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(平12.3.7裁決、裁決事例集No.59 143頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、収益事業として調査研究請負業及び不動産賃貸業を営む公益法人等(学校法人)である審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税の確定申告書(以下「本件申告書」という。)において寄付金(以下「本件寄付金」という。)として損金の額に算入した額2,000,000円が、法人税法(平成10年法律第42号による改正前のもの。以下同じ。)第37条《寄付金の損金不算入》第4項に規定する寄付金(以下「みなし寄付金」という。)の額に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件申告書に次表「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年3月30日付で、次表「更正処分等」欄記載のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、上記ロの各処分を不服として、平成11年5月31日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年8月30日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年9月27日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、収益事業と収益事業以外の事業(以下「公益事業」という。)を営むこと。
ロ 本件申告書に添付された収益事業部門貸借対照表の内容は、別表1記載のとおりであること。
ハ 本件申告書に添付された収益事業部門損益計算書の内容は、別表2記載のとおりであること。
 なお、本件事業年度における法人税法第37条第2項に規定する損金算入限度額が2,000,000円であることから、本件寄付金の額2,000,000円は、その全額が本件事業年度の法人税の所得金額の計算上、損金の額に算入されている。
ニ 請求人の収益事業部門における本件寄付金に係る経理処理は、次表のとおりであること。
 なお、次表の貸方の「学校法人勘定」は、収益事業部門貸借対照表の「元入金」勘定と同義のものである。

ホ 本件寄付金の額に相当する収益事業に属する具体的な資産が、公益事業に支出されたことはないこと。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁は、法人税基本通達15―2―4《公益法人等のみなし寄付金》の規定により、本件寄付金の額2,000,000円とその同額の元入金の振替仕訳の一点だけを見て、本件寄付金の額は何ら支出されていないからその損金算入は認められないとして本件更正処分をした。
 しかしながら、法人税法第37条第4項及び法人税基本通達15―1―7《収益事業の所得の運用》の規定は、公益法人が収益事業部門の剰余資金について区分経理し、損金算入限度内で振替処理することは、むしろ好ましい処理とし、これを優先的にみなし寄付金として認める趣旨である。
 また、公益法人における収益事業部門は、通常小規模であり、現金を持たないのが実態である。
 したがって、本件寄付金についても、寄付金以外の人件費、借地代及びその他経費と同様に、収益事業・公益事業間の振替処理による損金算入を認めるべきである。
(ロ)なお、原処分の調査(以下「本件調査」という。)において、本件調査を担当した職員は、請求人に対し、本件事業年度末の元入金残高が期首の残高より増えている状態は負債の増加であり、寄付金を支出できる状態ではない旨発言した。
 しかしながら、原処分庁は、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度(以下「前事業年度」という。)においては、本件寄付金と同様の処理をした額について、前事業年度末の元入金残高が期首の残高より減少したことを理由として認めており、このことは、税の公平な優遇措置から見ても不公平である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、また、請求人には利益操作の意図がないことから、本件賦課決定処分はその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)寄付金の額
 公益法人が収益事業と公益事業を営んでいる場合において、双方の事業に共通する費用又は損失の金額については、継続的に当該費用又は損失の性質に応ずる合理的な基準によりそれぞれの事業に配賦し、これに基づいて経理するのが相当であるので、当該費用又は損失の額は収益事業・公益事業間の振替処理により損金算入されてしかるべきである。
 ところが、本件寄付金のように、公益法人から見ればいわば収益事業・公益事業間の内部取引に当たるものについては、現実に収益事業・公益事業間における資産の所属の移動(区分経理)があった場合にのみ支出がされたとするのが相当である。
 請求人が損金とした本件寄付金の仕訳は、「寄付金/学校法人勘定(元入金)」となっており、この仕訳は、収益事業から公益事業に寄付金を支出すると同時に、収益事業が公益事業から同額を元入金として受け入れたものであるから、公益事業に属する資産として明確に区分経理したことにはならず、請求人は、実質的に収益事業に属する資産を公益事業のために何ら支出していないことになる。
 また、本件事業年度末の元入金残高が期首の残高に比べ9,297,596円増加していることからも、実質的に寄付はなかったと認められる。
 したがって、請求人の経理した本件寄付金の額には、法人税法第37条第4項に規定する「支出」の事実が認められないことから、同項に規定するみなし寄付金の額には該当しない。
(ロ)所得の金額
 上記(イ)のとおり、本件寄付金の額は損金の額に算入されないため、本件事業年度の所得金額は本件申告書に係る所得金領362,893円に本件寄付金の額2,000,000円を加算した2,362,893円となるので、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項及び第2項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

 本件寄付金がみなし寄付金に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 寄付金の額
(イ)法人税法第4条《納税義務》第1項は、公益法人等は、収益事業を営む場合に限り法人税を納める義務がある旨規定し、同法第7条《内国公益法人等の非収益事業所得等の非課税》は、公益法人等の各事業年度の所得のうち収益事業から生じた所得以外の所得については法人税を課さない旨規定している。
 そして、法人税法第37条第4項は、公益法人等がその収益事業に属する資産のうちからその公益事業のために支出した金額は、その収益事業に係る寄付金の額とみなして同条第2項の規定を適用する旨規定している。
 ところで、公益法人等が収益事業を営むのは、公益事業を行うために必要な資金を稼得するためであり、収益事業から生じた剰余金は、その公益事業のための資金として使用されるのが本旨であると考えられる。
 このため、法人税法第37条第4項においては、公益法人等が収益事業に属する資産のうちから公益事業のために支出する金額については収益事業から直接外部に対して支出したもののほか、公益法人等の同一人格内における内部振替にすぎない収益事業から公益事業に対する支出もその収益事業に係る寄付金の額とみなすこととしているものと解される。
 また、法人税法上、公益法人等に対しては、収益事業から生ずる所得についてのみ課税対象とすることとしているので、公益事業に係る収入及び費用についても明確にする必要があり、法人税法施行令第6条《収益事業を営む法人の経理区分》において収益事業から生ずる所得に関する経理と公益事業から生ずる所得に関する経理とを明確に区分して経理することとしている。
 そして、この区分経理については、損益計算に係る部分だけでなく、資産及び負債についても区分経理をする必要があると解される。
 そうすると、法人税法第37条第4項でいう収益事業から公益事業への資産の支出とは、現に収益事業に属する資産を公益事業へ支出して、これにつき明確に区分経理をし、かつ、その資産がその公益法人等の本来の事業のための資金として使用されるものをいうものと解されるから、収益事業から公益事業へ資産を支出したとしても、直ちにその支出した資産の額に相当する金額を元入金として公益事業から収益事業へ受け入れたような場合には、法人税法第37条第4項にいう支出には当たらず、また、これにつき明確に区分経理したことにはならないから、当該収益事業から公益事業への支出額は、みなし寄付金の額には該当しないというべきである。
(ロ)上記1の(3)の基礎事実を上記(イ)に照らし判断すると、次のとおりである。
A 請求人は、本件寄付金についても、収益事業・公益事業間の振替処理による損金算入を認めるべきである旨主張する。
 しかしながら、上記1の(3)のニのとおり、請求人は本件寄付金の額に関して借方寄付金及び貸方学校法人勘定(元入金)とする経理処理をしているが、この経理処理は、収益事業から公益事業に本件寄付金の額を支出すると同時に、当該支出した額に相当する金額を公益事業から収益事業へ元入金として受け入れたものであるから、公益事業に属する資産として明確に区分したことにはならず、請求人は、実質的に収益事業に属する資産を公益事業のために何ら支出していないこととなる。
 したがって、本件寄付金の額は、法人税法第37条第4項にいう収益事業に属する資産を公益事業のために支出した額には当たらず、みなし寄付金の額にも該当しないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
B なお、原処分庁は、本件事業年度末の元入金残高が期首の残高より増加していることから、実質的に寄付はなかった旨主張し、これに対し、請求人は、前事業年度においては、本件寄付金と同様の処理をした金額について、元入金の額が期首より減ったことを理由として認められており、不公平である旨主張する。
 しかしながら、上記Aのとおり、上記1の(3)のニの「(借方)寄付金及び(貸方)学校法人勘定(元入金)」の経理処理では本件寄付金の額を収益事業に属する資産を公益事業のために支出したことにはならないことを理由として本件寄付金の額がみなし寄付金の額に該当しないと判断したものであり、期首の元入金残高に対する期末の元入金残高の増減は本件寄付金に関する判断に影響を及ぼすものではないから、この点に関する請求人及び原処分庁の双方の主張には理由がない。
ロ 所得の金額
 以上の結果、請求人が本件事業年度の所得金額の計算上、損金の額に算入した本件寄付金の額は損金の額に算入されないため、本件申告書に係る所得金額○○○円に本件寄付金の額2,000,000円を加算すると、請求人の本件事業年度の所得金額は○○○○○円となる。
 この金額は、本件更正処分に係る金額と同額であるから、本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 請求人は本件更正処分が違法であり、また、請求人には利益操作の意図がないことから、本件賦課決定処分も違法である旨主張するので、以下審理する。
イ 国税通則法第65条第4項にいう「正当な理由」に当たる事由としては、申告した税額に不足が生じたことについて、納税者が通常な状態においてその事実を知ることができなかった場合や納税者の責めに帰せられない外的事情による場合等が考えられるところ、具体的には、〔1〕税法の解釈に関して、申告当時に公表されていた公的見解がその後改変されたため更正処分を受けるに至った場合、〔2〕災害又は盗難等に関し、申告当時に損失とすることを相当としたものが、その後予期しなかった保険金、損害賠償金等の支払を受け又は盗難品の返還を受けた等のため更正処分を受けるに至った場合、〔3〕その他真にやむを得ない事由が認められる場合等が該当するものと解されている。
ロ 本件更正処分は、上記(1)のとおり、本件申告の誤りを是正したものであって、当初適正であった申告がその後の事情の変化により税額が過少になったことによりなされたものではないことは明らかである。
 そうすると、上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、同更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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