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(平12.12.11裁決、裁決事例集No.60 77頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、清掃業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、消費税及び地方消費税(以下「消費税等」という。)の確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったことについて正当な理由があるか否か、また、無申告加算税を賦課することが信義誠実の原則に照らし不当であるか否かが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成10年4月1日から平成11年3月31日までの課税期間の消費税等の確定申告書(以下「本件確定申告書」という。)に次表のとおり記載して、いずれも平成11年6月7日に提出した。

ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年6月23日付で国税通則法第66条《無申告加算税》第3項の規定により、無申告加算税の額159,000円の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、この処分を不服として、平成11年6月30日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年9月21日付で棄却の異議決定をした。
ニ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年10月12日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 本件確定申告書に記載された消費税等の納付すべき税額(以下「本件納付税額」という。)は、法定納期限である平成11年5月31日より前の同月28日に納付されている。
ロ 本件確定申告書は、法定申告期限である平成11年5月31日を経過した同年6月7日に提出されている。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法又は不当であるから取消されるべきである。
イ 請求人が期限後申告をしたことについては、次のとおり国税通則法第66条第1項のただし書きに規定する正当な理由があるから、原処分は違法である。
(イ)請求人は、法人税法第75条の2《確定申告書の提出期限の延長の特例》に規定する特例を受けるため、平成11年3月26日に原処分庁に赴き指導を受け、同月29日に申請書を提出し、その後承認を受けた。
 消費税等の確定申告についても、法人税と同様に確定申告期限までに請求人の決算が確定しないこと、また、法人税と消費税等の確定申告相互間には両輪若しくは一体の概念があることから、法人税の確定申告書の提出期限の延長が認められた以上、消費税等の確定申告書の提出期限も延長されるべきである。
(ロ)原処分庁は、平成11年3月26日に請求人が法人税の確定申告書の提出期限の延長に関する指導を受けた際、消費税等に関連した説明を何ら行っていない。また、同年5月28日に本件納付税額を納付した際においても、原処分庁は納付の事実をもって確定申告書との照合が可能であり、照合の結果、本件確定申告書がその時点で提出されていないのであるから、期限内に提出するよう指導すべきであるにもかかわらず、何らの指導も行っていない。
 さらに、消費税法は比較的新しい税法であり、現在定着した状態ではあるが、特殊な事案についてまで普遍的に成熟しているとは言い難く、原処分庁は、適切な指導を積極的に行うべきである。
請求人においては、本件確定申告を法定申告期限内に提出することに支障はなかったから、原処分庁が、消費税等に関し、確定申告書の提出期限の延長の規定はない等の適切な指導を行っておれば、本件確定申告書は法定申告期限内に提出していた。
 そうすると、請求人は、原処分を避けることができた。
(ハ)請求人は、本件納付税額を法定納期限内の平成11年5月28日に納付しており、国には何らの損害も与えていない。
ロ また、違法でないとしても、前記(イ)及び(ロ)の理由により、原処分は信義誠実の原則に反し、不当な処分である。

(2)原処分庁の主張

 次の理由により、原処分を違法又は不当とする理由は何ら認められないから、棄却の裁決を求める。
イ 請求人が、本件確定申告書を法定申告期限内に提出しなかったこと及び本件納付税額を法定納期限内に納付したことについては、国税通則法第66条第1項のただし書きに規定する正当な理由があると認められる場合に該当しない。
ロ 申告納税制度の下においては、納税者自身の判断と責任において正しい申告を行うこととされており、原処分庁の指導があったならば本件確定申告書を法定申告期限内に提出できた旨の請求人の主張は採用することはできず、原処分は信義誠実の原則に反するものではない。

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3 判断

(1)本件は、消費税等の確定申告書を法定申告期限までに提出しなかったことについて、国税通則法第66条第1項のただし書きに規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当するか否か、また、無申告加算税を賦課することが、信義誠実の原則に反し不当か否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
 当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)原処分庁は、平成11年3月26日に請求人から法人税の確定申告書の提出期限の延長に関する相談を受けた際、本件確定申告書の提出期限に関する説明は行っていない。
(ロ)原処分庁は、平成11年5月28日に請求人が本件納付税額を納付した際、本件確定申告書の提出に関する指導は行っていない。
(ハ)本件確定申告書の提出は、消費税等についての調査があったことにより当該国税について決定があるべきことを予知してされたものではない。
ロ 原処分の適法性
(イ)国税通則法第66条第1項によれば、期限後申告書の提出があった場合には、同項のただし書きに規定する正当な理由があると認められる場合を除き、無申告加算税を課する旨規定している。
 この正当な理由があると認められる場合とは、無申告加算税を課することが不当又は酷と認められる特別な事情、例えば、災害、交通・通信の途絶等、納税者の責めに帰することのできない外的事情によるなど、法定申告期限内に申告できなかったことに真にやむを得ない理由がある場合がこれに該当し、単に納税者の税法の不知又は誤解に基づくような場合は該当しないものと解される。
(ロ)ところで、消費税の納税義務は、課税資産の譲渡等の時に成立しており、確定した決算に基づくことは、消費税等の確定申告の要件とはなっておらず、また、消費税法には、確定申告書の提出期限の延長を認める旨の規定も設けられていない。
 さらに、法人税法と消費税法とは別個の規定であるから、法人税の確定申告書の提出期限の延長適用の有無が、消費税等の確定申告書の提出期限に影響を及ぼすものでもない。
(ハ)つぎに、請求人は、法定納期限内に本件納付税額を納付しており、国には何らの損害も与えていない旨主張するが、申告納税方式を採用する国税においては、納税申告が納税義務を確定させる重要な意義を有することから、国税通則法第66条第1項の規定は、申告の適正を担保し申告納税制度を確保するために、納税義務者に課せられた税法上の義務の不履行に対する行政上の措置として、無申告加算税を課すものであり、このことは、納付すべき税額が法定納期限内に納付されたことにより左右されるものではない。
(ニ)さらに、請求人は、原処分庁が消費税等に関しては確定申告書の提出期限の延長の規定はない等の適切な指導を行っておれば、本件確定申告書を法定申告期限内に提出しており、原処分を避けることができた旨主張するが、申告納税制度の下における確定申告は、本来、納税者自身の判断と責任においてなされるべきであることから、指導がなかったとしても原処分を違法とすることはできない。
(ホ)以上のとおり、請求人の主張は、国税通則法第66条第1項のただし書に規定する無申告加算税を賦課しない場合の「正当な理由があると認められる場合」に該当しない。さらに、前記イの(ハ)の事実のとおり、本件確定申告書の提出は、消費税等についての調査があったことにより決定があるべきことを予知して提出されたものではないことから、原処分が国税通則法第66条第3項の規定により無申告加算税を賦課決定したことは適法であり、請求人の主張には理由がない。
ハ 信義誠実の原則
 租税法規に適合する課税処分について、法の一般原理である信義誠実の原則の法理の適用により課税処分を取り消すことができる場合があるとしても、租税法律主義の原則が貫かれるべき租税法律関係においては、信義誠実の原則の法理の適用については慎重でなければならず、信義誠実の原則に反するというには、租税法規の適用における納税者間の公平平等という要請を犠牲にしても、なお当該課税処分を免れさせて、納税者の信頼を保護しなければ正義に反するといえるような特別の事情が存する場合でなければならないと解される。
 これを本件についてみると、請求人の主張をもって、上記した特別な事情が存するとは認められない。
 したがって、原処分が信義誠実の原則に反し不当であるということはできない。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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