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(平12.3.14裁決、裁決事例集No.59 129頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成3年7月26日に死亡したEの共同相続人の7名のうちの一人であるが、この相続開始に係る相続税について、法定申告期限までに申告をするとともに、相続税額360,034,400円(以下「本件相続税」という。)について物納申請をした。
 次いで、請求人は、別表のとおり平成5年1月26日に本件相続税の修正申告(以下「本件修正申告」という。)をし、本件修正申告に係る本税額の増額分77,441,700円を同年2月5日に、それに係る延滞税額154,800円を同年2月19日に土地の売却代金により金銭で納付(以下、本税額及び延滞税額を併せて「本件納付金額」という。)をした。
 その後、請求人は、平成6年4月1日に4,834,000円及び平成6年5月30日に4,839,600円を金銭で納付し、相続税の納付残高(以下「収納未済額等」という。)を350,360,800円としたところ、原処分庁は、申告及び本件修正申告の内容に誤りがあるとして、平成7年1月23日付で本税額166,274,100円及び延滞税額154,800円並びに平成7年6月14日付で本税額8,682,200円をそれぞれ収納未済額等から減少させる処分をした。
 J国税局長は、平成7年2月28日付で原処分庁から延納又は物納に関する事務の引継ぎを受けていたところの収納未済額等に更正処分等により生じた過納金(本件納付金額)を充当した。その後、別表のとおり、物納財産等を計99,486,513円で収納し、さらに、平成9年10月2日に物納財産としてP市Q町33番の宅地918.36平方メートル(以下「本件土地」という。)を価額140,991,219円で収納したことから、物納許可額を超えた65,228,032円(以下「本件過誤納金」という。)を、同年11月14日に請求人に金銭によって還付した。
 これに対し、原処分庁は、本件過誤納金は譲渡所得の課税対象になるとして、請求人の平成9年分の所得税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
 請求人は、この本件更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分を不服として、平成11年3月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年6月16日付で棄却の異議決定をしたので、同年7月15日に審査請求をした。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件過誤納金は、請求人が物納申請した相続財産以外の相続財産(P市R町及びP市S町の土地)を売却し、譲渡所得として課税がなされた後の資金で納付したところの還付金であり、譲渡所得として課税するのは二重課税である。
(ロ)本件納付金額は、金銭で納付したものであるから、原処分庁が本件修正申告は誤りであるとして取り消した以上、取り消したときにその全額を請求人に還付すべきである。
(ハ)延納又は物納に関する事務の引継ぎを受けているJ国税局長は、過納金を還付せず、物納申請している収納未済額等に充当した。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件過誤納金は、請求人がJ国税局長から相続税法第41条《物納》の許可を受け、収納未済額等を超える価額の物納財産を納付したことにより、請求人にその差額を金銭で還付したものであるから、租税特別措置法(以下「措置法」という。)第40条の3《物納による譲渡所得等の非課税》に規定されている非課税の適用はなく、通常の資産の譲渡として譲渡所得の収入金額となり課税対象となる。
(ロ)平成7年1月23日付で本件修正申告に誤りがあったとして原処分庁は相続税額を減額する更正処分等をしたことから、国税通則法(以下「通則法」という。)第56条《還付》の規定に基づき、請求人には本件納付金額の過納金があるとしてJ国税局長に対し、還付の引継ぎを行っていたところ、通則法第57条《充当》第1項の規定に基づき、当該過納金を金銭により還付することに代えて収納未済額等に充当した。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 前記イのとおり本件更正処分は適法であり、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、本件過誤納金が譲渡所得の課税の対象になるか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)J国税局長は、平成9年10月2日に物納財産として本件土地の価額を140,991,219円で収納し、物納許可額との差額65,228,032円を本件過誤納金として、同年11月14日に請求人名義の普通預金口座へ入金した。
(ロ)請求人の本件物納申請に係る収納未済額等(物納許可額)は、平成8年12月26日現在において75,763,187円であった。
ロ 所得税法第33条《譲渡所得》第1項で、譲渡所得とは、資産の譲渡による所得をいう旨定め、同条第3項においては、譲渡所得の金額とは、その年中の当該所得に係る総収入金額から当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額の合計額を控除した譲渡益から譲渡所得の特別控除額を控除した金額とする旨規定している。
 ここにいう資産とは、金銭債権以外の譲渡性を有する資産のすべてをいい、また、譲渡とは、その者が所有する資産の所有権その他の権利を他に移転することをいい、売買のほか、交換、代物弁済、競売、公売等による資産の移転も含まれると解される。
ハ ところで、相続税法第41条《物納》第1項には、税務署長は、納税義務者について同法第33条《納付》の規定により納付すべき相続税額を延納によっても金銭で納付することを困難とする事由がある場合においては、納税義務者の申請により、その納付を困難とする金額を限度として、物納を許可することができると定めているが、この物納については、本来の金銭納付に代えて、物納の許可を受けた物納財産により相続税を納付するもので、その法的性質は公法上の代物弁済であることから、所得税法第33条第1項に規定する譲渡所得の対象である譲渡に含まれるものと解されている。
ニ これに対し、措置法第40条の3においては、種々の政策的考慮から、個人がその財産を相続税法第41条第1項の物納の許可を受けて物納した場合には、所得税法第33条の規定の適用については、当該財産の譲渡がなかったものとみなす旨規定している。
ホ しかしながら、物納は、前記ハのとおり、相続税法第41条第1項が金銭で納付することを困難とする金額を限度として許可されるものであることを規定しており、その許可は、当該許可を受けた財産の全体に及ぶものではなく、金銭で納付することを困難として許可を受けた相続税額に相当する価額の財産に限られることとなるから、物納の許可を受けて物納した財産とは、金銭で納付することを困難として当該許可を受けた相続税額(収納未済額等)に相当する財産に限定されると解される。
 したがって、物納の許可を受けた相続税額を超える価額の財産により物納の許可を受けた場合の収納価額と相続税額の差額である過誤納金については、措置法第40条の3は適用されないと解すべきである。
ヘ なお、相続税法第43条《物納財産の収納》第2項には、物納の許可を受けた税額に相当する相続税額は、物納財産の引渡等をした時において、納付があったものとする旨規定している。
ト 通則法第56条第1項には、国税局長又は税務署長は、還付金又は国税に係る過誤納金があるときは、遅滞なく、金銭で還付しなければならない旨規定している。
 また、通則法第57条第1項には、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者につき納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならない旨及び同条第2項には、第1項による充当があった場合には、その充当をした還付金に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨規定している。
チ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)本件過誤納金は、前記イの(イ)のとおり、物納の許可を受けたところの前記イの(ロ)のとおりの収納未済額を超える価額の財産により物納されたことから、その差額が金銭をもって請求人に還付されたものであり、前記ホのとおり、物納の許可を受けて物納した財産には当たらないから、措置法第40条の3の規定は適用されず、物納財産の譲渡がなかったものとみなすことはできない。
 したがって、本件過誤納金は、前記ハのとおり、通常の資産の譲渡と同様に、譲渡所得として課税対象となる。
 なお、その収入すべき時期は、相続税法第43条第2項の規定により納付があったものとされる平成9年10月2日となる。
(ロ)ところで、請求人は、本件過誤納金は、物納申請した相続財産以外の相続財産を売却し、譲渡所得の課税がなされた後の資金で納付したところの還付金であり、譲渡所得として課税するのは二重課税である旨主張するが、本件過誤納金は、上記(イ)で述べたとおり、請求人の主張する譲渡所得とは課税の対象を異にしており、二重の課税とはならないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)請求人は、原処分庁が更正処分等に基づき、本件納付金額を超える相続税額を減額した以上、本件納付金額を請求人に還付すべきであるところ、さらに、過納金として還付の引継ぎを受けたJ国税局長も、当該過納金を還付せず、収納未済額等に充当したのは違法である旨主張するが、前記トのとおり、J国税局長が、通則法第43条《国税の徴収の所轄庁》第3項及び通則法第56条第2項の規定に基づき、原処分庁から国税の徴収及び還付の引継ぎを受け、当該過納金を請求人の収納未済額等に充当したのは、法令に従い適法に行ったものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 以上のとおり、本件過誤納金は譲渡所得の課税対象となるとしてなされた本件更正処分は、適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 以上のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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