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(平12.3.29裁決、裁決事例集No.59 360頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、食料品等の小売業(スーパーマーケット)を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が行った課税標準額に対する消費税額の計算方法について、消費税法施行規則(平成7年大蔵省令第75号による改正前のもの。以下同じ。)第22条《確定申告書の記載事項等》第1項の規定(以下「本件法規定」という。)の適用が認められるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成7年3月21日から平成8年3月20日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の消費税について、確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ F税務署長は、これに対し、原処分庁所属の職員の調査に基づき、平成10年1月27日付で次表の「更正処分等」欄のとおりの更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として平成10年3月26日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年6月23日付で棄却の異議決定をしたので、同年7月23日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、G地区の3店舗(H店、I店及びJ店)を除く店舗における酒類を除く食料品(以下「食料品」という。)の個々の商品について、店頭商品やチラシ広告等に消費税の計算方法を表示しているが、具体的な表示の内容は次のとおりである。
(イ)店頭商品やチラシ広告において、次のように個々の商品ごとに価格表示をしている。

(ロ)店内のポスターやチラシ広告において、次の表示をしている。

ロ 請求人は、消費税の1円未満の端数処理(以下「端数処理」という。)について、食料品については個々の商品の売上品目ごとに、非食料品と酒類(以下「非食料品」という。)については、レシートごとに端数処理を行っており、これらの端数処理後の消費税に相当する額を売上代金の受領時に顧客に交付するレシートに表示し、その消費税に相当する額を課税資産の譲渡等の対価の額と区分して受領している。

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2 主張

(1)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 端数処理について
 本件法規定を適用して消費税額の端数処理を行うためには、〔1〕その端数処理が決済上受領すべき金額を単位として行われること、〔2〕その決済上受領すべき金額を、その課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収すること、及び〔3〕本件法規定を適用して確定申告を行った場合には、一般的な記帳義務による帳簿の記載事項のみによって申告額の正当性を確認することは困難であり、それを確認するためには、一取引ごとの課税資産の譲渡等の対価の額とこれに課されるべき消費税に相当する額が明確にされている資料が管理・保存されていることが必要である。
 これに対し、請求人は、課税資産の譲渡等の対価の額とこれに課されるべき消費税に相当する額をレシート上で区分表示しているが、食料品については端数処理を個々の売上品目ごとに行っているので、上記〔1〕の要件を満たしておらず、また、食料品、非食料品ともに、一取引ごとの課税資産の譲渡等の対価の額とこれに課されるべき消費税に相当する額を示す資料が管理・保存されていないので、上記〔3〕の要件を満たしていない。
ロ 本件法規定の解釈について
 本件法規定の解釈は消費税法施行当時から何ら変わることなく、消費税法基本通達(平成7年12月25日付課消2―25ほかの国税庁長官通達「消費税法基本通達の制定について」をいい、以下「基本通達」という。)15―2―2《決済上受領すべき金額の意義》
は、本件法規定の適用に当たって「決済上受領すべき金額」の意義を念のため通達化したものである。

(2)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 端数処理について
 請求人の平成6年3月21日以降の課税資産の譲渡等に係る消費税に相当する額の表示及び受領並びに端数処理の方法は上記1の(3)のとおりであり、食料品については、消費税法の本質から思慮した本件法規定の解釈に則して、個々の商品単位で端数処理をして単品ごとに積み上げ計算を行っており、非食料品については、原処分庁が消費税法施行当時からの解釈であるという基本通達のとおりに、レジシート(顧客に対して交付するレシートの控えをいう。以下同じ。)単位で端数処理を行っている。
 また、決済上受領すべき金額を課税資産の譲渡等の対価の額とこれにつき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収することについては、上記1の(3)のロのとおりにレシート上に区分して表示の上領収し、これらの事実を示す資料としてレジシートを管理・保存している。
ロ 本件法規定の解釈について
 本件法規定における「決済上受領すべき金額」の解釈は、基本通達15―2―2において初めて公にされ、それ以前の消費税法及び消費税取扱通達のもとでは、何ら明示されていなかった。
 税務当局が、本件法規定の適用に当たっての具体的解釈を有していなかったから、基本通達が発遣されるまでの間、請求人は、消費税法の本質から思慮した解釈に則して、上記イのとおりの端数処理を行っていた。
 すなわち、基本通達が発遣されるまでは、請求人としては法律、政令、規則又は通達といった公的な解釈のよりどころがない以上、税務当局の解釈に沿った形で申告を行うことは不可能であった。
 また、基本通達は、通達に明示されているとおり平成8年4月1日以降適用とされており、本件課税期間については適用する余地はない。
 したがって、原処分は、納税者にとって税務申告に当たっての法的安全性及び予測可能性を侵害するものであり、法治国家である日本において到底許されるものではない。

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3 判断

(1)更正処分について

 請求人が行った消費税額の端数処理について、本件法規定の適用があるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 答述及び認定事実
(イ)請求人の代表取締役であるPは、当審判所に対し、レジシートは各店で保管しているが、税務調査は本社の対応であったので、少なくとも本社ビルのディスカウントセンター「KスーパーL店」(以下「L店」という。)の一取引ごとの内訳明細の記録であるレジシートの提示は可能であった旨の答述をしている。
(ロ)原処分庁所属の調査担当職員及び異議審理庁所属の調査担当職員は、当審判所に対し、本件課税期間とその前課税期間の消費税の端数処理システムには変更がない旨の請求人の申出があったので、本件課税期間においても本件法規定の適用がないものと判断し、一取引ごとの内訳明細を示す帳簿書類の確認を行わなかった旨、及び請求人から、現在、本件課税期間の前課税期間についての食料品及び非食料品の課税売上額とそれに係る消費税額の区分集計を行っている旨の申出があったので、本件課税期間に係る資料の提示は特に求めなかった旨の答述をしている。
(ハ)当審判所が、請求人のL店にて、レジシートの管理・保存の状況を確認したところ、次のとおりであった。
A L店の地下一階の倉庫には、レジスターの番号ごとに束ねられた本件課税期間を含む期間のレジシートが、営業日別に整理された上で保管されており、一取引ごとの内訳明細が印字されていた。
B 特定の日付のレジシートを抽出して、一取引ごとの内訳明細の金額を集計した上で、レジ日報(各レジスターごとに1日分の食料品・非食料品の譲渡等の対価の額及びそれに課されるべき消費税に相当する額を各項日ごとに合計したもの。)の金額と照合した結果、両者は一致しており、このレジ日報を基にして振替伝票を作成し元帳に記載していることが認められた。
(ニ)以上の答述及び当審判所の調査の結果からすると、請求人が、原処分庁の調査時及び異議審理庁の調査時に、一取引ごとの内訳明細を示す帳簿を提示した事実は認められないものの、それは、提示を求められなかったからであり、請求人は、一取引ごとの内訳明細を示す帳簿を管理・保存しており、これを提示できる状態にあったものと認めるのが相当である。
ロ 課税標準額に対する消費税額の計算について
(イ)消費税の確定申告書に記載すべき課税標準額及び当該課税標準額に対する消費税額について、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》第1項は、事業者が、その課税期間中に国内において行った課税資産の譲渡等(同法その他の法律又は条約の規定により消費税が免除されるものを除く。)に係る同法第28条課税標準に規定する課税標準である金額の合計額を課税標準額という旨、及び当該課税標準額に同法第29条《税率》の規定による税率を乗じて算出された金額を課税標準額に対する消費税額という旨規定している。
(ロ)また、消費税法施行規則第22条第1項は、事業者が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を当該課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収する場合において、当該消費税に相当する金額の1円未満の端数を処理したときは、当該端数を処理した後の消費税に相当する額を基礎として、課税標準額に対する消費税額の計算を行うことができる旨規定している。
(ハ)そうすると、課税標準額に対する消費税額は、消費税法第45条の規定に基づいて計算するのが原則であるが、同条の特例として、一定の要件に該当する場合には、同法施行規則第22条に規定する計算の方法によることを認めているものと解するのが相当である。
 そして、本件法規定を適用して課税標準額に対する消費税額を計算する場合には、〔1〕当該消費税額の端数処理が、課税資産の譲渡等に係る決済上受領すべき金額を単位として行われ、かつ、〔2〕決済上受領すべき金額を、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収することが要件となる。
 ここで、「決済上受領すべき金額」とは、課税資産の譲渡等の取引において、当該取引の履行を完成させるという対価の授受が行われる場合に受領すべき金額であると解され、社会通念上一回と評価される取引行為の対価の支払は一つの決済として扱われているのであるから、当該取引が複数の商品を対象としていても、複数の商品を顧客に対して一括して引渡し、複数の商品の代金を顧客から一括して受領する場合には、その受領するときに顧客に交付する領収書(レシート)ごとの金額であると解するのが相当である。
 また、「区分して領収する」とは、領収する側において、課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分していることが明らかであることはもちろんのこと、代金を支払う側に対して、それが区分して領収されていることが容易に判断できる請求書や領収書(レシート)等が交付される必要があるものと解するのが相当である。
(ニ)ところで、決済上受領すべき金額を課税資産の譲渡等の対価の額と当該課税資産の譲渡等につき課されるべき消費税に相当する額とに区分して領収することが、本件法規定の適用要件であることからすれば、「決済上受領すべき金額を区分して領収」した事実が帳簿に記録され、税務調査がなされる際には、その帳簿が提示され、税務職員において当該事実を閲覧・検査し得る状態におくべきことが必要であることから、それらの事実を記録した帳簿すなわち一取引ごとの課税資産の譲渡等の対価の額とこれに課されるべき消費税に相当する額を示す資料は、当然のこととして消費税法第58条《帳簿の備付け等》に規定する記録し保存しなければならない帳簿に含まれると解するのが相当である。
ハ 請求人の端数処理について
 請求人が本件課税期間において行った端数処理の方法及びこれに係る書類の保存等については上記1の(3)及び上記イの(ニ)のとおりであり、これを上記ロに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)食料品については、個々の商品の売上品目ごとの金額をとらえて端数処理を行っているが、本件法規定でいう「決済上受領すべき金額」とは、上記ロの(ハ)のとおり、複数の商品を顧客に対して一括して引渡し、複数の商品の代金を顧客から一括して受領する場合には、その受領する時に顧客に交付する領収書(レシート)ごとの金額をいうものと解するのが相当であるから、請求人の食料品についての端数処理の方法は、本件法規定に合致するものとは認められない。
(ロ)一方、非食料品については、レシート上に記載された金額の合計額をとらえて端数処理を行っており、レシート上に課税資産の譲渡等の対価の額とこれに課されるべき消費税に相当する額とを区分して表示し、これを顧客に交付していることが認められ、また、これらの事実を記録したレジシート及びレジ日報を管理・保存していることが認められるから、請求人の非食料品についての端数処理の方法は、本件法規定に合致するものと認められる。
ニ 請求人の主張について
 請求人は、本件法規定の「決済上受領すべき金額」の解釈について、上記2の(2)のロのとおり主張するが、この規定の解釈については上記ロの(ハ)のとおり、複数の商品を顧客に対して一括して引渡し、複数の商品の代金を顧客から一括して受領する場合には、その受領する時に顧客に交付する領収書(レシート)ごとの金額をいうものと解するのが相当であるから、この解釈については、基本通達の発遣を待つまでもないことであり、基本通達15―2―2はこの解釈を念のため明らかにしたものにすぎないと認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 更正処分の適法性について
 以上のとおり、本件課税期間のG地区の3店舗を除く店舗における消費税の端数処理のうち、食料品の売上げについては、本件法規定の要件を満たしていないことから、本件法規定の適用は認められないが、非食料品の売上げについては、本件法規定の要件を満たしているので、本件法規定の適用を認めるのが相当である。
 そこで、本件課税期間の消費税の課税標準額等を計算すると、課税標準額が47,550,999,000円、納付すべき税額が183,068,500円となり、これらの金額は更正処分の額を下回るから、更正処分はその一部を取り消すべきである。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のホのとおり、更正処分の一部が取り消されることに伴い、過少申告加算税の計算の基礎となる税額は102,910,000円となる。
 また、この税額の計算の基礎となった事実については、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められない。
 したがって、請求人の過少申告加算税の額は11,428,500円となり、賦課決定処分の金額に満たないから、過少申告加算税の賦課決定処分はその一部を取り消すべきである。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする事由は認められない。

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