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(平12.8.30裁決、裁決事例集No.60 110頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、平成7年8月8日から平成8年1月31日までの事業年度(以下「平成8年1月期」という。)において売上代金の一部を売上高に計上しないで、その売上代金を平成8年2月1日から平成9年1月31日までの事業年度(以下「平成9年1月期」という。)の借入金として経理処理したことが、重加算税を賦課すべき事実に該当するか否かを争点とする事案である。
 なお、原処分庁は、別表のとおり平成8年1月期の所得金額は修正申告において欠損であり、平成9年1月期の所得金額は修正申告において欠損金控除後の金額が零円であったことから、繰越欠損金を控除して所得金額が計上された平成9年2月1日から平成10年1月31日までの事業年度(以下「平成10年1月期」という。)の修正申告による増加税額に重加算税の賦課決定処分を行ったものである。

(2)審査請求に至る経緯等

 審査請求人(以下「請求人」という。)は、養殖漁業を営む同族会社であるが、審査請求(平成11年6月8日請求)に至る経緯等は別表のとおりである。

(3)基礎事実

 次の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成7年8月8日に設立している。
ロ 請求人は、平成8年1月期以後の事業年度について青色の確定申告書を提出している。
ハ 請求人の取引先であるEから、売上代金としてF銀行H支店の請求人の代表取締役H(以下「H」という。)の個人名義の普通預金口座(以下「個人預金口座」という。)に、平成8年1月18日に7,739,729円(以下「本件売上金」という。)、同年2月9日に12,273,377円、同年12月9日に17,122,308円及び平成9年11月12日に13,173,237円(以下、これら4口を併せて「Eからの売上代金」という。)の入金がある。
ニ Eからの売上代金は、平成8年2月2日、同月19日、同年12月27日及び平成9年11月14日に個人預金口座から振込手数料を差し引いてP町Q漁業協同組合の請求人名義の別段貯金口座(以下「請求人貯金口座」という。)に振替入金されている。
ホ 請求人は、上記ニの請求人貯金口座に振り替えられた金額のうち、平成8年2月2日付の7,739,420円をHからの借入金(以下「本件借入金」という。)として経理処理し、平成9年1月期の総勘定元帳の「社内借入金」科目に、その旨記載している。
 なお、残りの3口については、平成9年1月期及び平成10年1月期の売上高として経理処理している。
ヘ 法人税の確定申告書に添付された「借入金及び支払利子の内訳書」には、Hからの借入金の期末現在高が、平成8年1月期が15,528,150円、平成9年1月期が3,413,420円とそれぞれ記載されている。
ト 請求人は、原処分庁の調査に基づき、本件売上金の計上漏れについて、別表のとおり、平成8年1月期、平成9年1月期及び平成10年1月期の修正申告書を提出している。

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2 主張

(1)請求人の主張

 本来、重加算税は脱税者の反社会性、反道徳性に対する制裁の意味をもつ附帯税であるにもかかわらず、原処分庁は、請求人が本件売上金を収益に計上せず、あたかもHからの借入金のごとく仮装したと主張し、請求人を犯罪者(脱税者)扱いしている。
 しかしながら、本件売上金が計上漏れとなったのは、取引先が間違って個人預金口座に振り込んだ本件売上金を、請求人が請求人貯金口座に振り替えた後、請求人の事務員が、請求人貯金通帳の「摘要」欄にある「漁協え」の筆跡がHのものであることから、誤ってHからの借入金として経理処理したことによる。
 なお、平成8年1月期の所得金額は欠損となっており、欠損の事業年度に売上除外をするはずがない。
 したがって、重加算税の賦課決定処分を取消し、過少申告加算税の賦課決定処分に変更すべきである。

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法である。
イ 国税通則法第68条《重加算税》第1項は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定により過少申告加算税を賦課する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税の額の計算の基礎となるべき税額に係る過少申告加算税に代え、重加算税を課する旨規定している。
ロ 請求人は、取引先であるEから上記1の(3)のハのとおり個人預金口座に入金された売上代金を、上記1の(3)のニのとおり請求人貯金口座に振替入金している。
 これらの入金は、売上げとして計上されなければならないにもかかわらず、請求人は平成8年1月18日に個人預金口座に入金された本件売上金を、平成8年1月期の収益から除外したところにより、請求人の所得金額を過少に算定して確定申告書を提出していたと認められる。
 なお、請求人は平成9年1月期において、本件売上金をHからの借入の事実がないにもかかわらず借入金として、公表の総勘定元帳に計上している。
ハ 上記ロのことは、前記イの国税通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものと認められる。
 なお、請求人は「故意に売上除外する目的で行ったものではない」旨主張するが、重加算税の賦課決定には、仮装又は隠ぺいしたところに基づいて申告を行った事実があれば足りると解されている。
 したがって、請求人の主張には理由がない。

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3 判断

 重加算税の賦課決定処分の適否に争いがあるので、以下審理する。

(1)重加算税の賦課決定処分について

イ 国税通則法第68条第1項の規定は、同法第65条第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 そして、ここでいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものと解されている。
 また、加算税制度の趣旨は、納税義務者に対して一種の行政上の制裁措置を講じることにより、納税義務違反の発生を防止し、納税申告の適正を確保して、申告納税制度の秩序を維持することにある。したがって、加算税の一種である重加算税は納税者の不正行為の反社会性又は反道徳性に対して科する刑事罰とは異なり、納税義務違反が、事実の隠ぺい又は仮装という不正な方法に基づいて行われたと判断された場合に、違反者に対して特に重い負担を課する行政上の制裁措置であると解されている。
 このような制度の趣旨にかんがみれば、重加算税を課すためには、課税標準等又は税額等の計算の基礎となる事実の全部又は一部の隠ぺい又は仮装があり、その隠ぺい又は仮装の行為を原因として過少申告の結果が発生したものであれば足り、それ以上に、申告に際し、納税者において過少申告を行うことの認識を有していることまでをも必要とするものではないと解されている。
ロ 本件について、前記1の(3)の基礎事実を上記イの法令に照らして判断すると次のとおりである。
(イ)請求人は、本件売上金が計上漏れとなったのは、請求人の事務員が本件売上金をHからの借入金として誤って経理処理をしたことによる旨主張する。
 しかしながら、前記1の(3)のハの個人預金口座に振り込まれたEからの売上代金を前記1の(3)のニのとおり、それぞれ請求人貯金口座に振替入金しているが、平成8年1月18日に個人預金口座に入金された本件売上金は請求人の平成8年1月期の売上げに計上しないで、しかも、平成8年2月2日に請求人貯金口座に振替入金後、平成9年1月期において、これをHからの借入金として経理処理している。
 このことは、請求人が本件売上金が個人預金口座に入金されたことを奇貨として、平成8年1月期においてこれを売上げから除外し、平成9年1月期において借入金に仮装して経理処理したものと解するのが相当である。
 なお、請求人は、平成8年1月期の所得は欠損となっており、欠損の事業年度に売上除外をするはずがない旨主張するが、上記のとおり、請求人が売上除外をしたことは明らかであり、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ロ)以上のことから判断して、本件は、上記イの国税通則法第68条第1項に規定する「納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するものと認められる。
ハ ところで、原処分は、請求人の平成10年1月期の修正申告により増加した所得金額を対象としているが、これは、請求人が、〔1〕平成8年1月期において本件売上金を売上げから除外し、〔2〕これに基づき、平成9年1月期以降に欠損金を過大に繰り越す確定申告書を提出し、〔3〕また、上記〔1〕の行為に基づき、平成10年1月期において、平成8年1月期から繰り越されてきた過大な欠損金を損金の額に算入して過少な所得金額の確定申告書を提出したのであるから、このことは、平成10年1月期において税額等の計算の基礎となるべき事実の一部を隠ぺい又は仮装したところに基づき確定申告書を提出したということができる。
 したがって、原処分庁が平成10年1月期を対象として重加算税の賦課決定をしたことは相当である。
ニ 以上のとおり、原処分庁が国税通則法第68条第1項の規定に基づき隠ぺいの事実に係る部分の税額を計算の基礎として、平成10年1月期の重加算税の賦課決定処分をしたことは適法である。

(2)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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