ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.59 >> (平12.4.26裁決、裁決事例集No.59 154頁)

(平12.4.26裁決、裁決事例集No.59 154頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、食品製造販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が本店ビルの新築工事に際し、その共同事業者に対して支払った金員が、支払利息であるか(請求人)、それとも本店ビルの取得価額に算入すべきものであるか(原処分庁)を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本店ビル(以下「本件建物」という。)の新築工事事業(以下「本件事業」という。)の共同事業者である財団法人H機構(以下「H機構」という。)に対して支払った金員を支払利息であるとして、請求人の所得の金額の計算上損金の額に算入して、平成6年3月1日から平成7年2月28日まで、平成7年3月1日から平成8年2月29日まで及び平成8年3月1日から平成9年2月28日までの各事業年度(以下、順次「平成7年2月期」、「平成8年2月期」及び「平成9年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により1月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ I税務署長は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成7年9月30日付で別表1の「減額更正」欄のとおり平成7年2月期の更正処分をした後に、平成10年5月29日付で、H機構に対して支払った金員は支払利息ではなく、本件建物の取得代金の前払金であるから、本件各事業年度の所得の金額の計算上損金の額に算入されない等として、別表1の「増額更正等」欄のとおり本件各事業年度の各更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の各賦課決定処分(以下「本件各賦課決定処分」という。)をした。
ハ 請求人は本件各更正処分及び本件各賦課決定処分を不服として、平成10年7月28日に審査請求をし、その一部の取消しを求めた。
ニ なお、I税務署長は、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成11年12月21日付で別表1の「再更正処分等」欄のとおり平成8年2月期及び平成9年2月期の各再更正処分並びに平成8年2月期の過少申告加算税の変更決定処分をした(以下、本件各更正処分及び本件各賦課決定処分のうち平成8年2月期に係るものについては、同日付でされた再更正処分及び変更決定処分の後のものをいう。)。
 そこで、平成11年12月21日付でされた平成9年2月期の再更正処分についてあわせ審理する。

トップに戻る

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年8月31日付で、株式会社J(以下「J社」という。)との間で本件建物の設計・工事監理委託契約書を取り交わした。
ロ 請求人は、平成5年12月21日付で、K・L・M建設共同企業体(代表者K建設株式会社)(以下「共同企業体」という。)との間で本件建物の工事請負契約書を取り交わした。また、同日付で、N株式会社(以下「N社」という。)との間で本件建物の昇降機設備の工事請負契約書を取り交わした。
ハ 請求人は、平成6年3月24日付で、本件事業に関しH機構との間で共同事業協定(以下「本件協定」といい、この協定に基づいて作成された協定書を「本件協定書」という。)を締結した。
ニ 請求人は、平成6年3月24日付で、〔1〕H機構及びJ社との間で、請求人の権利・義務の一部をH機構に譲渡又は承継することに関し合意した旨の「設計監理業務委託者の権利・義務の一部譲渡等に関する覚書」、〔2〕H機構及び共同企業体との間で、請求人の権利・義務の一部をH機構に譲渡又は承継することに関し合意し旨の「工事発注者の権利・義務の一部譲渡等に関する覚書」並びに〔3〕H機構及びN社との間で、請求人の権利・義務の一部をH機構に譲渡又は承継することに関し合意した旨の「工事発注者の権利・義務の一部譲渡等に関する覚書」(以下、これらの覚書を併せて「本件覚書」という。)を取り交わした。
ホ 請求人は、平成6年3月24日付で、H機構との間で本件建物の敷地(以下「本件敷地」という。)を担保物件として、極度額を2,000,000,000円、被担保債権の範囲を売買取引及び本件協定に基づく損失補償支払債権、債務者を請求人とする根抵当権設定契約証書を取り交わすとともに、根抵当権の仮登記手続を了した。
ヘ 請求人は、平成6年3月25日付、同年6月24日付及び同年9月22日付で、H機構との間で建物延払条件付譲渡予約契約書(以下「本件譲渡予約契約書」という。)を取り交わした。
ト H機構は、本件協定書に基づいて、本件事業に係る分担金(以下「本件分担金」という。)1,800,000,000円(平成6年3月25日300,000,000円、同年6月24日500,000,000円及び同年9月22日1,000,000,000円)を請求人の預金口座に振り込んだ。
チ 請求人は、H機構に対して、本件各事業年度において、別表2のとおり本件協定書第7条に定める「建中金利相当額」(以下「建中金利相当額」という。)を支払った。
リ 本件建物は、平成8年8月27日に竣工し、請求人は、同日、K建設株式会社発行の建物引渡証明書の交付を受けた。
ヌ 請求人は、平成8年8月31日付で、H機構との間で建物延払条件付譲渡契約(以下「本件譲渡契約」といい、この契約に基づいて作成された契約書を「本件譲渡契約書」という。)を締結し、また、H機構に対して、請求人が負担する債務(債務額1,800,000,000円)の担保として、本件建物及び本件敷地の上にH機構を第一順位とする抵当権を設定した旨の抵当権設定契約証書を交付した。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 請求人が本件事業に際しH機構に対し支払った建中金利相当額は支払利息であるにもかかわらず、原処分庁が建中金利相当額は本件建物の取得代金の一部であるから損金の額に算入されない等として行った本件各更正処分は、次のとおり事実誤認に基づく違法なものであるから、その一部を取り消すべきである。
 なお、原処分のうち建中金利相当額に係る部分についてのみ争い、原処分のその他の部分については争わない。
イ 参加事業について
(イ)H機構は、本件建物の建設計画又は工事着工当初から共同事業者であったのではなく、請求人と設計業者との設計委託契約及び請求人と工事請負業者との工事請負契約の締結後に、いわゆる割り込みで共同事業者として本件事業に参加することとなった(以下、H機構が共同事業者として参加する事業を「参加事業」という。)。
 そもそも、一般的な共同事業といわれるものは、その事業の発案当初から事業の完結まで共同責任と義務を持つものであると解されるところ、本件事業では請求人のみが責任と義務を全面的に負っていたのであるから、本件事業は一般的な共同事業とは異なる。
(ロ)H機構は、民間都市開発の推進に関する特別措置法(以下「民部法」という。)による指定法人であるが、H機構の参加事業とは、事業資金の融資について銀行法等に抵触しないようにするために、共同事業という法形式を採ることによって建物施設の一部を取得し、これを相手方(共同事業者)等に賃貸又は長期割賦譲渡することによって事業資金を回収することを構築したものであって、民間事業者への長期低利資金の間接的導入を最終目的としたものである。
(ハ)以上のとおり、本件事業は一般的な共同事業ではないこと及びH機構の参加事業は銀行法等に抵触しないようにするために構築されたものであることから、本件分担金の実質は、請求人に対する事業資金の融資である。
ロ 本件協定等について
 本件協定及び本件譲渡契約の内容は次のとおりであり、本件分担金が実質的に融資であることを表している。
(イ)本件協定について
A 本件協定にはリスク分担についての取り決めがなく、損害補償、協定違反及び協定解除による損害金等の条項には金融業務で常用する文言が列挙されている。さらに、本件協定書第7条において「建中金利相当額の支払い」とあることは、まさしく融資の果実としての金利計算をしていることの証拠である。
B 請求人は、本件敷地にH機構を第一順位とする根抵当権の仮登記をしている。これについて、H機構は、請求人に対し、本件分担金は実質的に融資であるからその保全のために根抵当権の設定が必要であり、本件協定書第5条において本件建物の所有形態を共有としているのは、あくまでも「建前」である旨説明している。
(ロ)本件譲渡契約について
A 本件前渡契約書において、延払譲渡代金未払額に対する利息の利率は、本件譲渡契約の締結日である平成8年8月31日の金利水準ではなく、平成6年3月25日実行分300,000,000円について年3.65%、同年6月24日実行分500,000,000円について年4.15%及び同年9月22日実行分1,000,000,000円について年4.35%と、各々資金提供したときの金利水準に基づく約定利率によっている。
 このことは、H機構においても本件分担金を請求人に資金提供をした当初における条件で回収するという認識があり、この認識は本件建物が完成した前後においても何ら変更がないことを示しており、本件分担金が実質的に融資であることを裏付けるものである。
B さらに、本件建物の所有権の移転の状況をみると、本件譲渡契約書第5条では、H機構は工事請負業者から本件建物の共有持分(以下「本件共有持分」という。)の引渡しを受けると同時に、本件共有持分の所有権を請求人に移転することとし、同契約書第6条では、H機構は本件共有持分の所有権移転と同時に、本件建物を明け渡し、その占有を請求人に移転することとしている。
 しかし、H機構は本件建物の完成と同時に請求人に所有権を移転していること及び移転に係る費用を何ら負担していないことから、H機構は当初から本件建物を所有する意思はなく、請求人に提供した事業資金を迂回して回収する方策として、形式を整えるために本件譲渡契約書を作成したものにすぎない。
ハ 本件分担金の性質について
(イ)「一般に租税制度は経済的生活現象の上に樹立せられており、法人税の課税要件も又かかる事象に基礎をおいているから、右事象の観察には法律上の形式に捉われることなく、その実質を考慮すべきものであることよりすれば、事象は実際に即して考察すべきであって、もし選ばれた法律上の形式と実際の内容が異なる場合には後者が前者に優先して、判断せられるべきである」との実質課税の原則は、既に昭和33年の租税判例に判示されているところであり、租税行政上、定着安定したものであると解されている。
 そこで、H機構に対する建中金利相当領の支払の経済的実質的な性質を考察すると、上記イ及びロのとおり、H機構の本来の経済行為は、民間都市開発資金の融通でありながら、H機構の成立経緯等から法形式を「共同事業」としているにすぎず、本件分担金が実質的に融資であることは明らかであるから、建中金利相当額は支払利息そのものである。
(ロ)このことは、本件譲渡予約契約書第3条の2において、延払譲渡代金未払額に対する利息をH機構に支払うものとすると明記し、また、本件譲渡予約契約書別表1の(6)譲渡代金等支払予定表における平成6年9月10日から平成8年7月31日分の支払代金の額は、いわゆる貸付元本たる元金に一定率(年3.65%、年4.15%、年4.35%)を乗じて算出された「支払代金に対する利息の額」に相当するものであり、消費税の課税対象とされていないことから、建中金利相当額の経済的実質は支払利息であることは明白な事実である。
(ハ)H機構作成の「参加事業のご案内」と題する資料(以下「本件説明資料」という。)において、H機構が取得した本件共有持分を譲渡する際の価格の構成は、〔1〕元金(本件分担金)からH機構の発注に係る消費税相当額を控除した額及び〔2〕元金(本件分担金)についての本件譲渡契約の締結日の前日までの建中金利相当額等と表現されており、元金(本件分担金)が貸付元本であることを明記するとともに、会計処理の方法として、元金(本件分担金)はその他の固定負債であり、利息については通常の負債に対する処理と同様に費用として処理すると表示されている。

トップに戻る

(2)原処分庁

 原処分は次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件協定について
 本件協定書第1条において、H機構は、請求人の行う本件事業が良好な市街地の形成及び都市機能の増進に寄与すると認めて、本件事業に共同事業者として参加することとし、請求人はこれを承諾する旨定めている。
 また、本件協定書第5条において、請求人及びH機構は、工事請負代金及び設計監理業務委託費の総額6,271,129,250円に対する請求人及びH機構の分担額割合に応じて、本件建物を共有持分にて取得する旨定めていることから、本件協定の実質は、本件建物の共有を通じて請求人とH機構が共同事業を実施するものと認められ、さらに、本件協定書には、H機構による資金融通業務の実施についての定めが見当たらないから、本件分担金は資金の融資とみることはできない。
ロ 建中金利相当額について
(イ)H機構は、請求人に対し、本件協定書第3条に基づき、本件事業の費用の一部として本件分担金を支払うとともに、本件協定書第6条に基づき、それぞれの支払金額に対してその支払日から本件譲渡契約の締結日の前日までの期間に対応する建中金利相当額を含めた譲渡価格により本件共有持分を譲渡することとしている。
(ロ)請求人は、H機構に対し、建中金利相当額を別表2のとおり支払い、同金額を支払利息として経理処理を行っていたが、H機構は、これを本件共有持分の譲渡代金の前受金として経理処理している。
(ハ)本件譲渡契約書第2条において、H機構が取得した本件共有持分を譲渡する際の価格は1,961,318,454円(税込金額)と定められている。その内訳は、本件譲渡契約の締結の際に、H機構の開発部が作成して請求人に交付した「譲渡価格と頭金の考え方」と題する資料によれば、本件建物の取得価格1,747,572,817円(税抜金額)と建中金利相当額156,619,858円(税込金額は161,318,454円で請求人が支払利息に計上した金額と一致)の合計額1,904,192,675円に消費税の額57,125,779円を加算した金額であることが確認できる。
 すなわち、建中金利相当額が消費税の課税対象となることが明示されており、これは、とりも直さず建中金利相当額が金利ではなく、本件共有持分の譲渡価格の一部であることを意味している。
 さらに、本件譲渡契約書第3条においても請求人が延払する金額は、譲渡価格から請求人がH機構に対して建設前払金として支払済みの建中金利相当額を控除した金額とされていることから、建中金利相当額が本件共有持分の譲渡価格の一部を構成するものであることは明らかである。
ハ 実質課税について
 法人の所得の有無と帰属を判定するについては、単に当事者によって選択された法律的形式だけでなく、その経済的実質をも検討・吟味すべきことは当然であるが、当事者によって選択された法律的形式が経済的実質からみて通常採られるべき法律的形式とは明らかに一致しないものであるなどの特段の事情がない限り、当事者によって選択された法律的形式は原則として経済的実質をも表現していると認められるのが相当である。
 これを本件事業についてみると、本件協定において当事者により採用された法律的形式は、本件協定の経済的実質からみても通常採られるべき法律的形式と明らかに一致しないものとはいえないから、経済的実質をも表現していると認められる。

トップに戻る

3 判断

(1)本件各更正処分について

 本件は、建中金利相当額が支払利息であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 関係法令
 民都法第3条《民間都市開発推進機構の指定》第1項は、建設大臣が、民間都市開発事業の推進を目的として設立された民法第34条の財団法人であり、民都法第4条《機構の業務》第1項に掲げる業務を適正かつ確実に行うと認められるものを民間都市開発推進機構として指定する旨規定している。
 そして、民都法第4条第1項は、民間都市開発推進機構は、〔1〕特定民間都市開発事業について、当該事業の施行に要する費用の一部を負担して、当該事業に参加すること、〔2〕特定民間都市開発事業を施行する者に対し、当該事業の施行に要する費用に充てるための長期かつ低利の資金の融通を行うこと、〔3〕民間都市開発事業の基礎的調査の実施に対する助成を行うこと及び〔4〕民間都市開発事業を施行する者に対し、必要な資金のあっせんを行うこと等の業務を行うものとする旨規定し、また、同条第2項は、上記〔2〕の融通業務について、民間都市開発推進機構が日本開発銀行(平成11年10月1日から日本政策投資銀行。以下同じ。)等に対し融通に必要な資金を寄託し、日本開発銀行等が資金の貸付けを行うものとする旨規定している。
 なお、民都法第2条《定義》第2項は、民間都市開発事業とは、民間事業者によって行われる事業で、都市における土地の合理的かつ健全な利用及び都市機能の増進に寄与する建築物及びその敷地の整備に関する事業のうち公共施設の整備を伴うものであって、政令で定める要件に該当するもの等をいう旨規定している。
 そうすると、H機構は、民間都市開発事業の推進を目的として設立され、民部法に基づき建設大臣の指定を受けた財団法人であり、また、その業務は、民都法に規定されている一定の要件を満たす参加業務、融通業務等であり、このうち融通業務については、H機構が日本開発銀行等に融資財源の一部を寄託して、日本開発銀行等を通じて融資を行うこととされている。
ロ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件協定書について
 本件協定書には、要旨次のとおりの記載がある。
A H機構は、本件事業に共同事業者として参加する。
B H機構は、工事発注者等の請求人の権利・義務の一郎を請求人より譲り受け又は承継する。
C H機構の本件事業の予定分担額は1,800,000,000円であり、請求人の予定分担額は4,471,129,250円である。
D 請求人及びH機構は、工事請負代金等の総額6,271,129、250円に対する請求人及びH機構の予定分担額に応じて本件建物を共有持分として取得する。
E H機構は、本件共有持分を請求人に延払条件付で譲渡する。
F 請求人は、H機構の本件分担金につき、H機構の支払日から本件譲渡契約の締結日の直前の3月10日又は9月10日までの建中金利相当額を、本件共有持分の譲渡価格の一部の前払として毎年3月10日又は9月10日にH機構に支払う。
G 請求人は、本件敷地にH機構を第一順位とする根抵当権を設定する。
(ロ)本件譲渡予約契約書について
 本件譲渡予約契約書には、要旨次のとおりの記載がある。
A 請求人とH機構とは、本件敷地の整備及び本件建物の建設に関し、本件協定を締結したが、H機構が平成6年3月25日付で分担する300,000,000円、同年6月24日付で分担する500,000,000円及び同年9月22日付で分担する1,000,000,000円について譲渡予約契約締結する。
B H機構は、工事請負業者から本件共有持分の引渡しを受けると同時に本件共有持分を請求人に譲渡し、請求人はこれを譲り受ける。
C 本件分担金につき、H機構の支払日から本件譲渡契約の締結日の直前の3月10日又は9月10日までの建中金利相当額を、請求人は建設前払金として毎年3月10日又は9月10日にH機構に支払う。
D 延払譲渡代金未払額及び建中金利相当額の利率は、それぞれ平成6年3月25日実行分年3.65%、同年6月24日実行分年4.15%及び同年9月22日実行分年4.35%とする。
(ハ)本件譲渡契約書について
 本件譲渡契約書には、要旨次のとおりの記載がある。
A 請求人とH機構とは、本件協定に基づき、本件共有持分の請求人への譲渡に関し、契約を締結する。
B 本件共有持分の譲渡価格は1,961,318,454円(税込金額)とする。
C H機構は、上記Bの譲渡価格から請求人がH機構に建設前払金として支払済みの建中金利相当額を控除した金額を、請求人が延払することを承諾する。
D H機構は、工事請負業者である共同企業体及びN社から本件共有持分の引渡しを受けると同時に、この所有権を請求人へ移転する。
E H機構は、その責任と負担において本件共有持分の所有権移転と同時に本件建物を明け渡し、その占有を請求人に移転する。
F 請求人は、H機構に支払う譲渡代金の担保として、本件建物及び本件敷地にH機構を第一順位とする抵当権を設定する。
G 請求人がH機構に支払う延払譲渡代金未払額に対する利息の利率については、次の利率を適用する。
(A)平成6年3月25日実行分の300,000,000円について年3.65%
(B)平成6年6月24日実行分の500,000,000円について年4.15%
(C)平成6年9月22日実行分の1,000,000,000円について年4.35%
(ニ)譲渡価格の構成について
 H機構が本件協定書に基づいて作成した「譲渡価格と頭金の考え方」と題する資料によれば、本件共有持分の譲渡価格の構成は、本件分担金1,800,000,000円と建中金利相当額161,318,454円を合計した金額1,961,318,454円(税込金額)とされており、また、本件分担金に103分の3を乗じた金額52,427,183円と建中金利相当額に103分の3を乗じた金額4,698,596円の合計額57,125,779円を消費税額として計算している。
ハ H機構の担当者は、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
(イ)請求人との共同事業は、事業の中途から参加することとなったが、他の民間事業者との共同事業の場合も中途から参加することが多い。
(ロ)根抵当権を設定した理由は、本件分担金の担保のためである。
(ハ)H機構は、民間資金を調達し共同事業者に支払っているが、建物建設中であっても、その調達資金に係る金利を返済しなければならない。そこで、建中金利相当額を共同事業者に負担してもらっている。
(ニ)H機構は、財団法人であり、営利を目的としているわけではないこと及び本件分担金の支払時の条件で資金が回収できれば良いと認識していることから、本件譲渡契約における延払譲渡代金未払額に対する利息の利率を本件譲渡契約の締結日の利率ではなく、本件分担金の支払日の利率としている。
ニ 上記1の(3)の基礎事実、上記イの民都法の規定、上記ロの認定事実及び上記ハの答述等から判断すると、次のとおりである。
(イ)民都法の規定並びに本件協定書、本件覚書、本件譲渡予約契約書及び本件譲渡契約書の各契約内容等からすると、本件建物の建築計画及び着工当初は、請求人が単独で建築主として進められていたものであるが、事業の中途でH機構が民都法に規定する参加業務に係る共同事業者として本件事業に参加することになり、請求人はH機構との間で本件協定を締結したものと認められる。そうすると、本件事業の法律的形式は、H機構が共同事業者として事業に参加して、本件建物の建築費の一部を本件分担金として負担し、本件建物の竣工後に本件共有持分を取得し、これを延払条件付で譲渡したものであるから、本件分担金は、本件建物の建築費の一部であると認めるのが相当である。
(ロ)請求人がH機構に対して支払った建中金利相当額については、上記ロの(イ)のFのとおり、本件協定書に本件共有持分の譲渡価格の一部の前払であると明記されており、さらに、上記ロの(ハ)のCのとおり、本件譲渡契約書に本件共有持分の譲渡価格から建設前払金として支払済みの建中金利相当額を控除した金額を延払すると明記されていること等からすると、本件共有持分の取得代金の前払金であると認めるのが相当である。
ホ 請求人の主張について
(イ)請求人は、上記2の(1)のイからハまでのとおり、H機構の成立経緯等から法形式を共同事業としているにすぎず、本件分担金については、その実質に従って判断すべきであり、その実質に従って判断すれば、本件分担金は事業資金の融資であり、建中金利相当額は支払利息となる旨主張する。
 法律的形式と経済的実質とが異なるような場合には、単に当事者によって選択された法律的形式だけではなく、その経済的実質をも検討すべきことは当然であるが、当事者によって選択された法律的形式が経済的実質からみて通常採られるであろう法律的形式と著しく異なるものであるなどの特段の事情がない限り、当事者によって選択された法律的形式は、原則として経済的実質をも表現しているものと認めるのが相当である。
 そこで、本件事業についてみると、本件事業の法律的形式は、上記ニの(イ)のとおり、H機構が共同事業者として事業に参加して、本件建物の建築費の一部を本件分担金として負担し、本件建物の竣工後に本件共有持分を取得し、これを延払条件付で譲渡したものであり、民都法の規定や本件事業の経緯等からしても、当該法律的形式が通常採られるであろう法律的形式と著しく異なるものとは認められない。また、本件事業について、その法律的形式を離れて判断しなければならないような事情も認められないから、当事者間で採用された法律的形式を離れて判断するのは相当でない。
 そうすると、本件事業の法律的形式に従って判断すべきであり、本件分担金は本件建物の建築費の一部であり、建中金利相当額は本件共有持分の譲渡価格の一部であると認められるから、たとえ建中金利相当額の計算根拠が本件分担金を提供した日の約定利率に基づいているとしても、当審判所の判断に影響を及ぼすものではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ロ)なお、請求人は、建中金利相当額は本件譲渡予約契約書に基づいて支払う延払譲渡代金未払額に対する利息であり、消費税の課税対象となっていないことから支払利息であると主張するが、建中金利相当額は、本件共有持分の取得代金の前払金と認められ、前払金は本件共有持分の譲渡の時点で消費税の課税対象となっているから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
 また、請求人は、本件説明資料の譲渡価格の構成において、元金(本件分担金)が貸付元本と明記されるとともに、会計処理の方法については、元金(本件分担金)はその他の固定負債であり、利息は費用として処理すると表示されている旨主張する。
 しかしながら、本件説明資料には、譲渡価格の構成について、元金(本件分担金)が貸付元本であるとは明記されておらず、建築期間中の会計処理の方法については、「建中金利は譲渡価格の一部の前払であるため、建設仮勘定に計上されます」と明記されており、正しい会計処理の方法が表示されているのであり、請求人が主張する会計処理の方法は、本件説明資料のうち本件共有持分の取得後に係るものであるから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)以上のとおり、建中金利相当額は支払利息ではなく、本件共有持分の譲渡価格の一部として前払され、本件建物の取得価額を構成するものであるから、本件各事業年度の取得の金額の計算上、損金の額に算入することは認められない。
ヘ 本件各更正処分の適法性について
 当審判所の調査によれば、平成7年2月期の所得金額は、平成10年5月29日付でされた更正処分の額と同額であるが、納付すべき税額については、法人税法第67条《同族会社の特別税率》第1項に規定する金額、いわゆる留保金額に対する税額が加算されていないことから、同条の規定に基づいて計算した留保金額に対する税額15,898,600円を加算すると納付すべき税額は282,699,300円となり、上記の更正処分の額を上回ることとなる。また、平成8年2月期及び平成9年2月期の所得金額及び納付すべき税額は、平成11年12月21日付でされた各再更正処分の額と同額である。
 したがって、本件各更正処分は適法である。

(2)本件各賦課決定処分について

 上記(1)のヘのとおり、本件各更正処分は適法であり、これにより納付すべき税額の計算の基礎となった事実が本件各更正処分前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてした本件各賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の処分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る