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(平12.12.4裁決、裁決事例集No.60 28頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、不動産売買業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、固定資産の取得に係る不動産取得税等の税額をその取得価額に算入する会計処理を選択して申告した場合において、その後当該会計処理の選択を誤っていたことを理由として、更正の請求をすることができるか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して提出期限(法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》第1項の規定により一月間延長されたもの。)までに提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年6月29日付で別表1の「更正処分等」欄のとおり、更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、本件事業年度において、固定資産の取得に係る不動産取得税及び登録免許税(以下、併せて「不動産取得税等」という。)の税額を当該固定資産の取得価額に算入したことは誤りであり、これらの一部を損金の額に算入すれば、当初の申告所得金額に変わりはないとして、平成11年6月30日に別表1の「更正の請求」欄のとおり、更正の請求をした。
ニ 原処分庁は、これに対し、平成11年9月29日付で更正をすべき理由がない旨の通知処分をしたところ、請求人は、これを不服として、同年11月15日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年4月1日から平成8年3月31日までの事業年度(以下「平成8年3月期」という。)及び平成8年4月1日から平成9年3月31日までの事業年度(以下「平成9年3月期」という。)において、P市Q町一丁目6番所在の土地及び事業用ビル1棟(以下、併せて「Pビル」という。)を、E株式会社及びF銀行から取得した。
ロ また、請求人は、平成9年3月期において、R市S町93番所在ほかの土地及び事業用ビル1棟(以下、併せて「Rビル」という。)を、上記イの売主から取得した。
ハ 請求人は、Pビル及びRビル(以下、併せて「本件不動産」という。)の取得に関し、本件事業年度において、別表2のとおり、本件不動産に係る不動産取得税額331,321,800円及び登録免許税額448,400,100円をそれぞれ納付し、また、本件不動産に係る固定資産税精算金185,675,700円(以下「本件固定資産税精算金」という。)を売主であるF銀行に支払った(以下、これらの税額及び本件固定資産税精算金の合計965,397,600円を「本件税額等」という。)。そして、請求人は、本件税額等のうち、Pビルの取得に係る不動産取得税額285,108,900円及び登録免許税額384,727,800円の合計669,836,700円(以下「本件不動産取得税額等」という。)を、Pビルの取得価額に算入して固定資産勘定に計上するとともに、その残額である本件固定資産税精算金及びRビルの取得に係る不動産取得税等の税額の合計295,560,900円を損金の額に算入した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次のとおり違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 請求人は、本件税額等の全額を本件事業年度において損金の額に算入すると、本件事業年度の申告所得金額が大幅な欠損金額となることから、申告所得金額を3,000万円程度とするため、本件税額等のうちPビルの取得に係る本件不動産取得税額等669,836,700円を固定資産勘定に計上することとし、本件固定資産税精算金を含めてその残額295,560,900円を損金の額に算入した。
ロ 請求人は、上記イの会計処理の際に、本件固定資産税精算金を本件不動産の取得価額に算入すべきところ、誤って損金の額に算入したものであるが、確定申告書提出時にこの誤りに気付いていれば、本件固定資産税精算金を本件不動産の取得価額に算入するとともに、本来選択により損金の額に算入することができる本件不動産取得税額等のうち、本件固定資産税精算金に見合う金額を損金の額に算入することを選択していたはずであり、そうすると、結果として、当初の申告所得金額に何ら変わりはなかったはずである。
 したがって、請求人は、この会計処理の選択の誤りを是正して、更正の請求をすることができるというべきであり、更正をすべき理由がないとする原処分は違法というべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 購入した固定資産の取得価額は、当該固定資産の購入の代価に、取引運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税その他購入のために要した費用の額を加算した金額とされている。
 ところで、固定資産の取得に際して支出する不動産取得税又は登録免許税の税額については、一種の事後費用である上、その性格も流通税的なもの又は第三者要件を具備するためのものであって、固定資産の取得原価そのものとは必ずしもいえないため、固定資産の取得価額に算入するかどうかを、納税者の判断に任せることとされている。
ロ 請求人は、本件不動産取得税額等について、本件事業年度において、Pビルの取得価額に含めることを選択し、固定資産勘定に計上する会計処理を行ったものであるが、当該会計処理は、上記イのとおり、請求人の選択に基づく正当な会計処理と認められる。
ハ 請求人は、本件固定資産税精算金の損金算入が認められないことを事前に知っていたならば、本件不動産取得税額等のうち本件固定資産税精算金相当額を取得価額に算入しないで損金の額に算入していたものであり、そうすれば、当初の申告所得金額に変わりはなかったはずである旨主張している。
 しかしながら、不動産取得税等の税額を固定資産の取得価額に算入するか否かについては、固定資産を取得する際に納税者が選択するものとされているところ、いったん納税者が取得価額に算入することを選択した以上、後になって、その選択の誤りを理由として、当該税額の損金算入を認めることは許されないというべきであるから、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

(1)法令の規定等

イ 法人税法施行令第54条《減価償却資産の取得価額》第1項第1号は、購入した減価償却資産の取得価額について、当該資産の購入の代価(引取運賃、荷役費、運送保険料、購入手数料、関税等その資産の購入のために要した費用があればこれを含む。)と当該資産を事業の用に供するために直接要した費用の額との合計額とする旨規定している。
ロ 法人税基本通達7―3―3の2は、固定資産の取得に関連して支出する租税公課のうち不動産取得税等の税額について、これを固定資産の取得価額に算入しないことができる旨定めている。
ハ 国税通則法(以下「通則法」という。)第23条《更正の請求》第1項第1号は、納税申告書を提出した者が更正の請求をすることができる場合として、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったことにより、当該申告書の提出により納付すべき税額(当該税額に関し更正があった場合には、当該更正後の税額)が過大であるときと規定している。
(2)本件不動産取得税額等の会計処理の選択に誤りがあることを理由とする更正の請求が認められるか否かについて検討すると、次のとおりである。
イ 法人が固定資産の取得に際して支出する不動産取得税等の税額の会計処理については、実務上、当該不動産取得税等の税額を損金の額に算入するか、固定資産の取得価額に算入するかの選択を法人の判断にゆだねることとしているところ、当審判所においても、不動産取得税等の税額が一種の事後費用である上、その性格も流通税的なもの又は第三者対抗要件を具備するためのものであって、必ずしも固定資産の取得原価そのものとはいいきれない面もあることから、これを適法な取扱いとして認めることができる。
ロ そこで、これを本件についてみると、請求人は、本件事業年度において、本件税額等の全額を損金の額に算入すると、申告所得金額が大幅な欠損金額になると見込まれたことから、申告所得金額を3,000万円程度とするために、本件不動産取得税額等をPビルの取得価額に算入する会計処理をした旨主張している。そうすると、当該会計処理は、上記イの取扱いに従ったところのものであり、確定決算において請求人が自主的に選択した正当な会計処理と認められることから、当該会計処理に誤りはなかったというべきである。
ハ また、請求人は、本件固定資産税精算金を本件不動産の取得価額に算入すべきところ、誤って損金の額に算入したものであり、確定申告書提出時にこの誤りに気付いていれば、本件固定資産税精算金を本件不動産の取得価額に算入するとともに、本件不動産取得税額等のうち、本件固定資産税精算金に見合う金額を損金の額に算入していたはずであり、そうすれば、結果として、当初の申告所得金額に何ら変わりはなかったはずである旨主張する。
 しかしながら、請求人が、仮に、本件固定資産税精算金を損金の額に算入することができると誤信したとしても、このことと本件不動産取得税額等をPビルの取得価額に算入する会計処理を選択したこととは、請求人の所得金額の計算上直接の関係はないというべきであり、また、いったん固定資産の取得価額に算入する会計処理を選択した不動産取得税等について、その後その選択の誤りを理由として、再度の選択の機会を与えるとすると、任意に固定資産の取得価額を減額するという恣意的な所得計算を認めることになるというべきであるから、いずれにしても、本件不動産取得税額等について、Pビルの取得価額に算入する会計処理を選択した後に、改めて損金の額に算入することは許されないというべきである。
ニ さらに、通則法第23条第1項第1号により更正の請求が認められるのは、当該申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった場合又は当該計算に誤りがあった場合であるところ、仮に本件不動産取得税額等をPビルの取得価額に算入する会計処理を選択したことに誤りがあったとしても、当該会計処理の選択誤りが、国税に関する法律の規定に従っていなかった場合に当たらないことは明らかであるから、当該会計処理の選択誤りを理由とする更正の請求を認めることはできない。
ホ 以上のとおり、本件不動産取得税額等をPビルの取得価額に算入する請求人の会計処理自体に誤りはなかったのであり、仮に当該会計処理を選択したことに誤りがあったとしても、通則法第23条第1項第1号により更正の請求が認められる場合には当たらないのであるから、いずれにしても請求人の主張には理由がないことになり、原処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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