ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.60 >> (平12.8.21裁決、裁決事例集No.60 437頁)

(平12.8.21裁決、裁決事例集No.60 437頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、電子部品及び釣具用品の品質検査業務を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が、平成7年9月22日から平成8年3月31日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)において、法人税法第67条《同族会社の特別税率》に規定する留保金に対する課税(以下「留保金課税」という。)が適用されるか否かが争われた事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

イ 請求人は、本件事業年度の法人税について、青色の確定申告書に次表の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 原処分庁は、これに対し、平成11年5月26日付で、次表の「更正処分等」欄記載のとおり、本件事業年度の法人税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)をした。

ハ 請求人は、これらの処分を不服として、平成11年6月11日に審査請求をした。

(3)基礎事実

 次の事実については、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人の本件事業年度末(平成8年3月31日)現在の株主は、次の5社(以下「関連会社」という。)であること。
 なお、請求人の平成8年3月31日現在の発行済株式の総数は1,000株であるが、関連会社は、請求人の発行済株式をそれぞれ200株(20%)ずつ保有している。
(イ)E株式会社(以下「E社」という。)
(ロ)株式会社F(以下「F社」という。)
(ハ)株式会社G(平成10年1月5日、F社と合併し解散。以下「G社」という。)
(ニ)H株式会社(以下「H社」という。)
(ホ)株式会社I(以下「I社」という。)
ロ 関連会社の平成8年3月31日現在の株主及びその保有割合は、次のとおりであること。
(イ)E社は、証券取引所に株式が上場されている法人であり、法人税法第2条《定義》第10号に規定する同族会社に該当しない。
(ロ)F社の株主
A E社(持株割合50%)
B G社(持株割合50%)
(ハ)G社の株主
A E社(持株割合50%)
B F社(持株割合50%)
(ニ)H社の株主
A F社(持株割合50%)
B I社(持株割合50%)
(ホ)I社の株主
A E社(持株割合50%)
B H社(持株割合40%)
C J町(持株割合10%)
ハ 上記イ及びロの請求人及び関連会社の平成8年3月31日現在の株主及びその保有割合を図で示すと、別表1記載のとおりであること。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
 原処分庁は、F社、G社及びH社が同族会社に該当すると認定した上で、請求人が、法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人を同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても同族会社となるもの」に該当するとして、請求人に対して留保金課税を適用する本件更正処分をした。
 しかしながら、次の理由から、請求人は、留保金課税の適用のない同族会社に該当する。
 したがって、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきである。
(イ)法人税基本通達(以下「法人税通達」という。)16―1―1《特別税率を適用されない同族会社の範囲》では、法人税法67条第1項に規定する「同族会社でない法人」には、当該同族会社でない法人(以下「非同族会社」という。)の子会社及び孫会社も「同族会社でない法人」に含める取扱いとなっている。
 そうすると、F社及びG社は、相互に50%ずつ株式を持ち合い、また、非同族会社であるE社以外の外部株主は存在しないことから、実質的に非同族会社であるE社の子会社に該当し、F社、G社及びH社は、法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人」として取り扱われるべきである。
(ロ)法人税通達16―1―3《相互に株式を持ち合っている場合の留保金課税》は、株式の持ち合いと同族会社の判定が循環的な関係となることから、持ち合いを悪用して留保金課税を回避する行為を抑制する趣旨であると推察される。
 しかしながら、法人税通達16―1―3が、F社及びG社のように、相互に50%ずつ株式を持ち合い、非同族会社であるE社以外の外部株主が全く存在しない場合まで想定しているとは、法人税法第67条の立法趣旨及び法人税通達16―1―1の取扱いから、到底考えられない。
 本件は、法人税通達16―1―3が予想しない特殊なケースであり、仮に、F社及びG社の株主に1株でも第三者株主がいた場合又はE社の持株が1株でも多い場合は、法人税通達16―1―1の取扱いとなることからも、本件が特殊なケースであることは明らかである。
 F社及びG社が法人税通達16―1―1の取扱いにより非同族法人に該当することが明らかであり、しかも、非同族会社であるE社以外に外部株主の全くいない両社が、株式の持ち合いを理由に法人税通達16―1―3の取扱いにより同族会社に該当するとされ、両社を株主とする請求人に対して留保金課税を適用することは承服できない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は違法であり、その全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分も、その全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)請求人、F社、G社、H社及びI社は、いずれも株主等の3人以下でその発行済株式の100分の50以上の株式を有しているので、法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当する。
(ロ)法人税法第67条の規定により留保金課税の適用を受けるのは、同族会社であることについての判定の基礎となった株主のうちに「同族会社でない法人」がある場合には、その法人をその判定の基礎となる株主から除外して判定した場合においても同族会社となるものに限られている。
 なお、ここで言う「同族会社でない法人」には、非同族会社を同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主等に選定したことによって同族会社となる場合のその同族会社等非同族会社の直接又は間接の同族会社も含まれることとされているところ、F社、G社及びH社は、いずれもこの「同族会社でない法人」に該当しない。
(ハ)そうすると、F社、G社及びH社が所有する請求人の株式数は請求人の発行済株式総数の60%であることから、請求人は、法人税法第67条に規定する留保金課税の適用がある。
(ニ)なお、請求人は、法人税通達16―1―1を根拠にF社、G社及びH社は、法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人」として取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、法人税通達16―1―1は、「同族会社でない法人」には非同族会社を同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主等に選定したことによって同族会社となる場合のその同族会社(非同族会社の子会社)を含むとしているのであって、本件の場合、F社、G社及びI社は、非同族会社であるE社を同族会社であるかどうかの判定の基礎となる株主等に選定しなくても、既に法人税法第2条第10号の規定により同族会社となる。
 よって、F社、G社及びI社は、法人税通達16―1―1でいう「非同族会社の子会社」に該当せず、そして、同様の理由により、H社も「非同族会社の孫会社」に該当しない。
 したがって、F社、G社及びH社の3社が同族会社である以上、法人税法第67条第1項の規定により、〔1〕G社から50%の出資を受けているF社、〔2〕F社から50%の出資を受けているG社、〔3〕F社から50%の出資を受けているH社の3社は、留保金課税の適用対象となる同族会社となる。
 なお、F社とG社は相互に株式を持ち合っているため、法人税通達16―1―3によっても、両社は留保金課税の適用対象となる同族会社となる。
 一方、I社は、同族会社であるH社からの40%の出資のみであるため、法人税法第67条第1項の規定により、留保金課税の適用対象外となる。
 そして、請求人については、上記(ハ)のとおり、F社、G社及びH社の3社が所有する請求人の株式数が請求人の発行済株式総数の60%であるため、留保金課税の適用対象となる同族会社となる。
(ホ)なお、請求人は、形式的に特定の通達だけを解釈すると問題があり、実質的に法の趣旨や通達を定めた背景等を考慮すべきである旨主張するが、法人税法上、同族会社の判定は法人税法第2条第10号で規定されており、さらに、留保金課税の対象となる法人は、同族会社の判定に当たって「同族会社でない法人」を除外しても同族会社になるものに限るとされていることからすれば、その判定基準は「同族会社でない法人」を除いて「100分の50以上」という形式的な基準によらざるを得ない。
 そうすると、請求人には、法人税法第67条に規定する留保金課税の適用がある。
(ヘ)したがって、法人税法第67条の規定に基づき計算すると、課税留保金額は163,519,000円となり、これに対する税額が26,203,800円となるから、本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分は適法であり、また、請求人には国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づき行った本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

(1)本件更正処分について

 請求人に留保金課税が適用されるか否かに争いがあるので、以下審理する。
イ 法人税法第2条第10号は、同族会社とは、株主等の3人以下が有する株式の総数の合計額がその会社の発行済株式の総数の100分の50以上に相当する会社をいう旨規定している。
 この規定により、法人税法上の会社は、「同族会社」と「非同族会社」に区分されることとなる。
ロ そして、同族会社に対する留保金課税の規定である法人税法第67条第1項は、内国法人である同族会社の各事業年度の留保金額が留保控除額を超える場合には、その同族会社に対して課する各事業年度の所得に対する法人税の額は、法人税法第66条《各事業年度の所得に対する法人税の税率》第1項又は第2項の規定にかかわらず、これらの規定により計算した法人税の額に、その超える部分の留保金額に特別の税率を乗じて計算した金額を加算した金額とする旨規定している。
 また、この留保金課税の適用対象となる同族会社については、法人税法第67条第1項カッコ書により、同族会社であることについての判定の基礎となった株主のうちに「同族会社でない法人」がある場合には、当該法人をその判定の基礎となる株主等から除外して判定するものとした場合においても同族会社となるものに限るとしているので、非同族会社をその判定の基礎となる株主等に選定したことによってはじめて同族会社となる会社(以下「非同族の同族会社」という。)には、留保金課税の適用はないこととなる。
 そして、ここでいう「同族会社でない法人」には、非同族会社のみでなく、上記の「非同族の同族会社」を含むものと解される。
ハ 上記1の(3)の基礎事実を上記イ及びロに照らし判断すると、次のとおりである。
(イ)上記1の(3)のロの(イ)のとおり、E社は、非同族会社である。
(ロ)上記1の(3)のロの(ロ)のとおり、F社は、E社及びG社が同社の発行済株式をそれぞれ50%ずつ保有していることから、その2社の持株割合の合計が100分の50以上となるため、同族会社であり、かつ、「同族会社でない法人」であるE社の持株を除外して判定しても、留保金課税の対象となる同族会社である。
(ハ)上記1の(3)のロの(ハ)のとおり、G社は、E社及びF社が同社の発行済株式をそれぞれ50%ずつ保有していることから、その2社の持株割合の合計が100分の50以上となるため、同族会社であり、かつ、「同族会社でない法人」であるE社の持株を除外して判定しても、留保金課税の対象となる同族会社である。
(ニ)上記1の(3)のロの(ニ)のとおり、H社は、F社及びI社が同社の発行済株式をそれぞれ50%ずつ保有していることから、その2社の持株割合の合計が100分の50以上となるため、同族会社である。
 なお、下記(ホ)のとおり、I社は、「非同族の同族会社」に該当し、「同族会社でない法人」に該当するが、H社は、「同族会社でない法人」であるI社の持株を除外して判定しても、留保金課税の対象となる同族会社である。
(ホ)上記1の(3)のロの(ホ)のとおり、I社は、同社の発行済株式をE社が50%、H社が40%及びJ町が10%保有していることから、その2社1町の持株割合の合計が100分の50以上となるため同族会社であるが、「同族会社でない法人」であるE社及びJ町の持株を除外して判定すると同族会社とならないから、留保金課税の対象とならない「非同族の同族会社」である。
ニ 次に、上記1の(3)のイの基礎事実を上記イからハに照らし、請求人に留保金課税が適用されるか否かを判断すると、次のとおりである。
(イ)上記1の(3)のイのとおり、請求人は、関連会社5社が請求人の発行済株式をそれぞれ20%ずつ保有していることから、その3社の持株割合の合計が100分の50以上となるため、法人税法第2条第10号に規定する同族会社に該当する。
(ロ)さらに、上記ロ及びハのとおり、請求人の株主である関連会社5社のうち、非同族会社であるE社及び「非同族の同族会社」であるI社は「同族会社でない法人」であることから、両社を除いた3社の持株割合を合計すると60%である。
(ハ)そうすると、請求人は、「同族会社でない法人」を判定の基礎となる株主から除外して判定しても、3社の持株割合の合計が100分の50以上となるのであるから、法人税法第67条第1項に規定する留保金課税の適用対象となる同族会社に該当することとなる。
ホ 請求人は、法人税通達16―1―1の取扱いにより、F社及びG社は非同族会社であるE社の子会社に該当することから、F社、G社及びH社は、法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人」として取り扱われるべきである旨主張する。
 しかしながら、法人税通達16―1―1は、上記ロのとおり、法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人」の解釈について、「非同族の同族会社」(子会社)を含み、その子会社を判定の基礎に選択したことによって同族会社となる場合のその孫会社等を含む旨示したものであり、当審判所においても妥当と解される。
 したがって、上記ハのとおり、F社、G社及びH社は、「非同族の同族会社」に該当せず、法人税法第67条第1項に規定する留保金課税の適用対象となる同族会社であることは明らかであるから、単に、これらの3社がE社の子会社等に該当するから法人税法第67条第1項に規定する「同族会社でない法人」として取り扱うべきであるという請求人の主張は、採用できない。
ヘ 請求人は、法人税通達16―1―3が、F社及びG社のように、相互に50%ずつ株式を持ち合い、非同族会社であるE社以外の外部株主が全く存在しない場合まで想定しているとは、法人税法第67条の立法趣旨及び法人税通達16―1―1の取扱いから到底考えられず、また、本件は法人税通達16―1―3が予想しない特殊なケースであり、仮に、F社及びG社の株主に1株でも第三者株主がいた場合又はE社の持株が1株でも多い場合は法人税通達16―1―1の取扱いとなることからも、本件が特殊なケースであることは明らかであり、F社及びG社が、法人税通達16―1―1の取扱いにより非同族法人に該当することが明らかであるにもかかわらず、株式の持ち合いを理由に法人税通達16―1―3の取扱いにより同族会社に該当するとされ、両社を株主とする請求人に留保金課税を適用することは承服できない旨主張する。
 しかしながら、留保金課税の適用の可否を判断する場合に、法人税法第2条第10号に規定されている株主等の3人以下が有する株式の総数の合計額がその会社の発行済株式の100分の50以上に相当する会社を同族会社と定義し、それを受けて法人税法第67条第1項が規定されている以上、そこに規定されている「3人以下」及び「100分の50以上」という数値は、画一的に適用するのが課税の公平、平等を担保するものであり、請求人の株主の持株割合をもって同法の適用の可否を判断することに違法、不当はなく、請求人に留保金課税を適用することには承服できないという、請求人の独自の判断による主張は、採用できない。
ト 以上審理したとおり、請求人の主張はいずれも理由がなく、請求人は、本件事業年度において、法人税法第67条に規定する留保金課税が適用されることとなるので、法人税法第67条の規定に基づき留保金に対する税額を計算すると、別表2の「〔21〕」欄記載のとおり28,912,150円となり、その結果、本件事業年度の法人税に係る納付すべき税額は、別表3の「〔6〕」欄記載のとおり388,083,100円となる。
 この金額は、本件更正処分に係る金額を上回るから、本件更正処分は適法である。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が同更正処分前の税額の計算の基礎とされなかったことについて、国税通則法第65条第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてなされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る