ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.59 >> (平12.5.9裁決、裁決事例集No.59 391頁)

(平12.5.9裁決、裁決事例集No.59 391頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、登録免許税の納付額に不足はないとして、国税通則法(以下「通則法」という。)第36条《納税の告知》第1項第4号の規定に基づく納税告知処分及び当該登録免許税に係る延滞税の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

イ 請求人は、P市Q町一丁目5番8の宅地2,031.54平方メートル(以下「本件土地」という。)について、登記の目的を地上権移転(以下、この移転に係る地上権を「本件地上権」という。)、原因を同日売買、権利者を請求人、義務者を株式会社F、課税標準の金額を613,924,000円、登録免許税の額を15,348,100円等と記載した登記申請書(以下「本件登記申請書」という。)に基づき、平成11年3月5日受付で登記(以下「本件登記」という。)を受けた。
 なお、請求人は、平成11年3月5日に、上記登録免許税の額に相当する金額を納付した上、その領収証書を本件登記申請書に添付した。
ロ その後、R法務局P出張所登記官(以下「本件登記官」という。)は、本件登記につき納付すべき登録免許税の額の一部を請求人において納付していない事実を知ったとして、登録免許税法第28条《納付不足額の通知》第1項の規定に基づき、原処分庁に対し、次表のとおり記載した納付不足額通知書により、その旨を通知(以下「本件通知」という。)した。

ハ 原処分庁は、本件通知を受けて、登録免許税法第29条《税務署長による徴収》第1項の規定に基づき、当該通知に係る未納付の登録免許税2,716,000円を徴収することとし、平成11年4月30日付で、通則法第36条第1項第4号の規定に基づき、請求人に対し、納税の告知(以下「本件告知処分」という。)をした。
ニ 請求人は、本件告知処分及び上記ハの登録免許税に係る延滞税(以下「本件延滞税」という。)に不服があるとして、平成11年6月25日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月20日付で、前者については棄却の、後者については却下の異議決定をした。
 請求人は、原処分等に不服があるとして、平成11年10月15日に審査請求をした。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 次の理由により、本件告知処分及び本件延滞税の取消しを求める。
イ 本件告知処分について
(イ)通則法第15条《納税義務の成立及びその納付すべき税額の確定》は、登録免許税は、その納税義務が登記の時に成立し、納税義務の成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額の確定する、いわゆる自動確定方式の国税である旨規定し、租税特別措置法(平成11年法律第9号による改正前のもの。以下同じ。)第84条の4《不動産登記に係る不動産価額の特例》も、不動産登記に係る登録免許税の課税標準たる不動産の価額は、登録免許税法附則第7条《不動産登記に係る不動産価額の特例》の規定にかかわらず、当該登記を平成8年4月1日から平成12年3月31日までの間に受ける場合には、台帳価格(地方税法第341条《固定資産に関する用語の意義》第9号に規定する固定資産課税台帳に登録された価格をいう。以下同じ。)を基礎として政令で定める価額に100分の40を乗じて計算した金額とすると一義的に規定していて、登記機関の裁量により登録免許税の額が確定するとはしていない。
 本件登記官は、既に本件登記がなされているにもかかわらず、これに係る登録免許税の一部が納付されていないとして本件通知をなしたのであるが、これは、本件登記官に登録免許税の額の確定についての裁量権があり、その処分により当該税額が確定するということを前提とするものであって、登録免許税を自動確定方式の国税とし、一義的に確定するとした上記の各規定に反し、課税の公平性、納税の予測可能性の確保に反するものである。
(ロ)また、本件通知が、登録免許税が自動確定方式の国税であること等に反するものではないとしても、登録免許税法第26条《課税標準及び税額の認定》第1項は、登録免許税の課税標準の金額又は登録免許税の額が、国税に関する法律の規定に従っていなかったとき、その他登記機関の調査したところと異なるときは、当該登記を受ける者にその旨通知する旨規定し、不動産登記法第49条第1項第9号も、登録免許税を納付しないときは、登記の申請を却下する旨規定していること、そして、形式的な審査権しかない登記官は、登記の内容が真実に反していたとしても、既になされた登記を無効とすることができないことからすると、本件において、上記の通知がなされず、本件登記の申請も却下されていない以上、本件登記官は、本件登記申請書に記載した登録免許税の課税標準の金額及び登録免許税の額を正当と認定したというべきであり、したがって、当該登録免許税の納付額に不足はない。
(ハ)なお、請求人の代理人である司法書士は、あらかじめR法務局において本件登記に係る登録免許税の課税標準の金額等を確認した上で、本件登記申請書により本件登記を了したのであるから、当該登録免許税の納付額に不足があるということはあり得ない。
(ニ)以上によれば、本件通知は、登録免許税の納付額に不足がないにもかかわらずなされたもので無効であり、当該通知を根拠になされた本件告知処分は取り消されるべきである。
ロ 本件延滞税について
 仮に、本件告知処分のとおり、本件登記に係る登録免許税の納付額に不足があるとしても、当該登録免許税の納付が遅延したのは、本件登記官が、本件登記の申請を却下することなく、これを了したことによるもので、請求人は、本件告知処分がなされるまで納付額に不足があることを知り得なかったのであるから、本件延滞税は、通則法第11条《災害等による期限の延長》、第63条《納税の猶予等の場合の延滞税の免除》及び国税通則法施行令第26条の2《延滞税の免除ができる場合》第2号の規定により取り消されるべきである。

(2)原処分庁

 本件告知処分は、次の理由により適法であり、請求人の主張には理由がないから、本件告知処分に対する審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 登録免許税法第28条第1項は、登記機関は、登録免許税の納期限後において登記を受けた者が当該登記につき納付すべき登録免許税の額の全部又は一部を納付していない事実を知ったときは、遅滞なく、当該登記を受けた者の納税地の所轄税務署長に対し、その旨を通知しなければならない旨規定し、同法第29条第1項は、税務署長は、同法第28条第1項の通知を受けた場合には、当該通知に係る納付していない登録免許税を登記を受けた者から徴収する旨規定している。
ロ 原処分庁は、上記イの各規定に基づき、本件登記官から、本件登記に係る登録免許税の一部2,716,000円が納付されていない旨の本件通知を受けたことから、当該登録免許税を徴収するため、通則法第36条第1項第4号の規定により、本件通知に係る未納付額と同額の2,716,000円について本件告知処分をしたものである。

トップに戻る

3 判断

(1)本件告知処分について

イ 請求人は、既に本件登記がなされているにもかかわらず、本件登記官が本件通知をしたことは、登録免許税が自動確定方式の国税であること等に反するものであるし、また、本件登記官が登録免許税法第26条第1項の規定に基づく通知をせず、申請を却下することもしないで有効に本件登記を了した以上、本件登記申請書に記載した登録免許税の課税標準の金額及び登録免許税の額が正当と認定されたというべきであるから、本件登記に係る登録免許税の納付額に不足はなく、本件告知処分の根拠となった本件通知は無効である旨主張する。
 しかしながら、登録免許税が自動確定方式の国税であることと、登記機関が、当該方式により確定した納付すべき税額の全部又は一部が納付されていないとして所轄税務署長にその旨を通知することとは相反するものでないし、これが課税の公平等に反するともいえない。
 また、登録免許税法第28条第1項及び第29条第1項の規定によれば、登記の申請が却下されることなく、当該登記がなされた場合においても、登記官が登録免許税の納付額に不足があることを知ったときは、当該登記を受けた者の納税地の所轄税務署長に対しその旨を通知し、当該不足額を徴収するとされているのであって、これらの規定に照らせば、本件登記官が、本件登記の申請に対し、登録免許税法第26条第1項の規定に基づく通知をせず、納付額の不足を理由に当該申請を却下することもしないで本件登記を了したからといって、本件登記申請書に記載された登録免許税の課税標準の金額及び登録免許税の額が正当と認定されたことにはならない。
 したがって、本件通知が無効である旨の請求人の主張には理由がない。
ロ なお、本件告知処分に係る課税標準の金額及び納付すべき税額について検討する。
(イ)登録免許税法第9条《課税標準及び税率》及び別表第一第1号(三)ニは、地上権の移転の登記に係る登録免許税の課税標準は不動産の価額による旨を、同法附則第7条は、上記不動産の価額は、台帳価格を基礎として政令で定める価額によることができる旨を、また、租税特別措置法第84条の4は、上記不動産の価額は、登録免許税法附則第7条の規定にかかわらず、上記登記を平成8年4月1日から平成12年3月31日までの間に受ける場合には、台帳価格を基礎として政令で定める価額に100分の40を乗じて計算した金額とする旨をそれぞれ規定している。
 そして、これを受けた租税特別措置法施行令第44条の3《不動産登記に係る不動産価額の特例》は、上記政令で定める価額を、台帳価格のある不動産については、当該不動産の台帳価格に相当する金額とし、台帳価格のない不動産については、当該登記の申請の日において当該不動産に類似する不動産の台帳価格を基礎として登記官が認定した価額とする旨規定している。
(ロ)ところで、当審判所の調査の結果によれば、P市Q町一丁目5番1の宅地23,345.59平方メートルが、平成10年6月18日付で、同所5番4の宅地2,031.55平方メートル(以下「旧5番4の土地」という。)と合筆されて同所5番1の宅地25,377.15平方メートルとなり、更に、当該合筆後の土地が、同日付で、同所5番1の宅地23,345.61平方メートルと本件土地とに分筆されたこと、そして、本件土地について、本件登記の申請の日である平成11年3月5日現在、台帳価格がなかったことが認められるのであり、上記(イ)の規定に照らせば、本件土地の価額は、当該土地に類似する土地の台帳価格を基礎として登記官が認定した価額ということになる。
(ハ)そこで、本件登記官による本件土地の価額の認定の適否について検討する。
 本件登記官は、旧5番4の土地を本件土地に類似する土地とし、その平成10年度の台帳価格1,806,429,880円を基礎として本件土地の価額を認定した上で、原処分庁に対し、本件通知をしたものであるところ、当審判所の調査の結果によれば、本件土地は南東及び北西側が60.141メートル、北東及び南西側が33.780メートルのほぼ長方形であるのに対し、旧5番4の土地は南東側が60.10メートル、北西側が17.20メートルの台形に近い地形で、その形状に若干の違いがあるものの、ともに宅地で、面積も本件土地が2,031.54平方メートル、旧5番4の土地が2,031.55平方メートルとほぼ等しく、かつ、いずれもその南東側約60.10メートルが、約3メートル隔てて公道(S通り)に面しているなど位置関係や地理条件も同一であることが認められるから、本件登記官の上記認定は相当である。
(ニ)以上によれば、本件登記に係る登録免許税の課税標準たる本件土地の価額は722,567,000円となり、登録免許税の額は18,064,100円となる。
 そして、請求人が、法定納期限である本件登記を受ける時までに納付した登録免許税の額は、上記1の(2)のロのとおり15,348,100円であり、当該金額と上記18,064,100円との差額2,716,000円については法定納期限までに納付されていない事実が認められるから、これと同額でなされた本件告知処分は適法である。
(ホ)請求人は、その代理人である司法書士が、あらかじめR法務局において本件登記に係る登録免許税の課税標準の金額等を確認した上で、本件登記申請書によりこれを了したのであるから、納付額の不足はあり得ない旨の主張もするが、当審判所の調査によっても、上記司法書士あるいはその補助者からの相談に対し、同法務局の担当者が請求人の算定した課税標準の金額等を是認する旨の回答をしたと認めることはできず、請求人の主張には理由がない。
ハ 本件告知処分のその他の点については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

(2)本件延滞税について

 請求人は、本件登記に係る登録免許税の納付が遅延したのは、本件登記官が、本件登記の申請を却下することなく、これを了したことによるもので、請求人は、本件告知処分がなされるまで納付額に不足があることを知り得なかったのであるから、本件延滞税は取り消されるべきである旨主張する。
 しかしながら、通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第1項の規定によれば、不服申立てをすることができるのは、国税に関する法律に基づく処分に限られるところ、延滞税は、通則法第60条《延滞税》第1項各号に規定する所定の要件を充足することによって、法律上当然にその納税義務が成立し、その成立と同時に特別の手続を要しないで納付すべき税額が確定する国税であって、上記の国税に関する法律に基づく処分により確定するものではないから、本件延滞税に対する審査請求は、対象となる処分が存在しないにもかかわらずなされた不適法なものである。

トップに戻る