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(平12.10.31裁決、裁決事例集No.60 509頁)

《裁決書(抄)》

1 事実

(1)事案の概要

 本件は、審査請求人(以下「請求人」という。)が相続により取得した土地区画整理事業施行中の土地の評価額の多寡を争点とする事案である。

(2)審査請求に至る経緯

 別表1のとおり(以下、同表の更正の請求及び更正をすべき理由がない旨の通知処分をそれぞれ「本件更正の請求」及び「本件通知処分」という。)。

(3)基礎事実

 以下の事実は、請求人及び原処分庁の双方に争いがなく、当審判所の調査の結果によってもその事実が認められる。
イ 請求人は、平成8年7月11日(以下「本件相続開始日」という。)に死亡した請求人の父E(以下「本件被相続人」という。)の相続人であるが、この相続により別表2の「本件従前地」欄に記載の土地(以下「本件従前地」という。)ほかを相続した。
ロ 本件従前地は、P市Q地区土地区画整理事業(以下「本件区画整理事業」という。)の施行地(以下「本件施行地」という。)内に所在し、本件施行地は、昭和60年6月28日に区画整理事業の公告がなされ、市街化区域に編入された。
ハ 本件区画整理事業の施行者であるP市Q地区土地区画整理組合(以下「本件整理組合」という。)は、平成5年12月16日付で本件従前地に係る仮換地として、土地区画整理法第98条《仮換地の指定》第1項の規定により別表2の「本件仮換地」欄に記載の本件施行地内の27街区の4及び5の土地(以下「27街区の土地」という。)並びに30街区の2及び3の土地(以下「30街区の土地」といい、27街区の土地と併せて「本件仮換地」という。)を指定し(以下、この指定を「本件仮換地指定」という。)、また、同法第99条《仮換地の指定の効果》第2項の規定により別に通知する日まで本件仮換地を使用収益することができない旨の通知をした。
ニ 請求人は、原処分庁から平成8年12月4日付で、本件仮換地に係る27街区の土地の北側及び南側の道路並びに30街区の土地の北側及び東側の道路についての個別評価額(以下「本件個別路線価」という。)をそれぞれ1平方メートル当たり175,000円とする旨の通知を受けた。
ホ 請求人は、本件被相続人に係る相続税(以下「本件相続税」という。)の申告に際し、本件従前地のうち本件被相続人が耕作者に貸し付けている部分の面積を別表2の「本件仮換地欄の内貸地面積」欄のとおりとし、本件従前地の価額を上記ニの本件個別路線価に基づいて別表3のとおり算定した。

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2 主張

(1)請求人

 原処分は、次の理由により違法であるから、その全部の取消しを求める。
 本件従前地について本件仮換地指定が行われたが、本件仮換地は、いわゆるバブル崩壊による区画整理事業の大幅な遅れのため、本件相続開始日に至っても、使用収益が不可能な状況にあり、従前の市街化調整区域内に存する農地と同一の状態であった。
 本件仮換地の使用収益が可能であるならばともかく、本件仮換地は上記のように使用収益をすることができないのであるから、この評価は、市街化調整区域内に存する農地としての1平方メートル当たりの固定資産税評価額47円に平成8年分の国税局長が定める倍率457を乗じた価額21,479円を1平方メートル当たりの評価額とし、それに本件従前地の地積4,260平方メートルを乗じた価額により算出すべきであって、本件個別路線価に基づく評価によりなした本件相続税の申告は、国税通則法第23条《更正の請求》第1項に規定する「申告書に記載した課税標準等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかった」場合に該当するというべきである。

(2)原処分庁

 原処分は、次の理由により適法であるから、審査請求を棄却するとの裁決を求める。
イ 財産評価基本通達(昭和39年4月25日付直資56ほか国税庁長官通達。平成9年4月22日付課評2―5による改正前のものをいい、以下「評価基本通達」という。)24―2《土地区画整理事業施行中の宅地の評価》は、土地区画整理事業の施行地区内にある宅地について仮換地が指定されている場合におけるその宅地の価額は、その仮換地の価額に相当する価額によって評価する旨定め、同通達24―2ただし書は、仮換地の造成工事が施工中で当該工事が完了するまでの期間が1年を超えると見込まれる場合の仮換地の価額に相当する価額は、その仮換地について造成工事が完了したものとして、本文の定めにより評価した価額の100分の95に相当する価額により評価する旨定めているので、これらの定めによれば、本件従前地の価額は、本件仮換地の価額に相当する価額によって評価することになる。
 請求人は、本件仮換地の現況に照らし、本件従前地を市街化調整区域内の農地として評価すべきである旨主張するが、本件従前地は、昭和60年6月28日に市街化区域内に編入された本件施行地内に所在し、本件相続開始日には市街化区域内農地であったのであるから、本件従前地の価額を市街化調整区域内農地として評価することはできない。
ロ なお、請求人は平成9年中に本件従前地の一部を別表4のとおり譲渡しており、これは実質的に27街区の土地及び30街区の土地の一部の譲渡ということができる。
 そこで、上記の譲渡に係る土地の1平方メートル当たりの売買単価(別表5の「売買単価」欄の金額)を、本件仮換地の近傍にある地価公示の標準地(P―36、P市R町50番)における平成8年及び平成9年中の変動率を基に本件相続開始日の価額に修正すると、別表5の「時点修正額」欄に記載した金額(以下「時点修正額」という。)となる。
 そして、この時点修正額を単純平均することにより、27街区及び30街区の1平方メートル当たりの価額を算出すると、それぞれ205,617円及び194,199円となり、これらの金額は、請求人の申告に係る本件仮換地の1平方メートル当たりの更地価額(建物等の定着物がなく、かつ、使用収益を制約する権利の付着していない土地としての価額をいう。以下同じ。)をいずれも上回る。
 したがって、本件仮換地の相続税の評価に当たり、本件個別路線価を基礎として評価した金額が本件相続開始日における時価を上回っているような特別な事情も認められないことから、本件仮換地の価額は評価基本通達の定めにより評価すべきである。
ハ 上記イ及びロに基づいて本件仮換地の価額を計算すると、27街区の土地及び30街区の土地の1平方メートル当たりの更地価額はそれぞれ169,435円及び181,300円となり、評価基本通達24―2ただし書により計算した価額は、それぞれ160,963円及び172,235円となるところ、この価額は請求人が本件相続税の申告書に記載した金額と同額であるから、請求人の場合、国税通則法第23条第1項に規定する「申告書に記載した課税標準等若しくは税額等の計算が国税に関する法律の規定に従っていなかったこと又は当該計算に誤りがあったこと」に該当しない。
 したがって、本件更正の請求に対し、その更正をすべき理由がない旨を通知した本件通知処分は適法である。

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3 判断

 本件審査請求の争点は、土地区画整理事業中の土地の評価額の多寡であるので、以下審理する。

(1)認定事実

 原処分関係資料及び当審判所の調査の結果によれば、次の事実が認められる。
イ 本件仮換地は本件区画整理事業の「2―1工区」内に存するところ、同工区の区画整理事業工事について、本件整理組合と請負者であるF・G特定建設共同企業体は、平成7年11月29日付で、工期を同月30日から平成9年11月28日までとする工事請負契約を締結した。
 なお、平成9年11月28日付及び平成10年3月31日付で、「2―1工区」の区画整理事業工事に係る工事期間の終了時期を、それぞれ平成10年3月31日まで及び同年11月30日までと変更する旨の工事請負変更契約が締結されており、また、平成11年2月10日に、本件整理組合により、同工事が平成10年11月30日に竣工した旨の竣工検査合格の認定がなされ、同組合に対し同工事を完了した土地が引き渡された。
ロ 本件被相続人は、平成7年12月26日及び平成8年4月1日付で、同年1月1日から平成9年3月31日までを、請求人は、平成9年4月1日付で、同年4月1日から同年8月31日までを、それぞれ休耕期間とする本件従前地に係る休耕補償契約を本件整理組合との間で締結した。
ハ 本件整理組合は、平成9年6月25日付で、請求人に対し、本件仮換地の使用収益の開始をすることができる日を同年7月1日とする旨通知している。
ニ P市役所都市整備課課長補Hは、当審判所に対し要旨次のとおり答述している。
(イ)本件仮換地指定は、換地計画に基づき換地処分を行うための前段階として仮換地指定を行うのであり、原則として仮換地はそのまま換地となる。
(ロ)本件仮換地に係る造成工事は、平成8年6月ころ着工し、平成9年6月ころには完了した。

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(2)評価基本通達等について

イ 相続税法第22条《評価の原則》は、相続により取得した財産の価額は、特別に定めのあるものを除き、当該財産の取得の時における時価による旨規定しており、この時価とは、相続による財産の取得の時において、それぞれの財産の現況に応じ、不特定多数の当事者間で自由な取引が行われる場合に通常成立すると認められる価額、すなわち、客観的な交換価値を示す価額をいうものと解される。
 しかし、相続税の課税対象となる財産は多種多様であることから、課税行政庁たる国税庁は、相続財産の評価の一般的な基準として評価基本通達を定め、各種財産の時価に関する原則及びその具体的評価方法を明らかにし、さらに、土地の価額については国税局長が具体的に路線価等を定めて、部内職員に示達するとともに、これを公開等することによって、納税者の申告・納税の便に供しており、このような取扱いは、〔1〕各種財産の時価を客観的かつ適正に把握することが必ずしも容易ではないこと及び〔2〕納税者間で財産の評価が区区になることは課税の公平の観点から見て好ましいことではないことに照らし、合理的なものということができる。
 もっとも、通達等は、上級行政庁の下級行政庁に対する命令であって、それ自体、納税者を拘束するものではなく、納税者は通達等に示されている行政庁の解釈に当然に従わなければならないものではないから、評価基本通達及び路線価等に基づいて算出された評価額が、相続開始時におけるその土地の価額を上回っているような特別な事情があるときには、その評価方法等を採用することはできないことになる。
ロ ところで、土地区画整理法第98条第1項は、換地処分を行う前において、土地の区画形質の変更若しくは公共施設の新設若しくは変更に係る工事のため必要がある場合等においては、仮換地の指定ができる旨規定し、同法第99条第1項は、仮換地が指定された場合、従前の宅地について使用収益することができる者は、仮換地について使用収益をすることができるが、その反面、従前の宅地については、使用収益ができない旨規定している。
 また、仮換地の指定は、土地区画整理法第103条《換地処分》に規定する換地処分に先立って行われ、原則的に、仮換地の指定を受けた部分が将来そのまま換地として指定されることになる。
 そして、このような換地処分の性格に照らし、評価基本通達24―2は、土地区画整理事業の施行地区内にある宅地に仮換地の指定がなされている場合について、当該宅地の評価は、仮換地の価額に相当する価額により評価する旨、同通達24―2ただし書は、その仮換地の造成工事が施工中で、当該工事が完了するまでの期間が1年を超えると見込まれる場合の仮換地の価額に相当する価額は、その仮換地について造成工事が完了したものとして、本文の定めにより評価した価額の100分の95に相当する価額によって評価する旨定めているところ、仮換地指定を受けた宅地を譲渡する場合、法律上は従前の宅地の譲渡であるとしても、当該譲渡を受けた者は、仮換地についてのみ使用収益をすることができ、その仮換地について、実際に換地処分がなされることからすると、当該譲渡に係る取引価額は仮換地の現況を基に決定されるものと考えられる。したがって、土地区画整理事業施行中の宅地について、仮換地の指定があった後の宅地についての客観的な交換価値を仮換地の価額に相当する価額によって評価する旨の評価基本通達24―2の定めは合理性を有するものということができるし、土地区画整理法第99条第2項の規定により、仮換地を使用収益ができる日までに相当の期間がある場合には、いずれ仮換地の使用収益の開始及び最終的な換地処分が予定されているとはいえ、この点については何らかの考慮をすべきであることからすると、同通達24―2ただし書の定めについても合理性を有するものということができる。

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(3)本件従前地の評価額について

イ 上記(1)及び(2)のとおり、本件相続開始日において仮換地指定がなされている本件従前地の評価については本件仮換地の価額に相当する価額により評価することとなるので、以下、原処分庁が請求人に通知した本件個別路線価の金額の適否について審理する。
 当審判所の調査の結果によれば、〔1〕原処分庁は、評価基本通達14《路線価》の定めに準じ本件仮換地の近隣区域に所在する売買実例価額、地価公示価格、土地精通者意見価格等を基として、本件仮換地に係る個別評価額である本件個別路線価を評定しているところ、その計算に誤りはなく、さらに、〔2〕上記2の(2)のロの原処分庁の、請求人が平成9年中に譲渡した本件仮換地に係る譲渡価額の時点修正額を基にしても本件個別路線価を基礎として評価した価額が本件相続開始日における価額を上回らず、時価を上回るような特別な事情も認められない。
 したがって、本件個別路線価は、本件相続開始日における本件仮換地の価額に相当する価額を算出する上で適正なものであるということができる。
ロ 請求人は、本件仮換地の使用収益ができず、本件仮換地を本件個別路線価により評価した価額をもって評価すべきではなく、従前の市街化調整区域内に存する農地として評価すべきである旨主張する。
 しかしながら、評価基本通達24―2の本文及びただし書の定めが合理性を有することについては上記(2)のロのとおりであるところ、本件仮換地の使用収益が相当の期間できなかったことについては、造成工事が完了したものとして評価した価額の100分の95に相当する価額とすることにより考慮されているというべきであるし、上記(1)のイ及びニの(ロ)の答述によれば、現に、本件相続開始日のおよそ1年経過後に使用収益が可能な状態になっていることが認められるのであるから、同通達24―2ただし書の定めに基づき本件仮換地の価額に相当する価額によって評価することに不合理はないというべきであり、この点に関する請求人の主張には理由がない。
ハ 以上の結果、本件従前地の価額を本件個別路線価に基づいて評価すると、請求人が本件相続税の申告書に記載した金額と同額となるから、本件更正の請求に対し更正をすべき理由がないとしてなされた本件通知処分は適法である。

(4)その他

 原処分のその他の部分については、請求人は争わず、当審判所に提出された証拠資料等によっても、これを不相当とする理由は認められない。
 よって、本件審査請求には理由がない。

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別表3 本件相続税の申告に際し算定した価額

(1)27街区の土地(自用地部分)
175,000円(正面路線価)×0.94(奥行価格補正率)=164,500円(A)
164,500円(A)+(175,000円(裏面路線価)×0.94(奥行価格補正率)×0.03(二方路線影響加算率))=169,435円(B)
169,435円(B)×740.23平方メートル(地積)×0.95(注)=119,149,826円
(2)27街区の土地(貸地部分)
175,000円(正面路線価)×0.94(奥行価格補正率)=164,500円(A)
164,500円(A)+(175,000円(裏面路線価)×0.94(奥行価格補正率)×0.03(二方路線影響加算率))=169,435円(B)
169,435円(B)×677.52平方メートル(地積)×0.95(注)=109,055,820円(C)
109,055,820円(C)×(1−0.35)(耕作権割合)=70,886,283円
(3)30街区の土地(自用地部分)
175,000円(正面路線価)×0.99(奥行価格補正率)=173,250円(A)
173,250円(A)+(175,000円(側方路線価)×0.92(奥行価格補正率)×0.05(側方路線影響加算率))=181,300円(B)
181,300円(B)×636.92平方メートル(地積)×0.95(注)=109,699,916円
(4)30街区の土地(貸地部分)
175,000円(正面路線価)×0.99(奥行価格補正率)=173,250円(A)
173,250円(A)+(175,000円(側方路線価)×0.92(奥行価格補正率)×0.05(側方路線影響加算率))=181,300円(B)
181,300円(B)×433.59平方メートル(地積)×0.95(注)=74,679,373円
74,679,373円(C)×(1−0.35)(耕作権割合)=48,541,592円
(注)0.95は、評価基本通達24―2ただし書に定める率を示す。

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