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(平12.11.15裁決、裁決事例集No.60 148頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、鋼製建具(ドア)の製造販売及び取付工事を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成9年4月1日から平成10年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、E株式会社F支店(以下「E社」という。)から受注したJ計画住宅棟工事(以下「本件工事」という。)の工事代金の一部を本件事業年度の売上げに計上しないで、売掛金の過入金として処理したことが、重加算税を課すべき事実に該当するか否かを争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯等

 別表のとおり。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 本件工事は、請求人のM支店の取引であり、平成9年12月に完了し、同月に本件工事の最終の工事代金請求のため、E社に対し請求書を発行している。
ロ 本件工事の当初契約金額は38,000,000円であったが、本件工事でE社に請求した合計金額は44,500,000円となっている。
ハ 本件事業年度内にE社から請求人が請求したとおりの金額の入金があったが、請求人は、当初契約金額と請求合計金額との差額6,500,000円を売掛金の過入金(以下「本件過入金」という。)として処理したため、当該差額6,500,000円は本件事業年度の売上げに計上されていない。
ニ 請求人は、国税局職員による法人税等の税務調査(以下「本件調査」という。)に基づき、平成11年5月26日に本件過入金を本件事業年度の売上げに加算したところで、修正申告書を提出している。

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2 主張

(1))原処分庁の主張

 原処分は、次のとおり適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件過入金が発生したのは、本件工事について契約金額の変更があり、E社に対して変更後の金額で請求書を発行していたにもかかわらず、請求人が契約金額の変更手続を行わないまま処理したためであり、適正に処理されていれば本件過入金は発生しないはずである。
 また、本件過入金の6,500,000円は、請求人のM支店の営業担当者(以下「営業担当者」という。)が本件工事の代金について、取引先であるE社と価額折衝の上、最終的に確定した金額であり、E社の指示に基づき請求書が発行されたとする事実を確認するものは何もない。
ロ なお、本件過入金の6,500,000円は、全額をまとめて売上げに計上すべき性格のものである。
 しかしながら、本件調査時には、平成10年7月30日の813,600円(税込み)と同年11月7日の2,913,600円(税込み)は売上げとして計上していたが、残額については計上していない。
ハ おって、上記ロの売上計上時には、当該売上げに対応する工事原価として、平成10年7月の500,000円と同年11月の2,000,000円を、それぞれ株式会社G(以下「G社」という。)からの仕入金額を計上しているが、当該G社からの仕入れは、本件工事とは異なるKビル地上部工事(以下「二期工事」という。)の原価として計上すべきものであるから、請求人は、これを本件工事に係る仕入れとして仮装経理している。
ニ 以上のことから、請求人は、本件工事の売上代金の一部である6,500,000円を、本件事業年度の売上げから除外することにより、本件工事の利益を圧縮し、二期工事の収益及び事後的に発生するクレーム処理に充当するために利益を留保していたことは明らかであり、この行為は国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課の対象となる仮装、隠ぺいに当たる。
ホ なお、前記イないしハの行為は営業担当者が行ったもので、請求人の代表者及びM支店長は当該行為に関与しておらず、またそれを知らなかったとしても、従業員の隠ぺい、仮装の行為は、代表者本人の行為と同一視するのが相当であり、重加算税賦課決定処分を違法ならしめる事由に該当しない。

(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、過少申告加算税相当額を超える部分の取消しを求める。
イ 請求人は、直受け物件の売上げ及び請求の処理については納入に準じて行っているが、ゼネコンは現場の出来高に応じて査定(請求依頼)をしてくるので、差異が生じる場合がある。
 本件工事の場合、営業担当者は、本件過入金の内容についてE社との間で明確な取り決めをしていなかったが、E社からの指示(請求依頼)もあり、本件工事の代金として請求したものである。
 また、営業担当者は、本件工事が完了した後も本件過入金の内容が、追加工事の発生につながる可能性があると考え、そのまま放置したため本件事業年度の末では過入金のままとなっている。
 なお、通常、ゼネコンからの追加工事の発注は、新たな注文書は発行せず、口頭又は電話で依頼してくるものである。そうしたことから、請求人においては、注文書がないために追加工事の有無は工事終了後においても判明しないので、決算期末においては継続工事であったと判断し、過入金処理をせざるを得なかったものである。
 したがって、上記経過から本件工事の当初契約金額は38,000,000円であったが、請求人のM支店が請求したとおり、E社から44,500,000円の入金があったために差額の6,500,000円が本件過入金となったものである。
ロ 請求人は、平成10年7月30日に813,000円、同年11月7日に2,913,600円をそれぞれ売上げに計上し、翌決算期末である平成11年3月31日に残額分を売上計上している。これは、「仕入れの支払いをする場合、仕入れに見合う売上げがなければならない。」とする社内ルールにより、本件過入金の売上処理を、仕入れ(スチールサッシの納入)の発生に合わせたものである。
 したがって、請求人は、前記経理処理を意図的に行ったものではない。
ハ 本件工事に係る請求行為は、営業担当者が行ったものであり、請求人の代表者及びM支店長は知らなかったことである。

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3 判断

 重加算税の賦課決定処分の適否に争いがあるので、以下審理する。

(1)重加算税の賦課決定処分について

イ 原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件過入金は、本件工事の最終代金の請求時に、請求人とE社が本件工事の工事金額について話合いの上、請求人がE社へ請求し、請求金額のとおり請求人に支払われたことを原因として発生している。
(ロ)請求人は、本件過入金について本件事業年度の末には本件工事に追加工事の可能性があり、その追加工事に対応する入金であった旨主張するが、E社に対して当該取引内容を確認したところ、本件過入金は明らかに本件工事に属するものであり追加工事等の事実は認められない。
(ハ)請求人は本件過入金をE社からの売掛金の入金として、本件事業年度に経理処理している。
(ニ)本件工事について、請求人が、E社に発行している請求書の契約金額欄には、最終請求に至るまで、当初の契約金額である38,000,000と記入されているが、その他の記入欄(物件名、御買上合計額、当月御請求額等)には、E社との取引と合致した内容が記入されており、御買上合計額の総計は44,500,000円となる。
(ホ)本件過入金は、全額が平成10年4月1月から平成11年3月31日までの事業年度(以下「翌事業年度」という。)の売上げに計上されている。
ロ 国税通則法第68条第1項の規定は、同法第65条《過少申告加算税》第1項の規定に該当する場合において、納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づき納税申告書を提出したときは、当該納税者に対し、過少申告加算税に代えて重加算税を課する旨規定している。
 そして、ここでいう事実を隠ぺいするとは、課税標準等の計算の基礎となる事実を隠匿しあるいは故意に脱漏することをいい、事実を仮装するとは、所得、財産あるいは取引上の名義等に関し、それが事実であるかのように装う等、故意に事実をわい曲することをいうものとされている。
ハ 本件について、前記1の(3)の基礎事実及び前記イの事実を上記ロの法令に照らして判断すると次のとおりである。
(イ)原処分庁は、請求人が売掛金の過入金となったことについて、請求人が契約金額の変更手続を行わないままに処理したためである旨主張するが、これについて請求人には、前記イの(ロ)の事実が認められるものの、前記イの(イ)、(ハ)、(ニ)及び(ホ)の事実からして本件過入金の売上げ計上漏れが国税通則法第68条第1項に規定する課税標準の基礎となるべき事実の仮装、隠ぺいに当たるとまでは認められない。
(ロ)原処分庁は、請求人が本件過入金を売上げに計上していたのは、平成10年7月30日の813,600円と同年11月7日の2,913,600円のみであり、また、売上計上に当たっても、その対応する工事原価として平成10年7月の500,000円と同年11月の2,000,000円をそれぞれG社からの仕入金額を計上しており、請求人は、二期工事の仕入れを本件工事に係るものとして原価を付け替え、仮装経理している旨主張する。
 しかしながら、請求人の行った上記の処理は、翌事業年度の中で行われており、本件事業年度の所得金額の増減にかかわりのないことから、この点に関する原処分庁の主張には、理由がない。
 なお、原処分庁は、請求人の行った原価の付け替えが、本件事業年度の利益調整のための仮装行為と主張するが、それを裏付ける事実は認められない。
(ハ)そうすると、その他を判断するまでもなく本件について、国税通則法第68条第1項に規定する重加算税を賦課することは相当でない。
(ニ)他方、本件において本件過入金が、本件事業年度の売上げに計上されていなかったことに国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、重加算税の賦課決定処分は、過少申告加算税相当額を超える部分の金額についてその一部を取り消すのが相当である。
(2)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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