき金額を、その居住者の事業所得等の金額の計算上、必要経費に算入する旨規定している。
(ロ)請求人は、請求人と妻Jは法律上は夫婦関係にあるが、それぞれが弁護士業又は税理士業を営む独立した事業主体であり、両者は従属的関係にあるとはいえないから、本件特例の適用はないと考えるのが正当な解釈であり、また、現在のように激動する社会にあって税法の規定が実態にそぐわなくなった場合には、課税庁が合理的解釈をすることにより納税者を救済すべきである旨主張する。
 しかしながら、所得税法第56条の規定は、そこに定められた要件が備わっていれば、〔1〕納税義務者の営む事業の形態はいかなるものか、〔2〕事業から対価の支払を受ける者がその事業に従属的に従事しているか否か、〔3〕対価の支払はどのような事由によりなされたのか、〔4〕対価の額は妥当なものであるか否かといった個別の事情のいかんにかかわりなく一律に適用されることが予定されている規定であると解されるから、本件各税理士報酬が、請求人が営む事業から請求人と生計を一にする親族である妻Jに対して支払われたものである以上、たとえ、それが、請求人と妻Jがそれぞれ独立した事業主体として締結した顧問契約に基づくものであったとしても、本件特例により、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されないというべきである。
 なお、課税庁は法律を遵守し誠実に執行する機関であるから、請求人が主張するような法律の解釈をすることはできないというべきである。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 本件特例の違憲性等について
 請求人は、仮に本件特例の解釈として原処分庁が主張する以外の解釈が許されないならば、本件特例は憲法第14条第1項及び第24条第2項の規定等に反する旨主張するが、本件特例が憲法等に反するか否かの判断は、当審判所の権限に属さないことであり、審理の限りではない。
ハ 必要経費の追加認定について
(イ)所得税法第56条は、上記イの(イ)のとおり規定しているところ、原処分庁は、本件特例を根拠として、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、本件各税理士報酬を必要経費に算入することを認めなかったにもかかわらず、本件特例により必要経費に算入されるべき金額については、「請求人がその金額を明らかにしなかった」として必要経費に算入していない。しかしながら、妻Jが請求人から本件各税理士報酬を得るために要した経費(以下「本件特例経費」という。)については、請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入すべきであると認められる。
(ロ)ところで、各年分における妻Jの事業所得に係る総収入金額及び必要経費の額は、上記(1)のハのとおりであるが、個々の必要経費を個々の収入金額に個別に対応させることは不可能であるから、本件特例経費の額は、妻Jが各年分の総収入金額を得るために要した必要経費の額に本件各税理士報酬が各年分の総収入金額に占める割合を乗じて算定するのが合理的である。
 そこで、上記の方法により本件特例経費の額を算定すると、次表の「本件特例経費」欄のとおりとなるから、当該金額は請求人の各年分の事業所得の金額の計算上、それぞれ必要経費に算入される。

ニ 事業所得の金額について
(イ)総収入金額
 各年分の総収入金額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、各年分の総収入金額は、平成7年分48,778,097円、平成8年分48,918,603円及び平成9年分57,700,339円となる。
(ロ)必要経費の額
A 支払手数料の額
 当審判所が請求人の総勘定元帳を調査したところ、請求人が各年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した本件各税理士報酬の額は、平成7年分720,975円、平成8年分1,185,000円及び平成9年分1,059,000円であることが認められた。
 そして、上記イのとおり、本件特例により、本件各税理士報酬は、各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入されない。したがって、必要経費に算入される各年分の支払手数料の額は、上記1の(3)のニの支払手数料の額から、請求人が各年分の事業所得の金額の計算上、必要経費に算入した本件各税理士報酬の額を減算した金額で、平成7年分243,959円、平成8年分32,191円及び平成9年分48,269円となる。
B 外注費の額及びその他の必要経費の額
 外注費の額及びその他の必要経費の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、平成8年分の外注費の額は、250,000円となり、各年分のその他の必要経費の額は、平成7年分24,732,282円、平成8年分26,254,756円及び平成9年分27,443,331円となる。
C 本件特例経費の額
 上記ハの理由により、各年分の事業所得の金額の計算上、本件特例経費として平成7年分280,009円、平成8年分805,952円及び平成9年分667,856円を必要経費に算入する。
D 必要経費の額
 以上の結果、必要経費の額は平成7年分25,256,250円、平成8年分27,342,899円及び平成9年分28,159,456円となる。
(ハ)青色申告特別控除の額
 青色申告特別控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、各年分の青色申告特別控除の額は、それぞれ350,000円となる。
(ニ)事業所得の金額
 以上の結果、各年分の事業所得の金額は次表のとおりとなる。

ホ 納付すべき税額について
(イ)総所得金額
 各年分の事業所得の金額は上記ニの(ニ)のとおりであり、また、各年分の給与所得の金額及び雑所得の金額については,請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、各年分の総所得金額は、平成7年分25,228,690円、平成8年分22,752,192円及び平成9年分30,663,927円となる。
(ロ)所得控除の額
 各年分の所得控除の額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、各年分の所得控除の額は、平成7年分2,063,423円、平成8年分3,937,630円及び平成9年分2,871,386円となる。
(ハ)課税総所得金額
 各年分の課税総所得金額は、上記(イ)の総所得金額から上記(ロ)の所得控除の額を控除した金額の1,000円未満の端数を切り捨てた後の金額で、平成7年分23,165,000円、平成8年分18,814,000円及び平成9年分27,792,000円である。
(ニ)課税総所得金額に対する税額
 各年分の課税総所得金額に対する税額は、平成7年分6,236,000円、平成8年分4,495,600円及び平成9年分8,086,800円である。
(ホ)特別減税額及び源泉徴収税額
 平成7年分及び平成8年分の特別減税額及び各年分の源泉徴収税額については、請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、これを不相当とする事由は認められない。したがって、平成7年分及び平成8年分の特別減税額は、それぞれ50,000円となり、各年分の源泉徴収税額は、平成7年分2,380,365円、平成8年分1,667,803円及び平成9年分2,132,290円となる。
(ヘ)納付すべき税額
 以上の結果、各年分の納付すべき税額は、次表のとおりとなり、これらの金額はいずれも本件各更正処分に係る納付すべき税額を下回るから、平成7年分及び平成8年分の所得税の各更正処分についてはいずれもその一部を、平成9年分の所得税の更正処分についてはその全部を取り消すべきである。

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(4)本件各賦課決定処分について

 本件各賦課決定処分は、本件各更正処分が上記(3)のとおり、平成7年分及び平成8年分についてはその一部が、平成9年分についてはその全部が取り消されることに伴い、その計算の基礎となる税額は、平成7年分740,000円、平成8年分430,000円及び平成9年分零円となる。
 また、平成7年分及び平成8年分の税額の計算の基礎となった事実のうちに国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の各年分の過少申告加算税の額は、平成7年分74,000円、平成8年分43,000円及び平成9年分零円となり、いずれも本件各賦課決定処分の金額に満たないから、平成7年分及び平成8年分の過少申告加算税の各賦課決定処分についてはその一部を、平成9年分の過少申告加算税の賦課決定処分についてはその全部を取り消すべきである。

(5)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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