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(平12.11.9裁決、裁決事例集No.60 469頁)
《裁決書(抄)》
1 事実
(1)事案の概要
本件は、運送業を営む審査請求人(以下「請求人」という。)が建設仮勘定などの資産勘定に計上していた土地取得に係る借入金の利子の額を、その後の事業年度において、租税特別措置法(平成10年法律第23号による改正前のもの。以下「措置法」という。)第62条の2《新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例》の規定による特例(以下「本件特例」という。)を適用して、損金の額に算入することができるか否かを争点とする事案である。
(2)審査請求に至る経緯
イ 請求人は、平成8年7月1日から平成9年6月30日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)に係る法人税について、青色の確定申告書に別表1の「確定申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
ロ 次いで、請求人は、平成10年8月31日に、本件事業年度に係る法人税について、別表1の「修正申告」欄のとおり記載した修正申告書を提出した。
ハ 原処分庁は、これに対し、平成10年12月22日付で別表1の「更正処分等」欄のとおりの更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」といい、本件更正処分と併せて「本件更正処分等」という。)をした。
ニ 請求人は、本件更正処分等を不服として、国税通則法第75条《国税に関する処分についての不服申立て》第4項第1号の規定により、平成11年1月29日に審査請求をした。
(3)基礎事実
以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成4年3月から同年4月までの間に、P県Q市R町864番2ほか3筆の土地(以下「本件土地」という。)を、金融機関からの借入金を資金として、Eほか3名から売買により取得した。
ロ 本件土地の取得価額は、別表2の〔3〕欄のとおり、同表の〔1〕欄の取得価額に同表の〔2〕欄の不動産仲介料等を加算した額(以下「本件取得価額等の額」という。)である。
ハ 請求人の本件土地の取得日を含む平成3年7月1日から平成4年6月30日まで、平成4年7月1日から平成5年6月30日まで、平成5年7月1日から平成6年6月30日まで、平成6年7月1日から平成7年6月30日まで及び平成7年7月1日から平成8年6月30日までの各事業年度(以下、順次「平成4年6月期」、「平成5年6月期」、「平成6年6月期」、「平成7年6月期」及び「平成8年6月期」といい、これらを併せて「本件各事業年度」という。)における支払利息割引料の総額は、別表2の〔6〕欄のとおりである。
ニ 請求人は、本件各事業年度の末日において、上記ハの支払利息割引料の総額のうち別表2の〔7〕欄の金額を、本件土地の取得に係る借入金の利子の額(以下「本件借入金利子の額」という。)として、建設仮勘定又はその他の有形固定資産勘定(以下「本件建設仮勘定等」という。)に計上している。
なお、本件建設仮勘定等に計上した本件借入金利子の額の累積額(以下「本件借入金利子の額の累積額」という。)は別表2の〔8〕欄のとおりである。
ホ 平成6年6月期及び平成7年6月期の本件土地に係る造成費用の金額(以下「造成費用の額」という。)は別表2の〔4〕欄のとおりであり、その累積額は同表の〔5〕欄のとおりである。
また、本件建設仮勘定等に計上した本件取得価額等の額、造成費用の額及び本件借入金利子の額の合計額(以下「本件建設仮勘定等の額の累積額」という。)は、別表2の〔9〕欄のとおりである。
2 主張
(1)請求人
原処分は、次のとおり違法であるから、その全部を取り消すべきである。
イ 請求人は、本件事業年度において、本件特例に基づき所定の計算を行い、本件借入金利子の額の累積額の一部を支払利息割引料勘定に振り替えて損金の額に算入したものであり、これは正当な会計処理である。
ロ この点、原処分庁は、請求人が、本件各事業年度において、法人税基本通達(以下「基本通達」という。)7―3―1の2《借入金の利子》に定める固定資産の取得価額に算入する方法を選択し、本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に振り替えて計上した以上、その後の事業年度において、これを支払利息割引料勘定に振り替えて損金の額に算入することはできない旨主張する。
しかしながら、請求人は、本件特例の趣旨に従い、本件各事業年度の法人税の確定申告書に添付した勘定科目内訳明細書(以下「勘定科目明細書」という。)において、損金の額に算入しない本件借入金利子の額を明示し、この額と本件取得価額等の額とを区分しているのであって、本件借入金利子の額を本件土地の取得価額として基本通達7―3―1の2の注書に定める建設中の固定資産に係る建設仮勘定に計上したものではないし、いずれにせよ、土地勘定ではない本件建設仮勘定等という一種の経過勘定に計上しているのであるから、本件借入金利子の額を本件土地の取得価額に算入したものとはいえない。
そして、請求人は、平成7年の税務調査において、原処分庁所属の調査担当職員(以下「本件調査担当職員」という。)に対し、本件借入金利子の額の会計処理について、〔1〕本件特例の趣旨に従って本件建設仮勘定等という一種の経過勘定に計上していること、及び〔2〕本件建設仮勘定等に計上した本件借入金利子の額を、勘定科目明細書において本件取得価額等の額と区分していることを説明しており、本件調査担当職員もこれを了解している。
ハ なお、請求人が本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に計上したのは、これを損金の額に算入すると大幅な赤字となり、銀行との取引に支障が生じるためであるし、本件土地に係る借入金利子の負担が重く、本件土地の時価も本件取得価額等の額を大きく下回っている現状において、これ以上の税負担を課することは請求人の企業としての存続を危うくするものであること、そして、本件特例は、政策的、経過的かつ臨時的な法律で、企業になじみがなく、本件特例に対する無知、無理解及び誤解等の存在することからすると、仮に本件特例の適用について誤りがあるとしても、本件特例の趣旨に沿って会計処理がなされている限り、なお、当該会計処理は正当というべきである。
(2)原処分庁
原処分は、次の理由により適法であるから、本件審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 措置法第62条の2第1項は、法人が昭和63年12月31日(以下「基準日」という。)以後に終了する各事業年度の終了の時において、基準日以後に他の者から取得した土地等(以下「新規取得土地等」という。)を有する場合に、当該事業年度に当該土地等の取得の日から4年を経過する日又は当該土地等を長期間にわたって使用される建物等の敷地の用に供する場合に当該建物等がその用に供される等の事実が発生する日までの期間(以下「損金不算入期間」という。)が含まれるときは、原則として、当該事業年度の負債利子の額のうち、当該土地等の取得価額からその造成費用の額及び取得価額に算入された負債利子の額等を控除した額(以下「基準取得価額」という。)の6%に相当する額と当該事業年度の負債利子の額とのいずれか少ない金額を損金の額に算入しない旨規定し、同条第2項は、同条第1項の規定によって各事業年度において損金の額に算入されなかった負債利子の合計額(以下「累積損金不算入額」という。)は、一定の要件の下に、損金不算入期間の末日を含む事業年度後の事業年度において、4年にわたって損金の額に算入することができる旨規定している。
ロ また、租税特別措置法施行令(平成10年政令第108号による改正前のもの。以下「措置法施行令」という。)第38条の3《新規取得土地等に係る負債の利子の課税の特例》第27項第1号は、新規取得土地等の基準取得価額に算入された負債利子の額があるときは、当該土地等の取得価額の6%に相当する額と当該事業年度の負債利子の額のいずれか少ない金額から、当該取得価額に算入された金額を控除して、損金の類に算入しない負債利子の額(以下「損金不算入額」という。)を計算する旨規定している。
ハ 上記イ及びロの規定に基づき、請求人の損金不算入期間の損金不算入額を計算すると、本件各事業年度における負債利子の損金不算入額は零円となり、請求人には、その後の本件事業年度において損金の額に算入することのできる累積損金不算入額はないことになる。
したがって、累積損金不算入額がない以上、本件特例を適用して損金の額に算入する金額はないのであるから、本件更正処分は適法である。
ニ なお、請求人は、損金不算入期間において、本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に振り替えて計上したが、同勘定は一種の経過勘定であり、本件土地の取得価額に算入したものではない旨主張する。
ところで、基本通達7―3―1の2は、法人が固定資産に係る負債利子の額を当該固定資産の取得価額に算入するか否かについては法人の選択による旨定めているところ、法人が当該負債利子の額をその支出した事業年度の損金の額に算入せず、固定資産等の資産勘定に含めて計上した場合には、その固定資産等の資産勘定が建設仮勘定等であったとしても、当該法人は、当該負債利子の額を、当該固定資産の取得価額に算入することを選択したというべきである。
そして、法人がいったん負債利子の額を固定資産の取得価額に算入したにもかかわらず、その後の事業年度においてこれを損金の額に算入するような会計処理を認めることは、任意に当該固定資産の取得価額を減額する恣意的な所得計算を可能にすることとなり、許されないというべきである。
3 判断
(1)本件更正処分について
本件は、本件各事業年度において本件建設仮勘定等に計上していた本件借入金利子の額を、本件特例を適用して本件事業年度の損金の額に算入することができるか否かについて争いがあるので、以下審理する。
イ 本件特例の規定等
(イ)措置法第62条の2第1項は、法人が基準日以後に終了する各事業年度終了の時に新規取得土地等を有する場合において、当該事業年度に当該新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入期間が含まれているときは、当該事業年度の負債利子の額のうち、〔1〕当該新規取得土地等の基準取得価額に100分の6を乗じて得た金額に、当該事業年度に含まれる当該新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入期間の月数を乗じてこれを12で除して計算した金額と、〔2〕当該事業年度の負債利子の額に、当該事業年度に含まれる当該新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入期間の月数を乗じてこれを当該事業年度の月数で除して計算した金額とのいずれか少ない金額を、本件特例による負債利子の損金不算入額として、当該事業年度の損金の額に算入しない旨規定している。
つまり、原則として、当該事業年度の負債利子の額のうち、新規取得土地等の基準取得価額の100分の6に相当する額と当該事業年度の負債利子の額とのいずれか少ない金額は損金の額に算入しないとするものであり、法人が土地の取得に当たって資金の借入れを行ったかどうかは問わないこととし、当該事業年度に負債利子がある限り、本件特例により損金不算入となる負債利子の額を計算することとしている。
(ロ)措置法第62条の2第2項は、当該新規取得土地等に係る負債利子の損金不算入期間の末日を含む事業年度後の各事業年度において、当該新規取得土地等を有する場合には、負債利子の累積損金不算入額に当該事業年度の月数を乗じてこれを48で除して計算した額を、当該事業年度の損金の額に算入する旨規定している。
この規定は、上記(イ)の規定により損金不算入とされた負債利子の累積損金不算入額を、損金不算入期間経過後の翌事業年度から4年にわたって均分額を損金の額に算入することとしたものである。
(ハ)措置法第62条の2第6項は、上記(ロ)の規定については、〔1〕上記(イ)の規定の適用を受けた事業年度から上記(ロ)の規定の適用を受けようとする事業年度の直前の事業年度まで連続して法人税の確定申告書を提出していること、〔2〕当該確定申告書に上記(ロ)の規定の適用を受けようとする金額の計算に関する明細書の添付があること、〔3〕上記(ロ)の規定の適用を受けようとする事業年度の確定申告書等に上記(ロ)の規定により損金の額に算入される金額の申告の記載及び当該明細書の添付があることの要件をいずれも満たす場合に限り適用する旨規定している。
(ニ)また、措置法施行令第38条の3第27項は、当該事業年度の負債利子の額のうち新規取得土地等の取得価額に算入された金額がある場合における上記(イ)の規定の適用については、当該金額を上記(イ)に規定するいずれか少ない金額から控除する旨規定している。
(ホ)なお、基本通達7―3―1の2は、固定資産を取得するための借入金の利子の額は、たとえ当該固定資産の使用開始前の期間に係るものであっても、これを当該固定資産の取得価額に算入しないことができる旨定めるとともに、その注書において、借入金利子の額を建設中の固定資産に係る建設仮勘定に含めたときは、当該借入金利子の額は固定資産の取得価額に算入されたことになると定めているが、当審判所においても、この取扱いには一般的合理性があると認めることができる。
ロ 請求人の提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)請求人は、本件土地をその取得日以後本件事業年度終了の時まで引き続き所有しているが、本件土地を長期間にわたって使用される建物等の敷地の用に供していない。
(ロ)請求人は、平成5年6月期、平成7年6月期、平成8年6月期及び本件事業年度の法人税の確定申告書に、本件特例の適用に関する明細書である別表十五の二《新規取得土地等に係る負債の利子の損金算入に関する明細書》を添付していない。
(ハ)請求人は、平成4年6月期及び平成6年6月期の法人税の確定申告書に添付した別表十五の二において、本件借入金利子の額を平成4年6月期は8,354,948円、平成6年6月期は22,369,908円として、それぞれ新規取得土地等の取得価額に算入した旨、及び本件特例による負債利子の損金不算入額を零円と記載している。
(ニ)請求人は、本件事業年度の末日において、本件建設仮勘定等の額の累積額のうち、22,369,908円を支払利息割引料勘定に振り替えて損金の額に算入する会計処理をした。
ハ 本件調査担当職員は、当審判所に対して、要旨次のとおり答述している。
(イ)平成7年の税務調査に当たって、請求人から、本件借入金利子の額を計上した本件建設仮勘定等が経過勘定であること及び勘定科目明細書に本件借入金利子の額を本件取得価額等の額と区分して表示したことについての説明は受けていない。
(ロ)また、本件借入金利子の額をその後の事業年度において、本件特例の趣旨に従って損金の額に算入することについての説明はしていない。
ニ 上記1の(3)の基礎事実及び上記イからハまでにより判断すると、次のとおりである。
(イ)本件特例による累積損金不算入額の損金算入の適用に当たっては、上記イの(ハ)のとおり、本件各事業年度及び本件事業年度の確定申告書に本件特例の適用に関する明細書の添付が必要であるところ、上記ロの(ロ)のとおり、平成5年6月期、平成7年6月期、平成8年6月期及び本件事業年度の請求人の確定申告書には本件特例の適用に関する明細書の添付がなく、また、その添付がないことについてやむを得ない事情も認められない。
さらに、上記1の(3)のイのとおり、本件土地は、平成4年3月から同年4月までの間に、売買により他の者から取得した土地であり、新規取得土地等に該当するものであるが、同ニ及び上記ロの(ハ)のとおり、本件各事業年度において、本件借入金利子の額は、損金の額に算入することなく本件建設仮勘定等の資産勘定に計上されていたことは明らかであり、上記イの本件特例の規定に基づいて、本件各事業年度における負債利子の損金不算入額を計算すると、いずれの事業年度においても損金不算入額は算出されず、累積損金不算入額も零円となる。
したがって、いずれにしても、本件事業年度において、本件特例の規定の適用はなく、本件借入金利子の額を損金の額に算入することは認められない。
(ロ)なお、請求人は、本件借入金利子の額について、勘定科目明細書において本件取得価額等の額と区分して表示した上、一種の経過勘定に計上しているのであるから、これを本件土地の取得価額に算入したものではなく、また、このことを本件調査担当職員に説明して了解を得ている旨主張する。
しかしながら、上記ハのとおり、本件調査担当職員が本件借入金利子の額について本件土地の取得価額に算入したものではないことを了解したという事実は認められないし、そもそも、本件借入金利子の額について、勘定科目明細書において本件取得価額等の額と区分して表示したとしても、本件建設仮勘定等そのものが、固定資産勘定の一種であることは明らかであるから、基本通達7―3―1の2の注書に定めるとおり、本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に計上したことは、これを本件土地の取得価額に算入したことになるというべきである。
そうすると、請求人の主張は、いったん本件土地の取得価額に算入した本件借入金利子の額について、その後の事業年度において、その一部を改めて支払利息割引料勘定に振り替えて損金の額に算入することを求めるものにほかならないことになる。
しかしながら、このように本件借入金利子の額を本件土地の取得価額に算入するか否かについて再度の選択の機会を与えると、任意に固定資産の取得価額を減額する恣意的な所得計算を認めることになることに照らすと、いったん本件土地の取得価額に算入することを選択した以上、その後に改めて損金の額に算入することは認められないと解すべきである。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ハ)さらに、請求人は、本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に計上したのは、銀行対策上やむを得ない事情があったのであるし、仮に本件特例の適用を誤っていたとしても、本件特例の趣旨に沿って会計処理している限り、当該会計処理は正当である旨主張するが、上記(イ)のとおり、本件借入金利子の額については、本件各事業年度において損金の額に算入することなく本件建設仮勘定等に計上したものであり、本件各事業年度において負債利子の損金不算入額がないことから、請求人が本件借入金利子の額を本件建設仮勘定等に計上した事情が何であれ、本件事業年度において、本件特例を適用して累積損金不算入額の損金算入を認めることはできない。
したがって、この点に関する請求人の主張には理由がない。
(ニ)以上のとおり、請求人の主張にはいずれも理由がなく、本件事業年度において、本件特例を適用して、本件建設仮勘定等に計上していた本件借入金利子の額を損金の額に算入することはできない。
したがって、請求人の本件事業年度の所得金額及び納付すべき税額を計算すると、本件更正処分の額と同額となることから、本件更正処分は適法である。
(2)本件賦課決定処分について
上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、また、本件更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が、本件更正処分前の税額の計算の基礎とされていなかったことについて、国税通則法第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないから、同条第1項及び第2項の規定に基づいて行った本件賦課決定処分は適法である。
(3)その他
原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
よって、本件審査請求には理由がない。