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(平12.9.29裁決、裁決事例集No.60 36頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、平成4年分の贈与税の納税義務を負っていたEから、同人の贈与税額、利子税の額及び延滞税の額(以下「贈与税額等」という。)を担保するため権利者を大蔵省とする抵当権が設定されている別表の不動産(以下「本件担保不動産」という。)を購入した第三取得者の立場にあるが、原処分庁が、同人の贈与税額等を徴収するため担保の処分として行った本件担保不動産を滞納処分の例により差し押さえた処分(以下「本件担保物処分のための差押処分」という。)に対して、事前に、請求人に告知、聴聞の機会を与えず、かつ、民法第378条《滌除の意義》以下に定める抵当権の実行通知をはじめとする諸手続を行っていないとして、本件担保物処分のための差押処分の取消しを求めた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件担保物処分のための差押処分を不服として、平成11年8月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年11月8日付で棄却の異議決定をした。
ロ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に、なお不服があるとして平成11年12月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 不動産登記簿によれば、本件担保不動産には、いずれも平成5年4月21日受付で下記を内容とする抵当権が設定されていた。
(原因)平成4年11月5日受贈による贈与税及び利子税の平成5年3月15日設定、(債権額)金10,627,100円、(債務者)P県Q市R町2757番地3E、(抵当権者)大蔵省(取扱庁 S税務署)
ロ 不動産登記簿によれば、本件担保不動産は、いずれも平成10年6月25日の売買を原因として、Eから請求人に所有権移転(平成10年6月30日登記)がされている。
ハ 原処分庁は、前記イに掲げる抵当権の被担保債権であるEの贈与税額等を徴収するため、平成11年5月28日時点における本件担保不動産の所有者であった請求人を相手方として、請求人に対し、「差押書(担保物処分のための滞納処分による差押え)」を送付するとともに、法務局に請求人を登記義務者とする差押登記の嘱託をして、本件担保物処分のための差押処分を行った。
ニ 上記ハに掲げる「差押書(担保物処分のための滞納処分による差押え)」は、原処分庁により、平成11年7月1日に請求人に交付送達されている。
ホ 不動産登記簿によれば、本件担保不動産には、平成11年5月31日受付で、原因を担保物処分による差押え、債権者を大蔵省とする「差押登記」がされている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本件担保物処分のための差押処分は、事前に請求人に告知、聴聞の機会を与えず、かつ、滌除に関する民法の規定(以下「滌除」という。)に基づく必要な手続を経ないでした一方的に過ぎる行政処分であるから、取り消すべきである。
 したがって、原処分庁に対し、次のことを求める。
イ 請求人の滌除権を認め、その滌除権の行使期限を確定するための抵当権実行通知書を請求人に送達すること。
ロ 請求人は、滌除についてその承諾を得られる金額を払い渡したいので、その金額を交渉したい。ついては、その交渉に必要な告知、聴聞の機会を請求人に与えること。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により、適法である。
イ 本件担保物処分のための差押処分は、国税通則法第52条《担保の処分》の規定に基づき、滞納処分の例により差し押さえたものである。
ロ 本件担保物処分のための差押処分は、国税徴収法の規定により行っており違法性はない。

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3 判断

(1)本件担保物処分のための差押処分の適否に争いがあるので、以下審理する。
イ 請求人は、本件担保物処分のための差押処分は事前に請求人に告知、聴聞の機会を与えなかったから違法である旨主張する。
 ところで納税猶予の許可を受けた納税者が納税猶予の期限までに当該納税猶予を受けた国税を納付しない場合は、国税通則法第52条第1項において、「その担保として提供された金銭をその国税に充て、若しくはその提供された金銭以外の財産を滞納処分の例により処分してその徴収すべき国税及びその処分費に充てる。」と規定している。また、同条項の「滞納処分の例による」とは、国税徴収法第5章《滞納処分》に規定する滞納処分手続その他滞納処分に適用される法令の定めるところにより行うことをいう。
 上記の法令には、担保物件の差押えに当たり、担保物件の所有者に事前に告知、聴聞の機会を与えなければならない旨の規定はないから、本件担保物処分のための差押処分を行うに当たり、事前に請求人に告知、聴聞の機会を与えなかったとしても何ら違法ではなく、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ 請求人は本件差押処分は、滌除に基づく必要な手続を経ないでした処分であり違法である旨主張する。
 しかしながら、〔1〕国税担保のための抵当権の実行手続については、国税通則法第52条第順で「滞納処分の例により処分する」と規定されているのみであり、国税通則法、国税徴収法その他滞納処分に適用される法令には、同手続につき滌除に関する民法の規定が適用あるいは準用される旨の規定は置かれていないこと及び〔2〕国税通則法第52条第1項が「滞納処分の例により処分する」と定めている趣旨は、租税の徴収については、租税のもつ特殊性から、迅速かつ能率的に行うため自力執行制度がとられ、民事執行手続によらず滞納処分手続によることとされたことの延長として、国税の担保物の処分による徴収も同じ手続で行うことと定めたものと理解でき、同じ抵当権であっても、その被担保債権が国税債権であるときは、その実行手続につき滌除に関する民法の規定の適用はないと解釈することに合理性が認められることから、国税担保のための抵当権については、滌除に関する民法の規定が適用ないし準用されないものと解される。
 以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、国税通則法第52条の規定に基づき、滞納処分の例により本件担保不動産を差し押さえた原処分は適法である。
(2)その他
 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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