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(平12.6.27裁決、裁決事例集No.59 332頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)本件は、平成8年1月11日に死亡したE(以下「被相続人」という。)の相続(以下「本件相続」という。)に係る相続税の課税価格の計算上、F(以下「F」という。)に賃貸していたP市R町5丁目500番1所在の土地1,089.64平方メートル(以下「本件土地」という。)のうち、Fが建築所有するバッティングセンターの待合フロアー、スポーツ用品の販売店舗及び倉庫(以下、順次「本件待合フロアー」、「本件店舗」、「本件倉庫」といい、これらを併せて「本件建築物」という。)の敷地部分172.5平方メートル(以下「本件敷地」という。)について、財産評価に関する基本通達(以下「評価通達」という。)9《土地の上に存する権利の評価上の区分》の(5)に定める借地権の価額の控除が認められるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 審査請求人Gほか4名(以下「請求人ら」という。)は、被相続人の共同相続人であり、その審査請求に至る経緯及びその内容は、別表1に記載のとおりである。
 なお、請求人らは、Gを総代として選任し、その旨を平成12年1月14日に届け出た。

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2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)本件敷地については評価通達9の(5)に定める借地権が認められるべきであるから、本件土地の価額は、本件敷地に係る借地権の価額35,958,384円を控除して計算すると、別表2の「請求人主張額」欄に記載のとおり261,215,995円となる。
(ロ)なお、原処分庁は、本件建築物がいずれも収去が容易な工作物であるとし、また、いずれも登記されていないことを理由に本件建築物が建物ではないと認定しているが、本件建築物は誰が見ても通常の建物であり、そもそも登記の有無は、本件敷地の借地権の有無の判定には無関係なことである。
(ハ)以上によれば、請求人らが相続により取得した財産の価額、相続税の課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「請求人主張額」欄に記載のとおりとなる。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は違法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も違法である。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 更正処分について
(イ)本件敷地の借地権について
A 評価通達9の(5)に定める借地権とは、借地借家法第2条《定義》第1号に規定する建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいい、建物以外の工作物の所有を目的とする地上権や賃借権は、同通達にいう借地権には該当しない。
B これを本件についてみると、〔1〕本件待合フロアーはバッティングセンターの一部を構成する構築物であり、〔2〕本件店舗はプレハブ製の簡易な構造物であって、〔3〕本件倉庫は土地の定着物ではなく移転が可能であることから、本件建築物はいずれも収去が容易である簡易な工作物であり、全体としてバッティングセンターの付属構築物等である。
 また、本件土地に係る賃貸借契約(以下「本件賃貸借契約」という。)には、権利金の定めがなく、有利な活用方法があればいつでも解約の申し出ができ、特約条項として無償で返還を受けられる旨を付すなどしていることから、建物所有目的の契約ではなかったと認められ、また、実際に権利金の授受はなく、賃借人であるFも、バッティングセンターに付属する本件建築物を容易に収去できる工作物として建築し、登記をしないままで事業の用に供していたものである。
 さらに、Fは、本件賃貸借契約締結時において、本件土地に係る借地権について贈与税の申告をしていないが、これは借地権設定契約ではないという本件賃貸借契約の性質上当然のことであったと考えられる。
 以上によれば、本件敷地に評価通達に定める借地権はないというほかはない。
(ロ)本件土地の価額について
 本件土地は、バッティングセンター、駐車場及び本件建築物の敷地から構成されており、土地の現況及び利用目的からみて、雑種地として評価するのが相当であるところ、バッティングセンターの支柱を含めたフェンス部分は堅固な構築物であるから、本件敷地は、評価通達87《賃借権の評価》の(1)に定める地上権に準ずる権利として評価することが相当な賃借権の目的となっていると認められる。
 そして、本件敷地につき評価通達82《雑種地の評価》の定めに基づき評価した雑種地の価額(以下「自用地としての価額」という。)を算定すると51,369,120円となる。また、本件敷地上に存する賃借権の価額は、本件相続開始日の平成8年1月11日から本件賃貸借契約が満了する昭和82年1月1日までの残存期間が11年であることから、相続税法第23条《地上権及び永小作権の評価》の規定する残存期間が10年を超え15年以下の地上権の割合である100分の10を上記本件敷地の自用地としての価額に乗じて計算すると5,136,912円となる。
 そうすると、本件敷地の価額は、上記本件敷地の自用地としての価額から本件敷地上に存する賃借権の価額を控除した金額46,232,208円となる。
 以上によれば、本件土地の価額は別表2の「原処分庁主張額」欄に記載のとおり292,037,467円となる。
(ハ)以上の結果を基に計算すると、請求人らが相続により取得した財産の価額、相続税の課税価格及び納付すべき税額は、別表3の「原処分庁主張額」欄に記載のとおりとなり、更正処分はいずれもこの金額と同額でされている。
ロ 過少申告加算税の賦課決定処分について
 以上のとおり、更正処分は適法であるから、過少申告加算税の賦課決定処分も適法である。

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3 判断

(1)更正処分について

イ 本件敷地の借地権について
(イ)原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件土地は、バッティングセンター、駐車場及び本件建築物の敷地として利用され、バッティングセンター及び本件待合フロアーは、本件土地の隣接地(第三者所有)にまたがって建築されている。なお、Fは隣接地においてコンビニエンスストアも経営している。
 バッティングセンターは、周囲に鉄製支柱が12本立てられ、上面及び側面をビニールネットで覆われており、待合フロアー側に打撃席、対面側に投球用機械が設置されている。
 本件待合フロアーは、昭和53年ころに建築された鉄骨波形鋼板葺平家建て(地下1階付倉庫)で、本件土地の隣接地にまたがっている部分も含めた床面積は180.93平方メートル(うち本件敷地上の建物床面積は約66平方メートル)である。
 本件店舗は、鉄骨波形鋼板葺平家建て総床面積71.5平方メートルで、全て本件敷地上に建築され、本件待合フロアーとは障壁を隔てずにつながっており、バッティングセンターの利用客は両建築物を自由に行き来して待合フロアーで休憩したり、店舗で野球用品を購入することができるようになっている。
 また、本件倉庫は、プレハブ式平家建て床面積約35平方メートルであり、全て本件敷地上に建築されている。
 なお、本件建築物のいずれについても登記がされていない。
B Fは、昭和53年ころから被相続人より本件土地を賃借してバッティングセンターを経営していたところ、本件賃貸借契約は昭和62年1月10日更新された。本件賃貸借契約の内容は、要旨次のとおりである。
(A)被相続人は、本件土地をFに対して建築物所有の目的で賃貸し、その賃貸借の期間は、昭和62年1月1日から昭和82年1月1日までの20年間とする。
(B)土地の形状を変更したり、建物を増築、改築又は新築するときは、事前に被相続人の承諾を受けなければならない。
(C)賃貸人が必要とした時は無償で返還を受けることができる。
C 被相続人とFとの間で権利金の授受はなく、また、本件土地について賃借権設定の登記はされていない。
(ロ)ところで、評価通達9の(5)、同通達にいう借地権とは借地借家法第2条第1号に規定する建物の所有を目的とする地上権又は土地の賃借権をいう旨定めているところ、この「建物の所有を目的とする」とは、借地使用の主たる目的がその地上に建物を建築し、これを所有することにある場合をいい、借地人がその地上に建物を建築し所有しようとする場合であっても、それが借地使用の主たる目的ではなく、その従たる目的にすぎないときは、「建物の所有を目的とする」ものに該当しないと解される。
(ハ)以上を本件についてみると、前記事実を総合すれば、賃借人Fは、本件敷地を含む本件土地を昭和53年ころから本件相続開始日まで引き続いてバッティングセンター経営の事業用地として利用し、本件待合フロアー及び本件店舗はバッティングセンターと構造上一体となっており、本件倉庫も含めて本件構築物はいずれもバッティングセンターの経営に必要な付属建築物として建築されたものと認められるから、本件土地の賃貸借の主たる目的は、バッティングセンターとして使用することにあるといえる。そうすると、Fが本件建築物を建築所有していたとしても、それは本件土地をバッティングセンターとして使用するための従たる目的にすぎないというべきであるから、本件土地の賃貸借は、借地借家法第2条第1号に規定する建物の所有を目的とする賃借権に該当せず、したがって、本件敷地には、評価通達9の(5)の定める借地権は存在しない。
 なお、請求人は、本件建築物は誰が見ても通常の建物であり、本件敷地部分には評価通達に定める借地権がある旨主張するが、前記認定事実に照らせば、本件賃貸借契約において、契約当事者が本件建築物の敷地部分のみを切り離して建物所有目的としていたとはいえないから、請求人の主張には理由がない。
ロ 本件土地の価額について
(イ)本件土地の現況地目が雑種地であること及び本件土地の価額を評価通達の定めるところにより評価することについては、請求人及び原処分庁の間に争いはないところ、賃借権の目的となっている雑種地の評価については、評価通達86《貸し付けられている雑種地の評価》の(1)において、原則として、同通達82《雑種地の評価》の定めにより評価した自用地としての価額から、同通達87の定めにより評価したその賃借権の価額を控除した金額によって評価するとした上で、その賃借権の価額が、同通達86に掲げるそれぞれの区分に従い計算した金額を下回る場合には、その雑種地の自用地としての価額から上記区分に従い計算した金額を控除した金額によって評価する旨定めており、当審判所においてもこの評価方法は合理的であると認められる。
(ロ)次に、原処分庁は、本件土地に係る賃借権を上記評価通達に定める地上権に準ずる権利として評価することが相当な賃借権に該当すると認定しているところ、前記イの(イ)に認定した賃借人Fの本件土地の利用状況等にかんがみれば、この区分の認定は当審判所においても相当であると認められる。
(ハ)以上によれば、本件土地の価額は次のとおりとなり、その計算過程は別表2の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなる。
A 本件土地の自用地としての価額
 当審判所の調査によれば、本件土地の奥行距離に応じた奥行価格補正率は0.93が相当であると認められ、その結果、本件土地の雑種地としての1平方メートル当たりの価額は294,624円となる。
 そして、この価額に本件土地の地積を乗じると、本件土地の自用地としての価額は321,034,095円となる。
B 本件土地の賃借権の価額
 本件土地の賃借権は、前記(ロ)のとおり、地上権に準ずる権利として評価することが相当と認められる賃借権と認められ、評価通達86に定めるそれぞれの区分に従い計算した金額は、本件土地に係る賃借権の残存期間(11年)に対する割合(0.15)を本件土地の自用地としての価額に乗じて計算した48,155,114円となる。
 そして、評価通達87の定めにより計算した本件土地の賃借権の価額は32,103,409円となるところ、この価額は、上記評価通達86に定めるそれぞれの区分に従い計算した金額を下回ることとなるから、本件土地の賃借権の価額は48,155,114円となる。
C 本件土地の価額
 本件土地の価額は、前記Aで求めた自用地としての価額321,034,095円から上記Bの賃借権の価額48,155,114円を控除した272,878,981円となる。
ハ 以上の結果、請求人らの相続税の課税価格及び納付すべき税額を計算すると、別表3の「審判所認定額」欄に記載のとおりとなり、これらの金額はいずれも更正処分の額を下回るから、更正処分はその一部を別紙2ないし別紙6のとおり取り消すべきである。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、更正処分がいずれもその一部を取り消されることに伴い、過少申告加算税も、その一部を取り消すこととなる。
 また、過少申告加算税の計算の基礎となった事実には、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、過少申告加算税の賦課決定処分は、その一部を別紙2ないし別紙6のとおり取り消すべきである。
(3)原処分のその他の部分については、請求人らは争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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