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(平12.12.22裁決、裁決事例集No.60 405頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

イ 法人税の更正処分について
 本件は、化学薬品の運送業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、費用に計上した燃料及びタイヤ類の購入代金のうち、調査によりその所在が明らかでないことが判明した業者からの購入分が、架空の費用を計上したものなのか、それとも「バッタ屋」と呼ばれる業者との実際の取引に係るものなのかが争われた事案である。
ロ 消費税の更正処分について
 本件は、請求人が帳簿に記載しないで管理していたL銀行○○支店のM株式会社名義の普通預金口座(以下「公表外普通預金」という。)に、N株式会社(以下「N社」という。)、P及びQ株式会社(以下「Q社」という。)から入金された金額が、消費税の課税対象となるか否かが争われた事案である。

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(2)審査請求に至る経緯

イ 法人税について
 別表1のとおり(以下、平成6年3月1日から平成7年2月28日までの事業年度を「平成7年2月期」、平成7年3月1日から平成8年2月29日までの事業年度を「平成8年2月期」及び平成8年3月1日から平成9年2月28日までの事業年度を「平成9年2月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)。
ロ 消費税について
 別表2のとおり(以下、平成5年3月1日から平成6年2月28日までの課税期間を「平成6年2月課税期間」、平成7年3月1日から平成8年2月29日までの課税期間を「平成8年2月課税期間」及び平成8年3月1日から平成9年2月28日までの課税期間を「平成9年2月課税期間」という。)。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 法人税の更正処分について
(イ)請求人は、本件各事業年度分の領収証、請求書、納品書、入出金伝票、現金出納帳、運転日報その他の証拠書類(以下「本件証拠書類」という。)を原処分調査の過程で廃棄したこと。
 請求人は、R株式会社(以下「R社」という。)から車両用燃料の軽油を購入し、その代金を現金で支払ったとして、別表3―2「経費の損金不算入額の内訳」の「燃料費」欄記載の金額(以下「本件燃料費」という。)を同表記載の日付で費用に計上したこと。
(ロ)R社の所在、連絡先及び請求人がR社から軽油を実際に購入した日(給油日)は、いずれも明らかでないこと。
(ハ)請求人は、車両用燃料の軽油を貯蔵するため、S市の本社及びT市の営業所に10キロリットル入りの地下タンクを、それぞれ2本ずつ、合計40キロリットル分所有していること。
(ニ)請求人は、株式会社a、b株式会社、c及びd(以下、これらを併せて「本件タイヤ購入先」という。)からタイヤ類を購入し、その代金を現金で支払ったとして、別表3―2「経費の損金不算入額の内訳」の「タイヤチューブ費」欄記載の金額(以下「本件タイヤ費」という。)を同表記載の日付で費用に計上したこと。
(ヘ)本件タイヤ購入先の所在、連絡先、請求人が本件タイヤ購入先からタイヤ類を実際に購入した日(納品日)及び具体的な購入品目は、いずれも明らかでないこと。
(ト)請求人がR社及び本件タイヤ購入先から受領したとする領収証の日付は、いずれも別表3―2「経費の損金不算入額の内訳」記載の日付であったこと。
(チ)請求人は、公表外普通預金に入金された別表3―1「法人税の更正処分の内容」の「雑収入計上漏れ」欄の金額を帳簿に記載せず、新規得意先の開拓や受注維持のための交際費等の資金に充てていたこと。
ロ 消費税の更正処分について
(イ)異議決定を経た後の消費税に係る原処分は、別表4―2ないし別表4―4記載の各金額を消費税の課税対象としていること。
(ロ)請求人は、消費税法(平成6年法律第109号による改正前のもの。)第37条《中小事業者の仕入れに係る消費税額の控除の特例》第1項の規定の適用を受ける事業者であること。

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2 主張

(1)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 法人税の更正処分について
(イ)本件燃料費について
 原処分庁の調査によれば、本件燃料費について次の事実が認められ、請求人は、架空の事業者名を使用し、架空の費用を本件燃料費として計上していたものと認められるから、本件燃料費を平成7年2月期及び平成8年2月期の損金の額に算入することはできない。
A 原処分庁の調査にしたところよれば、R社は、その領収証に記載された所在地に実在しないこと。
B 原処分調査の際、調査を担当した職員(以下「調査担当職員」という。)が請求人の代表者W(以下「W」という。)にR社の連絡先を確認したところ、Wは、知らないと回答していること。
C 本件燃料費に係る代金決済は、すべて同一金額による月末支払であり、また、請求人が費用に計上した燃料費のうち、本件燃料費だけが現金支払であること。
D 本件燃料費に係る請求書が存在しないこと。
E 本件燃料費に係る領収証は、市販の領収証用紙にワープロかゴム印で作成したと認められる字体で所在地及び名称を印刷したものであり、金額のみ手書きであること。
F Wは、調査担当職員に対し「本件燃料費の代金支払は請求人の専務取締役X(以下「X」という。)が行っている」旨申述したが、Xは、調査担当職員に対し「本件燃料費の支払を行ったことは一度もない」旨申述しており、その内容が相違すること。
G 原処分調査に着手した後、本件燃料費に係る領収証を含め、本件各事業年度分の本件証拠書類が破棄されたこと。
H 本件燃料費以外の燃料の納入がほぼ一定間隔であるのに対し、本件燃料費はスポット的な取引であり、売上金額の増減とも連動していないこと。
I Wは、調査担当職員に対し「R社の軽油が安いから購入した」と申述したが、R社の納入単価が燃料の納入業者の中で最も安いわけではないこと。
J 本件燃料費以外の燃料費の納入単価が別表5「軽油納入単価」のとおり、時期に応じて移動しているのに対し、R社の納入単価はまったく移動していないこと。
(ロ)本件タイヤ費について
 原処分庁の調査によれば、本件タイヤ費について次の事実が認められ、請求人は、架空の事業者名を使用し、架空の費用を本件タイヤ費として計上していたものと認められるから、本件タイヤ費を本件各事業年度の損金の額に算入することはできない。
A 原処分庁が調査したところによれば、本件タイヤ購入先は、それぞれの領収証に記載された所在地に実在しないこと。
B 原処分調査の際、調査担当職員が、Wに本件タイヤ購入先の連絡先を確認したところ、Wは、知らないと回答していること。
C 本件タイヤ費に係る代金決済は、すべて月末支払であり、また、請求人が費用に計上したタイヤチューブ費のうち、本件タイヤ費だけが現金支払であること。
D 本件タイヤ費に係る請求書が存在しないこと。
E 本件タイヤ費に係る領収証は、市販の領収証用紙にワープロかゴム印で作成したと認められる字体で所在地及び名称を印刷したものであり、金額のみ手書きであること。
F Wは、調査担当職員に対し「本件タイヤ費の代金支払は請求人の専務取締役Xが行っている」旨申述したが、Xは、調査担当職員に対し「本件タイヤ費の支払を行ったことは一度もない」旨申述しており、その内容が相違すること。
G 原処分調査に着手した後、本件タイヤ費に係る領収証を含め、本件各事業年度分の本件証拠書類が破棄されたこと。
ロ 法人税の重加算税の賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件各事業年度の更正処分は適法であり、請求人は、架空の事業者名を使用して本件燃料費及び本件タイヤ費を損金の領に算入し、これに基づき所得金額を過少に算定した青色の確定申告書を提出しており、このことは、国税通則法第68条《重加算税》第1項に規定する「国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当するので、同項の規定に基づき行った重加算税の賦課決定処分は適法である。
ハ 消費税の更正処分について
(イ)調査担当職員が、Wに対し、計上漏れとなっていた雑収入の内容について質問したところ、Wは、雑収入が計上漏れとなっている事実は認めたものの、請求人からは、その内容についての明確な資料の提出がなかったこと。
(ロ)異議調査の際、担当調査官がN社、P及びQ社からの入金の内容について質問したが回答がなかったこと。

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(2)請求人の主張

 原処分は、次のとおり違法であるから、いずれもその一部の取消しを求める。
イ 法人税の更正処分について
(イ)本件燃料費について
 原処分庁は、本件燃料費は架空の費用であるとしてその損金算入を認めなかったが、次の理由のとおり、本件燃料費は、実際の取引に基づいて計上したものであり、その代金を支払ったのも事実であるから、損金の額に算入すべきである。
A 原処分庁は、R社が領収証の所在地に実在しない旨主張するが、R社は、一般には「バッタ屋」と称される燃料の業転物を現金取引により売り歩く業者(以下「出合取引業者」という。)であると思われるから、領収証の所在地に実在しないことは多分に考えられること。
B 原処分庁は、請求人がR社の連絡先を知らないのは不自然である旨主張するが、出合取引業者は、タンカーの底を漁っては精練したり、いろいろなメーカーの燃料を混合して売り歩くようなえたいの知れない業者であり、身分に関することは一切言わないので、請求人はR社の連絡先を本当に知らないのであって、調査に協力しないのではないこと。
C 原処分庁は、本件燃料費はすべて月末日付の現金決済となっているから不自然である旨主張するが、本件燃料費は出合取引業者との取引であるから、常に現金決済とならざるを得ず、その場合の代金は、一旦Wが手持ちの現金から立替払した上で月末に清算しており、領収証の日付は、このような請求人の都合に合わせて月末の日付で書いてもらっていたものであるから、実際の取引日と帳簿に記載した決済日とは必ずしも一致しないこと。
D 原処分庁は、本件燃料費に係る請求書がないのは不自然である旨主張するが、本件燃料費は、現金決済取引であるから、請求書はないのが普通であり、請求人は、R社に対して請求書を要求したことはないこと。
E 原処分庁は、本件燃料費の領収証は金額のみ手書きであるから不自然である旨主張するが、請求人は、現金支払の事実さえ確認できればどのような形式の領収証であっても構わないと認識していたものであり、また、ごく一般に出回っている領収証も金額欄は手書きの方が多いのではないかと考えられるから、本件燃料費に係る領収証に不自然な点はないこと。
F 原処分庁は、Wが本件燃料費の支払はXが行っていると申述した旨主張するが、本件燃料費の支払はWがすべて行っており、Wは、調査担当職員に対し「本件燃料費の代金支払はXが行っている」旨の申述はしていないこと。
G 原処分庁は、原処分調査に着手した後、請求人が本件証拠書類を破棄した旨主張するが、平成9年9月19日に調査担当職員が来社した際、請求人が、帳簿書類の保管について確認したところ、必要ない旨の回答であったため、請求人の従業員が必要のない書類であると判断し、廃棄したものであること。
H 原処分庁は、本件燃料費がスポット的な取引であり、売上の増減にも連動していないので不自然である旨主張するが、R社は出合取引業者であり、一定間隔で購入できないのは当然であって、また、購入時イコール使用時ではないので、すぐに売上に結びつくものではないこと。
I 原処分庁は、R社の納入単価が、同時期の納入業者の中で最も安いわけではない旨主張するが、取引開始当初はR社の納入単価が最も安価であり、その後R社よりも多少安い単価が出始めたものの、R社の単価は安定して安い方であったこと。
 また、この種の業者は他の業者に比し、規定以上の量を多く納入してくれるため、実質的な単価は他の取引先より安価であったが、他の業者の値下がり率が大きくなると、自然に取引がなくなっていったこと。
J 原処分庁は、本件燃料費の納入単価に全く変動がないので不自然である旨主張するが、当時は「原油を制するものが業界を制する」とまで言われた時期であったので、むしろ一定価格のR社は、請求人にとって重要な供給先であったこと。
(ロ)本件タイヤ費について
 原処分庁は、〔1〕本件タイヤ購入先が領収証の所在地に実在しないこと、〔2〕請求人が本件タイヤ購入先の連絡先を知らないこと、〔3〕本件タイヤ費はすべて月末の日付の現金決済となっていること、〔4〕本件タイヤ費に係る請求書がないこと、〔5〕本件タイヤ費に係る領収証は金額のみ手書きであること、〔6〕本件タイヤ費の支払に関するWの申述は、Xの申述と相違すること及び〔7〕原処分調査に着手した後、請求人が本件証拠書類を破棄したことを理由に、本件タイヤ費は架空の経費であるとしてその損金算入を認めなかったが、この原処分庁の主張に対する請求人の主張は、上記(イ)のAないしGとその趣旨は同じであり、本件タイヤ費は、実際の取引に基づいて計上したものであって、その代金を支払ったのも事実であるから、損金の額に算入すべきである。
ロ 法人税の重加算税の賦課決定処分について
 上記イの主張のとおり、本件各事業年度の法人税の各更正処分は違法であり、その一部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件各事業年度の法人税の重加算税の各賦課決定処分もその一部を取り消すべきである。
ハ 消費税の更正処分について
 原処分庁は、公表外普通預金に入金された次の金額を消費税の課税対象としているが、次の理由のとおり、いずれも消費税の課税対象とならないから、原処分は違法である。
(イ)平成6年2月課税期間
 平成5年10月22日にN社から公表外普通預金に入金された金額30,000円は、平成5年8月25日に発生した交通事故により請求人が受けた被害に対し、保険免責条項に基づき加害者であるN社から直接受領した損害賠償金であるから、消費税の課税対象とならないこと。
(ロ)平成8年2月課税期間
 平成7年5月25日にPから公表外普通預金に入金された金額100,000円は、平成7年4月24日に発生した交通事故により請求人が受けた被害に対し、保険免責条項に基づき加害者であるPから直接受領した損害賠償金であるから、消費税の課税対象とならないこと。
(ハ)平成9年2月課税期間
 平成9年1月17日にQ社から公表外普通預金に入金された金額101,297円のうち30,000円は、平成8年12月2日に発生したQ社○○○作業所の章両その他の事故により請求人が受けた被害に対し、Q社から受領した休業補償金であるから、消費税の課税対象とならないこと。

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3 判断

(1)法人税の更正処分について

 本件燃料費及び本件タイヤ費が架空の費用であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 本件燃料費について
(イ)原処分庁は、上記2の(1)のイの(イ)のAないしGのとおり、〔1〕R社が領収証の所在地に存在しないこと、〔2〕請求人が、R社の連絡先を知らないこと、〔3〕代金決済がすべて月末で、金額も同額であり、本件燃料費だけが現金支払であること、〔4〕請求書がないこと、〔5〕本件燃料費に係る領収証は、その金額のみ手書きであること、〔6〕Wの申述は、Xの申述と相違すること及び〔7〕本件証拠書類が破棄されたことから、請求人は、架空の費用を本件燃料費として計上していたと認められる旨主張する。
 しかしながら、〔1〕本件証拠書類は、すでに請求人により廃棄され、その写しもないところから、原処分庁の主張する所在地が、R社の領収証に記載されていた所在地であったかどうかを確認することはできず、また、〔2〕請求人が12回にわたってR社から軽油を購入したとしながら、その連絡先を知らないのは、通常、不自然とは認められるものの、仮に本件燃料費が出合取引業者との特異な取引であるとすれば、請求人が主張するような事情が存在しないともいい切れない。
 また、〔3〕実際の支払日は月末ではなかったとの請求人の主張を覆すに足る証拠もなく、別表5「軽油納入単価」によれば、他におおむね一定の単価で納入していた業者もいたことが認められ、請求人の総勘定元帳によれば、現金決済による燃料取引はR社のみではない。
 さらに、〔4〕原処分庁の主張は、請求書が作成されるべきであるとする理由が明確でなく、〔5〕金額のみ手書きの領収証が発行されることも一般的に行われているところと認められ、〔6〕当審判所の調査によっても、Wが「本件燃料費の支払はXがしていた」旨の申述をしたかどうか確認できない。
 そしてまた、〔7〕原処分関係資料によれば、請求人は、平成9年9月19日までの原処分調査の際には、本件証拠書類を調査担当職員に提示していた事実が認められるところ、請求人が、その後においてこれを故意に破棄したと認めるべき事実は明らかでない。
 したがって、これらの点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。
(ロ)一方、請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のHのとおり、本件燃料費を一定間隔で購入できないのは当然であり、また、燃料の購入時と使用時とは一致しないので、燃料の購入が売上の増減と連動しないとしても不自然ではない旨主張する。
 しかしながら、原処分関係資料によれば、請求人の月々の売上金額は、稼動日数に応じて、おおむね一定していることが認められ、また、請求人所有の燃料タンクの容量に変動もないから、燃料の購入量も稼働日数に応じておおむね平均的であるものと解されるところ、請求人が継続的に軽油を購入しているe株式会社、f株式会社及びg株式会社(以下、これらを併せて「継続購入先」という。)のいずれかから給油を受けた後、次に給油を受ける日までの各期間における請求人の稼動日数は、各事業所ごとにおおむね一定していることが認められるから、継続購入先からの燃料購入以外に、請求人所有の燃料タンクに給油を受けるような形態での燃料購入があったとは考えにくい。
 また、当審判所の調査によっても、本件燃料費を含めた平成7年2月期及び平成8年2月期の燃料1リットル当たりの運送収入は、いずれもR社からの燃料の購入がなかった平成9年2月期のそれより異常に少なく、不自然であることが認められる。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)また、請求人は、上記2の(2)のイの(イ)のI及びJのとおり、R社は、納入単価が安定して安価であり、また、他の業者に比して規定以上の量を多く納入してくれるため、実質的な単価は他の取引先より安価であった旨及び一定価格のR社は請求人にとって重要な供給先であった旨主張する。
 しかしながら、請求人主張のように、本件燃料費が出合取引業者との現金決済によるバッタ取引であり、かつ、R社がいろいろなメーカーの燃料を混合して売り歩くようなえたいの知れない業者であるかも知れないとすれば、その納入単価は、請求人に対し適正な燃料を安定的に供給している他の業者のそれよりも相当額安価でなければ、購入する意味は乏しいものと認められるところ、R社の納入単価は、別表5「軽油納入単価」のとおり、他の業者の単価とおおむね同水準であるから、本件燃料費に係る取引は、不自然なものと認められる。
 また、原処分関係資料によれば、Wは、「R社は10キロリットルローリー車で給油に来ていた」旨申述していることが認められるから、仮にR社の実際の給油量が、他の業者のそれよりも多かったとしても、その差はわずかであるものと認められる。
 さらに、R社の連絡先は知らないとの請求人の主張によれば、請求人は、燃料を発注する必要があっても、R社に対してその連絡をすることはできないこととなるところ、燃料の価格以上にその安定供給を確保することが優先されるトラック運送業界にあって、連絡先もわからず、納入単価が安いともいえず、しかもその燃料が粗悪なものであることも考えられる出合取引業者が、請求人にとって重要な供給先であったとの請求人の主張は信じがたい。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ニ)以上によれば、上記(ロ)及び(ハ)のとおり、〔1〕継続購入先からの燃料の購入状況から、本件燃料費に相当する量の軽油が購入されたとは考えにくいこと及び〔2〕本件燃料費の購入単価が必ずしも安価とはいえないことは、いずれも不自然な事実であると認められ、また、上記1の(3)のイの(ハ)のとおり、〔3〕R社の所在及び請求人がR社から軽油を購入した日も明らかでないところから、本件燃料費は実際の取引に基づくものであるとの請求人の主張を採用することはできない。
 さらに、〔4〕請求人には、上記1の(3)のイの(チ)のとおり、新規得意先の開拓や受注維持のための交際費等の資金を必要としていた事実も認められるところであり、〔5〕他に上記認定を覆し、請求人の主張を認めるに足る証拠もない。
 したがって、本件燃料費は、請求人が、架空の取引業者名を使用して計上した架空の費用であると推認するのが相当である。
ロ 本件タイヤ費について
(イ)原処分庁は、上記2の(1)のイの(ロ)のA、CないしE及びGのとおり、〔1〕本件タイヤ購入先が領収証の所在地に存在しないこと、〔2〕代金決済がすべて月末で、本件タイヤ費だけが現金支払であること、〔3〕請求書がないこと、〔4〕本件タイヤ費の領収証の金額のみ手書きであること及び〔5〕本件証拠書類が破棄されたことから、請求人は、架空の費用を本件タイヤ費として計上していたと認められる旨主張する。
 しかしながら、上記イの(イ)の理由同様、いずれの主張にも、それを証するに足る証拠はなく、他にこれを相当と推認させる事実も確認できないから、これらの点に関する原処分庁の主張を採用することはできない。
(ロ)一方、請求人は、上記2の(1)のイの(ロ)のとおり、本件タイヤ費についての請求人の主張は、本件燃料費に関する請求人の主張AないしGと同趣旨であり、本件タイヤ費は、実際の取引に基づくものであって、架空の費用を計上したものではない旨主張する。
 そうすると、上記2の(2)のイの(ロ)のB記載の原処分庁の主張に対する請求人の主張は、「原処分庁は、請求人が本件タイヤ購入先の連絡先を知らないのは不自然である旨主張するが、本件タイヤ購入先のような業者は身分に関することは一切言わないので、請求人は本件タイヤ購入先の連絡先を本当に知らないのであって、調査に協力しないのではない」との主張であると解される。
 しかしながら、タイヤの取引自体は違法ではないから、通常、本件タイヤ購入先がその所在地及び連絡先を秘匿する必要はないと認められるところ、h事務局長が当審判所に対し行った「タイヤ販売は、製造から小売まで販売ルートが確立しており、その他のルートで販売されることはないと考えており、店舗を構えないでタイヤを売りさばいているような業者がいるとの情報が流れたことはない」旨の答述に照らしても、請求人が、本件タイヤ購入先から延21回にわたってタイヤを購入したとしながら、本件タイヤ購入先4者のいずれの所在地又は連絡先も知らないとしていることは、不自然であると認められる。したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ハ)また、上記2の(1)のイの(ロ)のF記載の原処分庁の主張に対する請求人の主張は、「原処分庁は、本件タイヤ費の支払についてのWの申述とXの申述の内容が相違している旨主張するが、本件タイヤ費の支払はWがすべて行っており、Wは調査担当職員に対し、本件タイヤ費の支払はXが行っている旨の申述はしていないから、Xの申述と相違するところはない」との主張であると解される。
 しかしながら、原処分関係資料によれば、Wは「タイヤの購入関係は専務が管理しているので、本件タイヤ費に係る納品の立会は専務が行っている。Wがバッタ屋に直接会ったこともあるが、その回数及び全体からの割合は忘れた。代金の決済は、すべてWがチェックして、金を専務に渡す」旨の申述をし、Xは「いわゆるバッタ屋と会ったことはなく、Wから現金なり、小切手なりを預かり、タイヤ又は燃料の業者に支払ったことはない」旨の申述をした事実が認められ、両者の申述内容は相違している。
 したがって、この点に関する請求人の主張は採用できない。
(ニ)さらに、原処分関係資料によれば、別表6「タイヤ購入金額」のとおり、請求人が経常的にタイヤ類を購入しているi及びj株式会社(以下、これらを併せて「タイヤ継続購入先」という。)からの購入額は、その都度異なっていることが認められるところ、タイヤ類の購入額は、車種、タイヤの種類、サイズ、本数、ホイールの有無その他によって、その都度異なるのが通常であると解されるから、本件タイヤ購入先からの1回ごとの購入額の大半が、それぞれの購入先ごとに同じ金額であることは、タイヤ継続購入先からの購入額に比べ、明らかに不自然であると認められる。
(ホ)以上によれば、上記(ロ)ないし(ニ)のとおり、〔1〕請求人が本件タイヤ購入先の連絡先を知らないこと、〔2〕WとXの申述内容が相違すること及び〔3〕本件タイヤ購入先ごとの各購入額の大半が同額であることは、いずれも不自然な事実であると認められ、また、上記1の(3)のイの(ヘ)のとおり、〔4〕本件タイヤ購入先の所在、請求人が本件タイヤ購入先からタイヤ類を購入した日及び具体的な購入品目も明らかでないところから、本件タイヤ費は実際の取引に基づくものであるとの請求人の主張を採用することはできない。
 さらに、〔5〕請求人には、上記1の(3)のイの(チ)のとおり、新規得意先の開拓や受注維持のための交際費等の資金を必要としていた事実も認められるところであり、〔6〕他に上記認定を覆し、請求人の主張を認めるに足る証拠もない。
 したがって、本件タイヤ費は、請求人が、架空の取引業者名を使用して計上した架空の費用であると推認するのが相当である。
ハ 以上審理したところによれば、架空の費用と推認される本件燃料費及び本件タイヤ費は、いずれも損金の額に算入できないとするのが相当であり、その場合の本件各事業年度の請求人の所得金額は、平成7年2月期12,095,828円、平成8年2月期11,916,077円及び平成9年2月期2,449,750円となり、いずれも更正処分に係る所得金額と同額となるから、本件各更正処分はいずれも適法である。

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(2)法人税の重加算税の賦課決定処分について

 上記(1)のイ及びロで認定したとおり、本件燃料費及び本件タイヤ費はいずれも架空の費用であり、かつ、請求人は、Wが関係者に指示若しくは依頼し又はW自身で作成した虚偽の領収証に基づいて、本件燃料費及び本件タイヤ費を本件各事業年度の損金の額に算入して申告していたことが推認されるところであり、このような請求人の行為は、国税通則法第68条第1項に規定する「課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に該当する。
 したがって、国税通則法第68条第1項の規定に基づき、これらの事実に係る部分の税額を計算の基礎としてなされた重加算税の各賦課決定処分は適法である。

(3)消費税の更正処分について

 公表外普通預金に入金した金額が、消費税の課税対象であるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 消費税法第4条《誤税の対象》第1項によれば、消費税は、国内において事業者が行った資産の譲渡等に課する旨が規定されているところ、この「資産の譲渡等」の意義については、消費税法第2条《定義》第1項第8号に、事業として対価を得て行われる資産の譲渡及び貸付け並びに役務の提供をいうと規定されている。
ロ したがって、被った損害に対して支払われる損害賠償金、補償金などは、一般的には対価性がないので、それが実質的に売買代金や貸付料等と同様の性格を有するものでない限り、消費税の課税対象とならないと解される。
ハ これを本件についてみると次のとおりである。
(イ)平成5年10月13日付で請求人とN社との間で交わされた「事故解決に関する承諾書」によれば、平成5年10月22日にN社から公表外普通預金に入金された金額30,000円は、平成5年8月25日に発生した交通事故により請求人が受けた損害に対して、加害者であるN社から支払われた損害賠償金であり、対価性がないと認められるから、資産の譲渡等には当たらないとするのが相当である。
(ロ)平成7年5月19日付で請求人とPとの間で交わされた「損害賠償に関する承諾書」によれば、平成7年5月23日にPから公表外普通預金に入金された金額100,000円は、平成7年4月24日に発生した交通事故により請求人が受けた損害に対して、加害者であるPから支払われた損害賠償金であり、対価性がないと認められるから、資産の譲渡等には当たらないとするのが相当である。
(ハ)平成9年1月10日付のQ社あての「請求書」によれば、平成9年1月17日にQ社から公表外普通預金に入金された金額101,297円のうち30,000円は、平成8年12月2日に発生した事故により、請求人が受けた休業被害に対し、Q社から支払われた休業補償金であり、対価性がないと認められるから、資産の譲渡等には当たらないとするのが相当である。
ニ ところで、原処分庁は、原処分調査の際、公表外普通預金に入金された金額の内容について、請求人から明確な資料の提出がなかったから原処分は適法である旨主張する。
 しかしながら、損害賠償金等のように対価性のないものであっても、そのような場合には消費税の課税対象とする旨を定めた法令の規定はないから、原処分庁の主張は、その根拠を欠くものである。
 したがって、この点に関する原処分庁の主張には理由がない。
ホ 以上審理したところによれば、上記のハの(イ)ないし(ハ)の入金額は、いずれも消費税の課税対象となるものではないから、原処分は、その一部を取り消すべきである。

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(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不当とする理由は認められない。

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