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(平12.7.25裁決、裁決事例集No.60 85頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が申告手続等を依頼した第三者である税理士が行った不正な申告の効果は、請求人に及ぶとして重加算税を賦課決定されたことの適否を争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

 請求人の代理人であるE税理士(以下「E」という。)は、請求人の平成7年分の所得税について、青色の確定申告書(分離課税用)(以下「本件確定申告書」という。)に不動産所得に係る損失の金額を71,950,528円、分離長期譲渡所得の金額を73,116,529円及び納付すべき税額を〇〇〇円並びに平成7年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)(以下「本件青色決算書」という。)に賃貸料収入金額を419,860円、その他の必要経費を72,370,388円及び不動産所得に係る損失の金額を71,950,528円と記載して、法定申告期限までに申告した。
 次いで、請求人は、原処分庁の担当職員の調査を受け、平成7年分の所得税の修正申告書(以下「本件修正申告書」という。)に総所得金額を522,925円(内訳、不動産所得の金額241,276円、一時所得の金類(所得税法第22条《課税標準》第2項第2号の規定による2分の1に相当する金額)281,649円)、分離長期譲渡所得の金額を64,980,418円及び納付すべき税額を○○○○○円と記載して平成11年2月4日に原処分庁に提出した。
 原処分庁は、これに対し、平成11年3月9日付で本件修正申告書による納付すべき税額を基礎として過少申告加算税の額を12,000円及び重加算税の額を6,009,500円とする賦課決定処分をした。
 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年3月29日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、平成11年6月29日付で棄却の異議決定をした。
 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして平成11年7月29日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年1月30日付で請求人所有のP市Q町5番24の土地及び同地上建物を82,950,000円で譲渡(以下「本件譲渡」という。)する旨の売買契約を株式会社Fと交わした。
ロ 本件譲渡代金等の状況については別表のとおりである。
ハ 請求人は、本件譲渡に係る所得税の申告手続と納税及び平成6年分の所得税の申告手続について、本件譲渡の仲介人で請求人の姪の夫であるG(以下「G」という。)から紹介されたEに委任した。
ニ 請求人は、Eから本件譲渡に伴う税金問題について当方で責任をもって申告をすること及び税務署の調査があっても当方で処理し一切迷惑のかからないことを約した平成7年2月27日付の念書(以下「念書」という。)を受け取った。
ホ 請求人は、Eに対して平成7年2月27日に税金及び税務申告手数料として12,000,000円を支払い、Eから預り証を受領した。
ヘ 請求人は、平成7年2月27日にH銀行○○支店の請求人名義の普通預金から22,680,000円を出金し、Gと共にS市へ行き、息子、娘及び孫名義で郵便局に合計22,000,000円を預け入れた。
ト 請求人は、Eから有限会社I名義の平成7年2月27日付の領収金額32,680,000円の領収証(以下「32,680,000円の領収証」という。)を受け取った。
チ 請求人は、Eから、同人が原処分庁に提出したものとは内容が異なる平成7年分の所得税の確定申告書の控(以下「本件申告書控」という。)及び本件申告書控に記載の申告納税額の納付書・領収証書の控(以下「納付書控」という。)並びに本件申告書控の添付書類としての譲渡内容についてのお尋ね兼計算書の控(以下「お尋ね計算書控」という。)を受け取った。
リ 請求人は、原処分庁から平成7年分の申告所得税の本税額○○○○円に係る平成8年5月17日付の督促状(以下「本件督促状」という。)を受け取った。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、本件譲渡に係る過少申告加算税及び重加算税の全部の取消しを求める。
 なお、一時所得に対する過少申告加算税については争わない。
イ 請求人は、Eに12,000,000円を支払ったことで平成7年分の申告関係は全て終了したと思っていた。
ロ 請求人は、国家資格を有する税の専門家であるEから、念書の差し入れを受けた上、本件申告書控及び納付書控を交付されたことから、Eが適正に税務申告手続及び納付を行ってくれたものと信用していたところ、Eは、当初から請求人を騙して金員を詐取するつもりで税務申告代理を引き受けたものであり、Eの行為は違法なものであり無効である。
ハ 原処分庁は、Eが不正を行っていたことについて、請求人は十分に認識できる状況にあった旨主張するが、〔1〕架空経費であると言われている32,680,000円の領収証については、Eが一方的に送りつけてきたものであり請求人は意味も分からないままに関係資料と共に保管していたに過ぎないものであり、〔2〕S市の郵便局に孫名義等で三口の郵便貯金口座を作成したのは、Gに指示されたためであり、〔3〕本件督促状が送達された時もGに問い合わせたところ、Gから本件督促状をEに送るよう指示されると共にEに任せておけばよく心配する必要がない旨説明されていたものである。
ニ 脱税という結果を招いたことは、税法の解釈や不知によるものでなく、E及びGの詐欺行為による「真にやむをえない理由」から生じた結果である。

(2)原処分庁の主張

 重加算税の賦課決定処分は、次のとおり適法である。
イ 本件確定申告書は、請求人が申告手続等を一任したEが、不動産所得の金額を計算する際に、請求人の本件青色決算書に架空の必要経費を計上することにより不動産所得に損失を生じさせ、その結果不正に所得税を免れていたと認められることから、国税通則法(以下「通則法」という。)第68条《重加算税》第1項の規定に該当する。
ロ また、請求人は、〔1〕Eから架空の領収証を受け取っていること、〔2〕その架空の経費の支払代金を、Eの指示に基づき遠方(○○県S市)の郵便局に、請求人以外の名義を使って預け入れていること、〔3〕Eから受け取った本件申告書控に記載された納税額○○○○○円と本件督促状の金額〇〇〇〇円に大きな差があったことなどから、請求人はEが不正を行ったことについて十分に認識できる状況にあったことが認められる。
ハ したがって、Eは請求人の確定申告について隠ぺい又は仮装を行っており、その効果は請求人にも及ぶというべきであるから、当該重加算税の賦課決定処分をしたものである。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、重加算税の賦課決定の適否にあるので、以下審理する。
(1)請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査したところによれば、次の事実が認められる。
イ 請求人が、Eから受け取った本件申告書控には、分離長期譲渡所得の金額27,440,336円、申告納税額○○○〇〇円、納付書控には、本税〇〇〇〇〇円、お尋ね計算書控には、売却代金82,950,000円、売却された資産を取得した際の金額等9,829,670円(未償却残)、売却に要した費用44,680,000円(内訳、(有)I32,680,000円、(有)E総合事務所12,000,000円)、譲渡所得金額27,440,330円と記載されており、これらにはいずれも原処分庁の受付印等は押されていない。
ロ 上記イで記載の有限会社Iは、T市U町6丁目7番51号に所在した土木建築業を営む法人であったが、平成7年8月20日に解散した。
ハ 前記イで記載の有限会社E総合事務所(以下「E事務所」という。)は、E税理士事務所と同じT市U町4丁目7番15号に所在する記帳代行業を営む法人である。
ニ 請求人が、Eから受け取った平成6年分の所得税の確定申告書の控(以下「平成6年分申告書控」という。)及び平成6年分所得税青色申告決算書(不動産所得用)の控(以下「平成6年分青色決算書控」という。)には、原処分庁の受付印が押印されている。
ホ 請求人が、原処分庁に提示したメモ書きには、「3/15〇〇〇〇+2,000(エンタイ税)」との記載がある。
ヘ 本件督促状にかかる請求人の平成7年分の所得税は、本税〇〇〇〇円、延滞税2,500円で平成8年5月24日に納付された。
ト 請求人は、原処分庁に対して次のとおり申述をした。
(イ)Eについて、本件譲渡の現金受け渡しの当時から何かおかしいと感じていたが、本件申告書控を受け取った2、3月後、妙な投資話を持ちかけられたり、譲渡代金の残金の所在をあれこれ詮索されたりして、決定的におかしいと思った。
(ロ)Eから郵送されてきた32,680,000円の領収証について、請求人は、発行者等に全く心当たりがなく、実際に金銭の支出もしていないことから、Gにどう言うことなのか聞いたが、明確な回答はもらえず、とにかく保存しておくように言われた。
(ハ)平成7年分の不動産所得について、収入は1月分のみであり、申告書に記載されている419,860円でほぼ間違いない。必要経費は記帳している収支日計式簡易帳簿からみても固定資産税等で総額100,000円前後であり、所得金額は、申告金額のように赤字になることはない。
チ 請求人は、当審判所に対して次のとおり答述をした。
(イ)Eに依頼するまでは、毎年の確定申告書は自分で書いていた。
(ロ)本件確定申告書に署名押印はしていない。
(ハ)本件督促状は、開封して督促状であることが分かったので、Gの指示でEに送った。
(ニ)E及びGに対して次の理由により、大いなる不信感を抱いていた。
A 不動産の買主である株式会社Fの取引銀行(H銀行○○支店)と取引するように言われ、実印の提出を要求された。
B 有無を言わさず、新幹線でS市に連れて行かれた。
C 税務署から書類が来るたびにGに相談すると、Eに送れと言われた。
D H銀行○○支店の預金を全額引き出したところ、EとGに呼び出され怒られた。
(2)通則法第68条第1項は、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
 そして、重加算税は、納税義務違反の発生を防止し、徴税の実を挙げるため違反者に対して課される行政上の処置であり、代理人等の第三者を利用することによって利益を享受する者は、それによる不利益をも甘受すべきであるとの原則が適用されるというべきであるから、第三者に申告を一任した場合には、その者の申告行為は納税者自身がしたものと取り扱われ、その者が国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装を行った場合には、納税者本人にもその効果が及ぶと解される。
(3)これを本件についてみると、Eの行為は、平成7年分の不動産所得について、本件青色決算書に架空の必要経費を多額に計上することにより、不動産所得に多額の損失があったごとくに見せかけ、その結果として不正に所得税を免れていたと認められることから、Eに申告手続等を一任した請求人が、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したというべきである。
(4)請求人は、Eの不正行為により本件確定申告書が提出されたのであるから、「真にやむをえない理由」がある旨主張するが、前記(2)のとおり、代理人等の第三者を利用することによって利益を享受する者は、それによる不利益をも甘受すべきであるとの原則が適用されるべきであるから、納税義務者が、納税申告書を提出するに当たり、その隠ぺい又は仮装行為を知っていたか否かによって左右されることはないと解される。
(5)なお、請求人は、Eから責任を持って申告するとの念書の差し入れを受け、税金及び税務申告手数料として12,000,000円をEに支払ってはいるが、前記(1)のとおり、〔1〕請求人は、Eから支払ったこともない32,680,000円の領収証を受け取っていること、〔2〕請求人が、Eから受け取った前記基礎事実チ記載のお尋ね計算書控には32,680,000円の領収証の金額及び請求人がEに支払った税金等であると思われるE事務所に対する12,000,000円が、売却に要した費用として記載されており、またお尋ね計算書控には譲渡所得金額として27,440,330円と記載されていること及び本件申告書控には分離長期譲渡所得金額として27,440,336円と記載されていることなどから、請求人はEに依頼した自己の申告が、32,680,000円及び12,000,000円の合計44,680,000円程度少なく申告されているのではないかと疑問を持ってしかるべきである。
 また、請求人は、〔3〕Eから受け取った平成6年分申告書控及び平成6年分青色決算書控には、原処分庁の受付印があるにもかかわらず、前記基礎事実チに掲げる本件申告書控等には前記(1)イのとおり原処分庁の受付印等がなく、〔4〕32,680,000円の領収証に係る代金の一部と思われる22,000,000円を、前記基礎事実へのとおりGの指示でS市の郵便局に預け入れており、〔5〕E及びGに対して前記(1)ト(イ)及びチ(ニ)のとおり当初より大いに不信感を抱いていたことが認められることなどからも、請求人は自己の申告が適正に行われたかどうか確認すべきであったと認められる。
 さらに、請求人は、毎年の不動産所得に係る確定申告書は、Eに依頼した平成6年分及び平成7年分を除き自分で作成していたにもかかわらず、本件確定申告書には署名、押印もせず、また、脱税という結果を招いたことが、税法の解釈や不知によるものでないと主張するのであれば、自己の申告が適正にされているかどうか当然確認すべきであるところ、これも行っていないと認められる。
(6)そうすると、Eの行為の効果は、請求人に及ぶというべきであるから、本件修正申告書に基づいてされた重加算税の賦課決定処分は適法である。
(7)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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