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(平12.10.31裁決、裁決事例集No.60 375頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1)事案の概要
本件は、工業用ゴム製品の製造業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、フィリピン共和国(以下「フィリピン」という。)に設立した子会社G(以下「G社」という。)に対し行った中古機械の輸出が、輸出承認申請書(以下「本件申請書」という。)に記載された価額による売買であって、請求人が譲渡益を得たのか、それとも、水増しされた価額による現物出資であって、請求人に譲渡益はなかったのかが争われた事案である。
(2)審査請求に至る経緯
別表1のとおり
(3)基礎事実
次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、別表2「物件目録」の1ないし17記載の機械及び装置並びに18及び19記載の事務所用機器(以下、それぞれ「本件機械装置」及び「本件事務機器」という。)を所有していたが、平成6年2月25日、G社にあて、本件機械装置を輸出したこと(以下、本件機械装置の輸出を「本件輸出」という。)。
ロ 請求人は、本件機械装置及び本件事務機器をG社に輸出するため、平成6年1月13日付で、通商産業大臣に対し、輸出貿易管理令第2条第1項第3号の規定に基づく本件申請書を提出したこと。
なお、本件申請書には、商品名欄に「AUTOMATIC VACUUM HYDRAULIC PRESS.ETC」、価格欄に「PP39,375,000.00」、代金決済方法欄に「特殊決済方法(増資のための支払債務と輸出貨物代金との相殺)」と記載されていたこと。
ハ 請求人は、本件機械装置及び本件事務機器の輸出について、平成6年2月8日に大蔵大臣の同意を、また、同月9日に通商産業大臣の承認を受けたが、本件事務機器については、フィリピン政府の輸入許可が下りなかったことから、G社には、本件機械装置のみ輸出したこと。
ニ 本件機械装置は、平成6年2月23日の通関手続を経て、同月25日、P港からQ港に向けて出荷されたこと。
ホ 平成6年2月23日付の輸出報告書には、外国為替公認銀行確認欄の外国為替の種類欄に「相殺」と、建値及び総価額欄に39,085,000.(PHILIPPINE PESO)」と記載されていたこと(以下、フィリピンペソを「ペソ」という。)。
ヘ 平成6年2月24日付インボイスには、商品として、本件機械装置が記載され、その合計額として、39,085,000ペソと記載されていたこと。
ト G社は、請求人が製造していた製品の一部をフィリピンで生産するため、平成5年7月28日、資本金25,625,000ペソで設立された6月決算の株式会社であること。
チ G社の設立第1期貸借対照表によれば、平成6年6月30日現在の資本金は65,000,000ペソであり、同期中に39,375,000ペソの増資が行われたこと。
リ G社が、その増資に際し本件機械装置に付した取得価額は39,375,000ペソであったこと。
ヌ 別表3の「本件機械装置の取得価額及び未債却残額」のとおり、請求人における本件機械装置の取得価額(新品価額)は72,023,700円であり、本件輸出時の未償却残額は18,561,722円であったこと。
ル 請求人は、帳簿上、本件輸出後においても、本件機械装置を機械装置勘定に計上していたこと。
ヲ 請求人は、本件輸出に伴う経費として17,615,875円を支出し、仮払金勘定に経理したこと。
ワ G社の株主は、平成10年10月22日まで請求人の代表取締役であったJを除く発起人4名が所有する株式各1株(額面100ペソ)以外、すべてJ個人名義となっていたが、平成10年11月16日付で、J個人名義の株式すべてを請求人名義に変更したこと。
2 主張
(1)請求人の主張
原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその一部の取消しを求める。
イ 更正処分について
(イ)原処分庁が、請求人はG社に本件機械装置を39,085,000ペソ(148,132,150円)で譲渡したとする根拠は、本件機械装置及び本件事務機器の輸出価額が39,375,000ペソであるとの本件申請書の記載であるところ、本件申請書は以下の経緯により作成されたものであり、上記価額による請求人とG社との売買は存在しないから、そのような取引による譲渡益の発生はない。
A G社は、当初資本金25,625,000ペソ(102,500,000円)で設立されたが、フィリピン政府当局から、資本金が過少であるとの指摘を受けたため、請求人は、やむなく本件機械装置及び本件事務機器を現物出資して、G社の資本金を増額することを計画し、当時、その帳簿価額が17,792,365円であった本件機械装置及び本件事務機器の評価額を157,500,000円(39,375,000ペソ)に水増しして、輸出許可を得たものである。
B 本件申請書とつじつまを合わせるため、G社における本件機械装置の取得価額は39,375,000ペソとした。
C このように、本件申請書に記載した価額39,375,000ペソはフィリピン政府当局から指摘された資本金不足を回避し、輸出許可を得るためだけに設定した価額であり、請求人、G社双方ともに本件機械装置が売買されたとの認識は持っていない。
(ロ)請求人は、その主張の裏付けとして、次の処理をしている。
A 本件機械装置の時価は請求人の帳簿価額程度であるから、請求人は、平成10年10月27日、フィリピン政府当局に対し、G社の増資に係る現物出資資産とした本件機械装置の払込み価額を請求人の帳簿価額相当額に減額する訂正申請をした。
B 請求人とG社とは、平成10年10月27日、上記Aによる本件機械装置の払込価額の減額に伴い発生する資本金の払込不足額について、その一部を請求人がG社に対して有していた貸付金と相殺し、なお不足する部分については、現金送金することで合意した。
(ハ)以上のとおり、本件は、水増しした払込価額による現物出資であり、請求人は、これによる利益を何ら得ていないのであるから、請求人が本件輸出によって譲渡益を得たことを理由とする更正処分は違法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
上記イのとおり、更正処分はその一部が取り消されるべきであるから、重加算税の賦課決定処分もその一部が取り消されるべきである。
(2)原処分庁の主張
原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求の棄却を求める。
イ 更正処分について
上記1の(3)の基礎事実によれば、請求人は、G社に対し、本件機械装置を39,085,000ペソ(148,132,150円)で売却し、その代金をG社の増資に係る支払債務と相殺したことが認められ、請求人には、本件機械装置の対価148,132,150円から本件機械装置の帳簿価額18,561,722円及び本件輸出に係る経費の額17,615,875円を控除した残額111,954,553円に相当する譲渡益があったから、更正処分は適法である。
ロ 重加算税の賦課決定処分について
上記イのとおり、更正処分は適法であり、また、次の事実から、請求人は意図的に所得金額を過少に記載した申告書を提出したと認められる。
このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づく重加算税の賦課決定処分は適法である。
(イ)請求人は、本件機械装置に係る譲渡収入を計上せず、本件機械装置をG社に輸出した後も、請求人の決算書に本件機械装置及びそれに係る減価償却費を計上していたこと。
(ロ)Jは、原処分庁の調査の際、次の虚偽の説明をするとともに、G社の資本金に関し虚偽の資料を提出したこと。
A G社の資本金は、日本円に換算すると260,000,000円であり、その50%をJ個人が出資している。
B J個人の出資資金は自己資金である。
C 本件機械装置はG社に貸与しているものであり、適正に処理されている。
3 判断
(1)更正処分について
請求人が、G社に対して行った中古機械の輸出が、売買であったか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 認定事実
原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、以下の事実が認められる。
(イ)フィリピン政府公認のプロジェクト機関EXPORT PROCESSING ZONE AUTHRITY(以下「EPZA」という。)は、平成6年2月22日、本件輸出が外国為替の清算を伴わない株式投資取引であるとのG社の輸入許可申請に基づいて、本件機械装置の輸入を許可したこと。
(ロ)請求人の代理人であったK株式会社のLは、請求人のフィリピンにおけるエージェントであったM社のNに対し、平成5年12月16日付で、「G社の定款上、出資者の筆頭者名が、請求人ではなくJ個人となっている理由はなぜか、金額にして39,375,000ペソの現物出資を行うこととなったが、この現物出資分は定款の資本金総額65,000,000ペソに含まれるのか」などを照会する内容の文書を送付したこと。
(ハ)Nは、Lに対し、平成5年12月21日付で、「J個人でも請求人のどちらでもG社の株主になれるところ、今回は、J個人で出資した形態となっているが、これは、外国企業が進出する際の一般的な形態であり特殊ではない。39,375,000ペソは65,000,000ペソに含まれる」などとする内容の文書をファクスで回答したこと。
(ニ)請求人から輸送業務を請け負ったR株式会社○○支店プロジェクト輸送課のSは、Lにあてて、平成6年6月2日付で、「’94年1月現物出資のための輸出承認申請(E/L)を通産省に行う。2月E/L取得」との記載がある文書を送付したこと。
(ホ)請求人が本件機械装置を購入したT株式会社の見積りによれは、本件輸出時における本件機械装置の再調達価額(新品価額)は請求人の取得価額に相当する金額であること。
ロ 本件輸出について
(イ)原処分庁は、本件申請書、平成6年2月23日付の輸出報告書、インボイス及びG社の決算書(以下「本件輸出関係書類」という。)によれば、本件機械装置は、請求人からG社に対して148,132,150円(39,085,000ペソ)で譲渡されたとすべきである旨主張する。
(ロ)しかしながら、請求人における本件機械装置の取得価額が72,023,700円であること及び本件輸出時における本件機械装置の帳簿価額が18,561,722円であることからすれば、本件輸出関係書類に記載された価額39,085,000ペソ(148,132,150円)は通常取引される価額とは異なる価額と認められるから、原処分庁が、本件輸出関係書類以外に、本件機械装置が売買されたとする理由を具体的に明らかにしない以上、本件輸出関係書類の記載のみをもって、本件機械装置が148,132,150円で売買されたと判断することは相当でない。
(ハ)一方、EPZAによる平成6年2月22日付の輸入許可によれば、本件輸出は外国為替決済のない株式投資取引であるとされており、また、本件輸出に関係したK株式会社のL、M社のN及びR株式会社のSらの間で交わされた上記イの(ロ)ないし(ニ)の通信文書によれば、本件輸出は現物出資を前提として、その手続が進められていたことが認められる。
(ニ)さらに、G社の増資に関して金銭による払込みがなかったことは原処分庁も認めるところである。
(ホ)以上のとおり、本件輸出が、日本における現物出資そのものであるかどうかは必ずしも明らかでないとしても、本件機械装置はG社の増資に係る出資資産として輸出されたと解するのが相当である。
したがって、この点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。
ハ ところで、法人税法施行令第38条《有価証券の取得価額》第1項の規定によれば、払込みにより取得した有価証券の取得価額は、その払い込んだ金額とされているから、その払込みが金銭以外の資産でされた場合には、その資産の時価が払込価額とされ、その払込価額(時価)と帳簿価額との差額が譲渡損益となる。
そして、この場合の時価とは、資産が使用収益されるものとして、その時において譲渡される場合に通常付される価額と解されるところ、本件機械装置は有形減価償却資産であり、必ずしも、その取引価額が客観的に明らかであるとはいえないから、本件輸出の時における本件機械装置の時価については、本件機械装置の再取得価額を基礎として、その取得の時から本件輸出の時まで定率法により償却を行ったものとした場合に計算される未償却残額に相当する金額とするのが相当である。
ニ これを本件についてみると、次のとおりである。
(イ)本件輸出の時における本件機械装置の再調達価額については、本件機械装置の種類、仕様及び経過年数等からみて、これを販売したT株式会社の見積額によるのが相当と認められる。
(ロ)そこで、本件輸出時における本件機械装置の再調達価額に基づく未償却残額を計算すると、別表3「本件機械装置の取得価額及び未償却残額」の「再調達価額の未償却残額」欄のとおり、本件輸出時における本件機械装置の帳簿価額に相当する金額18,561,722円となる。
(ハ)そうすると、請求人が、G社の増資により取得した有価証券に付すべき取得価額は、本件機械装置の帳薄価額に相当する時価の額18,561,722円及び本件輸出に係る経費の額17,615,875円の合計額36,177,597円となり、請求人は、帳簿上有価証券として資産計上すべきところを、それぞれ機械装置勘定及び仮払金勘定として資産計上していたに過ぎないと認められるから、請求人には、本件輸出による譲渡損益は生じないこととなる。
したがって、この点に関する原処分庁の主張は採用できない。
以上審理したところにより、本件事業年度の所得金類を計算すると別表4「審判所認定額」のとおり、更正処分に係る所得金額119,293,912円を下回るから、更正処分は、その一部を取り消すべきである。
(2)重加算税の賦課決定処分について
重加算税の賦課決定処分については、更正処分の一部取消しに伴い、その基礎となる税額は210,000円となるから、請求人の重加算税の額は73,500円となるところ、この金額は賦課決定処分に係る金額15,603,000円に満たないので、賦課決定処分は、その一部を取り消すべきである。
(3)その他
原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠書類等によっても、これを不相当とする理由は認められない。