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(平12.3.28裁決、裁決事例集No.59 242頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人Eほか2名(以下「請求人ら」という。)の相続税の債務控除において、長期間無利息で預託される敷金に係る債務控除額を、敷金の全額とすべきか(請求人ら)、敷金の金額から経済的利益の額を控除して評価した金額とすべきか(原処分庁)を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成11年4月9日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人らの父であるF(以下「F」という。)はJ株式会社(以下「J社」という。)
に、同人が所有するP市Q町1丁目303番所在の土地1,155.76平方メートル(以下「本件土地」という。)を賃貸することを承諾し、両者は平成7年8月18日付で土地賃貸借申込書(以下「本件申込書」という。)を作成している。
ロ 本件申込書には、第2項において、本契約は借地借家法第24条の規定に基づく事業用定期借地権の設定約定であり、当事者双方は本契約の内容について公正証書を作成する義務を負う旨定められ、第5項では契約期間を「営業開始日から、満20年間とする」とし、第9項では、地代を月額1,050,000円、さらに第11項で、契約締結と同時に、借主は敷金として、20,000,000円を貸主に無利息にて預託し、契約期間終了後には貸主から借主へ一括返還されるものとする(以下、この敷金を「本件敷金」という。)と定められている。
ハ FとJ社は、平成7年10月16日付で「事業用定期土地賃貸借契約締結の為の覚書」
(以下「本件覚書」という。)を作成している。
 なお、本件覚書には、上記ロと同趣旨の内容が定められている。
ニ 本件敷金は、平成7年10月16日に10,000,000円、平成8年1月31日に残りの10,000,000円が、K銀行L支店のF名義の普通預金口座へそれぞれ入金されている。
ホ Eは、平成8年7月14日にF(以下「本件被相続人」という。)が死亡したことにより、本件敷金を返還すべき債務を承継した。
ヘ 平成9年7月16日に相続人である請求人らの母G及びE(以下、2人を併せて「賃貸人」という。)は、本件申込書における承諾人である本件被相続人の地位を引継ぎ、J社との間で本件申込書及び本件覚書に沿った内容の「事業用借地権設定契約公正証書」(以下「本件公正証書」といい、この契約を「本件契約」という。)を作成している。
 なお、契約期間については、本件公正証書第3条において、平成9年8月1日から平成29年7月31日までの満20年間と定められている。
ト 本件契約が終了した場合の本件土地に設置した建物等の撤去については、本件公正証書第13条において、J社は、建物等を自己の費用で速やかに撤去するものとし、J社がこの義務を履行しない場合、賃貸人は本件敷金をもって解体撤去し、撤去物も合わせて処分することができ、また、本件敷金の範囲内において解体撤去費用が不足の場合は、賃貸人はJ社に対してその費用の償還請求ができる旨定められている。
チ 本件敷金の返還については、本件公正証書第17条において、J社は、自己の都合で中途解約の申込みをすることができ、その場合、賃貸人は、本件敷金の返還義務を免れるものとする旨定められている。

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2 主張

(1)請求人らの主張

イ 更正処分について
(イ)本件敷金に係る債務控除額は、次のとおり、本件敷金の全額20,000,000円とすべきである。
A 本件敷金は、地代の滞納、不払い、建物の撤去費への充当といった債務不履行を担保するために、万一の事態に備えて預かるべき相当額のもので、通常このような事態が生じないなら、全額返還すべき預り金であり、賃貸人にとっては、全額債務として認識すべきものである。
B 事業用借地権契約において収受する保証金は、現時点では土地の更地価額の15%前後に収束されつつあること、敷金の適正額は地代の2年分程度と考えられていることを勘案すれば、本件敷金は自用地としての評価額の3%にも満たず、収受する地代の約19か月分であることから適正額の敷金ということができ、すなわち、20,000,000円の全額が預り金たる債務である。
C 本件敷金を長期間無利息で預かっていることで経済的利益があるとしても、契約期間中はいつの時点においても、敷金20,000,000円であることに変わりなく、例えば、賃貸人には中途で解約された場合に、建物の取壊し費用が20,000,000円を超えるかもしれないというリスクなどがあるのだから、賃貸人が常に、しかも、一方的に経済的利益を享受していると認定することは妥当ではない。
D 定期借地権制度は、まだ新しく導入されたばかりであり、実務の慣行が成熟されているとはいえない状況で、定期借地権の設定契約といえども、例えば、天災地変等により当事者双方に責任がない場合には、契約期間の中途であっても本件敷金を返還しなければならず、契約期間満了時まで継続するか将来について予測はできないこと、借地権の評価などは借地権割合などを用いて実態にあった評価をしているのに、債務控除の金額は金利の変動などを考慮していないことを併せ考えると、定期借地権の設定期間のみを基準とした残存期間に対応する複利現価率を用いて評価することは実態とそぐわない。
(ロ)上記(イ)のとおり、本件敷金の債務控除において、その全額の控除を認めなかった更正処分は違法であるから、その全部が取り消されるべきである。
(ハ)仮に、債務控除額について、本件敷金の金額から無利息であることの経済的利益の額を控除した金額しか認められないとしても、経済的利益の額を算出するために年6%の複利現価率を適用することは、課税時期の経済情勢とは合致せず、相続税法で適正な率が規定されていないのであるから、相続時点の長期国債の応募者利回りを用いる方法や通常の定期預金などで運用できる利率により、評価すべきである。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い過少申告加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

イ 更正処分について
(イ)相続税法第13条《債務控除》及び第14条《控除すべき債務》の規定により、相続税において債務控除ができる債務は、被相続人の債務で相続開始の際現に存するもので、かつ、確実と認められるものに限られている。
 ところで、相続税法第13条において、相続金銭債務を取得財産の価額から控除する趣旨は、その債務の弁済のために必要な資金に相当する金額を課税対象外として相続人に留保させるためであると解される。
 そして、その債務が弁済期未到来、かつ、無利息である場合における債務控除額は、その債務の元本金額ではなく、元本金額を将来の弁済期まで通常の方法で運用すれば、元本を弁済するに足りる金額を相続人に留保させることが債務控除の趣旨に合致すると認められることから、元本金額から無利息の債務に係る課税時期から弁済期までの期間に応ずる経済的利益の額を控除した金額とするのが相当である。
(ロ)本件敷金は、基礎事実ロのとおり無利息であり、かつ、本件契約が終了するまでは返還を要しないもので、本件契約が終了した時に賃借人であるJ社に本件契約に基づく債務があるとき、賃貸人はその債務に本件敷金を充当できることとされている。
 したがって、本件敷金は賃貸借契約が終了するまで賃貸人において返還を要しない無利息のものであるから、弁済期が未到来の無利息の債務と認められる。
(ハ)なお、定期借地権設定契約は、通常、契約期間満了まで継続することを前提としてなされるものであり、中途解約、未払賃料への充当等といった事態は、これが起こり得るか否か、また、いついかなる程度において発生するか等は敷金若しくは保証金の預託時において全く不確実なものであるから、これらの不確実な事由を前提とした請求人らの主張には理由がない。
(ニ)本件敷金の評価額は、本件敷金の元本金額から、当該元本金額に課税時期から弁済期までの期間に応ずる年6%の利率による複利現価率を乗じて計算した経済的利益の額を控除して計算した金額である。
 このように、本件敷金に係る課税時期から弁済期までの期間に応ずる経済的利益の算定に当たり年6%の利率を適用したことについては、〔1〕本件敷金は基礎事実ロのとおり、20年にわたる長期間利息を付さないで預託されたものであり、課税時期から弁済期までの期間も20年と長期のものであることから、長期の貸出金利の動向を考慮して、これらの期間を通じて妥当とする利率を求める必要があること、〔2〕定期借地権の設定に際して預託された無利息の保証金に係る弁済期までに享受する経済的利益の額を算定する場合の利率は、平成5年以前10年間の長期プライムレートと長期国債の応募者利回りとの平均により年6%の利率とされていること、〔3〕平成6年以降課税時期までの間に若干の金利の低下傾向がうかがわれるものの、年6%を変更するまでに至っていないと認められること、〔4〕一般の長期貸出金利は長期プライムレートより高めであることからみて、相当であると認められる。
(ホ)以上のとおり、本件敷金に係る債務控除額は、本件敷金の元本金額である20,000,000円から、次の算式により計算される経済的利益の額13,760,000円を控除した6,240,000円となることから更正処分は適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
(経済的利益の額)
20,000,000円−(20,000,000円×0.312〔課税時期における残存期間「20年」に応ずる年6%の複利現価率〕)=13,760,000円
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、更正処分は適法であり、また、更正処分により増加した税額の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った過少申告加算税の賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求は、本件敷金に係る債務控除額について争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分について

イ 認定事実
 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件契約における地代の金額は、近隣の相場を基にして月額坪当たり3,000円で算出している。
(ロ)日本銀行調査統計局発行の「経済統計年報」に掲載されている長期プライムレートと長期国債(10年)の応募者利回りの昭和61年1月から平成8年12月までの各月の利率の推移は別表2のとおりである。
ロ 控除すべき債務の評価について
 相続税法第22条《評価の原則》には、相続又は遺贈により取得した財産の価額は、当該財産の取得の時における時価により、当該財産の価額から控除すべき債務の金額は、その時の現況による旨規定されている。この規定の趣旨は、控除すべき債務については財産の評価と同様に債務を取得したときの現況で評価して控除すべき金額を算定することを明らかにしたものであると解されている。
 したがって、弁済すべき金額の確定している金銭債務の場合であっても、その全額が当然に控除すべき債務の金額となるものではなく、相続又は遺贈による財産の取得の時における利率、弁済期その他の債務の現況によって控除すべき金額を個別的に評価しなければならないのであり、控除すべき債務の金額は必ずしも常に当該債務の弁済すべき金額と一致するものではない。
 そうすると、無利息で預託されている金銭債務(以下「無利息債務」という。)であれば、それを承継した相続人は、通常の利率による利息相当額の経済的利益を弁済期が到来するまでの期間享受するのであり、その享受する経済的利益の相続開始時における現在価値に相当する額だけ相続又は遺贈により取得した経済価値の減殺要因が小さいわけであるから、無利息債務の相続開始時の評価額は、通常の利率と弁済期までの年数から求められる複利現価率を用いて相続開始時現在の経済的利益の額を計算し、無利息債務の元本金額からこの経済的利益の額を控除した金額とするのが相当である。
ハ 本件敷金について
 上記ロに照らして本件敷金について検討すると、次のとおりである。
(イ)本件敷金は、基礎事実ロのとおり、J社から本件被相続人が無利息で預託されたものであるから無利息債務に当たるのは明らかであり、これを承継した請求人らは、当然に通常の利率による利息相当額の経済的利益を本件敷金の返還期までの期間享受するのであるから、その控除すべき金額については、敷金の金額から、請求人らが返還期までの間に享受する経済的利益の相続開始時の額を控除した金額によるのが相当である。
(ロ)請求人らは、本件敷金は自用地としての評価額の3%にも満たないものであり、収受する地代の約19ヶ月分であるから、債務不履行を担保するために預かるべき相当額であり、かつ、全額が返還すべき預り金なのであるから全額を債務控除すべきである旨主張する。
 ところで、預り金とは、通常の取引に関連して発生し、発生後短期間に返済されるもの、あるいは、通常の取引に起因しなくとも1年以内に返済されるものをいうが、本件敷金は、20年という長期間にわたって預託されるものであるから、請求人らが主張するような、いわゆる預り金に当たらないことは明白である。
 また、請求人らの主張するように、本件敷金が、債務不履行を担保するために預かるべき相当額であり、かつ、全額が返還すべき金員であるとしても、返還期までの間において、無利息であることにより請求人らが通常の利率による経済的利益を享受することに変わりはなく、また、金額の多寡は経済的利益の額に影響を与えるにすぎないことから請求人らの主張は採用することができない。
(ハ)また、請求人らは、本件敷金を長期間無利息で預かっていることで経済的利益があるとしても、賃貸人にも中途で解約された場合に建物の取壊し費用が20,000,000円を超えるかもしれないというリスクなどがあるのだから、賃貸人が常に、一方的に経済的利益を享受していると認定することは妥当でない旨主張する。
 しかしながら、基礎事実トのとおり、本件契約の終了に伴う本件土地上の建物等の撤去費用は、全額がJ社の負担とされており、また、将来請求人らが本件契約に関連する何らかのリスクを被る可能性があるとしても、相続税法第22条が債務の評価について相続開始時の現況による旨規定していることからすれば、債務の評価に当たって、相続開始時において客観的かつ具体的に確認されない事柄を影響させることは妥当ではないことから、請求人らの主張は採用することができない。
(ニ)さらに、請求人らは、定期借地権の設定契約といえども、契約期間満了時まで継続するか将来について予測はできないし、金利の変動などを考慮しないで定期借地権の設定期間のみを基準とした残存期間に対応する複利現価率を用いて評価することは実態にそぐわない旨主張する。
 しかしながら、本件公正証書によれば、本件敷金の返還義務が賃貸借期間の満了日である平成29年7月31日前に発生することがあり得るが、他方、返還義務を免れることもあり得るのであり、本件敷金の返還義務が契約上賃貸借期間の満了日前に発生する可能性があり得ることのみをもって、本件敷金についてその全額を控除すべき金額とすることは妥当とは解されない。本件公正証書において、賃貸借期間の満了日前に本件契約が終了する事由としては極めて制限的に定められていることからすれば、相続開始日において、賃貸借期間の満了日前に、本件契約の終了することが確実と認められる事情が存しない限り、賃貸借期間のうちの残存期間をもって、無利息債務の評価における経済的利益を算出するのが合理的であると認められる。
 よって、請求人らの主張は採用することができない。
ニ 経済的利益の算出について
 請求人らは、仮に債務控除額が、本件敷金の金額から無利息であることの経済的利益の額を控除した金額しか認められないとしても、経済的利益の額を算出するために年6%の複利現価率を適用することは、課税時期の経済情勢とは合致せず、相続税法で適正な率が規定されていないのであるから、相続時点の長期国債の応募者利回りを用いる方法や通常の定期預金などで運用できる利率により、評価すべきであると主張するので、経済的利益の額の算出について検討すると、次のとおりである。
(イ)上記ロのとおり、本件敷金のような無利息債務の元本金額から控除する経済的利益の額は、債務者が相続開始の時から将来の弁済期まで通常の条件で貸付け等により運用することができる通常の利率(以下「通常利率」という。)と相続開始時から弁済期までの年数から求められる複利現価率を用いて計算するのが相当であり、このような無利息債務は長期間預託されるのが通常であるから、通常利率は、統一的な指標となり得る長期金利等を基準として、相続開始時に弁済期までの金利の動向を考慮して求めるのが相当である。
(ロ)そこで、通常利率について、統一的な指標の選定と将来の金利の動向を検討すると次のとおりである。
A 統一的な指標となる利率について
(A)原処分庁が通常利率の指標とした長期国債(10年)の応募者利回りは、長期金利の代表として挙げられる一つの指標であり、この利率は、国内の景気動向、国債発行量、短期金利との関係等様々な要因が加味されて決定されていることや、請求人らがその国債を購入し運用できることを併せ考えれば、長期国債(10年)の応募者利回りは、長期的な金利の指標としては適当であると認められる。
(B)また、本件敷金が金融商品のみによって運用されるばかりでなく、貸付けによって運用される場合が考えられ、原処分庁が通常利率の指標とした長期プライムレートは、企業に対する最優遇貸出金利としての指標であるが、個人に対する統一的な貸出金利として公表されている指標がないことから、公表されている長期プライムレートを通常利率の指標とすることは適当であると認められる。
(C)これに対し請求人らが主張する通常の定期預金などで運用できる利率は、請求人らにとって直接かかわりあいのある利率ではあるが、各金融機関ごとに利率が異なるから統一的な指標とすることが困難であり、また、長期金利の指標にはなじまないことから合理的な利率として適用することは相当ではないと認められる。
(D)ほかに一般に公表されている利率としては公定歩合や住宅金融公庫の貸出金利が考えられるが、公定歩合は日本銀行から各金融機関に対する貸出金利であり、一般的に短期金利の指標と考えられることから長期金利の指標にはなじまず、住宅金融公庫の貸出金利は、長期金利の指標ではあるが、貸付けの目的が住宅資金に特定されている金利であり、一般的な貸出金利より低めに設定されていることから、これらは統一的な指標には適さないと認められる。
(E)したがって、統一的な指標となる利率については、金融商品の中で利率が高いものである長期国債(10年)の応募者利回りと貸出金利の中で利率が低いものである長期プライムレートの平均値とすることが、評価の安全性の観点やほかに統一的な指標となり得る利率もないことからしても、合理的である。
B 将来の金利の動向について
(A)本件敷金のように長期間弁済期が到来しない無利息債務の評価を行う場合に、将来の金利の動向を長期にわたり正確に予測することは、金利の変動などを考慮すると非常に困難であるから、過去の金利の推移に基づいて、その平均利率を適用する方法が合理的であると認められる。
(B)また、指標とする利率の対象期間については、無利息債務の相続開始時から弁済期までの期間に対応する年数の過去の平均を求める方法が考えられるが、一般的に納税者が利率を用いて財産を評価する場合に対象期間にばらつきがあると、その確認を行うに煩さであることから適当でなく、簡明性の観点から、一定の期間を見積もった上で、統一的な利率を採用する方法が適当と認められる。
 そして、相続税の評価において、営業権の評価や観覧用の鉱泉地の評価における収益の継続期間を10年としていることや定期借地権の評価における逓減率の適用利率は過去10年を対象として求めていることを併せ考えると、相続開始時の本件敷金の評価額は、将来の金利を予測して、相続開始時以前10年間の平均を用いて評価する方法が最も合理的であると認められる。
(C)原処分庁は、定期借地権の設定に際して預託された無利息の保証金に係る弁済期までに享受する経済的利益の額を算定する場合の通常利率が、平成5年以前10年間の長期プライムレートと長期国債の応募者利回りとの平均により年6%とされていることを基準として、平成5年以降相続開始時までに若干の金利の低下傾向がうかがわれるものの年6%を変更するまでに至っていないから通常利率を年6%とすることは相当である旨主張する。
 しかしながら、通常利率を算定するに当たって、金利の低下傾向がうかがわれるにもかかわらず、相続開始時に将来の金利の動向を考慮し改めて評価していないことは相当でなく、相続開始時である平成8年7月以前10年間を対象期間として通常利率を算定するのが相当であると認められる。
C 通常利率について
 上記A及びBより、長期プライムレートと長期国債(10年)の応募者利回りの相続開始月以前10年間の平均利率を算定すると、別表3のとおり5.23%となるが、将来の金利の動向を長期にわたり正確に予測し得ない点を考慮し、また、評価の安全性の観点から端数を切り捨てるのが相当である。
 よって、通常利率は年5%とするのが相当である。
(ハ)経済的利益の額の算出に当たって、通常利率から複利現価率を求めるために必要な年数について、原処分庁は課税時期における本件契約の残存期間を適用し、20年としている。
 しかしながら、この年数は、相続開始の時から弁済期までに享受する経済的利益の額の算出に用いるのであるから、相続開始の時から弁済期までの期間を適用するのが相当である。
 したがって、本件の相続開始日は平成8年7月14日で、本件敷金の返還日、すなわち本件契約期間の満了日は平成29年7月31日であることから、この年数は21年とすべきである。
ホ 以上の結果、本件敷金に係る債務控除額は、本件敷金の元本金額20,000,000円から相続開始の時から弁済期までの期間「21年」に応ずる年5%の利率による複利現価率によって計算される経済的利益の額12,820,000円を控除した7,180,000円となり、請求人らの課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表4の「審判所認定額」欄の金額となる。
 この金額は更正処分に係る金額を下回ることとなるから、更正処分は、その一部を取り消すのが相当である。
(経済的利益の額)
20,000,000円−(20,000,000円×0.359〔相続開始の時から弁済期までの期間「21年」に応ずる年5%の利率による複利現価率〕)=12,820,000円

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(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

イ E
(イ)Eに対する過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分がその一部を取り消されることに伴い、その基礎となる税額は、5,400,000円となり、この税額の計算の基礎となった事実について国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、Eの過少申告加算税の額は、540,000円となる。
(ロ)ところで、更正処分に伴う過少申告加算税及び重加算税の額には誤りが認められ、更正処分により納付すべき税額5,629,300円を基礎とし、過少申告加算税として562,000円の賦課決定処分を行うべきところ、過少申告加算税として577,000円の賦課決定処分を行うとともに、重加算税につき49,000円の減額変更決定処分を行っており、加算税の額としては、結果として528,000円の課税に止まっている。
(ハ)したがって、上記(イ)による過少申告加算税の額は、上記(ロ)による加算税の額を上回っているので、この点に関するEの主張は、棄却するのが相当である。
ロ H及びI
(イ)H及びIに対する過少申告加算税の賦課決定処分については、更正処分がその一部を取り消されることに伴い、その基礎となる税額は減少することとなる。
(ロ)また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
(ハ)したがって、H及びIの過少申告加算税の額は別表4の「審判所認定額」欄の金額となり、この金額は過少申告加算税の賦課決定処分の金額に満たないから、過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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