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(平12.9.28裁決、裁決事例集No.60 71頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、家庭用電気器具販売業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて、国税通則法(以下「通則法」という。)第66条《無申告加算税》第1項ただし書に規定する正当な理由があるか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 請求人は、平成10年1月1日から同年12月31日までの課税期間(以下「本件課税期間」という。)の納付すべき消費税等の税額を168,700円と記載した消費税等の確定申告書(以下「本件申告書」という。)を、法定申告期限後である平成11年12月6日に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成11年12月22日付で無申告加算税の額を24,000円とする賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。
 請求人は、本件賦課決定処分を不服として、平成12年2月2日に異議申立てをしたところ、異議審理庁が同年4月17日付で棄却の決定をしたので、同年5月9日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、原処分庁からの来署案内に応じ、平成11年12月6日に原処分庁に赴き、担当職員から、本件課税期間について、消費税等の申告が必要である旨の説明を受け、同日、本件申告書を提出した。
ロ 請求人の本件課税期間の基準期間である平成8年1月1日から同年12月31日まで(以下「本件基準期間」という。)の課税売上高は、請求人が平成9年2月20日に原処分庁に提出した本件基準期間を課税期間とする消費税の確定申告書に33,145,631円と記載されている。
ハ 請求人は、平成10年3月25日付で、原処分庁に対し、本件課税期間を適用開始課税期間とする消費税課税事業者届出書(以下「課税事業者届出書」という。)を提出した。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により不当であるから、その全部の取消しを求める。
イ 原処分庁は、納税者に対し、確定申告書の用紙を送付するなどして、申告の必要性を知らせる義務があるところ、請求人に対しては、本件課税期間の消費税等の確定申告書の用紙(以下「本件申告書用紙」という。)が送付されなかった。
 そのため請求人は、申告の必要性を知らされず、また、請求人の平成9年の課税期間(平成9年1月1日から平成9年12月31日まで)の課税売上高が3,000万円以下のため、消費税は無税であったし、本件課税期間の課税売上高も3,000万円以下であったことから、消費税等の申告は、必要ないと思っていた。
ロ 請求人が提出した課税事業者届出書は、原処分庁の指導に従っただけで、その内容を理解していなかった。
ハ 請求人は、来署案内に応じ、原処分庁の指導により消費税等の申告が必要であると知り、指導に従って、その場で本件申告書を提出したのであるから、無申告加算税は全額取り消されるべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 通則法第66条第1項ただし書は、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合には、無申告加算税を課さない旨規定しているが、ここでいう正当な理由とは、納税者の責めに帰せられない災害等の外的事情による場合など、真にやむを得ない理由をいうものであると解されている。
 請求人は、事前に本件申告書用紙が送付されなかったので、申告が必要なことを知らなかった旨主張するが、これは、正当な理由がある場合に該当しない。
 また、消費税の申告書用紙の事前送付が消費税の申告義務成立の要件とした規定もなく、申告書用紙を事前に納税者へ送付しなければならないとする規定もないし、平成9年の課税期間の申告義務の有無は、本件課税期間の消費税等の申告義務に影響しない。
ロ なお、本件申告書は、原処分庁の担当職員が請求人の本件基準期間の課税売上高を審理したところ、申告が必要であることを確認して、請求人に提出を求めた後に提出されたものであるから、通則法第66条第3項に規定する、決定があることを予知してされたものでないときには該当しない。

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3 判断

(1)通則法第66条第1項は、期限後申告書の提出があった場合には、期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があると認められる場合を除いて、当該納税者に対し、当該申告書により納付すべき税額に100分の15の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課する旨規定している。
 また、通則法第66条第3項は、その期限後申告書の提出があった場合において、その提出が、その申告に係る国税についての調査があったことにより、当該国税について決定があるべきことを予知してされたものではないときは、無申告加算税の額は、納付すべき税額に100分の5の割合を乗じて計算した金額とする旨規定している。
(2)この無申告加算税は、申告納税方式による国税に関して、申告納税制度の秩序を維持し適正な申告の実現を確保することを目的とし、適正な申告をしなかった納税者に対して、一定率の加算税を課することによって、当初から適正に申告納税をした者とこれを怠った者との間に生ずる不公平を是正するとともに、無申告による申告義務違反の発生を防止する行政上の措置ということができるから、無申告の事実があれば、正当な理由があると認められる場合を除いて、一律に課されるものである。
 そして、この場合の「正当な理由があると認められる場合」とは、その行政上の制裁を課すことが不当若しくは酷と評価される、例えば、災害、交通や通信の途絶等、納税者の責めに任じられない外的事情による場合など、法定申告期限内の提出を不可能とするもので真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当し、無申告又は期限後申告となった理由が、単に納税者の税法の不知又は誤解に基づくものであるとしても、それだけでは、正当な理由となり得ないものと解されている。
 また、「決定があるべきことを予知してされたものではないとき」とは、課税庁における申告義務の要否等の調査の結果による期限後申告のしょうように基づかない納税者の自発的意思により、期限後申告書を提出した場合をいうと解されている。
(3)これを本件についてみると、基礎事実のとおり、本件課税期間は納税義務が免除されない場合に該当していたにもかかわらず、請求人の主張によれば、請求人自身、確定申告は不要であると思っていたというのであり、本件申告書の法定申告期限後の提出は、請求人のそのような誤解を是正するために行われたものであるから、上記(2)に記載する無申告加算税を課さない「正当な理由があると認められる場合」に該当しないのは明らかである。
 また、請求人は、基礎事実ハのとおり、本件課税期間を適用開始課税期間とする課税事業者届出書を提出しているから、確定申告が必要であると判断することは容易であったと推認されるところ、請求人は、課税事業者届出書は原処分庁の指導に従っただけで、内容を理解していなかった旨主張するが、そのような主張が確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことを正当化する理由にならないことも明らかである。
 なお、請求人は、原処分庁からの本件申告書用紙の送付がなかったことが期限後申告となった一因である旨主張するが、消費税は、消費税法第45条《課税資産の譲渡等についての確定申告》において、事業者が税額等を記載した申告書を法定の期間内に税務署長に提出しなければならない旨規定するとおり、税務署長からの通知、案内等の有無にかかわりなく、法定の期間内に確定申告書を提出することを義務付けられているのであり、原処分庁による申告用紙の送付は、国民の納税義務の適正かつ円滑な履行を確保するため、行政上任意的に行われる納税者に対するサービスの一環にすぎず、消費税法その他の関係法令の規定に基づくものではないから、本件申告書用紙の送付がなかったからといって、それが法定申告期限内に提出ができなかったことの正当な理由にはならない。
(4)また、本件申告書は、基礎事実イのとおり、原処分庁が期限後申告書の提出をしょうようした後に提出されたものであるから、「決定があるべきことを予知してされたものではないとき」にも該当しない。
(5)以上のとおり、本件申告書が法定申告期限後に提出されたことについては、通則法第66条第1項ただし書に規定する無申告加算税の除外事由はなく、同条第3項に規定する軽減事由も存在しない。また、本件においては、原処分を不当とする事情も認められないから、同条第1項の規定に基づき行われた本件賦課決定処分は、適法であり、請求人の主張は、いずれも理由がない。
(6)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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