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(平12.12.20裁決、裁決事例集No.60 54頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成10年分の所得税の純損失の金額の繰戻しによる還付金等を、審査請求中で滞納国税となっている平成9年分の所得税に係る重加算税に充当できるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 原処分庁は、Eが所得税法第140条《純損失の繰戻しによる還付の請求》の規定に基づき提出した平成10年分の所得税の純損失の金額の繰戻しによる所得税の還付請求書について、平成12年5月8日付で通知処分を行い、これにより発生した還付金及び還付加算金(以下「本件還付金等」という。)を国税通則法(以下「通則法」という。)第57条《充当》第1項の規定に基づき、平成12年5月10日付で本件還付金等の充当適状日を平成12年5月8日とし、次表のとおりEの滞納国税である平成9年分の所得税に係る重加算税に充当(以下「本件充当処分」という。)した旨の通知をした。

ロ Eは、本件充当処分を不服として、平成12年5月17日に異議申立てをした。
ハ その後、Eは、平成12年6月6日に死亡したので、相続人Fほか1名はEの異議申立てにおける異議申立人の地位及び国税の納付義務を承継した(以下、Eを「被相続人」といい、Fほか1名を「請求人ら」という。)。
 なお、請求人らの納付義務の承継額は別表のとおりである。
ニ 異議審理庁は、被相続人の異議申立てに対し、Fには、平成12年6月22日付で、また、Gには、平成12年9月6日付でそれぞれ棄却の異議決定をした。
ホ 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、Fは、平成12年7月19日に、Gは、平成12年9月28日にそれぞれ審査請求をした。
ヘ 請求人らは、Fを総代として選任し、その旨を平成12年12月7日に届け出た。
 そこで、これらの審査請求について併合審理をする。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人ら及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は、平成9年分の所得税について、原処分庁が行った次の(イ)及び(ロ)の処分に対し、いずれも平成12年1月7日に審査請求をした。その後、請求人らが審査請求における審査請求人の地位を承継した。
(イ)平成11年7月8日付でされた平成9年分の所得税の更正処分及び重加算税の賦課決定処分
(ロ)平成9年分の所得税の更正の請求に対して平成11年7月8日付でされた更正をすべき理由がない旨の通知処分
ロ 被相統人の本件充当処分時における滞納国税(以下「本件滞納国税」という。)は、次表のとおりである。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法、不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 充当の対象となった本件滞納国税のうち重加算税は、現在、審査請求中であり、審査請求の結果によっては不存在となるもので、充当した場合に審査請求の目的そのものが消滅、減殺されるため、相殺適状に至っていない。
ロ 審査請求中の債権でその帰趨が未定である当該債権でその確定手続きが終了していないものを勝手に相殺することは妥当とは認められず、本件充当処分は納税者の権利救済制度の一環として認められている不服申立ての制度の趣旨からみて著しく妥当性を欠くものである。
ハ 民法第505条第2項によると「前項の規定は当事者が反対の意思を表示したる場合にはこれを適用せず」との当事者の意思による相殺排除の規定があり、税法の相殺の規定はこれら法律の借用概念であるところから相殺についてもこれらの規定が類推適用されるべきである。
ニ 通則法には附帯税の充当についての記載はなく、国税通則法基本通達(以下「通則法基本通達」という。)第34条関係3《弁済充当の順位》に準ずることとされ、民法第488条から同法第490条までに規定する弁済の充当に準じて取り扱われるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 課税処分に対する不服申立てがされていても、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続の続行は、通則法第105条《不服申立てと国税の徴収との関係》第1項の規定により妨げられないのが原則であるから充当手続においてもその執行は妨げられない。
ロ 還付金が生じた場合において、その還付を受ける者に納付すべき国税があるときは、通則法第57条第1項の規定により充当しなければならないとされている。
 民法に規定する相殺は、当事者の一方から他方に対する意思表示によって行われ、反対の意思表示があったときは相殺できない(民法第505条第2項)のに反し、還付金の充当の根拠である通則法第57条第1項は強行規定であり、当事者の反対の意思表示を許さず無条件に適用されるものである。
ハ 通則法基本通達第34条関係3は、納付すべき国税の一部が納付された場合の弁済充当の定めであり、本件還付金等の充当に当たっては通則法第57条の規定が適用され、順位が判然としない場合は、民法第512条に規定する相殺の充当及び同法第489条に規定する法定充当の順位に準じ、納税者に最も有利となる順位により充当することとされている。

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3 判断

 本件審査請求の主たる争点は、審査請求中の本件滞納国税について本件還付金等が充当できるか否かにあるので、以下審理する。
(1)通則法第105条第1項は、「国税に関する法律に基づく処分に対する不服申立ては、その目的となった処分の効力、処分の執行又は手続きの続行を妨げない。」と規定しており、不服申立てがなされた場合であっても、滞納処分の執行等を停止させない、いわゆる執行不停止を原則としている。
 また、課税処分と充当処分とは、それぞれ別個の目的及び法律効果を有する独立した行政処分であり、その間に違法性が承継されるものではないから、課税処分について不服があり、審査請求をしていることを理由に充当処分の取消しを求めることはできないと解されている。
(2)また、税務署長がする充当について、通則法第57条第1項は、税務署長は、還付金等がある場合において、その還付を受けるべき者に納付すべきこととなっている国税があるときは、同法第56条《還付》第1項の規定による還付に代えて、還付金等をその国税に充当しなければならないとし、この場合において、その国税に延滞税又は利子税があるときは、その還付金等は、まず、延滞税又は利子税の計算の基となる国税に充当しなければならない旨を、同条第2項は、前項の規定による充当があった場合には、政令で定める充当をするのに適することとなった時に、その充当をした還付金等に相当する額の国税の納付があったものとみなす旨を、国税通則法施行令第23条《還付金等の充当適状》第1項では、通則法第57条第2項に規定する政令で定める充当をするのに適することとなった時とは、通則法第69条《加算税の税目》に規定する加算税は、その賦課決定通知書を発した時と当該還付金等が生じた時とのいずれか遅い時とする旨をそれぞれ規定している。
 この通則法第57条の規定は、大量の納税義務確定の過程で生ずる納付及び還付の各手続きを簡易迅速に処理する目的で、納税者側からの相殺は禁止するが、国側からの相殺は認めることとしたものであり、一定の要件が備わっているときは当然に充当できるものと解されている。
(3)これを本件についてみると、次のとおりである。
イ 請求人は、本件滞納国税の一部である重加算税に本件還付金等を充当することは、当該加算税について審査請求中であり相殺適状に至っていないから違法である旨主張する。
 しかしながら、本件充当処分は、上記(1)のとおり通則法第105条第1項の規定により、重加算税の賦課決定処分について不服があり審査請求中であったとしても妨げられるものではないから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ロ また、請求人は、充当に対し当事者が反対の意思表示をした場合、民法第505条第2項を類推適用すべきである旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、通則法第57条に規定する充当は、民法上の相殺とは異なり、〔1〕還付金等債権者の側からする充当は認められておらず、〔2〕民法上の相殺は相手方が反対の意思表示をした時は相殺がなさないのに反して、充当は反対の意思表示を認めず税務署長等が一方的に行う行為であるから、この点に関する請求人の主張は採用できない。
ハ 更に、請求人は、通則法には附帯税の充当について規定がない旨主張する。
 しかしながら、上記(2)のとおり、納付すべきこととなっている国税には、加算税及び延滞税も含まれることから当然にして充当が出来ることとなる。
 この場合、納付すべきこととなっている加算税及び延滞税のいずれの国税から充当すべきかは法令上の規定がないことから、通則法基本通達第57条関係7《充当の順位》において、納付すべき国税が納付された場合の弁済充当の順位に準ずるものとされており、民法第488条から同法第490条までに規定する弁済の充当に準ずるものとする旨定められている。なお、この通則法基本通達の定めは、当審判所においても、合理的なものと認めるものである。
 したがって、原処分庁が本件還付金等を本件滞納国税のうち重加算税に先に充当した本件充当処分は適法に行われており、この点に関する請求人の主張は採用できない。
 以上のとおり、通則法第57条の規定に基づいて行われた本件充当処分は適法である。
(4)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所の調査の結果によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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