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(平12.2.17裁決、裁決事例集No.59 203頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)審査請求に至る経緯

 審査請求人E及び同F(以下、順次「E」、「F」といい、併せて「請求人ら」という。)は、平成9年8月17日に死亡した請求人らの兄弟であるG(以下「G」という。)の共同相続人であるが、この相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税について申告書を提出しなかったところ、原処分庁は、平成10年10月1日付でそれぞれ別表1の「決定処分等」欄のとおりの決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下、「本件賦課決定処分」といい、本件決定処分と併せて、「本件決定処分等」という。)をした。
 本件決定処分等の審査請求に至る経緯及びその内容は、別表1のとおりであり、請求人らは、平成11年1月12日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨、本件決定処分等については平成11年1月19日に、本件督促処分については同年3月21日にそれぞれ届け出た。

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(2)基礎事実

 以下の事実については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 昭和25年12月15日、請求人らの父であるH(以下「H」という。)の死亡に伴う相続(以下「H」の相続」という。)が開始し、当該相続に係る相続人は、I(Hの配偶者であり、以下「I」という。)、F(Hの長女)、J(Hの二女であり、以下「J」という。)、G(Hの二男)、E(Hの三男)及びK(Hの三女であり、以下「K」といい、以上の相続人を併せて「Hの共同相続人」という。)である。
 なお、Jは、昭和27年11月13日に死亡し、Iは昭和47年12月15日に死亡している。
ロ 別表2―1の順号1ないし10の土地(以下、順次「1号土地」ないし「10号土地」といいこれらを併せて「本件土地」という。)は、Hが所有していたもので、次のとおり所有権の移転登記がされている。
(イ)1号土地、3号土地及び4号土地については昭和35年3月19日付で、昭和25年12月15日の相続を原因とし、Jを除くHの共同相続人を共有者として所有権の移転登記がされた。各共有者の持分は、I6分の2、F、G、E及びKの各持分は6分の1である。
(ロ)2号土地、5号土地及び8号土地の各土地については昭和48年8月11日付で、〔1〕昭和25年12月15日の相続を原因として、Hの共同相続人を共有者として所有権の移転登記がされ、各共有者の持分は、I15分の5、F、J、G、E及びKの各持分は15分の2とし、〔2〕次いで、同日付で、昭和27年11月13日の相続を原因としてJの持分をIに全部移転し、〔3〕さらに、同日付で、昭和47年12月15日の相続を原因として、Iの持分をFほか3名に60分の7ずつ全部移転する登記がされた。その結果、各共有者の持分は、F60分の15、G60分の15、E60分の15及びK60分の15である。
(ハ)6号土地及び7号土地は、平成10年3月6日の更正登記により、昭和48年8月11日付で〔1〕昭和25年12月15日の相続を原因として、Hの共同相続人を共有者として所有権の移転登記がされ、〔2〕次いで、同日付で、昭和27年11月13日の相続を原因として、Jの持分をIに全部移転し、〔3〕さらに、同日付で、昭和47年12月15日の売買を原因として、Iの持分をFほか3名に60分の7ずつ全部移転する登記がされた。
 その結果、各共有者の持分は、6号土地については、F60分の15、G60分の15、E60分の15及びK60分の15、7号土地については、F4分の1、G4分の1、E4分の1及びK4分の1である。
(ニ)9号土地及び10号土地については、昭和56年5月30日付で昭和25年12月15日の相続を原因として、F4分の1、G4分の1、E4分の1及びK4分の1の各持分により所有権を移転した旨の登記がされた。
ハ 別表2―2の順号11の共同住宅(以下「本件家屋」という。)について、平成5年11月4日登記原因を同年10月29日新築、所有者をF、G、E及びK、持ち分を各4分の1とする保存登記がされた。
ニ Gの相続人は、F、E及びKの3人である。

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2 主張

(1)請求人らの主張

イ 本件決定処分について
 原処分庁は、本件土地及び本件家屋について登記簿上、Gが所有者(共有持分権者)として表示されていることから、同持分権がGの相続財産を構成するとしているが、Gは、本件土地及び本件家屋について架空の権利者であり、無権利者である。
 本件決定処分は、民法の判例においては登記には公信力はないとして無権利者の権利は認めていないにもかかわらず、不動産の実質所有者の認定をその登記の内容に基づいて行った誤った処分であるから、その全部の取消しを求める。
(イ)本件土地の所有権の帰属について
 請求人らは、本件土地について原処分庁が算定した評価額を争うものではなく、その帰属について争うものである。
 本件土地は、次の理由のとおり、Eが単独で所有する固有財産であり、Gに所有権(共有持分権)はない。
A 本件土地は、Hの相続において、同人の共同相続人の間で、口頭により遺産分割協議が行われ、E以外の共同相続人が相続権を放棄したことにより、Eが単独で相続したものである。
 これは、Fが平成11年6月8日P家庭裁判所に提出した回答書(以下「本件回答書」という。)の写しに、「Hの相続については、昭和26年前半にE以外の共同相続人は相続権を放棄し、Eが単独で相続した」旨の記載があることからも明らかである。
 なお、Hの相続において、E以外の共同相続人が本件土地の相続権を放棄したのは、当該共同相続人がその相続に係る相続税等を納付することが困難であったため、そうせざるを得なかった事情に基づくものである。
B 本件土地には、法定相続分に基づく所有権移転登記手続がされているが、これは分筆登記あるいは抵当権設定登記を急ぐ必要があり、司法書士からも将来Eの単独所有に変更(訂正)したら良い旨の説明があったため、取り急ぎ法定相続分による所有権移転登記をしたもので、Kその他法定相続人であった者がいつでもEの名義に戻すとの約束もある。
 また、6号土地及び7号土地については、Iから売買で、その持分を取得したという登記内容になっているが、昭和47年12月15日は、Iの死亡した日であり、その日に売買契約をした事実はない。
 このことからも、登記がいかに実態を反映していないか明らかである。
C Hの相続財産に係る資産再評価税及び相続税は、Eが全額納税したことから、本件土地は、Eが単独で相続したものである。
 このことは、Y税務署長から送付された、資産再評価税に係る昭和32年4月24日付の差押解除書(本書の記載は個人再評価税、以下、「本件差押解除書」という。)に、差押財産の内訳がE個人の給与である旨記載されており、Hの遺産又はE以外の共同相続人の財産を差し押さえたものではないことから、その相続については、Eが単独で相続したといえる。
 また、Hの相続に係る相続税の申告書は、申告当時には遺産分割の話し合いができていなかったので、Y税務署の職員の指導もあり、Iほか5名で提出したが、各人の税額はすべて、Eが納税した。
 したがって、本件土地をGの相続財産とした本件決定処分は、結果において二重の課税となり、納得できない。
D 9号土地の上に存する建物は、昭和32年4月30日付の当該建物明渡しに関する訴訟事件に係る和解調書(以下「本件和解調書」という。)の被告名がEのみの記載となっていること並びに当該和解調書に添付されている昭和31年8月25日付の証明書(以下「本件証明書」という。)に、I、F、G及びK(以下、これらを併せて「Iら」という。)が本件和解調書の対象となる建物はEのものであると承認し、連名の上、自筆で署名押印していることから、Eが単独で所有しているものといえる。
 そして、当時、土地はあっても建物がない時代背景からして、建物は主物で土地はその従物とされていたので、上記建物の所有者は、同時にその敷地である9号土地についても所有者となる。
 したがって、このことから、Eは9号土地を所有していたこととなり、本件土地のすべてについてもEが所有していたということになる。
E 本件土地に係る固定資産税及び都市計画税(以下「本件固定資産税等」という。)は、すべてEが負担しているから、本件土地は、Eが単独で相続したものといえる。
 ところで、Kは、毎年、本件固定資産税等の通知書をEが納税するようにE宛に郵送している。
 このことは、KもEが本件土地の所有者であると認めている証拠である。
 なお、Kは、本件固定資産税等の分担金と称して、Eが管理しているL銀行○○支店のH名義の普通預金口座に毎年、300,000円を振り込んでくるが、当該金額は、Eが納付した固定資産税及び都市計画税(本件土地以外に係るものを含む。)の総額に比し過少なものであり、当該固定資産税等の支払には充てていないことから、Kは、当該固定資産税等を負担していることにはならない。
(ロ)本件家屋の所有者について
 請求人らは、本件家屋について原処分庁が算定した評価額を争うものではなく、その帰属について争うものである。
 本件家屋は、請求人ら及びKの自己資金とL銀行○○支店からの借入金によって建てたものであるので、請求人ら及びKの共有財産であり、Gは当該家屋の建築資金を負担していないことから所有権(持分権)はない。
 本件家屋について、所有権のないGを共有者として保存登記した理由は、P市役所から、土地(農地)の名義人がその農地を非農地に転換して、その土地と同一の名義人の建物を建てた場合には、当該土地及び建物に係る固定資産税が減額になる旨の説明があったので、当該減額の適用を受けるために行ったものである。
(ハ)その他の財産について
 原処分庁は、別表2―3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりのその他の財産があった旨主張するが、当該財産が本件相続開始日に存在していたかどうかは知らないが、相続権を放棄するものではない。
(ニ)債務等について
 原処分庁は、別表2―4の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりの債務等があった旨主張するが、当該債務等の存在は知らない。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分の起因となる本件決定処分は、上記イのとおり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 本件決定処分について
 本件決定処分は、次のとおり適法である。
(イ)本件土地の所有権の帰属について
 本件土地については、次の理由により、Hの相続を原因としてその共同相続人が相続したものであるところ、本件相続の開始日においては、Gはその共有持分のうち4分の1を所有していたものと認められる。
A 登記は、その真正を保証するために不動産登記法に規定する厳格な手続によってなされており、登記には、登記簿上表示されている権利関係が実体上存するものと推認される効力があり、また、第三者に対する対抗要件としての効力をも持つものであるから、登記簿上の権利関係が一応真正なものとして取り扱われているところ、本件土地は、いずれも昭和25年12月15日のHの相続を原因とし、〔1〕1号土地、3号土地及び4号土地については、同35年3月19日にJを除くHの共同相続人、〔2〕2号土地、5号土地、6号土地、7号土地及び8号土地については、同48年8月11日にHの共同相続人、〔3〕9号土地及び10号土地については、同56年5月30日にI及びJを除くHの共同相続人を共有者として、それぞれ所有権を移転した旨登記されている。
 そして、本件相続の開始日における本件土地のG持分は、上記〔1〕の各土地については、6分の1、上記〔2〕の各土地については、60分の15(4分の1)、上記〔3〕の各土地については、4分の1と登記されている。
 なお、本件相続の開始日における上記〔1〕の各土地については、登記簿上Iの持分が6分の2となっているが、同人が昭和47年に死亡したことにより、その相続人であるF、
G、E及びKがそれぞれ当該持分の4分の1ずつ相続したものと認められる。
 この結果、上記〔1〕の各土地に係るGの持分は、同人名義の6分の1にIの相続に基づく持分24分の2(6分の2に4分の1を乗じたもの)を加算した24分の6(4分の1)となる。
 ところで、上記〔2〕の土地のうち6号土地及び7号土地について、Iの持分を全部移転する登記の原因が登記簿上、昭和47年12月15日付の売買となっているが、Iは同日に死亡しており、同日に売買したという事実も認められず、相続による所有権の移転と推認される。
B 請求人らは、Hの相続において、E以外の共同相続人は、相続権を放棄したので、Eが単独で相続した旨主張するが、Eは、本件に係る異議審理の際に、異議審理を担当した職員に対し、Hの相続において、遺産分割協議に係る書類等及びE以外の共同相続人が本件土地に係る相続権を放棄した事実を証する書類等は作成していない旨申述していることからも本件土地をEが単独で相続したことは確認できない。
C 請求人らは、本件和解調書の表紙及び本件証明書が、Hの相続において、9号土地をEが単独で相続したことを証する資料である旨主張し、さらに、このことから、本件土地をEが単独で相続した旨主張するが、本件和解調書の表紙には和解に係る事件の内容について具体的な記載がないこと及び本件証明書の初葉では当該証明書を作成するに至った経緯、物件名等が不明であり、また、当該証明書に記載された署名が証明者自身によるものであるかどうか確認できないことから、それらの資料によって、本件土地の所有権の帰属を判断することはできない。
 また、本件土地は、本件和解調書及び本件証明書が作成された後にHの相続を原因とする所有権移転登記が3回にわたって行われているにもかかわらず、請求人らがE以外の共同相続人については、当該土地の所有権はないと主張しながらもそれらの者を共有者として登記していることからすると、Eが単独で相続したとする請求人らの主張は不自然である上に、相続権を放棄した者を共有者として登記する理由はない。
D さらに、本件相続の共同相続人であるKは、本件土地のG持分を相続したとして、相続税の申告書を提出していることからも、本件相続開始時の本件土地のG持分は、登記簿のとおりであったといえる。
(ロ)本件家屋の所有者について
 本件家屋については、次の理由により、F、G、E及びKが共有で取得したものであり、Gは4分の1の共有持分を所有していたものと認められる。
A 登記は、上記(イ)のAの記載内容と同様、その真正を保証するために不動産登記法に規定する厳格な手続によってなされており、登記簿上の権利関係が一応真正なものとして取り扱われているところ、本件家屋は、平成5年10月29日の新築を原因とし、平成5年11月4日に共有者をF、G、E及びK、各持分を4分の1とする保存登記がされている。
B 請求人らが所有権がないと主張するGを本件家屋の共有者として登記することは不自然である。
C また、Eは、本件に係る異議審理の際に、異議審理を担当した職員に対し、本件家屋の建築資金はF名義でL銀行○○支店から借り入れ、その返済は当該家屋の家賃収入で行っており、Gは当該家屋の建築資金は負担していない旨申述しているが、このことをもって、当該家屋の建築資金の負担者を特定することはできない。
D さらに、本件相続の共同相続人であるKは、本件家屋のG持分を相続したとして、相続税の申告書を提出していることから、本件家屋のG持分は登記簿のとおりであったといえる。
(ハ)その他の財産について
 本件土地及び本件家屋以外のその他の財産については、別表2―3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、本件相続開始日において、Gがその財産をいずれも所有していたものと認められる。
(ニ)債務等について
 本件相続に係る債務等は、別表2―4の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、いずれも本件相続に係る債務及び葬式費用と認められる。
(ホ)相続財産の評価額等について
A 本件土地
 本件土地の評価額は、当該土地の利用状況ごとに財産評価基本通達に基づき計算した結果、別表2―1の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、213,445,051円となる。
B 本件家屋
 本件家屋の評価額は、当該家屋が貸付の用に供されていることから、家屋の価額(固定資産税評価額11,648,500円)から当該家屋に係る借家権の価額(家屋の価額の40パーセント相当額)を控除した金額6,989,100円にGの持分4分の1を乗じて計算した別表2―2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、1,747,275円となる。
C その他の財産
 その他の財産の評価額は、別表2―3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり3,251,923円となる。
D 債務等
 債務等の額は、別表2―4の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、本件相続の開始日における確定した債務及び葬式費用の価格を合計した926,536円となる。
(ヘ)課税価格及び納付すべき税額について
 請求人らは、前記(イ)ないし(ハ)の相続財産を相続したと認められること及び当該相続財産について各相続人間における遺産分割協議が行われていないことから、相続税法第2条《相続税の課税財産の範囲》第1項及び同法第55条《未分割遺産に対する課税》の適用要件を満たすことになる。
 そうすると、同法第55条に基づいて、請求人らの本件相続に係る相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり、それぞれ課税価格は72,505,000円、納付すべき税額は10,511,400円となり、本件決定処分の額を上回ることになる。
 したがって、この範囲内でされた本件決定処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり本件決定処分は適法であり、また、請求人らが期限内申告書の提出をしなかったことについて正当な理由がある場合に該当しないことから、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分について

 本件決定処分に係る審査請求の争点は、本件相続開始時において、Gが本件土地及び本件家屋について共有持分権を有していたか否かにあるので、以下審理する。
イ 請求人らの提出資料(当審判所の質問に書面で回答したものを含む)、原処分庁提出資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件相続に係る遺産分割協議は行われていない。
(ロ)Iの相続に係る遺産分割協議は行われていない。
(ハ)Hの相続に係る放棄の申述を家庭裁判所にしたという証拠の提出はない。
(ニ)本件差押解除書には、昭和26年度の資産再評価税(本書の記載は個人再評価税)の滞納額に対し、昭和32年4月24日付でY税務署長がIほか5名を名宛人とし、差押財産としていたEの給与について差押えを解除した旨記載されている。
(ホ)本件和解調書の被告はE、対象物件はP市R町556番地上、同町558番地上及び同町560番地上に所在する建物(附属物を含む。以下「和解対象建物」という。)であった。
(ヘ)本件証明書には、上記(ホ)の和解対象建物の所有権はEにある旨の記載があり、Iらがそれぞれ署名押印している。
ロ ところで、登記について民法第177条は、「不動産に関する物件の得喪及び変更は登記法の定むる所に従い其登記を為すに非ざれば之を第三者に対抗することを得ず。」と規定しているが、判例において登記には公信力を認めないと解されているところ、登記は制度上その手続において、真正な、すなわち有効に存立する実質的な関係に基づくものであることが保障され、かつ、公の機関によって管理されているから、登記がなされているとこれに対応する実質的関係の存在が推定されることから、登記上の所有名義人は反証がない限り当該不動産の所有者と推定することが相当である。
 さらに、建物は、土地とは別個の不動産であって、建物の所有権の変動と土地の所有権の変動とはそれぞれ別個に独立しているものと解されており、このことは、不動産登記法第14条において、登記簿は土地登記簿及び建物登記簿の二種とする旨規定され、両者はそれぞれ別個に編成されており、土地と建物との間には直接の関連はないこととされている。
 また、相続を放棄した者とは、民法の規定によれば相続の開始があったことを知った日から3月以内に家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述をした者であるとされている。
 そして、相続税法第2条第1項は、相続に因り財産を取得した者はその者が相続に因り取得した財産の全部に対し相続税を課する旨、また、同法第55条は、相続により取得した財産に係る相続税について決定をする場合において、当該相続により取得した財産の全部又は一部が共同相続人によってまだ分割されていないときは、その分割されていない財産については各相続人が民法の規定による相続分に従って当該財産を取得したものとしてその課税価格を計算する旨規定している。
ハ 本件土地及び本件家屋は、前記1の(2)のロないしハのとおり、Gが共有者として登記されていることに対して、請求人らは、本件土地はEの固有財産であり、また、本件家屋はE、F及びKの共有財産である旨主張するが、上記ロのとおり、不動産の帰属については、反証がない限りその登記の内容により推定すべきであるところ、請求人らは、次のとおり、主張し、資料を提出するので、前記のイの事実を上記ロの法令等に基づき、以下検討する。
(イ)本件土地の所有権の帰属について
A 請求人らは、Hの相続において、E以外の共同相続人が相続権を放棄した旨主張するが、家庭裁判所に相続を放棄する旨の申述を行ったとする証拠の提出がない。
B また、請求人らは、Hの相続に際し、共同相続人間において口頭で遺産分割協議が行われ、その際、E以外の相続人は、当該相続に係る相続税等を納付することが困難であるため相続権を放棄した旨主張するが、このことについて、請求人らからは、当該相続において遺産分割協議を行ったことを直接証明する証拠書類の提出がないため、E以外の相続人が本件土地の相続権を放棄した事実を確認することができない。
C 請求人らは、Eが、本件土地を単独で相続したことを証する資料として、本件差押解除書を提出するが、その宛名は、Iほか5名となっていることから、請求人の主張を証明するものではないし、Hの相続が共同相続であったとの認定を揺るがすものではない。
 また、請求人らは、Hの相続に係る相続税の申告書は、申告当時には遺産分割の話し合いができていなかったので、Iほか5名で提出したが、各人の税額はすべてEが納税したのでEが本件土地を単独で相続したと主張し、かつ、本件土地に係る相続税は、結果において二重の課税となり納得できないと主張するが、相続税を納付した者が必ずしも相続財産を取得した者とはいえない上、本件相続に対する課税とHの相続に対する課税は、課税原因が異なることから二重課税となるものでもない。
D その他、請求人らが提出した本件和解調書及び本件証明書にEの所有に帰属すると記載されている物件は、和解対象建物のみとなっているところ、上記ロのとおり、建物と土地はそれぞれ独立したものであって、その所有権もそれぞれ別個のものとすることが相当であるので、仮に、当該建物がEの単独所有であったとしても、その敷地である9号土地までもEが所有しているという請求人らの主張は採用できない。
 また、9号土地の所有者がEであるから、本件土地のすべてについてもEのものであるとの主張は、理由がないことが明らかである。
E さらに、請求人らは、本件固定資産税等をすべてEが負担しているから、本件土地は、Eが所有している旨主張するが、固定資産税等の負担の有無や多寡をもって、土地の所有権の帰属までをも左右するものではない。
F 請求人らは、本件土地について、所有権のないGらを共有者として登記した理由は、登記に時間のかからない方法を採ったためである旨主張するが、登記手続に要する時間の長短を理由として真実の所有者でない者の名義とすることは不合理であり、Eの単独登記としなかった理由としては相当でない。
 また、本件土地についての所有権移転登記は、昭和35年から平成10年に至るまでに、数回にわたって行われているのであり、この間において請求人らが主張する実体に合致した登記をする機会が十分にあったと思われるのに、それがされていないという事情に照らすと、請求人らの主張に理由がないことは明らかである。
G 請求人らは、本件回答書をもって、その主張を裏付ける資料として提出するが、本件回答書は、本件相続に関して、請求人の一人であるFが家庭裁判所に対して提出したものであって、同人の主張を記載したものに過ぎず、かつ、その主張を具体的に裏付ける資料は何ら添付されていないから、これをもって、請求人らの主張を根拠付けるものとはならない。
H したがって、本件土地について、Hの共同相続人が登記簿の記載どおり法定相続分に従い共有持分権を取得したとの事実を覆すに足りる資料はなく、この点に関する請求人らの主張を採用することはできないことから、Gは、Hの相続によって登記簿の記載どおりの共有持分権を取得したものと認められる。
 ところで、1号土地、3号土地及び4号土地の共有持分については、本件相続の開始日において、Iの持分が6分の2となっており、同人が昭和47年に死亡し、その相続について遺産分割協議が行われていないことから、当該持分はその相続人であるF、G、E及びKがそれぞれ法定相続分として4分の1ずつ相続したものと認められ、この結果、当該土地に係るGの持分は、G名義の6分の1にIの持分6分の2に4分の1を乗じて計算した24分の2を加算した24分の6すなわち4分の1となる。
(ロ)本件家屋の所有者について
A 請求人らは、Gは本件家屋の建築資金を負担していないからその所有権はない旨主張するが、建築資金を負担していない者が新築された建物の所有者となることができないという法律上の規定はなく、当該資金を負担していない者に贈与税の課税問題が生じることはあっても、それのみで当該登記は無効なものとなるわけではない。
B さらに、請求人らは本件家屋について、所有権のないGを共有者とした理由は、固定資産税の減額の適用を受けるために当該家屋の名義人を敷地の名義人と同一にした旨主張するが、このことをもって当該登記が無効なものと判断できるものでもない。
C したがって、Gが本件家屋の共有持分権を有することを覆すに足りる事情は認められず、この点に関する請求人らの主張を採用することはできない。
 そうすると、本件家屋の所有権は、Gが共有者として登記されたとき以降現在まで変更されていないことから、当該家屋の共有持分は本件相続の開始時点における同人の相続財産であると認められる。
(ハ)その他の財産について
 請求人らは、本件相続開始日において、別表2―3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりのその他の財産があったかどうか知らない旨主張するので、当審判所が調査したところ原処分庁が存在していたと認定している当該財産のうち、現金3,000円及び家庭用財産とした家具一式30,000円については、同日において存在していたことを認め得る証拠の提出がなく、また、他にこれを認めるに足りる資料もない。
 したがって、本件相続に係るその他の財産は、別表2―3の「審判所認定額」欄に記載のとおりと認めることが相当である。
(ニ)債務等について
 請求人らは、本件相続開始日において、別表2―4の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりの債務等があったかどうか知らない旨主張するので、当審判所が調査したところ、原処分庁が認定している当該債務等のうち、葬式費用としたMに対する支払金額12,000円については、その支払内容及び金額を証する書類の提出がなく、また、他にこれを認めるに足る資料もない。
 したがって、本件相続に係る債務等は、別表2―4の「審判所認定額」欄に記載のとおりと認めることが相当である。
(ホ)相続財産の評価額等について
A 本件土地
 本件土地の評価額については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、原処分庁の採用した評価方法が合理性を欠くと認められないことから、当該評価方法と同様の算定方法により計算すると、別表2―1の「審判所認定額欄に記載のとおり、その評価額の合計金額は、213,445,051円となる。
B 本件家屋
 本件家屋の評価額については、請求人ら及び原処分庁の双方に争いはなく、当審判所の調査によっても、原処分庁の採用した評価方法が合理性を欠くと認められないことから、当該評価方法と同様の算定方法により計算すると、別表2―2の「審判所認定額」欄に記載のとおり、1,747,275円となる。
C その他の財産
 その他の財産の金額は、別表2―3の「審判所認定額」欄に記載のとおり3,218,923円となる。
D 債務等
 債務等の金額は、別表2―4の「審判所認定額」欄に記載のとおり914,536円となる。
(ヘ)課税価格及び納付すべき税額について
 本件相続に係る相続人は、前記1の(2)のニのとおり3人であり、当該相続人の間で遺産分割協議は行われていないことから、相続税法第2条第1項及び同法第55条の要件を満たすことになり、同法第55条の規定による法定相続人分として請求人らが取得した相続財産の価額を基に、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおり、それぞれ課税価格が72,498,000円、納付すべき税額が10,509,200円となり、別表1の「決定処分等」欄に記載された原処分の額を上回ることになる。
 したがって、この範囲内でされた本件決定処分は、適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり本件決定処分は適法であり、また、期限内申告書の提出がなかったことについて、通則法第66条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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