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(平12.12.14裁決、裁決事例集No.60 394頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、健康自然食品の製造業等を営む同族会社である審査請求人(以下「請求人」という。)がその子会社と交わした業務委託契約(以下「本件契約」といい、その書面を「本件契約書」という。)に基づき、業務委託費として支払った金員が役務の提供の対価に該当するか否かを争点とする事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、平成8年10月1日から平成9年9月30日まで及び平成9年10月1日から平成10年9月30日までの各事業年度(以下、順次「平成9年9月期」及び「平成10年9月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、いずれも法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、E株式会社(本店所在地:大韓民国○○○市○○○57―9、以下「E社」という。)が本件契約に基づき請求人に対して役務の提供を行った具体的な事実はなく、業務委託費はE社に対する寄附金であると認定し、平成11年7月9日付で次表の「更正処分等」欄記載のとおり、各更正処分及び過少申告加算税の各賦課決定処分をした。

ハ 請求人は、これらの原処分に不服があるとして、平成11年9月6日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次のことについては、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年(1996年)9月5日のE社の設立に際し、資本金70,000,000ウオン(記名式普通株式7,000株で一株当たり10,000ウオン、請求人の帳簿価額9,375,210円)の全額を出資した。
ロ E社は、設立時の定款によると次の事業を営むことを目的としている。
(イ)食品、健康補助食品など貿易業及び販売業
(ロ)ローヤルゼリー、花粉、蜂蜜その他自然健康食品などの製造加工及び販売業
(ハ)医薬品及び医薬外部品の製造販売業
(ニ)化粧品の製造及び販売業
(ホ)上記各号に附帯する一切の事業
ハ Fは、請求人の代表取締役であり、かつ、E社の代表理事である。
ニ E社の本件各事業年度中の従業員は、営業課長「G」及び経理担当「H」の2名である。
ホ 本件契約書によると、請求人と韓国E社との業務委託の内容は、次のとおりである。
(イ)E社が行う業務委託の内容は、請求人の依頼に基づいて行う経済金融情勢調査、市場需要動向調査及び顧客情報等調査並びに別途合意した事項(以下「本件業務委託」という。)である。
(ロ)請求人は、本件業務委託費用としてE社に毎月日本円で1,000,000円を支払う。

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2 主張

(1)請求人の主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、業務委託費を寄附金と認定した部分の取消しを求める。
イ 請求人は、ローヤルゼリー、プロポリス、蜂蜜等の蜂蜜関連健康食品の製造及び販売を主たる目的として営業活動を行っている。
ロ 請求人は、海外市場を開拓するために、アメリカ及び台湾に引き続き、大韓民国市場に進出することを平成8年7月30日の取締役会議で決議したが、大韓民国では、大韓民国法人でなければ営業活動ができないので、E社を設立した。
ハ 請求人は、同社の製品を大韓民国市場に広めるため子会社としてE社を設立したのであり、E社が扱う商品は全て請求人の製品とし、社員は現地人で構成し、E社に対して大韓民国における健康食品の市場動向、国民の需要度等を調べさせ、雑誌などへの広告宣伝、デパート等でのデモンストレーション、問屋への営業活動等を行わせ、その行動及び結果に対する報告を、その都度、請求人に詳細に行わせている。
ニ この報告に対して、請求人は、本件契約書第3条に基づき毎月日本円で1,000,000円の業務委託費をE社に支払っている。
ホ 請求人は、E社との間で本件契約書を取り交わし、請求人が扱っている製品の市場開拓、普及のための経済金融情勢調査、市場需要動向調査、顧客情報等の調査、広報宣伝活動を韓国E社に具体的に行わせている。
 したがって、原処分庁がこれらの調査等が行われた具体的な事実が認められないとして、当該支出は寄附金であるとした判断は誤りである。
ヘ なお、業務委託費1,000,000円の支払根拠は、E社が請求人のために存続していくために必要な金額(E社の給与等の経費の額)を算定したものであり、E社の本来の業務と本件業務委託を細分化することはできない。また、同社の決算報告書からも明らかなとおり、E社の売上額はまだ少額であり、請求人から業務委託に基づく資金援助を行わないと請求人のためにE社が存続していくことが困難になる。

(2)原処分庁の主張

 次の理由から、原処分は適法であり、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 請求人の代表者であるFは、原処分庁の調査担当者(以下「調査担当者」という。)の本件契約に基づく手数料の支払内容についての質問に対し、「子供にミルクを与えるのは親の義務である。」旨の答弁をするのみで、明確な回答をせず、本件業務委託があったことを具体的に証する資料の提出をしなかった。
ロ したがって、本件業務委託に基づく役務の提供を行った具体的事実はなく、業務委託費はE社への資金援助と認められることから、請求人の業務に必要な費用とは認められない。
ハ 以上のことから、本件契約書に定める手数料は、法人税法第37条《寄附金の損金不算入》第6項に規定する寄附金に該当し、租税特別措置法第66条の4《国外関連者との取引に係る課税の特例》第1項及び第3項の規定により損金の額に算入されない。

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3 判断

 本件契約に基づき支払った業務委託費が、役務の提供の対価に該当するか否かに争いがあるので、以下審理する。

(1)更正処分

イ 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、E社と平成9年(1997年)6月12日付で交わした本件契約に基づき、平成9年9月期にE社に対して支出した3,000,000円を当該期末に開発費として資産に計上し、翌平成10年9月期に当該金額を業務委託費に振り替え、また、平成10年9月期に業務委託費としてE社に対して支出した12,000,000円についても、平成10年9月期の損金の額に算入して申告した。
(ロ)請求人は、請求の段階に至り、本件業務委託としての役務の提供の事実を証明する証拠書類として、「週間業務報告書」の写し、「報告書」及び「連絡書」(以下、報告書と連絡書を併せて「報告書等」という。)の写し並びに広告・情報誌(以下、これらを併せて「本件業務報告書等」という。)を当審判所に提出した。
A 週間業務報告書
(A)週間業務報告書は、E社の従業員からE社の社長あてに、定型書式でファックスにより1週間単位で報告されているもので、提出した平成9年1月から平成11年9月までの期間分310枚のうち、平成9年6月12日から平成10年9月30日までの業務委託期間(以下「業務委託期間」という。)については163枚である。
(B)その報告内容は、業務の今週の結果、来週の行動計画等を日々簡記したものである。
B 報告書等
(A)報告書等も、E社の従業員からE社の社長あてに、定型書式で月7回程度ファックスにより報告されているもので、提出した平成8年9月から平成11年7月までの期間分618枚のうち、業務委託期間分については230枚である。
(B)その報告内容は、E社の設立当初から同社の社長に対する業務の報告として作成されており、本件契約を締結した以降においても、その報告の内容等に特に追加された事項は認められず、さらに、本件契約に基づく報告であるとの明確な区分はない。
(C)平成9年6月25日付の連絡書に、業務委託費について、「金額は月1,000,000円のほうが一番無難だと思います。」との記述がある。
C 広告・情報誌
(A)広告宣伝を掲載した韓国の雑誌、新聞等7件の提出があったが、そのうち業務委託期間分に該当するのは「J紙 1998.5」のインタビュー記事である。
(B)当該インタビュー記事は、E社の代表理事としてのFが受けたもので、その要旨は、E社が生産、販売している製品を宣伝したものである。
(ハ)本件契約書に定める手数料は、契約どおり、1,000,000円が毎月日本円で請求人からE社に送金され、E社はウオンに換金し、用役収入として計上している。
(ニ)E社の決算状況等は、別表のとおりである。
(ホ)E社は、設立時の株式7,000株、資本金70,000,000ウオンであったが、請求人は、同社のその後の増資においても全額を出資し、平成10年9月30日におけるE社の発行済株式の総数及び資本金は、それぞれ19,500株(一株当たり10,000ウオン)及び195,000,000ウオン(請求人の帳簿価額は26,404,863円)となっている。
 なお、本件各事業年度のいずれの時期においても、E社の発行済株式の全部を請求人が保有している。
ロ 請求人の代表者は、当審判所に対して次のとおり答述している。
(イ)本件審査請求で提出した書類は、原処分庁の調査の際に提示しており、週間業務報告書は一部見本として見せたが、調査担当者がE社に調査に行った際に、一切の関係書類は提示したと認識している。
(ロ)E社が取り扱う商品は、すべて請求人から製品を仕入れ、直接あるいは加工して販売しており、E社に対してノルマを与えて販売しているわけではない。請求人とE社とは共同体であるので、Fは両社の代表者としてトータルで業務判断をしている。
(ハ)請求人が、E社に対して毎月支払う1,000,000円は、本社が業務委託で資金援助を行わないと、E社が本社のために存続していくのが困難になることから、E社が存続するために必要な額である。
ハ ところで、わが国の税法では、たとえ親子会社のような同一企業グループ内の特殊関係会社といえども、それぞれが独立した課税主体として、その課税損益の計算や納税義務の確定もそれぞれ独立して行うこととされている。
 したがって、親子会社間の取引については、当該各社が全体として統一した経営意思によりなされているいわゆる利害関係を共にする運命共同体的関係にあるという理由だけをもって、親子会社個々の所得金額の計算について特別な観点から取り扱うことは許されていないのであり、これらの場合、一般に法人が合理的経済人又は独立した第三者として特別な関係にない取引先であったならば当然に採ったであろう取引形態を前提としてその取引の対価の適否を認定すべきものであって、それと著しく異なる取引は、不自然、不合理なものであり、特段の事情のない限り経済的合理性を欠くものとして税法が適用されるものと解されるところである。
 また、親子会社間で提供されるサーピスについて、サービスの提供を受けた親会社がそのサービスに関する経費の支出をした場合に、その経費が税務計算上の損金とされるためには、その親会社が現実に便益を享受していることが必要であり、かつ、立証し得る証拠資料を提出することも必要である。
ニ そこで、本件契約に係る業務委託費について、前記イの事実及びロの答述をハに照らして判断すると、次のとおりである。
(イ)請求人は、本件契約に基づく役務の提供は行われていると主張し、その具体的事実を証する資料として本件業務報告書等を当審判所へ提出した。
A 週間業務報告書は、前記イの(ロ)のAのとおり、本件契約以前から通常業務の一貫として、業務の結果、計画等についてE社の従業員から同社の社長に対して連絡しているものであり、本件契約に基づく役務の提供を証するものとは認められない。
B 報告書等は、前記イの(ロ)のBのとおり、いずれもE社の従業員から同社の社長に対する通常業務の範ちゅうに属するものであり、従業員から社長に対する連絡、伺いの域を超えるものではない。さらに、これらはE社の設立当初から行われていることから、本件契約に基づく役務の提供を証するものとは認められない。
C 広告・情報誌は、前記イの(ロ)のCのとおり、インタビュー記事の提供者がE社であり、広告の内容がE社の商品販売のためであることから、本件契約に基づく役務の提供を証するものとは認められない。
D 以上のとおり、本件業務報告書等は本件契約に基づく役務の提供を証するものではなく、本件契約に基づく役務の提供が行われたとは認められないことから、請求人の主張には理由がない。
(ロ)また、請求人は、業務委託費は本件契約に基づく役務の提供の対価であり、月1,000,000円としたが、その算定に当たっては、E社の業務と請求人からの業務委託を細分化することはできない旨主張する。
 しかしながら、前記イの(ロ)のBの(C)のとおり、「金額は月1,000,000円のほうが一番無難だと思います。」とE社の従業員が同社の社長に連絡した事実及び前記ロの(ハ)のとおり、1,000,000円は、請求人が業務委託で資金援助を行わないと、請求人のためにE社が存続していくのが困難になり、同社が存続するために必要な額である旨請求人の代表者が答述していることから、当該1,000,000円は、業務委託に係る役務の対価として合理的に算定されたものとは認められない。
 さらに、親子会社間で提供されるサービスについて、税務計算上の損金として認められるためには、前記ハのとおり、請求人が現実に便益を享受していることが必要であるが、前記(イ)のとおり、本件業務報告書等は、本件契約に基づく役務の提供を証するものとは認められず、さらに、本件業務委託により請求人が便益を享受している事実は認められない。
 したがって、業務委託費は、本件契約に基づく役務の提供の対価ではなく、資金援助であると認められることから、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ホ ところで、税法上の寄附金は、法人税法第37条第6項において「寄附金の額は、寄附金、拠出金、見舞金その他いずれの名義をもってするかを問わず、内国法人が金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与をした場合における当該金銭の額若しくは金銭以外の資産のその贈与の時における価額又は当該経済的な利益のその供与の時における価額による。」旨規定されている。
ヘ さらに、租税特別措置法第66条の4第1項においては、国外関連者との取引に係る課税の特例について規定し、同条第3項は「法人が支出した寄附金の額のうち当該法人に係る国外関連者に対するものは、損金の額に算入しない」旨規定している。
 ここでいう国外関連者とは、同条第1項カッコ書きにおいて、「外国法人で、当該法人との間にいずれか一方の法人が他方の法人の発行済株式の総数又は出資金額の百分の五十以上の株式の数又は出資の金額を直接又は間接に保有する関係のあるものをいう。」と規定しており、前記イの(ホ)のとおり、E社は、請求人が発行済株式の全てを所有しているのであるから、同条第1項の国外関連者に該当することとなる。
ト そうすると、本件契約に係る業務委託費は、前記ニのとおり、E社に対する資金援助と認められ、法人税法第37条第6項に規定する「金銭その他の資産又は経済的な利益の贈与又は無償の供与」に該当し、寄附金とみるのが相当であり、E社が租税特別措置法第66条の4第1項に規定する国外関連者に該当することから、同社に対する当該寄附金の額は、租税特別措置法第66条の4第3項により請求人の損金の額に算入することができないこととなる。
 以上のとおり、請求人が損金に算入して申告した業務委託費を寄附金と認定した上、国外関連者に対する寄附金は損金の額に算入できないとした本件各事業年度の各更正処分は、いずれも適法である。

(2)過少申告加算税の賦課決定処分

 前記(1)のとおり、本件各事業年度の各更正処分はいずれも適法であり、また、請求人には、更正処分により納付すべき税額の基礎となった事実が更正前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないので、同条第1項の規定に基づいて行った本件各事業年度の過少申告加算税の各賦課決定処分は、いずれも適法である。
(3)原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

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