ホーム >> 公表裁決事例集等の紹介 >> 公表裁決事例 >> 裁決事例集 No.60 >> (平12.9.20裁決、裁決事例集No.60 491頁)

(平12.9.20裁決、裁決事例集No.60 491頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人E(以下「E」という。)、同F(以下「F」という。)及び同G(以下「G」といい、これら3名を併せて「請求人ら」という。)が、平成8年4月23日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡したH(以下「被相続人」という。)が役員をしていた会社の契約した生命保険契約により支払を受けた死亡保険金について、相続税法第3条《相続又は遺贈により取得したものとみなす場合》第1項第1号に規定する保険金に該当するか否かが争われた事案である。

トップに戻る

(2)審査請求に至る経緯

 請求人らは、被相続人の共同相続人であるが、請求人ら及びI(以下「I」という。)は、この相続(以下「本件相続」という。)開始に係る相続税(以下「本件相続税」という。)について、申告書に別表1の「申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに申告した。
 原処分庁は、これに対し、平成10年12月16日付で、別表1の「原処分」欄のとおり、請求人らに対し、本件相続税の更正処分(以下「本件更正処分」という。)及び過少申告加算税の賦課決定処分(以下「本件賦課決定処分」という。)を行い、Iに対しては、本件相続税を減額する更正処分をした。
 請求人らは、原処分を不服として、平成11年2月15日に異議申立てをしたところ、異議審理庁は、同年5月14日付で棄却の異議決定をし、その決定書謄本を総代に選任されていたEに対し同月15日に送達した。
 請求人らは、異議決定を経た後の原処分に不服があるとして、平成11年6月14日に審査請求をした。
 なお、請求人らは、Eを総代として選任し、その旨を平成11年6月14日に届け出た。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査によってもその事実が認められる。
イ 被相続人は、本件相続開始日において、J株式会社(以下「J社」という。)の常務取締役の職にあったこと。
ロ J社は、別表2のとおり、K生命保険相互会社(以下「K生命」という。)との間において、保険契約者をJ社、被保険者を被相続人、保険料負担者をJ社、保険金受取人を被保険者の相続人とする内容の利益配当付養老生命保険契約1口を、また、L生命保険相互会社(以下「L生命」という。)との間においては、保険契約者をJ社、被保険者を被相続人、保険料負担者をJ社、保険金受取人をEとする内容の養老生命保険契約5口をそれぞれ締結(以下、締結されたこれらの契約を併せて「本件保険契約」という。)していること。
ハ 請求人らには、本件保険契約に基づき、M銀行××支店におけるE名義の普通預金口座(口座番号○○○○○○○)へ、平成8年6月18日にL生命から91,278,510円及び同月19日にK生命から99,794,673円の合計額191,073,183円(以下「本件保険金」という。)が振り込まれていること。
ニ 平成8年5月23日に、EからJ社に対し、本件保険契約に基づき被保険者の相続人である請求人らが取得する本件保険金のうち109,450,000円は、J社に贈呈する旨の「贈呈協定書」なる書面(以下「本件贈呈協定書」という。)が差し出されていること。
 本件贈呈協定書には、「故Hが、生前貴社におきまして大変お世話になり、その感謝の意を込めまして、貴社より故人が生前掛けていただいておりました生命保険の死亡保険金190百万円の内109,450,000円を貴社に贈呈し、永年に亘り、御好意をいただきました御礼とさせていただきたく、お願い申し上げます。」と記載されていること。
ホ 請求人らが本件保険契約に基づき取得した本件保険金のうち109,450,000円は、平成8年6月19日にE名義の普通預金口座からJ社の預金口座に振替処理されていること。
ヘ 請求人らは、本件保険金のうちJ社に贈与した109,450,000円を除いた80,550,000円を被相続人の退職手当金として申告していること。

トップに戻る

2 主張

(1)請求人らの主張

 原処分は、次の理由により違法であるから、いずれもその全部の取消しを求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分庁は、請求人らが本件保険契約に基づき取得した本件保険金は、〔1〕J社の役員に対する役員退職慰労金内規(以下「役員退職慰労金内規」という。)及び従業員に対する退職金規程(以下「退職金規程」という。)において、本件保険金を退職手当金等とする旨の定めがないこと及び〔2〕J社では、被相続人に対し役員退職慰労金として本件保険金を支給する旨の株主総会の決議及び同社の取締役会の承認がされていないことなどを理由として、相続税法第3条第1項第1号に規定されている生命保険契約の保険金に該当するとして本件更正処分を行っているが、上記1の(3)の事実のとおり、請求人らが本件保険契約に基づき取得した本件保険金のうち109,450,000円は、本件相続開始の後に、相続人であるEとJ社との間で取り交わされた本件贈呈協定書に基づきJ社に贈与しており、請求人らの手元に残った金額は80,550,000円であるから、原処分庁はこれに対して課税すべきであり、収入のない部分についての課税は、実質課税の原則に照らしても実情を無視したものである。
(ロ)しかも、J社には役員退職慰労金内規が存在しており、請求人らの手元に残った80,550,000円は、この役員退職慰労金内規に準じて計算されたものであることから、請求人らは、相続税法基本通達(昭和34年1月28日付直資10、以下「基本通達」という。)3―17《雇用主が保険料を負担している場合》の定めを適用し、これを相続税法第3条第1項第2号に掲げる退職手当金、功労金、その他これに準ずる給与に該当するものとして、被相続人の退職手当金として申告したものであり、請求人らの手元に残った80,550,000円は、被相続人の退職手当金に該当する。
 なお、請求人らは、内容もわからないまま、J社の指示に従って行動したものであり、J社からは、本件贈呈協定書の控えの交付及び本件贈呈協定書の内容の説明は受けていない。
ロ 本件賦課決定処分について
 上記イのとおり、本件更正処分はその全部を取り消すべきであるから、これに伴い、本件賦課決定処分もその全部を取り消すべきである。

トップに戻る

(2)原処分庁の主張

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求をいずれも棄却するとの裁決を求める。
イ 本件更正処分について
(イ)原処分調査及び異議申立てに係る調査によれば、次の事実が認められる。
A 本件相続開始日において、J社には役員退職慰労金内規及び役員慶弔金内規が存在しており、請求人らは、平成8年5月2日にJ社から弔慰金5,000,000円の支給を受けていること。
 なお、被相続人に対する弔慰金贈呈の件については、平成8年6月27日開催の同社の取締役会決議により承認されていること。
B 平成8年6月27日のJ社の第44期定期株主総会の決議による変更前の同社の定款第21条《報酬及び退職慰労金》には、取締役及び監査役の報酬並びに退職慰労金は、それぞれ株主総会の決議により定める旨が規定されており、また、変更後においても、取締役の報酬及び退職慰労金は、株主総会の決議をもってこれを定める旨が規定されていること。
C 本件保険金については、役員退職慰労金内規及び退職金規程のいずれにも退職手当金等として支給する旨の定めがないこと。
D 本件保険契約に基づく払込保険料は、その全額をJ社が負担していること。
(ロ)ところで、相続親法第3条第1項第2号では、被相続人の死亡により相続人その他の者が被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これらに準ずる給与(政令で定める給与を含み、これらを併せて、以下「退職手当金等」という。)で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合は、当該退職手当金等を相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定しており、また、相続税法施行令第1条の2《退職手当金等に含まれる給付の範囲》第1号では、退職給付金に関する生命保険契約に基づいて支給を受ける年金又は一時金も退職手当金等に含まれる旨規定している。
 そして、商法第269条《報酬の決定》の規定によれば、取締役が受けるべき報酬の額について定款に定めがないときは、株主総会の決議によりこれを定めるべきものとされており、また、取締役の退職慰労金は、取締役としての在職中の職務執行の対価、すなわち報酬の後払い的性質を有するもので、報酬に含まれるものと解されていることから、その支給にあたって役員報酬と同様に株主総会の決議が必要と解される。
(ハ)また、基本通達3―17では、役員を含む従業員の死亡を保険事故としてその相続人その他の者が当該保険金を取得した場合に雇用主が保険料を負担していた保険金についても、相続税法第3条第1項第1号の規定を適用する旨の取扱いを定めている。
 他方、同通達ただし書では、雇用主が当該保険金を役員を含む従業員の退職手当金等として支給することとしている場合には、当該保険金は相続税法第3条第1項第2号に掲げる退職手当金等に該当するものとし、本文の取扱いを適用しない旨定めている。
(ニ)なお、実質課税の原則は、税法の解釈、適用における公平負担の原則から導かれる基本原理であり、相続税法には、所得税法第12条《実質所得者課税の原則》のような実質課税の原則に関する明文規定は存しないが、名義の如何を問わず収益を享受する者に対して課税するのが、租税法における基本原則であるから、相続税法上、当然に「実質課税の原則」が適用される。
(ホ)そこで、上記1の(3)及び2の(2)のイの(イ)の各事実を基に本件についてみると、請求人らは、原処分庁は、請求人らの手元に残った80,550,000円に対して課税すべきであり、収入のない部分についての課税は、実質課税の原則に照らしても実情を無視したものである旨主張するもので、たしかに、Eは、平成8年6月19日にJ社に対し、本件贈呈協定書に基づいて、E名義の普通預金に振り込まれた本件保険金のうち109,450,000円を贈与しているが、本件贈呈協定書は本件相続開始の後に相続人であるEとJ社との間で取り交わされたものであり、Eが本件保険金の一部を贈与したものであって、実質課税の原則を適用する余地はない。
 また、請求人らが本件保険契約に基づいて取得した本件保険金については、〔1〕役員退職慰労金内規及び退職金規程において、本件保険金を退職手当金等として支給する旨の定めがないこと、〔2〕役員退職慰労金内規第3条《基準額の計算式》では、退職慰労金の基準額の計算式については定めがあり、かつ、同内規第7条《退職慰労金の減額》〔2〕では、当社が契約者で、受取人が被保険者の遺族である生命保険金が支払われた場合には、第3条における支給額より減額する場合がある旨定められているが、本件保険金については、被相続人に対し退職慰労金として支給する旨の株主総会の決議及び取締役会での承認がされておらず、定款第21条《報酬及び退職慰労金》及び役員退職慰労金内規第2条《基準額》に定められた手続が採られていないことから判断すると、基本通達3―17のただし書の場合には該当しないので、同通達本文の(1)の取扱いに従い、本件保険金は相続税法第3条第1項第1号に該当するとした本件更正処分は適法である。
ロ 本件賦課決定処分について
 本件賦課決定処分については、国税通則法(以下「通則法」という。)第65条《過少申告加算税》第4項に規定する正当な理由があるとは認められないことから、同条第1項及び第2項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

トップに戻る

3 判断

 請求人らが取得した本件保険金は、相続税法第3条第1項第1号に規定する保険金に該当するか否かについて争いがあるので、以下審理する。

(1)本件更正処分について

イ 認定事実
 請求人提出資料、原処分関係資料及び当審判所の調査によれば、次の事実が認められる。
(イ)J社は、K生命及びL生命との間において、別表2のとおりとする本件保険契約を締結し、月払いで保険料全額の払込みをしていること。
(ロ)Eは、J社と平成8年5月23日付で、本件贈呈協定書を取り交わしたこと。
 そして、同日、Eは、J社の役員から、別表3のとおり記載された役員退職慰労金計算表なる明細書(以下「本件メモ」という。)の提示を受けていること。
 なお、本件メモにおける税金10,000,000円については、本件保険金の全額を課税対象とした場合の相続税の負担見込額であること。
(ハ)Eは、K生命及びL生命に対し、平成8年6月4日付で、別表2に掲げる本件保険契約に係る死亡保険金を請求する死亡保険金請求書を提出していること。
(ニ)J社における払込保険料の経理処理は、半分は資産計上し、残り半分は福利厚生費としていること。
(ホ)J社は、本件贈呈協定書に基づき、Eから贈与された109,450,000円を雑益処理していること。
(ヘ)J社は、平成8年5月2日に、被相続人に対する弔慰金として5,000,000円をEに対して支給していること。
(ト)J社には、役員退職慰労金内規及び役員慶弔金内規が存在しており、また、平成8年6月27日開催のJ社の第44期定期株主総会の決議による変更前の同社の定款第21条には、取締役及び監査役の報酬並びに退職慰労金は、それぞれ株主総会の決議により定める旨が規定されており、また、変更後においても、取締役の報酬及び退職慰労金は、株主総会の決議をもってこれを定める旨が規定されていること。
(チ)当該株主総会においては、被相続人に対する弔慰金贈呈の件について、その金額、支払時期、方法等は取締役会に一任する旨の決議がされているが、被相続人に対する退職慰労金の支給については何も決議されていないこと。
 そして、被相続人に対する弔慰金贈呈の件については、当該株主総会と同日に開催された同社の取締役会決議により承認されていること。
(リ)役員退職慰労金内規には、概要次のような定めがあること。
A 退職した役員に支給すべき退職慰労金は、下記のうちいずれかの額(以下「基準額」という。)の範囲とする(第2条)。
(A)この内規に基づき取締役が決定した額で、株主総会において承認された額。
(B)この内規に基づき計算すべき旨の株主総会の決議に従い取締役会が決定した額。
B 退職慰労金の基準額は、基礎額(1,000,000円)に各役員が歴任した役位別係数及び役位別在任年数を乗じて得た額の累計額とする(第3条)。
C 当社が契約者で、受取人が被保険者の遺族である生命保険金が支払われた場合には、Bにおける支給額より減額する場合がある(第7条〔2〕)。
(ヌ)本件保険金については、役員退職慰労金内規及び退職金規程のいずれにも退職手当金等として支給する旨の定めがないこと。
ロ J社の経理課長であるOは、当審判所に対し、次のとおり答述していること。
(イ)J社が、K生命及びL生命と別表2のとおり本件保険契約を結んだ背景には、被保険者が死亡した場合に、当該二社から支払われる死亡保険金から役員退職慰労金及び功績加算金を捻出すること並びに会社の節税対策が目的にあった。
 しかし、死亡保険金の受取人は当社でなく、被保険者の相続人になっていたことから、相続人であるEさんが受け取られる死亡保険金は、全額が生命保険金として課税されることを承知していた。
(ロ)平成3年ころ、議事録には記録されていないが、当社の取締役会において、死亡保険金が役員退職慰労金内規以上となる場合には、超過額を当社に交付する旨の取決めがされ、今回、それに従って当社の役員等がEさんの自宅に出向き、Eさんとお会いして本件保険金を当社に贈呈していただきたい旨のお話をさせていただいた。
 その際に、役員退職慰労金内規に準じた金額及び功績加算金並びに本件保険金に係る相続税の負担類(見込み)を明記した本件メモをEさんに見せながら説明させていただいたところ、Eさんが快諾してくれたので、当社が明示した金額をEさんが受領し、残りは、本件贈呈協定書に基づき当社に贈呈していただいた。
(ハ)したがって、Eさんが受け取った本件保険金は、後日、生命保険金として課税されることは、当社の説明でご本人が一番承知していたと思う。
(ニ)なお、当時、当社は被相続人以外の会社役員(代表役員を除く。)及び従業員に対しても、同様の生命保険契約をK生命及びL生命とそれぞれ結び、会社経理も同様に取り扱っていた。
 現在は、死亡保険金が税法上、退職手当金等として扱われるように契約内容を見直してある。
ハ 本件更正処分の適否について
(イ)相続税法第3条第1項第2号では、被相続人の死亡により相続人その他の者が当該被相続人に支給されるべきであった退職手当金、功労金その他これに準ずる給与(政令で定める給付を含む。)で被相続人の死亡後3年以内に支給が確定したものの支給を受けた場合においては、当該退職手当金等を相続又は遺贈により取得したものとみなす旨規定しており、これを受けて、相続税法施行令第1条の2《退職手当金等に含まれる給付の範囲》第1号では、退職給付金に関する生命保険契約に基づいて支給を受ける年金又は一時金が退職手当金等に含まれる旨規定している。
(ロ)他方、層用主がその従業員(役員を含む。以下同じ。)のためにその者を被保険者とする生命保険契約に係る保険料の全部又は一部を負担している場合において、従業員の死亡を保険事故としてその相続人その他の者が当該保険金を取得した場合は、雇用主が負担した保険料は、当該従業員が負担していたものと解され、当該保険料に対応する部分については、相続税法第3条第1項第1号の規定を適用するのが相当である。
(ハ)以上からすると、本件保険金のように、被相続人の雇用主が、契約を締結してその保険料を負担し、被相続人を被保険者、保険金受取人を被保険者の相続人とする保険契約により被保険者の相続人が直接取得する保険金については、相続税法第12条《相続税の非課税財産》における非課税限度額を適用する上で、相続税法第3条第1項第1号に掲げる保険金に該当するのか、同条第1項第2号に掲げる退職手当金等に該当するのかを区別する必要があるが、これについては、原則としで、上記(ロ)の取扱いによるが、雇用主が当該保険金を従業員の退職手当金等として支給することとしている場合には、当該保険金は相続税法第3条第1項第2号に掲げる退職手当金等に該当するものと解するのが相当であり、その判断は、雇用主である企業の定款、株主総会、社内規程、就業規則、労働協約等において、当該保険金が退職給付金として支給されるものである旨の意思が明らかにされているか否か等を考慮して行うのが相当である。
(ニ)そこで本件についてみると、以下のとおりである。
A 請求人らは、本件保険契約に基づき取得した本件保険金のうち109,450,000円を本件贈呈協定書に基づきJ社に贈与しており、請求人らの手元に残った金額は80,550,000円であるから、原処分庁はこれに対して課税すべきであり、収入のない部分についての課税は、実質課税の原則に照らしても実情を無視したもので、しかも、請求人らの手元に残った80,550,000円は、J社の役員退職慰労金内規に準じて計算されたものであるから、被相続人の退職手当金に該当する旨主張するが、その適否の判断は、雇用主であるJ社の定款、株主総会、社内規程、就業規則、労働協約等において、本件保険金が役員退職慰労金として支給されたものである旨の意思が明らかにされているか否かが問題になるところ、J社においては、上記イの(ヘ)、(ト)及び(チ)のとおり、平成8年5月2日に被相続人に対する弔慰金5,000,000円がEに支給されたが、この弔慰金贈呈の件については、同年6月27日に開催されたJ社の第44期定期株主総会で取締役会に一任する旨の決議がされ、同日開催の取締役会の決議において承認されていることが認められる。
B しかしながら、J社における取締役の退職慰労金については、上記イの(ト)のとおり、定款においては、株主総会の決議により定める旨規定し、また、役員退職慰労金内規においては、上記イの(リ)のAのとおり規定されているところ、上記イの(チ)のとおり、被相続人に対する役員退職慰労金の支給については、株主総会において、何ら決議されておらず、しかも、上記イの(ヌ)のとおり、役員退職慰労金内規及び退職金規定のいずれにも本件保険金を退職手当金等として支給する旨の定めがないことから、上記(ハ)に照らしてみても、請求人らが本件保険契約に基づき取得した本件保険金は、役員退職慰労金とは認められないというべきであり、相続税法第3条第1項第1号に規定する生命保険金に該当するものと認められる。
C これに対し、上記イの(リ)のB及びCのとおり、J社には、役員退職慰労金内規において、役員退職慰労金の計算式についての定めがあり、J社が契約者で、受取人が被保険者の遺族である生命保険契約に基づく保険金が支払われた場合には、当該計算式によって算定された退職慰労金の支給額より減額する場合がある旨規定しているが、当然に受領した保険金分を減額するものではなく、これをもって、本件保険金を退職慰労金として支給する旨が役員退職慰労金内規で明らかにされているとはいいがたく、しかも、本件保険金については、被相続人に対する退職慰労金として支給する旨の株主総会の決議がされておらず、上記イの(リ)のAにいう前提を欠いていることが認められる。
 また、上記ロの(イ)及び(ロ)のとおり、本件保険契約を結んだ背景には、被保険者が死亡した場合に、二社から支払われる死亡保険金から役員退職慰労金及び功績加算金を捻出することがその目的の一つにあったこと、そして、平成3年ころ、議事録には記録されていないが、当社の取締役会において、死亡保険金が役員退職慰労金内規以上となる場合には、その超過額を当社に交付する旨の取決めがなされ、今回はそれに従って、本件贈呈協定書を作成した旨のJ社の経理課長の答述があるが、本件保険金のうち請求人らの手元に残った80,550,000円の根拠は、本件メモのとおりであり、その内訳には、相続税の負担額(見込み)が含まれており、これについては、役員退職慰労金内規には何の規定もされていないことからいえば、当該80,550,000円は、役員退職慰労金内規に基づいて算定された退職慰労金とは認められない。
D 以上のことから、上記Cの事情等をもってしても、本件保険金が、役員退職慰労金として支給されたものである旨のJ社の意思が明らかにされているものとはいえないというべきである。
(ヘ)そして、雇用主たるJ社は、被相続人の生存中に本件保険契約を締結し、保険料を負担するのみで、本件保険金については何らの権利もなく、請求人らは、被相続人の死亡により、当然に本件保険金を取得することができるところ、Eは、上記イの(ハ)のとおり、死亡保険金請求書を当該二社に提出し、上記1の(3)のハのとおり、当該二社から本件保険金の全額をM銀行××支店におけるE名義の普通預金口座において取得した上、本件相続開始日後の本件贈呈協定書に基づいて本件保険金の一部をJ社に贈与したものにすぎないことから、当然に本件保険金の全額が相続税法第3条第1項第1号に規定する保険金に該当するものというべきである。
 なお、請求人らは、本件贈呈協定書に基づき、本件保険金のうち109,450,000円をJ社に贈与しているが、上記イの(ロ)の事実及び上記ロの(ロ)及び(ハ)の答述によれば、Eは本件保険金のうち請求人らの手元に残る80,550,000円については、本件保険金全額に対する納税資金分を含むものである旨のJ社の説明を受けた上、本件贈呈協定書を作成したものと推認され、収入のない部分について課税したという請求人らの主張は採用できない。
ニ 以上審理したところによれば、請求人らの主張には、いずれも理由がなく、原処分庁が請求人らに対し、請求人らが本件保険契約に基づき取得した本件保険金は、相続税法第3条第1項第1号に規定する保険金に該当するとして本件更正処分を行ったことは適法と認められる。

(2)本件賦課決定処分について

 上記(1)のとおり、本件更正処分は適法であり、かつ、更正処分により納付すべき税額の計算の基礎となった事実が更正前の税額の基礎とされていなかったことについて、通則法第65条第4項に規定する正当な理由があったとは認められないから、同条第1項の規定に基づいてされた本件賦課決定処分は適法である。

(3)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。

トップに戻る