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(平12.6.29裁決、裁決事例集No.59 226頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が家庭裁判所の調停で示された解決金を支払って土地を取得したことが、当該土地の時価に比して著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けたことに当たるとして相続税法第7条の規定(以下「本規定」という。)が適用されるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、異議決定で一部取り消された後の決定処分を「本件決定処分」という。)である。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 平成8年10月25日(以下「本件取得日」という。)にE家庭裁判所において、昭和53年8月24日に死亡したF(以下「本件被相続人」という。)の遺産分割に係る「平成7年(家○)第○○○○号遺産分割事件」(以下「本件遺産分割事件」という。)の調停が成立した。請求人は、その調停条項(以下「本件調停条項」といい、本件調停条項が記載された調書を「本件調停調書」という。)に基づき、本件取得日に4,000,000円の解決金(以下「本件解決金」という。)を支払い、Q市R町8丁目1509番25所在の宅地181.48平方メートル(以下「本件土地」という。)を取得した。
ロ 本件遺産分割事件の当事者は、申立人が本件被相続人の長男G(平成3年10月12日死亡)の妻であるH、Gの長女であるI、同長男であるJ及び同次男であるKの4名であり、相手方が本件被相続人の次男L(以下、申立人及び相手方を併せて「本件相続人ら」という。)である。そして、利害関係人が請求人である。
ハ 本件調停条項のうち本件に関係する部分は、要旨次のとおりである。
(イ)本件土地は、本件被相続人の遺産である。
(ロ)本件相続人ら及び請求人は、請求人が昭和61年10月24日本件土地を時効によって取得したことを相互において確認し、本件相続人らは、請求人に対し、同日時効取得を原因とする所有権移転登記手続をする。
(ハ)請求人は、Lに対し、解決金として金4,000,000円の支払義務があることを認め、本日(平成8年10月25日)調停の席上においてその授受を了した。
(ニ)Lは、本件土地について立替払いされた税金分を負担する。
(ホ)本件相続人ら及び請求人は、以上をもって、本件被相続人の遺産に関する紛争をすべて解決したものとし、今後相互において名義の如何を問わず金銭その他財産上の請求を一切しない。
ニ 請求人は、昭和48年3月1日に本件被相続人との間で、本件土地の賃貸借契約(以下、「本件賃貸借契約」といい、本件賃貸借契約に係る契約書を「本件賃貸借契約書」という。)を次のとおり締結した。
(イ)本件被相続人は、本件土地を木造建物所有の目的をもって請求人に賃貸しその使用をなさしめることを約し、請求人はこれを賃借し賃料を支払う。
(ロ)本件被相続人は、固定資産税その他の公課を負担する。
(ハ)賃料は1月2,500円とし、毎月末日限り本件被相続人の住所において支払わなければならない。
(ニ)賃貸借期間は、昭和48年3月1日から昭和68年2月末日までとする。
ホ 請求人は、昭和48年10月に本件土地上に請求人名義の建物を新築して自己の居住の用に供している。
ヘ 本件土地は、平成8年10月29日付で「昭和48年11月1日時効取得」を原因として、本件被相続人から請求人に所有権移転の登記がなされている。

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2 主張

(1)請求人

 本件決定処分は、次の理由により違法又は不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件解決金と本規定の適用について
 請求人は、本件遺産分割事件の調停の場において、本件相続人らから本件土地を買い取るようにとの申出を受けたが、当初は価額面で折り合いがつかず、交渉の結果、本件解決金の金額である4,000,000円まで本件相続人らが価額を下げたことから、最終的にその金額で本件土地の買取りに応じたものである。
 上記のとおり、本件土地の購入価額4,000,000円は、本件相続人ら及び請求人が恣意的に決定したものではなく、E家庭裁判所の調停の場において示された価額であり、調停委員が諸般の事情を考慮して公正な立場で算定した価額である。
 したがって、本件解決金は、本件土地の適正な価額であり、これを無視することは、我が国の裁判制度を無視することになるから、調停によって算出された本件解決金を厳に尊重すべきであって、本規定を適用すべきではない。
ロ 贈与税の趣旨と本規定の適用について
 我が国の税法においては、一税目一税法が原則であって、相続税法についてのみ相続税と贈与税の規定が一税法の中で規定されている理由は、贈与税が相続税の補完税であることに起因するものである。この趣旨からすれば、低額譲受けにより資産を取得した場合の贈与税の課税は、当該譲受けを認めることにより被相続人に係る相続財産を不当に減少させる結果となることを防止し、相続税の課視の公平を図ることを目的としたものである。しかしながら、本件土地については、既に相続は発生しており、仮に、その後において低額譲受けがあったとしても相続財産を不当に減少させることとはならないから、本件決定処分は、贈与税の趣旨に反する誤ったものである。
 また、本件土地の売買が親族以外の第三者との取引であるにもかかわらず、原処分庁が、これを低額譲渡と認定したことは誤りである。
ハ 調査時における課税税目の変更と本件決定処分の不当性について
 本件決定処分に係る原処分庁の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)は、当初、本件土地の取得に関し、一時所得の課税対象になるとして、請求人に対して所得税の修正申告書の提出を再三にわたり要請した。請求人は、この点に関して約一年間論争を行ったが、原処分庁からは本件土地の取得に係る課税について納得のいく説明はなかった。
その後、原処分庁から、本件土地の取得は、贈与税の課税対象になると告げられたため、請求人は、課税税目の変更理由の開示を求めたが、原処分庁からは具体的な理由は全く示されなかった。
 このような経緯の下での本件決定処分は、不当であり、原処分庁の権利の濫用ともいうべきものである。

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(2)原処分庁

 本件決定処分は、次の理由により適法かつ正当であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件解決金と本規定の適用について
 調停は、当事者間の紛争を解決するために第三者の仲介によって当事者が互に話合い、当事者の互譲により法規の形式的運用にとらわれず実情に適した解決を期すものであることから、本件調停条項において本件解決金の額が取り決められたからといって、本件解決金の額が直ちに本件取得日における本件土地の時価を表すものとはいえない。
ロ 贈与税の趣旨と本規定の適用について
 本規定は、著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与により取得したものとみなす旨規定しているが、低額譲受けにより、当該財産を譲渡した者に係る相続財産を不当に減少させることまでも、適用要件としているものではない。
 また、本規定は、贈与により取得したものとみなす場合において、財産を譲渡した者及び譲渡を受けた者が親族関係にある者に限定していないから、請求人と本件相続人らとの間に親族関係がないことをもって、本件土地の取得が本規定上の低額譲受けに該当しないとはいえない。
ハ 調査時における課税税目の変更と本件決定処分の不当性について
 原処分庁が本件決定処分を行う前の調査の一段階において、本件決定処分と異なる見解を示していたとしても、原処分庁がその見解に従って課税処分をしなければならないとの拘束を受けるものではないから、本件決定処分は不当でも職権濫用でもない。
 なお、原処分庁は、本件決定処分に当たり請求人及び請求人の代理人であるM税理士(以下「本件代理人」という。)に対して、再三にわたり本規定の適用について説明している。
ニ 本件土地の価額について
 以上のとおり、請求人の主張には理由がなく、本件土地の価額は、次のとおりと認められる。
(イ)原処分庁の調査によれば、次の事実が認められる。
A P県が基準地(国土利用計画法施行令第9条《基準地の標準価格》第1項の規定に基づいて選定された画地をいう。以下同じ。)として選定したQ市R町8丁目1484番23所在(基準地番号:Q(県)―10、住居表示:Q市R町8―19―11、以下「本件基準地」という。)の画地の平成8年及び平成9年の1平方メートル当たりの標準価格は、それぞれ184,000円及び183,000円である。
B 本件基準地は、間口約11.4メートル、奥行約11.4メートルのほぼ正方形の土地であると認められ、また、本件土地は、間口約13.8メートル、奥行約12メートルの長方形の土地であると認められる。
(ロ)基準地の標準価格について
 国土利用計画法施行令第9条第1項は、都道府県知事は、自然的及び社会的条件からみて類似の利用価値を有すると認められる地域において、土地の利用状況、環境等が通常と認められる画地を選定し、その選定された画地について毎年1回、一人以上の不動産鑑定士又は不動産鑑定士補の鑑定評価を求め、その結果を審査し必要な調整を行って、総理府令で定める一定の基準日における当該画地の単位面積当たりの標準価格を判定するものとする旨規定している。
 また、国土利用計画法施行令第9条第2項は、第1項に規定する標準価格は、土地について自由な取引が行われた場合におけるその取引において通常成立すると認められる価格とする旨規定しているので、基準地の標準価格は、相続税法第22条《評価の原則》に規定する時価と同一のものと解される。
(ハ)本件基準地から比準した本件土地の価額について
A 上記(ロ)のとおり、本件基準地の標準価格は、本件基準地の時価を表しているものと認められる。そして、本件土地は、本件基準地と同一地域内にあり、本件基準地と同一の利用状況と認められ、上記(イ)のBのとおり、本件基準地と本件土地は、ほぼ同一の規模、形状であることからすれば、本件土地の1平方メートル当たりの価額は、本件基準地の標準価格と同額と認めるのが相当である。
B ところで、本件基準地の平成8年及び平成9年の標準価格(当該価格の基準日は各年の7月1日)の変動を考慮すると、本件取得日における本件基準地の1平方メートル当たりの価格は、別表2のとおり183,000円と認めるのが相当であるから、同日における本件土地の1平方メートル当たりの価額は183,000円となる。
C また、請求人は、本件賃貸借契約に基づき、本件土地に借地権を有していると認められるので、この借地権の価額に相当する金額を控除した本件取得日における本件土地の価額は、別表3のとおり13,284,336円と認められる。
ホ 本件決定処分について
 上記ニの(ハ)のCのとおり、本件取得日における本件土地の価額は、13,284,336円と認められ、請求人は、本件土地の対価として本件解決金4,000,000円を支払っているので、本件土地の価額と本件解決金との差額に相当する9,284,336円については、本規定の「著しく低い価額の対価で財産の譲渡を受けた場合」に該当し、当該差額は、請求人が本件相続人らから贈与によ取得したものとみなされる。
 そして、当該贈与により取得したものとみなされた金額を基に請求人の納付すべき贈与税額を計算すると、別表4に記載したとおり2,507,800円となり、この金額と同額でなされた本件決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)Lは、当審判所に対し、要旨次のとおり答述している。
A 本件遺産分割事件は、私が、本件土地とは別の本件被相続人名義の土地の上にあった自宅を建て直そうとして、本件被相続人の他の共同相続人の同意を得ようとしたことが発端となって生じたものである。その調停の進行中に、本件被相続人名義の本件土地の処理も絡み、その使用者である請求人が利害関係人として本件遺産分割事件に参加して、十数回の交渉を行った。
B 私を含めた共同相続人の間には、本件土地は請求人のものであるという認識があった。また、請求人は法律的には私の兄弟になっていないが、本当は私の弟であると思っていた。このような事情から本件土地を請求人に渡すことに同意して、本件調停調書に実印を押したのであり、もし、請求人が他人であれば、そのようなことはしなかった。
C 請求人が私に支払った4,000,000円は、本件土地を請求人名義にする解決金として、調停委員から示された金額である。私はその金額が提示される前に、私がそれまでに立替払いしていた本件土地の固定資産税や相続等に係る登記費用等の負担分の金額をメモにした紙を調停委員に提示し説明していた。
D 本件土地に係る固定資産税は、本件被相続人が死亡した昭和53年から本件遺産分割事件の調停が成立するまでの間、私が払っていた。
(ロ)本件土地等の状況
A 本件土地は、JRN線Q駅から北東約1.4キロメートルに位置しており、同駅までは徒歩で17分程度である。また、本件土地は、間口約13.8メートル、奥行約12メートルの長方形で、北側が幅員約4.5メートルの舗装市道に接しており、近隣地域は、中規模程度の一般住宅の多い閑静な住宅地域である。なお、本件土地は、都市計画法上の市街化区域に所在し、同法に規定する用途地域は、第一種低層住居専用地域に属し、建ぺい率が60%、容積率が150%となっている。
B 本件土地の近隣には、本件基準地が所在しているが、本件基準地は、JRN線Q駅から北東約1.3キロメートルに位置しており、同駅までは徒歩で16分程度である。また、本件基準地は、間口約11.4メートル、奥行約11.4メートルのほぼ正方形で、南側が幅員約4.5メートルの舗装市道に接しており、近隣地域は、中規模程度の一般住宅の多い閑静な住宅地域である。なお、本件基準地は、都市計画法上の市街化区域に所在し、同法に規定する用途地域は、第一種低層住居専用地域に属し、建ぺい率が60%、容積率が150%となっている。
C 本件基準地の平成8年7月1日及び平成9年7月1日における1平方メートル当たりの標準価格は、それぞれ184,000円及び183,000円である。
D W国税局長の定める平成8年分財産評価基準書によれば、本件土地の所在する地域の借地権割合は、60%となっている。
(ハ)本件決定処分に係る調査の経緯
A 平成9年8月6日に、請求人と本件調査担当職員は、請求人の本件土地の取得に係る課税に関して最初の面談をした。
B 平成9年11月5日に、原処分庁は本件代理人に一時所得として課税される旨回答した。
C 平成9年11月26日に、本件代理人から本件調査担当職員に対し、本件土地上に請求人の借地権が存する旨の主張がなされた。
D 平成10年5月7日に、原処分庁からの再三の要請に基づき、本件代理人から本件調査担当職員に対し、本件賃貸借契約書の提示がなされた。
E 上記AからDまでのほか、請求人(本件代理人を含む。)と本件調査担当職員とは、平成9年8月6日から平成10年10月27日までの間に、請求人の本件土地の取得に係る課税に関して、面接又は電話により、20数回にわたって接触している。
ロ 本規定の趣旨について
 本規定は、「著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合においては、当該財産の譲渡があった時において、当該財産の譲渡を受けた者が、当該対価と当該譲渡があった時における当該財産の時価との差額に相当する金額を当該財産を譲渡した者から贈与に因り取得したものとみなす」となっている。本規定は、法律的には贈与契約によって財産を取得したものではないが、経済的には時価より著しく低い価額で財産を取得すれば、その対価と時価との差額については、実質的に贈与があったとみることができるので、この経済的実質に着目して、税負担の公平の見地から課税上は、これを贈与とみなす趣旨のものと解される。
ハ 本件解決金と本規定の適用について
 上記(3)の基礎事実及び上記イの認定事実の中には、請求人が本件土地を時効取得したかのような部分もあるが、請求人が本件遺産分割事件の調停時に本件相続人らから本件土地を4,000,000円で譲り受けたことは、請求人の自認するところであって請求人及び原処分庁の双方に争いはなく、また、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
 ところで、請求人は、本件解決金は、本件土地の適正な価額であり、これを無視することは、我が国の裁判制度を無視することになるから、調停によって算出された本件解決金を厳に尊重すべきであって、本規定を適用すべきではない旨主張する。
 しかしながら、上記ロの本規定の趣旨からすれば、本規定が適用されるか否かは、本件遺産分割事件の調停の場で示された価額が本件土地の時価と異なる場合には、本件土地の時価に基づいてその判断がなされるべきであると解される。そうすると、本件遺産分割事件の調停において本件土地の時価を本件解決金の額としたのであれば、先ず、本件土地の時価が明らかにされるべきであると考えられるが、本件調停調書においては本件土地の時価をいくらと算定したかが明らかではなく、また、下記への(ホ)で述べるとおり、当審判所が相当と認める本件土地の価額が本件解決金の額の3倍超となっていることからすれば、本件解決金の額が本件土地の時価を表すものとは認められない。
 むしろ、上記イの(イ)のLの答述からすれば、本件解決金の額は、最終的には、それが事実であるか否かはともかく、請求人及びLが兄弟であるとの両者の認識に基づいて、本件相続人らから請求人に対して低廉の価額で本件土地を取得させる調停を成立させるために合意に至った金額と認めるのが相当である。
ニ 贈与税の趣旨と本規定の適用について
 請求人は、相続税の課税の公平を図ることを目的とする贈与税の趣旨からすれば、本件土地については、既に相続は発生しており、相続財産を不当に減少させることとはならないから、本件決定処分は、贈与税の趣旨に反する誤ったものである旨主張する。
 しかしながら、請求人の本件土地の譲受けは、本件被相続人からではなく、本件相続人らからのものであるから、本件被相続人からの取得を前提とする請求人の主張は理由がない。
 なお、請求人の主張が、本件土地を本件相続人らから取得したことを前提とするものであるとしても、次のとおり理由がない。
 すなわち、相続税法第1条の2《贈与税の納税義務者》は、贈与税の納税義務者を相続税の納税義務者とは別個に定めており、沿革的には贈与税が相続税の補完税としての性格を有しているとしても、理論的には贈与による財産の取得が取得者の担税力を増加させるため、それ自体として課税の対象になるというべきであるから、贈与税と相続税とは、その課税原因を別個にすることを前提としているものと解される。
 そして、本規定の内容及びその趣旨は上記ロのとおりであるから、請求人の主張するように、本件被相続人の相続財産を不当に減少させることとはならないとしても、財産の取得が著しく低い対価によって行われた場合に、その対価と時価との差額については、実質的に贈与があったとみなして本規定が適用されることとなる。
 ところで、請求人は、本件土地の売買が親族以外の第三者との取引であるにもかかわらず、原処分庁が、これを低額譲渡と認定したことは誤りである旨主張するが、上記ロのとおり、本規定は、親族間の取引の場合についてのみ適用し、第三者間の取引の場合には適用しないとはされていないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 調査時における課税税目の変更と本件決定処分の不当性について
 請求人は、税務調査時において課税税目の変更理由を開示せずになされた本件決定処分は不当であり、原処分庁の権利の濫用である旨主張する。
 しかしながら、仮に、原処分庁が、本件土地の取得に係る課税に関して本件決定処分とは異なった見解を調査の過程において示していたとしても、このことをもって本件決定処分が不当となるものではない。また、原処分庁が適法に課税処分を行うことは正当に与えられた権限であり、納税者に対して課税処分の理由を説明することがその要件とはされていないから、仮に、原処分庁からその理由の説明がないまま、本件決定処分がなされたとしても、そのことは、原処分庁の権利の濫用に当たるものではない。
 ところで、本件決定処分に係る調査の状況によれば、原処分庁は、当初、本件土地の取得に係る課税を、本件土地の登記原因である「時効取得」に基づき一時所得であるとして、請求人及び本件代理人に説明していたが、平成9年11月26日に至って、本件代理人から、請求人が本件土地上に借地権を有するとする本件賃貸借契約の存在を知らされ、その後、平成10年5月7日に本件賃貸借契約書が提示されたことから、本件土地の取得に係る課税を一時所得ではなく贈与税とするのが正当であると判断したものと認められる。
 そして、請求人による本件賃貸借契約書の提示後も、上記イの(ハ)のとおり、原処分庁は、再三にわたり請求人及び本件代理人との接触の機会を設けて、本件土地の取得に係る課税についての説明を行っていたと、認められる。
 そうすると、本件決定処分に際して、原処分庁が、請求人に対して本件土地の取得に係る課税についての具体的な理由を全く開示していない旨の請求人の主張は、事実に反するものといわざるを得ない。
 したがって、これらの点に関する請求人の主張には理由がない。
ヘ 本件土地の価額について
 請求人の主張に理由がないことは、上記ハからホまでのとおりであるが、原処分庁は、本件取得日における本件土地の価額は、別表3のとおりであると主張しているので、以下検討する。
 ところで、本規定にいう時価とは、財産の譲渡があった時において、その財産について不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち当該財産の客観的交換価値を示す価額をいうものと解され、これに対し、基準地の標準価格は、国土利用計画法施行令によれば、土地について自由な取引が行われた場合におけるその取引において通常成立すると認められる価額をいうものであり、この価額と本規定にいう時価とは同義のものと解される。
 そうすると、原処分庁が採用した基準地の標準価格に比準して本件土地の価額を算定する方法は、本規定にいう時価を算定する上で合理的なものと認められる。そこで、原処分庁が主張する本件土地の価額が、当該方法により的確に算定されているか否かを検討すると、次のとおりである。
(イ)原処分庁が本件土地の価額の算定上採用している本件基準地は、上記イの(ロ)のA及びBのとおり、地理的条件、環境的条件及び行政的条件が本件土地とほぼ同様となっており、本件土地の価額を算定するための基準地としては適切なものと認められるので、その標準価格(上記イの(ロ)のCの標準価格)を基として本件土地の価額を算定することは相当なものと認められる。
(ロ)本件土地と本件基準地は同一地域にあり、その形状等も酷似していることから、両土地の間に格差は認められず、本件基準地の標準価格から本件土地の価額を算定する上で特段の格差補正は要しないものと認められる。
(ハ)本件取得日と本件基準地の基準日が異なることによる時点修正がなされているが、これについても特段不相当とは認められない。
(ニ)上記1の(3)のニ、ホ及びヘのことから、請求人は、本件取得日において本件土地上に借地権を有していたと認められ、その借地権割合を平成8年分の評価基準書に定められている60%とすることには、特に不相当な点はないから、この割合を借地権割合と認めるのが相当である。
(ホ)そうすると、原処分庁が本件基準地の標準価格から比準し、借地権の価額に相当する金額を控除して求めた価額13,284,336円は、本件取得日における本件土地の時価を表しているものと認められる。
ト 上記への(ホ)のとおり、本件取得日における本件土地の時価は、13,284,336円であると認められるが、請求人は、本件解決金の額4,000,000円を支払って本件土地を取得しているのであるから、請求人の本件土地の取得は、本規定の「著しく低い価額で財産の譲渡を受けた場合」に該当し、請求人は、時価と本件解決金との差額9,284,336円を本件相続人らから贈与により取得したものとみなされることとなる。そして、当該贈与により取得したものとみなされた金額を基に納付すべき贈与税額を算定すると2,507,800円となり、この金額と同額でなされた本件決定処分は適法である。

(2)無申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のトのとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人には、期限内申告書の提出がなかったことについて、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項の規定に基づいてされた無申告加算税の賦課決定処分(異議決定で一部取り消された後のものをいう。)は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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