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(平12.9.25裁決、裁決事例集No.60 296頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1)事案の概要
本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)の土地の譲渡所得につき所得税法第64条《資産の譲渡代金が回収不能となった場合等の所得計算の特例》第2項に規定する保証債務が存在していたか否かを主な争点とする事案である。
(2)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成5年分の所得税の確定申告に当たり、P県Q市R町2754番5及び同所2754番8所在の土地(以下、この2筆の土地を「本件土地」という。)を平成5年6月18日にG株式会社(以下「G社」という。)に譲渡(以下「本件譲渡」という。)したのは、請求人の保証債務を履行するためであるとして、所得税法第64条第2項の規定による「保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合の課税の特例」(以下「本件特例」という。)を適用し、確定申告書(分離課税用)の「特例適用条文」欄に「法64―〔2〕」と記入の上、次表の「確定申告」欄記載のとおり法定申告期限までに申告し、次いで、同表の「修正申告」欄記載のとおり修正申告書を提出した。
ロ 原処分庁は、これに対し、本件譲渡は保証債務を履行するための譲渡には当たらず、本件特例の適用はできないとして、次表の「更正処分等」欄記載のとおり、更正処分及び重加算税の賦課決定処分をした。
ハ 請求人は、前記ロの処分を不服として、平成10年3月24日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は同年6月25日付でいずれも棄却の異議決定をしたので、同年7月10日に審査請求をした。
(3)基礎事実
以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、本件土地を平成5年6月18日にG社へ96,970,000円で譲渡し、また、請求人の妻のH(以下、請求人とHを併せて「請求人ら」という。)は、同日にP県Q市R町2754番6及び同所2754番7所在の土地(以下、この2筆の土地と本件土地を併せて「本件土地等」という。)をG社へ10,220,000円で譲渡しており、請求人らの本件土地等の譲渡代金の合計額は107,190,000円(以下「本件譲渡代金」という。)である。
ロ 本件譲渡代金は、G社から平成5年6月17日に3,020,000円、同月18日に20,000,000円、同年9月10日に80,000,000円及び同年10月7日に4,170,000円が請求人らへ支払われている。
ハ 請求人は、本件特例を適用するため、平成5年分の確定申告書に次の書類を添付して申告した。
(イ)Iの借入金に係る保証債務関係
A 昭和59年3月29日付の債権者J、債務者をI、連帯保証人を請求人らとする債務金額36,300,000円の連帯借用証書(以下「I連帯借用証書」という。)(写)
B 債権者Jの、債務者請求人に対する債権金額36,300,000円に係る平成5年5月19日付のP簡易裁判所平成○年(○)第○○○○号事件仮執行支払命令(以下「本件支払命令」という。)(写)
C 請求人らの、Iに対する平成6年1月27日付の求償権放棄通知書(写)
(ロ)Kの借入金に係る保証債務関係
A 平成2年9月25日付の債権者J、債務者をK、連帯保証人を請求人らとする債務金額65,000,000円の連帯借用証書(以下「K連帯借用証書」という。)(写)
B 原告J、被告K、同請求人に係る平成5年7月22日付のP地方裁判所平成○年(○)第○○○○号貸金請求事件の判決(以下「本件判決」といい、本件支払命令と併せて「本件判決等」という。)(写)
C 請求人らの、Kに対する平成6年1月27日付の求償権放棄通知書(写)
(ハ)Jの元利弁済金受領関係
平成5年10月10日付のJが、K及びIの連帯保証債務の元利弁済金として、1億700万円を請求人らから領収した旨の領収証(以下「本件領収証」という。)(写)
ニ Jは請求人らの長女の夫であり、IはHの姪の夫である。また、Kは請求人らの仕事上の知人である。
2 主張
(1)請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 更正処分
次表記載の貸主Jからの、借主I及び借主Kの借入れ(以下、この2件の借入れを「本件借入れ」という。)が存在したこと並びに本件借入れの連帯保証人であった請求人らの保証債務(以下「本件保証債務」という。)の履行の事実については、いずれも現金決済であることから客観的な裏付けはないが、次の理由から本件借入れの存在及び本件保証債務の履行は架空の話ではなく、したがって、その事実はないとした更正処分には事実誤認がある。
(イ)本件借入れ及び本件保証債務
A 平成10年4月13日付のIの報告書(以下「I報告書」という。)にあるとおり、請求人らは、電気設備工事業を営んでいたIが詐欺に遭う等により資金繰りに困り、昭和57年ころから貸金業を営んでいたJから数回にわたり借入れを重ねていたことから、昭和59年にそれら借入金を一つにまとめて36,300,000円とした際に、同人からの当該借入れの連帯保証人となった。
B 請求人らは、不動産の地上げをしていたKとは不動産業上の付合いがあり、同人から地上げブームにより膨大な利益が上がる旨の説明を受け、また、平成10年4月13日付のKの報告書(以下「K報告書」という。)にもあるとおり、毛皮取引のための資金調達の協力要請もあったことから、Jからの借入金の連帯保証人となった。
C 本件借入れの事実並びにその使途については、J、K及びIの各陳述書から明らかであり、本件保証債務が事実であることを証するものとしては、I連帯借用証書及びK連帯借用証書(以下、I連帯借用証書と併せて「本件連帯借用証書」という。)が存在しており、本件連帯借用証書及び平成3年12月1日付の借入金返済予定表(以下「本件返済予定表」という。)の原本等は、紙質、体裁等から見てもかなり古いものであり、さらに、本件判決を受けるために訴状に添付した印鑑証明書の発行日付は平成2年9月25日及び同年11月9日であることからも、これらの書類等はその当時に作成したものである。
D Iに係る保証債務は前記イの36,300,000円以外に18,000,000円あり、総額54,300,000円であるが、Kに係る保証債務額65,000,000円と合わせると119,300,000円となり、本件土地等の売値が1億円余りであることから弁済額には不足することになる。このため、54,300,000円については、本件土地等の売買交渉が進んだ平成3年12月1日において、〔1〕I連帯借用証書を作成し、〔2〕残りの18,000,000円については後日清算する旨の本件返済予定表を作成した。
なお、平成3年ころすでに本件土地等の売値が1億円余り(坪単価20万円)であったことは、G社常務取締役L(以下「L常務」という。)からの平成10年11月10日付の「回答書」(以下「本件回答書」という。)に「平成3年当時から、G社との間で本件土地等の譲渡の話があり、本件譲渡代金が1億円余り(坪単価20万円位)であった」旨の記載があることからも明らかである。
E Jが、Kへの前記Cの貸金について、請求人ら及びKに対し、平成5年5月7日付でP地方裁判所に貸金請求の訴訟を提起し、請求人及びKに対してその借入金を支払えとの本件判決を得たこと並びにIへの前記Cの貸金について、請求人らに対し、同月11日にP簡易裁判所に貸金の支払命令手続をして請求人に対する本件支払命令を得るとともに、それに基づいて強制競売の手続をとったこと(後に取下げ)は公文書により明白である。
F なお、連帯保証は人間関係からやむなく行うのが実情で、主たる債務者の返済能力を十分に判断して行うことの方が少ないのが普通であり、そもそも、主たる債務者の返済能力が十分なら、連帯保証など初めから求めないものである。
また、請求人は、平成5年3月18日にP家庭裁判所で準禁治産宣告を受けているが、このことは請求人が極めて安易に他人の連帯保証をしてしまう性格であることを証明するもので、本件保証債務において、I及びKの返済能力などを十分に調査しないまま連帯保証したとしても矛盾はなく、十分あり得ることである。
(ロ)本件保証債務の履行
A 請求人らは、Jから前記(イ)のEのとおり本件保証債務の履行を強く求められたことから、やむなく、G社に本件土地等を107,190,000円で譲渡した。
B 請求人らは、本件譲渡代金のうち、平成5年9月10日に受領した80,000,000円を本件保証債務の履行のための内金として、同日にHが作成したN銀行○○支店のJ名義の普通預金(口座番号○○○○、以下「J名義預金」という。)に入金し、当該預金通帳をJに届けたが、同人から、「同年10月10日までに現金で一括弁済せよ」と言われ、その受取りを拒否されたことから、請求人らはJ名義預金の80,000,000円のうち、50,000,000円は銀行員の求めに応じて2口の定期預金とし、残金は支払に備えて現金保管とした。
C 請求人らは、平成5年10月10日に107,000,000円を現金でJに返済したが、その返済資金の内訳は、本件譲渡代金のうち手許に保管していた37,000,000円と残り70,000,000円については、請求人の義父であるOが現金で保管していた50,000,000円及び請求人の義母であるSがHに預けていた現金20,000,000円を借り入れたものであり、このことは、平成10年12月1日付で提出したO及びSの会話録取書からも明らかである。
D 請求人らは、前記(イ)のD記載のIの保証債務18,000,000円を最近弁済しており、Jから当該保証債務に係る連帯借用証書3通の返還を受けたので証拠として提出する。
(ハ)なお、本件譲渡代金は、前記(ロ)のとおり、直接には本件保証債務の履行のために使われていない部分があるものの、80,000,000円を本件保証債務履行のために、いったんJ名義預金とした事実があり、結果として前記(ロ)のCのとおり、O及びSからの借入金と本件譲渡代金により弁済したが、もともと金に色がついているわけではなく、一時的に本件譲渡代金を他に流用したとしても全体として見れば、本件譲渡代金が最終的には保証債務の履行に充てられているから、本件特例の適用がなされるべきである。
ロ 重加算税の賦課決定処分
前記イのとおり、更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い重加算税の賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。
(2)原処分庁の主張
次の理由から、原処分は適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 更正処分
(イ)本件保証債務の存在
次の理由から、本件保証債務が存在したとは認められない。
A I及びKを調査した結果によれば、両人ともその借入金の使途が一切不明であり、本件借入れが存在した事実は認められない。
B 請求人は、本件連帯借用証書は紙質等が古いこと及び添付された印鑑証明書の発行日付からしても当時作成された真実の書類である旨主張するが、本件連帯借用証書及び印鑑証明書の存在をもって借入れの事実が証明されるものではなく、さらに、Kの借入れの事実を証するものとして提出されたK報告書は請求人が作成したものであり、また、Iの借入れの事実を証するものとして提出されたI報告書は当事者が作成したものであるが、いずれも信ぴょう性がなく、本件保証債務の存在を裏付けるものとはいえない。
なお、請求人が準禁治産宣告を受けたとしても、本件保証債務の事実が証明されたことにはならない。
(ロ)本件保証債務の履行
本件譲渡代金は,次のとおり請求人らの定期預金、Hの借入金の返済等に充てられており、本件保証債務の履行に充てられていないことからも、本件借入れが存在したとは認められない。
A 本件譲渡代金のうち20,000,000円は、平成5年6月18日にN銀行○○支店のH名義の普通預金(口座番号○○○○、以下「H名義預金」という。)に入金され、そのうちの10,000,000円は、同月25日に出金されて同銀行でH名義の定期預金とされた後、平成6年10月21日に解約されて同銀行の同人名義の手形借入れの返済に充てられている。
B また、本件譲渡代金のうち80,000,000円は、平成5年9月10日にJ名義預金に入金され、その後、請求人らによって次のとおり費消されている。
なお、これらの手続等はすべてHが行っていることから、J名義預金の実質所有者は請求人らと認められる。
(A)Hは、平成5年9月20日に21,000,000円を出金し、そのうち10,000,000円は、T生命保険相互会社からの同人の借入金の返済に充て、残りの11,000,000円はN銀行○○支店の同人名義の手形借入れの返済に充てている。
(B)Hは、平成5年9月22日に49,000,000円を出金し、同日にN銀行○○支店において請求人名義の20,000,000円及び2,000,000円の各定期預金並びにH名義の定期預金30,000,000円の資金に充てている。
(C)その後、前記(B)の請求人名義の定期預金20,000,000円は、平成6年10月21日に解約されてHのN銀行○○支店からの手形借入れの返済に充てられ、請求人名義の定期預金2,000,000円は、平成8年11月にN銀行××支店に移管されている。また、H名義の定期預金30,000,000円は、平成6年1月20日に解約されて10,000,000円が現金で出金され、残金は定期預金利息を加えた20,143,606円がJ名義預金に入金されている。
(ハ)本件特例の適用
本件特例の適用を受けるためには、保証債務の存在及び当該保証債務を譲渡代金によって履行することが要件であるところ、前記(イ)及び(ロ)のとおり本件保証債務が存在したとは認められないことから、請求人の譲渡所得の計算に当たり本件特例の適用は認められないとした更正処分は適法である。
なお、請求人は本件譲渡代金を一時的に他に流用しても、最終的には本件保証債務の履行に充てており、本件特例の適用がなされるべきである旨主張するが、本件保証債務の存在が認められないことから、請求人の主張には理由がない。
ロ 重加算税の賦課決定処分
前記イのとおり、更正処分は適法であり、請求人は本件保証債務が存在しないにもかかわらず、虚偽の保証債務関係書類を作成し、本件譲渡があたかも保証債務を履行するための譲渡であるかのごとく仮装して所得税を免れており、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する重加算税の賦課要件を満たしていることから、重加算税の賦課決定処分は適法である。
3 判断
(1)更正処分
本件保証債務が存在したか否か及び本件譲渡代金が本件保証債務の履行に充てられたか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)本件土地等
請求人らは、G社との間で、平成5年3月2日に本件土地等を含めた近隣の土地を貸し付ける旨の「事業用借地権設定契約のための覚書」をそれぞれ締結したが、その後、同年6月に当該覚書の賃貸借面積から本件土地等を除いた後の面積により賃貸する旨の「一般定期借地権設定契約書」をそれぞれ締結している。
(ロ)K連帯借用証書
請求人らが、原処分庁に提出したK連帯借用証書の保証人欄にはHの署名があるが、JがP地方裁判所に提出した同連帯借用書の保証人欄にはHの署名がないことからすると、Hの署名は、当該連帯借用証書がP地方裁判所に提出された後にHによって加筆されたものと認められる。
(ハ)本件回答書
本件回答書には、〔1〕本件譲渡代金の決済状況は、前記1の(3)のロのとおりである旨、〔2〕本件土地等の譲渡は、平成3年ころから坪単価20万円位の話であった旨及び〔3〕本件譲渡代金の坪単価20万円は、平成5年度に駐車場の件で契約が成立した旨記載されているが、L常務は、当審判所に対して「本件回答書は、本件譲渡代金の決済状況のみを記載して回答したものであり、本件土地等の売買交渉の開始時期及び譲渡代金の坪単価については、記載していない」旨答述していること並びに本件回答書の〔1〕部分の筆跡と〔2〕及び〔3〕の部分の筆跡とは明らかに異なっていることからすると、〔2〕及び〔3〕の部分は、本件土地等の譲渡の話が平成3年ころからあったものとするために、請求人らによって加筆されたものと認められる。
(ニ)本件返済予定表
A 本件返済予定表の記載の要旨は、平成3年12月1日において、〔1〕Kの借入金65,000,000円を土地代金で全額支払う旨及び〔2〕土地売買代金がI及びKの借入合計金額に不足することから、Iの借入金については、その一部36,300,000円の借用証書を昭和59年3月29日付で作成し、残り18,000,000円については後日清算する旨となっている。
B 本件返済予定表について請求人らは、本件土地の譲渡の話が進んだ平成3年12月1日に作成した旨答述しているが、本件譲渡の仲介業者である有限会社U代表取締役〇〇〇〇の答述によれば、本件土地等の売買の話は、平成4年の秋ころに本件譲渡の仲介業者であるV不動産の代表者○○○○から、本件土地等をG社のパチンコ店用地にとの話があり、最初は土地を賃貸借することで話が進んでいたが、その後、賃貸借であると問題があるので売買することになった。また、坪単価については、20万円以上の提示があったが、最終的には本件土地等の譲渡の約1か月前の平成5年5月ころに20万円で交渉が成立したとしており、当該答述は、前記(イ)及び(ハ)の認定事実にも符合することから、本件返済予定表は、本件土地の譲渡の話がまとまった平成5年5月以降において、日付をさかのぼって作成されたものと認められる。
(ホ)本件判決等
A 本件判決は、JがKに対する貸金について、請求人とKに対して平成5年5月7日付でP地方裁判所に貸金請求の訴訟を提起した結果、同年7月22日に判決が言い渡されたものであるが、これは、請求人及びKが口頭弁論期日に出頭せず、答弁書及びその他の準備書面も提出しなかったことからJの請求どおりの判決が言い渡されたものであり、貸金の存在等について、同地方裁判所が実質審理をした結果のものとは認められない。
B 本件支払命令は、JがIに対する貸金について、請求人に対して平成5年5月11日P簡易裁判所に支払命令の申立てを行った結果、請求人が本件支払命令に対して異議の申立てを行わなかったことから同月19日にJの請求どおり決定したものであり、貸金の存在等について実質審理をした結果のものとは認められない。
ロ 関係人の答述等
(イ)Jは、当審判所に対して次のとおり答述している。
A Iへの貸付けは、妻の両親である請求人らが間に入り借入れの申込みがあったが、請求人らには財産もあり、連帯保証人にもなるというので、別表1のとおり、すべて現金で貸し付け、連帯借用証書もそれぞれ作成した。
さらに、平成3年12月1日において、これらを最終借入日である昭和59年3月29日付の額面36,300,000円と平成3年12月1日付の額面18,000,000円との2通の連帯借用証書に作成替えし、当初作成した7通の連帯借用証書はその際すべて破棄した。また、18,000,000円の連帯借用証書については、当該貸付けが完済された後、Hが自宅に来た際に妻が返還した。
なお、返済の督促は、請求人らに口頭で行っていた。
B Kとは全く面識がなかったが、妻の両親である請求人らが借りに来て、両名が連帯保証人になるというので、別表2のとおり、すべて現金で貸し付けて連帯借用証書をそれぞれ作成したが、平成2年9月25日にこれらをまとめて額面65,000,000円の連帯借用証書に作成替えし、その際に3通の連帯借用証書はすべて破棄した。
なお、Kに対して貸金の返済及び利息の支払の督促は1回もしていない。
(ロ)Iは、当審判所に対して次のとおり答述している。
A 借入金の一部は、私の母の友人である「W某(詳細不明)」から、投資をすれば戦争中の隠し資産であるM資金から無利息で借入れができると「X某(詳細は不明)」を紹介されたので、M資金より5,000万円から1億円程度借りるつもりでX某に約3,000万円支払ったが、借入れは実現しなかった。詐欺に遭ったものであるが、支払った事績を証明するものがないことから金は返ってこないだろうと思い、警察に被害届は出していない。また、今となってはX某の住所、氏名も記憶になく書類も残っていない。
B その他は会社経営の資金繰りに使用したが、その事績を証明する資料は残っていない。
C 借入金総計54,300,000円については、借入れに際し、J及び請求人らから担保等が必要であるとは言われず、また、Hを通じて借りていたことから督促も受けていない。当該54,300,000円は、Hが返済したと聞いており、内容については分からない。さらに、返済等を確認できる書類もない。
D また、当該54,300,000円は7通の連帯借用証書の合計であるが、平成3年ころにおいて、Hが土地を売却して返済する36,300,000円と18,000,000円との連帯借用証書2通に作成替えしたが、当該7通の連帯借用証書については、Jの妻から返還を受けてその時に破棄した。
(ハ)請求人は、Kの陳述書を当審判所に提出しているが、その要旨は次のとおりである。
A 平成元年12月及び平成2年3月の借入金計30,000,000円の使途は、株式会社○○○○及び株式会社○○○○から昭和58年3月及び同59年9月にそれぞれ借りた合計40,000,000円について返済できなくなっていたところ、担保提供者であるYが弁済してくれたことから、その返済に20,000,000円、残りの10,000,000円は自分が費消した。
B 平成2年9月の借入金35,000,000円の使途は、毛皮取引のため、○○県の毛皮業者に現金で前払したが、彼等が暴力団関係者であったことから商品も届かず、お金も返してもらえなかった。
ハ ところで、所得税法第64条第2項は、保証債務を履行するため資産の譲渡があった場合において、保証債務の履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときは、その行使することができないこととなった金額に対応する譲渡の金額はなかったものとみなす旨規定しており、本件特例を適用するに当たっては、〔1〕資産の譲渡前に保証債務の履行義務が具体的に確定しており、その履行をしなければならない状況にあったこと、〔2〕その保証債務を履行するために必要な資金の捻出を主たる目的としてその資産を譲渡したものであること、〔3〕その譲渡代金をもって保証債務を履行し、主たる債務を消滅させたこと及び〔4〕それにより取得した求償権の行使が不能であることなどの要件を充足し、通常、資産を譲渡することと保証債務を履行することとが、直接的なつながりがある場合をいうものと解される。
すなわち、本件特例は、その資産の譲渡が「保証債務を履行するため」に行われることが要件となっているから、資産の譲渡前に保証債務が存在することが前提となる。
ニ そこで、前記イの事実及びロの(イ)ないし(ハ)の答述等をハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)本件連帯借用証書
本件返済予定表は、前記イの(ニ)のBで認定したとおり平成5年5月以降において、日付をさかのぼって作成されたものであり、そうすると本件返済予定表を基に作成替えしたと主張するI連帯借用証書も、本件土地の譲渡の話がまとまった平成5年5月以降において、その日付をさかのぼって作成されたものと認められる。
さらに、本件連帯借用証書の連帯保証人欄のHの署名は、Hが本件連帯借用証書作成時に署名した旨請求人らは答述しているが、K連帯借用証書において、前記イの(ロ)のとおり、JがP地方裁判所に提出した後にHの署名が加筆されていることから判断すると、請求人らの答述は信ぴょう性が低く、本件連帯借用証書は平成5年5月以降に作成されたものと認めるのが相当である。また、本件判決を受けるために訴状に添付した印鑑証明書の存在を証拠としているが、前記判断に影響を及ぼすものではない。
なお、請求人は3通の連帯借用証書(合計18,000,000円)を証拠として提出し、Iの借入れの事実がある旨主張するが、当該連帯借用証書について、Jは、7通の連帯借用証書は2通にまとめた際にすべて破棄したと答述しており、また、Iにおいても、2通にまとめたときに7通の連帯借用証書はすべて破棄したと答述していることからすると、当該3通の連帯借用証書は現存していないこととなり、したがって、提出された当該3通の連帯借用証書は偽装されたものと認められ、Iの借入れの事実を証明するものとはならないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)本件判決等
本件判決及び本件支払命令は、前記イの(ホ)で認定したとおりいずれも貸金の存在等を実質審理したものとは認められないことから、本件判決及び本件支払命令の存在をもって本件借入れが存在したとはいえない。
仮に、請求人の主張するとおり本件保証債務が存在し、本件土地等の譲渡が本件保証債務を履行するためのものであったとするならば、請求人らにおいて、Jに対して本件土地等の譲渡により本件保証債務を履行する旨の本件支払予定表を渡しており、Jにおいてもこのことは認識していたはずであるところ、同人がわざわざ義父である請求人に対し、本件土地等の譲渡の話がまとまった時期である平成5年5月7日付でP地方裁判所へ貸金請求の提起及び同月11日のP簡易裁判所への支払命令の申立て並びにその後の競売の申立てをすること自体、不自然である。
そうすると、これらの訴訟等は本件土地の譲渡の話がまとまった時期に作成した前記(イ)の本件連帯借用証書を基に、あたかも本件借入れが存在し、本件保証債務があったかのように仮装することを意図してなされたものと認められることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)関係人の答述等
請求人らは、J、I及びKからの陳述書を提出し、J及びIは、当該陳述書に沿う前記ロの(イ)及び(ロ)のとおりの答述をしているが、その内容を裏付ける具体的な証拠資料等はない。また、前記ロの(ハ)のKの陳述のうち、Yの件は、Kの原処分庁職員への申立て及び異議審理庁職員に対する申述並びに請求人から提出されたK報告書にもなく、本件審査請求に及んで初めて主張したものであるが、本件借入れからYに返済をした事実を確認できる証拠書類等もない。さらに、J、I及びKはいずれも本件借入れの当事者であり、その他の陳述についてもその内容を裏付ける具体的な証拠資料等がないことからすると、その答述等は請求人らから依頼されてなされたものと認められることから信用できない。
したがって、請求人の主張には理由がない。
(ニ)本件保証債務の存在
前記(イ)ないし(ハ)のとおり、〔1〕本件連帯借用証書はいずれも日付をさかのぼって作成されたものであり、本件借入れの事実を間接的に証明するものとして提出した3通の連帯借用証書(18,000,000円)も偽装されたものであること、〔2〕本件判決等は、本件借入れを実質審理したものではないこと及び〔3〕関係人の答述も具体的証拠に基づくものではなく信ぴょう性に欠けるものであることから、いずれも本件保証債務の存在を裏付けるものとは認められず、また、請求人からはこれ以上の裏付けとなる証拠資料等の提出もない。
以上のことから、本件保証債務は存在していなかったと認めるのが相当であり、請求人の主張には理由がない。
ホ したがって、本件譲渡は本件特例の前提である保証債務の存在を欠くものであり、請求人のその余の主張を判断するまでもなく本件特例の適用となる譲渡には該当しないことから、原処分庁が本件譲渡に係る譲渡所得の計算上本件特例を適用しないで行った更正処分は適法である。
(2)重加算税の賦課決定処分
前記(1)のとおり、更正処分は適法であり、かつ、本件保証債務が存在しないにもかかわらず、請求人は日付をさかのぼった本件返済予定表等を作成し、それを基に、虚偽の本件連帯借用証書を作成して本件譲渡があたかも保証債務を履行するための譲渡であるかのごとく仮装し、本件特例の規定を適用して確定申告したことが認められる。
これらの請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
したがって、原処分庁が同条同項の規定に基づいて行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。