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(平12.2.29裁決、裁決事例集No.59 372頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

 審査請求人(以下「請求人」という。)の、平成7年9月1日から平成8年8月31日までの課税期間(以下「平成8年課税期間」という。)の消費税並びに平成8年9月1日から平成9年8月31日までの課税期間(以下「平成9年課税期間」という。)の消費税及び地方消費税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)並びに過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)及び平成8年7月から平成10年1月までの各月分の給与所得の源泉徴収に係る所得税(以下「源泉所得税」という。)の各納税告知処分(以下「本件納税告知処分」という。)並びに不納付加算税の各賦課決定処分についての審査請求(平成10年11月19日)に至る経緯及びその内容は、別表1―1及び1―2のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、その一部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 請求人が、マッサージ師に支払った外注費(以下「本件外注費」という。)は、所得税法第28条《給与所得》第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供ではないから、消費税法第2条《定義》第1項第12号に規定する課税仕入れに該当し、同法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定により仕入税額控除されるべきである。
(イ)平成8年5月13日付で請求人の取締役を辞任したF(以下「F」という。)は、マッサージ師6人程度との間で、マッサージ業の開始に当たっての基本合意と題する書面(以下「基本合意書」という。)の記載内容のとおりマッサージ業務内容とその運営方法について確認し、請求人は、マッサージ師らの要望として、Fから、マッサージ師の能力の確認と地位身分の確立、マッサージ業務の営業主体はマッサージ師等に委ね、請求人はマッサージ施術所施設を提供し、両者の利益最大化のためにのみ協力することにつき承認を求められたので、平成8年5月14日、臨時株主総会を開催してこれらを承認するとともに、Fに対しては、施設利用料相当額の確保、施設設備の安全管理及び経理事務を当分の間、無報酬で委託し、当該業務費用については請求人が負担する旨を決議した。
(ロ)請求人は、マッサージ施術所施設の提供に関し、代表者をFとし、Gマッサージと称するマッサージ師の団体(以下「Gマッサージ」という。)との間で、口頭で賃貸借契約を交わし、施設利用料をマッサージ業界の相場である売上の30パーセント相当額とし、マッサージ師らの取り分を70パーセント相当額とし、施設利用料の中から、マッサージ業務の売上増進のため、マッサージ師らの制服及び広告宣伝用のチラシに係る費用を負担する旨約した。
 なお、Fとマッサージ師を当事者とする業務委託契約書と題する書面(以下、「本件契約書」といい、この契約を「本件契約」という。)の実質は、後述のとおり、マッサージ師の自覚と責任を明確にするための内部規定であるが、当事者間の業務委託関係を否定するものではなく、本件契約書に基づき、マッサージ師の業務委託料は、マッサージ師らの総意による内部取決めとして、累積差額を皆勤・特別等の諸手当に割り振り、売上げの70パーセント相当額となるように定められている。
 原処分庁は、Fが、月末締めの給与支払明細書の記載に当たり、特別手当を全員一律20,000円とするようにマッサージ師に言われたのでそのとおり記載したと答述しながら、実際には一律に支給されていないことを理由に、特別手当は請求人の判断で支給されていると主張するが、手当の支給については、上記のとおり、マッサージ師の合意で決定されるものであり、請求人及びFが関与、判断しているものではない。
(ハ)マッサージ業務に係る日々の現金収入の保管及び管理については、不祥事防止の観点から一番安全で、安心できる請求人の口座で管理することが最善との相互認識に基づき決定されたものである。また、請求人の収入に総額を受け入れ、売上高と経理処理することが、請求人とマッサージ師にとって明確で分かりやすいとの考えから、マッサージ師の取り分としての預り金の支払を外注費勘定で処理せざるを得なくなったものであるが、これは、双方の取り分には影響しないとの判断によるものである。
(ニ)マッサージ師がマッサージ業務に関して営業主体としての地位と身分を保有している独立人であることは、基本合意書の内容から明らかであり、また、本件契約書は、業務委託契約書作成協議の具体的内容と題する書面(以下「協議過程書」という。)の記載のとおり、マッサージ業務が円滑に行われることを期待し、自覚と責任を明確にするための内部規定として、マッサージ師らの総意によって作成されたもので、便宜上、契約当事者に店(Gマッサージ)の代表者としてFを表記したものであり、マッサージ師がFに対して、請求人との業務上の仲介を依頼しているものであって、マッサージ師が、直接、請求人と契約したものではない。
(ホ)以上のとおり、請求人は、マッサージ業務に介入及び干渉できる余地を持たず、営業主体とはなり得ない。また、Fは、請求人の株主及び使用人としての地位にない第三者であり、Fは、自分がマッサージ業務の開設届を行っていることから、原処分庁に対し、請求人の実質経営者であると回答したものであって、請求人とFは同一人格ではない。さらに、マッサージ師は、顧客に対する事故の責任を負い、マッサージ業務に関する宣伝企画等に参画していることから、判例における事業所得の判断基準である自己の危険と計算において独立して営まれる場合に該当するので、マッサージ師らの受領する報酬料金は、所得税法第27条《事業所得》及び同法施行令第63条《事業の範囲》第11号若しくは第12号の規定に該当する。
 したがって、請求人とマッサージ師らは互いに独立した営業主体であって、それぞれの営業目的を遂行していることから、両者の間には雇用及び監督関係はない。
 なお、本件外注費のうち、雑役担当として採用したJ(以下「J」という。)に対する支払は、給料及び賞与に該当し、仕入税額控除の対象とならないことについては争わない。
ロ 本件納税告知処分について
 上記イのとおり、本件外注費は給与ではないから、所得税法第183条《源泉徴収義務》第1項に規定する給与等に係る所得税を徴収する義務(以下、この規定を「源泉徴収義務」という。)を負わない。なお、Jに対する支払について、源泉徴収義務を負うことについては争わない。
ハ 本件賦課決定処分及び不納付加算税の各賦課決定処分について
 原処分は、上記イ、ロのとおり違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い本件賦課決定処分及び不納付加算税の各賦課決定処分についてもその一部を取り消すべきである。

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(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 本件更正処分について
 請求人は、マッサージ業を経営し、本件契約は、請求人を代表するFとマッサージ師らとの契約であり、両者間には雇用関係があるから、本件外注費は所得税法第28条第1項に規定する給与所得に該当し、消費税法第2条第1項第12号に規定する課税仕入れに該当しないから、同法第30条の規定による仕入税額控除をすることはできない。
(イ)消費税法第2条第1項第12号は、所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を課税仕入れの範囲から除く旨規定しており、所得税法上の給与所得とは、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の対価として使用者から受ける給付であると解される。
(ロ)請求人の商業登記簿謄本及び総勘定元帳によれば、事業目的を指圧、マッサージ施術所の経営としており、また、マッサージ業務に係る顧客からの収入を売上金額とし、マッサージ師への支払金額を外注費として計上しているから、請求人が認識する売上とは、マッサージ業務に係るものと認められ、施術所施設の施設利用料相当額のみを目的とする賃貸業務に係るものとは認められない。
 また、マッサージ業務に係る総収入金額のうち、マッサージ師の取り分70パーセント相当額と本件契約書の記載に基づく業務委託料との差額はマッサージ師らの皆勤及び特別手当等に充てられているが、これは、請求人の計算に基づいていると認められること、制服及びチラシに係る費用等も請求人の負担となっていることからすると、請求人がマッサージ業を経営していることは明らかである。
 Fは、給与支払明細書の記載に当たり、マッサージ師らの特別手当を月末締めで一律に20,000円とするようにマッサージ師に言われ、そのとおり記載している旨答述したが、実際には支給されていない者や15日締めに計上されている者があることから、請求人の判断で支給されていると認められる。
 さらに、Fは、請求人がマッサージ業務を開始した当時の請求人の代表取締役であり、取締役辞任後の原処分に係る調査及び異議審理に係る調査の際も同人が立会いをし、取締役辞任後も請求人の実質的経営者である旨答述した。
 したがって、Gマッサージは法的根拠のない看板・チラシに表示される屋号に過ぎず、Fがその代表者であることからすれば、同人と請求人とは実質的に同一人格であると認められる。
(ハ)基本合意書及び協議過程書は、審査請求時に提出されたFの陳述を記載したものであり、会議に出席したマッサージ師らの氏名等の記載もないから、実際にかかる合意がされたかについては信ぴょう性がない。
(ニ)請求人が主張するとおり、本件契約書が内部規定であるならば、Fとマッサージ師らとを当事者とする契約書の形式を取る必要性は認められず、単に団体としての規約を制定、文書化し、新規参入者に当該文書を交付すれば十分であり、上記事実と総合すれば、本件契約は請求人と各マッサージ師との契約ということができる。
 このように、請求人とマッサージ師との契約は個々に交わされており、他人の代替を容れないこと、本件契約書には、〔1〕マッサージ師らは請求人の指示に従い、請求人のサービス向上を目的とした業務を誠実かつ健全に遂行しなければならない、〔2〕請求人は、マッサージ師が請求人の営業方針及び業務規則に従わない場合、契約を即時に解除することができる、〔3〕マッサージ業務における事故の責任は、すべて請求人が負う、〔4〕マッサージ師は、請求人により業務時間を定められる、〔5〕マッサージ業務は請求人の施設及び設備機器を使用して行い、マッサージ師は制服の貸与を受ける旨記載されていること、また、マッサージ師が業務遂行している実際の状況からすれば、請求人とマッサージ師との間には雇用関係があると認められる。
(ホ)上記のとおり、請求人とマッサージ師間には雇用関係があり、本件外注費は、請求人の指揮命令に服して提供した労務の対価である給与に該当するから、仕入税額控除をすることはできない。
ロ 本件納税告知処分について
 上記イのとおり、本件外注費は給与に該当するから、請求人は、マッサージ師への支払に際し、源泉徴収義務を負うものである。
ハ 本件賦課決定処分及び不納付加算税の各賦課決定処分について
 本件更正処分及び本件納税告知処分は、上記イ、ロのとおり適法であり、また、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項及び同法第67条《不納付加算税》第1項のただし書きに規定する正当な理由があると認められないから、同法第65条第1項並びに第2項及び同法第67条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分及び不納付加算税の各賦課決定処分は適法である。

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3 判断

 本件の争点は、本件外注費がマッサージ師の給与所得に該当するか否かにあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、平成8年5月14日付でマッサージの施術所の経営を事業目的に追加するとともに、Fの代表取締役退任の登記をした。
(ロ)請求人は、原処分庁に提出した平成8年9月18日付の法人源泉徴収義務者の異動等届出書の事業目的欄には、指圧・マッサージの施術所の経営と記載し、また、平成9年10月22日に提出した平成8年9月1日から平成9年8月31日までの事業年度の法人税の確定申告書の事業目的欄には、マッサージ施術所経営及び広告宣伝業務と記載したが、原処分以後である平成10年7月21日付の法人源泉徴収義務者の異動等届出書の事業目的欄には、マッサージ施術所賃貸業及び広告宣伝業務と記載した。
(ハ)本件契約書には、甲をGマッサージ代表者Fとし、乙をマッサージ師個人として署名、押印がなされている上、要旨次のとおり記載されている。
A 甲は乙に対して、甲の顧客に対するマッサージ業務を委託し、乙はこれを実施する。乙は甲の指示に従い、甲のサービス向上を目的とした業務を誠実かつ健全に遂行する。
B 営業時間は平日午前10時より午後8時、日曜祝日は休業とし、変更については、甲乙協議する。
C 業務委託料は、マッサージの技術、経験を基に、15分又は30分のクイックマッサージコース及び20分又は60分のベッドマッサージコースの4コースの施術内容別に定める。なお、支払は、15日締めの当月未払い及び月末締めの翌月15日払いの月2回とする。
D 甲は、乙が甲の営業方針及び業務規則に従わない場合、本契約を即時解除することができる。乙が契約解除をする場合は、2週間前に甲に通告し、これに反する時は、ペナルティーとして、業務委託料の2割を差し引くものとする。
E 甲は、マッサージ業務における一切の顧客からのクレーム、トラブル及びそれらに関する一切の損害賠償責任に関して責任を負う。
F 業務時間は、早出、遅出出勤を隔日とし、早出出勤は午前9時30分に入店、清掃を行い、午後6時に業務を終了する。遅出出勤は午前12時までに入店し、午後8時に業務終了とするが、業務終了時間直前の顧客に対しては、その業務終了までとし、閉店間際の店内の後始末は全員で行う。服装は、ポロシャツを制服として店より貸与するが、ズボン、サンダルは各自で用意し、常に清潔を保つこと。食事休憩は、随時、手の空いた時間に取り、原則として、業務中の外出を禁じる。
(ニ)平成8年5月14日付の請求人の臨時株主総会議事録には、マッサージ業務の営業主体をマッサージ師個々人に委ね、請求人は、施設提供者としてマッサージ業務に関与せず、両者の利益最大化のためにのみ協力し、Fに施設貸与料相当額の確保、施設設備の安全管理及び経理事務等を委託するが、Fの報酬については、営業不振のため当分の間無報酬とし、委託業務遂行に付帯する適正なる費用については請求人が支出する旨記載されている。
(ホ)平成9年8月の上・下期のマッサージ師各人に対する給与支払明細書には、マッサージ師名、コース別の時間、顧客数及び出来高金額に皆勤、特別手当等を加算した支給額、また、Jに係る平成9年8月分の給与支払明細書(控)には、時間給により計算された支給金額がそれぞれ記載されている。
 また、Gマッサージあての支払証明書には、マッサージ師各人に対する支給金額、計算期間及び年月日等の内容が記載されており、マッサージ師各人が受領した旨を証明者として署名、押印し、領収書兼用として請求人に提出している。
(ヘ)請求人は、平成11年2月23日に当審判所に対し、次のとおり答述した。
A 施術所の数及びマッサージ師の人員は、現在5店舗、22名であり、その内マッサージ師の免許を有している者は3名のみである。
 各店舗の請求人所有の主な設備は、ベッド3台、マッサージ用椅子4台、レジスター1台がある。また、各店舗には、マッサージ師4名が常駐しているが、責任者は特に決めておらず、一般事務をする使用人は配置していない。営業内容は、本件契約書記載のとおりであり出張業務はない。
B マッサージの施術は、来店した顧客が受付票に氏名及び希望するコースを記載し、これに基づき、シフト表により、コース別の時間を調整し、マッサージ師が順番制により割り振り、施術終了後に料金を受領し、受領額をレジスターに打ち込んでいる。
 そして、Fがこのシフト表及びレジペーパーに基づき、売上日報及び総勘定元帳を作成している。
C マッサージ師の業務実績は、受付票のトレーナー控え部分を各人が受領し、業務委託料受領の際、内容を確認の上、Gマッサージが作成した支払証明書にサインしてFに提出している。なお、休暇等で業務に従事しないマッサージ師に対して、請求人が収入保証することはなく、請求人に施設利用料も入らない制度となっている。
D マッサージ業務は営利を目的としない業務であるから、法人名義では、マッサージ業務に係る開業等の受付、受理はしていないとの回答を保健所から得た。そこで、上記(ニ)の臨時株主総会議事録に記載のとおりFにマッサージ業務を委託して、開設者を同人名義、名称をFあん摩マッサージ院等として、P市のQ保健所に平成7年8月ごろ開設届を提出した。
(ト)P市Q保健所のあん摩マッサージ指圧師施術所台帳には、平成7年8月31日に開設日を同月21日として、開設場所をP市Q町2番17号、名称をFあん摩マッサージ院、開設者の住所をR市S町2丁目4番19号、Fとして、あん摩マッサージ指圧業を行う旨の届出があった旨記載されており、同保健所の担当者は、原処分庁の異議審理担当者に対し、あん摩マッサージ指圧業は、あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師等に関する法律(以下「マッサージ業法」という。)に基づく届出を要し、法人の場合は医療法人であれば届出は受理するが、営利法人の場合は受理しない旨申述した。
ロ ところで、消費税法第30条第1項に規定する課税仕入れにつき、同法第2条第1項第12号は、事業者が事業として他の者から資産を譲り受け、若しくは借り受け、又は役務の提供(所得税法第28条第1項に規定する給与等を対価とする役務の提供を除く。)を受けることをいう旨規定している。
 また、一般に、所得税法第27条第1項等にいう事業所得とは、自己の危険と計算において独立して営まれ、営利性、有償性を有し、かつ反復継続して遂行する意思と社会的地位とが客観的に認められる業務から生ずる所得をいい、他方、同法第28条第1項にいう給与所得とは、給料、賃金、賞与等その名目のいかんにかかわらず、雇用契約又はこれに類する原因に基づき使用者の指揮命令に服して提供した労務の提供の対価として使用者から支給されるものをいうと解される。
 さらに、給与所得の認定については、給与の受給者が、支払者から何らかの空間的、時間的な拘束を受け、継続的ないし断続的に労務又は役務の提供をし、その対価として支給されるものであるかどうかを、一般社会通念に従って判断すべきであると解される。
ハ 前記イの事実を上記ロに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)前記認定事実によれば、請求人は、〔1〕マッサージ業務を営業目的として定款に追加し、その後、原処分を受けるまでの間に原処分庁へ提出した文書等には、マッサージ業務を経営している旨の記載をしていること、〔2〕請求人が賃借する店舗を営業場所とし、マッサージ業務に係る設備備品は請求人が所有していること、〔3〕マッサージ業務に係る日々の現金売上は請求人の口座で管理し、総額を請求人の収入としていること、〔4〕マッサージ業務に必要な費用は請求人が負担し、請求人が本件外注費を支払い、かつ、その他の業務費用と併せて確定決算において総額で計上していることなどの事実が認められるから、マッサージ業務から生ずる収益を実際に享受しているのは、請求人であると認められる。
 この点に関し、請求人はマッサージ業を経営しておらず、請求人とは何ら関係を有しない第三者の立場にあるFに対して、施設を賃貸しているのみである旨主張するが、この賃貸借契約に係る契約日、目的物、返還時期、賃料等の内容については、何ら具体的な主張、立証をしない。また、請求人は他方で本件外注費を課税仕入れとして控除すべき旨主張しているが、これは、マッサージ業務に係る売上も請求人が消費税法上の事業として役務の提供を行ったと主張していることにほかならず、マッサージ施術所の賃貸業務だけであるとする前記主張と明らかに矛盾する。さらに、当審判所の調査によれば、Fは請求人の取締役を辞任した後もK社会長という肩書を記載した名刺を用いて原処分庁の調査に立ち会い、請求人の実質的経営者である旨申述していることが認められ、このことも、請求人の前記主張とは相容れない。
 以上によれば、請求人のFに委託して施設を賃貸しただけであるとの主張は採用することはできない。
 そして、請求人は、マッサージ業務を営業目的に追加したが、法人名義では保健所で開設届出が受理されないので、この目的追加は有名無実であると主張、答述するものの、他方で、この業務目的を達成するためにFに業務委託をした旨主張していること及び前記イの(ト)のとおり、あん摩マッサージ指圧業は法人の場合、医療法人でなければ届出は受理されず、Fは平成7年8月21日を開設日として同月31日に開設届を行っていることからすれば、マッサージ業務を行おうとした請求人が医療法人でないため、請求名義では保健所に対し、マッサージ業法上の施術所の開設届を出すことができなかったことから、既に、個人名で開設届をしていたFのマッサージ業の名義を利用するため、前記イの(ニ)の臨時株主総会においてFに対する業務委託という形式を整えたにすぎないものと推認される。
 以上を総合すると、実質的には、請求人がマッサージ業務を行っているものと認められる。
(ロ)請求人が支払った本件外注費が、マッサージ師の給与所得になるか事業所得になるかについて、以下検討する。
A 前記イの(ハ)の事実によれば、マッサージ師各人は、採用の際、本件契約書に署名、
押印し、個々に契約を交わしていること、同人らは、請求人の施術所施設において、マッサージ業務を行うに当たり、本件契約書の記載内容に従っていることが認められる。他方、各マッサージ師との間で業務委託関係があること自体は請求人も否定していない。そこで、この各マッサージ師と契約を締結した当事者が誰であるかについてみるに、前記認定したところによれば、本件契約書に当事者として表記されている「Gマッサージ」は請求人の屋号であること、また、Fは、請求人の実質的な代表者又は代理人として行動していることが認められるところ、これらの事実に請求人がマッサージ業務の営業主体であるとの上記認定を併せ考えると、マッサージ師各人と本件契約書を取り交わして契約を締結したのは請求人であると推認するのが相当である。
 この点に関して、請求人は、本件契約書はマッサージ師の団体の内部規定である旨主張するが、本件契約書の記載の形式によれば、これをかかる団体の内部規定と解するのは不合理であり、また、一件記録を精査してもかかる団体の存在を認めるに足りる客観的証拠はない。
B 以上に加えて、前記イの(ハ)の各事実を総合すれば、マッサージ業務を遂行するに当たっては、営業時間、施術種目(コース)及び施術料金、出退勤時間等を含めた業務時間、服装、休憩及び業務上の心得等の業務規則が定められ、営業方針・業務規則に従わない場合には請求人に契約解除権が認められており、マッサージ師各人は、この定めに服して、請求人の賃借する施術所内において、請求人所有の設備備品を使用し、業務に従事していること、また、出張業務はなく、マッサージ業務の遂行場所は請求人の賃借する施術所に限定されていること、顧客が支払う施術代金は、請求人に入金され、請求人が支配管理し、その後、請求人が各マッサージ師に対し、本件外注費を支払っていることが認められる。
 そうすると、マッサージ師は、請求人の指揮監督ないし組織の支配に服して、場所的、時間的な拘束を受けて継続的に労務を提供し、マッサージ業務に当たり独自に費用を負担していないものと認められるから、請求人とマッサージ師は雇用関係があるということができる。なお、本件では、いわゆる出来高払制に基づいて請求人が報酬を支払っていると認められるが、かかる報酬支払形態であっても、使用者の指揮命令によって労務を給付する以上、雇用関係があるというに妨げない。
 この点について、請求人は、マッサージ師は自己の危険と計算において独立して営んでいるから事業者に該当する旨主張するが、顧客に対する事故の責任負担については、前記イの(ハ)の本件契約書の記載によれば、請求人が負うものと認められ、また、マッサージ師が請求人の施術所におけるマッサージ業務の宣伝企画に参画しているとしても、このことのみをもって、独立した事業者であるということはできない。さらに、請求人の答述によれば、施術所に在籍しているマッサージ師22名のうち、正規の資格があるのは僅か3名のみであり、大半が無資格のマッサージ師であると認められ、そのような者が事故における責任を負担して独立してマッサージ業を営んでいると解することは不合理である。
 以上によれば、マッサージ師が自己の危険と計算において独立して営んでいるとはいえない。
 なお、請求人は、基本合意書及び協議過程書を根拠として、マッサージ師6名と基本合意をし、マッサージ師の団体が営業主体となることを確認して、その旨を平成8年5月14日の請求人の臨時株主総会で確認した旨主張し、両文書は、マッサージ師6名の記憶に基づき、Fが平成10年11月29日に作成したものである旨答述するが、原処分関係資料によれば、請求人主張の6名のうち、Lは平成10年1月16日から請求人の施術所でマッサージ業務に従事している者であることが認められ、また、6名のマッサージ師が平成8年5月当時、在籍していたことを裏付ける客観的な資料もないから、両文書を直ちに信用することはできない。
(ニ)したがって、本件外注費は、請求人におけるマッサージ師に対する給与と認められ、消費税法第2条第1項第12号のかっこ書きに規定する給与等を対価とする役務の提供によるものに該当するから、仕入税額控除の対象にならないとして行った本件更正処分は適法である。

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(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)本件納税告知処分について

 本件外注費の支払につき、請求人の源泉徴収義務の存否について、以下審理する。
イ 原処分庁提出資料及び当審判所の調査によれば、マッサージ師及びJは、所得税法第194条《給与所得者の扶養控除等申告書》に規定する給与所得者の扶養控除等申告書(以下「扶養控除等申告書」という。)を支払者である請求人に提出していない。また、前記(1)のイの(ホ)の各資料及びこれらの資料により原処分庁が作成し、欄外に請求人がマッサージ師の住所を記載したとする集計表(以下「集計表」という。)に基づく各月の給与支給額は、別表2の「審判所認定額」欄のとおりである。
ロ ところで、所得税法第183条第1項は、居住者に対し国内において同法第28条第1項に規定する給与等の支払をする者は、その支払の際、その給与等について所得税を徴収し、その徴収の日の属する月の翌月10日までに、これを国に納付しなければならない旨規定し、通則法第36条《納税の告知》第1項は、税務署長は、源泉徴収による国税でその法定納期限までに納付されなかった国税を徴収しようとするときは、納税の告知をしなければならない旨規定している。
 また、扶養控除等申告書を提出していない居住者に対し、賞与以外の給与等を支払う際の徴収すべき所得税の額は、所得税法第185条《賞与以外の給与等に係る徴収税額》第1項第2号のイ及びロにおいて、給与等の支給期が毎月と定められている場合は、その給与等の額について同法別表第二《給与所得の源泉徴収税額表(月額表)》(以下「月額表」という。)の乙欄に掲げる税額とし、給与等の支給期が毎半月と定められている場合は、その給与等の金額の2倍に相当する金額について月額表の乙欄に掲げる税額の2分の1に相当する税額とする旨規定されている。
 さらに、扶養控除等申告書を提出していない居住者に対し、賞与を支払う際の徴収すべき所得税の額は、所得税法第186条《賞与に係る徴収税額》第1項第2号のイにおいて、その賞与の支払者がその支払を受ける居住者に対し前月中に支払った又は支払うべき通常の給与等がある場合は、当該給与等の金額に応じて同法別表第四《賞与に対する源泉徴収税額の算出率の表》(以下、月額表と併せて「月額表等」という。)の乙欄により求めた率をその賞与の金額に乗じて計算した金額に相当する金額とする旨規定されている。
ハ これを本件についてみると、前記(1)のハのとおり、本件外注費は所得税法第28条に規定する給与所得と認められるから、請求人は、Jに対する支給分と併せてマッサージ師に本件外注費を支払う際に、所得税を徴収し納付する義務があると認められる。
 そして、本件契約書、前記(1)のイの(ホ)の各資料及び集計表の記載内容に基づき、扶養控除等申告書の提出がないマッサージ師及びJについて、月額表等の乙欄を適用して源泉徴収すべき税額を計算すると、別表2の「審判所認定額」欄の記載のとおりとなるところ、同欄記載の源泉所得税額のうち、平成8年7月から平成9年1月まで、平成9年3月から平成9年5月まで、平成9年7月から平成9年10月まで、平成9年12月及び平成10年1月の各月分についてはいずれも本件納税告知処分の額を上回るから、この範囲内でされた本件納税告知処分は適法である。
 これに対し、平成9年2月、平成9年6月及び平成9年11月の各月分の源泉徴収すべき税額は、本件納税告知処分の額を下回ることとなるので、別紙「取消額等計算書」のとおり、本件納税告知処分はいずれもその一部を取り消すべきである。

(4)不納付加算税の各賦課決定処分について

イ 平成8年7月から平成9年1月まで、平成9年3月から平成9年10月まで、平成9年12月及び平成10年1月の各月分の本件納税告知処分は上記(3)のハのとおり適法であり、また、本件納税告知処分による源泉徴収すべき税額を納付しなかったことについて、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められないから、同項本文の規定に基づいてされた不納付加算税の各賦課決定処分は適法である。
ロ 平成9年2月及び平成9年11月の各月分の不納付加算税の賦課決定処分については、上記(3)のハのとおり本件納税告知処分がその一部を取り消されることに伴い、その一部を取り消すこととなる。
 しかし、請求人が、本件納税告知処分に係る源泉徴収すべき税額のうち上記(3)のハにより取り消される税額以外の税額を法定納期限までに納付しなかったことについては、通則法第67条第1項ただし書に規定する正当な理由があるとは認められない。
 そうすると、平成9年2月及び平成9年11月の各月分の不納付加算税の賦課決定処分は、別紙「取消額等計算書」のとおり、いずれもその一部を取り消すべきである。
(5)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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