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(平12.10.30裁決、裁決事例集No.60 247頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が、同人を契約者、その妻を被共済者とする生命共済契約により受領した死亡共済金について、当該生命共済契約に係る掛金の負担者は妻であり、死亡した妻からの相続財産とみなされて非課税所得となるのか、当該掛金の負担者は請求人であり、一時所得として所得税の課税対象となるのかが争われた事案である。

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、会社員であり、平成10年分の所得税について、確定申告書を提出していなかったところ、原処分庁は、平成11年9月29日付で、次表のとおりの決定処分(以下「本件決定処分」という。)及び無申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ロ 請求人は、これらの処分を不服として、本件決定処分については平成11年10月8日に、また、本件賦課決定処分については同年11月9日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年12月27日付でいずれも棄却の異議決定をした。
ハ 請求人は、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成12年1月8日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人が、Jと締結していた個人定期生命共済契約(以下「本件共済契約」という。)の内容は、次表のとおりである。

ロ 本件共済契約に係る掛金(以下「本件共済掛金」という。)について、平成10年3月30日、同年4月28日及び同年5月28日に各3,000円(合計9,000円)の支払がなされたところ、同年5月24日に被共済者であるFが病気により死亡し、これにより、同年6月25日に本件共済契約に係る死亡共済金(以下「本件死亡共済金」という。)6,000,000円がJから請求人に支払われた。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件決定処分について
 本件共済掛金を実質的に負担していたのは、次のとおり請求人の妻であるFであるから、本件死亡共済金は、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号の規定に該当し、相続により取得したものとみなされる財産(以下「みなし相続財産」という。)となる。
 したがって、本件死亡共済金は、所得税法第9条《非課税所得》第1項第15号の規定により非課税所得に該当する。
(イ)請求人とFは共働きで、その生活費を共同して負担していたが、個人の趣味に関する費用や自分の死亡により当面必要となる葬儀費用等については、個人の責任において負担することとしていたのであり、本件共済掛金を実質的に負担していたのはFである。
(ロ)なお、本件共済掛金の支払は、請求人名義の普通預金口座(G銀行○○支店扱い、口座番号○○○○。以下「本件預金口座」という。)から口座振替の方法によりなされているが、これは、請求人とFとの間において、口座振替の方法で支払う場合には、本件預金口座を使用することにしていたことによるものであり、本件預金口座から支払がなされているからといって、本件共済掛金を請求人が負担していたことの理由にはならない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件決定処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件決定処分について
(イ)本件共済契約の契約者及び本件死亡共済金の受取人は請求人であり、現に、本件共済掛金はすべて請求人名義の本件預金口座から口座振替の方法により支払われているのであるから、本件共済掛金をFが負担していたとする具体的な事実が確認できない以上、本件共済掛金を実質的に負担していたのは請求人といわざるを得ない。
 したがって、請求人が受領した本件死亡共済金はみなし相続財産には該当せず、請求人の一時所得に該当することとなる。
(ロ)納付すべき税額について
 以上によれば、請求人の平成10年分の納付すべき税額は、次表のとおり499,300円となり、この金額は、本件決定処分に係る納付すべき税額と同額であるから、本件決定処分は適法である。
 なお、総所得金額等については、以下のとおり算定した。

A 総所得金額
 総所得金額は、次の(A)の給与所得の金額と、次の(B)の一時所得の総所得金額に算入される金額との合計額である。
(A)給与所得の金額
 給与所得の金額は、請求人の平成10年中における株式会社Hからの給与等に係る収入金額を基として所得税法第28条《給与所得》第4項の規定により算定した金額である。
(B)一時所得の金額
 一時所得の金額は、請求人が受領した本件死亡共済金6,000,000円から本件共済掛金9,000円を控除し、さらに、所得税法第34条《一時所得》第3項に規定する一時所得の特別控除額500,000円を控除した金額5,491,000円である。
 なお、一時所得については、所得税法第22条第2項第2号の規定により一時所得の金額の2分の1に相当する金額2,745,500円が総所得金額に算入される金額となる。
B 所得控除の額
 所得控除の額は、請求人の平成10年分の給与所得の源泉徴収票(以下「本件源泉徴収票」という。)に記載された社会保険料控除の額、生命保険料控除の額、損害保険料控除の額、扶養控除の額及び所得税法第86条《基礎控除》第1項に規定する基礎控除の額を合計した金額である。
 なお、請求人の場合、総所得金額が5,000,000円を超えることから、所得税法第2条《定義》第1項第31号の2の規定により、同法第81条《寡婦(寡夫)控除》に規定する寡夫控除の適用はない。
ロ 本件賦課決定処分について
 請求人の場合、国税通則法第66条《無申告加算税》第1項に規定する「正当な理由があると認められる場合」に該当しないので、同項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

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3 判断

(1)本件決定処分について

イ 相続税法第3条第1項第1号は、被相続人の死亡により相続人その他の者が生命保険契約(これに類する共済に係る契約を含む。)の保険金(共済金を含む。)を取得した場合においては、当該保険金受取人(共済金受取人を含む。)について、当該保険金のうち被相続人が負担した保険料(共済掛金を含む。)の金額の当該契約に係る保険料で被相続人の死亡の時までに払い込まれたものの全額に対する割合に相当する部分は、当該保険金を取得した者が当該保険金を相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定している。
ロ そこで、本件共済掛金の負担者についてみると、上記1の(3)のとおり、本件共済契約の契約者及び本件死亡共済金の受取人は請求人であり、本件共済掛金は請求人名義の本件預金口座から口座振替の方法により支払われていることは、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
 そして、商法第683条において準用する同法第647条の規定によれば、保険契約の契約者は保険料を支払う義務があり、実際上も保険契約者が保険料を負担するのが通常であることを考えると、特に反証のない限り、本件共済契約の契約者である請求人が、本件共済掛金の実質的な負担者であると事実上推定されるというべきである。
ハ この点、請求人は、請求人とFとの間においては、例えば自己の死亡により当面必要となる葬儀費用等については、各自が負担することになっていたとして、本件共済掛金を実質的に負担していたのはFである旨主張し、当審判所に対し、本件共済掛金をFから直接受け取っていたわけではないが、共済掛金等の費用が各自の負担となるように生活費の全体の負担を調整していた旨答述する。
 しかしながら、請求人も、Fが本件共済掛金を実質的に負担していたことを証する客観的な資料はないというのであるし、当審判所の調査によっても、Fが本件共済掛金を実質的に負担していたことを裏付けるに足る証拠資料は見当たらない。
 したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ニ また、請求人は、請求人とFとの間において、共通の生活費等を口座振替の方法で支払う場合には、本件預金口座を使用することとしていたと主張して、当審判所に対し、主に請求人の収入を本件預金口座に入金していたが、公共料金等の支払によって不足が生ずる場合には、Fが入金することもあったとも答述する。
 しかしながら、本件預金口座に、Fが入金することがあったとしても、これにより同人が本件共済掛金を実質的に負担していたことになるわけではないのであって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ 以上のとおり、本件共済掛金の実質的な負担者は請求人と推定され、当審判所の調査によっても、この推定を覆すに足りる証拠資料は見当たらない。
 そして、本件共済掛金の負担者が請求人と認められる以上、本件死亡共済金は、みなし相続財産には該当せず、非課税所得にも該当しないこととなり、請求人の所得税の課税対象となる。
 なお、所得税の課税対象となる死亡共済金を一時金で受け取った場合、当該共済金は、所得税法第23条《利子所得》から第33条《譲渡所得》までに規定する所得のいずれにも該当せず、また、営利を目的とする継続的行為から生じた所得以外の一時の所得で労務その他の役務又は資産の譲渡の対価としての性質を有しないから、同法第34条第1項に規定する一時所得に該当することになる。
ヘ 納付すべき税額について
 以上の結果、原処分庁が認定した、給与所得の金額、一時所得の金額及び所得控除の額は、当審判所の調査によっても相当と認められる。
 したがって、請求人の納付すべき税額は次表のとおりとなり、この金額は、本件決定処分に係る納付すべき税額と同額であるから、本件決定処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件決定処分は適法であり、また、請求人の場合、国税通則法第66条第1項ただし書に規定する期限内申告書の提出がなかったことについて正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてした本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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