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(平12.5.30裁決、裁決事例集No.59 172頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、建売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)の保有する株式の評価損が損金の額に算入できるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成8年7月1日から平成9年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の所得金額の計算上、所有するF株式会社(以下「F社」という。)の株式3株(以下「本件株式」という。)に係る評価損30,500,000円(以下「本件評価損」という。)を損金の額に算入し、法人税の確定申告書に所得金額を○○○○○円、差引確定法人税額を37,038,000円と記載して法定申告期限までに申告した。
 これに対し、原処分庁は、本件評価損を損金の額に算入することは認められないとして、平成10年6月26日付で本件事業年度の所得金額を○○○○○円、差引合計税額を49,077,500円とする更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税を1,203,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした、
 請求人は、これらの処分を不服として平成10年8月12日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年11月9日付で棄却の異議決定をしたので、同年12月7日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件株式を請求人の代表者の名義により、平成3年4月25日に49,500,000円で取得し、請求人の資産として計上している。
ロ 本件株式は、証券取引所において上場されていない。
ハ F社の定款(平成6年3月29日改正)の株式取扱規則によると、F社が発行する株式3株以上を1口単位として、その取得者をGゴルフクラブの正会員とする旨定められている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)株式の価額は、基本的には法人清算時の価額を表しており、その他当該法人の収益性等を加味して決定されるものであり、この事柄を考慮すれば、本件株式の取引価額が平成9年6月末日のゴルフ会員権売買市場において19,000,000円に下落したことは、発行法人であるF社の土地及び借地権価額の下落が主たる要因となっていると考えられる。
 このことは、法人税法施行令(昭和40年3月31日付政令第97号。ただし、平成10年政令第105号による改正前のもの。以下「施行令」という。)第68条《資産の評価損の計上ができる場合》第2号ロに規定するその有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したことに該当していることは明白であるから、30,500,000円の評価損を損金の額に算入したことは適法である。
(ロ)資産の評価については、相続税法上は請求人の主張する評価額(時価)を適正としているにもかかわらず、法人税法上は当該評価額を認めないのは不合理である。
ロ 本件賦課決定処分について
 以上のとおり、本件更正処分は違法であるから、本件賦課決定処分もその全部が取り消されるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)本件株式には、ゴルフ会員権としてのゴルフ場の施設利用権も含まれており、施設利用については何の問題もなく、また、本件株式の発行法人であるF社においては、施行令第68条第2号ロに規定するところのその有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したという具体的事実の発生が認められない。
 したがって、ゴルフ会員権売買市場において、本件株式の取引価額が下落したという事実のみをもって評価損を損金の額に算入することはできない。
(ロ)請求人は、相続税法上の資産の評価方法が法人税法上は認められないのは不合理である旨主張するが、相続税法と法人税法とでは、その立法趣旨及び目的を異にするものであるから、同一に取り扱われなければならないとする理由はない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件更正処分により、納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件更正処分について

イ 本件審査請求の争点は、本件株式の評価損を損金の額に算入できるか否かにあるので、以下審理する。
(イ)資産の評価損については、法人税法第33条《資産の評価損の損金不算入等》第2項において、内国法人の有する資産(預金、貯金、貸付金、売掛金その他の債権を除く。)につき災害による著しい損傷その他の政令で定める事実が生じたことにより、当該資産の価額がその帳簿価額を下ることとなった場合において、その内国法人が当該資産の評価換えをして損金経理によりその帳簿価額を減額したときは、その減額した部分の金額のうち、その評価換えの直前の当該資産の帳簿価額とその評価換えをした日の属する事業年度終了の時における当該資産の価額との差額に達するまでの金額は、当該事業年度の所得の金額の計算上、損金の額に算入する旨規定されている。
(ロ)そして、法人税法第33条第2項に規定する「政令で定める事実」として、施行令第68条第2号ロにおいて、証券取引所において上場されていない有価証券については、その有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化したため、その価額が著しく低下したことと規定されている。
(ハ)ところで、請求人は、本件株式のゴルフ会員権売買市場における取引価額が下落したことは、F社の土地及び借地権の価額等の下落が主たる要因でF社の資産状態が著しく悪化したことは明白であり、本件評価損は施行令第68条第2号ロの規定に該当すると主張する。
 しかしながら、前記基礎事実認定のとおり、本件株式はGゴルフクラブの会員権としての地位を表章しているものであるところ、そのゴルフ会員権売買市場における取引価額は、ゴルフ場の施設利用権としての価値の上下を含む需要と供給の関係で成立するものであるから、その取引価額が下落したことをもって直ちに、発行会社であるF社の資産状態が著しく悪化したことを意味するものではないし、また、当審判所の調査によっても、F社の資産状態が著しく悪化したとの事実を認めることができず、施行令第68条第2号ロに規定する「有価証券を発行する法人の資産状態が著しく悪化した」ことには該当しないから、請求人の主張は採用できない。
ロ 次に、請求人は資産の評価について相続税法上は時価を評価額として認めているにもかかわらず、法人税法上は時価を評価額として認めないことは不合理である旨主張するが、相続税法は相続あるいは遺贈を基因として取得した財産に対して課税されるものであり、法人税法は各事業年度の所得に対して課税されるものであるから、その課税の趣旨及び目的を異にするものであり、同種類の資産であるからと言って同一の評価方法を採らねばならないという理由はなく、請求人の主張は採用できない。
ハ 以上のとおり、本件株式に係る評価損を損金の額に算入することは認められないから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 本件賦課決定処分については、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由がある場合に該当しないので、同条第1項の規定に基づいて行った賦課決定処分は適法である。
(3)その他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料によってもこれを不当とする理由は認められない。

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